説明

コンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロール

【課題】積層フィルムコンデンサを製造する際のフィルム走行時の蛇行を抑制することにより、積層精度が良く、コンデンサ加工収率を改善できるフィルムロールを提供する。
【解決手段】フィルム厚みが10μm以下のポリフェニレンスルフィドフィルムからなるロールであって、明細書中で定義するエアかみ指数X[%]が式1、式2で表されるコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロール。
(式1) (−2.5×10−4×L)+22<X<(−2.5×10−4×L)+32
(式2) (−3.44×10−2×D)+26<X<(−3.44×10−2×D)+36
L:フィルム長さ[m]
D:フィルムロール直径[mm]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールに関し、フィルム搬送時の蛇行を抑制することにより、優れた加工特性を持つフィルムロールを提供する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィドフィルムは、フィルムコンデンサの誘電体として好適に用いられ、従来からその性質を改善するために、不活性粒子を配合することが知られている。例えば、粒子形状を規定した2種類の粒子を用いることにより、滑り性、走行性と絶縁欠陥が少ないことを両立させたポリフェニレンスルフィドフィルムが開示されている(特許文献1、特許文献2)。また、炭酸カルシウム微粒子を用いて、粗粒の抑制やボイド低減を行ったポリフェニレンスルフィドフィルムが知られている(特許文献3)。
【0003】
しかしながら、このような方法では、フィルムロールの層間に存在するエアの抜け性が十分でないことにより、昨今主流となってきた積層コンデンサを製造する際に、フィルムの走行蛇行、積層精度不良により、コンデンサ加工収率が悪化するなどの欠点があった。
【特許文献1】特開平5−163370号公報
【特許文献2】特開平6−136146号公報
【特許文献3】特開2004−149740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、積層フィルムコンデンサを製造する際のフィルム走行時の蛇行を抑制することにより、積層精度が良く、コンデンサ加工収率を改善できるフィルムロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールは次の構成を有する。すなわち、フィルム厚みが10μm以下のポリフェニレンスルフィドフィルムからなるロールであって、明細書中で定義するエアかみ指数X[%]が式1、式2で表されるコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールである。
(式1) (−2.5×10−4×L)+22<X<(−2.5×10−4×L)+32
(式2) (−3.44×10−2×D)+26<X<(−3.44×10−2×D)+36
L:フィルム長さ[m]
D:フィルムロール直径[mm]
【発明の効果】
【0006】
本発明で提供されるフィルムロールを用いることにより、積層フィルムコンデンサを製造する際のフィルム走行時の蛇行が抑制され、積層精度が良く、コンデンサ加工収率を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の最良の実施形態を説明する。
本発明において、ポリフェニレンスルフィドとは、繰り返し単位80モル%以上(好ましくは90モル%以上)が次の化学式で示される構成単位からなる重合体をいう。
【0008】
【化1】

【0009】
かかる成分が80モル%未満ではポリマーの結晶性、軟化点が低くなり、得られるフィルムの耐熱性、寸法安定性および機械的特性などを損なう。繰り返し単位の20モル%未満(好ましくは10モル%未満)であれば、共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。該重合体の共重合の仕方はランダム、ブロックを問わない。
【0010】
本発明においてポリフェニレンスルフィド樹脂組成物とは上記ポリフェニレンスルフィド(好ましくはポリ−p−フェニレンスルフィド)を90重量%以上含む樹脂組成物をいう。樹脂組成物中の残りの10重量%未満は、ポリフェニレンスルフィド以外のポリマーおよび/または充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤等の添加物であってもかまわない。また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は温度300℃、せん断速度200sec−1のもとで100〜50000ポイズ、さらには500〜12000ポイズの範囲が製膜性の面で好ましい。
