説明

コーティング液、金属酸化物膜およびその形成方法

【課題】 より低温で、より安全に、(低コストで)金属酸化物膜、特に透明導電性膜として重要なITO膜などの金属酸化物膜を形成可能なコーティング液、該コーティング液を用いて形成される金属酸化物膜、さらに、このITO膜などの金属酸化物膜を電極として用いた有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を提供すること。
【解決手段】 金属イオンと、金属イオン配位が可能な官能基を有するバインダーとを含み、塗布後に加熱処理によって金属酸化物膜が形成されることを特徴とするコーティング液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布方法によって高品質の金属酸化物膜が形成し得るコーティング液、金属酸化物膜およびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム・スズ酸化物、酸化スズ、酸化亜鉛などの金属酸化物は、電子デバイスを形成する上で重要な導電性膜用材料として重要である。このような導電膜を形成する方法としては、スパッタリング法やゾルゲル法が知られており、この他にも、用いる材料や用途に合わせて様々な膜形成方法が提案されている。
【0003】
上記スパッタリング法は、その膜形成装置が複雑で、かつ高価なため、コストおよび生産性に課題が残る。また、この課題を解決する方法として、例えば、特許文献1に代表されるような、ゾルゲル法による塗布法による形成方法が提案されているが、まだその品質は必ずしも十分とは言えない。また、高い電気的特性および光透過性が求められる用途に対しては、金属酸化物膜を形成する際に300℃付近まで加熱する必要がある。さらに、ゾルゲル法による金属酸化物膜形成には、活性の高いモノマーを用いるため、材料安全や作業安全的にも改良の必要があった。(例えば、酸化スズ形成の一原料に、塩化トリ−n−ブチルスズは、内分泌撹乱化学物質、所謂環境ホルモンに指定されており、非常にリスクの高い材料である。)
【特許文献1】特公平3−46402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、より低温で、より安全に、(低コストで)金属酸化物膜、特に透明導電性膜として重要なITO膜などの金属酸化物膜を形成可能なコーティング液、該コーティング液を用いて形成される金属酸化物膜、さらに、このITO膜などの金属酸化物膜を電極として用いた有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、金属イオンと、金属イオン配位が可能な官能基を有するバインダーとを含み、塗布後に加熱処理によって金属酸化物膜が形成されることを特徴とするコーティング液を提供する。
【0006】
上記本発明においては、前記バインダーが、コーティング液の段階では安定な金属配位体を形成し、乾燥後に加熱処理して一部または全部が分解して系外へ脱離するバインダーであること;前記バインダーが、多分散度1未満の化合物であること;前記バインダーが、線状または分岐状ポリアミンであること;前記金属イオンが、スズイオン、インジウムイオンまたは両イオンの併用であることが好ましい。
【0007】
また、本発明は、前記本発明のコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することによって得られたことを特徴とする金属酸化物膜を提供する。該金属酸化物膜が高導電性を有すること;該金属酸化物膜が高光透過性を有すること;および金属酸化物がITOであることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、前記本発明のITO膜を電極として有してなることを特徴とする電子デバイス、前記ITO膜を電極として有してなることを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0009】
また、本発明は、(1)金属イオン配位が可能な官能基を有するバインダーと、形成したい酸化物の原料となる金属イオン源とを有機溶剤中において化学反応させ、金属イオンとバインダーとの錯体化合物を含むコーティング液を調製し、(2)次いで、得られたコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することによって、金属イオンを酸化させるとともに、バインダーの一部または全部を除去することを特徴とする金属酸化物膜の形成方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記本発明のコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することを特徴とする金属酸化物膜の形成方法を提供する。