説明

コーティング組成物およびそれを塗工した紫外線吸収性基材

【課題】405nm以下の波長の光を効率的に吸収し、かつ可視光領域での透明性が高く、黄味着色の少ないコーティング組成物、およびそれを塗布した基材を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛または酸化チタンと、下記一般式で表される有機化合物と、塗膜形成材料とを含有するコーティング組成物、およびプラスチック基材もしくはガラス基材に、前記コーティング組成物を塗工した紫外線吸収性基材。


[R1はアルキル基、R2はアルキル基、R3は環形成に必要なメチレン炭素鎖を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、405nm以下の光を効率的に吸収し、かつ可視光領域での透明性に優れ、黄味着色の少ないコーティング組成物、およびそのコーティング組成物を塗工した紫外線吸収性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線は、UV−A(321から400nm)、UV−B(280から320nm)、UV−C(280nm以下)に大別される。UV−Cはオゾン層により吸収され地上にはほとんど届かないが、UV−AおよびUV−Bは地上に到達する。エネルギーの高いUV−Bは、皮膚がんや白内障を引き起こすとされるが、酸化チタン、酸化亜鉛等を分散したコーティング組成物を塗布することでその波長をカットすることが可能である。しかし、酸化チタン、酸化亜鉛だけではその性質上、UV−A領域の紫外線のうち、380nmから400nm付近の波長の光を充分にカットすることが出来ない。
また、 多くの種類の昆虫は、波長405nm以下の領域の波長を好み、この波長を発する照明に誘引されやすい。照明器具としてこの領域の光を発する照明を用いると、種々の昆虫が誘引され、例えば食品を取り扱う場所などでは衛生上の問題が生じる可能性がある。この様な場所では誘虫率の低い照明の使用が望まれており、405nm以下の波長の光をカットするコーティング剤の開発が必要である。
【0003】
400nm付近の光をシャープに吸収するコーティング組成物としては、例えば特許文献1に、Uvitex-OB(チバガイギー社製、2,5-ビス(5-ターシャリブチルベンゾオキサゾリル)チオフェン)、EB-501(三井東圧染料社製)等の蛍光増白剤と、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、サリシレート系などの紫外線吸収剤を溶解添加してなるコーティング溶液が開示されている。しかし、この組成物に用いられている蛍光増白剤は、含有量が多くなると蛍光で透視性が悪化し、少な過ぎると所望の紫外線吸収力が得られない可能性がある。
【特許文献1】特開平6−145387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、405nm以下の波長の光を効率的に吸収し、かつ可視光領域での透明性が高く、黄味着色の少ないコーティング組成物、およびそれを塗布した紫外線吸収性基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のコーティング組成物は、酸化亜鉛または酸化チタンと、下記一般式[1]で表される有機化合物と、塗膜形成材料とを含有することを特徴とする。
一般式[1]
【化1】

[式中、R1は、炭素数1〜15の置換もしくは未置換のアルキル基を表す。R2は、炭素数1〜10の置換もしくは未置換のアルキル基を表す。R3は、炭素数3〜5の置換もしくは未置換の環形成に必要なメチレン炭素鎖を表す。]
【0006】
本発明のコーティング組成物において、酸化亜鉛または酸化チタンの含有量は、コーティング組成物の不揮発分重量を基準として、30〜60重量%であることが好ましい。
また、本発明のコーティング組成物は、該組成物を用いて膜厚10μmの塗膜を作成した場合に、該塗膜の280〜405nmにおける透過率が5%以下となり、かつ430〜700nmにおける透過率が80%以上となることが好ましく、該塗膜のヘイズ値が3%以下となることが好ましい。
また、本発明の紫外線吸収性基材は、プラスチック基材もしくはガラス基材に、本発明のコーティング組成物を塗工したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコーティング組成物は、およそ380nmまでの波長の光を吸収する酸化亜鉛もしくは酸化チタンと、およそ380〜405nmまでの波長の光を可視光領域の透明性を確保したままシャープに吸収する上記一般式[1]で表される化合物とを含有するため、405nm以下の光を効率的にカットすることができ、かつ可視光領域での透明性が高い。そのため、それを塗工した紫外線吸収性基材は、紫外線カットガラス、紫外線カットフィルム等に好適に応用が可能である。また、本発明のコーティング組成物は、昆虫が好む405nm以下の光を効率的に吸収し透明性も高いため、照明器具の透光カバーに塗工して使用すると、防誘虫効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明のコーティング組成物について説明する。
