説明

コーティング液塗布装置およびコーティング液塗布方法

【課題】湿気硬化型のコーティング液を、電子回路基板へ容易且つ低コストで安全に塗布することのできるコーティング液塗布装置およびコーティング液塗布方法を提供する。
【解決手段】電子回路基板(図示省略)へ湿気硬化型のコーティング液1を塗布するためのコーティング液塗布装置100であって、コーティング液1を保持すると共に、コーティング液1中に電子回路基板を浸漬するための液槽10と、液槽10に保持されたコーティング液1の液面上方に吹き出し口20fを有するドライガス吹き出し手段20とを備えるコーティング液塗布装置100とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板へ湿気硬化型のコーティング液を塗布するためのコーティング液塗布装置およびコーティング液塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路基板の防滴・防湿用コーティング材には、一般的に、溶剤を用いるコーティング材が使用されている。例えば、特開平6−154691号公報(特許文献1)には、揮発性溶剤に溶解したアクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ系合成樹脂などのコーティング材が開示されている。このような溶剤を用いるコーティング材は、溶剤によりコーティング材を溶融して任意の粘度に調整できるため、比較的簡単に、コーティング材を電子回路基板へ塗布することができる。また、コーティング材の塗布方法については、スプレー、刷毛、浸漬塗布といった各種塗布方法が、適宜選択されて使用される。
【0003】
近年、溶剤の大気汚染に対する環境規制の高まりとともに、上記溶剤を用いるコーティング材は使用禁止になる方向にあり、その代替技術の開発が必須の状況になっている。溶剤を用いない無溶剤型のコーティング材の一つに、湿気硬化型のシリコーン液がある。この湿気硬化型のシリコーン液を、実装基板へ塗布するための実装基板コーティング装置及びコーティング方法が、特開2002−329951号公報(特許文献2)に開示されている。
【0004】
特許文献2に開示されたコーティング装置は、実装基板の裏面にコーティング液を浸漬塗布するコーティング液槽、実装基板の表面にコーティング液を吐出塗布する吐出部、及び上記コーティング液槽から吐出部にコーティング液を送液する送液手段を有する実装基板コーティング装置である。上記吐出部は開閉弁を備え、該弁の開閉によりコーティング液の吐出が制御されており、上記送液手段は、高低差を利用した自由落下送液と、上記吐出部の開閉弁開放によるコーティング液吐出に連動した開放系加圧送液とを組み合わせた送液システムからなる。これにより、圧縮性及びガス吸収性といった固有の物性を有するシリコーン液を、実装基板にコーティングすることができる。
【特許文献1】特開平6-154691号公報
【特許文献2】特開2002−329951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2に開示されたコーティング装置およびコーティング方法は、実装基板の裏面側と表面側でコーティング方法を異にしているため、装置構成が複雑で、大掛かりである。
【0006】
また、湿気硬化型のシリコーン液を通常の室内環境下で実装基板にコーティングすると、液表面が大気と接触して湿気硬化反応を起し、液表面に湿気硬化膜が形成される。例えば、平均的な工場雰囲気では湿度が40〜60%RHであり、このような湿度下では数分から十数分でシリコーン液の表面層に粘度上昇が見られ、表層に被膜が形成されてしまう。これを避けるため、特許文献2に開示されたコーティング装置では、装置全体をカバーで覆い、低湿度環境下にして、コーティング作業中の液表面に湿気硬化膜が形成されるのを抑制している。しかしながら、上記のように装置全体をカバーで覆うと、カバー内を低湿度環境に維持するために多量のドライ(乾燥)ガスが必要で、これに伴う製造コストが増大する。また、カバー内の全体を低湿度環境にすると、危険物でもあるシリコーン液に対して静電気の発生による危険性が増大する。このため、大掛かりな安全管理が必要になる。
【0007】
