説明

コンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置

【課題】手動モードに切り換えた場合において、刈取前処理装置を目標高さにセットすることを容易にする。
【解決手段】走行機体に対して昇降駆動手段を介して昇降駆動する刈取前処理装置の上昇行程では、第1の設定高さ位置にて刈取クラッチをONからOFFに切換え、刈取前処理装置の下降行程では、前記第1設定高さ位置より低い第2の設定高さ位置にて刈取クラッチをOFFからONに切換えるように制御する昇降・駆動制御装置と、前記昇降・駆動制御を自動モードと手動モードとに切り換えるモード切換手段とを備え、モード切換手段を手動モードに切り換えた場合において(S12)、少なくとも刈取前処理装置の下降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく下降操作する(S27)ための微調整用切換手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに係り、より詳しくは、刈取前処理装置を自動モード及び手動モードにて昇降させて、刈取り脱穀作業を実行するようにしたコンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1等において、刈取脱穀作業時には、刈取前処理装置を、予め設定された所定刈高さ(第2設定高さ)まで下降させると自動的に刈取クラッチがONするようにし、また、1行程で刈取を終了しても、その刈り取られた穀稈を脱穀部まで搬送する間、当該刈取前処理装置を駆動させておく必要があることから、刈取前処理装置を前記刈高さ以上の所定高さ(第1設定高さ)まで上昇させた時には自動的に刈取クラッチをOFFするというオートクラッチ制御を実行して、圃場での刈取脱穀作業を迅速に実行することが提案されている。
【0003】
また、この刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置には、3位置検出型の手動スイッチを接続して、この手動スイッチを上昇位置側もしくは下降位置側に操作している間だけ、予め設定された昇降速度にて刈取前処理装置が昇降動作するという、手動モードに入るように構成されている。
【特許文献1】特開平7−274650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、前記の昇降・駆動制御装置では、手動モードにおいて、前記予め設定された所定刈高さ位置での刈取クラッチのON乃至はOFFの制限が外されるから、手動モードでは、前記手動スイッチによる刈取前処理装置の昇降操作と刈取クラッチのON・OFFのための操作とをほぼ同時に実行しなくてはならず、操作が煩わしいという問題があった。
【0005】
さらに、畦際に沿った部分や圃場の隅部での刈取作業では、刈取前処理装置の側部下端が畦側面等に衝突しない状態で穀稈を刈取り作業を実行しなければならない。この場合、刈取前処理装置の下降行程時における刈取クラッチがOFFからONに切り換える第2設定高さよりも、刈取前処理装置の上昇行程時における刈取クラッチがONからOFFに切り換える第1設定高さは高い位置とすべきであり、しかもこれら第1設定高さ及び第2設定高さは各々、前記通常のオートクラッチ制御(自動モード)時における第1設定高さ及び第2設定高さとは異ならせる必要があり、従来の技術では、前記手動モードにて作業者(オペレータ)の勘に頼って昇降操作と刈取クラッチのON・OFFを実行していた。
【0006】
本発明では、前記従来技術の問題点に鑑み、手動モードにおいても、前記第1設定高さ及び第2設定高さをセットできるようにして、圃場状況に応じた刈取脱穀作業を効率良く行えるコンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の発明のコンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置は、刈取前処理装置を走行機体に対して昇降駆動手段を介して昇降駆動すると共に、エンジンからの動力を刈取クラッチを介して刈取前処理装置に伝達するように構成してなるコンバインにおいて、刈取前処理装置の上昇行程では、第1の設定高さ位置にて刈取クラッチをONからOFFに切換え、刈取前処理装置の下降行程では、前記第1設定高さ位置より低い第2の設定高さ位置にて刈取クラッチをOFFからONに切換えるように制御する昇降・駆動制御装置と、前記昇降・駆動制御を自動モードと手動モードとに切り換えるモード切換手段とを備え、