説明

コーティングされた自動車用ホイール及びコーティング方法

自動車用ホイール(10)の耐摩耗性及び耐食性を向上させるために、自動車用ホイール(10)をコーティングする方法であって、自動車用ホイール(10)を準備するステップと、耐摩耗性及び耐食性のコーティングを自動車用ホイール(10)の表面に形成するステップを含んでいる。コーティング(14)は、自動車用ホイール(10)の少なくともタイヤビード保持フランジ(16)(24)に形成される。コーティング(14)は、鍛造アルミニウムから作られた自動車用ホイール(10)に特に用いられる。コーティング(14)の材料は、所望によりコバルト又はクロムを選択的に含むタングステンカーバイド、ニッケル基超合金、Al−Siカーバイド、又はステンレス鋼から選択される。コーティング(14)は、典型的には、約0.004−0.01インチの厚さに形成される。自動車用ホイール(10)の表面は、機械的に摩損させることにより、又は化学的にエッチングすることにより前処理される。コーティング(14)は、コールドスプレー、溶射又は摩擦帯電電荷の動的スプレー放電その他同様な方法によって形成される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、自動車用ホイールに関し、より具体的には、例えばアルミニウム製のトラック用ホイールのようなトラックのホイールであって、摩耗領域にコーティングが施されたトラックのホイール及び該ホイールにコーティングを施す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ホイールは、使用期間の長期化及び使用の過酷化にさらされている。使用期間の長期化により、自動車用ホイールは、摩耗が大きくなるため、一定期間毎に交換の必要がある。運転中、自動車用ホイールは、タイヤと絶えず接触しており、摩耗(abrasion)及び付着(adhesion)等の摺動摩耗メカニズムにより、ホイールに摩耗を生ずる。自動車用ホイールは、アルミニウム合金の安価な代替物としてスチールから作られるが、スチールを用いると、自動車用ホイールの摩耗の発生を軽減することにはならない。最近、アルミニウムホイールがスチールホイールにとって代わって用いられているが、それは、強度を犠牲にすることなく、その軽量性及び魅力的な外観にある。アルミニウムホイールは、車、トラック、スポーツ車、さらにはトラクタートレーラーのような重量トラックに至るまで好適に用いられている。しかしながら、アルミニウムホイールの場合、高重量の車では摩耗が問題となる。
【0003】
特定の使用条件下では、鍛造アルミニウムのトラックホイールのようなトラックホイール、特有の摩耗状態を示す。特に、アルミニウムのトラックホイールのリムフランジ領域は、局部的に摩耗し、平均で、幅約0.25〜0.5インチ、深さ約0.125〜0.250インチの溝が形成される。この摩耗溝の寸法は、典型的には、ホイールの使用条件に依存し、その条件として、例えば、負荷される荷重、道路及び/又は気候条件、ホイールの総使用時間、使用速度、タイヤのブランド、タイヤ圧力及びサイズなどがある。この「摩耗溝(wear groove)」の状態は、自動車用ホイールとタイヤの両方の構造的完全性を損なうことになり、サイズの大きな重量トラックや、高速運転用途において、特に問題である。
【0004】
トラックホイールの耐食性は、自動車用ホイールが実際の道路条件で受ける摩耗量に影響を及ぼす。これは、トラックのアルミニウムホイールに特に当てはまる。使用条件で腐食を促進する幾つかの要因がある。これらの促進因子として、トラック又は他の自動車用運転中に起こるタイヤリムの振動及びタイヤ内部の温度上昇がある。腐食は、一般的に、タイヤリムの機械的強度を低下させ、タイヤとホイールの破壊を招くことがある。摩耗と腐食が大きくなると、前述の溝はより大きくなり、形成される鋭利な溝のエッジ部がタイヤの中に食い込む可能性があるので、あまり大きくなると、リムを元の形状に機械加工する必要ある。この「摩耗溝」の状態は、ホイールの構造的完全性を損ない、ホイールに取り付けられたタイヤの寿命に悪影響を及ぼす危険性がある。
【0005】
上記問題に鑑み、新車又は中古車のホイールを、摩耗と腐食から保護する必要性がある。耐摩耗性及び耐食性の自動車用ホイール、特に、一般的にアルミニウムから作られた耐摩耗性及び耐食性のトラック用アルミニウム製ホイールの場合にその必要性がある。さらにまた、例えば、自動車用ホイールを適当な保護層でコーティングすることにより、自動車用ホイールの耐摩耗性及び耐食性を向上させる簡単な方法が要請されている。
