説明

コンタクトレンズ用消毒剤及びコンタクトレンズ用消毒ユニット

【課題】短時間で高い消毒効果が得られるコンタクトレンズ用消毒剤及びコンタクトレンズ用消毒ユニットを提供する。
【解決手段】本発明のコンタクトレンズ用消毒剤は、(A):過酸化水素又は水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物と、(B):特定のキレート剤又はその誘導体(b1)と銅化合物及びマンガン化合物の少なくとも一種(b2)との混合物及び/又は反応物を含む触媒体と、を有することよりなる。本発明のコンタクトレンズ用消毒ユニットは、前記コンタクトレンズ用消毒剤と、過酸化水素の中和剤とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用消毒剤及びコンタクトレンズ用消毒ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズには、その装用中に涙液のタンパク質や脂質等の汚れが付着し、この汚れにより細菌等の微生物が増殖するおそれがある。微生物に汚染されたコンタクトレンズを装用すると、角膜等に障害を起こす危険がある。このため、コンタクトレンズを継続的に使用する際には、装用後に汚れの除去及び消毒を目的とした洗浄を行い、洗浄されたコンタクトレンズを清浄な状態で使用することが必要である。
一般的に、コンタクトレンズの消毒には、煮沸による方法と、過酸化水素等の消毒剤を用いる方法がある。近年では、消毒に長時間を要する煮沸消毒に代わり、過酸化水素を用いた消毒方法が広く用いられるようになっている。
【0003】
従来、過酸化水素による消毒効果の向上を図るために、例えば、過酸化水素、硼素化合物及び糖化合物を併用したコンタクトレンズ洗浄剤組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。この発明によれば、殺菌力の向上が図られている。また、金属フタロシアニン化合物及び過酸化水素を含有する消毒液に、コンタクトレンズを浸漬させた後、光照射するコンタクトレンズの消毒方法が提案されている(例えば、特許文献2)。この発明によれば、低濃度の過酸化水素存在下で、高い殺菌効果を効果的に得られる。
【0004】
ところで、消毒後のコンタクトレンズの表面や内部に過酸化水素が残留した状態で眼に装着すると、強い刺激を感じたりする等、眼に好ましくない影響が懸念される。このため、過酸化水素を消毒剤として用いた場合には、中和処理により過酸化水素を分解する等の操作が必要となる。
【0005】
こうした問題に対し、1000ppm以下の過酸化水素と金属イオン又は金属−EDTA錯体とを含有する消毒液にコンタクトレンズを浸漬し、かつ可視光を照射する消毒方法が提案されている(例えば、特許文献3)。この発明によれば、過酸化水素の濃度が低減され、中和処理の省略が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−24715号公報
【特許文献2】特開2004−97805号公報
【特許文献3】特開2004−141546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術においては、消毒効果の向上が図られているものの、消毒時間、即ち、コンタクトレンズを消毒液に浸漬してから、再度装着するまでに数時間を要する。加えて、特許文献2〜3の技術では、光を照射する装置が必要であり、消毒が煩雑となる。
そこで、本発明は、簡便に短時間で高い消毒効果が得られるコンタクトレンズ用消毒剤及びコンタクトレンズ用消毒ユニットを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコンタクトレンズ用消毒剤は、(A):過酸化水素又は水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物と、(B):下記(I)〜(III)式のいずれかの構造で示される化合物又はその誘導体(b1)と銅化合物及びマンガン化合物の少なくとも一種(b2)との混合物及び/又は反応物を含む触媒体と、を有することを特徴とする。
【0009】
【化1】

(式中、Xは水素原子、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属を表す。pは1又は2の整数を表し、pが2の場合、Xは同一のものでも、異なるものでも良い。)
【0010】
【化2】

(式中、X〜Xは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、カチオン性アンモニウム基からなる群より選ばれる1種を表し、Qは水素原子又はアルキル基を表し、Rは水素原子又は水酸基を表し、nは0又は1である。)
【0011】
【化3】

