説明

コーティング剤および金属積層体

【課題】プラスチック成形品の表面と金属メッキ膜との密着性に優れ、かつ良好な耐熱性を有するコーティング剤および、高温条件下でも金属の剥離がない金属積層体を提供すること。
【解決手段】チオール基含有シルセスキオキサン(A)、水酸基含有アクリルポリマー(B)および有機溶剤(C)を含有することを特徴とするコーティング剤、当該コーティング剤をプラスチック基材に塗布、硬化した後、金属メッキしてできる金属積層体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤および金属積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック成形品の表面に金属膜を形成させる場合、直接金属膜を形成させるだけでは密着性が低いために、プラスチックの種類に応じて表面処理を行った後に、金属膜を形成する必要があった。しかしこの手法ではプラスチックによって表面処理の方法が異なり、プラスチックの種類によっては作製する金属膜の金属種が限定されるなどの問題があった。
【0003】
そこで近年、金属、プラスチック両方への接着性に優れるプライマーをプラスチック表面に予め塗布してから成膜する手法が多く用いられている。プライマーを用いることにより、プラスチックに種々の金属を密着性よく成膜することができる。
【0004】
しかし、積層体製造時の金属蒸着やスパッタに際し、耐熱性の低いプライマーを用いた場合には、ターゲットを高温にすることができず、生産速度が遅くなるため、生産効率が悪くなるという問題があった。そこで、特定のアクリルアミド系樹脂を用いたアンダーコーティング剤等の耐熱性に優れたプライマーが提案されている(例えば特許文献1参照)。当該方法によれば、耐熱性に優れたプライマーが得られるものの、プラスチック成形品の表面および金属メッキ膜との密着性がさらに向上したプライマーが求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開2004−131653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プラスチック成形品の表面および金属メッキ膜との密着性に優れ、かつ良好な耐熱性を有するコーティング剤ならびに高温条件下でも金属の剥離がない金属積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、チオール基含有シルセスキオキサンと水酸基含有アクリルポリマーを含有する組成物を用いることにより、前記目的に合致するコーティング剤を提供できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、チオール基含有シルセスキオキサン(A)、水酸基含有アクリルポリマー(B)、および有機溶剤(C)を含有することを特徴とするコーティング剤;当該コーティング剤をプラスチック基材に塗布、硬化した後、金属メッキして得られる金属積層体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性、プラスチックへの高い密着性、金属への高い密着性などの諸特性が改善されたコーティング剤を提供しうる。本発明のコーティング剤は、プライマーとして好適である。また、該コーティング剤から得られる本発明のプライマーを用いて作製される金属積層体は電磁波シールド、反射防止フィルムなどとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のコーティング剤は、チオール基含有シルセスキオキサン(A)(以下、成分(A)という)、水酸基含有アクリルポリマー(B)(以下、成分(B)という)、および有機溶剤(C)(以下、成分(C)という)を含有することを特徴とする。なお、本発明のコーティング剤には、必要に応じて官能基数が2以上であるポリイソシアネート類(D)(以下、成分(D)という)が含まれていてもよい。
【0011】
本発明で用いられる成分(A)は、一般式(1):R1Si(OR23
(式中、R1は少なくとも1つのチオール基を有する炭素数1〜8の炭化水素基、または少なくとも1つのチオール基を有する芳香族炭化水素基を表し、R2は水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表す。)で示されるチオール基含有アルコキシシラン類(a1)(以下、成分(a1)という)を70〜100モル%程度含むアルコキシシラン類を加水分解および縮合して得られる化合物である。成分(a1)の含有量が70〜100モル%の範囲にない場合には、得られる成分(A)中に含まれるチオール基の数が少なくなるため、熱硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性などの物性についての改善効果も不充分となるため好ましくない。