説明

ゴム組成物の製造方法

【課題】気泡の発生を抑制し、加工性および耐摩耗性を向上させたゴム組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ゴム成分100重量部に対して、カリウム塩、水および20重量部以上のシリカを含有するゴム組成物の製造方法であって、予め該カリウム塩、該シリカの一部、および該水を混合してマスターバッチを作製する工程、ならびに該マスターバッチをゴム成分とともに混練する工程を含むゴム組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤの転がり抵抗の低減およびブレーキ性能の向上が強く求められており、その要求を満たすために、タイヤ用ゴム組成物にシリカを配合することが行われている。
【0003】
一般的にシリカは、ゴム組成物中において分散しにくく、ゴム組成物に対する充分な補強性が得られないため、シリカと同時にシランカップリング剤を併用することが行なわれているが、シランカップリング剤の反応は、ゴムの混練り工程では充分に完了させることができない傾向がある。そのため、混練り中に反応しきれなかったシランカップリング剤が、ゴム混練物の押出工程にて、反応を起こしてアルコール(エタノールなど)を発生させ、押出したゴム混練物中に気泡を発生させるという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するための方法として、ナトリウム塩をゴム組成物に配合することが開示されている(特許文献1参照)。しかし、ナトリウム塩では、押出トレッドの気泡の発生の抑制効果が充分ではなく、さらに、ゴム組成物中において、ナトリウム塩が充分に分散しないという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−247718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ゴム混練物中の気泡の発生を抑制し、加工性および耐摩耗性を向上させたゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム成分100重量部に対して、カリウム塩、水および20重量部以上のシリカを含有するゴム組成物の製造方法であって、予め該カリウム塩、該シリカの一部、および該水を混合してマスターバッチを作製する工程、ならびに該マスターバッチをゴム成分とともに混練する工程を含むゴム組成物の製造方法に関する。
【0008】
前記カリウム塩は、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムおよびホウ酸カリウムからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
予め、カリウム塩、シリカの一部、および水を混合して作製されたマスターバッチを、ゴム成分とともに混練することによって、カリウム塩を充分に分散させ、さらに加工性および耐摩耗性を向上させたゴム組成物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴム組成物の製造方法は、(1)予め、カリウム塩、シリカの一部、および水を混合してマスターバッチを作製する工程、(工程1)、ならびに(2)該マスターバッチをゴム成分とともに混練する工程(工程2)からなる。
【0011】
工程1で混合されるカリウム塩は、無機カリウム塩および有機カリウム塩のいずれかでもよい。
【0012】
無機カリウム塩としては、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、シュウ酸カリウムなどがあげられる。
【0013】
また、有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、グルコン酸カリウム、クエン酸カリウム、フマル酸カリウム、ラウリン酸カリウム、パルチミン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、リノール酸カリウムなどがあげられる。
【0014】
なかでもカリウム塩としては、シランカップリング剤の反応効率をより向上させるという理由から、無機カリウム塩が好ましく、とくに炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、およびホウ酸カリウムからなる群から1種以上選ばれるカリウム塩であることがより好ましい。なお、無機カリウム塩および有機カリウム塩は、カリウム塩の無水物であっても、カリウム塩の水和物であってもよい。
【0015】
マスターバッチ中のカリウム塩の含有率は、1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。マスターバッチ中のカリウム塩の含有率が1重量%未満では、ゴム配合物にしたときに、気泡発生の抑制効果が小さく、ロールに対する密着度が大きいため好ましくない。また、マスターバッチ中のカリウム塩の含有率は50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましい。マスターバッチ中のカリウム塩の含有率が50重量をこえると、ホウ酸カリウムの分散不良がおこりやすく、摩耗等の性能が充分に得られない傾向がある。
【0016】
工程1で混合されるシリカとしては、湿式法または乾式法により製造されたシリカがあげられるが、とくに制限はない。
【0017】
マスターバッチ中のシリカの含有率は、10重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましい。マスターバッチ中のシリカの含有率が10重量%未満では、マスターバッチのまとまりが悪く、ゴム中への混合時に充分に分散しない傾向がある。
【0018】
マスターバッチ中の水の含有率は5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。マスターバッチ中の水の含有率が5重量%未満では、カリウム塩が充分に分散しない傾向がある。また、マスターバッチ中の水の含有率は90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましい。マスターバッチ中の水の含有率が90重量%をこえると、マスターバッチとしてのまとまりが悪くなり、ハンドリングが困難となる傾向がある。
【0019】
工程2では、前記マスターバッチをゴム成分とともに混練する。
【0020】
ゴム成分としては、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)など、ゴム工業において一般的に使用されるものがあげられる。ゴム成分としては、なかでも、NR、BRおよびSBRからなる群から1種以上選ばれるものが好ましく、NR、BRおよびSBRからなるものがとくに好ましい。
【0021】
工程2におけるマスターバッチの配合量は、ゴム成分100重量部に対して、2重量部以上であることが好ましく、10重量部以上であることがより好ましく、20重量部以上であることがさらに好ましい。マスターバッチの配合量が2重量部未満では、カリウム塩の効果が得られにくい傾向がある。また、工程2におけるマスターバッチの配合量は、ゴム成分100重量部に対して、150重量部以下であることが好ましく、120重量部以下であることがより好ましい。マスターバッチの配合量が150重量部をこえると、マスターバッチ中の水分が混練中に充分蒸発せず、その結果、気泡発生の抑制効果が小さい傾向がある。
【0022】