前記モード切換手段を手動モードに切り換えた場合において、少なくとも刈取前処理装置の下降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく下降操作するための微調整用切換手段を設けたものである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置において、前記微調整用切換手段は、前記モード切換手段を手動モードに切り換えた場合において、刈取前処理装置の昇降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく昇降操作するものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明のコンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置は、刈取前処理装置を走行機体に対して昇降駆動手段を介して昇降駆動すると共に、エンジンからの動力を刈取クラッチを介して刈取前処理装置に伝達するように構成してなるコンバインにおいて、刈取前処理装置の上昇行程では、第1の設定高さ位置にて刈取クラッチをONからOFFに切換え、刈取前処理装置の下降行程では、前記第1設定高さ位置より低い第2の設定高さ位置にて刈取クラッチをOFFからONに切換えるように制御する昇降・駆動制御装置と、前記昇降・駆動制御を自動モードと手動モードとに切り換えるモード切換手段とを備えたものである。
【0010】
このように構成すれば、自動モード及び手動モードのいずれにおいても、刈取前処理装置の上昇行程にて刈取クラッチをONからOFFに切換えるための第1の設定高さ位置と、刈取前処理装置の下降行程にて刈取クラッチをOFFからONに切換えるための前記第1設定高さ位置より低い第2の設定高さ位置とを、高さ位置設定手段にて設定でき、畦際の刈取作業等における手動モードにおいても、刈取前処理装置の昇降作動及びそれに伴う刈取前処理装置の駆動のON・OFF操作をオペレータの熟練や勘に頼ることなく安全且つ確実に実行できるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明は、前記モード切換手段を手動モードに切り換えた場合において、少なくとも刈取前処理装置の下降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく下降操作するための微調整用切換手段を設けたものであるので、前記モード切換手段を手動モードに切り換えた状態では、前記刈取前処理装置を所定速度にて作動させ、その途中で微調整用切換手段を操作すると、その操作の間だけ、微速にて前記刈取前処理装置を下降動させるように制御するものであるから、オペレータによる前記モード切換手段の操作にて手動モードに入り、適宜速い所定速度で昇降させ、目標刈取高さの手前でオペレータが微調整用切換手段を操作することにより、微速で刈取前処理装置を下降させるように切換操作ができるので、刈取前処理装置を目標高さにセットすることが至極容易になるという効果を奏する。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、前記微調整用切換手段は、前記モード切換手段を手動モードに切り換えた場合において、刈取前処理装置の昇降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく昇降操作するものであるので、刈取前処理装置を目標高さにセットすることが一層容易になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を具体化した実施形態について説明する。図1は走行クローラ2aが備えられた左右一対の走行装置2を有するコンバインの走行機体1の側面図であり、図2は走行機体1の平面図、図3は刈取前処理装置と走行機体との対機体昇降位置を検出するための昇降ポジションセンサの側面図、図5は動力伝達のスケルトン図、図6は油圧回路と制御装置の機能ブロック図である。
【0014】
走行機体1の進行方向に向かって左側には脱穀装置3を搭載し、走行機体1の前部には単動式の油圧シリンダ9により昇降動可能な刈取前処理装置4を配置する。刈取前処理装置4の下部フレームの下部側にはバリカン式の刈刃装置5を、前方には6条分の穀稈引起装置6が配置され、穀稈引起装置6と脱穀装置におけるフイードチェン7前端との間には穀稈搬送装置8が配置され、穀稈引起装置6の下部前方には分草体10が突出している。走行機体1の右側前部に運転室11が配置され、その後側に穀粒タンク12が配置されている。
