説明

コンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置

【課題】点火電源部側の異常だけでなく、点火コイル側で生じる異常をも的確に検出することができるコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置を提供する。
【解決手段】点火用コンデンサを充電するための電圧を発生する点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出し、エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器SGから得られるパルス信号を基準にして決定した一定のクランク角の区間を計測区間として、クランク軸が該計測区間を回転する間に検出された特異点の数を計数する。この特異点の計数値とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とを比較することにより点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサ放電式エンジン用点火装置の異常の有無と異常の原因とを診断する診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロプロセッサを用いて点火装置や燃料噴射装置等の電装品を制御するエンジン制御装置においては、エンジンの保守点検や修理を的確に行うことができるようにするために、制御装置にダイアグノシス機能(自己診断機能)を持たせて、各電装品で異常が発生したことの履歴や、異常の原因を記憶させておくことができるようにすることが望まれている。
【0003】
制御装置に自己診断機能を持たせるためには、各電装品の動作状態を示す情報をマイクロプロセッサに与えて、異常が発生しているか否かの判定を行わせる必要がある。また、いずれかの電装品で異常が発生したことが検出された場合には、その原因を特定することができるようにしておくことが望ましい。
【0004】
本発明では、エンジンに付属させる各種の電装品の内、コンデンサ放電式の点火装置の診断を行うために用いる診断装置を対象とする。コンデンサ放電式の点火装置としては種々の形式のものが知られているが、本発明においては、二百数十ボルトの波高値を有するパルス波形のコンデンサ充電用電圧を出力端子間に繰り返し出力する点火電源部と、点火コイルと、この点火コイルの一次コイルに対して直列に接続されて、該一次コイルを通して点火電源部の出力端子間に接続された点火用コンデンサ及び点火信号が与えられた時に導通して点火用コンデンサに蓄積された電荷を点火コイルの一次コイルを通して放電させる放電用スイッチを有する点火回路と、エンジンの点火位置で放電用スイッチに点火信号を与える点火位置制御部とを備えたコンデンサ放電式点火装置を対象とする。
【0005】
点火電源部としては、エンジンにより駆動される交流発電機内に設けられたエキサイタコイルと該エキサイタコイルの交流出力を整流する整流回路とからなるものや、バッテリの出力電圧を昇圧するDCコンバータが用いられる他、特許文献2に示されているように、エンジンにより駆動される交流発電機内に設けられたエキサイタコイルの出力の一方の極性の半波において該エキサイタコイルに流した短絡電流が設定値以上になったときに該短絡電流を遮断することにより、エキサイタコイルに昇圧されたパルス波形の電圧を誘起させる昇圧回路等が用いられる。
【0006】
この種のコンデンサ放電式エンジン用点火装置の異常の有無を診断する方法としては、特許文献1に示された方法が知られている。特許文献1に記載された診断方法では、点火用コンデンサの充電が開始された時刻から所定の時間が経過した時点での点火用コンデンサの充電電圧をモニタして、モニタされた電圧が基準電圧よりも低いときに点火装置が異常であると判定している。
【特許文献1】特開平8−135548号公報
【特許文献2】実開昭60−41581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンデンサ放電式の点火装置で生じる異常としては、点火回路を構成する素子の破損や回路内で生じている短絡や断線等の点火回路の異常と、点火電源部と点火回路とが正しく接続されていないために点火用コンデンサに充電用の電源電圧が印加されないといった点火電源部側の異常と、点火コイルの一次コイルの断線や、点火コイルと点火回路とをつなぐ配線の外れ等の点火コイル側の異常とがある。
【0008】
前述のように、特許文献1に示された異常診断方法では、点火用コンデンサの充電が開始された時刻から所定の時間が経過した時点での充電電圧が基準電圧よりも低いときに点火装置が異常であると判定している。点火電源部側で異常が生じていて、点火用コンデンサの両端の電圧が正規の値まで上昇しない場合には、特許文献1に示された方法により点火装置が異常であると診断することができる。
【0009】
この場合診断装置は、点火電源部側が正常で、点火電源部がコンデンサ充電用の電圧を正常に出力している場合には、点火コイル側で異常が生じていても、点火電源部の出力電圧を点火用コンデンサの充電電圧として検出してしまうことになり、検出した電圧の値が点火用コンデンサの両端の正規の充電電圧値以上であると、点火装置が異常であるにも拘らず、正常であるとの誤判定を行うことになる。
【0010】
本発明の目的は、点火電源部側の異常だけでなく、点火コイル側で生じる異常をも的確に検出することができるコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、パルス波形のコンデンサ充電用電圧を繰り返し出力する点火電源部と、点火コイルと、点火コイルの一次コイルに対して直列に接続されて点火電源部の出力電圧により一次コイルを通して充電される点火用コンデンサと、点火信号が与えられた時に導通して点火用コンデンサに蓄積された電荷を点火コイルの一次コイルを通して放電させる放電用スイッチと、エンジンの点火位置で放電用スイッチに点火信号を与える点火位置制御部とを備えて、点火用コンデンサに蓄積された電荷の放電により点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させるコンデンサ放電式エンジン用点火装置を診断するコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置を対象とする。
【0012】
本発明においては、点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出する特異点検出手段と、エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器から得られるパルス信号を基準にして決定した一定のクランク角の区間を計測区間として、クランク軸が該計測区間を回転する間に特異点検出手段により検出された特異点の数を計数する特異点計数手段と、この特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とを比較することにより点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する診断手段とを設ける。
【0013】
本発明の好ましい態様では、上記診断手段が、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が上記計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しくなく、かつ零でもないときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定するように構成される。
【0014】
なお「点火コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されていない」状態とは例えば、点火コイルが外されている状態や、点火コイルの一次コイルが断線している状態である。
【0015】
上記のように、点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として、クランク軸が一定の計測区間を回転する間に現れる特異点の数を計数し、計数された特異点の数を、クランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数と比較するようにすると、計数された特異点の数と、正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定することができ、計数された特異点の数が正規の点火の回数に等しくないときに点火装置が異常であると判定することができる。
【0016】
本発明に好ましい態様では、上記診断手段が、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が前記計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しくなく、かつ零でもないときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定するように構成される。
【0017】