本発明の本発明のコーティング組成物は、酸化亜鉛または酸化チタンと、下記一般式[1]で表される有機化合物と、塗膜形成材料とを含有する。
酸化亜鉛もしくは酸化チタンは、およそ380nmまでの波長の光を吸収する紫外線吸収剤としての性質があり、コーティング組成物中に使用する場合には、その粒子が高度に分散されていないと、可視光領域での透明性が悪化してしまう。一般に、微粒子の可視光散乱強度は、その粒子と媒質が有する屈折率にも依存するが、粒径が波長の1/2付近で最大となり、それよりも粒径が小さくなるとレイリーの散乱式から示される様に、粒径の6乗に比例して散乱強度は小さくなっていく。よって、可視光(波長が400〜800nmの光)に対しては、粒径が200〜400nmの時に散乱強度が最大となり、それより小さくなるにつれて散乱強度が低下(透明化)していくことになる。即ち、一次粒子径の小さな酸化亜鉛もしくは酸化チタンの粒子を高度に分散することが、塗膜の透明性の確保に関しては不可欠となる。
【0009】
そのため、酸化亜鉛もしくは酸化チタンとしては、平均一次粒子径が5〜100nmのものを用いることが好ましい。酸化亜鉛もしくは酸化チタンが針状粒子である場合は、長軸の平均長さが5〜100nmのものを用いることが好ましい。平均一次粒子径が100nmよりも大きな酸化亜鉛もしくは酸化チタンを使用すると、光の散乱が顕著となり、透明性の高い塗膜を得ることが難しくなる。また、平均一次粒子径が5nmを下回る酸化亜鉛もしくは酸化チタンを用いた場合には、粒子の凝集力が強く分散が困難となる。
また、酸化亜鉛や酸化チタンについては、それらが有する触媒活性を抑制する為に、粒子表面をシリカ、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物やその水和物で表面処理したものを使用することもできる。
【0010】
酸化亜鉛もしくは酸化チタンを微細に分散するためには、分散樹脂を使用することが好ましい。分散樹脂としては、−COOM、−SO3M、−PO(OM)2(Mは水素原子またはアルカリ金属)、−OH、−NRn(Rは炭化水素、nは2〜3の整数)、エポキシ基、スルホベタイン基等から選ばれる少なくとも一つ以上の極性基を有するものが好ましい。これら極性官能基を有することで、分散樹脂と顔料の相互作用が強まり、分散性が向上する。また、最終的に透明な塗膜を得る為には、これら分散樹脂は透明であることが好ましい。酸価としては、顔料の分散性、基材との密着性を考えた場合、5以上が好ましく、耐水性、塗膜形成材料との相溶性を考えた場合は、130以下が好ましい。分子量としては、重量平均で2000〜20000が好ましい。これ以下では、酸化亜鉛もしくは酸化チタンに吸着した時に効果的な立体障害効果を発揮しづらく、良好な分散体が得られ難い。これ以上では、溶剤への溶解性、塗膜形成材料との相溶性が劣る場合が多く、経時安定性が不良になる可能性がある。また、これらの分散樹脂は、単独で使用しても良いし、二種類以上組み合わせて使用しても良い。またこれらの分散樹脂は、そのまま使用しても良いし、適当な溶剤に溶解したワニスとして使用しても良い。
【0011】
本発明における一般式[1]で表される化合物については、R1は炭素数10から15の置換もしくは未置換のアルキル基が好ましく、炭素数12から15の置換もしくは未置換のアルキル基が更に好ましい。R2は炭素数1から5の置換もしくは未置換のアルキル基が好ましく、炭素数2から4の置換もしくは未置換のアルキル基が更に好ましい。R3は炭素数3の置換もしくは未置換のメチレン炭素鎖が最も好ましい。
【0012】
一般式[1]の置換アルキル基における置換基としては、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシル基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のシクロヘキシル基、または、置換もしくは未置換の複素環基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の一般式[1]の化合物は、例えば特開昭63−53544等に記載の方法で合成することが出来る。
本発明の一般式[1]の化合物の代表例を有機化合物[1]〜有機化合物[13]として具体的に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
【化4】

【0016】
本発明のコーティング組成物に用いる溶剤としては、酸化亜鉛もしくは酸化チタンを分散する樹脂、塗膜形成性材料、一般式[1]で表される化合物を溶解するものであれば特に制限はなく、ケトン類、エーテル類、エステル類、アルコール類、芳香族有機溶剤類等種々のものが使用できる。
【0017】