成分(a1)の具体例としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリブトキシシラン、1,4−ジメルカプト−2−(トリメトキシシリル)ブタン、1,4−ジメルカプト−2−(トリエトキシシリル)ブタン、1,4−ジメルカプト−2−(トリプロポキシシリル)ブタン、1,4−ジメルカプト−2−(トリブトキシシリル)ブタン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、2−メルカプトメチル−3−メルカプトプロピルトリブトキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリメトキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリエトキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリプロポキシシラン、1,2−ジメルカプトエチルトリブトキシシランなどがあげられ、該例示化合物はいずれか単独で、または適宜に組み合わせて使用できる。該例示化合物のうち、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランは、加水分解反応の反応性が高く、かつ入手が容易であるため特に好ましい。
【0012】
また、成分(a1)に加えて、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシランなどのトリアルキルアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのジアルキルジアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシラン類、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタンなどのテトラアルコキシチタン類、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウムなどのテトラアルコキシジルコニウム類などの金属アルコキシド類(a2)(以下、成分(a2)という)を使用しうる。成分(a2)は、いずれか単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、トリアルキルアルコキシシラン類、ジアルキルジアルコキシシラン類、テトラアルコキシシラン類を用いることで、成分(A)の架橋密度を調整することができる。アルキルトリアルコキシシラン類を用いることで、成分(A)中に含まれるチオール基の量を調整することができる。テトラアルコキシチタン類、テトラアルコキシジルコニウム類を用いることで、最終的に得られる熱硬化物の屈折率を高くすることができる。
【0013】
成分(a1)と成分(a2)を併用する場合は、[成分(a1)に含まれるチオール基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数](1分子あたりに含まれるチオール基の平均個数を示す)が0.2以上であることが好ましい。0.2未満である場合、得られる成分(A)中に含まれるチオール基の数が少なくなるため、熱硬化性が低下するとともに、硬化物の硬度などの物性についての改善効果も不充分となる傾向がある。また、[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)と成分(a2)の合計モル数](1分子あたりに含まれるアルコキシ基の平均個数を示す)が2.5以上3.5以下であることが好ましく、2.7以上3.2以下であることがより好ましい。2.5未満の場合、得られる成分(A)の架橋密度が低く、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。また、3.5を超える場合、成分(A)を製造する際、ゲル化しやすくなる傾向がある。
【0014】
本発明に用いられる成分(A)は、成分(a1)単独やこれに成分(a2)を併用して、それらを加水分解後、縮合させて得ることができる。加水分解反応によって、成分(a1)や成分(a2)に含まれるアルコキシ基が水酸基となり、アルコールが副生する。加水分解反応に必要な水の量は、[加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)が0.4以上10以下であればよく、好ましくは1である。0.4未満の場合、成分(A)中に加水分解されずに残るアルコキシ基があるため好ましくない。また、10を超える場合、後に行う縮合反応(脱水反応)の際に除くべき水の量が多くなるため、経済的に不利である。
【0015】
また、成分(a2)としてテトラアルコキシチタン類、テトラアルコキシジルコニウム類等、特に加水分解性および縮合反応性の高い金属アルコキシド類を併用する場合には、急速に加水分解および縮合反応が進行し、系がゲル化してしまう場合がある。この場合、成分(a1)の加水分解反応を終了させ、実質的にすべての水が消費された状態にした後、該成分(a2)を添加することによって、ゲル化を避けることができる。
【0016】