そこで本発明は、湿気硬化型のコーティング液を、電子回路基板へ容易且つ低コストで安全に塗布することのできるコーティング液塗布装置およびコーティング液塗布方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1〜15に記載の発明は、湿気硬化型のコーティング液を塗布するためのコーティング液塗布装置に関する発明である。
【0009】
請求項1に記載の発明は、電子回路基板へ湿気硬化型のコーティング液を塗布するためのコーティング液塗布装置であって、前記コーティング液を保持すると共に、当該コーティング液中に前記電子回路基板を浸漬するための液槽と、前記液槽に保持されたコーティング液の液面上方に吹き出し口を有するドライガス吹き出し手段とを備えることを特徴としている。
【0010】
上記コーティング液塗布装置は、液槽に保持された無溶剤型で湿気硬化型のコーティング液中に電子回路基板を浸漬してコーティング液を塗布する、簡易な構成の安価な塗布装置である。当該液塗布装置においては、ドライガス吹き出し手段により液面上方の吹き出し口から吹き出されたドライ(乾燥)ガスで、湿気硬化型のコーティング液面上にドライガスのカーテン層(ドライガス層)を形成する。これによって、コーティング液表面での湿気硬化反応による湿気硬化膜の形成を抑制することができ、液表面の硬化の問題を回避して、円滑な浸漬塗布作業を行なうことができる。
【0011】
上記コーティング液塗布装置では、従来のように装置全体をカバーして低湿度環境下にすることなく、液槽に保持された湿気硬化型のコーティング液の液面直上のみにドライガス層を形成する。このため、ドライガスの使用量を低減して低コストで運用できると共に、静電気の発生による危険性も低減し、安全管理も容易になる。従って、上記コーティング液塗布装置は、湿気硬化型のコーティング液を電子回路基板へ容易且つ低コストで安全に塗布することのできる塗布装置となっている。
【0012】
請求項2に記載のように、前記ドライガスには、安価なドライエアもしくはドライ窒素を用いることが好ましい。
【0013】
請求項3に記載のように、前記吹き出し口は、前記液槽の側壁に配置されてなることが好ましい。これによれば、液槽の側壁にある吹き出し口から吹き出されたドライ(乾燥)ガスは、コーティング液面上において液槽の側壁に囲まれて留まり易いため、液槽の周りの雰囲気と混合されず、より完全なドライガス層を形成することができる。これによって、吹き出し口を液槽の側壁以外の場所に配置する場合に較べて、コーティング液表面での湿気硬化膜の形成をより抑制することができる。
【0014】
請求項4に記載のように、前記液槽は、前記電子回路基板の浸漬時を除いて当該液槽の上方開口部を蓋する、天板を有してなることが好ましい。これにより、電子回路基板の浸漬時を除いて、液槽周りの雰囲気の上方開口部からの浸入を防止し、上記ドライガス層との混合を抑制することができる。これによって、天板がない場合に較べて、コーティング液表面での湿気硬化膜の形成をより抑制することができる。
【0015】
請求項5に記載のように、前記吹き出し口は、前記コーティング液面上の高さ方向に、複数段に分割して配置されてなることが好ましい。これによれば、吹き出し口が1段の場合に較べて、上記ドライガス層の厚さを厚くすることができ、コーティング液表面での湿気硬化膜の形成をより抑制することができる。
【0016】
請求項6に記載のように、前記吹き出し口を、対をなして、互いに対向するように配置することで、コーティング液面上の全面に渡って、ドライガスのガス密度を高めることができる。これによって、吹き出し口を対向配置にしない場合に較べて、コーティング液表面での湿気硬化膜の形成をより抑制することができる。
【0017】
請求項7に記載のように、前記コーティング液塗布装置にガス吸い込み手段を備え、当該ガス吸い込み手段における吸い込み口を、前記吹き出し口に対向するように配置してもよい。これによれば、ガス流れの乱れが少ない安定したドライガス層を形成することができる。従ってこの場合にも、コーティング液表面での湿気硬化膜の形成を抑制することができる。またこの場合には、請求項8に記載のように、前記ガス吸い込み手段により吸い込まれたガスが、ガス中の水分を除去するドライフィルタを介して、前記ドライガス吹き出し手段に還流されるようにしてもよい。このようにドライガスを繰り返し使用することで、製造コストを低減することができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、上記コーティング液塗布装置が、回転棒の先端部が前記液槽に保持されたコーティング液中に挿入されてなる、硬化膜除去手段を備えることを特徴としている。
