説明

ゴルフクラブシャフトの塗装方法

【課題】美観に優れ且つ塗装位置の精度が高いグラデーション塗装を可能とするゴルフクラブシャフトの塗装方法の提供。
【解決手段】シャフト長手方向の第一領域a1に第一色の塗料を噴射し、シャフト長手方向の第二領域a2に第二色の塗料を噴射し、第一領域a1と第二領域a2との重複部分t1に、上記第一色から上記第二色へと徐々に変化するグラデーション部gを設けるゴルフクラブシャフトの塗装方法である。この塗装方法では、シャフト長手方向の位置及び移動速度が互いに独立して制御されうる第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10が用いられる。第一スプレーガン8が第一色を噴射し、第二スプレーガン10が第二色を噴射する。この塗装方法は、第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10の制御により、上記第一色の塗料と上記第二色の塗料とがウエット・オン・ウエットで塗り重ねられて上記グラデーション部gが形成される工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトの塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブシャフト(以下、単にシャフトともいう)は、塗装されることがある。特に、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)製のゴルフクラブシャフトには、通常、塗装が施される。ゴルファーの好みの多様性を反映して、塗装色は様々である。
【0003】
デザイン性等の観点から、ゴルフクラブシャフトがグラデーション塗装されることがある。また、シャフト色がゴルファーの心理に影響を与えることがあり、この心理面を考慮してグラデーション塗装がなされることがある。
【0004】
ところで、シャフトの塗装方法として、しごき塗装、スプレー塗装及び静電塗装が知られている。しごき塗装は、シャフト表面に塗料を供給しつつ、ゴムシートに設けられたシャフト外径よりも小径の穴にシャフトを通し、ゴムシートにより余剰の塗料をしごき落としながら塗装する塗装方法である。スプレー塗装は、霧状に噴霧された非帯電の塗料をシャフト表面に吹き付ける塗装方法である。静電塗装は、アースした被塗装物を陽極、静電塗装機を陰極とし、噴霧した塗料を負に帯電させることにより被塗装物に効率良く塗料を付着させる塗装方法である。静電塗装機は、周知の如く、ベルタイプ、ガンタイプ及びディスクタイプに大別される。
【0005】
グラデーション塗装には、2色以上の塗料が用いられる。グラデーション部は、第一色から第二色へと徐々に変化する部分である。第一色と第二色とは、色彩が異なっていてもよいし、同一色彩で濃度が異なっていても良い。このグラデーション部を美観よく効率的に作製するには、第一色の塗料と第二色の塗料とを塗り重ねる。具体的には、まず、第一色の塗料でシャフトを塗装する。この第一色の塗料は、グラデーション部において下層の塗膜を構成する。次に、第一色の塗膜の上に第二色の塗料を塗装する。上層である第二色が、下層である第一色を完全に隠蔽しない状態とすることにより、第一色と第二色との中間的な外観が生成される。第二色の隠蔽度を連続的又は段階的に変化させることにより、グラデーション部が生成される。隠蔽度の変化は、例えば塗布量(単位面積当たりの塗布量)の連続的な変化によりなされる。
【0006】
塗布量の連続的な変化は、例えば、霧状に噴霧された塗料により可能とされる。霧状に噴霧された塗料は、通常、噴霧範囲の中心部から周辺部に向かって徐々に塗布量(単位面積当たりの塗布量)が減少する。この塗布量の分布を利用してグラデーション部が生成されうる。塗料を霧状に噴霧してグラデーション部を形成するためには、上層の塗料が霧状に噴霧される必要がある。よって上層は、スプレー塗装又は静電塗装により塗装される。下層の塗料は、任意の方法で可能である。下層は、スプレー塗装や静電塗装の他、しごき塗装でも塗装されうる。特開2002−336393は、ディスクタイプの静電塗装機により塗料を噴霧し、グラデーション塗装を行う技術を開示する。
【特許文献1】特開2002−336393公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
グラデーション部において噴霧された上層の塗料は、下層の表面にドット状(散点状)に付着する。このドットの密度や各ドットの大きさなどが連続的に変化することにより、グラデーション部が形成されうる。従来技術では、下層の塗料が乾燥した後に、上層が塗装される。換言すれば、上層はウエット・オン・ドライで塗装される。本発明者は、ウエット・オン・ドライの状態で霧状に噴霧された上層の塗料は、レベリングが十分になされていないことを見出した。レベリングが十分でない上層の塗料は、塗料の各ドットが凸となり、表面が粗い(ザラザラの)状態となる。表面粗度が粗いシャフトは、光沢感に乏しい。表面粗度の粗さは、商品価値を低下させる。塗装面の表面粗度を改善するためには、上層の上にクリア塗料が厚く塗られる必要がある。
【0008】
本発明者は、ウエット・オン・ドライで塗装された場合、グラデーション部の上層のドット模様が目立つことを見出した。ドット模様が目立つことは、グラデーション塗装の美観を損なう。
【0009】
前述した先行技術は、ディスクタイプの静電塗装機を用いることにより、グラデーション部の位置(シャフト長手方向位置)の精度を高めている。製品間のバラツキを抑える観点から、グラデーション部の位置精度は、高いほど好ましい。一般に、静電塗装は、スプレー塗装と比較して、グラデーション部の位置精度が低くなりやすい。静電塗装の塗料粒子は、静電引力により被塗装物に付着する。静電塗装の塗料粒子が空気中を飛散する勢いは、スプレー塗装の場合よりも少ない。静電塗装の塗料粒子の付着位置は、スプレー塗装の場合と比較して、塗装時の温度や湿度などの環境に影響されやすい。塗装時の温度や湿度は、塗料の溶剤の揮発度に影響を与える。溶剤の揮発度は、塗料粒子の大きさ、重量、密度などに影響を与える。溶剤の揮発度は、塗料粒子の飛散の仕方に影響を与える。
【0010】
塗料の無駄を抑制するためのは、非グラデーション部において上層塗料と下層塗料との重複を避けるのが好ましい。一方、グラデーション部には下層塗料が確実に塗布されている必要がある。グラデーション部において下層塗料の塗布が不十分であると下地が隠蔽されない恐れがある。下層の塗装位置の位置精度が悪い場合、塗装位置の誤差を吸収するために、下層の塗布範囲の設定を拡張する必要が生じる。この拡張は、下層塗料の無駄を増大させる。