本発明における塗膜形成性材料としては、酸化亜鉛もしくは酸化チタンを分散するために用いた分散樹脂と相溶するものであれば特に制限はなく、分散樹脂をそのまま用いても良いが、塗膜物性を考慮し、機械物性、耐熱性、耐光性、密着性等、用途に合った特性も持った材料を選定する事が望ましい。例えば、熱硬化型や溶剤が蒸発することにより硬化するアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等、塗料用として一般的に使用されている樹脂を用いることもできるが、これに限定されるものではない。また、塗膜を活性エネルギー線により硬化する場合には、硬化樹脂としては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
本発明のコーティング組成物は、その耐候性を向上させるために、HALS(ヒンダードアミン系光安定剤)や有機系UV吸収剤等を添加することが出来る。
【0018】
本発明に用いる酸化亜鉛もしくは酸化チタンは、予めカップリング剤、オルガノシリコーン、高級脂肪酸、リン酸エステルおよび高級アルコール等で疎水化処理されていても良い。例えばカップリング剤は、シラン系、チタネート系、アルミキレート系のいずれでも良く、具体的にはメチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミドエチル・アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネートアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等がある。
【0019】
酸化亜鉛もしくは酸化チタンの疎水化処理方法としては、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、カップリング剤等の処理剤と顔料を湿式または乾式で各種混合分散機により、混合、粉砕、加熱等の処理をする。具体的には、湿式処理ではペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル、ホモミキサー、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」等)、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)等を用いることができ、また乾式処理では、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、アトライター、ニーダー、ローラーミル、石臼式ミル、ハイブリダイザー((株)奈良機械製作所)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所)、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株))等が使用できるがこれらに限定されるものではない。
【0020】
酸化亜鉛もしくは酸化チタンの含有量は、充分な波長カット能を得るために、コーティング組成物の不揮発分重量を基準として、30重量%以上が好ましく、40重量%以上が更に好ましい。ただし、酸化亜鉛もしくは酸化チタンが多すぎると塗膜強度が落ちてしまうため、60重量%以下とすることが好ましい。
また、一般式[1]で表される有機化合物の含有量は、405nmまでの波長を充分にカットするために、コーティング組成物の不揮発分重量を基準として、0.3重量%以上が好ましく、2.0重量%以上が更に好ましい。ただし、一般式[1]で表される有機化合物を多量に添加すると塗膜の着色が目立つため、5.0重量%以下とすることが好ましい。
【0021】
本発明のコーティング組成物について、酸化亜鉛もしくは酸化チタンを分散するには、メディア型分散機を使用することが出来る。また、酸化亜鉛もしくは酸化チタンと、樹脂と、溶剤とを2本ロールにより混練し固形チップとした後、該固形チップを溶剤に分散し製造することも出来る。
本発明におけるにおけるメディア型分散機としては、特に限定されるものではないが、サンドミル、アトライター、DCPミル等のビーズミルを使用することが好ましい。またメディアとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等が使用できる。酸化亜鉛もしくは酸化チタンを高度に分散させるためには、ビーズ径は0.3mm以下が好ましく、0.1mm以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明における2本ロールによる混練処理は、2本ロールによるせん断力を利用して酸化亜鉛もしくは酸化チタンの凝集体を解砕しつつ、粒子表面に分散樹脂を吸着させるものである。先ず、酸化亜鉛もしくは酸化チタン100重量部に対し、分散樹脂5〜50重量部 (固形分換算)、好ましくは10〜40重量部を常温もしくは加熱下で混合し、均質な混合物を作る。せん断力を効率よく混練物与える為に、分散樹脂のTgは0℃〜100℃が好ましく、また、酸化亜鉛もしくは酸化チタンへの吸着性を上げる為に酸価5〜130が好ましい。尚、このとき溶剤を加え湿潤混合物としても良い。溶剤としては、メチルエチルケトン等のケトン類、エチルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、その他エーテル類、芳香族類等の有機溶剤が使用できるが特に限定されない。また、特に表面が疎水化処理されていない酸化亜鉛もしくは酸化チタンを用いる場合は、水を使用しても良いが、最終的な用途に合わせて溶剤を選択することが好ましい。溶剤の添加量は、用いる粉体や樹脂によって異なるが、酸化亜鉛もしくは酸化チタン100重量部に対して、溶剤を0〜50重量部添加する。