【0011】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムとは、上記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形した二軸延伸フィルムである。コンデンサ用途として十分に足る電気特性を得るためには、無延伸フィルムや一軸延伸フィルムではなく、二軸延伸フィルムであることが好ましい。該フィルムの厚さは10μm以下、さらには0.5〜6.0μmの範囲が本発明の目的を効果的に達成する点で好ましい。また、易接着効果を持たせる目的で、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理を単体または複合の表面処理が施されてもよい。
【0012】
本発明においてコンデンサとは、電気回路の一種で、誘電体を挟んで導体からなる一対の電極を設けることにより、両電極間に一定の静電気量を与えるものを意味し、蓄電器、キャパシタなどと呼ばれるものである。
【0013】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムには、不活性粒子を用いることが望ましい。本発明に用いられる不活性粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、カオリン、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク、酸化亜鉛などの無機粒子や架橋ポリスチレン系粒子のような300℃までは溶融しない有機粒子が挙げられる。好ましくは、コロイダルシリカに起因するシリカ粒子、球状炭酸カルシウム、架橋ポリスチレン系粒子である。これらの粒子はポリマーとの親和性も良好で延伸時に粒子周辺にボイドを生成しにくいのでコンデンサ用フィルムとして耐電圧の良好なフィルムとなる。
【0014】
本発明には上記の様な種類の粒子を用い、粒径の異なる2種類の不活性粒子を用いるのが好ましい。粒子種の組み合わせは特に問わないが、粒子の脱落、ボイドの低減のために、粒子形状は球状又は扁平状の粒子が望ましい。
【0015】
本発明に用いる第1の不活性粒子(以下、不活性粒子Aと呼ぶことがある。)の平均粒径は0.3〜0.8μmの範囲であり、さらに好ましくは0.4〜0.6μmの範囲である。平均粒径が0.3μm未満では、フィルムの滑り性が十分でなく、フィルムに金属蒸着する際にフィルム切れの原因となる。また0.8μmを超えるとコンデンサに加工した際に、層間密着力が得られずフィルムめくれが発生してしまう。第2の不活性粒子(以下、不活性粒子Bと呼ぶことがある。)は、不活性粒子Aよりも平均粒径の大きな粒子からなり、平均粒径は1.0〜1.5μmの範囲が好ましく、さらには1.0〜1.2μmの範囲が好ましい。不活性粒子Bが1.0μm未満であると、フィルムロールとする際に十分な滑り性が得られず、シワや帯電欠点が発生する。また、1.2μmを超えると粒子に隣接してできるボイドが大きくなるため、粒子脱落の増加や絶縁欠陥の増加となりやすい。
【0016】
本発明において、かかる不活性微粒子の添加量は、不活性微粒子Aが0.4〜0.8重量%、好ましくは0.5〜0.7重量%である。不活性微粒子Aの添加量が0.4重量%未満では、フィルムの滑り性が十分でなく、0.8重量%を超えると該微粒子の周囲にできるボイドの増加や不活性微粒子自身の電気抵抗が低いためにフィルムの絶縁耐圧が低下する。また、不活性微粒子Bの添加量は0.05〜0.3重量%、好ましくは0.1〜0.2重量%である。不活性微粒子Bの添加量が0.05重量%未満では良好な滑り性が得られず、0.3重量%を超えるとやはりボイド増加のおそれがある。
【0017】
本発明では、上記の範囲を満たす粒子を用いることが必要であるが、不活性粒子A、Bともに球状シリカを用いることが、コンデンサ用フィルムの耐電圧、コンデンサを製造する際のフィルム走行時の蛇行抑制から、特に望ましい。
【0018】
本発明におけるフィルムロールは、コンデンサの生産性の観点から、幅は300〜1400mm、長さは4000〜40000mであることが望ましい。また、ロール表層硬度は、85〜95度、好ましくは88〜92度である。85度未満では真空蒸着時の巻きズレが発生し易く、95度を超えるとブロッキングが起こり、フィルム切れの原因となる。
【0019】
本発明のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールは、フィルム厚みが10μm以下のポリフェニレンスルフィドフィルムからなるロールであって、エアかみ指数X[%]が式1、式2で表されるコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールである。
(式1) (−2.5×10−4×L)+22<X<(−2.5×10−4×L)+32
(式2) (−3.44×10−2×D)+26<X<(−3.44×10−2×D)+36
L:フィルム長さ[m]
D:フィルムロール直径[mm]