本発明の他の好ましい態様では、クランク軸が計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数と、クランク軸が前記計測区間を回転する間に行われるべきエンジンの正規の点火回数とが等しくならないように点火電源部が構成され、診断手段は、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数とが等しいときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定し、クランク軸が計測区間を回転する間に計数された特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数が零でなく、かつ特異点計数手段により計数された特異点の数が前記計測区間をクランク軸が回転する間に行われる正規の点火回数及びクランク軸が前記計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数のいずれにも等しくないときに他の予期しない異常が生じていると判定するように構成される。
【0018】
上記のように、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が前記計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とを比較するだけでなく、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数とを比較するようにすると、点火コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されていない状態と点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態とを異常な状態として判定することができるだけでなく、これらの異常以外の他の予期しない異常が生じていることの判定をも行うことができるため、点火装置の異常の原因を更に詳細に診断することができる。
【0019】
本発明の他の好ましい態様では、点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出する特異点検出手段と、特異点検出手段により特異点が検出される毎に計数値をインクリメントしてその計数値を特異点の数として記憶する特異点計数手段と、エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器から得られるパルス信号に基づいて決定した判定タイミングが検出されたときに特異点計数手段により計数されている特異点の数から点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する診断手段と、診断手段が診断を完了したときに特異点計数手段の記憶内容をクリアする記憶内容リセット手段とが設けられる。
【0020】
また、前回の判定タイミングと今回の判定タイミングとの間の期間を1判定期間としたときに、各判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数が、各判定期間の間に行われるべきエンジンの正規の点火回数に等しくならないように点火電源部が構成される。
【0021】
この場合診断手段は、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が、判定期間の間に行われるエンジンの正規の点火の回数に等しいときに点火装置が正常であると判定し、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が、判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数に等しいときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定し、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が零でなく、かつ各判定期間の間に行われる正規の点火回数及び各判定期間の間にコンデンサ充電用電圧が発生する回数のいずれにも等しくないときに他の予期しない異常が生じていると判定するように構成される。
【0022】
本発明において、特異点計数手段により計数されている特異点の数と判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数との比較に基づく診断を行わない場合には、点火電源部を、バッテリと該バッテリの出力電圧を昇圧するDCコンバータとにより構成することができる。この場合、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、バッテリが外されているか、またはDCコンバータが故障している状態である。
【0023】
また特異点計数手段により計数されている特異点の数と判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数との比較に基づく診断を行わない場合、点火電源部は、エンジンにより駆動される磁石発電機内に設けられてエンジンの回転に同期して交流電圧を発生するエキサイタコイルと、該エキサイタコイルの出力電圧を半波整流または全波整流して点火用コンデンサと点火コイルの一次コイルとの直列回路の両端に与える整流回路とを備えた構成とすることもできる。この場合、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、エキサイタコイルが外されている状態か、または前記整流回路が故障していて、コンデンサ充電用電圧を出力できない状態である。
【0024】
点火電源部が、バッテリと、該バッテリの出力電圧を昇圧するDCコンバータとからなる場合、本発明に係わる診断装置は、点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出する特異点検出手段と、特異点検出手段により特異点が検出される毎に計数値をインクリメントしてその計数値を特異点の数として記憶する特異点計数手段と、エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器から得られるパルス信号に基づいて決定した判定タイミングが検出されたときに特異点計数手段により計数されている特異点の数から点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する診断手段と、診断手段による診断が完了したときに特異点計数手段の記憶内容をクリアする記憶内容リセット手段とを備えた構成とすることができる。
【0025】
この場合、診断手段は、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が、前回の判定タイミングから今回の判定タイミングまでの間に行われるべきエンジンの正規の点火回数に等しいときに点火装置が正常であると判定し、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が前回の判定タイミングから今回の判定タイミングまでの間に行われるべきエンジンの正規の点火回数に等しくないときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定し、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が零であるときにバッテリが外されているか、またはDCコンバータが故障している状態にあると判定するように構成される。
【0026】
特異点計数手段により計数されている特異点の数と判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数とを比較して、点火コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されているか否か等の判定を行う場合も、点火電源部は、エンジンにより駆動される磁石発電機内に設けられてエンジンの回転に同期して交流電圧を発生するエキサイタコイルと、該エキサイタコイルの出力電圧を半波整流または全波整流して点火用コンデンサと点火コイルの一次コイルとの直列回路の両端に与える整流回路とを備えた構成とすることができる。この場合、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、エキサイタコイルが外されている状態か、または整流回路が故障していて、コンデンサ充電用電圧を出力できない状態である。
【0027】
また特異点計数手段により計数されている特異点の数と判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数とを比較して、点火コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されているか否か等の判定を行う場合、点火電源部は、エンジンにより駆動される磁石発電機内に設けられてエンジンの回転に同期して交流電圧を発生するエキサイタコイルと、該エキサイタコイルに一方の極性の半波の電圧が誘起したときに該エキサイタコイルに流した短絡電流が設定値以上になったときに該短絡電流を遮断して該エキサイタコイルに昇圧されたパルス状の電圧を誘起させる昇圧回路とにより構成することができる。この場合、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、エキサイタコイルが外されている状態か、または昇圧回路が故障していて、コンデンサ充電用電圧を出力できない状態である。
【0028】