【0019】
これによれば、コーティング液表面で湿気硬化が生じた場合においても、湿気硬化によってコーティング液の粘度が上昇するため、硬化し始めたコーティング液表面層を、先端部がコーティング液中に挿入された回転棒で引き上げて、除去することができる。このように簡易な機構からなる硬化膜除去手段を設けることで、浸漬塗布作業を円滑に実施できるようになる。尚、請求項10に記載のように前記先端部を羽根もしくは円板にすることで、湿気硬化膜の引き上げ除去を効率的に行なうことができる。また、請求項11に記載の発明は、前記液槽に保持されたコーティング液の液面上において、前記回転棒に、幅広部が形成されてなることを特徴としている。この幅広部により、コーティング液の這い上がりを堰き止めることができる。
【0020】
請求項12に記載の発明は、前記先端部の周りにおいて、前記コーティング液が流動可能なメッシュ状等の仕切りが配置されてなることを特徴としている。これにより、コーティング液への電子回路基板の浸漬時に、電子回路基板と硬化膜除去手段における先端部との接触を防止することができる。
【0021】
請求項13に記載の発明は、前記液槽に、コーティング液循環ポンプとダストフィルタが連結されてなることを特徴としている。これによれば、コーティング液を周囲の雰囲気に曝すことなく、液中に混入したダストを除去することができる。従って、液槽に保持されたコーティング液を、長期に渡って安定的に使用することができる。
【0022】
請求項14に記載の発明は、前記液槽に、前記コーティング液の補充槽が連結されてなり、前記補充槽に保持されたコーティング液が、補充槽に供給されるドライガスの圧力を利用して、前記液槽に補充されることを特徴としている。これによれば、コーティング液を周囲の雰囲気に曝すことなく、補充槽から液槽へ充填することができる。
【0023】
請求項15に記載の発明は、前記液槽および前記吹き出し口が、排気ダクトを備え、外部と内部の雰囲気を略遮断するブース内に設置されてなることを特徴としている。これにより、液槽および吹き出し口の周囲の雰囲気を安定化することができる。
【0024】
請求項16〜20に記載の発明は、上記コーティング液塗布装置による、コーティング液塗布方法の発明である。
【0025】
当該コーティング液塗布方法により得られる効果は上記したとおりでありその詳細説明は省略するが、特に請求項18に記載のように、当該コーティング液塗布方法は、前記コーティング液が、無溶剤型で湿気硬化型のシリコーン液である場合に好適である。また請求項19と20に記載のように、前記コーティング液の粘度については、コーティング液を多数の電子部品が実装された電子回路基板に空隙なく塗布するために、1000mPa・s以下であることが好ましく、特に材料使用量の低減、塗布膜厚の抑制のためには、500mPa・s以下が好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明の一例で、コーティング液塗布装置100について、主な構成部分を透視して示した斜視図である。
【0028】
図1に示すコーティング液塗布装置100は、電子回路基板へ湿気硬化型のコーティング液1を塗布するためのコーティング液塗布装置である。湿気硬化型のコーティング液1には、例えば湿気硬化型のシリコーン液があり、溶剤を用いない無溶剤型のコーティング材であるため、大気汚染に対する今後の環境規制にも適合する材料である。
【0029】
図1に示すコーティング液塗布装置100は、液槽10とドライガス吹き出し手段20とを備えている。液槽10は、湿気硬化型のコーティング液1を保持し、保持されたコーティング液1中に電子回路基板(図示省略)を浸漬するための浸漬槽である。液槽10の大きさは、浸漬処理する電子回路基板のサイズに応じた、必要最小限の大きさに設定される。ドライガス吹き出し手段20は、液槽10に保持されたコーティング液1の液面上方に吹き出し口20fを有し、ドライ(乾燥)ガスを吹き出して、湿気硬化型のコーティング液1面上にドライガスのカーテン層(ドライガス層)を形成する。吹き出し口20fは、多連のガス噴出孔を有するスプレーノズルからなり、ドライガス層の形成に最適な噴出孔の配置が設定されている。また、コーティング液1面上に形成するドライガス層の湿度コントロールは、湿気硬化型のコーティング液1の硬化特性に応じて、ドライガスの種類および吹き出し量を適宜設定することにより行なう。ドライガスには、例えば、安価なドライエアもしくはドライ窒素を用いることができる。