式1、式2ともに実験的に得られた関係式であるが、本発明のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールが式1、式2をともに満足することにより、フィルム層間のエア抜け性が改善され、積層フィルムコンデンサを製造する際のフィルム走行時の蛇行が抑制され、積層精度が良く、コンデンサ加工収率を改善することが判った。エアかみ指数Xはフィルム長さLとの間に、(−2.5×10−4×L)+22<X<(−2.5×10−4×L)+32で表されることが必要であるが、好ましくは(−2.5×10−4×L)+22<X<(−2.5×10−4×L)+26である。ここで、X≦(−2.5×10−4×L)+22であると、フィルム層間のエア抜け性が悪いため、フィルムとフィルムあるいはフィルムとロール間にエアが巻き込まれ、コンデンサ製造時にフィルムが走行蛇行を起こし、フィルムが積層された際に積層ズレとなり、コンデンサの加工収率が著しく低下する。また、X≧(−2.5×10−4×L)+32であると、フィルムロール間のかみ込みエア量が多くなりすぎてしまい、フィルムに蒸着を行う際の真空排気時に、フィルムズレが起こり易くなる。
【0020】
また、エアかみ指数Xとフィルムロール径Dとの間は、(−3.44×10−2×D)+26<X<(−3.44×10−2×D)+36である必要がある。好ましくは(−3.44×10−2×D)+26<X<(−3.44×10−2×D)+30である。X≦(−3.44×10−2×D)+26であると、式1の場合と同様に、コンデンサ製造時にフィルムが走行蛇行を起こし、積層コンデンサとしての積層精度が悪化し、コンデンサの加工収率が著しく低下する。また、X≧(−3.44×10−2×D)+36の場合も、真空蒸着時のフィルムズレを引き起こし易くなる。
本発明のフィルム表面の表面粗さパラメータSRaは30〜80nm、好ましくは40〜60nmである。SRaが30nm未満では、フィルムの滑り性が十分でなく、フィルムに金属蒸着する際にフィルム切れの原因となる。SRaが80nmを超えると、コンデンサに加工した際に、層間密着力が得られずフィルムめくれが発生してしまう。
【0021】
さらに、本発明のフィルム表面の表面粗さパラメータSRmaxは1000〜1300nm、好ましくは1000〜1200nmである。SRmaxが1000nm未満であると、フィルムロールとする際に十分な滑り性が得られず、シワや帯電欠点が発生する。また、1300nmを超えるとコンデンサ加工時のシワ欠点による耐電圧低下となり、好ましくない。
【0022】
次に、本発明のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールおよび該フィルムロールを用いたコンデンサの好ましい製造方法の例を説明する。ただし、本発明の製造方法はこの方法に限定されるものではない。
【0023】
まず、ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法について述べる。
ポリフェニレンスルフィドの重合方法としては、硫化アルカリとp−ジハロベンゼンを極性溶媒中で高温に反応させる方法を用いる。特に、硫化ナトリウムとジクロロベンゼン(好ましくはp−ジクロロベンゼン)をN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系極性溶媒中で反応させるのが好ましい。この場合、重合度を調節するために、苛性アルカリ、カルボン酸アルカリ金属塩等のいわゆる重合助剤を添加して230〜280℃で反応させるのが最も好ましい。重合系内の圧力および重合時間は、使用する助剤の種類や量をおよび所望する重合度などによって適宜決定される。重合を終わったポリマーを例えばN−メチルピロリドンのようなポリフェニレンスルフィドと親和性のある溶媒で高温洗浄した後に水洗、乾燥することでポリフェニレンスルフィド粉末が得られる。不活性粒子は、これらの任意の段階で、いかなる添加方法によっても添加することができるが、液体に分散された不活性粒子を上記ポリフェニレンスルフィド粉末に混合して、ヘンシェルミキサのような高速撹拌手段により均一に混合した後、得られた混合物を少なくとも、1段のベント孔を有する押出機に供給し、該押出機中でまず溶融混練後、ベント孔から該液体成分を除去し、適当な口金から押出して、不活性粒子が微分散されたポリフェニレンスルフィド組成物を得る方法が、粗大粒子の生成、混入を防ぐ点で好ましい。不活性粒子のスラリー化に用いる液体としては、沸点が180〜290℃のものが好ましく、180〜250℃が特に好ましい。具体的には、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0024】
このようにして得られた不活性粒子を含むポリフェニレンスルフィド組成物は、そのままあるいは粒子を含有しないプレーンペレットと混合して、二軸延伸することができる。不活性粒子が分散されたポリフェニレンスルフィド組成物ペレットそのまま、あるいは不活性粒子を含まないポリフェニレンスルフィド組成物からなるプレーンペレットを混合して、押出機に供給して溶融し、口金から吐出する。
【0025】
