説明

サスペンションブラケット

【課題】車体フレームへのボルト締結の負担を小さくすると共に、車両前後方向の入力に対する剛性を高めたサスペンションブラケットを提供する。
【解決手段】板金製のアウター部材13とインナー部材12とを溶接し、アウター部材13の外壁14及び縦壁15とインナー部材12の内壁17とでボックス構造部18を形成し、ボックス構造部18の縦壁15に、車体フレーム3に締結するボルト用のカラー22を配設した。カラー22によりボックス構造部18が補強される。カラー22が配設された縦壁15同士の間隔即ちボックス構造部18の車長方向の幅Wを広げると、カラー22に挿通されるボルトの締結点ピッチPが広がる。よって、ボックス構造部18の車長方向の幅Wを広げることによる車両前後方向の入力に対する剛性の向上と、ボルトの締結点ピッチPを広げることによる車体フレーム3へのボルト締結の負担の軽減とを両立できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部が車体フレームにボルトで締結され、下部が車体フレームの下方に位置するサスペンションのリンクに接続されるサスペンションブラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス等のサスペンション装置として、リンク式のサスペンション装置が知られている。リンク式のサスペンション装置は、アクスルハウジングと車体フレームとを数本のロッドやアーム(リンク)によって接続し、これらのリンクによってアクスルハウジングに支持されたアクスルシャフト(車軸)の位置を定めるものである。図1を用いてリンク式のサスペンション装置1の一例を説明する。このサスペンション装置1は、大型トラック等に用いられるタンデム軸の4バック式ダブルトレーリングの後軸エアサスペンション装置である。なお、図1において、左側の前軸はドライブ軸、右側の後軸はデッド軸となっているが、両軸がドライブ軸であってもよい。
【0003】
図1(a)はサスペンション装置1の側面図、図1(b)はサスペンション装置1の平面図である。サスペンション装置1は、アクスルハウジング2と車体フレーム3のサイドメンバとの間に設けられ、路面から車輪4に加わった力を減衰して車体フレーム3に伝達する。アクスルハウジング2の下部には、車幅方向に間隔を隔ててアクスルビーム5の中央部が取り付けられており、アクスルビーム5の両端部には、エアスプリング(エアベローズ)6の下端部が夫々取り付けられ、エアスプリング6の上端部が、車体フレーム3に取り付けられている。この構成によれば、アクスルハウジング2に支持されたアクスルシャフト7に取り付けた車輪4に路面から加わった力は、エアスプリング6で減衰されて車体フレーム3に伝達される。
【0004】
アクスルハウジング2の中央上部には、アクスルブラケット8が取り付けられており、アクスルブラケット8には、V字状に形成されたVロッド(リンク)9の一端がピン等によって連結されている。Vロッド9の他端は、車体フレーム3に、ピン等によって連結されている。アクスルハウジング2に取り付けられたアクスルビーム5には、トレーリングアーム(リンク)10の一端がピン等によって連結されている。トレーリングアーム10の他端は、車体フレーム3にボルトで締結されたサスペンションブラケット(トレーリングアームブラケット)11に、ピン等によって連結されている。この構成によれば、路面からの反力を受けて昇降する車輪4は、Vロッド9及びトレーリングアーム10により、その昇降軌跡が定められる。
【0005】
ところで、サスペンションブラケット11は、上部が車体フレーム3に締結され下部にトレーリングアーム10が接続されているため、トレーリングアーム10を介して車両発進時の発進駆動入力や制動時の制動入力等といった路面からの車両前後方向の力を受ける。この力は、車重(軸重)に応じて大きくなる。また、トレーリングアーム10を板材から構成してその板材が捻れる際の反力により車両のアンチロール特性を得るスタビリンカとした場合、サスペンションブラケット11にはスタビリンカによる捩り力も入力される。従って、サスペンションブラケット11には、それら力を考慮した剛性が要求される。
【0006】
また、図1に示すように、アクスルシャフト7を前後二軸に配置したタンデム軸とし、各車軸の前後左右にエアスプリング6を配置して一軸当たり4つのエアスプリング6を配設した場合(4バック式エアサスペンション)、前軸の後側のエアスプリング6と後軸の前側のエアスプリング6との間にサスペンションブラケット11を配設しなければならず、サスペンションブラケット11の形状やレイアウトに厳しい制約が生じる。