【0030】
ドライガスの湿度の実例を示すと、工場用エアが6%RH程度、工場用窒素が0.5%RH(25℃)程度である。また具体例として、40cm×40cmの上部が開口した液槽10で、ドライガス層の形成に使用するドライガス自体の湿度を確保するために必要な吹き出し量は、0.3m/min程度である。
【0031】
図1のコーティング液塗布装置100では、上記のように、湿気硬化型のコーティング液1の液面上にドライガス層を形成した上で、コーティング液1中に電子回路基板を浸漬して、電子回路基板へコーティング液1を塗布する。このコーティング液1の液面上に形成されたドライガス層によって、コーティング液1表面での湿気硬化反応による湿気硬化膜の形成を抑制することができ、コーティング液1表面の硬化の問題を回避して、円滑な浸漬塗布作業を行なうことができる。尚、液槽10に保持されるコーティング液1の粘度については、コーティング液1を多数の電子部品が実装された電子回路基板に空隙なく塗布するために、1000mPa・s以下であることが好ましく、特に材料使用量の低減、塗布膜厚の抑制のためには、500mPa・s以下が好適である。
【0032】
図1に示すコーティング液塗布装置100は、液槽10に保持された無溶剤型で湿気硬化型のコーティング液1中に電子回路基板を浸漬してコーティング液1を塗布する、簡易な構成の安価な塗布装置である。図1の塗布装置100では、従来のように装置全体をカバーして低湿度環境下にすることなく、液槽10に保持された湿気硬化型のコーティング液1の液面直上のみにドライガス層を形成する。このため、ドライガスの使用量を低減して低コストで運用できると共に、静電気の発生による危険性も低減し、安全管理も容易になる。従って、図1のコーティング液塗布装置100は、湿気硬化型のコーティング液1を電子回路基板へ容易且つ低コストで安全に塗布することのできる塗布装置となっている。
【0033】
図1の塗布装置100においては、ドライガス吹き出し手段20が、4つの吹き出し口20fを有している。4つの吹き出し口20fは、液槽10の側壁に、コーティング液1面上の高さ方向に2段に分割して、対をなして互いに対向するように配置されている。これに限らず、液槽10に対するドライガス吹き出し手段20の吹き出し口20fの配置は、コーティング液1の液面上方でドライガス層を形成できる配置であれば、任意の配置が可能である。
【0034】
図2(a),(b)に、液槽に対する吹き出し口の別の配置を持つ、別のコーティング液塗布装置の例を示す。図2(a)のコーティング液塗布装置101では、ドライガス吹き出し手段21の吹き出し口21fが、液槽11の側壁に1つ配置されている。図2(b)のコーティング液塗布装置102では、ドライガス吹き出し手段22が、2つの吹き出し口20fを有しており、それらが液槽10の側壁直上において、互いに対向するように配置されている。
【0035】
図1の塗布装置100および図2(a)の塗布装置101では、吹き出し口20f,21fが、それぞれ、液槽10,11の側壁に配置されている。このため、液槽10,11の側壁にある吹き出し口20f,21fから吹き出されたドライガスは、コーティング液1面上において液槽10,11の側壁に囲まれて留まり易い。従って、吹き出し口20f,21fから吹き出されたドライガスは液槽10,11の周りの雰囲気と混合されず、吹き出し口20f,21fを液槽10,11の側壁以外の場所に配置する場合に較べて、より完全なドライガス層を形成することができる。また、図1の塗布装置100および図2(b)の塗布装置102では、それぞれ、吹き出し口20f,22fを、対をなして互いに対向するように配置することで、吹き出し口を対向配置にしない場合に較べて、コーティング液1面上の全面に渡って、ドライガスのガス密度を高めることができる。さらに、図1の塗布装置100では、吹き出し口20fを液槽10の側壁にコーティング液1面上の高さ方向に2段に分割して配置することで、吹き出し口が1段の場合に較べて、ドライガス層の厚さを厚くすることができる。これらによって、コーティング液1表面での湿気硬化膜の形成をより抑制することができる。