この方法では、形成される金属酸化物膜が、高導電性を有すること;形成される金属酸化物膜が、高光透過性を有すること;および金属酸化物が、ITOであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、通常の塗布法により金属酸化物膜を形成する際に一般的に用いられる、活性(毒性)の高い加水分解性モノマー(金属アルコキシド)を用いず、金属イオン配位が可能な官能基を有する、高成膜性、低熱安定性のバインダーに、酸化物の元となる所望の金属イオンを配位させたコーティング液を予め調製して用いる。本コーティング液を、基板上に塗布後、加熱(バインダーは還元または分解、イオンは酸化)させることで、比較的低温で、より安全に、求める金属酸化物膜を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のコーティング液は、金属イオンと、金属イオン配位が可能な官能基を有するバインダーとを含むことが特徴であり、該コーティング液を基板に塗布後に加熱処理によって基板上に金属酸化物膜を形成することができる。
【0013】
上記本発明のコーティング液に使用する金属イオン源としては、例えば、スズ、インジウム、チタン、亜鉛の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、これらの金属の金属有機化合物などが挙げられ、特にスズおよびインジウムの上記化合物の併用が好ましい。該両金属化合物を併用する場合の両化合物のモル比は80:20〜90:10であることが好ましい。
【0014】
上記本発明のコーティング液に使用する前記バインダーは、コーティング液の段階では安定な金属配位体を形成し、乾燥後に熱分解して一部または全部が分解して系外へ脱離するバインダーである。該バインダーは、多分散度1未満の化合物であること、および具体的には線状または分岐状ポリアミンであることが好ましい。このようなバインダーとしては、例えば、プトレシン、スペルミジン、スペルミン、ポリビニルアミンなどが挙げられる。
【0015】
本発明のコーティング液は、以下の方法で調製できる。
(1)先ず、バインダーを適当な溶剤に溶解し、該溶液中に金属イオン源を加えて錯体化合物を形成し、生成した錯体化合物を単離し、単離した錯体化合物を適当な溶剤に溶解する方法。
(2)適当な溶剤中に前記バインダーと金属イオン源とを加えて錯体化合物を形成し、該溶液をコーティング液とする方法。
上記で使用する溶剤は錯体化合物を溶解する溶剤であればよく特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、テトラリン、メシチレンなどが挙げられる。
【0016】
上記の如き方法により本発明のコーティング液が形成されるが、金属イオン源(A)とバインダー(B)とは、A/B=1〜10の質量比で用いることが好ましい。コーティング液の濃度は金属イオンとバインダーを含む固形分が約1〜50質量%の溶液とすることが好ましい。固形分が1質量%未満では、コーティング液が希薄であるため、均一な塗布膜の形成、さらには均一な金属酸化物膜の形成が困難となり、一方、固形分が50質量%を超えると、溶剤の種類にもよるが、コーティング液の粘度の上昇が大きくなり、やはり均一な塗布膜の形成、さらには均一な金属酸化物膜の形成が困難となる。
【0017】
上記本発明のコーティング液は、金属酸化物膜の製造に有用である。該金属酸化物膜は、前記本発明のコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することによって得られる。特に金属酸化物膜がITOからなるものは高導電性および高光透過性を有する。
【0018】
上記金属酸化物膜は、(1)金属イオン配位が可能な官能基を有するバインダーと、形成したい酸化物の原料となる金属イオン源とを有機溶剤中において化学反応させ、金属イオンとバインダーとの錯体化合物を含むコーティング液を調製し、
(2)次いで、得られたコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することによって、金属イオンを酸化させるとともに、バインダーの一部または全部を除去することによって得られる。
【0019】
このようにして得られる本発明の金属酸化物膜は、各種電子デバイスの電極の形成に有用である、特に本発明のコーティング液により形成されるITO膜は高導電性および高光透過性を有するので、有機EL素子などの電子デバイスの電極やプリント配線用として有用である。また、本発明のコーティング液は、導電性のある膜を形成するので各種絶縁物、例えば、プラスチック成形品の帯電防止にも有用である。
【0020】
以下に本発明のコーティング液の用途の代表例として有機EL素子の構成を説明する。本発明の有機EL素子は、一対の対向電極と、これらによって挟持された少なくとも正孔輸送層と発光層とから構成されている有機EL素子において、前記一対の対向電極の一方を前記本発明のコーティング液から形成することを除き、その他の構成については特に制限はなく、公知の構造を採用することができる。