【0011】
本発明の目的は、美観に優れ且つ塗装位置の精度が高いグラデーション塗装を可能とするゴルフクラブシャフトの塗装方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るゴルフクラブシャフトの塗装方法は、シャフト長手方向の第一領域に第一色の塗料を噴射し、シャフト長手方向の第二領域に第二色の塗料を噴射し、上記第一領域と上記第二領域との重複部分に、上記第一色から上記第二色へと徐々に変化するグラデーション部を設けるゴルフクラブシャフトの塗装方法であって、シャフト長手方向の位置及び移動速度が互いに独立して制御されうる第一スプレーガン及び第二スプレーガンを用い、上記第一スプレーガンが上記第一色の塗料を噴射し、上記第二スプレーガンが上記第二色の塗料を噴射するとともに、これらの第一スプレーガン及び第二スプレーガンの制御により上記第一色の塗料と上記第二色の塗料とがウエット・オン・ウエットで塗り重ねられて上記グラデーション部が形成される工程を含む。
【0013】
好ましくは、上記塗装方法において、上記第一スプレーガンの噴射中の移動範囲と、上記第二スプレーガンの噴射中の移動範囲とは、互いに重複しない。
【0014】
好ましくは、上記塗装方法において、上記第一スプレーガンと上記第二スプレーガンとは互いに同一直線上を移動するとともに、これら第一スプレーガンと第二スプレーガンとは、互いに干渉しないように制御される。
【0015】
好ましくは、上記塗装方法において、シャフト長手方向の第一領域に第一色の塗料を噴射し、シャフト長手方向の第二領域に第二色の塗料を噴射し、シャフト長手方向の第三領域に第一色の塗料を噴射し、上記第一領域と上記第二領域との重複部分及び上記第二領域と上記第三領域との重複部分に、上記第一色から上記第二色へと徐々に変化するグラデーション部を設けるゴルフクラブシャフトの塗装方法であって、第一スプレーガンが上記第一色の塗料を上記第一領域及び上記第三領域に噴射し、第二スプレーガンが上記第二色の塗料を上記第二領域に噴射するとともに、上記第一スプレーガン及び上記第二スプレーガンの移動は、上記シャフトの一端側から他端側への片道移動のみであり、上記第一スプレーガンの移動時刻と、上記第二スプレーガンの移動時刻とが重複している。
【0016】
好ましくは、上記塗装方法において、上記第一スプレーガン及び第二スプレーガンは、移動途中で停止しない。
【0017】
好ましくは、上記塗装方法において、非噴射中の上記第一スプレーガン及び第二スプレーガンは、噴射中の上記第一スプレーガン及び第二スプレーガンよりも高速で移動する。
【発明の効果】
【0018】
シャフト長手方向の位置及び移動速度が互いに独立して制御されうる第一スプレーガン及び第二スプレーガンを用いたので、グラデーション部をウエット・オン・ウエットで塗装することができる。また、グラデーション部の位置精度が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態である塗装方法が実施される様子を上方からみた平面図である。図2は、図1の側面図である。
【0021】
この塗装方法では、ゴルフクラブシャフト2が塗装される。シャフト2の外面の断面は円形である。シャフト2の内部は中空である。シャフト2は、テーパー形状を有している。ゴルフクラブに適用される際に、シャフト2の細径側端部(チップ端とも称される)tにヘッドが装着され、シャフト2の太径側端部(バット端とも称される)bにグリップが装着される。シャフト2は、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製である。CFRP製のシャフト2は、通常、塗装を必要とする。塗装に先立ち、シャフト2の表面は研磨処理される。
【0022】
本塗装方法は、塗装装置4により行われる。塗装装置4は、シャフトの両端部を保持するシャフト保持部6を有する。シャフト保持部6は、シャフト2を着脱自在に保持する。シャフト保持部6に保持された状態では、シャフト2は移動しない。ただし、シャフト保持部6に保持された状態において、シャフト2はシャフト軸線z1周りに回転(軸回転)する(図1の矢印参照)。塗装中、シャフト2はシャフト軸線z1周りに回転する。シャフト軸線z1周りの回転により、塗布量がシャフト2の周方向に対して均等化される。シャフト軸線z1周りの回転の回転数は、例えば350rpm程度である。
【0023】
塗装装置4は、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とを有する。また塗装装置4は、ガン駆動部7を有する。ガン駆動部7は、第一支持体12、第二支持体14、基台部16、2本のリニアガイド18、第一ボールネジ20、第二ボールネジ22、第一モータ26及び第二モータ28を有する。第一スプレーガン8は、第一支持体12に固定されている。第二スプレーガン10は、第二支持体14に固定されている。更に塗装装置4は、基台部16と、この基台部16上に配置されたリニアガイド18と、基台部16上に配置された第一ボールネジ20及び第二ボールネジ22とを有する。リニアガイド18は2本である。2本のリニアガイド18と、第一ボールネジ20と、第二ボールネジ22とは、それぞれ互いに平行に配置されている。シャフト保持部6に保持されたシャフト2は、リニアガイド18、第一ボールネジ20及び第二ボールネジ22と平行に配置される。シャフト2のシャフト軸線z1が第一ボールネジ20等と平行とされてもよく、シャフト2のスプレー配置側の輪郭線24(図1参照)が第一ボールネジ20等と平行とされてもよい。
【0024】
図1で示されるように、2本のボールネジ20、22の両側にリニアガイド18が配置されている。第一支持体12及び第二支持体14は、2本のリニアガイド18によりガイドされる。第一支持体12及び第二支持体14は、リニアガイド18上を往復しうる。第一支持体12及び第二支持体14の移動方向は、リニアガイド18と平行な方向に規制される。第一支持体12及び第二支持体14の移動は、リニアガイド18と平行な直進移動のみに規制されている。第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10の移動方向も、リニアガイド18と平行な方向に規制される。第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10は、シャフト保持部6に保持されたシャフト2に沿って動く。第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10は、同一直線上を移動する。図2において、第二スプレーガン10は、第一スプレーガン8の裏側に隠れているため図示されない。