(式中、Yはアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、又はアミノ基、水酸基、又は水素原子を表し、X〜Xは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、カチオン性アンモニウム基からなる群より選ばれる1種を表し、nは0から5の整数を表す。)
【0012】
本発明のコンタクトレンズ用消毒ユニットは、本発明の前記コンタクトレンズ用消毒剤と、過酸化水素の中和剤とを備えることを特徴とする。
本発明のコンタクトレンズ用消毒ユニットは、本発明の前記コンタクトレンズ用消毒剤と、白金製部材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便に短時間で、コンタクトレンズを消毒でき、かつ高い消毒効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(コンタクトレンズ用消毒ユニット)
本発明のコンタクトレンズ用消毒ユニット(以下、単に消毒ユニットということがある)は、コンタクトレンズ用消毒剤(以下、単に消毒剤ということがある)と、過酸化水素の中和剤又は白金製部材とを備えるものである。
【0015】
〔コンタクトレンズ用消毒剤〕
本発明の消毒剤は、(A)成分と(B)成分とを有するものである。
【0016】
[(A)成分]
(A)成分は、過酸化水素又は水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物であり、過酸化水素を用いることが好ましい。
水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物(以下、単に過酸化物ということがある)としては、例えば、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム・3水和物等が挙げられ、使用時の溶解性や貯蔵時の安定性の点から、過炭酸ナトリウムが好ましい。
【0017】
消毒剤中の(A)成分の含有量は、特に限定されないが、コンタクトレンズの消毒時において、コンタクトレンズを浸漬する消毒液中の過酸化水素濃度が、例えば、0.001〜5g/100mLとなるように配合することが好ましく、0.005〜0.1g/100mLとなるように配合することがより好ましく、0.005〜0.03g/100mLとなるように配合することがさらに好ましい。(A)成分の含有量が0.001g/100mL以上であれば、コンタクトレンズを十分に消毒でき、5g/100mL以下であれば、消毒中におけるコンタクトレンズの劣化・損傷を防止できると共に、流通・保管中における(A)成分の分解を抑制できる。特に、(A)成分の含有量が0.005〜0.03g/100mLの範囲であれば、短時間で十分に消毒できると共に、消毒後の中和時間を短縮、中和剤の減量を図ることができる。
【0018】
[(B)成分]
(B)成分は、(b1)成分と(b2)成分の混合物又は化合物である。ここで、「混合物」とは、(b1)成分と(b2)成分とがそれぞれ独立して消毒剤に配合されている状態を意味する。「化合物」とは、(b1)成分と(b2)成分由来の銅及び/又はマンガンとの錯体を意味する。消毒効果向上の観点から、(B)成分は(b1)成分と(b2)成分との化合物であることが好ましい。
(b1)成分と(b2)成分との化合物の錯体構造としては、特に限定されず、銅及び/又はマンガン原子1つあたりの配位子の数は1個でも複数個でもよく、1つの錯体を構成する銅及び/又はマンガン原子も1個でも複数個でもよい。即ち、錯体は単核、複核、又はクラスターでもよい。また、多核の錯体である際には、これに含まれる遷移金属は銅及び/又はマンガン1種のみでもよいし、例えば銅とマンガンとが混在する場合等のように、複数種であってもよい。さらに、多核の錯体の場合には、酸素、硫黄、ハロゲン原子等の架橋種によって架橋されていてもよい。
【0019】
<(b1)成分>
(b1)成分は、下記(I)〜(III)式のいずれかの構造で示される化合物(以下、化合物(I)〜(III)という。)又はその誘導体であって、配位座が5以下のキレート剤である。
【0020】
≪化合物(I)≫
化合物(I)は、下記(I)式で示されるものである。
【0021】
【化4】

【0022】
上記(I)式において、Xは水素原子、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属を表す。
アルカリ金属としてはNa、K等が挙げられる。アルカリ土類金属としてはCa(この場合「−COOX」は「−COOCa1/2」となる)等が挙げられる。
Xがアルカリ金属又はアルカリ土類金属である場合を「−COOM」(Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。)と示すこととし、化合物(I)を水等の溶媒中に投入すると、「−COOM」のうちの一部又は全部が「−COO」とアルカリ金属又はアルカリ土類金属イオンとなる。そして、「−COO」の部分は(b2)成分由来の銅及び/又はマンガンと錯形成可能となる。
そのため、Xがアルカリ金属又はアルカリ土類金属であっても、本発明を構成する(b1)成分として用いることができる。中でもXは水素原子であることが好ましい。
【0023】
また、化合物(I)において、「−COOX」の数を表すpは1又は2の整数を表し、2であることがより好ましい。pが2の場合、Xは同一のものでも、互いに異なるものでもよい。
pが1の場合、「−COOX」のピリジン環への結合位置は窒素原子に対してα位であることが好ましい。pが2の場合、少なくとも1つの「−COOX」はα位に結合していることが好ましい。残りの「−COOX」はα〜γ位のいずれに結合していてもよいが、もう一方のα位についていることが、より好ましい。
化合物(I)の具体例としては、下記(1)、(2)式で表される化合物が挙げられる。なお、(1)、(2)式においては、代表的な例としてXを水素Hとして標記しているが、化合物(I)はこの構造に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0024】
【化5】