【0007】
このように、サスペンションブラケット11は、軸重に応じた剛性が要求されると共に形状やレイアウトに制約を受けるため、軸重の高い大型トラックにおいては、量産化及び低コスト化に有利な板金組立構造では強度を満足できず、鋳造品(鋳物)が主流となっている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3919602号公報
【特許文献2】特開2002−307920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、軸重がそれ程高くない中小型のトラック等においては、サスペンションブラケット11を板金組立構造としたものも存在する。図2、図3を用いて、従来の板金組立構造のサスペンションブラケットを説明する。図2(a)は第1従来例を示す板金組立構造のサスペンションブラケット11aの部分斜視図、図2(b)は図2(a)のIIb−IIb線断面図、図3(a)は第2従来例を示す板金組立構造のサスペンションブラケット11bの部分斜視図、図3(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線断面図ある。
【0010】
図2に示すサスペンションブラケット11aは、車体フレーム3(図1参照)に接する板金製のインナー部材12aと、インナー部材12aの車幅方向外側に配置された板金製のアウター部材13aとを有する。インナー部材12a及びアウター部材13aは、板材をプレス加工することで成形されている(板金製)。アウター部材13aは、板状の外壁14aと、外壁14aの車長方向の両端部から車幅方向の内方に夫々延出された縦壁15aと、縦壁15aの先端部から車長方向の前後に夫々延出されたフランジ16aとを有する。インナー部材12aは、アウター部材13aの縦壁15a同士の間を蓋するように形成された内壁17aを有する。インナー部材12aをアウター部材13aに溶接することで、外壁14aと縦壁15aと内壁17aとで囲われたボックス構造部18aを形成している。図2(b)の19aは溶接部(溶接ビード)であり、溶接部19aは図2(a)では省略している。アウター部材13aのフランジ16a及びインナー部材12aの内壁17aには、ボルトが挿通される孔20aが形成されており、孔20aに挿通されたボルトが車体フレーム3に締結されるようになっている。
【0011】
図3に示すサスペンションブラケット11bも、図2に示すサスペンションブラケット11aと同様に、板金製のインナー部材12bと、それに溶接されるアウター部材13bとを有する。アウター部材13bは外壁14bと縦壁15bとフランジ16bとを有し、インナー部材12bは内壁17bを有し、インナー部材12bをアウター部材13bに溶接することで、外壁14bと縦壁15bと内壁17bとで囲われたボックス構造部18bを形成している。図3(b)において19bは溶接部であり、溶接部19bは図3(a)では省略している。アウター部材13bのフランジ16b及びインナー部材12bの内壁17bには、ボルトが挿通される孔20bが形成されており、孔20bに挿通されたボルトが車体フレーム3に締結されるようになっている。ここで、アウター部材13bの縦壁15b同士の間隔(ボックス構造部18bの車長方向の幅Wb)は、図2のそれ(ボックス構造部18aの車長方向の幅Wa)よりも広く設定されており、外壁14bに孔21bが形成され、孔21bに円筒状のカラー22bが装着され溶接されている。そして、カラー22bに挿通されたボルトが、内壁17bに形成された孔23bを挿通し、車体フレーム3に締結されるようになっている。
【0012】
この図3に示すサスペンションブラケット11bにおいては、ボックス構造部18bの車長方向の幅Wbが図2のタイプのボックス構造部18aの車長方向の幅Waよりも広くなるため、アクスルケース2からトレーリングアーム10を介して加わる車両前後方向の入力に対する剛性が図2のタイプよりも高くなる。しかし、ボルトの締結点ピッチPbが図2のタイプの締結点ピッチPaよりも狭くなるため、車体フレーム3に対するボルト締結の負担が図2のタイプよりも大きくなってしまう。すなわち、締結点ピッチPbが狭いため、ボルト締結点近傍の車体フレーム3に高い応力が発生し、車体フレーム3の強度が不足する可能性がある。
【0013】