【0021】
例えば、前記発光層の両面に一対の電極を有する構造のもの、さらに陰極と発光層の間に電子輸送材料を含む電子輸送層および/または陽極と発光層の間に正孔輸送層として積層したものが例示される。また、発光層や正孔輸送層は、一層の場合と複数の層を組み合わせる場合も本発明に含まれる。
【0022】
次に、本発明の有機EL素子の代表的な作製方法について述べる。陽極および陰極からなる一対の電極は、平面発光の有機EL素子を得るためには、電極の少なくとも一方が透明または半透明であって、この透明または半透明な電極側から発光を取り出すことが望ましいが、素子の端面から発光を取り出す形態を取る場合にはこの限りではない。
【0023】
有機EL素子の基板には石英、ソーダガラスなどのガラス板、金属板や金属箔、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などのプラスチックなどが用いられる。有機EL素子の発光取り出し方向を基板側としたときには、基板および有機EL素子の電極のうち基板上に設けられる電極が透明または半透明であることが望ましく、本発明では上記透明または半透明な電極を本発明のコーティング液から形成する。特に、高導電性、透明性などの点からITOが好ましく、金属イオンとしてスズイオンとインジウムイオンとを併用した本発明のコーティング液を前記の如く用いることが好ましく、電極の厚みは150〜200nmが好ましい。
【0024】
次いで、電極上に正孔輸送層を形成し、該正孔輸送層上に発光層を形成する。発光材料としては、例えば、アルミニウムキノリン錯体などの有機金属錯体や、その誘導体、ポリパラフェニレンビニレンナフタレン誘導体に代表されるπ共役系高分子材料、アントラセンもしくはその誘導体、ペリレンもしくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエンもしくはその誘導体またはテトラフェニルブタジエンもしくはその誘導体などが挙げられる。
【0025】
本発明では、上記発光材料として、特に燐光性のイリジウム化合物を使用することが好ましい。本発明において有用な燐光性のイリジウム化合物としては、例えば、イリジウムと、フェニルピリジン、フェニルピリミジン、ビピリジル、1−フェニルピラゾール、2−フェニルキノリン、2−フェニルベンゾチアゾール、2−フェニル−2−オキサゾリン、2,4−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、5−フェニル−2−(4−ピリジル)−1,3−オキサジアゾール、2−(2−ピリジル−チオフェン)−2−フェニル−4H−3,1−ベンズオキサジン−4またはこれらの誘導体などの窒素原子含有芳香族化合物との錯体化合物が挙げられる。
【0026】
上記正孔輸送層および発光層の形成方法としては、上記の材料の溶融液、溶液、分散液、または混合液を使用するスピンコート法、キャストコート法、ディップコート法、ダイコート法、ビードコート法、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法などの塗布方法により成膜することが特に好ましい。
【0027】
正孔輸送層の好ましい厚みは50〜80nmであり、正孔輸送層の厚みが50nm未満では欠損、欠陥からのショートの発生確率が上がってしまい、結果として有機EL素子特性の安定性、信頼性が得られない点で問題があり、一方、正孔輸送層の厚みが80nmを超えると電気抵抗値が高まり、有機EL素子の電流発光効率が低下してしまう点で問題がある。発光層の膜厚としては、1nm〜1μm、好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜100nmである。なお、塗布法により正孔輸送層および発光層を成膜した場合には、溶媒を除去するために、好ましくは減圧下または不活性雰囲気下で、30〜300℃、好ましくは60〜200℃の温度で加熱乾燥することが望ましい。また、発光層と他の電荷輸送材料とを積層する場合には、上記の成膜方法で発光層を設ける前に陽極上に正孔輸送層を形成する、または発光層を設けた後に電子輸送層を形成することが望ましい。
【0028】
電荷輸送層の形成方法としては、特に限定されないが、固体状態からの真空蒸着法、または溶融状態、溶液状態、分散液状態、混合液状態からのスピンコート法、キャストコート法、ディップコート法、ダイコート法、ビードコート法、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法を用いることができる。電荷輸送層の膜厚としては、1nm〜1μm、好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜100nmである。