【0036】
図3(a),(b)に、別のコーティング液塗布装置の例を示す。図3(a),(b)に示コーティング液塗布装置103,104は、それぞれ、ガス吸い込み手段31,32を備えている。図3(a)の塗布装置103では、ガス吸い込み手段31における吸い込み口31sが、液槽13の側壁に配置されたドライガス吹き出し手段23の吹き出し口23fに対向するようにして、液槽13の側壁に配置されている。図3(b)の塗布装置104では、ガス吸い込み手段32における吸い込み口32sが、液槽14の側壁直上に配置されたドライガス吹き出し手段24の吹き出し口24fに対向するようにして、液槽14の側壁直上に配置されている。
【0037】
図3(a),(b)の塗布装置103,104では、ドライガスの吹き出し口23f,24fと対向するように吸い込み口31s,32sを配置することで、ガス流れの乱れが少ない安定したドライガス層を形成することができる。これによって、コーティング液1表面での湿気硬化膜の形成を抑制することができる。また、ガス吸い込み手段31,32により吸い込まれたガスは、そのまま排気してもよいが、ガス中の水分を除去するドライフィルタを介して、それぞれドライガス吹き出し手段23,24に還流されるようにして再利用してもよい。このようにドライガスを繰り返し使用することで、製造コストを低減することができる。
【0038】
また図1に示す塗布装置100の液槽10は、天板10tを有している。天板10tは、ワンタッチで開閉できる遮蔽板(スライド収納式もしくは観音開き方式)で、電子回路基板の浸漬時を除いて、液槽10の上方開口部を常時蓋する。この天板10tにより、液槽10周りの雰囲気の上方開口部からの浸入を防止し、ドライガス吹き出し手段20により形成されるドライガス層との混合を抑制することができる。これによって、天板10tがない場合に較べて、コーティング液1表面での湿気硬化膜の形成をより抑制することができる。
【0039】
図1に示すコーティング液塗布装置100は、硬化膜除去手段40を備えている。図4(a)〜(c)にその詳細図を示す。
【0040】
コーティング液1表面で湿気硬化反応が生じた場合、コーティング液1の粘度が上昇する。図4(a)に示すように、硬化膜除去手段40は、回転モータ40mに接続された回転棒40jの先端部が、液槽10に保持されたコーティング液1中に挿入されてなる。硬化膜除去手段40は、硬化し始めたコーティング液1の表面層(湿気硬化膜1s)を回転棒40jで引き上げて除去する。このように簡易な機構からなる硬化膜除去手段40を設けることで、コーティング液1の高粘度化した表面層や湿気硬化膜1sを除去することができ、電子回路基板の浸漬塗布作業を円滑に実施できるようになる。尚、図4(b),(c)に示すように、回転棒40jの先端部を、円板40jeもしくは羽根40jpにすることで、湿気硬化膜1sの引き上げ除去を効率的に行なうことができる。具体的には、回転棒の径は数mm程度で、回転数は数十rpmで十分であるが、必要に応じて先端部の形状やサイズを選択し、回転数を増大することで、湿気硬化膜1sの除去効率を増大させることができる。
【0041】
図4(a)に示す硬化膜除去手段40では、液槽10に保持されたコーティング液1の液面上において、回転棒40jに、板状の幅広部40hが形成されている。湿気硬化型のコーティング液1は、湿気硬化して粘度が上がり出すと回転棒にへばりついて、回転棒の回転にしたがって回転棒を這い上がり始める。回転棒40jに形成された幅広部40hにより、上記コーティング液1の這い上がりを堰き止めることができる。這い上がったコーティング液1は幅広部40hで堰き止められて湿気硬化膜1sとして堆積するので、時期をみて回収除去をする。
【0042】
尚、硬化膜除去手段40は、浸漬作業の邪魔にならない液槽10における任意の位置に、1個あるいは必要に応じて複数個設置することができる。また、図4(a)では図示を省略しているが、コーティング液1中に挿入された回転棒40jの先端部の周りにおいて、コーティング液1が流動可能なメッシュ状等の仕切りを配置することが好ましい。これにより、コーティング液1への電子回路基板(図示省略)の浸漬時に、電子回路基板と硬化膜除去手段40における先端部との接触を防止することができる。
【0043】