また特異点計数手段により計数されている特異点の数と判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数とを比較して、点火コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されているか否か等の判定を行う場合も、点火電源部は、エンジンにより駆動される磁石発電機内に設けられてエンジンの回転に同期して交流電圧を発生するエキサイタコイルと、該エキサイタコイルの出力電圧を半波整流または全波整流して点火用コンデンサと点火コイルの一次コイルとの直列回路の両端に与える整流回路とを備えた構成とすることができる。この場合、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、エキサイタコイルが外されている状態か、または前記整流回路が故障していて、コンデンサ充電用電圧を出力できない状態である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として、クランク軸が一定の計測区間を回転する間に現れる特異点の数を計数し、計数された特異点の数を、クランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数と比較するようにすると、計数された特異点の数と、正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定することができ、計数された特異点の数が正規の点火の回数に等しくないときに点火装置が異常であると判定することができる。また、特異点計数手段により計数された特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定することができ、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しくなく、かつ零でもないときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定することができるため、点火装置の異常の原因をも診断することができる。
【0030】
特に請求項3または4に記載された発明によれば、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が前記計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とを比較するだけでなく、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数との比較をも行うことにより、点火コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されていない状態と点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態とを異常な状態として判定するだけでなく、これらの異常以外の他の予期しない異常が生じていることの判定をも行うことができるようにしたため、点火装置の異常を更に詳細に診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係わる点火装置の構成を示したものである。図1において、1は図示しないエンジンにより駆動される磁石発電機で、この発電機は、エンジンのクランク軸に取り付けられたロータ1Aと、エンジンのケースなどに取り付けられたステータ1Bとからなっている。ロータ1Aは、カップ状に形成されたロータヨーク1a1と、ロータヨークの周壁部の内周に取り付けられた永久磁石(図示せず。)とを備え、ステータ1Bは、ロータの磁極に対向する磁極部を有するステータ鉄心と、ステータ鉄心に巻装されたエキサイタコイルEXとを備えている。
【0032】
本発明は2サイクルエンジンにも4サイクルエンジンにも適用できるが、この例では、エンジンが2サイクルエンジンであるとし、エンジンが180度間隔で点火される2つの気筒を有しているものとする。磁石発電機1のロータヨーク1a1の外周には、エンジンの2つの気筒にそれぞれ対応する2個のリラクタr1及びr2が180度の角度間隔をあけて形成されている。ロータヨーク1a1の外側には、エンジンのケースなどの固定された箇所に取り付けられたパルサ2が配置されている。パルサ2は、リラクタr1及びr2に対向する磁極部を有する鉄心に巻回された信号コイルSCと、信号コイルSCが巻回された鉄心に結合された永久磁石とを備えた周知のものである。パルサ2は、エンジンの特定のクランク角位置でリラクタr1,r2のそれぞれの回転方向の前端側エッジ及び後端側エッジを検出したときに、信号コイルSCに極性が異なるパルス信号を誘起させる。
【0033】
図3は、図1の点火装置の各部に信号または電圧の波形を、横軸にクランク角(クランク軸の回転角度)θをとって示している。図3において、符号#1及び#2はそれぞれエンジンの第1気筒及び第2気筒に関連していることを意味しており、#1TDC 及び#2TDCはそれぞれエンジンの第1気筒及び第2気筒の上死点位置(第1気筒及び第2気筒のピストンが上死点に達したときのクランク角位置)を示している。
【0034】
図3(A)に示されているように、本実施形態のパルサ2は、エンジンのクランク角位置が、当該エンジンの第1気筒の上死点位置#1TDC(第1の気筒の上死点に相当するクランク角位置)よりも十分に進角した位置に設定された第1気筒の基準クランク角位置θ11 に一致したときにリラクタr1の回転方向の前端側エッジを検出して信号コイルSCに第1気筒用の基準パルス信号Vs1を誘起させ、エンジンのクランク角位置が、第1気筒の上死点位置#1TDC付近に設定された第1気筒用の基準点火位置(進角量が零のときの点火位置)θ21に一致したときにリラクタr1の回転方向の後端側エッジを検出して信号コイルSCにパルス波形の第1気筒用基準点火位置信号Vs2を誘起させる。
【0035】
パルサ2はまた、エンジンのクランク角位置が、当該エンジンの第2気筒の上死点位置#2TDCよりも十分に進角した位置に設定された第2気筒の基準クランク角位置θ12に一致したときにリラクタr2の前端側エッジを検出して、信号コイルSCに第2気筒用の基準パルス信号Vs1を誘起させ、エンジンのクランク角位置が、第2気筒の上死点位置#2TDC付近に設定された第2気筒用の基準点火位置θ22に一致したときにリラクタr2の後端側エッジを検出して信号コイルSCにパルス波形の第2気筒用基準点火位置信号Vs2を誘起させる。
【0036】
本実施形態では、パルサ2が各リラクタの回転方向の前端側エッジを検出したときに発生するパルス信号Vs1が負極性のパルスからなり、パルサ2が各リラクタの回転方向の後端側エッジを検出したときに発生するパルス信号Vs2が正極性のパルスからなっているが、パルサ2が各リラクタの回転方向の前端側エッジを検出したときに発生するパルス信号Vs1を正極性のパルス信号とし、パルサ2が各リラクタの回転方向の後端側エッジを検出したときに発生するパルス信号Vs2を負極性のパルス信号としてもよい。
【0037】
本実施形態では、パルサ2がリラクタr1及びr2のそれぞれの前端側エッジを検出したときに発生する基準パルス信号Vs1を、各種の制御条件に対して演算された第1気筒及び第2気筒のそれぞれの点火位置の計測を開始するタイミングを定めるための信号として用いる。
【0038】
またクランク軸の回転速度変動が激しいために、演算された点火位置を的確に検出することが困難なエンジンの始動時及び低速回転時においては、第1気筒及び第2気筒の点火位置を演算により定めるのではなく、上死点位置付近に定めた基準点火位置で点火を行わせるようにしている。本実施形態では、エンジンの始動時及び低速回転時にパルサ2がリラクタr1及びr2の回転方向の後端側エッジを検出して基準点火位置信号Vs2を発生したときに第1気筒用及び第2気筒用の点火信号を発生させるようにしている。
【0039】
本実施形態では、パルサ2がリラクタr1及びr2の回転方向の後端側エッジを検出したときに発生するパルス信号Vs2を基準点火位置信号として用いるだけでなく、点火装置の診断を行う際の判定タイミングを定めるための信号としても用いる。
【0040】
本実施形態では、リラクタr1,r2が形成されたロータヨーク1a1により信号発生用のロータが構成され、このロータとパルサ2とにより、エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器SGが構成されている。
【0041】
図1において3は、一次コイル3a及び3bを有する点火コイル、4は点火装置の構成に必要な電子部品やマイクロプロセッサを一体化した点火ユニットである。点火コイルの一次コイル3aの一端は点火ユニット内で接地され、二次コイル3bの一端及び他端はそれぞれエンジンの第1及び第2の気筒に取り付けられた点火プラグPL1及びPL2の非接地側の端子に接続されている。
【0042】
