説明

コンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板

【課題】絞り及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜が割れることなく、アルミニウム合金板と樹脂塗膜との間で剥離が生じず、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生しないコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板を提供すること。
【解決手段】基板と化成皮膜と樹脂塗膜とよりなる。樹脂塗膜は、(a)数平均分子量が30000〜80000、塗膜のFT−IR分析において830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と、(b)数平均分子量が7000〜30000、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と、(c)アミノ樹脂とを含有する樹脂混合物の硬化物。(a)、(b)、(c)の合計含有量を100質量部とした場合、(a)を70〜98質量部、(b)を0〜20質量部、(c)を2〜20質量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り及びしごき加工が施されるコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム電解コンデンサの多くは、アルミニウム合金板を絞り及びしごき加工にて成形した有底円筒形のケース内に、電解液を含浸させたコンデンサ素子を収納し、開口部をゴム等で封口し、さらに外周面に電気絶縁や内容物表示を目的とした塩化ビニル樹脂やオレフィン樹脂等の熱収縮性チューブで被覆した構成になっていた。
近年、電子部品の小型化が進んでおり、アルミニウム電解コンデンサも同様に小型化が進んでいる。アルミニウム電解コンデンサを小型化するため、表面実装用のリード線を無くしたチップタイプのコンデンサが実用化されているが、このような小型のアルミニウム電解コンデンサでは、熱収縮性チューブの被覆が極めて困難である。
【0003】
そのため、熱収縮性チューブを被覆する工程を省略する方法として、アルミニウム合金板に、ポリエステル又はポリアミド等の樹脂フィルムをラミネートすることにより、あるいは、熱硬化性樹脂等の樹脂を含有する樹脂塗膜形成用塗料を、アルミニウム合金板に塗布して、該アルミニウム合金板の表面に樹脂塗膜を形成させることにより、予め樹脂が被覆された樹脂被覆アルミニウム合金板を得、次いで、樹脂被覆アルミニウム合金板を絞り及びしごき加工する方法が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1には、金属板の少なくとも片面に、接着剤より構成される接着層を介して樹脂フィルムを被覆した樹脂フィルム被覆金属板であって、前記接着剤は、メラミン系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤の中から選ばれた少なくとも1種で構成され、前記樹脂フィルムは、20〜90%の結晶化度を有し、更に、前記接着層と接する面での前記樹脂フィルムの複屈折率が0.005未満であって、かつ、前記樹脂フィルム最表面から5μmの深さにおける前記樹脂フィルムの複屈折率が0.005以上であるポリエステル系樹脂で構成されている樹脂フィルム被覆金属板が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるベース材と、前記ベース材の表面に設けられたワックス含有樹脂との塗膜とを具備するコンデンサ用ケース材料が示されている。
【0006】
また、特許文献3には、アルミニウム合金板上に化成皮膜が設けられ、その上に、樹脂塗膜が設けられた樹脂被覆アルミニウム合金板において、樹脂塗膜が、エポキシを主成分として、フェノール系、アクリル系、ウレタン系、尿素系の群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上を添加したものからなり、潤滑剤を樹脂100重量部に対し0.1〜10重量部含有し、この樹脂塗膜の引張強度が40N/mm2以上でかつ伸びが2%以上であり、樹脂塗膜の厚さが3〜10μmである電気電子部品用樹脂被覆アルミニウム合金板が示されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2のコンデンサ用ケース材料や、特許文献3の電気電子部品用樹脂被覆アルミニウム合金板は、上記特許文献1の樹脂フィルム被覆金属板に比べ、製造コストが低いものの、絞り及びしごき加工性が悪いため、加工時に、樹脂塗膜の割れや剥離が生じるという問題、あるいは、加工時には樹脂塗膜の割れや剥離が生じなくても、高温多湿環境に曝されると、樹脂塗膜の割れや剥離が生じるという問題があった。
【0008】
一方、上記特許文献1の樹脂フィルム被覆金属板を製造するためには、樹脂原料をフィルム状に加工する工程が必要なため、上記特許文献2のコンデンサ用ケース材料や、特許文献3の電気電子部品用樹脂被覆アルミニウム合金板よりも製造コストが割高になるという問題があった。
【0009】