【0025】
第一ボールネジ20は、第一モータ26により軸回転する。図示されないが、第一ボールネジ20と第一モータ26との間に減速ギア等のギアが介装されてもよい。ギアは、第一ボールネジ20の回転数や回転トルクを調整する。第二ボールネジ22は、第二モータ28により軸回転する。図示されないが、第二ボールネジ22と第二モータ28との間にギアが介装されてもよい。ギアは、第二ボールネジ22の回転数や回転トルクを調整する。
【0026】
第一モータ26及び第二モータ28は、サーボモータとされている。サーボモータは、回転数、回転量及び回転速度の制御精度が高い。制御精度の観点から、より好ましくは、サーボモータはACサーボモータとされる。サーボモータの他、ステッピングモータや汎用モータが利用可能である。汎用モータは、例えば汎用インバータと共に用いられる。
【0027】
図示されないが、第一モータ26及び第二モータ28は、ロータリーエンコーダを内蔵している。ロータリーエンコーダは、モータ26、28の角度位置を検出する。ロータリーエンコーダによる情報が、モータ26、28の制御に利用される。
【0028】
第一ボールネジ20の回転により第一支持体12は移動する。第一支持体12の移動量は第一ボールネジ20の回転量により制御される。第一支持体12の移動速度は第一ボールネジ20の回転速度により制御される。第一ボールネジ20と第一モータ26とが、第一支持体12を駆動する。第一ボールネジ20は、第一支持体12と係合しているが、第二支持体14と係合していない。第一支持体12は、第二ボールネジ22と離間している。
【0029】
第二ボールネジ22の回転により第二支持体14は移動する。第二支持体14の移動量は第二ボールネジ22の回転量により制御される。第二支持体14の移動速度は第二ボールネジ22の回転速度により制御される。第二ボールネジ22と第二モータ28とが、第二支持体14を駆動する。第二ボールネジ22は、第二支持体14と係合しているが、第一支持体12と係合していない。第二支持体14は、第一ボールネジ20と離間している。
【0030】
第一支持体12と第二支持体14とは、その位置及び移動速度が互いに独立して制御されうる。よって、第一スプレーガン8のシャフト長手方向の位置及び移動速度は、第二スプレーガン10とは独立して制御されうる。第二スプレーガン10のシャフト長手方向の位置及び移動速度は、第一スプレーガン8とは独立して制御されうる。制御は、制御部(図示されない)によりなされる。制御部は、制御条件を入力しうる入力部と、制御条件を表示しうる表示部とを有している。典型的な制御部は、CPU、メモリ、ディスプレイ及びキーボードを備えたコンピュータである。典型的な入力部は、キーボードである。典型的な表示部は、ディスプレイである。制御部は、第一モータ26及び第二モータ28に接続されている。制御部は、第一ボールネジ20及び第二ボールネジ22の回転速度及び回転量を制御する。
【0031】
図2に示されるように、第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10とシャフト2とは、互いに同じ高さで配置される。シャフト2は略水平に配置される。後述するように、シャフト2は略垂直に配置されてもよい。スプレーガン8、10の噴射口とシャフト2の表面との距離は、スプレーガン8、10の位置に関わらず略一定である。スプレーガン8、10の噴射口とシャフト2の表面との距離は、例えば200mm程度とされる。
【0032】
グラデーション部は、第一色から第二色へと徐々に変化する。第一色と第二色との相違は、色調の相違でもよく、色の濃度の相違でもよい。第一色と第二色とは、視覚的に何らかの相違があればよい。
【0033】
グラデーション部を生成させるため、第一スプレーガン8から上記第一色の塗料が噴射され、第二スプレーガン10から第二色の塗料が噴射される。グラデーション部は、第一色と第二色とを塗り重ねることにより形成される。
【0034】
スプレーガン8、10は、噴射口(ノズル)の両側に対向配置された一対の角部9を有する(図2参照)。噴射口からは、塗料が丸吹きされる。丸吹きとは、噴射状態が円錐状であることを意味する。角部9からは、エアが噴出される。このエアは、パターンエアとも称される。角部9から噴出されたパターンエアは、丸吹きされた塗料を両側から押しつぶす。押しつぶされた塗料の噴射状態は、楕円錐状となる。楕円錐状の噴射状態は、平吹きとも称される。角部9により、スプレーガン8、10は、塗料の平吹きが可能とされている。平吹きされた塗料の塗装パターンは楕円状となる。楕円状の塗装パターンは、円形の塗装パターンと比べて、細長い物体への塗装に適する。楕円状の塗装パターンは、シャフト塗装における塗料の無駄を低減し塗装効率を向上させる。図2に示すように、対向配置された一対の角部9が上下に配置されるように、スプレーガン8、10は設置される。楕円状の塗装パターンの長軸方向は、シャフト2のシャフト長手方向に略一致している。楕円状の塗装パターンの中心は、シャフト軸線z1上に位置する。
【0035】
図示されないが、スプレーガン8、10は、塗料タンクと接続されている。塗料タンクは、エアコンプレッサーと接続されている。エアコンプレッサーにより、塗料タンクに所定のタンク圧送圧が付与される。塗料タンクは、所定のタンク圧送圧により塗料をスプレーガンに供給する。
【0036】
図示されないが、スプレーガン8、10は、エアトランスホーマと接続されている。エアトランスホーマは、エアコンプレッサーと接続されている。エアトランスホーマは、霧化エア及びパターンエアをスプレーガン8、10に供給する。霧化エアやパターンエアのエア圧は調整されうる。霧化エア圧が高くされると塗料の噴射速度が増加する。パターンエア圧が高くされると、塗装パターンの楕円がより長楕円となる。
【0037】