口金から吐出された溶融樹脂は、表面温度20〜30℃、直径800〜2000mmの冷却ドラム上で静電印加を用いて冷却固化されるが、本発明に係るコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールにおいて必要とされるフィルム厚み10μm以下の薄物フィルムにおいては、冷却ドラム上で水膜を形成し、密着力を高めることにより、高速製膜をはかる方法を用いることが必要である。本発明のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールにおいては、フィルムの厚みムラを極力低減させることが必要であり、そのために必要な冷却ドラム上での水膜厚みを検討した結果、水膜の厚みは、0.5〜2.0μm以下、好ましくは0.8〜1.5μmがよいことを見出した。
【0026】
次いで、この未延伸フィルムを長手方向並びに長手方向と直交方向に延伸する。本発明のエアかみ指数、フィルム表面粗さを達成するために、長手方向の延伸条件が非常に重要であり、最適な延伸条件においてのみ本発明の効果を達成できる。長手方向の延伸条件は、駆動ロール間に表面温度が90℃以上120℃未満の複数本のフリーロール群に巻き付け、延伸区間を50mm〜500mm、好ましくは200mm〜300mmとなるようにフリーロールの本数を調整し、長手方向に3〜5倍に延伸し一軸延伸フィルムとする。
次に、90〜130℃のテンター内で長手直交方向に2〜4倍延伸して二軸延伸フィルムとし、引き続きテンター内で200℃以上融点以下の温度範囲で2〜60秒間定長熱処理し、必要に応じて引き続き200℃以上融点以下の温度範囲で制限収縮させてポリフェニレンスルフィドフィルムを巻き取る。
【0027】
巻き取られたポリフェニレンスルフィドフィルムを所定の幅、長さにスリットし、円筒状のコアに巻き付ける。このとき、本発明のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロールにおいて、エアかみ指数をコントロールするために、スリット条件が極めて重要になる。巻き取られたポリフェニレンスルフィドフィルムロームのスリット条件は、巻き取り時の張力が0.5〜10.0kg/m、巻き取り時の面圧が5〜60kg/m、スリット速度50〜250m/minであることが好ましい。また、面圧付与方法としてコンタクトロール方式が望ましく、本発明のエアかみ指数を達成するためには、コンタクトロールとして金属メッキロールを用いることが好ましい。
【0028】
次に、本発明のコンデンサの好ましい製造方法の例について述べる。
コンデンサの内部電極としては、金属箔が用いられる場合は金属箔と本発明のフィルムを箔はみだし巻回法や巻回途中でタブを挿入する方法などによって交互に重ね合わせて巻き取るなどして誘電体と電極を交互に重ね合わせ、かつ外部に電極が引き出せるような構造となるように巻回してコンデンサ素子あるいはコンデンサ母素子を得る。
【0029】
また、コンデンサの内部電極として金属薄膜が用いられる場合は、まず上述した本発明のフィルムを金属化する。金属化の方法は蒸着による方法が好ましい。蒸着する金属はアルミニウムを主たる成分とする金属が好ましい。金属化する際、予め金属化する側のフィルム表面にコロナ放電処理、プラズマ処理などの処理を施し、金属薄膜とフィルムとの密着力を向上させることもできる。金属化する際、あるいは金属化後に対向電極が短絡しないようにテープマスク、オイルマージンあるいはレーザービーム等により非金属部分(いわゆるマージン)を設けることもできる。その後、一方の端にマージン部分がくるように細幅のテープ状にスリットすることもある。
【0030】
次にコンデンサ素子を製造する。積層型コンデンサの場合は、ドラムあるいは平板に巻回した母素子を熱処理する、あるいはリング等で締め付ける、あるいは平行平板等でプレスするなどフィルムの厚さ方向に圧力を加えて成形する。その際の温度範囲は常温からフィルムの融点以下である。この後、外部電極の取り付け工程(金属溶射、導電性樹脂等による)、個々の素子切り出し工程、必要なら樹脂または油含浸工程を経てコンデンサを得ることができる。
【0031】
[物性の測定方法]
1.フィルム厚み
まず、フィルム製品ロールの重量を測定する。次いで校正した巻き尺でフィルム幅を、フィルムを巻き出して長さを測定する。さらにコアの重量を測定する。フィルム重量はフィルム製品ロールの重量からコアの重量を差し引いた値を用いる。密度はロール表層からフィルムをサンプリングし、臭化リチウム/水からなる無機塩水溶液25℃での密度勾配管により測定した。下記計算式よりフィルム厚みを求める。
T=フィルム重量/(フィルム幅×フィルム長さ×密度)
T:フィルム厚み[μm]。
【0032】
2.エアかみ指数
ポリフェニレンスルフィドフィルムロールの外周長さをロール幅方向の中心位置で巻き尺を用いて測定し、外周より直径を求める。フィルム厚み、フィルム長さは上記1の方法で測定する。エアかみ指数は下記の式で表される。
X=(100π(D−D)/4TL)−100
X:エアかみ指数[%]
D:フィルムロール直径[mm]
:コア直径[mm]
T:フィルム厚み[μm]
L:フィルム長さ[m]。
【0033】
3.フィルムの表面粗さ(中心面平均粗さSRa,最大高さSRmax)
ポリフェニレンスルフィドフィルムロールの表層からサンプリングし、小坂研究所製触針式微細形状測定機ET−4000AKを用い、以下の条件で3回測定し、その平均値を求めた。
測定方向:フィルム長手方向と直行方向