また、近年、製造コストの削減のために、樹脂被覆アルミニウム合金の樹脂被覆層の厚さを小さくすることが行われるようになった。ところが、上記特許文献1の樹脂フィルム被覆金属板では、厚さが6μm程度以下の樹脂フィルムを製造することができないか、又は6μm程度以下にすることができたとしても、製造コストが極めて高くなるため、実質上樹脂フィルムの製造ができないに等しかった。
【0010】
これに対して、特定の物性を有するポリエステル樹脂に、エポキシ樹脂、及びアミノ樹脂を組み合わせ、それらを特定の配合割合で含有させた樹脂塗膜形成用塗料を用いて樹脂塗膜を形成させ絞り及びしごき加工用樹脂被覆アルミニウム合金板が報告されている(特許文献4)。これにより、絞り及びしごき加工時に樹脂塗膜の割れや剥離が生じ難く、且つ従来想定していた高温多湿環境に曝されても樹脂塗膜の割れや剥離が生じ難いものとすることができた。
【0011】
しかし、近年では、コンデンサは東南アジア等の熱帯地域にも普及してきており、従来よりも過酷な環境で使用されることになるため、高温多湿環境に曝された際の樹脂塗膜の割れや剥離に対する要求がさらに厳しくなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−122765号公報
【特許文献2】特開平10−199768号公報
【特許文献3】特開2005−171330号公報
【特許文献4】特開2007−237542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、絞り及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜が割れることなく、アルミニウム合金板と樹脂塗膜との間で剥離が生じず、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生しないコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜とよりなり、
該樹脂塗膜は、(a)数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と、(b)数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と、(c)アミノ樹脂とを含有する樹脂混合物の硬化物であり、
上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、及び上記(c)アミノ樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部含有することを特徴とするコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0015】
上記コンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板(以下、適宜、樹脂被覆アルミニウム合金板という)は、上記特定の物性を有するエポキシ樹脂に、ポリエステル樹脂やアミノ樹脂を組み合わせ、それらを特定の配合割合で含有させた樹脂混合物を用いて形成した樹脂塗膜を有する。これにより、絞り及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜が割れることなく、アルミニウム合金板と樹脂塗膜との間で剥離が生じず、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生しないコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板とすることができる。
【0016】
上記樹脂混合物は、(a)数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と、(b)数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と、(c)アミノ樹脂とを含有する。
【0017】
上記(a)エポキシ樹脂を用いることにより、アルミニウム合金板との密着性が向上し、成形加工時に塗膜が割れることなく、アルミニウム合金板とのあいだで剥離が生じず、また、成形加工後、より過酷な環境においても樹脂塗膜の剥離や変質が生じ難くなり、また、基板が腐食しないという効果を付与することができる。
【0018】
また、上記(b)ポリエステル樹脂を用いることにより、樹脂皮膜の伸びが増加し、かつ、後述するブロッキング性能が良好になる。
また、上記(c)アミノ樹脂を用いることにより、樹脂塗膜の硬化が促進され、加工成形後、塗膜が割れ難くなり、また、過酷な環境においても樹脂塗膜が軟化し難くなる。
【0019】
そして、上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、及び上記(c)アミノ樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部含有する。
【0020】
このような配合割合にすることにより、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、及び上記(c)アミノ樹脂のそれぞれより得られる効果を調整し、良好な絞り及びしごき加工性が得られ、加工時の樹脂塗膜の割れや剥離を防ぎ、特に、従来よりも、高温多湿環境に曝された際の樹脂塗膜の割れや剥離を生じ難くすることができる。
【0021】