点火ユニット4内には、点火コイルの一次コイルに対して直列に接続される点火用コンデンサ5と、エキサイタコイルEXの一方の極性の半波(この例では正極性の半波)の出力電圧を昇圧する昇圧回路6と、エキサイタコイルEXの出力電圧を半波整流して点火用コンデンサ5と一次コイル3aとの直列回路の両端に印加する整流回路を構成するダイオード7と、点火信号Siが与えられたときに導通して、点火用コンデンサ5に蓄積された電荷を点火コイルの一次コイル3aを通して放電させる放電用スイッチ8と、点火位置の制御を行うための演算処理等を行うマイクロプロセッサ9と、信号コイルSCが発生するパルス信号Vs1及びVs2をマイクロプロセッサ9が認識し得る波形の信号P1及びP2に変換して、これらの信号をマイクロプロセッサ9に入力する波形整形回路10と、点火電源部の出力端子間の電圧(点火用コンデンサ5の両端の電圧)を、その立ち上がり及び立ち下がりでレベルが変化する信号に変換する波形整形回路11とが設けられている。波形整形回路10及び波形整形回路11の出力はマイクロプロセッサ9の所定のポートに入力されている。
【0043】
更に詳述すると、点火用コンデンサ5は、その一端が点火コイルの一次コイル3aの非接地側端子に接続されることにより一次コイル3aに直列に接続されている。
【0044】
放電用スイッチ8は、サイリスタ等の自己保持機能を有するスイッチ素子からなっていて、点火用コンデンサ5の他端と接地間(点火用コンデンサ5の他端と一次コイル3aの一端との間)に接続されている。放電用スイッチ8としてサイリスタを用いる場合には、そのアノードを点火用コンデンサ5の他端に接続し、カソードを一次コイル3aの一端に接続する。
【0045】
昇圧回路6は、エキサイタコイルEXに一方の極性の半波の電圧が誘起したときに該エキサイタコイルに短絡電流を流して、該短絡電流が設定値以上になったときに該短絡電流を遮断することによりエキサイタコイルに昇圧されたパルス状の電圧を誘起させる回路である。
【0046】
昇圧回路6は、例えば、エキサイタコイルEXに対して並列に接続されてエキサイタコイルが一方の極性の半波の電圧を発生したときに導通してエキサイタコイルを短絡するエキサイタ短絡用スイッチと、エキサイタコイルに流れる短絡電流が設定値以上になったときにエキサイタ短絡用スイッチをオフ状態にするように制御してエキサイタコイルに高い電圧を誘起させる回路により構成される。このような昇圧回路は特許文献2に示されているように既に公知である。
【0047】
本実施形態では、エキサイタコイルEXと、昇圧回路6と、ダイオード7とにより、パルス波形のコンデンサ充電用電圧を繰り返し出力する点火電源部が構成されている。点火用コンデンサ5は、この点火電源部の出力電圧により一次コイル3aを通して図示の極性に充電される。
【0048】
点火ユニット4内では、点火用コンデンサ5と、昇圧回路6と、ダイオード7と、放電用スイッチ8とにより点火回路12が構成されている。またマイクロプロセッサ9と、波形整形回路10及び11とにより制御部13が構成され、この制御部のマイクロプロセッサに所定のプログラムを実行させることにより、エンジンの点火位置の制御を行う点火位置制御部と、点火装置の診断を行う診断装置とが構成される。エキサイタコイルEXと点火コイルの一次コイル3aとが外部配線により点火回路12に接続され、パルサSCが外部配線を通して波形整形回路10に接続されている。
【0049】
図2は、マイクロプロセッサ9により構成される各種の手段を含む本実施形態の点火装置及び該点火装置を診断する診断装置の構成を示したものである。図2において21は回転速度演算手段で、この回転速度演算手段は、パルサ2がパルス信号を発生する周期からエンジンENGの回転速度を演算する。
【0050】
22は、点火位置演算手段で、この点火位置演算手段は、回転速度演算手段21が演算した回転速度に対してエンジンENGの点火位置を演算し、更に演算した点火位置を検出するために点火タイマに計測させる計時データを演算する。
【0051】
23は、点火位置検出手段で、点火位置検出手段23は、信号発生器SGが基準パルス信号Vs1を発生したときに点火位置演算手段22により演算された計時データを点火タイマにセットしてその計測を開始させる。
【0052】
24は点火タイマがセットされた計時データの計測を完了したときに点火信号Siを発生して放電用スイッチに与える点火信号発生手段であり、回転速度演算手段21ないし点火信号発生手段24により、点火位置制御部20が構成されている。
【0053】
図1に示された点火装置においては、エキサイタコイルEXの一方の極性の半波の出力電圧が昇圧回路6により昇圧される。本実施形態においては、磁石発電機1のロータが12極に構成されていて、クランク軸が1回転する間にエキサイタコイルEXが6サイクルの交流電圧を発生する。昇圧回路6はエキサイタコイルが発生する一方の極性の半波の電圧を昇圧して、図4に示したようなパルス波形のコンデンサ充電用電圧V0を、クランク軸が1回転する間に6回発生する。これら6個のコンデンサ充電用電圧V0はダイオード7を通して点火用コンデンサ5と点火コイルの一次コイル3aとの直列回路の両端に印加されるため、点火用コンデンサ5が図示の極性に段階的に充電され、点火電源部の出力端子間の電圧(点火用コンデンサ5と一次コイル3aとの直列回路の両端の電圧)Vcが図3(C)に示すように上昇していく。
【0054】
回転速度演算手段21は、信号発生器SGが出力する特定のパルス信号の発生間隔からエンジンの回転速度を演算する。例えば、基準パルス信号Vs1が発生する毎に、前回の基準信号が発生してから今回の基準パルス信号が発生するまでの時間(クランク軸が1/2回転するのに要した時間)を読み込み、読み込んだ時間からエンジンの回転速度を演算する。なおエンジンの回転速度は前々回の基準パルス信号が発生してから今回の基準パルス信号が発生するまでの時間(クランク軸が1回転するのに要した時間)から演算するようにしてもよい。
【0055】
点火位置演算手段22は、演算された回転速度に対して点火位置演算用マップを検索することにより点火位置を演算し、更に現在の回転速度で基準クランク角位置から演算された点火位置までクランク軸が回転するのに要する時間を点火位置検出用の計時データ(演算した点火位置を検出するために点火タイマに計測させる計時データ)として演算する。
【0056】
点火位置検出手段23は、基準パルス信号が発生したときに点火位置検出用の計時データを点火タイマにセットしてその計測を開始させる。点火信号発生手段24は、点火タイマがセットされた計時データの計測を完了したときに点火信号Siを放電用スイッチ8に与える。これにより放電用スイッチ8が導通し、点火用コンデンサ5に蓄積されていた電荷を点火コイルの一次コイルを通して瞬時に放電させる。この放電により点火コイル3の二次コイル3bに点火用の高電圧が誘起する。この高電圧はエンジンの第1及び第2の気筒に取り付けられた点火プラグPL1及びPL2に同時に印加されるため、両点火プラグで同時に火花放電が生じ、2つの気筒のうち、点火時期にある方の気筒で点火が行われる。
【0057】
また本発明に係わる診断装置30は、特異点検出手段31と、特異点計数手段32と、診断手段33と、診断手段33による判定結果を記憶する判定結果記憶手段34とにより構成されている。
【0058】
特異点検出手段31は、点火電源部の出力端子間の電圧Vcをその立ち上がり及び立ち下がりでレベルが変化する信号に変換する波形整形回路11の出力から、点火電源部の出力端子間の電圧Vcの立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出する。上記特異点の数は、点火用コンデンサの充電が行われる回数または放電が行われる回数に等しい。
【0059】
特異点計数手段32は、エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器から得られるパルス信号を基準にして決定した一定のクランク角の区間を計測区間として、クランク軸が該計測区間を回転する間に特異点検出手段31により検出された特異点の数を計数して記憶する。
【0060】
本実施形態で用いている波形整形回路11は、図1に示されているように、比較器CP1と、図示しない定電圧電源回路から与えられる一定電圧Ecが両端に印加された抵抗Ra及びRbの直列回路からなっていて、抵抗Rbの両端の電圧を基準電圧Vfとして比較器CP1の非反転入力端子(+端子)に与える基準電圧発生回路11aと、点火用コンデンサ5の他端と接地間(点火電源部の出力端子間)の電圧Vcが両端に印加された抵抗Rc及びRdの直流回路からなっていて、抵抗Rdの両端に得た電圧を点火電源部の出力電圧の検出信号Vcsとして比較器CP1の反転入力端子(−端子)に与える電圧検出回路11bとにより構成されている。図示の波形整形回路11は、点火電源部の出力電圧の検出信号Vcsが基準電圧Vfより高いときに低レベルを示し、検出信号Vcsが基準電圧Vf以下になっているときに高レベルを示す矩形波状の信号Sqを比較器CP1から出力する。即ち、波形整形回路11は、図3(D)に示すように、点火電源部の出力端子間の電圧Vcを、その立ち下がりでレベルがハイレベルに変化し、立ち上がりでレベルがローレベルに変化する矩形波状の信号Sqに変換する。マイクロプロセッサはこの信号Sqのレベルの立ち上がりまたは立ち下がりを検出したときに実行中の処理に割り込みをかけることにより特異点を検出する。
【0061】
本実施形態で用いる特異点検出手段31は、波形整形回路11が出力する信号Sqのレベルの立ち下がり(点火電源部の出力端子間の電圧Vcの立上り)を特異点aとして検出して、実行中の処理に割り込みをかけ、図7の割込み処理を実行させる。図7の割込み処理では、特異点aが検出される毎に割込み回数カウンタの計数値をインクリメントして特異点の数を計数する。本実施形態では、マイクロプロセッサが図7の処理を行う過程により特異点検出手段31と特異点計数手段32が構成される。
【0062】