【0025】
また、化合物(I)の誘導体である(b1)成分として、上記(I)式において、「−COOX」の全部又は一部がスルホ基(SOH)、アミノ基(NH)、水酸基(OH)、ニトロ基(NO)又は置換基を有していてもよいアルキル基(C2n+1)等に置換された構造からなる化合物が挙げられる。アルキル基に置換されている場合、該アルキル基は直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよい。アルキル基の炭素数は好ましくは1〜30、より好ましくは1〜18である。アルキル基は、その水素原子の一部が置換基にて置換されていてもよい。この置換基としては、スルホ基、アミノ基、水酸基、ニトロ基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0026】
このような(b1)成分の具体例としては、下記(3)〜(8)式で表される化合物が挙げられる。本発明はこの構造に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、代表的な例として、Xは水素Hとして標記している。
配位が安定し消毒効果が向上する点から、化合物(I)の「−COOX」は置換されていないことが好ましい。
【0027】
【化6】

【0028】
≪化合物(II)≫
化合物(II)は、下記(II)式で示されるものである。
【0029】
【化7】

【0030】
上記(II)式において、X〜Xは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、カチオン性アンモニウム基からなる群より選ばれる1種を表す。
〜Xが上記のものであると、この化合物(II)を水等の溶媒に投入した際に、「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」が電離して、それぞれ「−COO」となり、下記(11)式で表される陰イオンを生成する。そして、この陰イオンの「−COO」の部分が(b2)成分由来の銅及び/又はマンガンと錯形成可能となる。
好ましくは、X〜Xはいずれもナトリウム又はカリウムである。なお、X〜Xのうちの1種以上がアルカリ土類金属Mである場合には、その部分は「−COOM1/2」示されることとなる。
また、Qは水素原子又はアルキル基を表し、好ましくは水素原子である。Rは水素原子又は水酸基を表し、好ましくは水素原子である。nは0又は1の整数を表し、好ましくは1である。
【0031】
【化8】

【0032】
化合物(II)の具体例としては、下記(12)〜(15)式で表される化合物が挙げられる。なお、これら(12)〜(15)式においては、代表的な例として、X〜Xがいずれも水素Hである場合を示しているが、化合物(II)はこれらの構造に限定されるものではなく、目的に応じて適宣選択することができる。
【0033】
【化9】

【0034】
また、化合物(II)の誘導体としては、「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」の全部又は一部が、アルキル基、スルホ基、又はアミノ基等に置換された構造が挙げられる。アルキル基に置換されている場合、該アルキル基は直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよい。アルキル基の炭素数は好ましくは1〜30、より好ましくは1〜18である。アルキル基は、その水素原子の一部が置換基にて置換されていてもよい。この置換基としては、スルホ基、アミノ基、水酸基、ニトロ基、カルボキシル基等が挙げられる。
配位が安定し消毒効果が向上する点から、化合物(II)の「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」は置換されていないことが好ましい。
【0035】
≪化合物(III)≫
化合物(III)は、下記(III)式で示されるものである。
【0036】
【化10】