他方、図2に示すサスペンションブラケット11aにおいては、ボルトの締結点ピッチPaを図3のタイプの締結点ピッチPbよりも広く確保できるため、車体フレーム3に対するボルト締結の負担が図3のタイプよりも小さくなる。しかし、ボックス構造部18aの車長方向の幅Waが図3のタイプのボックス構造部18bの車長方向の幅Wbよりも狭くなるため、アクスルケース2からトレーリングアーム10を介して加わる車両前後方向の入力に対する剛性が図3のタイプよりも低くなってしまう。また、車体フレーム3に締結されるボルトが、アウター部材13aのフランジ16aとインナー部材12aの内壁17aとを重ねた部分に貫通形成された孔20aに挿通されて車体フレーム3に締結されるため、ボルトの首下長さが短くなってしまい、ボルトの剪断強度が低いという欠点がある。
【0014】
上述したように、図2のサスペンションブラケット11a、図3のサスペンションブラケット11bには、夫々、一長一短があり、図2のタイプのようにボルトの締結点ピッチPaを広げると、ボックス構造部18aの車長方向の幅Waが狭くなって車両前後方向の入力に対する剛性が低くなってしまい、図3のタイプのようにボックス構造部18bの車長方向の幅Wbを広げると、ボルトの締結点ピッチPbが狭くなって車体フレーム3へのボルト締結の負担が大きくなってしまうという問題があった。
【0015】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、ボルトの締結点ピッチを広げて車体フレームへのボルト締結の負担を小さくすることと、ボックス構造部の車長方向の幅を広げて車両前後方向の入力に対する剛性を高めることとを両立でき、軽量且つ低コストで生産できるサスペンションブラケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成すべく創案された本発明に係るサスペンションブラケットは、車体フレームにボルトで締結され、車体フレームの下方に位置するサスペンションのリンクが接続されるサスペンションブラケットであって、車体フレーム側に配置されたインナー部材と、インナー部材の車幅方向外側に配置されたアウター部材とを有し、アウター部材が、板状の外壁と、外壁から車長方向に間隔を隔てて車幅方向の内方に夫々延出された縦壁とを有し、インナー部材が、アウター部材の縦壁同士の間を蓋するように形成された内壁を有し、インナー部材をアウター部材に溶接することで、アウター部材の外壁及び縦壁とインナー部材の内壁とで囲われたボックス構造部を形成し、ボックス構造部を形成するアウター部材の縦壁に、車体フレームに締結されるボルトが挿通されるカラーを配設したことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るサスペンションブラケットは、アウター部材の縦壁及びその近傍に、カラーの形状に合わせて切り欠かれた切欠部が形成され、切欠部に、カラーが装着されて溶接されてもよい。
【0018】
本発明に係るサスペンションブラケットは、カラーの中心が縦壁の板厚内に位置するように、カラーが切欠部に装着されて溶接されてもよい。
【0019】
本発明に係るサスペンションブラケットは、カラーの切欠部への溶接部が、カラーと切欠部との接触部に沿って、環状に形成されてもよい。
【0020】
本発明に係るサスペンションブラケットは、アウター部材が、縦壁から車長方向に延出されたフランジを有し、フランジが、インナー部材に溶接されてもよい。
【0021】
本発明に係るサスペンションブラケットは、アウター部材及びインナー部材が、板材をプレス加工することで成形されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るサスペンションブラケットによれば、インナー部材をアウター部材に溶接することで、アウター部材の外壁及び縦壁とインナー部材の内壁とでボックス構造部を形成し、ボックス構造部の縦壁に、車体フレームに締結するためのボルトが挿通されるカラーを配設している。
【0023】
このカラーによってボックス構造部が補強されて剛性が向上する。また、カラーが配設された縦壁同士の間隔すなわちボックス構造部の車長方向の幅を広げることで、カラーに挿通されるボルトの車体フレームへの締結点ピッチが広がることにもなる。従って、ボックス構造部の車長方向の幅を広げることによる車両前後方向の入力に対する剛性の向上と、ボルトの締結点ピッチを広げることによる車体フレームへのボルト締結の負担の軽減とを両立できる。
【0024】
外壁及び縦壁を有するアウター部材、内壁を有するインナー部材は、夫々、板材をプレス加工することで成形できる。よって、本発明に係るサスペンションブラケットは、板金組立構造のサスペンションブラケットとなり、従来の鋳造のサスペンションブラケットと比べて、軽量となり且つ低コストで生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】大型トラック等に適用されるサスペンション装置の説明図であり、(a)はサスペンション装置の側面図、(b)はサスペンション装置の平面図である。