図1に示すように、塗布装置100の液槽10には、コーティング液循環ポンプ50aとダストフィルタ50bが連結されている。このコーティング液循環ポンプ50aとダストフィルタ50bにより、コーティング液1を周囲の雰囲気に曝すことなく、液中に混入したダストを除去することができる。従って、液槽10に保持されたコーティング液1を、長期に渡って安定的に使用することができる。
【0044】
また、図1に示す塗布装置100の液槽10には、コーティング液1の補充槽60が連結されており、補充槽60に保持されたコーティング液1が、補充槽60に供給されるドライガスの圧力を利用して、液槽10に補充される。これにより、コーティング液1を周囲の雰囲気に曝すことなく、補充槽60から液槽10へ充填することができる。
【0045】
図1に示す塗布装置100は、液槽10およびドライガス吹き出し手段20の吹き出し口20fが、外部と内部の雰囲気を略遮断するブース70内に設置されている。ブース70は、排気ダクト70dを備えている。排気ダクト70dの排気風速は、上記40cm×40cmの液槽10とドライガスの吹き出し量を0.3m/min程度とした場合、0.5m/sec程度である。この、ブース70と排気ダクト70dにより、液槽10および吹き出し口20fの周囲の雰囲気を安定化することができる。また、一般に危険物第4類第1もしくは第2石油類に分類されるシリコーン液をコーティング液1として用いる場合には、ブース70と排気ダクト70dにより換気することで、作業の安全性を高めることができる。尚、図1では補充槽60がブース70の外部に配置されているが、補充槽60もブース70の内部に配置するようにしてもよい。また、排気ダクト70dの位置は、排気風速を実現する任意の位置であってよい。
【0046】
以上のようにして、図1〜4を用いて説明した本発明のコーティング液塗布装置100〜104およびコーティング液塗布方法は、湿気硬化型のコーティング液1を、電子回路基板へ容易且つ低コストで安全に塗布することのできるコーティング液塗布装置およびコーティング液塗布方法となっている。
【0047】
上記の実施形態においては、湿気硬化型のコーティング液1として、湿気硬化型のシリコーン液を例にして説明した。これに限らず、本発明のコーティング液塗布装置およびコーティング液塗布方法は、湿気硬化型のポリウレタン樹脂塗料等、室温で湿気硬化する一液縮合型の任意のコーティング材に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一例で、コーティング液塗布装置について、主な構成部分を透視して示した斜視図である。
【図2】(a),(b)は、液槽に対する吹き出し口の別の配置を持つ、別のコーティング液塗布装置の例を示す図である。
【図3】(a),(b)は、別のコーティング液塗布装置の例を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、硬化膜除去手段の詳細図を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
100〜104 コーティング液塗布装置
1 コーティング液
1s 湿気硬化膜
10 液槽
10t 天板
20〜24 ドライガス吹き出し手段
20f〜24f 吹き出し口
31,32 ガス吸い込み手段
31s,32s 吸い込み口
40 硬化膜除去手段
40m 回転モータ
40j 回転棒
40je 円板
40jp 羽根
40h 幅広部
50a コーティング液循環ポンプ
50b ダストフィルタ
60 補充槽
70 ブース
70d 排気ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路基板へ湿気硬化型のコーティング液を塗布するためのコーティング液塗布装置であって、
前記コーティング液を保持すると共に、当該コーティング液中に前記電子回路基板を浸漬するための液槽と、
前記液槽に保持されたコーティング液の液面上方に吹き出し口を有するドライガス吹き出し手段とを備えることを特徴とするコーティング液塗布装置。
【請求項2】
前記ドライガスが、ドライエアもしくはドライ窒素であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項3】
前記吹き出し口が、前記液槽の側壁に配置されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項4】
