説明

ゴム補強用ポリエステル繊維コード、及びそれを用いたタイヤのキャッププライ部材

【課題】
従来技術では達成できなかった、高温に曝された場合のポリエステル繊維とゴムとの耐熱接着性を改善し、かつ耐熱強力保持性を改善したゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、特にラヂアルタイヤのキャッププライコードに好適なゴム補強用ポリエステル繊維コードおよびその製造方法を提供することである。
【解決手段】
ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤を付与してなるゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、該接着剤成分であるゴムラテックスが、スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)、およびスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(B)を含むことを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ、ホースおよびベルトなどに使用されるゴム補強用ポリエステル繊維コードに関する。さらに詳しくは、ゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性を著しく改善したゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、特に、ラヂアルタイヤのキャッププライコード用として好適なゴム補強用ポリエステル繊維コードに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、優れた強度、弾性率および熱寸法安定性を有するため、タイヤ、ホース、ベルトなどのゴム製品用補強材として従来から広く使用されている。ポリエステル繊維は補強材としてゴム製品中に埋め込まれて使用される時、その高温環境下では熱劣化する。その化学的熱劣化はゴム自身およびゴム中に配合されている種々の添加物の影響を受ける。ゴム中には、チウラム系、スルフェンアミド系あるいはグアニジン系などの加硫促進剤やアミン系老化防止剤などが配合されており、ゴム中で高温処理を受けたポリエステル繊維は、主にこれらのアミン系化合物やゴム自身の酸化劣化によって生じた低分子量化合物、水分子およびゴム中に含まれていた水分等によってアミン分解や加水分解される。かかるアミン分解や加水分解をされたポリエステル繊維は接着性や強力等初期の特性を著しく低下させ使用に耐えられなくなるという問題があった。
【0003】
ポリエステル繊維がアミン分解や加水分解すると、分子鎖切断に伴う強力低下やゴムと繊維層との接着性の低下を生じる。しかしながら、ポリエステル繊維をゴム補強用繊維として用いた場合にはかかる欠点を有するものの、高強力、高弾性率、熱寸法安定性に優れ、かつ耐疲労性や接着性の改良も進み、またタイヤ製造技術の向上と相まって、近年は殆どの乗用車ラヂアルタイヤのカーカス材として用いられている。しかしながら前記本質的な欠点を有しているため、タイヤ高速走行時に発熱した熱がこもりにくく化学劣化し難い、比較的小さなタイヤサイズの乗用車用カーカス材に限られて使用されているのが現状である。トラック、バス等の大型タイヤではごく一部に使用されているに過ぎない。一般には、トラック、バス用タイヤ、航空機用タイヤ、大型乗用車用タイヤおよびレーシングカータイヤ等にはポリエステル繊維コードは使用されていない。
【0004】
しかも、近年益々高速走行に適した高性能タイヤが要求され、その要求を満たすために開発されたラヂアルタイヤは、高速走行時の遠心力によるタイヤの膨張と接地時の圧縮をスチールベルトの上からしっかりと抑えるため、キャッププライコードが用いられるようになった。該キャッププライコードは、カーカス部に比べ一段と発熱し高温となるため、従来のポリエステルコードでは使用に耐えず、高温時の接着性に優れたナイロン66繊維が用いられている。
【0005】
しかしながら、該キャッププライコードの特性としては高弾性率が好ましいため、繊維素材としてはポリエステル繊維が好ましく、またポリエステル繊維は価格も安いこともあり、キャッププライ用として使用可能なポリエステル繊維コードの開発が強く要望されていた。その達成のためには第一に耐熱接着性の大幅な改善が、そして耐熱強力保持性の改善が必要である。
【0006】
ポリエステル繊維の耐熱接着性の改善に関して、開示されている技術として特許文献1〜4がある。
【0007】
特許文献1は、予めポリエポキシド化合物で前処理された線状芳香族ポリエステルを、ポリエポキシド化合物およびN−メトキシメチルナイロンを含む第一処理剤で処理し、次いでレゾルシン・ホルマリン・ラテックスにエチレン尿素化合物と、クレゾールノボラック型エポキシ化合物からなる第2処理剤で処理するポリエステル繊維の処理方法を開示している。
【0008】
特許文献2は、ポリエステル繊維をレゾルシン・ホルマリン・ラテックスおよび、レゾルシンのスルフィド化合物とパラクロロフェノール化合物とホルムアルデヒド樹脂との反応物を含む処理液で処理する処方を開示している。
【0009】
特許文献3は、(A)キャリアーを含む処理液、(B)ブロックドイソシアネート水溶液、(C)エポキシ化合物の分散液、(D)レゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス混合液の4者を組み合わせて、1段または2段以上の多段処理にてポリエステル繊維材料に処理する手法が開示されている。