【図2】第1従来例を示すサスペンションブラケットの説明図であり、(a)はサスペンションブラケットの部分斜視図、(b)は(a)のIIb−IIb線断面図である。
【図3】第2従来例を示すサスペンションブラケットの説明図であり、(a)はサスペンションブラケットの部分斜視図、(b)は(a)のIIIb−IIIb線断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るサスペンションブラケットの説明図であり、(a)はサスペンションブラケットの部分斜視図、(b)は(a)のIVb−IVb線断面図である。
【図5】図4の部分拡大斜視図である。
【図6】(a)は図5のVIa−VIa線断面図、(b)は(a)のVIb−VIb線断面図である。
【図7】(a)は本発明の第2実施形態に係るサスペンションブラケットの部分断面図、(b)は本発明の第3実施形態に係るサスペンションブラケットの部分断面図、(c)は本発明の第4実施形態に係るサスペンションブラケットの部分断面図である。
【図8】本発明の第5実施形態に係るサスペンションブラケットの部分拡大斜視図である。
【図9】本発明の第6実施形態に係るサスペンションブラケットの部分斜視図である。
【図10】(a)は図9のXa−Xa線断面図、(b)は図9のXb−Xb線断面図、(c)は図9のXc−Xc線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0027】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るサスペンションブラケット11を図4を用いて説明する。図4(a)はサスペンションブラケット11の部分斜視図、図4(b)は図4(a)のIVb−IVb線断面図である。
【0028】
本実施形態に係るサスペンションブラケット11は、上部が図1に示す車体フレーム3のサイドメンバにボルトで締結され、下部に車体フレーム3の下方に位置するサスペンションのリンク(トレーリングアーム、スタビリンカ等)10が接続されるようになっている。このサスペンションブラケット11は、車体フレーム3側に配置された板金製のインナー部材12と、インナー部材12の車幅方向外側に配置された板金製のアウター部材13とを有する。
【0029】
アウター部材13は、板状の外壁14と、外壁14の車長方向の両端部から車幅方向の内方に夫々直角(必ずしも直角でなくてもよい)に延出された縦壁15と、縦壁15の先端部から車長方向の前後に夫々直角(必ずしも直角でなくてもよい)に延出されたフランジ16とを有し、板材をプレス加工することで断面ハット状に成形されている。インナー部材12は、アウター部材13の縦壁15同士の間を蓋するように形成された内壁17を有し、板材をプレス加工することで成形されている。インナー部材12の内壁17にアウター部材13のフランジ16を重ねた状態で、インナー部材12がアウター部材13に溶接され、アウター部材13の外壁14及び縦壁15とインナー部材12の内壁17とで囲われたボックス構造部18が形成されている。図4(b)において19は溶接部であり、溶接部19は図4(a)では省略している。
【0030】
アウター部材13のフランジ16とインナー部材12の内壁17とが重なった部分には、車体フレーム3に締結されるボルトが挿通される孔20が形成されている。また、ボックス構造部18を形成するアウター部材13の縦壁15には、車体フレーム3に締結されるボルトが挿通される円筒状のカラー22が、縦壁15に重なるように配設されて溶接されており、インナー部材12の内壁17には、カラー22に挿通されたボルトが挿通される孔23が、カラー22の位置に合わせて形成されている。
【0031】
図4(a)を部分的に拡大した図5に示すように、アウター部材13の縦壁15及びその近傍の外壁14及びフランジ16には、カラー22の形状に合わせて切欠部24が形成され、その切欠部24に、カラー22が装着されて溶接されている。切欠部24は、外壁14にカラー22の外径に合わせて半円状に切り欠かれた上部切欠部25と、縦壁15に上部切欠部25の両端から平行に同一幅で切り欠かれた中部切欠部26と、フランジ16に中部切欠部26の両端に合わせて半円状に切り欠かれた下部切欠部27とを有し、外壁14の垂直方向から見てカラー22の外径と同径の穴状に形成されている。なお、中部切欠部26は、外壁14と縦壁15が直角ではない場合には、平行とはならない。切欠部24には、カラー22が縦壁15に半分程度埋まった状態で装着される。切欠部24に装着されたカラー22は、カラー22と切欠部24との接触部に沿って、途切れることなく連続的に環状に溶接されている。すなわち、カラー22の切欠部24への溶接部28は、カラー22と切欠部24との接触部に沿って環状に形成されており、溶接終始端が無く応力集中が生じ難い。