上記樹脂被覆アルミニウム合金板は、上記基板と上記樹脂塗膜との間に上記化成被膜を介在させることにより、上記基板と上記樹脂塗膜とを良好に密着させることができ、上述の優れた効果を発揮する上記樹脂塗膜の割れ又は剥離を、より発生し難くすることができる。
【0022】
また、本発明のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板は、該樹脂塗膜を形成させることにより製造されるので、上述の特許文献1のコンデンサ用ケース材料に比べ、製造コストが低く、また、樹脂被覆層の厚みを小さくすることができる。
また、本発明のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板は、上記特許文献2のコンデンサ用ケース材料や、特許文献3の電気電子部品用樹脂被覆アルミニウム合金板に比べ、絞り及びしごき加工時に、樹脂塗膜の割れ又は剥離が発生し難く、且つ高温多湿環境に曝された時に、該樹脂塗膜の割れ又は剥離が発生し難い。
また、本発明のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板は、特許文献4の絞り及びしごき加工用樹脂被覆アルミニウム合金板に比べ、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生し難い。
【0023】
このように、本発明によれば、絞り及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜が割れることなく、アルミニウム合金板と樹脂塗膜との間で剥離が生じず、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生しないコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板は、上述したように、アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜とよりなる。
【0025】
本発明において、アルミニウム合金板とは、純アルミニウム又はアルミニウム合金のいずれかよりなる板である。また、上記アルミニウム合金板としては、アルミニウム電解コンデンサの有底円筒形のケースの製造に用いられるアルミニウム合金であれば、特に限定されず、有底円筒形のケースの形状により、適宜選択することができる。
【0026】
また、上記化成皮膜としては、上記基板に、樹脂塗膜を被覆するための下地、すなわち、上記樹脂塗膜を形成させるための下地として、通常用いられている化成皮膜であれば、特に制限されない。
上記化成皮膜としては、例えば、アルカリ−クロム酸塩系、クロム酸塩系、リン酸−クロム酸塩系、リン酸亜鉛系、非クロム酸塩系、酸化皮膜系等が挙げられ、更に具体的には、アルミニウムの酸化物及びクロムの酸化物の混合皮膜、リン酸クロム及びリン酸アルミニウムの混合皮膜、リン酸亜鉛皮膜、酸化アルミニウム及びリン酸エステルの混合皮膜、クロムの酸化物及びポリアクリル酸樹脂の混合皮膜、アルミニウムの水和酸化物皮膜等が挙げられる。
【0027】
上記化成皮膜を形成する方法としては、上記アルミニウム合金板に樹脂塗膜を形成させるための下地としての化成皮膜の形成に用いられる方法であれば、特に制限されない。例えば、圧延等により得られたアルミニウム合金板の表面を、中性洗剤、弱酸性洗剤、弱アルカリ性洗剤又は脱脂剤等で洗浄するか、あるいは、エッチング処理して、上記圧延等により得られたアルミニウム合金板の表面に付着している潤滑油等の油脂分を除去し、次いで、得られた脱脂アルミニウム合金板の表面を、皮膜処理することにより、アルミニウム合金板の表面に化成皮膜を形成させる方法等が挙げられる。
【0028】
化成皮膜を形成させる処理としては、リン酸、無水クロム酸、フッ化水素を含有する処理液に、上記脱脂アルミニウム合金板を浸漬するクロム酸クロメート処理や、ジルコニウム化合物又はチタン化合物を主とする化合物を含有する処理液に、上記脱脂アルミニウム合金板を浸漬する処理や、有機樹脂及び金属塩を含有する処理液を、上記脱脂アルミニウム合金板に塗布・乾燥する塗布型処理等が挙げられる。
【0029】
また、上記樹脂塗膜は、(a)数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と、(b)数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と、(c)アミノ樹脂とを含有する樹脂混合物の硬化物である。
【0030】
上記(a)エポキシ樹脂は、エポキシ基を有する樹脂、又はエポキシ基を有する樹脂のエポキシ基若しくは水酸基に、各種変性剤を反応させて得られる変性エポキシ樹脂である。
上記(a)エポキシ樹脂としては、具体的に、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、又はノボラック型エポキシ樹脂、あるいは、ビスフェノール型エポキシ樹脂又はノボラック型エポキシ樹脂中のエポキシ基又は水酸基に、各変性剤を反応させて得られる変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、下記化学式(1)に示すような、エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物との縮合物である。なお、上記化学式(1)には、上記エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物との縮合物のうち、ビスフェノール化合物がビスフェノールAの場合を示した。ビスフェノール型エポキシ樹脂は、例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物とを、必要に応じてアルカリ触媒等の触媒の存在下、高分子量まで縮合させることにより、あるいは、エピクロルヒドリンとビスフェノール化合物とを、必要に応じてアルカリ触媒等の触媒の存在下、縮合させて低分子量物を得、次いで、該低分子量物とビスフェノール化合物とを重付加反応させることにより得られる。