【0010】
特許文献4は、所定のゲル/ゾル重量比を有するビニルピリジン−スチレン−ブタジエン三元共重合体粒子を含むラテックスと熱硬化性樹脂とを含んでなる接着剤組成物が開示されている。
【0011】
上記特許文献技術は、従来のポリエステル繊維の接着方法に比べれば、高温下での耐熱接着性および耐熱強力保持性の改善が認められるものの十分ではなかった。特に本発明の目的とするラヂアルタイヤのキャッププライ用コードとしては実用化できるレベルではなかった。
【特許文献1】特開昭62−21875号公報
【特許文献2】特開平6−341062号公報
【特許文献3】特開2006−2327号公報
【特許文献4】特開平9−78045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、上述した従来技術では達成できなかった、高温に曝された場合のポリエステル繊維とゴムとの耐熱接着性を改善し、かつ耐熱強力保持性を改善したゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、特にラヂアルタイヤのキャッププライコードに好適なゴム補強用ポリエステル繊維コードおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明は、ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む処理剤を付与してなるゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、該RFLのゴムラテックスが、スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)、およびスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(B)を含むことを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コードである。
【0014】
なお、本発明のホース補強用ポリエステル繊維コードにおいて、以下の(1)〜(3)が好ましい条件であり、これらの条件の適応により、さらに優れた効果を期待することができる。
(1)前記スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)、およびスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和カルボン酸単量体共重合ラテックス(B)の混合比が、(A)/(B)=80/20〜20/80(乾燥重量比)であること。
(2)前記スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)のガラス転移点(Tg)が、―20℃〜35℃であること。
(3)前記レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む処理剤の付着量が、ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維100重量%に対し、3.0〜8.0重量%であること。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードによれば、ゴム加硫工程や製品使用中に、ゴム中で長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性が著しく改善される。本発明によるポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルトおよびホースとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。特に、従来のポリエステル繊維コードでは適用できなかったラヂアルタイヤのキャッププライコードとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で用いるポリエステル繊維は、ジカルボン酸とグリコール成分とからなるポリエステルからなり、特にテレフタル酸とエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0017】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、高強度、高タフネス、高弾性率、低収縮、高耐疲労性等の優れた機械的特性を有し、かつゴム中で高温に長時間曝されても優れた耐加水分解性や耐アミン分解性等の優れた化学的耐久性を有するため、本発明で用いるポリエステル繊維は、以下の特性を有することが好ましい。
(1)固有粘度(IV)=0.7〜1.2、より好ましくは0.8〜1.1
(2)カルボキシル末端基(COOH)=10〜30eq/t、より好ましくは12〜25eq/t
(3)ジエチレングリコール(DEG)の共重合量0.5〜1.5重量%、好ましくは0.5〜1.2重量%
(4)強度(T)=6.0〜10.0cN/dtex、より好ましくは7.0〜9.0cN/dtex
(5)伸度(E)=8〜20%、より好ましくは10〜16%
(6)中間伸度(ME)=4.0〜6.5%、より好ましくは4.5〜6.0%
(7)乾熱収縮率(ΔS150℃)=2.0〜12.0%、より好ましくは3.0〜10.0%
【0018】
なお、上記の測定は以下に示す方法で行う。