送り方向:フィルム長手方向
触針先端径:2[μm]
触針加重:20[μN]
測定長:0.5[mm]
測定ピッチ:1[μm]
送りピッチ:5[μm]
測定本数:100[本]
低域カットオフ値:0.25[mm]
上記の条件で、粗さ曲面f(x,y)が得られたとき、SRaは下記の式で表される。
【0034】
【数1】

【0035】
lx:測定長[mm]
ly:送りピッチ[μm]×測定本数[本]
S:lx×ly
上記測定範囲の最大の山と最深の谷を平均面と平行な2面で挟み、その間隔を最大高さSRmaxとする。
【0036】
4.不活性粒子の平均粒径
ポリフェニレンスルフィドフィルムロールの表層からサンプリングし、走査型電子顕微鏡の試料台に固定した測定フィルム表面を、スパッタリング装置を用いて真空度10−3Torr、電圧0.25KV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施す。次に、同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡にて10000〜30000倍の写真を撮影する。平均粒径dは、上記写真から100個以上n個の粒子の面積円相当径diを求め、下記式により求める。ここで面積円相当径diは個々の外接円の直径である。
【0037】
【数2】

【0038】
d:平均粒径[μm]
di:面積円相当径[μm]
n:測定粒子個数[個]
5.不活性粒子の添加量
ポリフェニレンスルフィドフィルムロールの表層からサンプリングし、測定フィルムをα−クロロナフタレンに溶解し、熱時に濾過を行って粒子を分離し、フィルム全重量に対する比率(重量%)で表す。また、必要に応じて赤外分光法、蛍光X線法、SEM−XMAを利用して定量することもできる。
【0039】
6.水膜厚み
水膜厚みは,倉敷紡績株式会社製インキ厚・含水率計「RX−220」を用いて測定を行った。
【0040】
7.コンデンサ製造時の走行蛇行量
ポリフェニレンスルフィドフィルムロールの片面に、連続式真空蒸着装置を用い表面抵抗が2Ω/□となるようにアルミニウムを蒸着した(蒸着幅8mm、マージン幅1.0mm)。この蒸着フィルムを蒸着幅4mm、マージン幅0.5mmとなるようにスリットし、リールサンプル2組をマージン部分が外側になるように重ね、径300mmのドラムに30m巻き取り、これを20回積層した。巻回装置の途中に目盛りを取り付け、リールサンプル30mを20回積層する間のフィルム走行中の左右への最大振れ量を蛇行量とし、蛇行量が0.5mm未満であれば優◎、蛇行量が0.5〜1.0mmであれば良○、1.0mm以上であれば不良×とした。
【0041】
8.コンデンサ加工収率
積層後、金属製のバンドをはめ、100Paの圧力で固定した後、200℃のオーブン中で1時間熱処理を行った。その後、リールの両端面にメタリコンを吹き付け、各層を取り外した。それを長さ5mmの大きさに裁断し、メタリコン部分にリード線を取り付けコンデンサを作成した。得られたコンデンサを目視により形状を確認し、シワやズレが発生したものを不合格とし、不合格となったものの数の製造数全体に対する割合を百分率で示し加工性の指標とした(以下、加工収率とする)。加工収率は高いほど好ましく、加工収率が95%以上を優◎、85〜95%であれば良○、85%未満であれば不良×とした。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明をより理解しやすくするために実施例、比較例を示す。
【0043】
(実施例1)
(1)ポリフェニレンスルフィドの作製
50Lオートクレーブ(SUS316製)に水硫化ナトリウム(NaSH)56.25モル、水酸化ナトリウム54.8モル、酢酸ナトリウム16モル、およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)170モルを仕込む。次に、窒素ガス気流下に攪拌しながら内温を220℃まで昇温させ脱水を行った。脱水終了後、系を170℃まで冷却した後、55モルのp−ジクロロベンゼン(p−DCB)と0.055モルの1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)を2.5LのNMPとともに添加し、窒素気流下に系を2.0kg/cmまで加圧封入した。235℃にて1時間、さらに270℃にて2〜5時間攪拌下にて加熱後、系を室温まで冷却、得られたポリマーのスラリーを水200モル中に投入し、70℃で30分間攪拌後、ポリマーを分離する。このポリマーをさらに約70℃のイオン交換水(ポリマー重量の9倍)で攪拌しながら5回洗浄後、約70℃の酢酸リチウムの5重量%水溶液にて窒素気流下にて約1時間攪拌した。さらに、約70℃のイオン交換水で3回洗浄後、分離し、120℃、0.8〜1.0torrの雰囲気下で20時間乾燥することによって白色のポリフェニレンスルフィド粉末が得られた。
次に、このポリフェニレンスルフィド粉末を市販の窒素ガス雰囲気下20〜90℃のNMP(ポリフェニレンスルフィドポリマー重量の3倍量)にて5分間〜1時間の攪拌処理を1〜5回行った。このポリフェニレンスルフィド粉末をさらに約70℃のイオン交換水で4回洗浄した後分離し、上記のようにして乾燥することによって白色のポリフェニレンスルフィド粉末を得た。このポリフェニレンスルフィド粉末の300℃における溶融粘度は5000ポイズであった。