以下では、グラデーション部において下層となる色を第一色とし、上層となる色を第二色として、塗装の手順を説明する。図3は、第一実施形態の塗装方法について説明するための図である。図3に示すように、まず、第一スプレーガン8により、第一色の塗料が噴射される。第一色の塗料は、シャフト長手方向の第一領域a1に噴射される。第一領域a1を塗装させるため、第一スプレーガン8は移動範囲m1を移動する。第一スプレーガン8の移動範囲とは、第一スプレーガン8の噴射の中心位置c1の移動範囲を意味する。噴射角αの存在により、第一領域a1は移動範囲m1よりも広くなる。ここで噴射角αとは、図3で示されるように、シャフト長手方向に沿った角度を意味している。
【0038】
次に、第二スプレーガン10により、第二色の塗料が噴射される。第二色の塗料は、シャフト長手方向の第二領域a2に噴射される。第二領域a2を塗装させるため、第二スプレーガン10は移動範囲m2を移動する。第二スプレーガン10の移動範囲は、第二スプレーガン10の噴射の中心位置c2により確定される。噴射角βの存在により、第一領域a2は移動範囲m2よりも広くなる。ここで噴射角βとは、図3で示されるように、シャフト長手方向に沿った角度を意味している。
【0039】
第一領域a1と第二領域a2との重複部分t1に、グラデーション部gが形成される。重複部分t1において、第一色の塗料は、下地を隠蔽しうる程度に塗布されているのが好ましい。一方、重複部分t1において、上層となる第二色の塗料は、下層である第一色を完全に隠蔽しない程度に塗布される。噴霧角α(又はβ)内における塗布量分布は、中心ほど多く、周囲ほど少なくなる。グラデーション部gの形成には、スプレーー噴射に伴う塗布量分布が利用される。第二領域a2の端部において、第二色の塗布量分布は、第二領域a2の端側ほど少なくなる。端側ほど少ない塗布量分布により、グラデーション部gが容易に形成されうる。
【0040】
また、グラデーション部gは、スプレー噴射に伴う塗布量分布に依存することなく形成されうる。単位面積当たりの塗布量は、スプレーガンの単位時間当たりの噴射量やスプレーガンの移動速度などによっても変化しうる。よって、グラデーション部gは、例えばスプレーガンの移動速度を連続的又は段階的に変化させることによって形成されうる。
【0041】
グラデーション部gにおいて、第一色の塗料と第二色の塗料とはウエット・オン・ウエットで塗り重ねられる。本発明者は、ウエット・オン・ウエットで塗り重ねることがグラデーション部gの外観向上に寄与することを見出した。グラデーション部gがウエット・オン・ウエットで塗り重ねられることにより、グラデーション部gのドット模様が目立たなくなると共に、グラデーション部gの表面が平滑化される。未乾燥の下層(第一色)は、溶剤の揮発が完了していない。未揮発の溶剤が残留する下層には、上層(第二色)として塗られた塗料の少なくとも一部が混合されうる。
【0042】
グラデーション部gの美観向上及び塗装時間の短縮の観点から、グラデーション部gにおいて、第一色の塗装時刻と第二色の塗装時刻との時間差(以下、塗り重ね時間差ともいう)Tは、短いほど好ましい。具体的には、第一色の塗装時刻と第二色の塗装時刻との時間差Tは10秒以下が好ましく、5秒以下がより好ましく、3秒以下が特に好ましい。
【0043】
下層に対する上層の混合は、上層の塗料粒子の平滑化に寄与する。上層の塗料粒子の平滑化は、クリア塗装の省略又はクリア塗料の削減に寄与する。上層の塗料粒子の平滑化は、視覚上の光沢感を増加させ、美観の向上に寄与する。
【0044】
下層に対する上層の混合により、ドット模様(散点模様)が目立たなくなる。ドット模様の目立たないグラデーション部gは、美観に優れる。ドット模様を目立たなくすることで、グラデーション部gの色の変化(色調や濃淡などの変化)がより一層連続的となる。
【0045】
前述したように、スプレーガン8、10においては、シャフト長手方向の位置及び移動速度が互いに独立して制御されうる。更に、スプレーガン8、10においては、塗料を噴射する時刻と非噴射の時刻とが互いに独立して制御されうる。第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とを互いに独立して制御することにより、ウエット・オン・ウエットで塗装されたグラデーション部gが形成されうる。
【0046】
図3で示されるように、本実施形態では、第一スプレーガン8の噴射中の移動範囲m1と、第二スプレーガン10の噴射中の移動範囲m2とが互いに重複しない。スプレーガン8、10の噴射角内においては、中心位置c1、c2において特に塗布量(単位面積当たりの塗布量)が多い。よって、重複部分t1即ちグラデーション部gの形成において、移動範囲m1と移動範囲m2とが重複した場合、グラデーション部gが厚塗りとなりやすい。従来のように、グラデーション部gがウエット・オン・ドライで塗装される場合には、下層が乾燥済みであるため、グラデーション部gにおける塗料の液だれは生じにくい。しかし、ウエット・オン・ウエットで塗装される場合、下層が未乾燥であるため、グラデーション部gにおける塗料の液だれが生じやすい。移動範囲m1と移動範囲m2とを重複させないことは、グラデーション部gにおける過度の厚塗りを抑制する。ウエット・オン・ウエットでの過度の厚塗りが抑制されることにより、グラデーション部gにおける塗料の液だれが抑制される。
【0047】
図1〜図3で示されるように、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とは互いに同一直線上を移動する。両スプレーガン8、10の移動軌跡を同一直線上とすることは、塗装装置4の簡略化及び小型化に寄与しうる。両スプレーガン8、10の移動軌跡が同一直線上とされた場合、両スプレーガン8、10は互いに干渉しうる。第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とは互いに衝突しうる。図1に示されるように、第一スプレーガン8が第二スプレーガン10の左側に配置されている場合、第一スプレーガン8を第二スプレーガン10の右側に移動させることはできない。本実施形態の塗装方法では、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とが、互いに干渉しないように制御される。
【0048】
以上のように、塗装装置4は、ウエット・オン・ウエットで塗装された1カ所のグラデーション部gを形成しうる。更に塗装装置4は、ウエット・オン・ウエットで塗装された2カ所以上のグラデーション部gを形成しうる。
【0049】