【0037】
また、上記(III)式において、Yはアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、又は水素原子を表し、X〜Xは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、カチオン性アンモニウム基からなる群より選ばれる1種を表す。
〜Xが上記のものであると、この化合物(III)を水等の溶媒に投入した場合に、「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」が電離して、それぞれ「−COO」となり、この陰イオンの「−COO」の部分が(b2)成分由来の銅及び/又はマンガンと錯形成可能となる。
好ましくは、X〜Xはいずれもナトリウム又はカリウムである。なお、X〜Xのうちの1種以上がアルカリ土類金属Mである場合には、その部分は「−COOM1/2」と示されることとなる。
また、nは0から5の整数を表し、好ましくは、nは0から2である。
【0038】
化合物(III)の具体例としては、下記(18)〜(30)式で表される化合物が挙げられる。なお、これら(18)〜(30)式においては、代表的な例として、X〜Xがいずれも水素Hである場合を示しているが、化合物(III)はこれらの構造に限定されるものではなく、目的に応じて適宣選択することができる。
【0039】
【化11】

【0040】
また、化合物(III)の誘導体としては、「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」の全部又は一部が、アルキル基、スルホ基、又はアミノ基等に置換された構造が挙げられる。アルキル基に置換されている場合、該アルキル基は直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよい。アルキル基の炭素数は好ましくは1〜30、より好ましくは1〜18である。アルキル基は、その水素原子の一部が置換基にて置換されていてもよい。この置換基としては、スルホ基、アミノ基、水酸基、ニトロ基、カルボキシル基等が挙げられる。
配位が安定し消毒効果が向上する点から、化合物(III)の「−COOX」、「−COOX」、「−COOX」は置換されていないことが好ましい。
【0041】
<(b2)成分>
(b2)成分は、銅化合物及び/又はマンガン化合物である。(b2)成分としては、水に溶解するものであり、その際に銅又はマンガンイオンを放出するものであれば特に種類は限定されない。水溶性の銅又はマンガン化合物の例としては、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、過塩素酸塩、塩化アンモニウム塩、シアン化物等の無機塩化合物や、酢酸塩、アセチルアセトナート塩、グルコン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機化合物が挙げられる。中でも、消毒効果向上の点からは、硫酸銅又は硫酸マンガンが好ましい。
これらは1種単独又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0042】
(b1)成分の配合量は、(b2)成分とのモル比に応じて規定され、(b2)成分に対して等モル以上が好ましく、2モル等量以上がより好ましく、5モル等量以上がさらに好ましい。(b1)成分の配合量が(b2)成分に対してモル比1倍未満になると、(A)成分の分解やコンタクトレンズの損傷・変褪色を抑制できなくなる場合がある。(b1)成分が(b2)成分に対して過剰である方が(B)成分の安定性の点で好ましいが、消毒効果の点から、(b1)成分は(b2)成分に対し20モル等量以下が好適である。
【0043】
消毒剤中の(b2)成分の配合量は、特に限定されないが、コンタクトレンズの消毒時において、コンタクトレンズを浸漬する消毒液中、0.0001〜0.05g/100mLが好ましく、0.001〜0.01g/100mLがより好ましい。(b2)成分の配合量が0.0001g/100mL未満であると、(A)成分による消毒効果の向上が図りにくく、0.05g/100mL超であると、保存中における(A)成分の分解が著しく十分な消毒効果が得られにくくなったり、コンタクトレンズの劣化・変褪色を引き起こすおそれがある。
【0044】
〔中和剤〕
中和剤は、過酸化水素を中和できるものであれば特に限定されず、例えば、カタラーゼ等の過酸化水素分解酵素、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられ、中でも、カタラーゼ又はチオ硫酸ナトリウムが好ましい。