【0029】
次いで発光層または電荷輸送層の上に電極を設ける。この電極は陰極となる。陰極としては電子を注入しやすいように4eVより小さい仕事関数を持つものが好ましく、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、セシウムなど)およびそのハロゲン化物(例えば、フッ化リチウム、フッ化セシウム、塩化リチウム、塩化セシウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)およびそのハロゲン化物(フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムなど)、アルミニウム、銀などの金属、導電性金属酸化物およびこれらの合金または混合物などが挙げられる。
【0030】
陰極の作製方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、金属薄膜を圧着するラミネート法などが用いられる。陰極作製後、有機EL素子を保護する保護層を装着してもよい。この有機EL素子を長期間安定的に用いるためには、素子を外部から保護するために、保護層または保護カバーを装着することが望ましい。保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物、珪素酸化物、珪素窒化物などを用いることができる。また、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板などを用いることができ、このカバーを熱硬化樹脂や光硬化樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法が好適に用いられる。
【0031】
図1に本発明の有機EL素子の断面図の一例を示す。例えば、図1(a)のように発光層と陰極の間に隣接して電子輸送性化合物を含む電子注入層を設けたり、また、図1(b)のように発光層と正孔輸送層を兼用させるか、または、発光層と陽極の間に隣接して不図示の正孔輸送性化合物を含む正孔注入層を設けたり、さらに、図1(c)のように電子輸送層と発光層とを兼用させるか、または、発光層と陰極の間に隣接して不図示の電子輸送性化合物を含む電子注入層を設けたり、発光層と陽極の間に隣接して正孔輸送性化合物を含む正孔注入層を設けることによって、電子または正孔、あるいは電子と正孔の両方を有機EL素子に注入しやすくすることが可能になる。
【0032】
本発明の有機EL素子を用いて面状の素子を得るためには、面状の陽極と陰極とが重なり合うように配置すればよい。また、パターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機層を極端に厚く形成して実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方、または両方の電極をパターン状に形成する方法が挙げられる。
【0033】
以上の如くすることにより、容易に高効率な有機EL素子を得ることができる。また、本発明に係る有機EL素子は、その電極がコーティング成膜によって作製可能であるため、大面積の表示領域を有する素子とすることも可能である。このようにして製造された本発明に係る有機EL素子は、モジュール工程を経て得られたモジュールと違方性導電膜(ACF)などで熱圧着され、これにより、本発明に係る有機EL素子が得られる。
【0034】
さらに、ドットマトリクス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置する方法、片方の電極をTFTで選択駆動できるようにする方法などが挙げられる。また、同一面状に発光色の異なる有機EL素子を複数配置することにより部分カラー表示、マルチカラー表示、フルカラー表示が可能となる。
【実施例】
【0035】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1
シグマアルドリッチ社製のスペルミジン(H2N(CH23NH(CH24NH2)1.98gを、蒸留脱水した塩化メチレン50ml中に溶解し、氷冷下で攪拌しながら、関東化学(株)製塩化スズ(SnCl2)5mlを徐々に滴下し、滴下完了後氷浴を除去し、室温で48時間攪拌させた。その後、反応液を濃縮後、クロマトグラフにより未反応物を分離および減圧乾燥させることによって、ポリアミン−スズ錯体化合物1.04gを得た。該錯体化合物をジオキサン中に1質量%の濃度に溶解して本発明のコーティング液(A)を得た。
【0036】
実施例2
実施例1に記載の塩化スズを塩化インジウム(InCl3)に代えた他は、実施例1と同様に錯体化合物を合成および精製し、ポリアミン−インジウム錯体化合物を得た。該錯体化合物をジオキサン中に1質量%の濃度に溶解して本発明のコーティング液(B)を得た。