加水分解反応に用いる触媒としては、特に限定はされず、従来公知の加水分解触媒を任意に用いることができる。これらのうちギ酸は、触媒活性が高く、また引き続く縮合反応の触媒としても機能するので好ましい。ギ酸の添加量は、成分(a1)および成分(a2)の合計100重量部に対して、0.1〜25重量部程度であることが好ましく、1〜10重量部であることがより好ましい。25重量部よりも多いと、得られる熱硬化性樹脂組成物の安定性が低下する傾向があり、また後工程でギ酸を除去できるとしても該除去量が多くなる傾向がある。一方、0.1重量部よりも少ないと、実質的に反応が進行しない、または反応時間が長くなるなどの傾向がある。反応温度、時間は、成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じて任意に設定できるが、通常0〜100℃程度、好ましくは20〜60℃、1分〜2時間程度である。該加水分解反応は、溶剤の存在下または不存在下に行うことができる。溶剤の種類は特に限定されず、任意の溶剤を1種類以上選択して用いることができるが、後述の縮合反応に用いる溶剤と同一のものを用いることが好ましい。成分(a1)や成分(a2)の反応性が低い場合は、無溶剤で行うことが好ましい。
【0017】
上記方法で加水分解反応を行うが、[加水分解されてできた水酸基のモル数]/[成分(a1)と成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)が0.5以上になるように進行させることが好ましく、0.8以上に調整することがさらに好ましい。加水分解反応に続く縮合反応は、加水分解で生じた水酸基間だけでなく、該水酸基と残存アルコキシ基との間でも進行するため、少なくとも半分(モル比が0.5以上)が加水分解されていればよい。
【0018】
縮合反応においては、前記の水酸基間で水が副生し、また水酸基とアルコキシ基間ではアルコールが副生して、高分子化する。縮合反応には、従来公知の脱水縮合触媒を任意に用いることができる。前記のように、ギ酸は触媒活性が高く、加水分解反応の触媒と共用できるため好ましい。反応温度、時間は成分(a1)や成分(a2)の反応性に応じてそれぞれ任意に設定できるが、通常は40〜150℃程度、好ましくは60〜100℃、30分〜12時間程度である。
【0019】
上記方法で縮合反応を行うが、[未反応の水酸基および未反応のアルコキシ基の合計モル数]/[成分(a1)や成分(a2)に含まれる各アルコキシ基の合計モル数](モル比)が0.3以下になるように進行させることが好ましく、0.2以下に調整することがさらに好ましい。0.3を超える場合、未反応の水酸基およびアルコキシ基が熱硬化性樹脂組成物の保管中に縮合反応してゲル化したり、硬化後に縮合反応し揮発分が発生してクラックが発生するなど、硬化物の性能を損なう傾向があるため好ましくない。
【0020】
当該縮合反応は、成分(a1)(成分(a2)を併用する場合は両者)の濃度が2〜80重量%程度になるように溶剤希釈して行うことが好ましく、15〜60重量%であることがより好ましい。縮合反応によって生成する水およびアルコールの沸点より高い沸点を有する溶剤を用いると、反応系中よりこれらを留去することができるため好ましい。該濃度が2重量%未満である場合は、得られる熱硬化性組成物に含まれる成分(A)が少なくなるため好ましくない。80重量%を超える場合は、反応中にゲル化したり、生成する成分(A)の分子量が大きくなり過ぎ、得られる熱硬化性組成物の保存安定性が悪くなる傾向がある。溶剤としては、任意の溶剤を1種類以上選択して用いることができる。縮合反応によって生成する水およびアルコールより高い沸点を有する溶剤を用いれば、反応系中よりこれらを留去することができるため好ましい。
【0021】
当該縮合反応の終了後、用いた触媒を除去すると、最終的に得られる熱硬化性樹脂組成物の安定性が向上するため好ましい。除去方法は、用いた触媒に応じて公知各種の方法から適宜に選択できる。例えば、ギ酸を用いた場合は、縮合反応の終了後、該沸点以上に加熱する、減圧するなどの方法により容易に除去でき、この点からもギ酸の使用が好ましい。
【0022】
本発明に用いられる成分(B)としては、水酸基を有する単量体とアクリル単量体を必須構成成分としてなる共重合体であればよく、アクリル単量体の種類やそれらの使用量については格別限定されない。
【0023】
水酸基を有する単量体としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸のε−カプロラクトン付加物などがあげられる。当該成分の使用量は2モル%以上、10モル%以下とするのがよく、かかる使用量とすることで得られる皮膜塗膜の耐水性や高硬度に悪影響することなく、柔軟性を高めることができる。
【0024】
成分(B)を構成するアクリル単量体としては、特に限定されず公知のものを使用することができる。具体的には、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、C8−22直鎖脂肪族アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー類をあげることができる。
【0025】
本発明における成分(B)では、本発明の目的を逸脱しない限り、前記以外の構成単量体も特に限定なく使用することができる。当該任意単量体としては、スチレン、メチルスチレン等のスチレン類、アクリロニトリル、ブタジエンなどがあげられる。当該任意単量体の使用量は成分(B)に用いる総単量体のうち、通常30重量%未満とされる。
【0026】