【0019】
(1)固有粘度(IV)
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次式に従い求める。
硫酸相対粘度(ηr)=(試料溶液の滴下秒数)/(硫酸溶液滴下秒数)
各サンプルにつき2回の測定をおこない、その平均値を採用する。
【0020】
(2)カルボキシル末端基(COOH)量
精秤した試料(1g)をo−クレゾール(水分5%)20mlに浸漬して145℃で10分間溶解し、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めた。この時、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。
【0021】
(4)強度(T)、(5)伸度(E)、(6)中間伸度(ME)
試料をオリエンテック(株)社製“テンシロン”(TENSILON)UCT−100でJIS L1013 8.5.1標準時試験に示される定速伸長条件で測定する。この時の掴み間隔は25cm、引張り速度は30cm/分、試験回数10回とする。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求める。中間伸度は4.05cN/dtex(4.5g/d)応力時伸度である。
【0022】
(7)乾熱収縮率(ΔS150℃): 原糸をカセ状にサンプリングして、20℃、65%RHの温湿度調整室で24時間以上調整し、試料に1cN/dex相当の荷重をかけて長さL0を測定する。次に、この試料を無緊張状態で150℃のオ−ブン中で30分間熱処理した後、上記温湿度調整室で4時間風乾し、再び試料に1cN/dex相当の荷重をかけて長さL1を測定する。それぞれの長さL0およびL1から次式により180℃乾熱収縮率を求めた。
150℃乾熱収縮率=[(L0−L1)/L0]×100(%)
【0023】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードに用いるポリエステル繊維が特に化学的耐久性を有するためには、粘度が高く、カルボキシル末端基が少なく、ジエチレングリコールが少ないことが有利である。
【0024】
また本発明で用いるポリエステル繊維は、繊度、フィラメント数、断面形状等の制約を受けないが、通常、200〜5000dtex、30〜1000フィラメント、円断面糸が用いられ、250〜3000dtex、50〜500フィラメント、円断面糸が好ましい。また繊度の測定法としては、JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数で測定するとよい。
【0025】
また本発明で用いるポリエステル繊維は、カルボキシ末端基を少なくするため、例えばカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物およびオキサゾリン化合物などの末端カルボキシル基封鎖剤を用いて改質されていてもよい。
【0026】
また、本発明のポリエステル繊維はあらかじめポリエポキシド化合物が付与されたものである。本発明で使用することのできるポリエポキシド化合物は、一分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を、該化合物100gあたり0.1g当量以上含有する化合物を挙げることができる。具体的には、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ソルビトールなどの多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酸化または過酸化水素などで不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、すなわち、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキセンカルボキリレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジペート、フェノールノボラック型、ハイドロキノン型、ビフェニル型、ビスフェノールS型、臭素化ノボラック型、キシレン変性ノボラック型、フェノールグリオキザール型、トリスオキシフェニルメタン型、トリスフェノールPA型、ビスフェノール型のポリエポキシド等の芳香族ポリエポキシド等が挙げられる。特に好ましいのは、ソルビトールグリシジルエーテル型やクレゾールノボラック型のポリエポキシドである。
【0027】
これらの化合物は、通常は乳化液として使用されるが、乳化液、又は溶液にするには、該化合物をそのままか、もしくは必要に応じて少量の溶媒に溶解したものを公知の乳化剤、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等を用いて乳化、又は溶解して用いる。
【0028】
該ポリエポキシド化合物は、ポリエステル繊維の製糸工程において紡糸油剤と共に付与される。この際の該ポリエポキシド化合物の付着量は、ポリエステル繊維とポリエポキシド化合物の全体量を100重量%として、0.1〜5重量%の範囲である。該ポリエポキシド化合物の付着量が0.1重量%未満では、ポリエポキシド化合物の効果が十分に発揮されず、ポリエステル繊維とゴムとの間で満足できる接着性が得られないおそれがある。一方、該ポリエポキシド化合物の付着量が5重量%を超えると繊維が非常に硬くなり、製糸工程において付与することが困難であるだけでなく、次工程以降で処理する処理剤の浸透性が低下する結果、接着性能が低下するので好ましくない。