【0023】
酸化亜鉛もしくは酸化チタンと分散樹脂および溶剤の重量比が上記の範囲を超えると、次の2本ロールによる混練処理工程の作業性が悪化する。また、特に酸化亜鉛もしくは酸化チタンに対して分散樹脂量が少ない場合には、得られるコーティング組成物の分散安定化が低下する。こうして得られた混合物を、加熱温度40〜200℃、回転速度を10〜50rpmとした2本ロールにて複数回混練処理し、断片状もしくはシート状の混練物を得る。混練回数は、希望とする混練度に応じて任意に設定できる。得られた混練物がシート状の場合は、粉砕して粉状または断片状とした後に、次の溶解、分散工程に使用するのが好ましい。シート状の混練物を粉砕する方法としては、通常の粉砕機を用いればよく、特に限定されない。
【0024】
上記の2本ロールによる混練処理によって得られた混練物を、溶剤および塗膜形成性材料に分散することで液状のコーティング組成物を得る。溶剤は、コーティング組成物の全量を基準(100重量%)として、20〜80重量%の量で用いることができる。
2本ロールによる混練処理によって得られた混練物を、溶剤および塗膜形成性材料に分散する方法としては、上記混練物をディゾルバー等の高速攪拌機を用いて溶剤および塗膜形成性材料に分散するが、その後各種分散機で更に分散処理をすることが、均一且つ微細な分散体を得るのに好ましい。特に、作業性を考えた場合は、サンドミル、アトライター、DCPミル等のビーズミルを使用することが好ましい。その場合に使用するビーズ径は、酸化亜鉛もしくは酸化チタンをより高度に分散させるためには、0.3mm以下が好ましく、0.1mm以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明のコーティング組成物を塗布した紫外線吸収性基材に使用出来る基材としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリカーボネート等のプラスチック基材、またはガラス基材等が挙げられるが、可視光領域での透明性が良好でコーティング組成物を塗布出来るものであればこれに限定されるものではない。
本発明のコーティング組成物は、405nm以下の光を吸収し透明性も高いため、窓ガラス等に塗布するとUV−A領域までの紫外線を効率的にカット出来る。また、昆虫が好む405nm以下の光を吸収することから、照明器具の内部に405nm以下の光を発する光源を有し、さらに透光部にガラス等の透光カバーを有する照明器具に、透光カバーの両面若しくは内外面の少なくとも片面に塗工して使用すると、防誘虫効果が得られる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例中、部は重量部、%は重量%を表す。塗膜の各波長における透過率(透過スペクトル)については、基材(100μmのPETフィルム)に塗布した膜厚10μmの塗膜を分光光度計(日立社製、U-3500)で測定した。また、塗膜ヘイズ値は濁色計(日本電色工業社製、NDH300A)で測定した。
【0027】
[実施例1]
酸化チタン(平均一次粒子径30nm、テイカ社製「MT−500HD」)100部と分散剤(味の素ファインテクノ社製「PB821」)20部およびメチルエチルケトン80部を混合し、1mmジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーで分散した。本分散体を更に0.3mmジルコニアビーズを用いて分散し、酸化チタン分散体を得た。本分散体に、有機化合物[1]2部およびアクリル樹脂(大日本インキ化学社製「アクリディックA−405」)112部およびメラミン樹脂(三井サイテック社製「サイメル303」)24部を加え、高速ディスパーを用いて攪拌しコーティング組成物Aを得た。
次に、コーティング組成物Aを100μmのPETフィルムに塗布し、140℃で5分間加熱処理し、膜厚約10μmの塗膜Aを得た。塗膜Aの透過スペクトルを測定した結果、405nmの波長の透過率は2%以下であり、430nmでの透過率は85%であった。また、塗膜のヘイズ値は2.1%であった。
【0028】
[実施例2]
酸化亜鉛(平均一次粒子径20nm、テイカ社製「MZ−505M」)100部と分散剤(、ビックケミージャパン社製「Disperbyk180」)20部およびメチルエチルケトン80部を混合し、1mmジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーで分散した。本分散体を更に0.1mmジルコニアビーズを用いて分散し、酸化亜鉛分散体を得た。本分散体に、有機化合物[2]3部およびバインダーであるアクリル樹脂(大日本インキ化学社製「アクリディック54−172−60」)93部およびメラミン樹脂(三井サイテック社製「サイメル303」)24部を加え、高速ディスパーを用いて攪拌しコーティング組成物Bを得た。