成分(B)の製造は、従来公知のランダム共重合法やブロック共重合法を採用して、上記の各構成成分を重合させることにより行う。ランダム共重合法としては、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物や2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾビス系化合物などのラジカル重合開始剤を用いた溶液重合法があげられ、またブロック共重合法としては、異なる性質のポリマーを直鎖状に結合した直鎖状ブロック共重合と、幹となるポリマーに異なる性質のポリマーが枝状に結合した櫛形ブロック共重合する方法などがあげられる。
【0027】
成分(B)の分子量は、特に限定されないが、通常は数平均分子量が5,000〜200,000程度であるのが好ましい。数平均分子量が5,000未満では硬化膜に割れを生じやすく、また200,000を超えると成分(B)の溶液粘度が上がり、得られるコーティング剤の固形分量が低下するため、いずれも好ましくない。
【0028】
なお、成分(B)の製造時に、分子量の調整目的で、従来公知の連鎖移動剤を使用することもできる。当該連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のチオール類や、四塩化炭素等のハロゲン化合物類があげられる。これらのうち、トリメトキシシリルチオール等のチオール基含有のシランカップリング剤を用いることができ、当該連鎖移動剤を使用することにより、成分(B)の分子末端にメトキシシリル基が導入され、硬化膜の耐摩擦性が向上するという利点がある。
【0029】
成分(B)の重合温度及び時間は特に限定されず、用いるラジカル開始剤のラジカル発生温度、半減期によって適宜決定される。また、成分(B)の製造時の重合熱を制御するためには、有機溶剤中で重合させることが好ましい。当該有機溶剤としては、生成する成分(B)を溶解し、重合温度より高い沸点を有し、しかも成分(A)、成分(B)および成分(D)に対して非反応性のものであれば特に限定されず使用可能である。なお、重合温度より低い沸点を有するものを併用しても差し支えはないが、ラジカル開始剤のラジカル発生温度より高い沸点を有するものを70重量%以上使用することが好ましい。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;セロソルブアセテート、メチルセロソルブアセテート、ジメチルジグリコール等のセロソルブ系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール溶剤などがあげられ、これらは単独または混合して使用できる。当該有機溶剤は後述する成分(C)と同種のものを用いることが好ましい。有機溶剤の使用量は特に限定されないが、用いる単量体の重合熱と反応速度を考慮して、40〜80重量%程度であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いられる成分(C)は、成分(A)、成分(B)および成分(D)に対して非反応性であり、それらを溶解するものであれば、公知の各種溶剤を用いることができる。具体的には、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;セロソルブアセテート、メチルセロソルブアセテート、ジメチルジグリコール等のセロソルブ系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール溶剤などがあげられ、これらは単独または混合して使用できる。成分(C)の含有量は、コーティング剤の成分(A)、成分(B)および成分(D)の濃度を1〜50重量%程度に調製するように添加することで、得られるコーティング剤の塗布性を向上させることができるため好ましい。
【0031】
本発明で用いられる成分(D)は、特に限定されず、従来公知のイソシアネート基を2つ以上有する化合物を適宜に用いることができる。該ポリイソシアネート化合物としては、たとえば芳香族、脂肪族または脂環族の各種公知のポリイソシアネート類を使用することができ、より具体的には、たとえば、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートやダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、ポリカーボネートジオールやポリエステルジオールなどのポリオール類のジイソシアネート変性物などがあげられる。これらの化合物は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。該例示化合物のうち、イソホロンジイソシアネートは、最終的に得られる硬化物が無色透明性、耐熱性等に優れ、かつ入手が容易であるため特に好ましい。
【0032】
本発明のコーティグ剤に使用できる触媒としては、特に限定されず公知のウレタン化触媒を用いることができる。例えば、ジブチルスズジラウレート、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物、1,8−ジアザ−ビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類などをあげることができる。ウレタン化触媒はコーティグ剤100重量部に対し、0.01〜5重量部程度の割合で使用することが好ましい。