【0032】
【化1】

【0033】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂に係るビスフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン:ビスフェノールF、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン:ビスフェノールB、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチルフェニル)−2,2−プロパン、p−(4−ヒドロキシフェニル)フェノール、オキシビス(4−ヒドロキシフェニル)、スルホニルビス(4−ヒドロキシフェニル)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン等が挙げられる。
【0034】
そして、上記(a)エポキシ樹脂は、数平均分子量が30000〜80000である。
数平均分子量が30000未満のエポキシ樹脂を用いる場合には、塗膜が過剰に硬化して、柔軟性が低下するという問題がある。一方、数平均分子量が80000を超えるエポキシ樹脂を用いる場合には、塗膜の硬化が不十分となり、過酷環境に対する抵抗が低下し、塗膜の劣化、変色が発生するという問題がある。
【0035】
また、上記(a)エポキシ樹脂は、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10である。
830cm-1の吸収は、ビスフェノールAの吸収を示す。また、750cm-1の吸収は、ビスフェノールFの吸収を示す。
【0036】
上記ビスフェノールAは、レトルト性の面で有効であり、上記ビスフェノールFは、成形性の面で有効である。
そして、上記h2/h1が、0.1〜10である場合に、レトルト性と成形性の両者を満足することができる。
上記h2/h1が0.1未満である場合には、成形加工において、塗膜割れが発生し、成形性を確保することができない。一方、上記h2/h1が10を超える場合には、過酷環境において塗膜が劣化し、変色が発生し、レトルト性を確保することができない。
【0037】
上記(b)ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとのエステル化物である。
上記多塩基酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、イタコン酸、ダイマー酸等の二塩基酸が挙げられる。上記二塩基酸は、1種を単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0038】
また、上記多塩基酸は、上記二塩基酸と、トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、ピロメリット酸等の三価以上の多塩基酸との組合せであってもよい。
また、上記ポリエステル樹脂は、上記多塩基酸に加えて、必要に応じて、安息香酸、クロトン酸、p−t−ブチル安息香酸等の一塩基酸が、併用されていてもよい。
【0039】
また、上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等の二価アルコールが挙げられる。上記二価アルコールは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、上記多価アルコールは、上記二価アルコールと、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の三価以上の多価アルコールとの組合せであってもよい。
【0041】
上記(b)ポリエステル樹脂を製造する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、上記多塩基酸又は必要に応じて併用される一塩基酸と、上記多価アルコールとを、公知の方法によりエステル化させる方法、あるいは、上記多塩基酸の低級アルコールエステル又は必要に応じて併用される上記一塩基酸の低級アルコールエステルを、上記多価アルコールで公知の方法によりエステル交換する方法が挙げられる。
【0042】
また、上記(b)ポリエステル樹脂は、数平均分子量が7000〜30000である。
数平均分子量が7000未満のポリエステル樹脂を用いる場合には、樹脂塗膜の伸びが少なくなるため、樹脂塗膜の密着性が低くなり、樹脂剥離しやすくなるという問題がある。一方、ポリエステル樹脂の数平均分子量が30000を超えるポリエステル樹脂を用いる場合には、樹脂塗膜形成用塗料の溶媒として有機溶媒を用いる場合は、ポリエステル樹脂が有機溶媒に溶解し難いため、樹脂塗膜を形成することが困難になるという問題がある。(b)ポリエステル樹脂の数平均分子量は、好ましくは、8000〜20000である。