【発明の開示】
【0006】
<発明の要旨>
本発明は、広義において、自動車用ホイールの耐摩耗性及び耐食性を向上させるために、自動車用ホイールをコーティングする方法に関するものである。本発明の方法は、自動車用ホイールを準備し、自動車用ホイールの表面に、耐摩耗性及び耐食性のコーティングを形成するステップを含んでいる。本発明の方法は、コーティングを機械的バフ加工(buffing)するステップを含むこともできる。所望により、自動車用ホイールの表面を機械加工を施すことにより、自動車用ホイールの表面を前処理する(prepare)こともできる。自動車用ホイールの表面を機械加工するステップは、自動車用ホイールの表面の機械的粗面形成加工、ローレット加工(knurling)、グリットブラスティング処理を含んでいる。自動車用ホイールの表面の前処理は、自動車用ホイールの表面を化学的エッチングすることにより、又は高圧水でブラスティングすることによって行なうことができる。
【0007】
コーティングは、好適には、自動車用ホイールのタイヤビード保持フランジ及び/又はタイヤビードシートを含むタイヤビードのシート領域に施される。自動車用ホイールは、鍛造アルミニウム又は鋳造アルミニウムから作られることができる。コーティング材料は、タングステンカーバイド、及び/又は、コバルト及びクロム、ニッケル基超合金、アルミニウム及びシリコンカーバイド、又はステンレス鋼を挙げることができる。コーティングはまた、ニッケル、クロム、鉄、シリコン及びボロンを含み、選択的にクロムカーバイド又はタングステンカーバイドを含む組成物から作られることができる。コーティングは、約0.004−0.01インチの厚さに形成されることができる。
【0008】
コーティングは、コールドスプレー、溶射及び摩擦帯電電荷の動的スプレー放電によって形成されることができる。コーティングはまた、高速燃焼、低速燃焼、プラズマスプレー及びツインアークスプレーによって形成されることができる。所望により、コーティングは、約1200oF以下の温度で摩耗条件を改善することのできる任意の方法によって形成されることができる。
【0009】
本発明はまた、広義において、既存の自動車用ホイールの耐摩耗性及び耐食性を向上させるために、既存の自動車用ホイールをコーティングする方法に関するものである。この実施例に係る方法は、広義において、使用された自動車用ホイールを準備するステップ、使用された自動車用ホイールの表面を前処理するステップ、耐摩耗性及び耐食性のコーティングを、使用された自動車用表面の少なくともビードシート領域に形成するステップ、を含んでいる。
【0010】
本発明は、広義において、自動車構成要素の耐摩耗性を向上させるために、あらゆる種類の自動車構成要素をコーティングする方法に関するものである。この実施例に係る方法は、広義において、自動車の構成要素を準備するステップ、自動車の構成要素の表面に耐摩耗性及び耐食性のコーティングを形成するステップを含んでいる。コーティングは、好適には、自動車の構成要素の少なくとも一部分に形成される。
【0011】
<望ましい実施例の説明>
本発明は、一般的には、自動車用ホイールに対摩耗性及び耐食性のコーティングを形成する方法に関する。本発明は、自動車用ホイールに関して説明するが、当該分野の専門家であれば、自動車の構成部品で、摩耗を腐食を受けるものであれば、いかなる構成部品に対しても適用できることは理解されるであろう。
【0012】
図1及び図2は、本発明に係る自動車用ホイール(10)を示している。自動車用ホイール(10)は、ホイールリム(12)を具えており、該ホイールリム上には、本発明に係るコーティング(14)が形成されている。自動車用ホイール(10)、より具体的には、ホイールリム(12)は、例えばスチールのように、自動車に適した任意の材料から作ることができる。好適には、自動車用ホイール(10)は、アルミニウム合金から作られ、鍛造アルミニウムのホイール(10)がより好ましい。自動車用ホイール(10)は、鋳造アルミニウムから作ることもできる。本発明の一態様において、自動車用ホイール(10)は、鍛造アルミニウムのトラック用ホイールである。
【0013】