今点火装置が正常に動作しているものとし、点火装置の正常時に点火用コンデンサの各充電が開始されてから放電が行われるまでの区間を少なくとも1つ含むクランク軸の回転角度区間を計測区間θdとすると、該計測区間において計数される上記特異点の数は、クランク軸が該計測区間を回転する間に行われるべき正規の点火回数に等しくなる。
【0063】
上記の計測区間θdは、信号発生器SGが特定のパルス信号を発生する特定のパルス信号に基づいて定めることができる。例えば、図3に示すように、信号発生器SGが発生する基準点火位置信号Vs2を波形整形して得たパルス信号P2の発生間隔の2倍の区間(クランク軸の1回転に相当する区間)を計測区間θdとすることができる。このように計測区間を定めた場合、点火装置が正常なときにクランク軸が該計測区間を回転する間に計数される特異点aの数は2であり、クランク軸が該計測区間を回転する間に行われる正規の点火回数も2である。
【0064】
これに対し、点火コイル3の一次コイル3aが外されていたり、一次コイルが断線していたりして、点火コイルの一次コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていない場合には、点火用コンデンサ5の充電回路が成立せず、点火用コンデンサの充電が行われないため、点火電源部の出力端子間(点火用コンデンサと点火コイルの一次コイルとの直列回路の両端間)の電圧Vcの波形は、図4(B)に示したように、エキサイタコイルEXから昇圧回路6とダイオード7とを通して印加される(点火電源部から印加される)コンデンサ充電用電圧電圧V0の波形に等しくなる。
【0065】
このときクランク軸が計測区間θdを回転する間に計数される特異点aの数は、クランク軸が計測区間θdを回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧V0を発生する回数(本実施形態では6回)に等しくなる。
【0066】
また、エキサイタコイルEXが外されていたり、昇圧回路6が故障していて、該昇圧回路がエキサイタコイルを短絡する状態にあったりして、図5(B)に示すように、点火電源部から点火用コンデンサと一次コイルとの直列回路の両端にコンデンサ充電用電圧V0が印加されない状態にあるときには、特異点が検出されないため、クランク軸が計測区間θdを回転する間に計測された特異点の数は0である。
【0067】
従って、クランク軸が計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数が、クランク軸が計測区間を回転する間に行われるべきエンジンの正規の点火の回数に等しくならないように点火電源部を構成しておけば、点火装置が正常な状態にあるときには、クランク軸が該計測区間を回転する間に計数される特異点の数と、クランク軸が該計測区間を回転する間に行われる正規の点火の回数とが等しくなるのに対し、点火コイルの一次コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されていないために点火用コンデンサの充電が行われない状態にあったり、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあるときには、クランク軸が該計測区間を回転する間に計数される特異点の数と、クランク軸が該計測区間を回転する間に行われる正規の点火の回数とが等しくならない。そのため、クランク軸が計測区間を回転する間に計数される特異点の数と、クランク軸が該計測区間を回転する間に行われる正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定することができ、両者が等しくないときに点火装置が異常であると判定することができる。
【0068】
また、クランク軸が計測区間θdを回転する間に計数される特異点aの数と、クランク軸が計測区間θdを回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数とが等しいときに、点火電源部は正常であるが、点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定することができ、クランク軸が計測区間θdを回転する間に計数される特異点aの数0であるときに点火電源部に異常があって、該点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生していないと判定することができる。
【0069】
特異点計数手段32は、エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器SGから得られるパルス信号(本実施形態では基準点火位置信号Vs2)を基準にして決定した一定のクランク角の区間(この例ではクランク軸の1回転に相当する区間)を計測区間θdとして、クランク軸がこの計測区間を回転する間に特異点検出手段31により検出された特異点の数を計数する。
【0070】
図2に示した診断手段33は、クランク軸が計測区間を回転する間に特異点計数手段31により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数とが等しいときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定し、クランク軸が計測区間を回転する間に計数された特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、特異点計数手段により計数された特異点の数が零でなく、かつ特異点計数手段により計数された特異点の数が計測区間をクランク軸が回転する間に行われる正規の点火回数及びクランク軸が計測区間を回転する間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数のいずれにも等しくないときに他の予期しない異常が生じていると判定するように構成される。
【0071】
マイクロプロセッサにより行われる実際の判定処理においては、エンジンの特定のクランク角位置で信号発生器SGから得られるパルス信号に基づいて判定タイミングを決定して,決定した判定タイミングが検出されたときに特異点計数手段により計数されている特異点の数から点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する。
【0072】
図3ないし図5に示した例では、信号発生器SGがエンジンの一方の気筒の上死点位置付近で発生するパルス信号Vs2を波形整形して得たパルス信号P2がマイクロプロセッサに与えられるタイミング(一連のパルス信号P2,P2,…のうち、一つおきのパルス信号P2の発生タイミング)を判定タイミングとし、前回の判定タイミングから今回の判定タイミングまでの期間を1判定期間Tdとしている。この判定期間(時間)Tdは、計測区間(一定の回転角度)θdに相当するものであり、エンジンの回転速度の上昇に伴って短くなっていく。
【0073】
また、各判定期間Tdの間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数が、各判定期間の間に行われるべきエンジンの正規の点火回数に等しくならないように点火電源部が構成されている。本実施形態では、各判定期間に行われる点火の回数が2であるのに対し、各判定期間の間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数が6に設定されている。
【0074】
診断手段33は、判定タイミングで特異点計数手段32により計数されている特異点の数が、判定期間Tdの間に行われるエンジンの正規の点火の回数に等しいときに点火装置が正常であると判定し、判定タイミングで特異点計数手段32により計数されている特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定する。診断手段33はまた、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が、判定期間Tdの間に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数に等しいときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に接続されていないと判定し、判定タイミングで特異点計数手段により計数されている特異点の数が零でなく、かつ各判定期間の間に行われる正規の点火回数及び各判定期間の間にコンデンサ充電用電圧が発生する回数のいずれにも等しくないときに他の予期しない異常が生じていると判定する。
【0075】
上記診断手段33を構成するために、判定タイミングが検出される毎に(パルス信号P2が発生する毎に)マイクロプロセッサに実行させる判定処理のアルゴリズムを示すフローチャートの一例を図6に示した。このアルゴリズムによる場合には、先ずステップS1において、判定期間Tdの間(クランク軸が1回転する期間)に計数された特異点の数(信号Sqの立下りの数)をAとして読み込む。次いでステップS2に進んで計数された特異点の数Aが判定期間中に行われる正規の点火の回数Bに等しいか否かを判定する。その結果A=Bであるときには、ステップS3に進んで点火装置は正常であると判定し、次いでステップS4において割り込み回数カウンタ(特異点が検出された回数を計数するカウンタ)をクリアして特異点の計数値を零に戻した後この処理を終了する。
【0076】