工程2では、さらに、シリカ、カーボンブラックなどの補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、軟化剤、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤等の添加剤を混練することが好ましい。
【0023】
シランカップリング剤としては、従来からシリカと併用されるシランカップリング剤とすることができる。具体的には、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系;3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。カップリング剤添加効果とコストの両立から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが好適に用いられる。これらのシランカップリング剤は、1種で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100重量部に対して3〜15重量部である。該含有量が3重量部未満では、カップリング効果が不充分であり、ウェットグリップ性能が充分に得られないだけでなく、耐摩耗性が低下する。また、該含有量が15重量部をこえると、得られたゴム組成物が硬くなり、ウェットグリップ性能が低下する。なお、シランカップリング剤の含有量の基準としたシリカの配合量は、ゴム組成物中の全シリカの配合量とする。
【0025】
本発明の製造方法により得られたゴム組成物は、タイヤなどに使用することができるが、タイヤの部材のなかでも、とくにタイヤトレッドに好適に使用することができる。
【0026】
ゴム組成物中におけるシリカの含有量は、ゴム成分100重量部に対して、20重量部以上、好ましくは30重量部以上、より好ましくは40重量部以上である。シリカの含有量が20重量部未満では、シリカ添加のメリットであるウェット性能の効果が小さくなる。また、ゴム組成物中におけるシリカの含有量は、ゴム成分100重量部に対して、150重量部以下であることが好ましく、130重量部以下であることがより好ましく、120重量部以下であることがさらに好ましい。シリカの含有量が150重量部をこえると、工程でのロールへの密着が悪化し、シリカのゴム中での分散不良をひきおこす傾向がある。なお、シリカの含有量は、マスターバッチ中のシリカの含有量も含めたものである。
【実施例】
【0027】
実施例をもとに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0028】
実施例において使用した各種薬品について、詳細に説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のNipol 9520(エマルジョンSBR、ゴム固形分100重量部に対して37.5重量部含有)
BR:宇部興産(株)製のBR150B
NR:RSS♯3
シリカ:デグサジャパン(株)製のVN3
カーボンブラック:三菱化学(株)製のN220
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
ステアリン酸:日本油脂(株)製の桐
アロマオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH24
老化防止剤:フレキシス社製のサントフレックス6C
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエース0355
ホウ酸カリウムマスターバッチ(ホウ酸カリウムMB):
四ホウ酸カリウム:米山化学(株)製
シリカ:デグサジャパン(株)製のVN3
【0029】
(ホウ酸カリウムマスターバッチ(ホウ酸カリウムMB)の作製方法)
四ホウ酸カリウム、純水およびシリカを撹拌機によって、40℃にて30分間混合することにより、ホウ酸カリウムMBを作製した(四ホウ酸カリウム20重量%、純水50重量%、およびシリカ30重量%)。
【0030】
実施例1〜2および比較例1〜3
(実施例1〜2および比較例1〜3のゴムシートの製造方法)
まず、1.7Lのバンバリーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外に表1に記載の各種薬品を、表1の配合量にしたがって約150℃で5分間混練りした。
【0031】
さらに、2軸オープンロールを用いて、得られた混練り物に、表1記載の配合量の硫黄および加硫促進剤を添加して約80℃で5分間混練りし、170℃で12分間プレス加硫することによりゴムシート(シート厚さ:2mm)を作製した。作製した各ゴムシートを用いて、以下の試験を行なった。
【0032】
(エアーインテスト)
ゴムシートから切り出したゴム試験片(5cm四方、厚さ16mm)を130℃のオーブン内で1時間放置した。その後、オーブンからゴム試験片を取り出して、ゴム試験片の内部の状態を観察し、以下のように点数により評価をおこなった。
5点:まったく気泡が認められない
4点:1mm以下の細かいエアーが確認できる
3点:1mm以上のエアーが確認できる
2点:1mm以上のエアーが多数発生(外から膨らんでいるのもわかる)
1点:エアーがつながって空洞になっている(外からでもわかる)
【0033】
(密着テスト)
2機のオープンロールのうち、1機の温度を70±3℃に設定し(1号機)、もう1機の温度を25±3℃に設定する(2号機)。1号機でゴムシートを熱入れし、ゴム温度が70℃以上になったのを確認した後、2号機に入れてロールに対する密着の度合いを観察し、以下のように点数評価をおこなった。
3点:ロールから容易に引き剥がすことができる
2点:ロールに密着気味ではあるが、引き剥がすことができる
1点:密着により連続作業ができないため、ロールを停止してゴムを引き剥がさなけ ればならない
【0034】
(分散の目視確認)
ゴムシートをカッターナイフで切り、その断面を観察し、以下のように点数評価をおこなった。
3点:白い粒子がみえない
2点:白い粒子がわずかに確認できる(1個/cm2以下)
1点:白い粒子が多数確認できる
【0035】
(ランボーン摩耗試験)
ランボーン摩耗試験機を用いて、スリップ率60%、試験時間2分間の条件における各ゴムシートの容積損失量を測定した。下記計算式により、それぞれ容積損失量を指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れている。
(摩耗指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0036】
各評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100重量部に対して、カリウム塩、水および20重量部以上のシリカを含有するゴム組成物の製造方法であって、
予め該カリウム塩、該シリカの一部、および該水を混合してマスターバッチを作製する工程、ならびに該マスターバッチをゴム成分とともに混練する工程を含むゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
カリウム塩が、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムおよびホウ酸カリウムからなる群から選択される1種以上である請求項1記載のゴム組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−154058(P2007−154058A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351853(P2005−351853)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】