ホイールリム(12)は、当該分野で公知の鍛造方法によって作られる。ホイールリム(12)は、一般的には、タイヤビードのシート領域(17)(23)を具えている。タイヤビードのシート領域(17)は、外側タイヤビードの保持フランジ(16)と、外側タイヤビードシート(18)を含んでいる。タイヤビードのシート領域(23)は、内側タイヤビードシート(22)と、内側タイヤビードの保持フランジ(24)を含んでいる。タイヤビードシート領域(17)とタイヤビードシート領域(18)の間には、ドロップセンターウエル(drop center well)(20)が設けられる。
【0014】
自動車用ホイール(10)は、閉じた端部(26)と開口した端部(28)をさらに含んでいる。自動車用ホイール(10)の開端部(28)は、当該分野で一般に知られているように、自動車の軸(図示せず)を受けるための開口(30)を規定する。閉端部(26)は自動車ホイールのボディから外方に面し、自動車ホイール(10)の露出面を形成する。
【0015】
前述したように、本発明は、全体的には、自動車用ホイール(10)のホイールリム(12)のタイヤビードシート領域(17)(23)の上に、耐摩耗性及び耐腐食性のコーティング(14)を施すことに関するものである。コーティング(14)は、好適には、タイヤビード保持フランジ(16)(24)に設けられるが、タイヤビードシート領域(17)(23)のタイヤビードシート(18)(22)にも施される。コーティング(14)は、摩耗及び/又は腐食による損傷が予想される領域の耐性を向上させるために、ホイールリム(12)の上に局部的に材料が追加される保護用オーバレイである。コーティング(14)は、タイヤビードのシート領域(17)(23)に施されることが好ましい。タイヤとホイールリム(12)との間の摩耗は、典型的には、タイヤビードシート領域(17)(23)で起こり、前述したように「摩耗溝(wear groove)」を生ずる。
【0016】
本発明の耐摩耗性コーティング(14)として、一般的には、タングステン、クロム等のカーバイド、サーメット、300/400シリーズのステンレス鋼、ハスタロイ(Hastalloy)等のニッケル基超合金が用いられる。当該分野の専門家であれば、本発明に係るコーティング(14)として、他のアルミニウム合金、カーバイド、オキサイド、金属及びサーメットを用いることができることは理解されるであろう。
【0017】
タイヤビードシート領域(17)(23)に形成されるコーティング(14)は、単一のコーティングでもよく、或いは、アルミニウム、アルミニウム合金、カーバイド、オキサイド、金属及びサーメットの追加のコーティング(図示せず)と共に用いることもできる。コーティング(14)は、幾つかの形態で設けられる。例えば、コーティング(14)は、粉末、ワイヤ、ロッド、テープ、布又はそれらの任意の組合せとして、自動車用ホイール(10)に施されることもできる。
【0018】
自動車用ホイール(10)の一実施例において、コーティング(14)は、タングステンカーバイドコバルトのコーティングである。コーティング(14)の具体的化学成分は、例えば、約85%W−Cr、12%Co及び4%Cである。この化学成分及び本発明で使用可能な他の化学成分を有するコーティングの製造者として、例えばPraxair, Inc.がある。Praxair, Inc.が、コーティング(14)用に好適な耐摩耗性コーティングとして製造するものに、LW107(タングステン、カーバイド、コバルト、クロム含有)、LW101(タングステン、カーボン、コバルト含有)、LW108(タングステン、カーボン、ニッケル、クロム含有)、LN110(ニッケル、クロム、鉄、シリコン、ボロン含有、クロムカーバイド25%含有)、LN108(ニッケル、クロム、鉄、シリコン、ボロン含有)を挙げることができる。
【0019】
コーティング(14)は、自動車用ホイール(10)、より具体的には、ホイールリム(12)のタイヤビードシート領域(17)(23)のタイヤビード保持フランジ(16)(24)の耐摩耗性及び耐食性を向上させる。例えば、コーティング(14)は、使用中の摩耗条件に対する抵抗性を向上させると共に、道路の塩分、毒性の瓦礫等の腐食性要素から適当に保護する。コーティング(14)はまた、ホイールリム(12)のタイヤビードシート領域(17)(23)に対する十分な接着性を有することが好ましい。さらに、コーティング(14)が自動車用ホイール(10)のホイールリム(12)の機械的特性、又は本発明のコーティング(14)が形成される他のどんな構成部品に対して影響を及ぼさないことが好ましい。ここでは、ホイールリム(12)のタイヤビードシート領域(17)(23)に施される場合について説明するが、コーティング(14)は、保持フランジ(16)(24)に形成することもできるし、タイヤビードのシート(18)(22)及びドロップセンターウエルを含むホイールリム(12)の表面全体に形成することもできる。