【0043】
また、上記(b)ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が−20℃以上である。
ガラス転移温度が−20℃未満のポリエステル樹脂を用いる場合には、アルミニウム合金板の片面に樹脂塗膜を形成させた後、得られた樹脂被覆アルミニウム合金板をコイルに巻き取る場合、樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜が、接触する無塗装面のアルミニウム合金板に貼り付く、すなわち、ブロッキング性能が悪くなるという問題がある。
上記(b)ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは−20〜80℃であり、より好ましくは−10〜40℃である。
【0044】
ここで、上記ブロッキング性能について説明する。ブロッキング性とは、片面に樹脂塗膜が形成されている2枚の樹脂被覆アルミニウム合金板を、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜が形成されていないアルミニウム合金板面(ベア面)とが接触するように重ね合わせた時の、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板のベア面との貼り付き難さを指す。そして、樹脂被覆アルミニウム合金板のブロッキング性能が良好であるとは、重ね合わせ後に、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板のベア面とが貼り付かない場合を指す。樹脂被覆アルミニウム合金板のブロッキング性能が不良であるとは、重ね合わせ後に、一方の樹脂被覆アルミニウム合金板の樹脂塗膜と、他方の樹脂被覆アルミニウム合金板のベア面とが貼り付く場合を指す。製造ラインにおいては、通常、製造後の樹脂被覆アルミニウム合金板をコイルに巻き取りながら、樹脂被覆アルミニウム合金板の製造が行われるため、コイルに巻き取りながら製造される樹脂被覆アルミニウム合金板においては、ブロッキング性能が良好であることは、必須である。
【0045】
(c)アミノ樹脂は、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ基を有するアミノ化合物とアルデヒドとの付加縮合反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂、又はメチロール化アミノ樹脂をエーテル化したアルキルエーテル化メチロールアミノ樹脂である。
【0046】
上記メチロール化アミノ樹脂に係るアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。上記アルキルエーテル化メチロールアミノ樹脂において、上記メチロール化アミノ樹脂のエーテル化に用いられるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0047】
上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、及び上記(c)アミノ樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部含有する。
【0048】
上記(a)エポキシ樹脂の含有量が70質量部未満の場合には、高温多湿環境に曝された時に、塗膜が変質しやすくなって、変色の原因となる。一方、上記(a)エポキシ樹脂の含有量が98質量部を超える場合には、塗膜の硬化が不十分となり、成形時の塗膜の割れが生じ易くなって、高温多湿環境に曝された時に、素地のアルミニウムが腐食し、変色の原因となる。(a)エポキシ樹脂の含有量は、好ましくは80〜95質量部である。
【0049】
また、上記合計含有量を100質量部とした場合の、上記(b)ポリエステル樹脂の含有量が20質量部を超える場合には、高温多湿環境に曝された時の変色が生じやすい。
また、上記(b)ポリエステル樹脂は、含有しなくてもよいが、樹脂塗膜の加工性の面から、1質量部以上含有させることが好ましい。(b)ポリエステル樹脂の含有量は、好ましくは、1〜10質量部である。
【0050】
また、上記(c)アミノ樹脂の含有量が2質量部未満の場合には、樹脂塗膜の硬化が不十分となり、高温高湿環境に曝された時に、樹脂塗膜の割れ又は溶融が生じるという問題がある。一方、上記(c)アミノ樹脂の含有量が20質量部を超える場合には、塗膜の硬化が過剰となって柔軟性が低下し、絞り及びしごき加工時に、樹脂塗膜の割れ又は剥離が生じるという問題がある。上記(c)アミノ樹脂の含有量は、好ましくは2〜10質量部である。
【0051】
また、上記コンデンサ有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板は、上記樹脂混合物を100質量部とした場合に、上記樹脂塗膜に、さらに、ポリエチレンワックス0.1〜10質量部、カルナウバワックス0.1〜10質量部、あるいはマイクロクロスタリンワックス0.1〜10質量部のうち1種又は2種以上を含有することが好ましい(請求項3)。
【0052】
この場合には、樹脂塗膜の剥離を防止しつつ、加工時の樹脂塗膜の割れをより起こり難くすることができる。