次に、コーティング組成物Bを100μmのPETフィルムに塗布し、140℃で5分間加熱処理し、膜厚約10μmの塗膜Bを得た。塗膜Bの透過スペクトルを測定した結果、405nmの波長の透過率は2%以下であり、430nmでの透過率は89%であった。また、塗膜のヘイズ値は0.9%であった。
【0029】
[実施例3]
酸化亜鉛(平均一次粒子20nm、堺化学社製「FINEX−50W−LP2」)100部と分散剤(ビックケミージャパン社製「Disperbyk180」)25部およびエタノール15部を室温下で混合し、均質な湿潤混合物を得た。この湿潤混合物を80℃に加温した2本ロールで繰り返し混練処理し、固形分98%の固形の混練物を得た。続いて、トルエン30部、酢酸エチル30部の混合液に、混練物50部を、高速ディスパーを用いて分散した後にガラス瓶に仕込み、さらに有機化合物[3]1.5部およびアクリル樹脂(大日本インキ化学社製「アクリディックA−413−70S」)40部およびメラミン樹脂(三井サイテック社製「サイメル303」)12部を加え、1.0mmジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーで更に分散しコーティング組成物Cを得た。
次に、コーティング組成物Cを100μmのPETフィルムに塗布し、140℃で5分間加熱処理し、膜厚約10μmの塗膜Cを得た。塗膜Cの透過スペクトルを測定した結果、405nmの波長の透過率は1.0%以下であり、430nmでの透過率は84%であった。また、塗膜のヘイズ値は1.6%であった。
【0030】
[比較例1]
攪拌機および循環器つきの1000ml丸底フラスコに、溶媒となるシクロヘキサノン58.5g 、ジアセトンアルコール150g、プロピレングリコールモノメチルエーテル390gを加え、常温で攪拌しながらアクリル樹脂(三菱レイヨン社製「BR−85レジン」)45.5gを投入、さらに攪拌を続けながら蛍光増白剤(チバスペシャリティケミカルズ社製「UVITEX−OB」)3.25g 、紫外線吸収剤(チバスペシャリティケミカルズ社製「TINUVIN327」)3.25gを添加し、オイルバスで約30分程度かけて約95℃程度に昇温後、約30分程度保持して完全に溶解させてコーティング組成物Dを得た。
次に、コーティング組成物Dを100μmのPETフィルムに塗布し、膜厚約10μmの塗膜Dを得た。塗膜Dの透過スペクトルを測定した結果、405nmの透過率は11.6%、430nmでの透過率は80%であり、405nmのカット能が本発明のコーティング組成物を塗工した塗膜と比較すると劣っていた。また、塗膜Dは、ヘイズ値が3.1%であり、強い太陽光もしくは明るい照明下では、本発明のコーティング組成物を塗工した塗膜と比較すると、目視確認で蛍光増白剤の蛍光発光により塗膜にやや青白いくもりがあった。
【0031】
以上の通り、本発明のコーティング組成物およびそれを塗工した基材は、405nm以下の領域の波長の光を効率的に吸収し、かつ可視領域での透明性に優れており、各種の波長カット用途において非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛または酸化チタンと、下記一般式[1]で表される有機化合物と、塗膜形成材料と、溶剤とを含有することを特徴とするコーティング組成物。
一般式[1]
【化1】

[式中、R1は、炭素数1〜15の置換もしくは未置換のアルキル基を表す。R2は、炭素数1〜10の置換もしくは未置換のアルキル基を表す。R3は、炭素数3〜5の置換もしくは未置換の環形成に必要なメチレン炭素鎖を表す。]
【請求項2】
酸化亜鉛または酸化チタンの含有量が、コーティング組成物の不揮発分重量を基準として、30〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
膜厚10μmの塗膜を作成した場合に、該塗膜の280〜405nmにおける透過率が5%以下となり、かつ430〜700nmにおける透過率が80%以上となることを特徴とする請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
膜厚10μmの塗膜を作成した場合に、該塗膜のヘイズ値が3%以下となることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
プラスチック基材もしくはガラス基材に、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のコーティング組成物を塗工した紫外線吸収性基材。

【公開番号】特開2007−326986(P2007−326986A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160596(P2006−160596)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】