【0033】
本発明のコーティグ剤は前記成分(A)〜(D)、必要に応じ各種添加剤を混合することにより得られる。
【0034】
本発明のコーティグ剤に用いられる成分(A)、成分(B)および成分(D)の使用割合は、 [成分(A)に含まれるチオール基のモル数または成分(B)に含まれる水酸基のモル数]/[成分(D)に含まれるイソシアネート基のモル数](モル比)が、0.5〜2.0程度となるよう配合することが好ましく、より好ましくは1.0前後である。0.5未満である場合は、熱硬化後にもイソシアネート基が残存し、耐候性が低下する傾向がある。また、2.0を超える場合は、チオール基または水酸基が残存し、架橋度が低くなるため、硬化物の耐熱性、表面硬度等の物性が低下する傾向がある。
【0035】
また、本発明のコーティング剤には、用途に応じ、前記成分(a1)および/またはその加水分解物(但し、該縮合物は除く)[以下、併せて成分(E)という]を配合できる。成分(E)は、成分(A)の合成に際して用いた成分(a1)をそのままで用いるか、その加水分解物を用いるか、これらを組み合わせて使用できる。成分(E)を含有するコーティグ剤を、ガラス、金属等の無機基材に対するコーティングに用いると、該密着性をより向上できる利点がある。成分(E)の配合量は、該組成物100重量部に対して、0.1〜20重量部程度であることが好ましい。0.1重量部未満の場合は、該コーティグ剤の無機基材に対する密着性向上効果が不充分となる傾向がある。また、20重量部を超える場合、成分(D)が加水分解、縮合反応する際の揮発分が多くなるため、該コーティグ剤が厚膜硬化できなくなる、または得られる硬化物が脆くなる傾向がある。このような成分(E)としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが、当該密着性向上効果の点で特に好ましい。
【0036】
また、本発明のコーティング剤には、用途に応じ、前記成分(a2)である金属アルコキシド類および/またはその加水分解物(但し、縮合物は含まず)(F)[以下、併せて成分(F)という]を配合できる。成分(F)は、成分(A)の合成に際して用いた金属アルコキシド類をそのままで用いるか、その加水分解物を用いるか、これらを組み合わせて使用できる。成分(F)を含有するコーティグ剤を用いることで、得られる硬化物の屈折率を調整することができる。該コーティグ剤を高屈折率のコーティング剤として用いる場合には、成分(F)としてアルコキシチタン類、アルコキシジルコニウム類が好適である。成分(F)の配合量は、コーティグ剤100重量部に対して、0.1〜20重量部程度であることが好ましい。0.1重量部に満たない場合には、屈折率向上効果が不充分となる傾向がある。また、20重量部を超える場合は、成分(F)が加水分解、縮合反応する際の揮発分が多くなるため、コーティグ剤が硬化時に発泡したり、反りやクラックが発生したり、得られる硬化物が脆くなったりする傾向がある。
【0037】
さらに、本発明のコーティング剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種用途での必要性に応じて、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、フィラー等を配合してもよい。
【0038】
本発明のコーティング剤を所望の基材に塗布し、熱硬化させることでコーティング層を得ることができる。基材としては、ガラス、鉄、アルミ、銅、ITO等の無機基材、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリスチレン樹脂(PSt)、ポリカーボネート樹脂(PC)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)等の有機基材など、各種公知のものを適宜に選択使用できる。
【0039】
本発明のコーティング剤を基材に塗布する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、たとえば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、ディップ塗布等を挙げることができる。
【0040】
有機基材へコーティンングする際、密着性が不足する場合には、前述のように成分(E)を併用することが好ましい。また、コーティング剤を溶剤希釈することで、コーティング性をある程度向上させることもできる。本発明のコーティング剤を塗布し、熱硬化させることで、導光板、偏光板、液晶パネル、ELパネル、PDPパネル、OHPフィルム、光ファイバー、カラーフィルター、光ディスク基板、レンズ、液晶セル用プラスチック基板、プリズム等にコーティング層を形成させることができる。
【0041】
また、コーティング剤から得られる硬化膜の屈折率が基材より高い場合には、反射防止効果を付与することができる。成分(A)の製造に際して、成分(a2)を成分(a1)と併用したり、前述のように成分(F)として該金属アルコキシド類を用いることで、該コーティング剤から得られる硬化膜の屈折率を向上させることができる。そのため、導光板、偏光板、液晶パネル、ELパネル、PDPパネル、OHPフィルム、光ファイバー、カラーフィルター、光ディスク基板、レンズ、液晶セル用プラスチック基板、プリズムに対して適用されるコーティング層に反射防止効果を付与したい場合には、コーティング剤に当該成分を適量添加しておくことが好ましい。