【0029】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、上記ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維を撚糸して生コードとし、生コードそのまま、または生簾反に製織した後接着剤処理して得られる。通常のカーカス用タイヤコードに用いる生コードは、SまたはZ方向に下撚りした後、2本または3本の下撚りコードを合わせて下撚りと反対方向に通常同数の上撚りをかけ諸撚りコードとしたものである。次いで該生コードを経糸とし、緯糸に綿糸、またはポリエステル繊維に綿糸をカバリングして緯糸とし、生簾反に製織する。次に、該生簾反を接着剤処理してディップ反が得られる。
【0030】
一方、ホースやベルト、およびキャッププライコードの場合には、下撚りをかけ、下撚りコードのまま、あるいは前記と同様、2本または3本合わせて下撚りと反対方向に通常同数の上撚りをかけて諸撚りコードとし、コード形態のまま接着剤処理してディップコードとする。
【0031】
本発明の接着剤が付与されたゴム補強用ポリエステル繊維コードとは、上記ディップ反およびディップコードの両者を指す。
【0032】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードは、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤を付与してなるものである。
【0033】
ここで、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスとは、レゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物とゴムラテックスの混合物である。レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とは、アルカリ触媒または酸触媒の存在下で、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたものであって、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)のモル比(R/F)が1/0.3〜1/5であることが好ましく、さらに1/0.75〜1/2の範囲であることがより好ましい。R/Fが1/0.3〜1/5の範囲を外れると、接着性が低下したり、工程通過性が悪化することがある。また、レゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物と、ゴムラテックス(L)の比は、固形分重量でRF/L=1/3〜1/15であることが好ましく、さらに好ましくは1/5〜1/10であるのが良い。RF/L比が1/3〜1/15の範囲を外れると、接着性が低下したり、工程通過性が悪化することがある。
【0034】
さらには、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物として、あらかじめジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを無触媒または酸性触媒の下で反応させて得られるノボラック型の樹脂を用いることもできる。具体的には、例えば、レゾルシン1モルに対してホルムアルデヒド0.7モル以下とで縮合した化合物(例えば、商品名“スミカノール700”登録商標、住友化学(株)製)である。該レゾルシンとホルムアルデヒドのノボラック型縮合物を使用するに際しては、アルカリ触媒水分散液に溶解後、ホルムアルデヒドを添加し、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比を1/0.3〜1/5に調整することが好ましい。
【0035】
本発明に用いられるゴムラテックスは、スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)、およびスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(B)を含むことが必要である。いずれか一方が欠けてもゴムとの接着性、および耐熱接着性が低下することがある。さらには、(A)、(B)ともエチレン系不飽和酸で変性されていることが必要である。
【0036】
ここで用いられるエチレン系不飽和酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩、アクリルアミドプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはそのアルカリ塩などが挙げられ、これらは一種もしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
なお、カルボキシル基はエチレン性不飽和エステル単量体またはエチレン系不飽和酸無水物単量体を共重合した後に加水分解することによってゴムラテックスに導入してもよい。この場合のエチレン系不飽和酸エステル単量体やエチレン系不飽和酸無水物単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸のモノ、ジ、およびトリエステル、マレイン酸無水物などが例示され、これらの一種または二種以上が使用される。
【0038】
スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)と、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(B)の混合比は、固形分重量比で、80/20〜20/80が好ましく、より好ましくは25/75〜50/50である。スチレンブタジエン系ラテックス(A)が、該範囲以上であると、接着性が低下することがあり、また、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン系ラテックス(B)が、該範囲以上であるこ、工程通過性が悪化することがある。
【0039】
前記スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)は、そのガラス転移点(Tg)が、―20℃〜35℃であることが好ましく、より好ましくは−10℃〜30℃である。−20℃未満であると、ゴムとの接着力が不足することがあり、35℃を越えると、コードが硬く、耐屈曲疲労性が悪化することがある。
【0040】
RFLに用いられるゴムラテックスは、上記(A)(B)を必須成分とし、必要に応じて他のゴムラテックスを混合することもできる。例えば、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、水素化ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロロスルホン化ゴムラテックス、エチレン・プロピレン・ジエンゴムラテックス等が挙げられ、これらを単独、又は併用して使用することが出来る。
【0041】
本発明で用いるクロロ変性レゾルシン(P)とは、パラクロロフェノールとホルマリンおよびレゾルシンを縮合した化合物であり、下記一般式で表されるフェノール系化合物である。
【0042】
【化1】

【0043】
ただし、式中のWはCH、またはSnを、X、YはCl、Br、I、H、OHおよびC〜Cのアルキル基から選ばれた基を示し、mは1〜15の整数である。前記一般式で示されるフェノール系化合物は、ハロゲン化フェノール化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物、硫黄変性レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物またはハロゲン化硫黄変性レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物である。
【0044】
これらクロロ変性レゾルシンの調整方法は特に限定されないが、例えば、パラクロロフェノール、オルソクロロフェノール、パラブロモフェノール、パラヨウドフェノール、オルソクレゾール、パラクレゾール、パラターシャルブチルフェノールおよび2,5−ジメチルフェノールなどが出発原料として挙げられ、なかでもパラクロロフェノール、パラブロモフェノール、パラクレゾール、およびパラターシャルブチルフェノールが、とくにパラクロロフェノールが好ましく用いられる。
【0045】
このような出発原料をアルカリ触媒存在下にホルムアルデヒドと縮合させることによって、または、出発原料を予め酸触媒の存在下で反応させ得られた縮合物をアルカリ触媒の存在下でホルムアルデヒドと反応させることによって、フェノール系化合物を得ることができる。
【0046】
クロロ変性レゾルシンの具体例としては、2,6−ビス(2’,4’−ジヒドロキシ−フェニルメチル)−4−クロロフェノール(トーマスワン(株)製“カサボンド”、ナガセ化成工業(株)製“デナボンド”など)が挙げられるが、なかでも特にベンゼン核を3以上有するクロロフェノール化合物を主成分とするものが接着性および工程通過性の点から好ましく用いられる。
【0047】
一般式(I)で表されるクロロ変性レゾルシン(P)とレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)との配合比は、固形分重量比でP/RFL=1/1〜1/5であることが好ましく、さらに好ましくはP/RFL=1/2〜1/4であるのが良い。P/RFL>1/1の場合は、コードが硬くなることがあり、P/RFL<1/5の場合は接着性が低下することがある。
【0048】
また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維コードの接着剤には、接着性をさらに向上させる観点から、ブロックドポリイソシアネート化合物、および/またはエチレンイミン化合物を含有させることができる。
【0049】
本発明に使用できるブロックドポリイソシアネート化合物、および/またはエチレンイミン化合物としては、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物と、フェノール、クレゾール、レゾルシンなどのフェノール類、ε−カプロラクタム、バレロラクタムなどのラクタム類、アセトキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム類およびエチレンイミンなどのブロック化剤との反応物が挙げられる。これらの化合物のうち、特にε−カプロラクタムでブロックされた芳香族ポリイソシアネート化合物、およびジフェニルメタンジエチレン尿素などの芳香族エチレン尿素化合物が好ましく用いることができる。
【0050】
レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤の総固形分濃度は、5〜20重量%が好ましく、より好ましくは7〜15重量%で使用されるのが好ましい。かかる範囲とすると、処理剤が安定性に優れ、ポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤を均一に塗布することができる。