上述の各々のワックスの含有量が、上記範囲の下限を下回る場合には、特段の割れ防止効果を十分に得ることができないおそれがある。一方、上記範囲の上限を上回る場合には、塗膜剥離が生じ易くなるおそれがある。
【0053】
また、硬化前の該樹脂混合物は、必要に応じて、硬化促進剤、顔料、顔料分散剤、可塑剤、着色剤、塗膜調整剤、改質剤等の各種添加剤を含有することができる。
上記硬化促進剤としては、リン酸、スルホン酸化合物、スルホン酸化合物のアミン中和物等が挙げられる。
【0054】
また、上記顔料としては、例えば、二酸化チタン、亜鉛華、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ粉末、アエロジル、カーボンブラック、アルミペースト等の無機顔料、及び各種有機顔料が挙げられる。
また、上記塗膜調製剤としては、樹脂塗膜の平滑性を向上させる表面平滑剤、潤滑剤、揺変剤、消泡剤、樹脂塗膜のピンホールやはじきを防止する界面活性剤等が挙げられる。
【0055】
また、上記樹脂塗膜の厚みは、特に制限されるものではないが、アルミニウム電解コンデンサの有底円筒形のケースの製造に用いられるため、通常、1〜20μm、好ましくは5〜10μmである。
【0056】
また、上記コンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板の上記樹脂塗膜は、上記樹脂混合物を含有する樹脂塗膜形成用塗料を上記化成皮膜の表面上に塗装し、次いで、焼付けを行うことにより形成されることが好ましい(請求項2)。
【0057】
この場合には、上記樹脂塗膜は、上記樹脂塗膜形成用塗料を、基板の表面上に形成された化成皮膜の表面に塗装し、次いで、焼付けることにより、上記樹脂塗膜形成用塗料中の溶媒を蒸発させると共に、上記エポキシ樹脂、上記ポリエステル樹脂、及び上記アミノ樹脂を含有する樹脂混合物を熱硬化させて形成される。
【0058】
上記樹脂塗膜形成用塗料は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、及び上記(c)アミノ樹脂を含有する樹脂混合物を含有する。また、上記樹脂塗膜形成用塗料は、必要に応じて、上述したように、ポリエチレンワックス、カルナウバワックス、マイクロクロスタリンワックスや、上記添加剤と同様の添加剤を各種含有していてもよい。そして、上記樹脂塗膜形成用塗料は、上記樹脂混合物、並びに必要に応じて含有される上記添加剤を、溶媒に混合して、該溶媒中に、溶解又は分散させることにより調製される。
上記樹脂塗膜形成用塗料中の上記樹脂混合物の含有量、すなわち、固形分濃度は、20〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜50質量%である。
【0059】
上記樹脂塗膜形成用塗料に用いられる溶媒は、水又は有機溶媒である。
上記有機溶媒としては、特に制限されるものではないが、樹脂の溶解性、金属面へ塗布した場合の蒸発速度を考慮して適宜選択される。上記有機溶剤としては、具体的には、例えば、キシレン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150、ブチルセロソルブ、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレングリコールアセテート、メタノール、エタノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
また、上記溶媒は、1種類を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記溶媒の沸点は、好ましくは60〜230℃、特に好ましくは80〜200℃である。
また、樹脂塗膜形成用塗料の溶媒として、水を用いる場合は、ポリエステル樹脂が水溶媒に分散はするが、樹脂混合物が硬化し難くなるおそれがある。
【0060】
上記樹脂塗膜形成用塗料を、化成皮膜の表面に塗装する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、バーコート法、ロールコート法、スプレー法、浸漬法等が挙げられる。
【0061】
樹脂塗膜形成用塗料を化成皮膜の表面に塗装した後、上記樹脂塗膜形成用塗料が塗布されている基板を加熱して、焼付けを行うが、この焼付けを行う際の加熱温度は、溶媒が蒸発し、且つ、上記樹脂混合物が熱硬化する温度であれば特に制限されない。上記加熱温度は、通常、150〜300℃、好ましくは220〜260℃である。また、上記焼付けを行う際の加熱時間は、30〜180秒、好ましくは40〜100秒である。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
本例は、本発明のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板にかかる実施例として10種類のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板(試料E1〜試料E10)を作製し、比較例として10種類のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板(試料C1〜試料C10)を作製し、評価を行った。
【0063】
本例のコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板(試料E1〜試料E10)は、アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜とよりなり、
該樹脂塗膜は、(a)数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と、(b)数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と、(c)アミノ樹脂とを含有する樹脂混合物の硬化物であり、
上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、及び上記(c)アミノ樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部含有する。
【0064】
コンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板の作製方法について説明する。
まず、厚さ0.26mm、幅200mm、長さ300mmのA3003−H34からなるアルミニウム合金板を準備した。
また、樹脂塗膜を構成するエポキシ樹脂として、表1に示す8種類のエポキシ樹脂A〜Hを用意した。
また、樹脂塗膜を構成するポリエステル樹脂として、表2に示す5種類のポリエステル樹脂a〜eを用意した。
また、樹脂塗膜を構成するアミノ樹脂として、スミマールM−40S(住友化学工業社製)を準備した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
なお、樹脂の数平均分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)を用いた。また、樹脂のガラス転移温度の測定には、示差走査熱量計を用いて、20℃/分の昇温速度で測定した。
【0068】
まず、上記アルミニウム合金板を、市販の弱アルカリ性脱脂剤ファインクリーナー4377(日本パーカライジング製、10g/L、65℃)に、1分間浸漬した後、上水で水洗して、脱脂した。次いで、アルサーフ401(日本ペイント社製)30gとアルサーフ41(日本ペイント社製)3gの混合液に、上水を加え、全量を1リットルとした、42℃の溶液に、脱脂したアルミニウム合金板を、20秒間浸漬することにより、リン酸クロメート処理を行い、化成皮膜が形成されたアルミニウム合金板を得た。このとき、リン酸クロメート処理の目付け量を、クロム量で15mg/m2とした。
【0069】
その後、表3に示す配合量で、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂を混合した樹脂混合物を、溶媒としてキシレンを用いて溶解した樹脂塗膜形成用塗料を得た。次に、この樹脂塗膜形成用塗料を化成皮膜が形成されたアルミニウム合金板の一方の面に、バーコート法により塗布し、電気炉中260℃で1分間加熱した後、炉から取り出し、放冷し、樹脂被覆アルミニウム合金板(試料E1〜試料E10、試料C1〜試料C10)を得た。このとき、加熱後の樹脂塗膜の膜厚が6μmになるようにバーの番手を選定した。
【0070】
【表3】

【0071】
次に、得られた樹脂被覆アルミニウム合金板について、ブロッキング試験、絞り及びしごき加工試験、レトルト試験を行い、特性を評価した。結果を表4に示す。
<ブロッキング試験>
ブロッキング試験は、樹脂被覆アルミニウム合金板5枚を、50mm×50mmに切断し、樹脂塗膜の形成面とベア面が重なるように、重ね合わせ、その上から、1kgの荷重をのせた状態で、50℃、90%RHの環境に3日間保管した後、板同士の貼り付きを観察した。荷重を除いた時、5枚全ての板において貼り付きがなければ、ブロッキング性能は良好とし、1枚でも貼り付いていた場合には、ブロッキング性能は不良とした。
【0072】
<絞り及びしごき加工試験>
絞り及びしごき加工試験は、上記のようにして得られた樹脂被覆アルミニウム合金板を直径140mmの円形にカットし、次いで、該樹脂被覆アルミニウム合金板の両面に、プレス油G−6284M(日本工作油社製)を塗布し、樹脂塗膜の形成面が外面になるようにして、絞り及びしごき成形機をしようして絞り及びしごき加工を実施し、直径65mm、高さ135mmの円筒形に成形した。しごき率は50%とした。
成形したプレス油は、トリクレン蒸気中に10分間暴露することにより脱脂した。
【0073】
絞り及びしごき加工後の樹脂塗膜を倍率100倍の顕微鏡で観察し、端部から5mm以内の樹脂塗膜に割れ及び剥離のいずれも観察されなかった場合を評価「○」、樹脂塗膜に割れが観察された場合を評価「×(割れ)」、樹脂塗膜に剥離が観察された場合を評価「×(剥離)」とした。また、加工時に樹脂被覆アルミニウム合金板が破断した場合を評価「×(破断)」とした。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とする。
【0074】
<レトルト試験>
レトルト試験は、上記絞り及びしごき加工試験後のプレス品を、蒸気窯中、121℃の水蒸気に、16日間暴露した。レトルト試験後の樹脂塗膜の変色、及び倍率100倍の顕微鏡で観察し、樹脂塗膜の剥離が観察されなかった場合を合格(評価「○」)、樹脂塗膜に変色、及び剥離が観察された場合、又は割れの拡大が観察された場合を不合格(評価「×」)とした。
【0075】
【表4】

【0076】
表4より知られるごとく、実施例としての試料E1〜試料E10は、ブロッキング試験、絞り及びしごき加工試験、レトルト試験のいずれの項目においても、良好な結果を示した。