【0044】
(2)ペレットの作製
平均粒径0.6μmの球状シリカ(不活性粒子A)をエチレングリコール中に40重量%微分散させたスラリーを調製した。このスラリーを上述のポリフェニレンスルフィド粉末にヘンシェルミキサを用いてシリカが6.0重量%となるよう混合した。次いで、2個所のベント孔を有する2軸押出機に供給し、溶融混練と同時にベント孔よりエチレングリコールを除去し、ガット状に押出し、水中で冷却後切断して粒子ペレットとした。
平均粒径1.0μmの球状シリカ(不活性粒子B)をエチレングリコール中に40重量%微分散させたスラリーを調製した。このスラリーを上述のポリフェニレンスルフィド粉末にヘンシェルミキサを用いてシリカが1.0重量%となるよう混合した。次いで、2個所のベント孔を有する2軸押出機に供給し、溶融混練と同時にベント孔よりエチレングリコールを除去し、ガット状に押出し、水中で冷却後切断して粒子ペレットとした。
また、ポリフェニレンスルフィド粉末のみを上記同様に溶融押出し、無粒子ペレットとした。
【0045】
(ポリフェニレンスルフィドフィルムロールの作製)
上記の粒子ペレット2種類と無粒子ペレットを平均粒径0.6μmの球状シリカが0.6重量%、平均粒径1.0μmの球状シリカが0.2重量%となるよう混合し、180℃、0.5kPaの減圧下で15時間乾燥した後、押出機に供給し溶融温度330℃で押出し、口金から吐出させた。吐出したポリマーを、表面温度25℃で1.0μmの膜厚の水が均一に塗布された冷却ドラム(ドラム径1000mm)上に、静電印可させながら冷却・固化し、厚み約25μmの未延伸フィルムを得た。
【0046】
得られた未延伸フィルムを表面温度95℃の複数のフリーロールに巻きつけ、延伸区間が250mmとなるようにし、フィルムの長手方向に3.5倍に延伸した。次いで、テンターで100℃の熱風が循環する室内でフィルムの長手と直行方向に3.5倍延伸し、引き続いて260℃の熱風が循環する室内で10秒間定長熱処理して厚さ約2μmのポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。
【0047】
このフィルムを、速度130m/min、巻出張力2.5kg/m、巻取張力3.0kg/m、面圧35kg/m、コンタクトロールとして金属コンタクトロールを用いる条件でスリットし、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.00μm、フィルム長さ:12250m、フィルムロール径:256mm、エアかみ指数:20.7%、SRa:49nm、SRmax:1132nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、走行蛇行量0.2mm、コンデンサ加工収率98%であり、ともに良好な結果となった。
【0048】
(実施例2)
不活性粒子Aを球状炭酸カルシウムに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.01μm、フィルム長さ:4250m、フィルムロール径:203mm、エアかみ指数:23.0%、SRa:52nm、SRmax:1068nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、走行蛇行量0.4mm、コンデンサ加工収率96%であり、ともに良好な結果となった。
【0049】
(実施例3)
不活性粒子Bの添加量を0.3重量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.00μm、フィルム長さ:12250m、フィルムロール径:260mm、エアかみ指数:26.9%、SRa:64nm、SRmax:1260nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、走行蛇行量0.6mm、コンデンサ加工収率91%であり、ともに問題ない結果となった。
【0050】
(比較例1)
不活性粒子Aの平均粒径を0.1μmに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.00μm、フィルム長さ:12250m、フィルムロール径:253mm、エアかみ指数:15.8%、SRa:28nm、SRmax:1027nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、フィルムロールのブロッキングにより、蒸着時フィルム切れを起こし、コンデンサ加工を行うことができなかった。
【0051】
(比較例2)
不活性粒子Aの添加量を1.0重量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.01μm、フィルム長さ:12250m、フィルムロール径:262mm、エアかみ指数:29.4%、SRa:83nm、SRmax:954nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、蒸着時に真空排気を行った際に、フィルムズレが発生し、コンデンサ加工を行うことができなかった。