【0015】
図3及び図4に示すように、刈取前処理装置4に先端を装着した前方下向き傾斜状の昇降筒フレーム14の基端を水平筒15に固着し、該水平筒15を走行機体1の前部に設けた複数の軸受ブラケット16(一方を図示省略)に回動自在に軸支し、走行機体1上のエンジン35からの動力を前記水平筒15及び昇降筒フレーム14の各々の内径部に配置した伝動軸17と19、傘歯車対18等を介して刈取前処理装置4の各部に動力伝達される。そして、昇降筒フレーム14の中途部と走行機体1との間に装架した昇降油圧シリンダ9にて刈取前処理装置8を昇降駆動させるものである。
【0016】
コンバインの動力伝達系を示すスケルトン図(図5)に示すように、エンジン35からの出力の一方は、クラッチ36を介して穀粒タンク12内の底コンベヤ37及び縦コンベヤ38に動力伝達し、次いで排出オーガ28内のスクリューコンベヤ(図示せず)に伝達される。
【0017】
エンジン35からの他の出力は、動力分岐用ミッション39を介して扱胴駆動軸40、選別駆動軸41、走行用の油圧ポンプ油圧モータ式(HST式)走行駆動部42への駆動軸43及び刈取前処理装置4への定速回転駆動軸44に動力伝達される。そして、エンジン35からの他の出力は、動力分岐用ミッション39内の脱穀クラッチ48aを介して動力伝達のON・OFFを実行し、扱胴駆動軸40または選別駆動軸41を介して扱胴13及び処理胴29、一番受樋のスクリューコンベヤ26a、唐箕フアン、二番受け樋のスクリューコンベヤ26b及び二番還元コンベヤ25、排藁チェン31、吸引フアン30及び排藁カッタ33に伝達される。
【0018】
他方、前記(HST式)走行駆動部42より出力する刈取同調駆動軸45から、(走行駆動部の正回転時のみ伝達可能な)ワンウエイクラッチ45a及び同調クラッチ46を介して刈取軸47に動力伝達させ、フイードチェン7に直接伝達する。また、刈取軸47に設けた刈取クラッチ49を介して刈取前処理装置4への動力伝達をON・OFFするように構成されている。脱穀クラッチ48a,同調クラッチ46,流込みクラッチ48,刈取クラッチ49をそれぞれON・OFF操作するには、それぞれのクラッチに対応する電磁ソレノイド等のクラッチアクチュエータをON・OFF動作するように構成されている。なお、同調クラッチ46はベルトのテンションを緊張・緩和することにより動力継断するテンションクラッチであっても良い。従って、後述するように、車速同調制御を禁止(中止)する場合等で、動力分岐用ミッション39の定速回転駆動軸44を介して刈取軸47に動力伝達し、HST式走行駆動部42より出力する刈取同調駆動軸45の回転数が前記定速回転駆動軸44からの回転数より低い場合や、刈取同調駆動軸45がコンバインの後退方向に回転する場合には、ワンウエイクラッチ45aが空回りする。
【0019】
なお、前記HST式(2油圧モータ2油圧ポンプによる無段階変速機構内に機械的変速機構を組み込んだもの)走行駆動部42の各油圧ポンプ等の斜板を調節して車速を無段階変速するための主変速レバー85は、図7及び図8に示すように、前記運転室11内の座席11aの側方操作部にて前後回動し、ほぼ垂直姿勢の中立位置(停止位置)に対して前に倒すと前進位置であり、垂直に対する傾斜角度が大きいほど車速が速くなる。後方に傾斜させると後退となり、その傾斜角度が大きいほど車速が速くなる。
【0020】
同じく座席11aの側方操作部に配置した副変速レバー86は、HST式走行駆動部42内に設けた機械的変速機構(図示せず)を操作する伝動モータ等のアクチュエータを制御するためのものであり、副変速レバー86を路上走行モード、標準作業モード、低速作業モードの各位置に切換えると、コンバインに搭載したマイクロコンピュータ式の制御装置(コントローラユニット)70の指令により、前記各作業モード時に適応する走行駆動部42の出力(馬力)及び回転数を所定のレンジに設定保持することができる。
【0021】
なお、走行機体1を前進走行させながら通常の刈取脱穀作業を実行するとき(低速作業モード時及び標準作業モード時)には、動力分岐用ミッション39における流込みクラッチ48をOFF(動力遮断)し、脱穀クラッチ48a,同調クラッチ46及び刈取クラッチ49はON(動力接続)の状態にし、燃料噴射量センサ及び車速センサの検出値を監視しながら、走行駆動部42の出力に同調させた回転数の刈取同調駆動軸45を介して刈取軸47を駆動させて刈取前処理装置4及びフイードチェン7を同調駆動する一方、扱胴駆動軸40及び選別駆動軸41を駆動させて、扱胴11、処理胴29、送風フアン20、唐箕フアン19、揺動選別機構15等を駆動させるのである。