【0020】
耐摩耗性コーティングは、前述した化学成分及び表面特性に加えて、アルミニウム合金の自動車用ホイール(10)とコーティング(14)との間の熱膨張率を一致させることは、コーティングの接着の早期破壊を防止する上で好ましい。
【0021】
耐摩耗コーティング(14)をホイールリム(12)に施すには、幾つかの異なるプロセスによって行なうことができる。コーティング形成方法の望ましい実施例は、米国特許第5302414号に開示されたコールドガススプレー法であり、その開示は引用を以て本願への記載加入とする。コールドガススプレー法では、コーティングは、固体状態の粉末の高速の流れを、粉末材料の融点よりも低い温度でスプレーすることによって形成される。
【0022】
本発明に用いられる他のコーティング形成方法は、米国特許第5795626号に記載されており、その開示は引用を以て本願への記載加入とする。これらの方法は、コーティング形成法、摩擦帯電電荷の動的スプレー放電法(triboelectric discharge kinetic spraying)及び溶射(thermal spraying)を含んでおり、高速燃焼、低速燃焼、プラズマスプレー及びツインワイヤアークスプレーを含んでいる。これらの方法は、当該分野で広く知られている。さらにまた、低温(1200oFよりも低い)で摩耗の状態又は抵抗性を改善するために、基材、典型的には金属基材の上に局部的に層を形成することができるものであればどの技術でも、本発明の方法と共に用いることができる。
【0023】
機械的接合特性が支配する分野で知られた多くのコーティング方法の場合、接着は、基材の清浄度及び表面形状に依存する。これまでのコーティング方法には、このような表面にするための前処理ステップは重要なステップであり、特にコーティングの接着及び破壊に影響を及ぼすが、本発明では必要なステップではない。例えば、コールドスプレーの工程では、層形成の際、タイヤビードのシート領域(17)(23)を「自浄(self cleans)」する作用を有するため、表面を予め所定状態に前処理するステップは必要ではない。しかしながら、所望により、コーティング(14)を形成する前に、ホイールリム(12)の表面を所定の清浄度及び形状にする前処理ステップを実施することもできる。本発明で使用される表面準備技術として、グリットブラスティング、高圧水ジェットブラスティング、ローレット法(knurling)のような機械的粗面形成加工(mechanical roughening)、化学的エッチング及び/又は機械加工を挙げることができる。所望により、表面の清浄化を、機械的方法ではなく、化学的溶媒を用いて行なうことができる。本発明の方法では、これまでのホイールマスキング工程を省略することができる。本発明の方法では、適切に積み重ねられた(stacked)ホイールは、コーティング作業中、コーティングされていない重要な表面を自己マスキング(self masking)することができるからである。
【0024】
適当な種類のコーティング(14)を選択した後、自動車用ホイール(10)のホイールリム(12)にコーティング(14)が施される。コーティング(14)は、前述したように、主として、ホイールリム(12)のタイヤビードシート領域(17)(23)に形成されることが好ましい。コーティング(14)の厚さは、摩耗と腐食から保護するために、約0.004〜0.01インチが好ましい。自動車用ホイール(10)に施す場合、約0.004インチの厚さがより好ましい。
【0025】
自動車用ホイール(12)に形成されるコーティング(14)は、通常の運転条件下での使用中、コーティングの接着破壊を防止するために、タイヤビードのシート領域(17)(23)に対して適当に接着することが好ましい。通常の運転条件では、自動車用ホイール(10)は、雨、雪、みぞれ等の過酷な気候条件の他、塩分等を含む道路表面の瓦礫類の存在などの腐食性及び侵食性環境にさらされることがしばしばある。このため、適切な接着を確実に行なうためには、コーティングの平均接合強度は例えば約8000psi以上が好ましい。
【0026】
<実施例>