中和剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いる場合、中和剤中のチオ硫酸ナトリウムの配合量は、消毒液に溶解した際に、0.0001〜1.0g/100mLとなるように配合することが好ましい。チオ硫酸ナトリウムの使用量が0.0001g/100mL未満であると中和が不十分となり、1.0g/100mL超としても、中和速度の向上等が望めないためである。
中和剤としてカタラーゼを用いる場合、中和剤中にカタラーゼ濃度が、消毒液中100〜10万unit/100mLとなるように配合することが好ましい。
【0045】
〔白金製部材〕
白金製部材は、消毒液中の過酸化水素を分解し、中和するための部材である。白金製部材は、例えば、コンタクトレンズを消毒する際に用いるレンズケースの一部に、消毒液に浸漬される位置に設けられた白金製のディスク等が挙げられる。白金製のディスクの質量は、1回の消毒に使用する消毒液の量や、消毒液中の過酸化水素濃度を勘案して決定でき、例えば、0.1〜2mg程度とされる。
【0046】
〔任意成分〕
本発明の消毒剤、消毒ユニットには、上述した成分に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を配合できる。例えば、過酸化水素溶液には、ホウ酸等の緩衝剤、塩化ナトリウム等の等張剤、水酸化ナトリウムや塩酸等のpH調整剤を配合できる。また、(B)成分又は中和剤には、ポリエチレングリコール等の結合剤、硫酸ナトリウム等の溶解促進剤を配合できる。
【0047】
(剤形及び製造方法)
本発明の消毒剤、中和剤の剤形は、特に限定されず、液体であってもよいし、固体であってもよい。
例えば、過酸化水素を溶解した過酸化水素溶液と、(B)成分を溶解した触媒溶液と、中和剤を溶解した中和剤溶液とで、消毒ユニットが構成されていてもよい。このような剤形の場合、過酸化水素、(B)成分、中和剤を、それぞれ任意の濃度で水に溶解することで、消毒ユニット(消毒ユニットA)を製造できる。過酸化水素溶液のpHは、3〜7程度とされる。
また、前記過酸化水素水溶液と、固形物の(b1)成分と、固形物の(b2)成分と、固形物の中和剤とで、消毒ユニットが構成されていてもよい。このような剤形の場合、過酸化水素溶液を調製すると共に、(b1)成分、(b2)成分、中和剤をそれぞれ固形物(粉状等)として準備することで、消毒ユニット(消毒ユニットB)を製造できる。
あるいは、前記過酸化水素水溶液と、(B)成分及び中和剤を含む固形製剤とで、消毒ユニットが構成されていてもよい。このような剤形の場合、過酸化水素溶液を調製すると共に、(B)成分、中和剤及び結合剤等とを混合した後に打錠することで、過酸化水素溶液と、(B)成分及び中和剤を含有する錠剤とで構成される消毒ユニット(消毒ユニットC)を製造できる。
また、あるいは、水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物と、(B)成分と、中和剤と、をそれぞれ単独で又は全てを含有する固形製剤としてもよい。このような剤形の場合、前記過酸化物、(B)成分、中和剤及び結合剤等を混合した後に打錠し、一錠剤の消毒ユニット(消毒ユニットD)を製造できる。
加えて、レンズケースに白金製部材を設け、このレンズケースと、前記過酸化水素溶液と、触媒溶液又は固形状の(B)成分とで、消毒ユニット(消毒ユニットE)が構成されていてもよい。
【0048】
(b1)成分と(b2)成分との化合物の製造方法としては、(b1)成分と(b2)成分由来の銅及び/又はマンガンとの錯体が形成できれば特に限定されない。例えば、溶媒中に、(b1)成分と(b2)成分とを加えて溶解し、さらに必要に応じてアルカリ剤を添加し、好ましくは室温〜100℃、さらに好ましくは25℃程度の室温下にて攪拌して、これらを反応させる(反応工程)。攪拌時間は、好ましくは1分間以上、さらには好ましくは1分〜5時間、より好ましくは10分間程度とされる。反応工程終了後、ただちに反応液から溶媒を減圧留去して、反応工程で生成した固体状錯体と副生塩とを混合物の形態で回収する(回収工程)。
【0049】
さらに、反応工程で得られた反応液を1時間〜1週間冷暗所に静置し、生成した沈殿、即ち固体状錯体をろ別によって得る回収方法を採用してもよい。かかる工程を設けることで、より高純度の錯体として(B)成分を得られる。
なお、銅及び/又はマンガンと(b1)成分からなる配位子とを反応させた後に、未反応の配位子が残存する場合は、必ずしもこれを取り除く必要はなく、そのまま用いてもよい。
【0050】
錯体を製造する際に使用する溶媒としては極性溶媒が好ましく、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等が挙げられ、中でも、価格、安全性、留去のし易さ等からは、水、エタノール、メタノールのうちの1種以上が好ましく、特に水が好ましい。