【0022】
また、圃場内での刈取脱穀作業途中において走行機体を方向転換等を実行するに際して、走行機体1を停止または後退させるとき、刈取前処理装置4とフイードチェン7との駆動を停止する時には、同調クラッチ46及び流込みクラッチ48をOFFにする。フイードチェン7のみ駆動するには、刈取クラッチ49をOFFにする。この場合、刈取前処理装置4への動力伝達はなく、動力分岐用ミッション39から刈取軸47を介してフイードチェン7にのみ動力伝達される。
【0023】
刈取前処理装置4と圃場面との対地高さを検出して刈高さを検出するための非接触式刈高さセンサとしての超音波センサ20は、前記穀稈引き起こし装置6の裏面側に設けたブラケット(図示せず)に配置し、図5に示すように、超音波センサ20における発信器20aの発信部(ホーン部)と受信器20bの受信部とを圃場面に向けるように配置する。超音波センサ20の設置高さと刈刃5の設置高さとが異なる場合には、超音波センサ20の検出値から所定の換算により、刈高さ検出値を求めるようにしている。
【0024】
相対昇降位置検出手段としての昇降ポジションセンサ22は、走行機体1と刈取前処理装置4との相対高さを検出するためのものであり、本実施例では、図3及び図4に示すように、前記軸受ブラケット16に固定した回動ポテンショメータ式の昇降ポジションセンサ22の感知回動アーム23を、水平筒15の外面に固着したセンサ軸24に当接させ、水平筒15の回動角度θを検出することにより、昇降筒フレーム14の回動角度、ひいては走行機体1に対する刈取前処理装置4の昇降位置(対機体昇降位置)を検出できるようになっている。
【0025】
図6は、刈高さ制御やオートクラッチ制御を実行するための制御装置70の機能ブロック図を示し、該制御装置70は、マイクロコンピュータ等の電子式制御装置であり、図示しないが各種演算処理や制御を実行するための中央処理装置(CPU)や、制御プログラムを記憶させた読み出し専用メモリ(ROM)、各種の検出値、データ等を一時的に記憶させる随時読み書き可能メモリ(RAM)、制御装置の電源をOFFとしても記憶データを保持するための不揮発性メモリ、タイマ機能としてのクロック、インターフェイス、バスなどを備える。
【0026】
超音波センサ20における発信器20aには制御装置70からの指令により発信駆動回路71を介して適宜時間間隔T1にて超音波を発信し、被検出物等にて反射された反射波は受信器20bで受信し、その検出信号は受信増幅回路72を介して制御装置70に入力する。前記昇降ポジションセンサ22の検出信号もA/D変換器を介して前記時間間隔T1ごとに制御装置70に入力する。
【0027】
また、刈取脱穀作業を手動モードで行うときの3位置検出型の手動スイッチ76、同じく刈取脱穀作業を自動制御モード(オートクラッチ制御モード)にするときのオートリフトスイッチとしての自動スイッチ75、前記手動で実行するとき刈取前処理装置4の昇降量及び/又は昇降速度を小さい側に変更するため、オペレータが足で踏み込んでON・OFF操作するフットスイッチ74の各信号もそれぞれ制御装置70に入力される。さらに、前記自動モード時における第1設定高さH1(刈取前処理装置4の上昇行程時における刈取クラッチがONからOFFに切り換える位置)と、第2設定高さH2(刈取前処理装置の下降行程時における刈取クラッチがOFFからONに切り換える位置)を各々設定し、且つオペレータが変更できるようにするための第1高さ設定器73aと、手動モード時における第1設定高さH3(刈取前処理装置4の上昇行程時における刈取クラッチがONからOFFに切り換える位置)と、第2設定高さH4(刈取前処理装置の下降行程時における刈取クラッチがOFFからONに切り換える位置)を各々設定し、且つオペレータが変更できるようにするための第2高さ設定器73bとを運転部(運転室11)に設ける(図9参照)。これら第1高さ設定器73a、第2高さ設定器73bは可変抵抗器等にて構成され、A/D変換器(図示せず)を介して制御装置70に接続され、第1高さ設定器73a、第2高さ設定器73bにて各々設定された設定高さ値をオペレータが変更調節可能であり、変更された前記各設定高さ値がEEPROMに書き込まれて記憶される。手動スイッチ76の操作レバー76aは前後傾動可能で中立位置に自動復帰するように付勢され、操作レバー76aを前方向に傾倒している間は所定昇降速度V1で下降継続し、後傾している間は所定昇降速度V1で上昇継続する。自動モードでは、前記と同じ昇降速度V1もしくはそれより速い速度で昇降させても良い。
【0028】