【0052】
(比較例3)
不活性粒子Bの平均粒径を2.0μmに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:1.96μm、フィルム長さ:12250m、フィルムロール径:252mm、エアかみ指数:16.5%、SRa:55nm、SRmax:1922nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、走行蛇行量0.9mmで問題ない結果であったが、コンデンサ加工時にシワが発生し、コンデンサ加工収率が82%と低い結果になった。
【0053】
(比較例4)
不活性粒子Bの添加量を0.03重量%に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.00μm、フィルム長さ:8500m、フィルムロール径:236mm、エアかみ指数:28.2%、SRa:37nm、SRmax:983nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、走行蛇行量1.5mmと大きく、コンデンサ加工収率も76%と低い結果になった。
【0054】
(比較例5)
不活性粒子Bを使用しないこと以外は実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.02μm、フィルム長さ:12250m、フィルムロール径:253mm、エアかみ指数:14.6%、SRa:43nm、SRmax:705nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、走行蛇行量1.2mmと大きく、コンデンサ加工収率も80%と低い結果になった。
【0055】
(比較例6)
実施例1と同様の原料を用い、未延伸フィルムの厚みを約150μmに調整して、約12μmのポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることを試みたが、フィルム破断により、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得ることができなかった。
【0056】
(比較例7)
冷却ドラムへの水膜付与を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得た。
このポリフェニレンスルフィドフィルムロールの組成、製造条件、評価結果を表1、2に示す。フィルム厚み:2.05μm、フィルム長さ:6000m、フィルムロール径:221mm、エアかみ指数:32.4%、SRa:56nm、SRmax:1119nmであり、このポリフェニレンスルフィドフィルムロールを用いた結果、蒸着時に真空排気を行った際に、フィルムズレが発生し、コンデンサ加工を行うことができなかった。
【0057】
(比較例8)
長手方向の延伸区間を40mmとした以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることを試みたが、フィルム破断により、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得ることができなかった。
【0058】
(比較例9)
スリット時のコンタクトロールとしてゴムロールを用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることを試みたが、スリット中にシワが発生し、ポリフェニレンスルフィドフィルムロールを得ることができなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムは、最近の小型電子機器用のチップコンデンサやハイブリッド自動車用のフィルムコンデンサ用などに好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム厚みが10μm以下のポリフェニレンスルフィドフィルムからなるロールであって、明細書中で定義するエアかみ指数X[%]が式1、式2を満足することを特徴とするコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロール。
(式1) (−2.5×10−4×L)+22<X<(−2.5×10−4×L)+32
(式2) (−3.44×10−2×D)+26<X<(−3.44×10−2×D)+36
L:フィルム長さ[m]
D:フィルムロール直径[mm]
【請求項2】
フィルム表面の表面粗さパラメータSRaが30〜80nm、SRmaxが1000〜1300nmである請求項1記載のコンデンサ用ポリフェニレンスルフィドフィルムロール。

【公開番号】特開2009−35575(P2009−35575A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198580(P2007−198580)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】