図3乃至図10は、アルミニウム鍛造による4組の重量トラック用ホイール(10)(A−D)に対して行なった試験での摩耗測定データを示している。4組のアルミニウム鍛造ホイール(10)(A−D)は、各々のコーティング厚さは異なり、各ホイールについて、所定マイル走行後の摩耗を測定した。4組のアルミニウム鍛造ホイール(10)(A−D)について、コーティング(14)(A−D)の仕様を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
4組のアルミニウム鍛造ホイール(10)(A−D)の摩耗試験の測定は、0マイル、5000マイル、10000マイル、20000マイル、40000マイル、80000マイル及び155000マイルを走行した後に行なった。自動車用ホイール(10)(A−D)を切断し、ホイール(10)(A−D)の内側から外側までの1インチ幅の部分に沿って、複数の位置でホイール(10)(A−D)の摩耗を測定し(実質的に、タイヤビード保持フランジ(16)(24)の位置)、図3乃至図10のX軸上にプロットした。Y軸は、自動車用ホイール(10)(A−D)に取り付けられたタイヤの深さ(depth)をインチ単位で表している。深さが小さいほど、タイヤの摩耗が大きいことを示しており、深さが大きいほど、タイヤの摩耗量は少ないことを示している。
【0029】
図3は、閉端部(26)にコーティングを形成していないホイール(10A)の摩耗を示している。図4は、開端部(28)にコーティングを形成していないホイール(10A)の摩耗を示している。コーティング無しの自動車用ホイール(10A)は、摩耗が最も大きく、約20000マイルで摩耗の発生を示した。この摩耗は、155000マイルまでに著しく増大する。また、試験結果では、自動車用ホイール(10A)の閉端部(26)と、自動車用ホイール(10A)の開端部(28)とでは、摩耗に有意的な差はなかった。
【0030】
図5及び図6は、Al−Siのコーティング(14)を有する自動車用ホイール(10B)の閉端部(26)及び開端部(28)の耐摩耗性を示している。Al−Siコーティング(14)は、SiC約50−75%を含んでおり、自動車用ホイール(10B)に対して0.004−0.006インチの厚さに形成される。Al−Siコーティング(14)を設けると、コーティング無しの自動車用ホイール(10A)よりも耐摩耗性が大きく、摩耗の開始は約40000マイルであり、摩耗は、走行155000マイルまで徐々に増加した。
【0031】
図7及び図8は、ニッケル基超合金ハスタロイのコーティングを有する自動車用ホイール(10C)の閉端部(26)及び開端部(28)の耐摩耗性を示している。ニッケル基コーティングの組成は、ニッケル−クロムを主成分として含んでおり、自動車用ホイール(10C)に対して0.004−0.006インチ厚さに形成される。ニッケル基超合金でコーティングした自動車用ホイール(10C)は、Al−Siでコーティングした自動車用ホイール(10B)よりもはるかに耐摩耗性が大きく、摩耗が認められたのは、約155000マイルである。
【0032】
図9及び図10は、タングステンカーバイド、具体的にはタングステンカーバイドコバルトのコーティング(14)を有する自動車用ホイール(10D)の閉端部(26)及び開端部(28)の耐摩耗性を示している。タングステンカーバイドコーティングの組成は、タングステンカーバイド88%、コバルト12%を含んでおり、0.004−0.006インチ厚さに自動車用ホイール(10C)に形成される。タングステンカーバイドでコーティングした自動車用ホイール(10D)は、最もすぐれた耐摩耗性を示し、約155000マイル走行後も摩耗は認められなかった。タングステンカーバイドのコーティング(14)は、耐摩耗性及び耐食性に対して最適な組成である。
【0033】
ホイールのコーティング(14)は、自動車用ホイール(10)の要求寿命及び費用等の要因に基づいて選択される。例えば、タングステンカーバイドのコーティング(14)の場合、寿命は長いが、ニッケル基超合金又はAl−Siのコーティング(14)に比べると費用が高くなる。走行距離が155000マイルを超える自動車用ホイール(10)用としては、最もすぐれた耐摩耗性及び耐食性をもたらすタングステンカーバイドのコーティング(14)を用いることが好ましい。一方、必要寿命が40000マイル程度の自動車用ホイール(10)の場合、耐摩耗性付与のためのコーティングとして、Al−Siコーティング(14)が最も経済的である。
【0034】