【0051】
レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤をポリエステル繊維に付着させるには、浸漬、ノズル噴霧、ローラーによる塗布などの任意の方法を採用することができる。
【0052】
ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維100重量%に対するレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤の付着量は、乾燥重対比で3.0〜8.0重量%、特に4.0〜7.0重量%の範囲が好ましく、この範囲とすることで、ゴムとの接着性および工程通過性が良好になる。
【0053】
ポリエステル繊維にレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤を付与した後の熱処理は、80〜180℃で0.5〜5分間、より好ましくは1〜3分間乾燥し、次いで150〜260℃、より好ましくは220℃〜250℃の温度で0.5〜5分間、より好ましくは1〜3分間熱処理するのが良い。該熱処理温度が低すぎると、被着ゴムとの接着が不十分となり、一方、該熱処理温度が高すぎるとポリエステル繊維が溶融、融着したり、硬くなったり、さらに強力劣化を起こすなど実用に供しなくなる。
【0054】
また、前記ポリエステル繊維コードは、下撚り、および上撚りを施された撚糸コードであって、下撚り係数Kが、400≦K≦2000であることが好ましく、より好ましくは500≦K≦1900、さらに好ましくは600≦K≦1800であるのが良い。下撚り係数が好ましい範囲を外れると、高温暴露後の接着力が低下したり、ゴム中での耐疲労性が悪化することがある。また、上撚り係数Kは、800≦K≦3000であることが好ましく、より好ましくは900≦K≦2800、さらに好ましくは1000≦K≦2600であるのが良い。上撚り係数が好ましい範囲を外れると、高温暴露後の接着力が低下したり、ゴム中での耐疲労性が悪化することがある。
【0055】
なお撚り係数Kは、K=T×D1/2、(T:単位長さあたりの撚り数(回/10cm)、D:表示デニール)で求められ、さらに表示デニールDは、JIS L1013 8.3.1正量繊度 a)A法に従って、所定荷重としては5mN/tex×表示テックス数測定するとよい。
【0056】
上記によって特徴づけられる本発明のポリエステル繊維コードは、ゴム加硫工程やゴム製品使用中、長時間高温に曝された時の耐熱接着性、耐熱強力保持性が著しく改善される。本発明によるポリエステル繊維コードで補強されたゴム製品は、タイヤ、ベルトおよびホースとして用いた時に長期間の過酷な使用に耐えることができる。特に、従来のポリエステル繊維コードでは適用できなかったラヂアルタイヤのキャッププライコードとして好適である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、本発明においてゴム補強用ポリエステル繊維コードの物性の測定方法、評価方法は以下に示すとおりである。
【0058】
(1)コード強力
“テンシロン”を使用して、JIS L−1017(2002)8.5項に従って測定した。
【0059】
(2)T−初期接着力およびT−耐熱接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。JIS L−1017(2002)3.1項の接着力−A法に従って、処理コードを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で初期接着力は、150℃、30分、耐熱接着力は170℃、70分間プレス加硫を行い、放冷後、コードをゴムブロックから300mm/minの速度で引き抜き、その引き抜きに要した加重をN/cmで表示した。
【0060】
(3)ゴム中耐熱性
ゴム中での加硫後の強力保持率を示すものである。コードをゴム中で定張下、170℃、3時間加硫後、または6時間加硫後、ゴム中よりコードを取り出し、300mm/minの速度で引張破断強力を求め、初期強力に対する強力保持率を100分率で示した。
【0061】
(4)ガラス転移点(Tg)
示差走査熱量計装置(DSC−50:島津製作所製)を用いて測定した。予め、常温にて乾燥させたラテックス10mgを所定のアルミニウム−パンに封入し、−50℃から100℃まで速度5℃/minで昇温し、各ラテックスのガラス転移点を測定した。
【0062】
なお、T−接着力の測定に使用したゴムコンパウンドの組成は下記のとおりである。
天然ゴム (RSS#1) 80(重量部)
SBR(JSR1501) 20(重量部)
SRFカーボンブラック 50(重量部)
ステアリン酸 2(重量部)
硫黄 2(重量部)
亜鉛華 5(重量部)
2,2’−ジチオベンゾチアゾール 2(重量部)
ナフテン酸プロセスオイル 3(重量部)。
【0063】
また、本発明で使用したゴムラテックスは下記のとおりである。
【0064】
(スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A))
・“ナルスター”(登録商標)SR−100(日本エイアンドエル(株)製)、固形分濃度51.0%、Tg25℃
・“ナルスター”(登録商標)SR−103(日本エイアンドエル(株)製)、固形分濃度48.0%、Tg5℃