【0037】
実施例3
実施例1のポリアミン−スズ錯体化合物および実施例2のポリアミン−インジウム錯体化合物を、質量比1:9で混合し、該混合物をポリアミン−[スズ+インジウム]複合錯体化合物とした。該錯体化合物をジオキサン中に1質量%の濃度に溶解して本発明のコーティング液(C)を得た。なお、前記実施例1に記載の方法において、塩化スズを5mlを徐々に加える工程を、塩化スズ0.5mlおよび塩化インジウム4.5mlを、ポリマー溶液を攪拌しながら同時に滴下することによって得られるポリアミン−[スズ+インジウム]複合錯体化合物も本発明で使用できる。
【0038】
なお、実施例1〜3の錯体化合物の合成に関しては、金属源を、金属塩化物ではなく、市販のスズ−アセチルアセトン錯体、インジウム−アセチルアセトン錯体を代わりに用い、配位子交換させることによっても収率はやや低下するものの、所望の錯体化合物を合成することが可能である。また、バインダーもスペルミジンに限らず、ポリアミン、ポリイミン、ポリカルボン酸など、金属イオンと錯体を形成し、成膜性を有する熱分解性材料であれば特に限定されない。また、ポリアミンは、特に合成高分子でなくとも、天然ポリアミン(人体にも存在)を用いることもできる。
【0039】
比較例1
特級エタノール100ml、テトラエトキシインジウム2.67g、テトラエトキシスズ0.42gおよび1規定塩酸水溶液3.5gの混合物を室温で攪拌し、加水分解物溶液(比較例のコーティング液(D))とした。
【0040】
実施例4(金属酸化物膜の形成)
前記コーティング液(A)〜(C)のそれぞれを、洗浄済みガラス基板上にスピンコーティングにより塗布、乾燥および加熱処理することによって、成膜と金属イオンの酸化(バインダー分解、ガス化)が起り、金属酸化物膜を形成した。膜厚は、スピンコーティング回転条件、配位させるイオンの当量を変えることで調整可能であり、また形成される金属酸化物の粒子径は加熱処理温度によって調整可能である。
本実施例では、塗布膜を120℃で30分間予備加熱した後、250℃で2時間熱処理することにより、それぞれ、酸化スズ膜、酸化インジウム膜、および酸化スズ・酸化インジウム膜を形成することができた。いずれも膜厚は約150〜200nmであった。
【0041】
比較例2(金属酸化物膜の形成)
前記コーティング液(D)を、洗浄済みガラス基板上に実施例4と同様にスピンコーティングにより塗布し、乾燥および加熱処理することによって金属酸化物膜を形成した。膜厚および膜質は、ゾルゲル反応の進行状況と、スピンコーティング条件によって制御する。本比較例では、120℃で1時間予備乾燥、水分除去を行った後、300℃で2時間熱処理することにより、酸化スズ・酸化インジウム膜を形成した。
【0042】
実施例5(有機EL素子への適用)
実施例4で作成したITO基板(コーティング液(A)使用)および比較例2のITO基板(コーティング液(D)使用)を正電極として、洗浄およびUV/オゾン処理後、シグマアルドリッチ社製の導電性高分子ポリ(スチレンスルホネート)/ポリ(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン)水分散液をスピンコーティングにより塗布、200℃のホットプレート上で1時間乾燥させることにより、膜厚80nmの正孔輸送層を形成した。
【0043】
続いて赤色発光層用インキ(商品名ADS100TS、American Dye Source社製)を上記正孔輸送層上に滴下してスピンコートし、同様に100℃のホットプレート上で加熱乾燥することにより、膜厚80nmの赤色発光層を形成した。発光層形成後、0.2nm/sの成膜速度で膜厚10nmのカルシウム薄膜を真空蒸着し、さらにその上に2nm/sの成膜速度で膜厚80nmの銀薄膜を真空蒸着して電極を形成して有機EL素子を得た。
【0044】
得られた有機EL素子のITOの電極を可変直流電源の正極に、銀の電極を負極にそれぞれ接続し、直流電圧を印加したところ、実施例のITO基板を用いた素子から最高発光輝度2500cd/m2の良好な赤色EL発光が得られた一方、比較例2のITO基板を用いた素子からは最高発光輝度1800cd/m2の赤色発光が得られ、より安全で制御し易い実施例の方法によって、ゾルゲル法による塗布型ITOと同等以上の電極性能が得られることが分かった。実施例の方法は、有機EL素子に限らず、金属酸化物膜を電極乃至導電性層として必要とする電子デバイスに適用可能である。
【0045】
実施例6(帯電防止膜への適用)
前記コーティング液(A)〜(C)を、市販の厚み0.1mmのポリエチレンテレフタレートフィルム上にバーコーティングにより膜厚0.1μmになるよう塗布し、室温で30分間乾燥した後、200℃で10分間加熱処理を行い、金属酸化物膜とした。一方、コーティング液(D)の場合は、水を含むこともあって、コーティング液(A)〜(C)に比べ、高温で処理した。すなわち、上述のフィルム上に同様にバーコーティングによって膜厚0.1μmになるよう塗布、100℃で10分間乾燥、250℃で10分間加熱処理を行い、金属酸化物とした。それぞれの膜表面抵抗値を測定した結果、