【0042】
乾燥方法としては、循環式オーブン等、各種乾燥方法を用いることができる。乾燥温度は、作業性、溶剤の乾燥性、硬化反応の促進の観点から、80〜170℃程度であることが好ましい。
【0043】
該コーティング剤を基材に塗布硬化した後に、金属メッキすることで金属膜を成膜することができる。金属膜に使用されうる金属としては、例えば、銀、銅、ニッケル、クロム、黒色クロム、黒色ニッケル、錫合金、銅合金、ニッケル合金、金、金合金、ロジウム、黒色ロジウム、パラジウム、白金が挙げられる。
【0044】
金属薄膜は、その製造について、特に制限されず、例えば、電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、金属塗料の塗布が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、各例中、「部」および「%」は特記しない限り重量基準である。
【0046】
製造例1(縮合物(A)の製造)
攪拌機、冷却管、分水器、温度計、窒素吹き込み口を備えた反応装置に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製:商品名「SH−6062」)180部、イオン交換水49.55部([加水分解反応に用いる水のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)=1.0)、95%ギ酸9.0部を仕込み、室温で30分間加水分解反応させた。反応中、発熱によって最大22℃温度上昇した。反応後、トルエン272.23部を仕込み、加熱した。72℃まで昇温したところで、加水分解によって発生したメタノールとトルエンの一部が留去され始めた。20分かけて75℃まで昇温し、縮合反応させて水を留去した。さらに1時間、75℃で反応させた後、70℃、20kPaで減圧して、残存するメタノール、水、ギ酸を留去した。さらに70℃、670kPaで減圧して、トルエンを留去することで、縮合物(A−1)を124.49部得た。[未反応の水酸基およびアルコキシ基のモル数]/[成分(a1)に含まれるアルコキシ基のモル数](モル比)は0.16、濃度は93.7%であった。また縮合物(A−1)のチオール当量は、136g/eqであった。
【0047】
製造例2((B−1)の製造)
攪拌機、冷却管、温度計およびガス導入管を備えた反応装置に、酢酸ブチル960gを仕込み90℃に昇温した後、窒素気流下にターシャリーブチルパーオキサイド(日本油脂(株)製、商品名「パーブチルD」)12g、メチルメタクリレート360g、また2−ヒドロキシエチルメタクリレート40gからなる混合物を2時間で滴下した。さらに窒素を吹き込みながら、8時間、115℃で反応させることにより、固形分率30%の水酸基含有アクリルポリマーを得た。
【0048】
製造例3((B−2)の製造)
製造例2と同様の反応装置に、酢酸ブチル960gを仕込み90℃に昇温した後、窒素気流下にターシャリーブチルパーオキサイド12g、ブチルメタクリレート60g、メチルメタクリレート300g、また2−ヒドロキシエチルメタクリレート40gからなる混合物を2時間で滴下した。さらに窒素を吹き込みながら、8時間、115℃で反応させることにより、固形分率30%の水酸基含有アクリルポリマーを得た。
【0049】
実施例1
製造例1で得られた縮合物(A)100部と、製造例2で得られた水酸基含有アクリルポリマー(B−1)を312部、成分(C)としてメチルエチルケトン(MEK)を401部、さらに成分Dとしてイソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業社製 :商品名「コロネートHX」、イソシアネート当量200.0g/eq)を81部、ジブチルスズジラウレート(日東化成(株):商品名「ネオスタンU−100」)1.8部を配し、コーティング剤(G−1)とした。
【0050】
実施例2
製造例1で得られた縮合物(A)100部と、製造例3で得られた水酸基含有アクリルポリマー(B−2)を312部、成分(C)としてMEKを401部さらに成分DとしてコロネートHXを81部とネオスタンU−100を1.8部配し、コーティング剤(G−2)とした。
【0051】
比較例1
縮合物(A)を100部と、成分(C)としてMEKを385部、成分DとしてコロネートHXを74部、さらにネオスタンU−100を0.9部配し、コーティング剤(H−1)とした。
【0052】
比較例2
製造例2で得られた水酸基含有アクリルポリマー(B−1)を100部と、成分(C)としてMEKを11.2部、成分DとしてコロネートHXを4.8部、さらにネオスタンU−100を0.3部配し、コーティング剤(H−2)とした。
【0053】
比較例3
縮合物(A)に代わって、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(以下TMMP、堺化学工業(株)製:商品名「TMMP」、チオール当量133g/eq)を用い、TMMP 100部、成分(C)としてMEKを408部、成分DとしてコロネートHXを75部、さらにネオスタンU−100を1.0部配し、コーティング剤(H−3)とした。