・“ナルスター”(登録商標)SR−110(日本エイアンドエル(株)製)、固形分濃度47.0%、Tg−27℃
(スチレン−ブタジエンゴムラテックス、(A’))
・”ニッポール”LX110(日本ゼオン(株)製)、固形分濃度40.5%、Tg−47℃
(スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(B))
・V9625(日本エイアンドエル(株)製)、固形分濃度40.5%
(ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックス(B’))
・”ニッポール”(登録商標)2518FS(日本ゼオン(株)製)、固形分濃度40.5%
【0065】
(実施例1)
苛性ソーダ水溶液に、レゾルシン・ホルマリン初期縮合物:“スミカノールS700”(住友化学(株)製、65%水溶液)を添加して十分に攪拌し分散させた。これにホルマリンをR/F比が1/2(モル比)になるように添加して均一に混合し、温度25℃で4時間熟成させた。次に、表1に示すラテックス成分(乾燥重量比)を、前記レゾルシン・ホルマリン初期縮合物分散液と固形分比率(RF/L比)で1/9の割合で混合し、温度25℃で24時間熟成した。さらに、デナボンドE(ナガセ化成工業(株)製、クロロ変性レゾルシン化合物20%溶液)をRFLと固形分比率(RFL/デナボンド)で3/1となるように添加し、十分攪拌して、25℃で20時間熟成した。最終処理液濃度は13%であった。
【0066】
一方、製糸工程において、ポリエポキシド化合物(ソルビトールグリシジルエーテル型)を予め付与したポリエステル繊維(東レ(株)製、T707M(1100T))のマルチフィラメント2本を、下撚り47回/10cm、上撚り47回/10cmの撚り数で撚糸して、未処理コードとした。
【0067】
該コードをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー(株)製、タイヤコード処理機)を用いて前記の処理剤に浸漬したのち、温度120℃で2分間乾燥し、続いて240℃で1分間熱処理した。コードには処理剤の固形分が3重量%付着していた。その結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2〜7、比較例2〜4、6、7)
RFL中のラテックス成分を表1、2に示す値とした以外は実施例1と同様にした。その結果を表1、2に示す。
【0069】
(比較例1)
製糸工程において、ポリエポキシド化合物を予め付与していないポリエステル繊維(東レ(株)製、(T705M(1100T)))を使用した以外は実施例1と同様にした。その結果を表2に示す。
【0070】
(比較例5)
製糸工程において、ポリエポキシド化合物を予め付与していないポリエステル繊維(東レ(株)製、(T705M(1100T)))を使用した以外は比較例4と同様にした。その結果を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
表1、2の結果のように、本発明による実施例1〜7の場合、従来のゴム補強用ポリエステル繊維(比較例1〜7)よりも、ゴム中での劣化を大幅に改善できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤を付与してなるゴム補強用ポリエステル繊維コードであって、該接着剤成分であるゴムラテックスが、スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)、およびスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(B)を含むことを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項2】
前記スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)、およびスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(B)の混合比が、(A)/(B)=80/20〜20/80(乾燥重量比)であることを特徴とする請求項1に記載のゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項3】
前記スチレン−ブタジエン−エチレン系不飽和酸単量体共重合ラテックス(A)のガラス転移点(Tg)が、―20℃〜35℃であることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項4】
前記レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む接着剤の付着量が、ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維100重量%に対し、3.0〜8.0重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム補強用ポリエステル繊維コードを用いたタイヤのキャッププライ部材。

【公開番号】特開2008−31576(P2008−31576A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204450(P2006−204450)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】