【0032】
図5のVIa−VIa線断面図である図6(a)、図6(a)のVIb−VIb線断面図である図6(b)に示すように、カラー22は、縦壁15に重なるようにして、外壁14及びフランジ16に対して垂直に配置されている。カラー22は、切欠部24に溶接部28により溶接されて、縦壁15、外壁14及びフランジ16と一体化され、ボックス構造部18の補強材として機能する。カラー22は、カラー22の中心が縦壁15の板厚内に位置するように、切欠部24に装着されて溶接されることが好ましい。カラー22の中心が縦壁15の板厚内に位置することで、カラー22によって縦壁15を的確に補強できるからである。本実施形態では、カラー22の中心と縦壁15の板厚の中心とが一致している。但し、カラー22の中心が縦壁15の板厚から外れていても、カラー22を縦壁15に適切に溶接でき縦壁15と一体化できるのであれば、そのカラー22は縦壁15の補強材として機能する。よって、カラー22の一部が縦壁15に重なっていて、カラー22が縦壁15に適切に溶接されれば、カラー22の中心が縦壁15の板厚から外れていても構わない。
【0033】
(作用・効果)
図4に示すように、本実施形態に係るサスペンションブラケット11によれば、インナー部材12をアウター部材13に溶接することで、アウター部材13の外壁14及び縦壁15とインナー部材12の内壁17とでボックス構造部18を形成し、ボックス構造部18の縦壁15に重なるようにして、車体フレーム3に締結するボルトが挿通されるカラー22を配設している。このカラー22によってボックス構造部18が補強されて剛性が向上する。
【0034】
サスペンションブラケット11には、図1に示すサスペンション装置1のリンク(トレーリングアーム、スタビリンカ等)10を介し、車両の発進駆動入力や制動入力等が入力される。こうしてボックス構造部18に外力が加わると、ボックス構造部18における平面視長方形断面部が平行四辺形状に変形しようとするところ、長方形断面部の前後一対の短辺を構成する縦壁15が切欠部24に溶接されたカラー22によって補強されているので、変形が抑制されて剛性が向上する。
【0035】
縦壁15を補強するカラー22の切欠部24への溶接部28は、図5に示すように、カラー22と切欠部24との接触部に沿って途切れることなく連続的に環状に形成されていて、溶接終始端が無い。よって、リンク(トレーリングアーム、スタビリンカ等)10からサスペンションブラケット11に入力された力が、最終的に車体フレーム3に伝達されるカラー22の近傍である溶接部28において、応力集中が生じ難い。よって、高い耐久性・信頼性を確保できる。
【0036】
また、図4に示すカラー22が配設された縦壁15同士の間隔すなわちボックス構造部18の車長方向の幅Wを広げることで、カラー22に挿通されるボルトの車体フレーム3への締結点ピッチPが広がることにもなる。従って、ボックス構造部18の車長方向の幅Wを広げることによる車両前後方向の入力に対する剛性の向上と、ボルトの締結点ピッチPを広げることによる車体フレーム3へのボルト締結の負担の軽減とを両立できる。
【0037】
すなわち、図4に示す本実施形態によれば、図2に示す第1従来例と比べ、縦壁15同士の間隔すなわちボックス構造部18の車長方向の幅Wを広げられるので、車両前後方向の入力に対する剛性が向上し、図3に示す第2従来例と比べ、ボルトの車体フレーム3への締結点ピッチPを広げられるので、車体フレーム3へのボルト締結の負担が軽減することになる。
【0038】
外壁14、縦壁15及びフランジ16を有するアウター部材13、内壁17を有するインナー部材12は、夫々、板材をプレス加工することで成形される。よって、これら板金製のアウター部材13及びインナー部材12を溶接することで組み立てられる本実施形態に係るサスペンションブラケット11は、板金組立構造となり、従来の鋳造のサスペンションブラケットと比べて、軽量且つ低コストで製造できる。
【0039】