次に、2カ所のグラデーション部gが形成される場合について説明がなされる。用いられる塗装装置は、前述した塗装装置4である。本実施形態では、グラデーション部gが2カ所となるように第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10が制御される。
【0050】
図4は、第二実施形態の塗装方法を説明するための図である。
以下では、グラデーション部において下層となる色を第一色とし、上層となる色を第二色として、塗装の手順を説明する。第一スプレーガン8が第一色の塗料を噴射し、第二スプレーガン10が第二色の塗料を噴射する点は、前述した第一実施形態と同様である。
【0051】
本実施形態では、第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10の移動は、シャフト2の上記シャフトのバット端b側からチップ端t側への片道移動のみである。片道移動のみとされることは、塗装時間の短縮に寄与する。塗装前の初期状態(図示されない)において、第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10はいずれもバット端b側近傍に配置される。
【0052】
次に、第二スプレーガン10が、バット端b側からチップ端t側への移動を開始する。移動中、第二スプレーガン10は、移動範囲m3及び移動範囲m5において第二色の塗料を噴射する。
【0053】
第二スプレーガン10の移動開始時刻よりも後に、第一スプレーガン8が、バット端b側からチップ端t側への移動を開始ずる。移動中、第一スプレーガン8は、移動範囲m4において第一色の塗料を噴射する(図4参照)。
【0054】
第二スプレーガン10と第一スプレーガン8との移動開始時刻の時間差(以下、遅延時間ともいう)dは、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との干渉を防止するために設定される。もちろん、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とが干渉しない限り、遅延時間dは不要である。つまり、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との移動開始時刻が同時とされてもよい。また、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とが干渉しない限り、第二スプレーガン10よりも早く第一スプレーガン8の移動が開始されてもよい。干渉を防止するため、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との移動開始位置が調整されうる。
【0055】
図4では示されていないが、第一スプレーガン8が第二スプレーガン10よりもバット端b側(図4における左側)である位置関係は、塗装中においても不変である。したがって、塗装中において、第一スプレーガン8が第二スプレーガン10よりも常時バット端b側(図4における左側)となるように第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10が制御される。この制御により、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との干渉が防止される。
【0056】
第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10は、移動の途中で停止してもよく、移動途中で停止しなくてもよい。ただし、移動途中で停止しないことは、塗装時間の短縮に寄与する。また、移動途中で停止しないことは、アクチュエータ(塗装装置4では、モータ26、28及びボールネジ20、22など)の負担を軽減しうる。
【0057】
塗装時間及び塗り重ね時間差Tを短縮する観点から、第一スプレーガン8の移動時刻と、第二スプレーガン10の移動時刻とは重複しているのが好ましい。一方のスプレーガン(例えば第一スプレーガン8)の移動終了後に他方のスプレーガン(例えば第二スプレーガン10)を移動させた場合、塗装時間が増加し、且つ、塗り重ね時間差Tが増加する。移動時刻が少なくとも一部で重複している場合、塗装時間及び塗り重ね時間差Tが短縮される。
【0058】
塗装時間の短縮の観点から、非噴射中の第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10は、噴射中の第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10よりも高速で移動するのが好ましい。
【0059】
第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10の制御条件として、次の条件が設定可能である。各制御条件は、前述した入力部から入力されうる。
【0060】
第一スプレーガン8の条件として、次の各条件が設定されうる。
(1a)第一スプレーガン8の移動開始前の位置(初期位置)s1(図示省略)
(1b)噴射中の移動範囲m4の開始位置p1(図4参照)
(1c)噴射中の移動範囲m4の終了位置p2
(1d)第一スプレーガン8の移動終了位置s2(図示省略)
(1e)初期位置s1から開始位置p1までの移動速度f1
(1f)開始位置p1から終了位置p2までの移動速度f2
(1g)終了位置p2から移動終了位置s2までの移動速度f3
【0061】
第一スプレーガン8の非噴射の移動範囲は、初期位置s1から開始位置p1までの範囲と、終了位置p2から移動終了位置s2までの範囲である。
【0062】
第二スプレーガン10の条件として、次の各条件が設定されうる。
(2a)第二スプレーガン10の移動開始前の位置(初期位置)s3(図示省略)
(2b)噴射中の移動範囲m3の開始位置p3
(2c)噴射中の移動範囲m3の終了位置p4
(2d)噴射中の移動範囲m5の開始位置p5
(2e)噴射中の移動範囲m5の終了位置p6
(2f)第二スプレーガン10の移動終了位置s4(図示省略)
(2g)初期位置s3から開始位置p3までの移動速度f4
(2h)開始位置p3から終了位置p4までの移動速度f5
(2i)終了位置p4から開始位置p5までの移動速度f6
(2j)開始位置p5から終了位置p6までの移動速度f7
(2k)終了位置p6から移動終了位置s4までの移動速度f8
【0063】
第二スプレーガン10の非噴射の移動範囲は、初期位置s3から開始位置p3までの範囲と、終了位置p4から開始位置p5までの範囲と、終了位置p6から移動終了位置s4までの範囲である。
【0064】