前記液槽が、前記電子回路基板の浸漬時を除いて当該液槽の上方開口部を蓋する、天板を有してなることを特徴とする請求項3に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項5】
前記吹き出し口が、前記コーティング液面上の高さ方向に、複数段に分割して配置されてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項6】
前記吹き出し口が、対をなして、互いに対向するように配置されてなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項7】
前記コーティング液塗布装置にガス吸い込み手段が備えられ、
当該ガス吸い込み手段における吸い込み口が、前記吹き出し口に対向するように配置されてなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項8】
前記ガス吸い込み手段により吸い込まれたガスが、ドライフィルタを介して、前記ドライガス吹き出し手段に還流されることを特徴とする請求項7に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項9】
前記コーティング液塗布装置が、
回転棒の先端部が前記液槽に保持されたコーティング液中に挿入されてなる、硬化膜除去手段を備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項10】
前記先端部が、羽根もしくは円板からなることを特徴とする請求項9に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項11】
前記液槽に保持されたコーティング液の液面上において、前記回転棒に、板状部が形成されてなることを特徴とする請求項9または10に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項12】
前記先端部の周りにおいて、前記コーティング液が流動可能な仕切りが配置されてなることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項13】
前記液槽に、コーティング液循環ポンプとダストフィルタが連結されてなることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項14】
前記液槽に、前記コーティング液の補充槽が連結されてなり、
前記補充槽に保持されたコーティング液が、補充槽に供給されるドライガスの圧力を利用して、前記液槽に補充されることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項15】
前記液槽および前記吹き出し口が、排気ダクトを備えるブース内に設置されてなることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載のコーティング液塗布装置。
【請求項16】
湿気硬化型のコーティング液の液面上にドライガス層を形成し、
前記コーティング液中に電子回路基板を浸漬して、電子回路基板へコーティング液を塗布することを特徴とするコーティング液塗布方法。
【請求項17】
前記ドライガス層が、ドライエアもしくはドライ窒素からなることを特徴とする請求項16に記載のコーティング液塗布方法。
【請求項18】
前記コーティング液が、シリコーン液であることを特徴とする請求項16または17に記載のコーティング液塗布方法。
【請求項19】
前記コーティング液の粘度が、1000mPa・s以下であることを特徴とする請求項16乃至18のいずれか一項に記載のコーティング液塗布方法。
【請求項20】
前記コーティング液の粘度が、500mPa・s以下であることを特徴とする請求項19に記載のコーティング液塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−49500(P2006−49500A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227004(P2004−227004)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】