アルカリ剤としては、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等が使用できる。
【0051】
(消毒方法)
本発明の消毒ユニットを用いたコンタクトレンズの消毒方法は、(A)成分及び(B)成分を溶解した消毒液中にコンタクトレンズを任意の時間浸漬し、その後、消毒液中の残留過酸化水素を中和するものである。
例えば、消毒ユニットAを用いる場合、任意の濃度の過酸化水素溶液に、任意の量の触媒溶液を添加して消毒液とし、この消毒液にコンタクトレンズを浸漬することでコンタクトレンズの消毒を行う。そして、コンタクトレンズを消毒液に任意の時間浸漬した後、消毒液に中和剤溶液を添加して、残留過酸化水素を中和する。消毒液へのコンタクトレンズの浸漬時間は特に限定されないが、1分間〜30分間程度、より好ましくは、5〜15分程度とされる。
【0052】
消毒ユニットBを用いる場合、任意の濃度の過酸化水素溶液に、任意の量の(b1)成分及び(b2)成分を溶解して消毒液とし、この消毒液にコンタクトレンズを浸漬することで消毒を行う。そして、コンタクトレンズを消毒液に任意の時間浸漬した後、消毒液に中和剤を溶解して、残留過酸化水素を中和できる。
消毒ユニットCを用いる場合、任意の濃度の過酸化水素溶液に、(B)成分及び中和剤を含む固形製剤を溶解して消毒液を調製し、この消毒液にコンタクトレンズを浸漬することで、消毒と中和とを行うことができる。
消毒ユニットDを用いる場合、消毒ユニットDを水に溶解して消毒液とし、この消毒液にコンタクトレンズを任意の時間浸漬することで消毒と中和とを行うことができる。
消毒ユニット(E)を用いる場合、白金製部材を備えたレンズケースに、過酸化水素溶液と(B)成分とを投入して消毒液とし、この消毒液にコンタクトレンズを任意の時間浸漬することで、消毒と中和とを行うことができる。
【0053】
本発明によれば、(B)成分により消毒液中の過酸化水素の消毒効果を向上させ、消毒時間の短縮、消毒液中の過酸化水素濃度の低減が図れる。加えて、特段の装置を要することがないため、簡便な作業でコンタクトレンズを消毒できる。さらに、本発明の消毒剤は、比較的低温条件下においても高い消毒効果を発揮するので、使用条件を選ばすに、簡便かつ短時間で、コンタクトレンズを消毒できる。
【0054】
本発明において上述の効果が得られるのは、(b1)成分と(b2)成分との化合物(錯体)が、過酸化水素による微生物の酸化分解を促進する触媒として機能するためと考えられる。また、(b1)成分と(b2)成分とをそれぞれ消毒液に添加した場合であっても、(b1)成分から生じた陰イオンと(b2)成分由来の銅及び/又はマンガンとが容易に錯体を形成し、過酸化水素による微生物の酸化分解を促進できると考えられる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(使用原料)
各例に用いた原料を以下に示す。
〔(A)成分〕
A−1:過酸化水素、三菱ガス化学株式会社製
〔(b1)成分〕
b1−1:D,L−アスパラギン酸−N−[1,2−ジカルボキシエチル]4ナトリウム塩(IDS)、ランクセス株式会社製
b1−2:メチルグリシンジ酢酸3ナトリウム塩(MGDA)、BASFジャパン株式会社製
b1−3:2,6−ピリジンジカルボン酸、関東化学株式会社製
〔(b1)成分比較品〕
b1−4:エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ナガセケムテックス株式会社製
〔(b2)成分〕
b2−1:MnSO・5HO、関東化学株式会社製
b2−2:CuSO・5HO、関東化学株式会社製
〔中和剤〕
C−1:カタラーゼ、CALBIOCHEM−NOVABIOCHEM CORPORATION製
〔その他〕
緩衝剤:ホウ酸、小堺製薬株式会社製
等張剤:塩化ナトリウム、富田製薬株式会社製
pH調整剤:水酸化ナトリウム、小堺製薬株式会社
結合剤:PEG4000(ポリエチレングリコール)、株式会社ADEKA製
溶解促進剤:NaSO・10HO、富田製薬株式会社
【0056】
(消毒効果の評価)
消毒効果は、ISO14729(stand−alone test Primary criteria)に準拠して下記の殺菌試験を行い、その結果を下記の評価基準に分類して評価した。
【0057】
〔殺菌試験〕
各例の過酸化水素溶液10mLに対し、各例の触媒及び中和剤を含む混合製剤(以下、単に混合製剤という)と、既知の微生物数の微生物液とを同時に添加して消毒液とした。過酸化水素溶液に混合製剤と微生物液とを添加した10分後、消毒液を採取し、消毒液中の微生物数を測定した。即ち、殺菌試験では、各例の消毒ユニットについて、消毒・中和時間を10分間とした消毒効果の測定を行った。