これにより、本発明によれば、絞り及びしごき加工性が良好であり、加工時に樹脂塗膜が割れることなく、アルミニウム合金板と樹脂塗膜との間で剥離が生じず、加工成形後、過酷な環境においても塗膜劣化及び下地アルミニウムの腐食が発生しないコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板を提供することができることが分かる。
【0077】
また、表4より知られるごとく、比較例としての試料C1は、(a)エポキシ樹脂の数平均分子量が本発明の下限を下回り、また、h2/h1が本発明の下限を下回るため、絞り及びしごき加工試験で塗膜剥離が発生し、レトルト試験で変色を生じた。
また、比較例としての試料C2は、(a)エポキシ樹脂のh2/h1が本発明の上限を上回るため、レトルト試験で塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0078】
また、比較例としての試料C3は、(a)エポキシ樹脂の数平均分子量が本発明の上限を上回るため、塗膜の硬化が不十分となり、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で、塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0079】
また、比較例としての試料C4は、(c)アミノ樹脂の含有量が本発明の上限を上回るため、塗膜の柔軟性が低下し、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、レトルト試験でアルミニウム素地が腐食し、変色を生じた。
また、比較例としての試料C5は、(b)ポリエステル樹脂の含有量が本発明の上限を上回るため、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0080】
また、比較例としての試料C6、試料C8は、(a)エポキシ樹脂の含有量が本発明の下限を下回るため、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で、塗膜が劣化し、変色を発生した。
また、比較例としての試料C7は、(a)エポキシ樹脂の含有量が本発明の上限を上回り、また、(c)アミノ樹脂の含有量が本発明の下限を下回るため、塗膜の効果が不十分となり、絞り及びしごき加工試験で、塗膜剥離が生じ、過酷環境に対する抵抗が低下し、レトルト試験で、塗膜が劣化し、変色を発生した。
【0081】
また、比較例としての試料C9は、(a)エポキシ樹脂の数平均分子量が本発明の下限を下回り、また、(b)ポリエステル樹脂の数平均分子量が本発明の上限を上回り、かつガラス転移点が本発明の下限を下回るため、塗装時に樹脂塗膜と反対面のベア面とが貼り付き、ブロッキング性能が不合格となった。また、レトルト試験で変色を生じた。
また、比較例としての試料C10は、(b)ポリエステル樹脂の数平均分子量が本発明の下限を下回るため、塗膜の柔軟性が低下し、絞り及びしごき加工試験で、塗膜割れが生じ、レトルト試験でアルミニウム素地が腐食し、変色を生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板よりなる基板と、該基板の表面上に形成された化成皮膜と、該化成皮膜の表面上に形成された樹脂塗膜とよりなり、
該樹脂塗膜は、(a)数平均分子量が30000〜80000であると共に、塗膜のFT−IR分析において、830cm-1の吸光度h1、750cm-1の吸光度h2の比h2/h1が、0.1〜10であるエポキシ樹脂と、(b)数平均分子量が7000〜30000であると共に、ガラス転移温度が−20℃以上であるポリエステル樹脂と、(c)アミノ樹脂とを含有する樹脂混合物の硬化物であり、
上記樹脂混合物は、上記(a)エポキシ樹脂、上記(b)ポリエステル樹脂、及び上記(c)アミノ樹脂の合計含有量を100質量部とした場合に、上記(a)エポキシ樹脂を70〜98質量部、上記(b)ポリエステル樹脂を0〜20質量部、上記(c)アミノ樹脂を2〜20質量部含有することを特徴とするコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1において、上記樹脂塗膜は、上記樹脂混合物を含有する樹脂塗膜形成用塗料を上記化成皮膜の表面上に塗装し、次いで、焼付けを行うことにより形成されることを特徴とするコンデンサ用有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記樹脂混合物を100質量部とした場合に、上記樹脂塗膜に、ポリエチレンワックス0.1〜10質量部、カルナウバワックス0.1〜10質量部、あるいはマイクロクロスタリンワックス0.1〜10質量部のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とするコンデンサ有底円筒形ケース用樹脂被覆アルミニウム合金板。

【公開番号】特開2009−262538(P2009−262538A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25798(P2009−25798)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(592215435)株式会社ティ−アンドケイ東華 (12)
【Fターム(参考)】