本発明の他の実施例として、耐摩耗性コーティング(14)を、既存車のホイール(10)に形成することもできる。例えば、走行距離が5000マイルの自動車の場合、耐摩耗性及び耐食性を向上させるために、本発明のコーティングを形成することもできる。既存車のホイール(10)にコーティングを形成する場合も、前記と同じ要領で行なうことが好ましい。しかしながら、既存車のホイール(10)の場合、まず最初に表面の予備処理を行なう。コーティング(14)は、少なくとも、ホイール(10)のタイヤビードシート領域(17)(23)のタイヤビード保持フランジ(16)(24)に形成される。既存車のホイール(10)の表面は、機械加工(mechanically abrading)による予備処理が行われる。この機械加工処理として、機械的粗面形成加工、ローレット加工、グリットブラスティングなどがある。既存車のホイール(10)の表面は、化学的エッチング又は高圧水ブラスティングによる処理も可能である。
【0035】
既存車のホイール(10)とコーティング(14)は、材料の熱膨張率が約10%の範囲内であることが望ましい。既存車のホイール(10)は、鍛造アルミニウム又は鋳造アルミニウムから作られる。コーティング(14)の材料は、タングステンカーバイド、及び/又は、コバルト及びクロム、ニッケル基超合金、Al−Siカーバイド、又はステンレス鋼を挙げることができる。コーティング(14)の厚さは、約0.004〜0.01インチである。
【0036】
コーティング(14)は、コールドスプレー、溶射及び摩擦帯電電荷の動的スプレー放電によって形成することができる。コーティング(14)の形成はまた、高速燃焼、低速燃焼、プラズマスプレー及びツインアークスプレーによって行なうこともできる。所望により、コーティング(14)はまた、訳1200oF以下の温度で摩耗条件を向上させるための層を形成することができる方法によって形成することができる。
【0037】
本発明のさらなる実施例において、自動車用構成部品(構成要素)で摩耗及び腐食を受けるものについては全て、コーティング(14)でコートし、耐摩耗性及び耐食性を向上させることができる。この自動車の部品として、例えば、他の表面との摩擦接触の繰り返しによる摩耗を受ける全ての部品が含まれる。自動車部品のコーティングは、自動車用ホイール(10)に関して記載したものと同じ要領にて行われることが好ましい。
【0038】
例えば、耐摩耗性及び耐食性のコーティング(14)は、自動車部品の表面の少なくとも一部に形成される。コーティング(14)を形成すると、コーティング(14)は機械的緩衝作用を有する。所望により、自動車部品の表面を、コーティング形成前に、機械加工処理を施すこともできる。この機械加工処理として、機械的粗面形成加工、ローレット加工、グリットブラスティングなどがある。自動車用ホイールの表面は、化学的エッチング又は高圧水ブラスティングによる処理も可能である。
【0039】
自動車用構成部品とコーティング(14)は、材料の熱膨張率が約10%の範囲内であることが望ましい。自動車用構成部品は、鍛造アルミニウム又は鋳造アルミニウムから作られる。コーティング(14)の材料は、タングステンカーバイド、及び/又は、コバルト及びクロム、ニッケル基超合金、Al−Siカーバイド、又はステンレス鋼を挙げることができる。コーティング(14)の厚さは、約0.004〜0.01インチである。
【0040】
コーティング(14)は、コールドスプレー、溶射及び摩擦帯電電荷の動的スプレー放電によって形成することができる。コーティング(14)の形成はまた、高速燃焼、低速燃焼、プラズマスプレー及びツインアークスプレーによって行なうこともできる。所望により、コーティング(14)はまた、約1200oF以下の温度で摩耗条件を向上させるための層を形成することができる方法によって形成することができる。
【0041】
本発明の前述した様々な利点に加えて、耐摩耗性及び耐食性を制御する方法に合わせてコーティング(14)の成分を調整し、前記方法の改善を図ることもできる。これは、様々な環境条件及び使用条件において有用である。自動車用ホイール(10)が、より高温で、より高湿度の地域で販売される場合、コーティング(14)の種類を環境に合わせて形成することができるし、自動車用ホイールが、より多雨及び/又はより低温の地域で販売される場合も、コーティング(14)の種類を環境に合わせて形成することができる。
【0042】