第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との相互関係を示す条件として、次の条件が設定されうる。
(3a)第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との移動開始時刻の時間差、即ち、前述した遅延時間d
【0065】
図4が示すように、移動範囲m3により塗布された第一領域a3と、移動範囲m4により塗布された第二領域a4との重複部分t2が、グラデーション部gとなる。また、移動範囲m4により塗布された第二領域a4と、移動範囲m5により塗布された第三領域a5との重複部分t3が、グラデーション部gとなる。
【0066】
各条件(1a)〜(1g)、(2a)〜(2k)及び(3a)は、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との非干渉を考慮して決定されうる。各条件(1a)〜(1g)、(2a)〜(2k)及び(3a)は、塗装時間の短縮化を考慮して決定されうる。各位置p1〜p6は、グラデーション部gの範囲及び位置を考慮して決定されうる。各速度f1〜f8は、単位面積当たりの塗布量を考慮して決定されうる。
【0067】
上記条件以外にも、例えば各位置における停止時間などが設定されうる。移動途中において第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10は停止させなくてもよい。各移動速度f1〜f8は、等速とされなくてもよい。
【0068】
図5は、本発明の第三実施形態を示す図である。図6は、図5のVI−VI線に沿った断面図である。本実施形態では、前述した塗装装置4とは異なる塗装装置30が用いられる。塗装装置4では、シャフト2が水平に固定される。換言すれば、塗装装置4では、シャフト2が横置きとされる。これに対して、塗装装置30では、シャフト2が鉛直に固定される。換言すれば、塗装装置30では、シャフト2が縦置きとされる。
【0069】
塗装装置30は、シャフト2を保持するシャフト保持部32と、第一スプレーガン34と、第二スプレーガン36と、第一スプレーガン34及び第二スプレーガン36を駆動するガン駆動部(図示されない)とを有する。図5では、噴射口側から正面視された第一スプレーガン34及び第二スプレーガン36が円にて簡易的に示される。ガン駆動部は、ガンを支持する2つの支持体、2本のボールネジ、2個のサーボモータ、2本のリニアガイド等を備える。このガン駆動部は縦置きとされている。即ち、2本のボールネジ及び2本のリニアモータの長手方向は鉛直方向に配置されている。第一スプレーガン34及び第二スプレーガン36は鉛直方向に移動する。このガン駆動部の構造は、縦置きとされた以外は塗装装置4と同様であるので説明を省略する。
【0070】
塗装装置30は、2本のシャフト2を同時に塗装しうる。シャフト保持部32は、4本のシャフト2を同時に保持しうる。シャフト保持部32は、2本のシャフトを略平行に保持しうる第一保持部38と、2本のシャフトを略平行に保持しうる第二保持部40とを有している。第一保持部38は、シャフト42及びシャフト44を保持している。第二保持部40は、シャフト46及びシャフト48を保持している。第一保持部38及び第二保持部40は、ギア等を介して各シャフトを軸回転させるモータ50を備えている。モータ50により、シャフト42、シャフト44、シャフト46及びシャフト48は軸回転する。
【0071】
第一保持部38が塗装ポジションD1に配置されることにより、第一保持部38に保持された2本のシャフト42、44はスプレーガン34、36の前方に配置される。塗装ポジションD1に位置するシャフト42、44に沿ってスプレーガン34、36が移動する(図5の白抜き矢印参照)。第一保持部38が塗装ポジションD1に位置するとき、第二保持部40は準備ポジションD2に位置する。
【0072】
塗装装置30は、回転軸52と、この回転軸52に回転可能に支持されるとともに第一保持部38と第二保持部40とを一体的に支持する回転部54とを有する。回転軸52を中心として回転部54を回転させることにより、第一保持部38の位置と第二保持部40の位置とを入れ替えることができる。図5に示された状態では、第一保持部38が塗装ポジションD1に位置し且つ第二保持部40が準備ポジションD2に位置する。回転部54の回転により、第一保持部38が準備ポジションD2に位置し且つ第二保持部40が塗装ポジションD1に位置しうる。回転部54の180度の回転により、第一保持部38の位置と第二保持部40の位置とが入れ替わる。塗装装置30は、第一保持部38及び第二保持部40を塗装ポジションD1に位置させるための位置決め機構を有している。
【0073】
塗装ポジションD1において塗装がなされている間に、準備ポジションD2に塗装前のシャフトがセットされうる。塗装ポジションD1において塗装が終了した時点で、回転部54を回転させることにより、塗装前のシャフトが塗装ポジションD1に配置され、塗装後のシャフトが準備ポジションD2に配置されうる。準備ポジションD2に配置された塗装後のシャフトは取り外され、新たな塗装前シャフトがセットされうる。塗装ポジションD1におけるシャフトの塗装、回転部54の回転、準備ポジションD2における塗装後シャフトの取り外し及び準備ポジションD2における塗装前シャフトのセットを繰り返すことにより、シャフト塗装の量産性が高まる。
【0074】
塗装装置30は、2本のシャフトを同時に塗装しうる。図6で示されるように、塗装ポジションD1に位置する2本のシャフト42、44が同時に塗装される。同時に塗装される2本のシャフト42、44のシャフト軸線は互いに平行とされる。スプレーガン34、36の噴射口からシャフトまでの距離は、シャフト42とシャフト44とにおいて等しい。
【0075】
同時に塗装されるシャフト42とシャフト44との間には、間隔Kが存在する。スプレーガン34、36の噴射の中心線Lは、間隔Kの中心に配向される(図6参照)。噴射の中心線Lを間隔Kの中心に配向させることにより、シャフト42、44への塗料の付着量が2本のシャフト間で均等化される。
【0076】