そして、手動モードにおいて、刈取前処理装置4の昇降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく昇降操作するための微調整用切換手段としては、フットスイッチ74のON・OFFのための踏み込み式ペタル87を図7及び図8に示すように座席11aの左前側方下方の床板に上向きに突出している。なお、前記流し込みクラッチ48をON・OFFするための流し込みペタル88は丸ハンドル89の下方の床板に突出させて配置されている。
【0029】
また、前記制御装置70では、後述する所定の演算結果に応じて所定の昇降指令信号を第1駆動回路77と第2駆動回路78とに出力し、第1駆動回路77からの出力に応じて油圧回路79における油圧切換弁80の電磁ソレノイド80a,80bを作動させる一方、第2駆動回路78からの出力に応じて高速応答電磁弁の一例である電磁比例減圧弁50の電磁ソレノイド50aを作動させて、刈取前処理装置4の昇降のための単動油圧シリンダ9を作動させるのである。
【0030】
図5に示す油圧回路79では、前記単動式の昇降油圧シリンダ9及び左右の走行装置3と走行機体1との左右相対車高を制御するための左右一対のローリング制御用油圧シリンダ(図示せず)に対する油圧制御弁51等にも圧油を供給する。
【0031】
この場合、図5に示すように、油圧回路79の油圧ポンプ52から油圧切換弁49への給油路53中に、リリーフ弁54を介挿する。4ポート3位置切換電磁式の油圧切換弁80の出力ポートから単動油圧シリンダ9への油圧管途中には、逆止弁55、及びスローリターンチェック弁56を接続する。なお、油圧切換弁80の他の出力ポートからは他の油圧制御弁51に同時に給油するように構成されている。
【0032】
前記油圧管の逆止弁55とスローリターンチェック弁56との間に接続した戻油管57には、前記単動油圧シリンダ9のピストンロッド下降用の可変絞り弁58と緊急下降弁59とを並列接続する。この可変絞り弁58は、2ポート2位置切換型のバルブであって、そのパイロットポートには、前記の高速応答電磁弁の1例としての、電磁比例減圧弁50の出力ポートを接続する。
【0033】
そして、刈取前処理装置4の昇降用の油圧シリンダ9の作動制御は次のように実行する。即ち、電磁式の油圧切換弁80を切換て油圧シリンダ9を伸長させる場合には、電磁ソレノイド80aをパルス幅変調制御(PWM)にて作動させると、電磁比例減圧弁50によって適宜油圧に調整されたパイロット圧が可変絞り弁58に作用し、可変絞り弁58の絞り度合いが任意に変化し、戻油管57から油タンク60にドレンされる。その場合、可変絞り弁58の絞り度合いに応じて油圧シリンダ9の作動速度が調節される。
【0034】
また、油圧シリンダ9を縮小させる場合には、油圧切換弁80を中立にし、電磁比例減圧弁50を前記と同様にパルス幅変調制御(PWM)方式にて作動させ、そのパイロット圧の調節にて可変絞り弁58の絞り開度を調節し、これにより油圧シリンダ9の作動速度を調節する。
【0035】
次に、刈取前処理装置4の昇降・駆動制御の態様について説明する。
【0036】
図10に示すフローチャートは、前記第1高さ設定器73a、第2高さ設定器73bにて設定された第1設定高さ及び第2設定高さを読出すステップであり、自動スイッチ75をONすれば自動モードとなり(S1:yes )、このときには第1高さ設定器73aにて設定され、所定のメモリ部に記憶された第1設定高さH1及び第2設定高さH2の値を読出す(S2)。S1でnoのとき、手動スイッチ76がONされているか否かを判別し(S3)、手動スイッチ76がON即ち手動モードであれば(S3:yes )、第2高さ設定器73bにて設定され、所定のメモリ部に記憶された第1設定高さH3及び第2設定高さH4の値を読出すのである(S4)。
【0037】
次に、図11のフローチャートを参照しながら、自動モードにおける刈取前処理装置4の昇降・駆動制御の動作について説明する。
【0038】
自動モード制御中において、まず、刈取前処理装置4が上昇中であるか否かを判別する(S10)。コンバインの圃場内での1行程の刈取後に回行に先立ってオートリフトスイッチ等をオペレータが押すと、刈取前処理装置4を上昇させる操作となる。この上昇と判断されれば(S10:yes )、所定速度V1等にて刈取前処理装置4を上昇させる(S11)、次いで第1設定高さH1に到達したか否かを超音波センサ20の検出値にて判別する(S12)。第1設定高さH1に到達すれば(S12:yes )、上昇停止し(S13)、第1設定高さH1に到達していなければ(S12:no)、上昇駆動を継続する。前記上昇停止(S13)後には、刈取前処理装置4のフイードチェンへの穀稈搬送経路中に設けた穀稈センサ(図示せず)のON・OFF状態を判別し(S14)、穀稈センサの検出値がOFFの場合(搬送される穀稈がない状態)には(S14:yes )、刈取クラッチ49をOFFにして刈取前処理装置4の駆動を停止する(S15)。