本発明の具体的実施例を例示して説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、その詳細について種々の変形をなし得るであろう。本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等物によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に基づいてコーティングが形成される自動車用ホイールの横断面図であって、内側のタイヤ接触領域と外側のタイヤ接触領域を示す図である。
【図2】図1に示す自動車用ホイールの一部分の横断面図である。
【図3】コーティングされていない自動車用ホイールの閉端部の耐摩耗性を示すグラフである。
【図4】図3のコーティングされていない自動車用ホイールの開端部の耐摩耗性を示すグラフである。
【図5】閉端部にAl−Siのコーティングが形成された自動車用ホイールの耐摩耗性を示すグラフである。
【図6】開端部にAl−Siのコーティングが形成された自動車用ホイールの耐摩耗性を示すグラフである。
【図7】閉端部にニッケル基超合金のコーティングが形成された自動車用ホイールの耐摩耗性を示すグラフである。
【図8】開端部にニッケル超合金のコーティングが形成された自動車用ホイールの耐摩耗性を示すグラフである。
【図9】閉端部にタングステンカーバイドのコーティングが形成された自動車用ホイールの耐摩耗性を示すグラフである。
【図10】開端部にタングステンカーバイドのコーティングが形成された自動車用ホイールの耐摩耗性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ホイールの耐摩耗性及び耐食性を向上させるために、自動車用ホイールをコーティングする方法であって、
自動車用ホイールを準備し、
自動車用ホイールの表面に、耐摩耗性及び耐食性のコーティングを形成する、
ステップを含んでいる方法。
【請求項2】
コーティングは、自動車用ホイールのタイヤビードのシート領域に形成される請求項1の方法。
【請求項3】
コーティングは、自動車用ホイールのタイヤビード保持フランジに形成される請求項1の方法。
【請求項4】
自動車用ホイールは、鍛造アルミニウムから作られる請求項1の方法。
【請求項5】
自動車用ホイールは、鋳造アルミニウムから作られる請求項1の方法。
【請求項6】
コーティングは、タングステンカーバイドを含んでいる請求項1の方法。
【請求項7】
コーティングは、コバルトとクロムのうちの1種をさらに含んでいる請求項6の方法。
【請求項8】
コーティングは、ニッケル基超合金を含んでいる請求項1の方法。
【請求項9】
コーティングは、アルミニウム及びシリコンのカーバイドを含んでいる請求項1の方法。
【請求項10】
コーティングは、ステンレス鋼を含んでいる請求項1の方法。
【請求項11】
コーティングは、ニッケル、クロム、鉄及びボロンを含み、クロムカーバイド又はタングステンカーバイドを選択的に含んでいる請求項1の方法。
【請求項12】
コーティングの形成は、コールドスプレー、溶射及び摩擦帯電電荷の動的スプレー放電からなる群から選択される方法によって行われる請求項1の方法。
【請求項13】
コーティングの形成は、高速燃焼、低速燃焼、プラズマスプレー及びツインアークスプレーからなる群から選択される方法によって行われる請求項1の方法。
【請求項14】
コーティングの形成は、約1200oF以下の温度で摩耗条件を改善する方法によって行われる請求項1の方法。
【請求項15】
コーティングを機械的バフ加工するステップをさらに含んでいる請求項1の方法。
【請求項16】
コーティングは、約0.004−0.01インチの厚さに形成される請求項1の方法。
【請求項17】
自動車用ホイールの表面を機械加工することにより、自動車用ホイールの表面を前処理するステップをさらに含んでいる請求項1の方法。
【請求項18】
自動車用ホイールの表面を機械加工するステップは、自動車用ホイールの表面について、機械的粗面形成加工、ローレット加工、グリットブラスティング処理のうちの1つを行なうステップを含んでいる請求項17の方法。
【請求項19】
自動車用ホイールの表面を化学的エッチングすることにより、自動車用ホイールの表面を前処理するステップをさらに含んでいる請求項1の方法。
【請求項20】
自動車用ホイールの表面を高圧水でブラスティングすることにより、自動車用ホイールの表面を前処理するステップをさらに含んでいる請求項1の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法によってコーティングされたホイールであって、コーティングはタングステンクロムカーバイドを含み、選択的に、コバルト又はニッケル基超合金を含んでおり、ホイールは、少なくともビードシート領域がコーティングされるホイール。