【0054】
【表1】

【0055】
(密着性試験(PET))
PETとの密着性の評価を碁盤目テープ剥離試験により行った。
コーティング剤(G−1、2 H−1、2、3)を硬化後の膜厚が5μmとなるようバーコーターによりPET基板上に塗工し、順風乾燥機により150℃で1分間乾燥させることで硬化膜を得た。次に、1mmの基盤目100個(10×10)を作り、基盤目上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端を金属蒸着膜に直角に保ち、瞬間的に引き離し、完全に剥がれないで残った基盤目の数を調べた。結果を表2に示す。
【0056】
(密着性試験(金属))
金属との密着性の評価を碁盤目テープ剥離試験により行った。
コーティング剤(G−1、2 H−1、2、3)を、硬化後の膜厚が5μmとなるよう、バーコーターによりPET基板上に塗工し、順風乾燥機により150℃で1分間乾燥させることで硬化膜を得た。その硬化膜塗布面上に真空蒸着により銀蒸着膜を1μm程度成膜することで金属積層体を得た。次に、試験体に1mmの基盤目100個(10×10)を作り、基盤目上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端を金属蒸着膜に直角に保ち、瞬間的に引き離し、完全に剥がれないで残った基盤目の数を調べた。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2より明らかなように、成分Aもしくはチオール基を含有する有機化合物を配した実施例1、2、比較例1、3の硬化物は、比較例2の硬化物に比べて、金属への密着性が大きく向上していることが分かる。
【0059】
(柔軟性試験)
コーティング剤(G−1、2 H−1、2、3)を硬化後の膜厚が10μmとなるようバーコーターによりPET基板上に塗工し、順風乾燥機により80℃で2時間、120℃で2時間乾燥させることで硬化膜を得た。得られた試験片を折り曲げた際にクラックが生じるか否かで柔軟性を評価した。結果を表3に示す。なお、評価基準は以下の通りとした。○:クラックが生じない、×:クラックが生じる
【0060】
【表3】

【0061】
表3より、成分(B)を配したコーティング剤の硬化物は柔軟性を有していることが分かる。このため、フレキシブルな液晶パネル、ELパネル、PDPパネル、カラーフィルター等のプライマーとして用いるのにより好適であると認められる。
【0062】
(耐熱性)
コーティング剤(G−1、2 H−1、3)を、硬化後の膜厚が5μmとなるよう、バーコーターによりPET基板上に塗工し、順風乾燥機により150℃で1分間乾燥させることで硬化膜を得た。その硬化膜塗布面上に真空蒸着により銀蒸着膜を1μm程度成膜することで金属積層体を得た。次に、順風乾燥機によって150℃で2時間加熱した。その後、試験体に1mmの基盤目100個(10×10)を作り、基盤目上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端を金属蒸着膜に直角に保ち、瞬間的に引き離し、完全に剥がれないで残った基盤目の数を調べた。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4より、比較例3は加熱処理後には金属に密着しなくなるが、成分(A)を配したコーティング剤(G−1、2、H−1)の硬化物は、加熱処理後も金属に密着していることから、耐熱性が高いことが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール基含有シルセスキオキサン(A)、水酸基含有アクリルポリマー(B)および有機溶剤(C)を含有することを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
チオール基含有シルセスキオキサン(A)が、一般式(1):RSi(OR(式中、Rは少なくとも1つのチオール基を有する炭素数1〜8の炭化水素基、または少なくとも1つのチオール基を有する芳香族炭化水素基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、または芳香族炭化水素基を表す。)で示されるチオール基含有アルコキシシランを70〜100モル%含むアルコキシシラン類の縮重合体であることを特徴とする請求項1記載のコーティング剤。
【請求項3】
官能基数が2以上であるポリイソシアネート類(D)を含有することを特徴とする請求項1または2記載のコーティング剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング剤をプラスチック基材に塗布、硬化した後、金属メッキして得られる金属積層体。


【公開番号】特開2010−155892(P2010−155892A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334255(P2008−334255)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】