【0039】
他方、上昇中でなければ(S10:no)、下降中か否かを判別する(S16)、コンバインの圃場内での1行程の刈取後に回行して次の刈取行程に入るべく、オペレータがオートセットスイッチを押すと刈取前処理装置4は下降操作に入るのであり、この下降と判断されれば(S16:yes )、所定速度V1等にて刈取前処理装置4は下降する(S17)。次いで、第2設定高さH2(H2<H1)に到達したか否かを超音波センサ20の検出値にて判別する(S18)。第2設定高さH2に到達すれば(S18:yes )、下降停止すると共に刈取クラッチ49をONにして(S19)、刈取を開始するのである。第2設定高さH2に到達していなければ(S18:no)、下降駆動を継続する。
【0040】
次に、図12のフローチャートを参照しながら、手動モードにおける刈取前処理装置4の昇降制御の作動について説明する。畦際の穀稈を刈り取る場合や、圃場の隅部を刈取りする場合には、通常、手動モードで行う。
【0041】
手動スイッチ76が上昇位置または下降位置にあるか否かを判別し(S20、S21)、手動スイッチ76が上昇位置にあるとき(S20:yes )、及び下降位置にあるときは(S21:yes )、刈取前処理装置4を所定速度V1(例えば、電磁ソレノイドの連続的に励磁する状態の作動速度)にて作動させるべく前記油圧シリンダ9を上昇駆動(S22)または下降駆動する(S23)。そして、その途中で、オペレータが踏み込みペタル87を押下したか否か、換言すると、フットスイッチ74がONされたか否かを判別する(S24、S25)。
【0042】
フットスイッチ74がONの状態のとき、即ち、オペレータが微調整用切換手段を操作するものとして、踏み込みペタル87を押下したときには(S24:yes 、S25:yes )、その押下の間だけ微速の速度V2にて刈取前処理装置4を上昇または下降させる(上昇または下降は手動スイッチ76の上昇位置または下降位置に対応する)(S26、S27)。この微速の速度V2は、前記パルス幅変調制御(PWM)方式にて油圧シリンダ9を作動させるものとし、V2はV1の1/3乃至1/5程度に設定される。従って、オペレータの手動スイッチ76の操作にて手動モードに入り、適宜速い速度V1で昇降させ、目標刈取高さの手前でオペレータが踏み込みペタル87を押下することにより、微速で刈取前処理装置4を昇降させるように切換操作ができるので、刈取前処理装置4を目標高さにセットすることが至極容易になる。
【0043】
他方、フットスイッチ74がOFFの状態のとき、即ち、オペレータが微調整用切換手段を操作しない場合として、踏み込みペタル87を押下していないときには(S24:no、S25:no)、前記所定速度V1の昇降駆動を維持する。
【0044】
次いで、上昇のとき(S20:yes )、第1設定高さH3(通常H1より高い位置)に到達したか否かを判別し(S28)、第1設定高さH3に到達していれば(S28:yes )、上昇駆動を停止し(S29)、次いで、前述と同様に穀稈センサのON・OFF状態を判別し(S30)、穀稈センサの検出値がOFFの場合(搬送される穀稈がない状態)には(S30:yes )、刈取クラッチ49をOFFにして刈取前処理装置4の駆動を停止するのである(S31)。
【0045】
刈取前処理装置4の下降中においては(S21:yes )、第2設定高さH4に到達したか否かを判別し(S32)、第2設定高さH4(通常H2より高い位置)に到達していれば(S32:yes )、上昇駆動を停止すると共に刈取クラッチ49をOFFにして刈取前処理装置4の駆動を停止するのである(S33)。
【0046】
以上のようにして、自動モード及び手動モードのいずれにおいても、刈取前処理装置の上昇行程にて刈取クラッチをONからOFFに切換えるための第1の設定高さ位置と、刈取前処理装置の下降行程にて刈取クラッチをOFFからONに切換えるための前記第1設定高さ位置より低い第2の設定高さ位置とを、高さ位置設定手段にて設定できるように構成したから、手動モードにおいても、刈取前処理装置の昇降作動及びそれに伴う刈取前処理装置の駆動のON・OFF操作をオペレータの熟練や勘に頼ることなく安全且つ確実に実行できるという効果を奏する。
【0047】