シャフト42、44の軸回転の方向は、両シャフト42、44間に噴射される塗料の流れに沿った方向とされるのが好ましい。噴射された塗料は、隙間Kをスプレーガン34、36側からスプレーガン34、36の反対側に向かって(図6において上から下へ)流れる。シャフト42の軸回転の方向r1は、両シャフト42、44間に噴射される塗料の流れに沿った方向(図6における時計回り方向)である。シャフト44の軸回転の方向r2は、両シャフト42、44間に噴射される塗料の流れに沿った方向(図6における反時計回り方向)である。両シャフト42、44間に噴射される塗料の流れに沿った方向にシャフトを軸回転させることは、噴射された気流の乱れを抑制する。気流の乱れの抑制は、シャフトの周方向における塗布量の均等化に寄与する。
【0077】
本発明では、シャフトの全体又は一部が塗装される。本発明のシャフト塗装方法と、他の塗装方法とが組み合わされても良い。
【0078】
塗装されたシャフトの後端部(バット端b近傍)には、グリップが装着される。塗装されたシャフトの先端部(チップ端t近傍)には、ヘッドが装着される。グリップで覆われるシャフト後端部は、塗装される必要がない。ヘッドのシャフト穴に挿入されるシャフト先端部は、塗装される必要がない。シャフト穴に挿入されるシャフト先端部の塗料は、ヘッドとシャフトとの接着を阻害しうる。接着強度を上げるため、シャフト穴に挿入されるシャフト先端部の塗料は、表面バフにより除去される。
【0079】
塗料の無駄を防止する観点から、シャフトの後端部に塗装されない塗装なし部が設けられるようにスプレーガンが制御されるのが好ましい。後端側の塗装無し部の長さY1(図3参照)は、150mm以上が好ましく、200mm以上がより好ましい。グリップの長さを考慮して、後端側の塗装無し部の長さY1は300mm以下が好ましく、280mm以下がより好ましい。
【0080】
塗料の無駄を防止する観点及びシャフト先端の表面バフ工程を簡略化する観点から、シャフトの先端部に塗装されない塗装なし部が設けられるようにスプレーガンが制御されるのが好ましい。先端側の塗装無し部の長さY2(図3参照)は、40mm以上が好ましく、60mm以上がより好ましい。ヘッドのシャフト穴に挿入される長さを考慮して、先端側の塗装無し部の長さY2は100mm以下が好ましく、80mm以下がより好ましい。
【0081】
前述した実施形態では、ボールネジとサーボモータとを有するアクチュエータによりスプレーガンが駆動された。ボールネジに代わり、タイミングベルトとプーリとの組み合わせ機構、ラックアンドピニオン機構及びチェーンとスプロケットとの組み合わせ機構などの各種機構を用いることができる。ただし、位置及び速度の制御精度の観点からは、ボールネジを用いるのが好ましい。
【0082】
略楕円形の塗装パターンをより細長く(長軸に対して短軸を短く)して塗料の無駄を抑制する観点から、スプレーガンのパターンエア圧は、0.1Mpa以上が好ましい。噴射の気流の乱れを抑制しグラデーション部gの美観を向上させる観点から、スプレーガンのパターンエア圧は、0.3Mpa以下が好ましく、0.19Mpa以下がより好ましい。
【0083】
シャフトの周方向における塗装の均一性の観点から、パターンエア圧γ1と霧化エアー圧γ2との差(γ1−γ2)は0.01Mpa以上とされるのが好ましい。噴射の気流の乱れを抑制して塗装の美観を向上させる観点から、差(γ1−γ2)は0.1Mpa以下とされるのが好ましい。
【0084】
第一スプレーガンと第二スプレーガンとが同時に噴射中の場合において、第一スプレーガンと第二スプレーガンとのシャフト長手方向距離W(図示されない)は、50mm以上が好ましい。50mm以上とすることにより、スプレーガン相互間における噴射気流の相互干渉が抑制され、グラデーション部gの美観が向上する。よって距離Wは100mm以上がより好ましく、140mm以上が特に好ましい。第一スプレーガン及び第二スプレーガンの制御パターンの自由度を過度に低下させない観点から、上記距離Wは300mm以下が好ましく、250mm以下が更に好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0086】
前述した第二実施形態の塗装方法に基づき、2カ所のグラデーション部gを形成する塗装がなされた。塗料としては、ミクニペイント社製のNY系着色塗料(ウレタン系)を用いた。第一色の塗料としてブラックメタリック色の塗料を用いた。第二色の塗料としてグリーンメタリック色の塗料を用いた。第一色、第二色とも、主剤と硬化剤とシンナーとの混合比は、主剤4に対して、硬化剤が1とされ、シンナーが5とされた。シャフトの全長は、1168mmである。
【0087】
第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10として、アネスト岩田社製のLRA−200−122PVが用いられた。塗料タンク(圧送タンク)として、アネスト岩田社製のPC−18Dが用いられた。
【0088】
第一スプレーガン8に関し、霧化エア圧は0.14Mpaとされ、パターンエア圧は0.16Mpaとされ、タンク圧送圧は0.130Mpaとされ、ニードル開度は6ノッチとされた。ニードル開度は、数値が大きいほど噴射口の開き度合いが大きいことを示す。第一スプレーガン8の吐出量は、10秒間当たり11.8gであった。
【0089】
第二スプレーガン10に関し、霧化エア圧は0.14Mpaとされ、パターンエア圧は0.16Mpaとされ、タンク圧送圧は0.120Mpaとされ、ニードル開度は7ノッチとされた。第二スプレーガン10の吐出量は、10秒間当たり13.5gであった。
【0090】
前述した第二実施形態で説明された通り、第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10の移動は、シャフト2の上記シャフトのバット端b側からチップ端t側への片道移動のみとした。第一スプレーガン8及び第二スプレーガン10は、途中で停止することなく移動した。
【0091】
第一スプレーガン8の設定条件は以下の通りとした。なお、下記の各位置は、シャフトのバット端bが基準位置(0mm)とされたシャフト長手方向の位置であり、バット端bよりもチップ端t側の位置がプラスの数値で示され、その逆側(図4において、バット端bよりも左側)の位置がマイナスの数値で示される。
(1a)第一スプレーガン8の初期位置s1 ・・・−100mm
(1b)噴射中における移動範囲m4の開始位置p1 ・・・ 410mm
(1c)噴射中における移動範囲m4の終了位置p2 ・・・ 650mm
(1d)第一スプレーガン8の移動終了位置s2 ・・・ 670mm
(1e)初期位置s1から開始位置p1までの移動速度f1 ・・・ 250mm/sec
(1f)開始位置p1から終了位置p2までの移動速度f2 ・・・ 60mm/sec