測定の結果、バクテリアの場合、消毒液中の初期菌数に対し、平均値で99.9%(対数3桁)以上減少できた場合を「適合」、99.9%未満の減少であった場合を「不適合」とした。カビ・酵母の場合、消毒液中の初期菌数に対し、平均値で90%(対数1桁)以上減少できた場合を「適合」、90%未満の減少であった場合を「不適合」とした。この操作を5種の微生物について、それぞれ行った。
なお、使用した微生物は、P.aeruginosa ATCC9027、S.aureus ATCC6538、S.marcescens ATCC13880(以上、バクテリア)、C.albicans ATCC10231、F.solani ATCC36031(以上、カビ・酵母)の5種とした。また、微生物液は、消毒液中の微生物数が1×10〜1×10cfu/mLとなるように調製した。
【0058】
〔評価基準〕
◎:5種全ての微生物に対し「適合」
○:3〜4種の微生物に対し「適合」
△:1〜2種の微生物に対し「適合」
×:5種全ての微生物に対し「不適合」
【0059】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
表1に示す組成に従い、過酸化水素溶液、混合製剤を調製した。調製した過酸化水素溶液及び混合性剤について、消毒効果の評価を行い、その結果を表1に示す。なお、表中の過酸化水素溶液の組成は、過酸化水素中の各成分の割合を示し、混合製剤の組成は、1回に使用した各成分の量を示す。
【0060】
(参考例1、2)
市販のコンタクトレンズ消毒ユニットを用い、消毒効果の評価を行った。なお、参考例1は、消毒・中和時間が10分間、参考例2は、消毒時間が該市販品の最小推奨浸漬時間(4時間)での消毒効果を評価した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の実施例1〜5の結果のとおり、本発明を適用した消毒ユニットは、10分間という短時間で、消毒と中和とが行え、かつ十分な消毒効果が得られた。一方、(b1)成分を配位座6のEDTAに換えた比較例1、(b1)成分又は(b2)成分のいずれかを備えない比較例2〜4は、10分間で十分な消毒効果が得られなかった。
加えて、参考例2では、十分な消毒効果を得られたものの、過酸化水素溶液の濃度が3.0g/100mLであり、消毒・中和時間が4時間であった。
これに対し、本発明を適用した実施例1〜5は、過酸化水素溶液の濃度が0.03〜0.005g/100mLという低濃度であっても、10分間で十分な消毒効果が得られた。
これらの結果から、本発明の消毒ユニットを用いることで、従来の消毒ユニットに比べて消毒・中和時間の著しい短縮が図れると共に、過酸化水素濃度の低減を図れることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A):過酸化水素又は水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物と、(B):下記(I)〜(III)式のいずれかの構造で示される化合物又はその誘導体(b1)と銅化合物及びマンガン化合物の少なくとも一種(b2)との混合物及び/又は反応物を含む触媒体と、を有するコンタクトレンズ用消毒剤。
【化1】

(式中、Xは水素原子、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属を表す。pは1又は2の整数を表し、pが2の場合、Xは同一のものでも、異なるものでも良い。)
【化2】

(式中、X〜Xは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、カチオン性アンモニウム基からなる群より選ばれる1種を表し、Qは水素原子又はアルキル基を表し、Rは水素原子又は水酸基を表し、nは0又は1である。)
【化3】

(式中、Yはアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、又はアミノ基、水酸基、又は水素原子を表し、X〜Xは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、カチオン性アンモニウム基からなる群より選ばれる1種を表し、nは0から5の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のコンタクトレンズ用消毒剤と、過酸化水素の中和剤とを備えるコンタクトレンズ用消毒ユニット。
【請求項3】
請求項1に記載のコンタクトレンズ用消毒剤と、白金製部材とを備えるコンタクトレンズ用消毒ユニット。

【公開番号】特開2011−133744(P2011−133744A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294363(P2009−294363)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】