また、高さ位置設定手段としての高さ設定器73a,73bにて前記第1設定高さ位置及び第2の設定高さ位置をそれぞれオペレータが変更可能としたので、圃場の条件、形態等の状況に応じて適切な刈取を確実に行えるという効果を奏する。
【0048】
なお、速度V1、V2の設定値や前記H1,H2,H3,H4の値を不揮発性メモリに記憶させておけは、一旦コンバインの電源を落としても再度起動時に以前の条件を簡単に復元させることができるという効果を奏する。また、前記刈高さや、昇降の設定高さ、昇降移動距離(昇降量)の検出は、刈高さセンサとしての超音波センサ20を使用しているが、刈取前処理装置4が昇降しているにも拘らず、この超音波センサ20の検出値が変動しないような異常事態と判断するときには、走行機体に対する刈取前処理装置4の相対昇降位置検出手段としての前記昇降ポジションセンサ22の検出値を採用して、前記第1設定高さ位置や第2設定高さ位置との照合により、刈取前処理装置の昇降・駆動制御を実行すれば、超音波センサ20の不安定な検出結果を補完でき、制御が一層安定するという効果を奏するのである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】コンバインの側面視である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】ポジションセンサの取付け位置を示す側面図である。
【図4】ポジションセンサの取付け位置を示す平面図である。
【図5】動力伝達系統のスケルトン図である。
【図6】油圧回路及び制御手段の機能ブロック図である。
【図7】運転室内の平面図である。
【図8】運転室内の側面図である。
【図9】運転室内の一部切欠き斜視図である。
【図10】第1設定高さH1,H3及び第2設定高さH2,H4のデータの処理を示すフローチャートである。
【図11】自動モードにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御のフローチャートである。
【図12】手動モードにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1 走行機体
4 刈取前処理装置
9 昇降油圧シリンダ
20 超音波センサ
22 昇降ポジションセンサ
48 刈取クラッチ
50 電磁比例減圧弁
70 制御装置
73a,73b 高さ設定器
74 微調整用切換手段としてのフットペタル
75 自動スイッチ
76 手動スイッチ
80 油圧切換弁
88 踏み込みペタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取前処理装置を走行機体に対して昇降駆動手段を介して昇降駆動すると共に、エンジンからの動力を刈取クラッチを介して刈取前処理装置に伝達するように構成してなるコンバインにおいて、
刈取前処理装置の上昇行程では、第1の設定高さ位置にて刈取クラッチをONからOFFに切換え、刈取前処理装置の下降行程では、前記第1設定高さ位置より低い第2の設定高さ位置にて刈取クラッチをOFFからONに切換えるように制御する昇降・駆動制御装置と、
前記昇降・駆動制御を自動モードと手動モードとに切り換えるモード切換手段とを備え、
前記モード切換手段を手動モードに切り換えた場合において、少なくとも刈取前処理装置の下降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく下降操作するための微調整用切換手段を設けたことを特徴とするコンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置。
【請求項2】
前記微調整用切換手段は、前記モード切換手段を手動モードに切り換えた場合において、刈取前処理装置の昇降速度を前記所定速度V1より遅い微速速度V2にて細かく昇降操作するものであることを特徴とする請求項1に記載のコンバインにおける刈取前処理装置の昇降・駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−94864(P2006−94864A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337090(P2005−337090)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【分割の表示】特願平9−114576の分割
【原出願日】平成9年5月2日(1997.5.2)
【出願人】(000006851)ヤンマー農機株式会社 (132)
【Fターム(参考)】