(1g)終了位置p2から移動終了位置s2までの移動速度f3・・・ 250mm/sec
【0092】
第二スプレーガン10の設定条件は以下の通りとした。
(2a)第二スプレーガン10の初期位置s3 ・・・ 40mm
(2b)噴射中の移動範囲m3の開始位置p3 ・・・ 150mm
(2c)噴射中の移動範囲m3の終了位置p4 ・・・ 390mm
(2d)噴射中の移動範囲m5の開始位置p5 ・・・ 670mm
(2e)噴射中の移動範囲m5の終了位置p6 ・・・1100mm
(2f)第二スプレーガン10の移動終了位置s4 ・・・1120mm
(2g)初期位置s3から開始位置p3までの移動速度f4 ・・・ 250mm/sec
(2h)開始位置p3から終了位置p4までの移動速度f5 ・・・ 100mm/sec
(2i)終了位置p4から開始位置p5までの移動速度f6 ・・・ 250mm/sec
(2j)開始位置p5から終了位置p6までの移動速度f7 ・・・ 100mm/sec
(2k)終了位置p6から移動終了位置s4までの移動速度f8・・・ 250mm/sec
【0093】
(3a)第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との移動開始時刻の時間差、即ち、前述した遅延時間dは、1.9秒とした。即ち、第二スプレーガン10の移動開始から1.9秒後に第一スプレーガン8が移動を開始した。
【0094】
本実施例では、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10とは干渉しなかった。遅延時間dは、第一スプレーガン8と第二スプレーガン10との非干渉に寄与した。上記塗装に要した時間は、8秒であった。本実施例では、非噴射中の移動速度f1、f3、f4、f6及びf8は、噴射中の移動速度f2、f5及びf7よりも高速とされた。本実施例によれば、2カ所のグラデーション部gを含むシャフト塗装が極めて短時間で完了した。またグラデーション部gはウエット・オン・ウエットで塗装されたので、グラデーション部gの美観は優れていた。本実施例では、グラデーション部g以外の部分における第一色と第二色との塗り重ねが抑制され、塗料の無駄な使用が低減された。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態の塗装方法が実施されている様子を上から見た平面図である。
【図2】図2は、図1の側面図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態の塗装方法を説明するための図である。
【図4】図4は、本発明の第二実施形態の塗装方法を説明するための図である。
【図5】図5は、本発明の第三実施形態の塗装方法が実施されている様子を示す図である。
【図6】図6は、図5のVI−VI線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0096】
2、42、44、46、48・・・ゴルフクラブシャフト
4、30・・・塗装装置
6、32・・・シャフト保持部
8、34・・・第一スプレーガン
10、36・・・第二スプレーガン
18・・・リニアガイド
20・・・第一ボールネジ
22・・・第二ボールネジ
m1、m4・・・第一スプレーガンの塗装中の移動範囲
m2、m3、m5・・・第二スプレーガンの塗装中の移動範囲
a1、a3・・・第一領域
a2、a4・・・第二領域
a5・・・第三領域
t1、t2、t3・・・重複部分
g・・・グラデーション部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト長手方向の第一領域に第一色の塗料を噴射し、シャフト長手方向の第二領域に第二色の塗料を噴射し、上記第一領域と上記第二領域との重複部分に、上記第一色から上記第二色へと徐々に変化するグラデーション部を設けるゴルフクラブシャフトの塗装方法であって、
シャフト長手方向の位置及び移動速度が互いに独立して制御されうる第一スプレーガン及び第二スプレーガンを用い、上記第一スプレーガンが上記第一色の塗料を噴射し、上記第二スプレーガンが上記第二色の塗料を噴射するとともに、これらの第一スプレーガン及び第二スプレーガンの制御により上記第一色の塗料と上記第二色の塗料とがウエット・オン・ウエットで塗り重ねられて上記グラデーション部が形成される工程を含むゴルフクラブシャフトの塗装方法。
【請求項2】
上記第一スプレーガンの噴射中の移動範囲と、上記第二スプレーガンの噴射中の移動範囲とは、互いに重複しない請求項1に記載のゴルフクラブシャフトの塗装方法。
【請求項3】
上記第一スプレーガンと上記第二スプレーガンとは互いに同一直線上を移動するとともに、これら第一スプレーガンと第二スプレーガンとは、互いに干渉しないように制御される請求項1に記載のゴルフクラブシャフトの塗装方法。
【請求項4】
シャフト長手方向の第一領域に第一色の塗料を噴射し、シャフト長手方向の第二領域に第二色の塗料を噴射し、シャフト長手方向の第三領域に第一色の塗料を噴射し、上記第一領域と上記第二領域との重複部分及び上記第二領域と上記第三領域との重複部分に、上記第一色から上記第二色へと徐々に変化するグラデーション部を設けるゴルフクラブシャフトの塗装方法であって、
第一スプレーガンが上記第一色の塗料を上記第一領域及び上記第三領域に噴射し、第二スプレーガンが上記第二色の塗料を上記第二領域に噴射するとともに
上記第一スプレーガン及び上記第二スプレーガンの移動は、上記シャフトの一端側から他端側への片道移動のみであり、
上記第一スプレーガンの移動時刻と、上記第二スプレーガンの移動時刻とが重複している請求項1に記載のゴルフクラブシャフトの塗装方法。
【請求項5】
上記第一スプレーガン及び第二スプレーガンは、移動途中で停止しない請求項4に記載のゴルフクラブシャフトの塗装方法。
【請求項6】
非噴射中の上記第一スプレーガン及び第二スプレーガンは、噴射中の上記第一スプレーガン及び第二スプレーガンよりも高速で移動する請求項4に記載のゴルフクラブシャフトの塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−111176(P2007−111176A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304501(P2005−304501)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】