コーティング液(A)による塗布膜 2×1012Ω/□
コーティング液(B)による塗布膜 3×1013Ω/□
コーティング液(C)による塗布膜 1×109Ω/□
コーティング液(D)による塗布膜 1×1010Ω/□
の測定結果が得られ、特にコーティング液(A)および(B)でもディスプレイへの塵付着を防ぐ程度の帯電防止性能が期待でき、塗布型ITO膜であるコーティング液(C)および(D)を比較した場合、比較的低温で処理可能なコーティング液(C)の方法によって、ゾルゲル法による塗布型ITOと同等以上の帯電防止性能が期待できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、通常の塗布法により金属酸化物膜を形成する際に一般的に用いられる、活性(毒性)の高い加水分解性モノマー(金属アルコキシド)を用いず、金属イオン配位可能な官能基を有する、高成膜性、低熱安定性のバインダーに、酸化物の元となる所望の金属イオンを配位させたコーティング液を予め調製して用いる。本コーティング液を、基板上に塗布後、加熱(バインダーは還元または分解、イオンは酸化)させることで、比較的低温で、より安全に、求める金属酸化物膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】有機EL素子の構造例を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと、金属イオン配位が可能な官能基を有するバインダーとを含み、塗布後に加熱処理によって金属酸化物膜が形成されることを特徴とするコーティング液。
【請求項2】
前記バインダーが、コーティング液の段階では安定な金属配位体を形成し、乾燥後に加熱処理して一部または全部が分解して系外へ脱離するバインダーである請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
前記バインダーが、多分散度1未満の化合物である請求項1に記載のコーティング液。
【請求項4】
前記バインダーが、線状または分岐状ポリアミンである請求項1に記載のコーティング液。
【請求項5】
前記金属イオンが、スズイオン、インジウムイオンまたは両イオンの併用である請求項1に記載のコーティング液。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することによって得られたことを特徴とする金属酸化物膜。
【請求項7】
金属酸化物膜が、高導電性を有する請求項6に記載の金属酸化物膜。
【請求項8】
金属酸化物膜が、高光透過性を有する請求項6に記載の金属酸化物膜。
【請求項9】
金属酸化物が、ITOである請求項6に記載の金属酸化物膜。
【請求項10】
請求項9に記載のITO膜を電極として有してなることを特徴とする電子デバイス。
【請求項11】
請求項9に記載のITO膜を電極として有してなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
(1)金属イオン配位が可能な官能基を有するバインダーと、形成したい酸化物の原料となる金属イオン源とを有機溶剤中において化学反応させ、金属イオンとバインダーとの錯体化合物を含むコーティング液を調製し、
(2)次いで、得られたコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することによって、金属イオンを酸化させるとともに、バインダーの一部または全部を除去することを特徴とする金属酸化物膜の形成方法。
【請求項13】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコーティング液を、基板上に塗布後加熱処理することを特徴とする金属酸化物膜の形成方法。
【請求項14】
形成される金属酸化物膜が、高導電性を有する請求項12または13に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項15】
形成される金属酸化物膜が、高光透過性を有する請求項12または13に記載の金属酸化物膜の形成方法。
【請求項16】
金属酸化物が、ITOである請求項12または13に記載の金属酸化物膜の形成方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−193663(P2006−193663A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8273(P2005−8273)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】