ステップS2においてA=Bでないと判定されたときには、点火装置が異常であるとしてステップS5に進み、A=0であるか否かを判定する。その結果A=0であると判定されたときにはステップS6において、その異常の原因が、エキサイタコイルが外されているかまたは昇圧回路が故障しているために、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられていないことにあると判定する。次いでステップS4において割り込み回数カウンタをクリアして特異点の計数値を零に戻した後この処理を終了する。
【0077】
ステップS5においてA=0でないと判定されたときにはステップS7に進んで特異点の計数値Aが、判定期間中に点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数Cに等しいか否かを判定する。その結果、A=Cであると判定されたときには、ステップS8に進んで、異常の原因が、点火コイルが外れているなどの理由により点火コイルと点火用コンデンサとが電気的に正常に接続されていないために点火用コンデンサの充電回路が成立していないことにあると判定する。次いでステップS4において割り込み回数カウンタ(特異点が検出された回数を計数するカウンタ)をクリアして特異点の計数値を零に戻した後この処理を終了する。
【0078】
ステップS7においてA=Cでないと判定されたときには、ステップS9に進んで他の予期しない異常が発生していると判定し、次いでステップS4において割り込み回数カウンタをクリアして特異点の計数値を零に戻した後この処理を終了する。
【0079】
診断手段により行われた判定の結果は、判定結果記憶手段34により記憶される。この判定結果記憶手段34により記憶された判定結果を読み出すことにより、点火装置が正常であるか異常であるかを知ることができ、また異常が生じている場合にはその異常の原因を知ることができる。
【0080】
上記の実施形態では、エキサイタコイルEXと昇圧回路6とダイオード7とにより点火電源部を構成している。このように点火電源部を構成すると、エキサイタコイルが高い電圧を発生する必要がないため、エキサイタコイルとして巻数が少ない小形のものを用いることができ、コストの削減を図ることができる。また磁石発電機内でエキサイタコイルが占有するスペースが小さくなるため、エキサイタコイルの存在により他の発電コイルを設けるためのスペースが犠牲になるのを防ぐことができる。
【0081】
しかしながら本発明は、点火電源部を上記のように構成する場合に限定されるものではない。点火電源部はパルス波形のコンデンサ充電用電圧を発生するものであればよいため、昇圧回路を省略して、図8に示したように、点火用コンデンサ5を充電するために必要な高い電圧(二百数十ボルトの電圧)を発生することができるエキサイタコイルEXとダイオード7とにより点火電源部を構成するようにしてもよい。図8に示した点火装置のその他の構成は図1に示したものと同様である。
【0082】
図8に示したように構成した場合には、エキサイタコイルが発生する交流電圧の一方の極性の半波の電圧がコンデンサ充電用電圧として点火用コンデンサ5と点火コイルの一次コイルとの直列回路の両端に印加される。
【0083】
また図9に示したように、バッテリBatとバッテリBatの電圧を昇圧するDCコンバータ14とダイオード7とにより点火電源部を構成する場合にも本発明を適用することができる。図9に示したDCコンバータ14は、昇圧トランスTsfと、バッテリから昇圧トランスTsfの一次コイルに供給される一次電流を断続させるように制御する制御回路6′とを備えたもので、マイクロプロセッサ9から充電指令信号Scが与えられている間昇圧トランスTsfの一次電流を断続させて図11(B)に示すようなパルス波形のコンデンサ充電用電圧V0を繰り返し発生させる。点火装置が正常な場合には、このコンデンサ充電用電圧により、点火用コンデンサ5が図10(B)に示すように充電される。
【0084】
図9に示した例では、点火用コンデンサの放電時間を長くするために放電用スイッチ8に対して逆並列にダイオード15が接続されている。その他の構成は図1に示した例と同様である。
【0085】
図9に示した点火装置においても点火装置が正常なときには、点火電源部から与えられるコンデンサ充電用電圧により点火用コンデンサが充電されるため、点火電源部の出力端子間の電圧Vcは図10(B)に示すような波形になる。このとき判定期間の間に計数される特異点の数は判定期間の間に行われる正規の点火の回数に等しいため、図1の実施形態を同様に、判定期間の間に計数された特異点の数と判定期間の間に行われる正規の点火の回数とを比較することにより、点火装置が正常であるか異常であるかを判定することができる。
【0086】
図9に示した点火装置において、点火コイルの一次コイルが点火用コンデンサに電気的に正常の接続されておらず、点火用コンデンサの充電回路が構成されていないときには、点火用コンデンサが充電されないため、波形整形回路11を通して検出される電圧は図11(B)のようにDCコンバータ14が発生する電圧V0そのものとなる。このとき図11(D)に示すように、コンデンサ充電用電圧V0の立上り及び立下りで波形整形回路11を通して出力される信号Sqのレベルが変化し、特異点が検出されるが、この場合、1判定期間の間(1計測区間の間)にコンデンサ充電用電圧V0が発生する回数はDCコンバータの回路定数により変わるため、判定期間の間に計数される特異点の数は一定しない。
【0087】
バッテリBatが外されていたり、DCコンバータ14が故障していたりして、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない場合には、図12(B)に示すように、点火用コンデンサは充電されないため、特異点は検出されず、判定期間の間に計数される特異点の数は0となる。
【0088】
上記のように、バッテリとDCコンバータとにより点火電源部を構成する場合には、点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正しく接続されていないために点火用コンデンサが充電されない状態にあるときに、判定期間の間に波形整形回路11を通して検出されるコンデンサ充電用電圧の発生回数が一定しないため、判定期間の間に計数された特異点の計数値と判定期間の間にコンデンサ充電用電圧が発生する回数とを比較することにより、発生している異常の原因が、点火用コンデンサの充電回路が成立していないことにあるのか、他の何らかの異常が発生しているのかを的確に判定することができない。
【0089】
そこでこの場合には、判定期間の間に(クランク軸が計測区間を回転する間に)特異点計数手段により計数された特異点の数と判定期間の間に行われる前記エンジンの正規の点火の回数とが等しいときに点火装置が正常であると判定し、判定期間の間に特異点計数手段により計数された特異点の数が零であるときに点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、判定期間の間に特異点計数手段により計数された特異点の数とクランク軸が計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とが等しくなく、かつ零でもないときに点火コイルが点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定するように診断手段を構成する。
【0090】
図9に示した実施形態において、診断手段を構成するために判定タイミングが検出される毎にマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムを示すフローチャートを図13に示した。このアルゴリズムによる場合には、先ずステップS101において、判定期間Tdの間(クランク軸が1回転する期間)に計数された特異点の数(信号Sqの立下りの数)をAとして読み込む。次いでステップS102に進んで計数された特異点の数Aが判定期間中に行われる正規の点火の回数Bに等しいか否かを判定する。その結果A=Bであるときには、ステップS103に進んで点火装置は正常であると判定し、次いでステップS104において割り込み回数カウンタをクリアして特異点の計数値を零に戻した後この処理を終了する。
【0091】
ステップS102においてA=Bでないと判定されたときには、点火装置が異常であるとしてステップS105に進み、A=0であるか否かを判定する。その結果A=0であると判定されたときにはステップS106において、その異常の原因が、エキサイタコイルが外されているかまたはDCコンバータ14の回路が故障しているために、点火電源部からコンデンサ充電用電圧が与えられていないことにあると判定する。次いでステップS104において割り込み回数カウンタをクリアして特異点の計数値を零に戻した後この処理を終了する。
【0092】
ステップS105においてA=0でないと判定されたときにはステップS107に進んで、異常の原因が、点火コイルが外れているなどの理由により点火コイルと点火用コンデンサとが電気的に正常に接続されていないことにあると判定する。次いでステップS104において割り込み回数カウンタをクリアして特異点の計数値を零に戻した後この処理を終了する。
【0093】
なお図9に示した実施形態において、特異点を計数するための処理は図7に示した処理と同様である。
【0094】
図1及び図8に示した実施形態においても、図9の実施形態で設けたダイオード15と同様のダイオードを放電用スイッチ8に逆並列接続することができる。