【請求項22】
耐摩耗性及び耐食性のコーティングが、表面の少なくともビードシート領域に形成され、前記表面に形成されるコーティングの厚さは約0.004〜0.01インチである自動車用ホイール。
【請求項23】
コーティングはタングステンカーバイドを含んでいる請求項22の自動車用ホイール。
【請求項24】
コーティングはコバルト及びクロムのうちの一種をさらに含んでいる請求項23の自動車用ホイール。
【請求項25】
コーティングはニッケル基超合金を含んでいる請求項22の自動車用ホイール。
【請求項26】
コーティングはビードシート領域保持フランジに形成される請求項22の自動車用ホイール。
【請求項27】
既存の自動車用ホイールの耐摩耗性及び耐食性を向上させるために、既存の自動車用ホイールをコーティングする方法であって、
使用された自動車用ホイールを準備し、
使用された自動車用ホイールの表面を前処理し、
耐摩耗性及び耐食性のコーティングを、使用された自動車用表面の少なくともビードシート領域に形成する、
ステップを含んでいる方法。
【請求項28】
コーティングは、自動車用ホイールのタイヤビード保持フランジに形成される請求項27の方法。
【請求項29】
自動車用ホイールは、鍛造アルミニウムから作られる請求項27の方法。
【請求項30】
自動車用ホイールは、鋳造アルミニウムから作られる請求項27の方法。
【請求項31】
コーティングはタングステンカーバイドを含んでいる請求項27の方法。
【請求項32】
コーティングはコバルト及びクロムのうちの一種をさらに含んでいる請求項27の方法。
【請求項33】
コーティングはニッケル基超合金を含んでいる請求項27の方法。
【請求項34】
コーティングはアルミニウム及びシリコンカーバイドを含んでいる請求項27の方法。
【請求項35】
コーティングはステンレス鋼を含んでいる請求項27の方法。
【請求項36】
コーティングは、ニッケル、クロム、鉄、シリコン及びボロンを含み、選択的にクロムカーバイド又はタングステンカーバイドを含んでいる請求項27の方法。
【請求項37】
コーティングの形成は、コールドスプレー、溶射及び摩擦帯電電荷の動的スプレー放電からなる群から選択される方法によって行われる請求項27の方法。
【請求項38】
コーティングの形成は、高速燃焼、低速燃焼、プラズマスプレー及びツインアークスプレーからなる群から選択される方法によって行われる請求項27の方法。
【請求項39】
コーティングは、約0.004−0.01インチの厚さに形成される請求項27の方法。
【請求項40】
自動車用ホイールの表面を機械加工することにより、自動車用ホイールの表面を前処理するステップをさらに含んでいる請求項27の方法。
【請求項41】
自動車用ホイールの表面を機械加工するステップは、自動車用ホイールの表面について、機械的粗面形成加工、ローレット加工、グリットブラスティング処理のうちの1つを行なうステップを含んでいる請求項27の方法。
【請求項42】
自動車用ホイールの表面を化学的エッチングすることにより、自動車用ホイールの表面を前処理するステップをさらに含んでいる請求項27の方法。
【請求項43】
自動車用ホイールの表面を高圧水でブラスティングすることにより、自動車用ホイールの表面を前処理するステップをさらに含んでいる請求項27の方法。
【請求項44】
請求項1に記載の方法によってコーティングされたホイールであって、コーティングはタングステンクロムカーバイドを含み、選択的に、コバルト又はニッケル基超合金を含んでおり、少なくともビードシート領域がコーティングされるホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−509617(P2006−509617A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540026(P2004−540026)
【出願日】平成15年9月25日(2003.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2003/030526
【国際公開番号】WO2004/028833
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(500277629)アルコア インコーポレイテッド (49)
【Fターム(参考)】