カラー22に挿通されたボルトは、その先端側のネジ部が車体フレーム3に締結され、ボルトの首下長さがカラー22の長さに応じた長さとなる。ボルトの首下長さが長くなればボルトの剪断強度が向上する。図4に示す本実施形態では、カラー22に挿通されるボルトは、図2に示す第1従来例の孔20aに挿通されるボルトと比べ、カラー22の長さ分だけボルトの首下長さが長くなり、ボルトの剪断強度が大きくなる。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るサスペンションブラケット11xを図7(a)を用いて説明する。図7(a)は第2実施形態に係るサスペンションブラケット11xの部分断面図である。このサスペンションブラケット11xは、上述した第1実施形態のサスペンションブラケット11と比べると、基本的な構成要素は同一であり、第1実施形態のアウター部材13のフランジ16(図6(a)参照)を省略した点が相違する。よって、第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
第2実施形態のアウター部材13xは、外壁14xと外壁14xの車長方向の両端部から車幅方向の内方に直角(必ずしも直角でなくてもよい)に延出された縦壁15xとから成り、断面コ字状に形成されている。縦壁15xの先端部は、インナー部材12の内壁17に直角(必ずしも直角でなくてもよい)に突き当てられ、内壁17に溶接されている。また、カラー22が装着される切欠部24xは、アウター部材13xの外壁14xに形成される上部切欠部25xと、縦壁15xに形成される中部切欠部26xとから構成され、図5においてフランジ16に形成される下部切欠部27は省略されている。なお、28xはカラー22の切欠部24xへの溶接部である。第2実施形態の基本的な作用効果は第1実施形態と同様である。
【0042】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係るサスペンションブラケット11yを図7(b)を用いて説明する。図7(b)は第3実施形態に係るサスペンションブラケット11yの部分断面図である。このサスペンションブラケット11yは、上述した第2実施形態のサスペンションブラケット11xと比べると、基本的な構成要素は同一であり、インナー部材12yの内壁17yにカラー22yの外径に応じた孔23yが形成され、この孔23yにカラー22yが装着されている点が相違する。これにより、カラー22yの取付強度を第2実施形態よりも高めることができる。第2実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。第3実施形態の基本的な作用効果は第2実施形態と同様である。
【0043】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態に係るサスペンションブラケット11zを図7(c)を用いて説明する。図7(c)は第4実施形態に係るサスペンションブラケット11zの部分断面図である。このサスペンションブラケット11zは、上述した第3実施形態のサスペンションブラケット11yと比べると、基本的な構成要素は同一であり、カラー22zがインナー部材12yの内壁17yに形成された孔23yに貫通され、内壁17yの下面においても孔23yの周囲に沿って環状に溶接されている(28zは溶接部である)。これにより、カラー22zが強固に溶接され、カラー22zの取付強度を第3実施形態よりも更に高めることができる。第3実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。第4実施形態の基本的な作用効果は第3実施形態と同様である。
【0044】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態に係るサスペンションブラケット11vを図8を用いて説明する。図8は第5実施形態に係るサスペンションブラケット11vの部分斜視図である。このサスペンションブラケット11vは、上述した図5に示す第1実施形態のサスペンションブラケット11と比べると、基本的な構成要素は同一であり、アウター部材13vにカラー22を装着するために形成された切欠部24vの形状が相違する。よって、第4実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