【0095】
上記の実施形態では、点火位置を制御するマイクロプロセッサにより点火装置の異常診断を行わせているが、診断手段を構成するための判定処理を他のマイクロプロセッサにより行わせるようにしてもよい。
【0096】
図9に示した実施形態では、ダイオード15をサイリスタなどからなる放電用スイッチ8に逆並列接続するようにしているが、波形整形回路11に抵抗Rc,Rdの直列回路からなる電圧検出回路11hが設けられている場合には、点火プラグで行わせる放電をDC放電とするために図14に示すように点火コイル3の1次コイル3aの両端にアノードを1次コイル3aの他端(非接地側端子)側に向けたダイオード15を並列接続する場合にも本発明を適用することができる。
【0097】
図14に示したコンデンサ放電式点火装置において、点火電源部が正常で、かつ点火コイル3の1次コイル3aが正しく点火回路に接続されている場合には、点火用コンデンサ5と1次コイル3aとの直列回路の両端の電圧(点火電源部の出力端子間の電圧)Vcが図10(B)のように段階的に上昇していく。これに対し、点火コイル3の1次コイル3aが点火回路12から外されている場合(または1次コイル3aが断線している場合)には、点火電源部の出力電圧でダイオード15を通して点火用コンデンサ5が一度点火電源部の出力電圧V0のピーク値まで充電されると、点火用コンデンサ5の両端の電圧が抵抗Rc及びRdを通してダイオード15の両端に逆方向に印加されるため、ダイオード15は存在しないのと同じ状態になり、点火用コンデンサ5の充電は行われなくなる。そのため電圧検出回路11bを通して検出される電圧は図11(B)と同様の波形となる。したがって図14に示すようにダイオード15を点火コイルの1次コイルの両端に並列接続する場合にも、図9に示した実施形態について説明したのと同様に点火装置の異常の診断を行うことができる。
【0098】
同様に、図1に示した実施形態においても、点火コイルの1次コイル3aの両端にカソードを接地側に向けたダイオードを並列接続することができる。
【0099】
上記の各実施形態では、波形整形回路11を比較器CP1と、基準電圧発生回路11aと、電圧検出回路11bとにより構成したが、波形整形回路11は、点火電源部の出力端子間の電圧Vc(またはV0)を、その立ち下がりでレベルがハイレベル(またはローレベル)に変化し、立ち上がりでレベルがローレベル(またはハイレベル)に変化する信号(マイクロプロセッサに点火電源部の出力端子間の電圧の立ち下がりまたは立上がりを認識させるのに適した信号)に変換する回路であればよく、上記の実施形態で用いたものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の第1の実施形態のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【図2】図1の実施形態においてマイクロプロセッサにより構成される手段を含むシステム全体の構成を示したブロック図である。
【図3】図1の実施形態の各部の正常時の信号波形及び電圧波形をエンジンのクランク角に対して示した波形図である。
【図4】図1の実施形態において点火コイルが外されているなどの理由で点火用コンデンサの充電回路が構成されていないときの各部の信号波形及び電圧波形をエンジンのクランク角に対して示した波形図である。
【図5】図1の実施形態においてエキサイタコイルが外されているなどの理由でコンデンサ充電用電圧が発生しないときの各部の信号波形及び電圧波形をエンジンのクランク角に対して示した波形図である。
【図6】図1の実施形態において診断手段を構成するためにマイクロプロセッサが実行する判定処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図7】図1の実施形態において特異点計数手段を構成するためにマイクロプロセッサが実行する処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【図9】本発明の第3の実施形態のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【図10】図9の実施形態の各部の正常時の信号波形及び電圧波形をエンジンのクランク角に対して示した波形図である。
【図11】図9の実施形態において点火コイルが外されているなどの理由で点火用コンデンサの充電回路が構成されていないときの各部の信号波形及び電圧波形をエンジンのクランク角に対して示した波形図である。
【図12】図9の実施形態においてエキサイタコイルが外されているなどの理由でコンデンサ充電用電圧が発生しないときの各部の信号波形及び電圧波形をエンジンのクランク角に対して示した波形図である。
【図13】図9の実施形態において診断手段を構成するためにマイクロプロセッサが実行する判定処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図14】本発明の第4の実施形態のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【符号の説明】
【0101】
1 磁石発電機
EX エキサイタコイル
2 パルサ
SG 信号発生器
3 点火コイル
4 点火ユニット
5 点火用コンデンサ
6 昇圧回路
7 ダイオード
9 マイクロプロセッサ
11 波形整形回路
12 点火回路
13 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス波形のコンデンサ充電用電圧を繰り返し出力する点火電源部と、点火コイルと、前記点火コイルに対して直列に接続されて前記点火電源部の出力電圧により前記一次コイルを通して充電される点火用コンデンサと、点火信号が与えられた時に導通して前記点火用コンデンサに蓄積された電荷を前記点火コイルの一次コイルを通して放電させる放電用スイッチと、エンジンの点火位置で前記放電用スイッチに点火信号を与える点火位置制御部とを備えて、前記点火用コンデンサに蓄積された電荷の放電により前記点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させるコンデンサ放電式エンジン用点火装置を診断するコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置であって、
前記点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出する特異点検出手段と、
前記エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器から得られるパルス信号を基準にして決定した一定のクランク角の区間を計測区間として、前記クランク軸が該計測区間を回転する間に前記特異点検出手段により検出された特異点の数を計数する特異点計数手段と、
前記特異点計数手段により計数された特異点の数と前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に行われるエンジンの正規の点火の回数とを比較することにより前記点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する診断手段と、
を具備してなるコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。
【請求項2】
前記診断手段は、
前記特異点計数手段により計数された特異点の数と前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に行われる前記エンジンの正規の点火の回数とが等しいときに前記点火装置が正常であると判定し、
前記特異点計数手段により計数された特異点の数が零であるときに前記点火電源部から前記コンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、
前記特異点計数手段により計数された特異点の数と前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に行われる前記エンジンの正規の点火の回数とが等しくなく、かつ零でもないときに前記点火コイルが前記点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定するように構成されている請求項1に記載のコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。
【請求項3】
前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に前記点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数が、前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に行われるべき前記エンジンの正規の点火回数に等しくならないように前記点火電源部が構成され、
前記診断手段は、
前記特異点計数手段により計数された特異点の数と前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に行われる前記エンジンの正規の点火の回数とが等しいときに前記点火装置が正常であると判定し、
前記特異点計数手段により計数された特異点の数と前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に前記点火電源部が前記コンデンサ充電用電圧を発生する回数とが等しいときに前記点火コイルが前記点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定し、
前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に計数された特異点の数が零であるときに前記点火電源部から前記コンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、
前記特異点計数手段により計数された特異点の数が零でなく、かつ前記特異点計数手段により計数された特異点の数が前記計測区間を前記クランク軸が回転する間に行われる正規の点火回数及び前記クランク軸が前記計測区間を回転する間に前記点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数のいずれにも等しくないときに他の予期しない異常が生じていると判定するように構成されている請求項1に記載のコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。
【請求項4】
パルス波形のコンデンサ充電用電圧を繰り返し出力する点火電源部と、点火コイルと、前記点火コイルの一次コイルに対して直列に接続されて前記点火電源部の出力電圧により前記一次コイルを通して充電される点火用コンデンサと、点火信号が与えられた時に導通して前記点火用コンデンサに蓄積された電荷を前記点火コイルの一次コイルを通して放電させる放電用スイッチと、エンジンの点火位置で前記放電用スイッチに点火信号を与える点火位置制御部とを備えて、前記点火用コンデンサに蓄積された電荷の放電により前記点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させるコンデンサ放電式エンジン用点火装置を診断するコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置であって、
前記点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出する特異点検出手段と、
前記特異点検出手段により特異点が検出される毎に計数値をインクリメントしてその計数値を特異点の数として記憶する特異点計数手段と、
前記エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器から得られるパルス信号に基づいて決定した判定タイミングが検出されたときに前記特異点計数手段により計数されている特異点の数から点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する診断手段と、
前記診断手段が診断を完了したときに前記特異点計数手段の記憶内容をクリアする記憶内容リセット手段と、
を具備し、
前回の判定タイミングと今回の判定タイミングとの間の期間を1判定期間としたときに、各判定期間の間に前記点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数が、各判定期間の間に行われるべき前記エンジンの正規の点火回数に等しくならないように前記点火電源部が構成され、
前記診断手段は、
前記判定タイミングで前記特異点計数手段により計数されている特異点の数が、前記判定期間の間に行われるエンジンの正規の点火の回数に等しいときに前記点火装置が正常であると判定し、
前記判定タイミングで前記特異点計数手段により計数されている特異点の数が零であるときに前記点火電源部から前記コンデンサ充電用電圧が与えられない状態にあると判定し、
前記判定タイミングで前記特異点計数手段により計数されている特異点の数が、前記判定期間の間に前記点火電源部がコンデンサ充電用電圧を発生する回数に等しいときに前記点火コイルが前記点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定し、
前記判定タイミングで前記特異点計数手段により計数されている特異点の数が零でなく、かつ各判定期間の間に行われる正規の点火回数及び各判定期間の間に前記コンデンサ充電用電圧が発生する回数のいずれにも等しくないときに他の予期しない異常が生じていると判定するように構成されているコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。
【請求項5】
前記点火電源部は、バッテリと該バッテリの出力電圧を昇圧するDCコンバータとからなり、
前記点火電源部から前記コンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、前記バッテリが外されているか、または前記DCコンバータが故障している状態である請求項1または2に記載のコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。
【請求項6】
前記点火電源部は、前記エンジンにより駆動される磁石発電機内に設けられて前記エンジンの回転に同期して交流電圧を発生するエキサイタコイルと、該エキサイタコイルの出力電圧を半波整流または全波整流して前記点火用コンデンサと点火コイルの一次コイルとの直列回路の両端に与える整流回路とを備え、
前記点火電源部から前記コンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、前記エキサイタコイルが外されている状態か、または前記整流回路が故障している状態である請求項1,2,3または4に記載のコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。
【請求項7】
前記点火電源部は、前記エンジンにより駆動される磁石発電機内に設けられて前記エンジンの回転に同期して交流電圧を発生するエキサイタコイルと、該エキサイタコイルに一方の極性の半波の電圧が誘起したときに該エキサイタコイルに流した短絡電流が設定値以上になったときに該短絡電流を遮断して該エキサイタコイルに昇圧されたパルス状の電圧を誘起させる昇圧回路とからなり、
前記点火電源部から前記コンデンサ充電用電圧が与えられない状態は、前記エキサイタコイルが外されている状態か、または前記昇圧回路が故障している状態である請求項1,2,3または4に記載のコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。
【請求項8】
パルス波形のコンデンサ充電用電圧を繰り返し出力する点火電源部と、点火コイルと、前記点火コイルに対して直列に接続されて前記点火電源部の出力電圧により前記一次コイルを通して充電される点火用コンデンサと、点火信号が与えられた時に導通して前記点火用コンデンサに蓄積された電荷を前記点火コイルの一次コイルを通して放電させる放電用スイッチと、エンジンの点火位置で前記放電用スイッチに点火信号を与える点火位置制御部とを備えて、前記点火用コンデンサに蓄積された電荷の放電により前記点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させるコンデンサ放電式エンジン用点火装置を診断するコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置であって、
前記点火電源部の出力端子間の電圧の立ち上がりまたは立ち下がりのいずれかを特異点として検出する特異点検出手段と、
前記特異点検出手段により特異点が検出される毎に計数値をインクリメントしてその計数値を特異点の数として記憶する特異点計数手段と、
前記エンジンの特定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号発生器から得られるパルス信号に基づいて決定した判定タイミングが検出されたときに前記特異点計数手段により計数されている特異点の数から点火装置の異常の有無及び異常の原因を診断する診断手段と、
前記診断手段による診断が完了したときに前記特異点計数手段の記憶内容をクリアする記憶内容リセット手段と、
を具備し、
前記点火電源部は、バッテリと、該バッテリの出力電圧を昇圧するDCコンバータとからなり、
前記診断手段は、前記判定タイミングで前記特異点計数手段により計数されている特異点の数が、前回の判定タイミングから今回の判定タイミングまでの間に行われるべき前記エンジンの正規の点火回数に等しいときに前記点火装置が正常であると判定し、前記判定タイミングで前記特異点計数手段により計数されている特異点の数が前回の判定タイミングから今回の判定タイミングまでの間に行われるべき前記エンジンの正規の点火回数に等しくないときに前記点火コイルが前記点火用コンデンサに電気的に正常に接続されていないために前記点火用コンデンサの充電回路が成立していないと判定し、前記判定タイミングで前記特異点計数手段により計数されている特異点の数が零であるときに前記バッテリが外されているか、または前記DCコンバータが故障している状態にあると判定するように構成されているコンデンサ放電式エンジン用点火装置の診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−196321(P2008−196321A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29470(P2007−29470)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】