第5実施形態の切欠部24vは、アウター部材13vの外壁14vにカラー22の外径に合わせて半円状に切り欠かれた上部切欠部25vと、縦壁15vに上部切欠部25vの両端から平行に同一幅で切り欠かれた中部切欠部26vと、フランジ16vに中部切欠部26vの両端に合わせて平行に同一幅で切り欠かれた下部切欠部27vとを有し、外壁14vの垂直方向から見てU字型に切り欠かれた形状となっている。なお、中部切欠部26vは、外壁14vと縦壁15vが直角ではない場合には平行とはならず、下部切欠部27vは、平行でなくても構わない。切欠部24vには、カラー22が縦壁15vに半分程度埋まった状態で装着され、切欠部24vに装着されたカラー22は、カラー22と切欠部24vとの接触部に沿って、途切れることなく連続的に環状に溶接される。なお、28は溶接部である。第5実施形態の基本的な作用効果は第1実施形態と同様である。
【0046】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態に係るサスペンションブラケット11wを図9、図10を用いて説明する。図9は第6実施形態に係るサスペンションブラケット11wの部分斜視図、図10(a)は図9のXa−Xa線断面図、図10(b)は図9のXb−Xb線断面図、図10(c)は図9のXc−Xc線断面図である。このサスペンションブラケット11wは、上述した第1実施形態のサスペンションブラケット11と比べると、基本的な構成要素は同一であり、アウター部材13w及びインナー部材12wの形状が相違する。よって、第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
インナー部材12wは、アウター部材13wよりも上方に突出した突出内壁17wを有し、突出内壁17wに、車体フレーム3に締結されるボルトが挿通される孔29wが形成されている。アウター部材13wは、外壁14wと縦壁15wとフランジ16wとから成る上部分(断面ハット状部分)13wuと、外壁14wと縦壁15wとから成る下部分(断面コ字状部分)13wdとを有する。かかるアウター部材13wをインナー部材12wに溶接することで、ボックス構造部18wが形成される。図10において19wは溶接部であり、この溶接部19wは、図9では省略している。
【0048】
図9、図10(a)に示すように、断面ハット状部分13wuのフランジ16w及びそれが重なる突出内壁17wには、車体フレーム3に締結されるボルトが挿通される孔20wが形成されている。断面ハット状部分13wuの外壁14wには、カラー22wuが挿通されて溶接される孔21wuが形成されている。図10(a)において28wuは溶接部であり、この溶接部28wuは図9では省略している。孔21wuに溶接されたカラー22wuには、車体フレーム3に締結されるボルトが挿通される。断面ハット状部分13wuが重ねられるインナー部材12wには、カラー22wuに挿通されたボルトが挿通される孔23wuが形成されている。
【0049】
図9、図10(b)に示すように、断面コ字状部分13wdの縦壁15wには、車体フレーム3に締結されるボルトが挿通されるカラー22wdが、縦壁15wに重なるようにして配設されている。断面コ字状部分13wdが重ねられるインナー部材12wには、カラー22wdに挿通されたボルトが挿通される孔23wdが形成されている。断面コ字状部分13wdの縦壁15w及び外壁14wには、カラーの形状に合わせて切欠部24wが形成され、その切欠部24wにカラー22wdが装着されて溶接されている。
【0050】
切欠部24wは、外壁14wにカラー22wdの外径に合わせて半円状に切り欠かれた上部切欠部25wと、縦壁15wに上部切欠部25wの両端から平行に同一幅で切り欠かれた中部切欠部26wとを有する。なお、中部切欠部26wは、外壁14wと縦壁15wが直角ではない場合には、平行とはならない。切欠部24wには、カラー22wdが縦壁15wに半分程度埋まった状態で装着され、切欠部24wに装着されたカラー22wdは、カラー22wdと切欠部24wとの接触部に沿って連続的に環状に溶接されている。図10(b)において28wdは溶接部であり、この溶接部28wdは図9では省略している。
【0051】
第6実施形態に係るサスペンションブラケット11wによれば、図1に示すサスペンション装置1のリンク(トレーリングアーム、スタビリンカ等)10から力が加わった際、車体フレーム3への取付部分において高い応力が生じ易く且つ他の部品(エアスプリング6)とのレイアウト上の制約により省スペース化が要求される部分を、縦壁15wに重ねて配設したカラー22wdによって的確に補強できる。そして、それ程高い応力が生じない部分は、簡素な構造として軽量化を図っている。よって、強度及び剛性の向上と軽量化とを高いレベルで両立できる。第6実施形態の基本的な作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0052】
(その他)
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0053】
例えば、本発明は、図1に示すような、タンデム軸4バック式ダブルトレーリングの大型トラック用後軸エアサスペンションに適用されるのみならず、シングル軸、2バック式、リーディング、リーディングトレーリングといったあらゆるタイプのリンク式サスペンションに適用できる。アクスルは、ドライブ軸でもデッド軸でもよい。なお、図1にて左側の前軸アクスルはドライブ軸、右側の後軸アクスルはデッド軸となっている。
【0054】
また、所謂リンク式のサスペンションであれば、大型バス、セミトレーラ、フルトレーラ等といった大型トラック以外の車両のサスペンションブラケットにも適用でき、後輪側のサスペンションのみならず、前輪側のサスペンションにも適用できる。また、エアスプリングの代わりにコイルスプリングやリーフスプリングを用いたリンク式のサスペンションにも適用できる。
【0055】
本発明は、軸重の高い大型トラック等ではなく、軸重の低い小型から中型のトラック等のサスペンションに適用してもよい。この場合、従来から用いられている図2、図3に示す板金組立構造のサスペンションブラケットを、図4以降に示す実施形態のサスペンションブラケットとすることで、従来品よりも高剛性、高強度で堅牢な構造とできる。よって、サスペンションブラケットの板厚を薄くしたり、ボルトのサイズや本数を減らすことができ、軽量化、低コスト化を推進できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、車体フレームにボルトで締結され、車体フレームの下方に位置するサスペンションのリンクに接続されるサスペンションブラケットに利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 サスペンション装置
3 車体フレーム
10 リンク(トレーリングアーム、スタビリンカ)
11 サスペンションブラケット
12 インナー部材
13 アウター部材
14 外壁
15 縦壁
16 フランジ
17 内壁
18 ボックス構造部
22 カラー
24 切欠部
28 溶接部
W ボックス構造部の車長方向の幅
P 車体フレームに締結されるボルトの締結ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームにボルトで締結され、前記車体フレームの下方に位置するサスペンションのリンクが接続されるサスペンションブラケットであって、
前記車体フレーム側に配置されたインナー部材と、該インナー部材の車幅方向外側に配置されたアウター部材とを有し、
該アウター部材が、板状の外壁と、該外壁から車長方向に間隔を隔てて車幅方向の内方に夫々延出された縦壁とを有し、
前記インナー部材が、前記アウター部材の縦壁同士の間を蓋するように形成された内壁を有し、
前記インナー部材を前記アウター部材に溶接することで、前記アウター部材の外壁及び縦壁と前記インナー部材の内壁とで囲われたボックス構造部を形成し、
該ボックス構造部を形成する前記アウター部材の縦壁に、前記車体フレームに締結されるボルトが挿通されるカラーを配設した
ことを特徴とするサスペンションブラケット。
【請求項2】
前記アウター部材の縦壁及びその近傍に、前記カラーの形状に合わせて切り欠かれた切欠部が形成され、該切欠部に、前記カラーが装着されて溶接された請求項1に記載のサスペンションブラケット。
【請求項3】
前記カラーの中心が前記縦壁の板厚内に位置するように、前記カラーが前記切欠部に装着されて溶接された請求項2に記載のサスペンションブラケット。
【請求項4】
前記カラーの前記切欠部への溶接部が、前記カラーと前記切欠部との接触部に沿って、環状に形成された請求項2又は3に記載のサスペンションブラケット。
【請求項5】
前記アウター部材が、前記縦壁から車長方向に延出されたフランジを有し、該フランジが、前記インナー部材に溶接された請求項1から4の何れか1項に記載のサスペンションブラケット。
【請求項6】
前記アウター部材及び前記インナー部材が、板材をプレス加工することで成形された請求項1から5の何れか1項に記載のサスペンションブラケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−60166(P2013−60166A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201300(P2011−201300)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】