説明

サスペンション支持部材の製造方法

【課題】スプリング受け部をエプロン部よりも高強度かつ高剛性としながら、スプリング受け部とエプロン部との溶接を不要にすることができるサスペンション支持部材の製造方法を得る。
【解決手段】加熱工程では、略円板形状に形成された金属製のブランク材20における略中央部22に電極30を接続すると共に周縁部26に電極32を接続して通電することによって、ブランク材20を加熱する。次に、成形工程では、金型上においてブランク材20の略中央部22側をスプリングサポート部に成形する位置に配置しかつその外周側をエプロン部に成形する位置に配置してブランク材20をプレスすると共に冷却して成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション支持用のサスペンション支持部材の製造に適用されるサスペンション支持部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンション支持部材は、その頂部側を構成してサスペンションのコイルスプリングからの荷重を受けるためのスプリング受け部と、このスプリング受け部の下方にサスペンションの上部を収容する空間を形成するエプロン部とを含んで構成されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、スプリング受け部は、エプロン部よりも高強度かつ高剛性であることが求められるため、スプリング受け部とエプロン部とが別部材で構成されたうえで両者が溶接される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−211552公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この構造では、溶接強度に十分に配慮する必要があるうえに、溶接代を設けなければならない分だけ質量が増加してしまう。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、スプリング受け部をエプロン部よりも高強度かつ高剛性としながら、スプリング受け部とエプロン部との溶接を不要にすることができるサスペンション支持部材の製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載する本発明のサスペンション支持部材の製造方法は、サスペンションのコイルスプリングからの荷重を受けるためのスプリング受け部と、前記スプリング受け部の周端部から曲げられて前記サスペンションの一部を収容する空間を形成するエプロン部と、を含んで構成されたサスペンション支持用のサスペンション支持部材の製造に適用され、略円板形状に形成された金属製の板材における略中央部と周縁部との各々に電極を接続して通電することによって、前記板材を加熱する加熱工程と、金型上において前記板材の略中央部側を前記スプリング受け部に成形する位置に配置しかつその外周側を前記エプロン部に成形する位置に配置して前記板材をプレスすると共に冷却して成形する成形工程と、を有する。
【0007】
請求項1に記載する本発明のサスペンション支持部材の製造方法によれば、まず、加熱工程では、略円板形状に形成された金属製の板材における略中央部と周縁部との各々に電極を接続して通電することによって、板材を加熱する。このとき、板材の電流密度は、略中央部側が周縁部側に比べて高くなるので、板材は、一様には加熱されずに略中央部側が周縁部側に比べて高温で加熱される。
【0008】
次に、成形工程では、金型上において板材の略中央部側をスプリング受け部に成形する位置に配置しかつその外周側をエプロン部に成形する位置に配置して板材をプレスすると共に冷却して成形する。ここで、板材が冷却されることによって、板材の略中央部側、換言すればスプリング受け部には焼き入れが施される。これにより、スプリング受け部がエプロン部よりも高強度かつ高剛性になると共にスプリング受け部とエプロン部との溶接が不要となる。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のサスペンション支持部材の製造方法によれば、スプリング受け部をエプロン部よりも高強度かつ高剛性としながら、スプリング受け部とエプロン部との溶接を不要にすることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るサスペンションタワーブラケットの製造方法における加熱工程を説明するための模式的な平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るサスペンションタワーブラケットの製造方法により製造されたサスペンションタワーブラケットを示す斜視図である。
【図3】車体後部に配設されたサスペンションタワーブラケットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係るサスペンション支持部材の製造方法が適用されたサスペンションタワーブラケットの製造方法について図1及び図2を用いて説明する。
【0012】
図2には、本実施形態に係るサスペンションタワーブラケットの製造方法により製造されたサスペンション支持部材としてのサスペンションタワーブラケット10(「ストラットブラケット」、「スプリングサポート」等ともいう。)が斜視図にて示されている。なお、図中において、矢印FRはサスペンションタワーブラケット10が適用された車両の車両前方側を示しており、矢印UPは前記車両の車両上方側を示しており、矢印INは前記車両の車両幅方向内側を示している。
【0013】
図2に示されるサスペンションタワーブラケット10は、フロントサスペンション(以下、単に「サスペンション」という。)の支持用とされ、車体前部において車両前後方向を長手方向とするフロントサイドメンバ(図示省略)の車両幅方向外側に配設されている。図2に示されるように、サスペンションタワーブラケット10は、一部品で構成されており、略車両上下方向に沿って立設され、全体としては、車両下方側が開放された有底筒形状をなしている。すなわち、サスペンションタワーブラケット10は、その頂部(頂面部)を構成するスプリング受け部としてのスプリングサポート部12(「ストラット支持部」、「スプリングサポートアッパ部」、「サスペンションアッパサポート部」等ともいう。)を備えると共に、その側壁部を構成するスカート状のエプロン部14を備えている。
【0014】
スプリングサポート部12は、前記サスペンションが取り付けられる部位とされると共に、前記サスペンションのコイルスプリング(「サスペンションスプリング」ともいう。図示省略)からの荷重を受けるための部位とされて略円板形状に形成されている。前記コイルスプリングは、前記サスペンションを構成する圧縮コイルスプリングであり、その軸線が車両上下方向に略一致する姿勢でスプリングサポート部12の下方側に配設されている。これにより、スプリングサポート部12の裏面側(下面側)は、前記コイルスプリングから荷重を受ける受け面側とされている。このため、スプリングサポート部12は、焼き入れが施されて高強度・高剛性に設定されている。なお、図2では、焼き入れ部分が斜線部で示されている。
【0015】
スプリングサポート部12の所定位置には比較的大径の円孔12Aが貫通形成されている。円孔12A内には、前記サスペンションにおけるショックアブソーバ(図示省略)の上端部側が配置されるようになっている。
【0016】
スプリングサポート部12の周端部12Bから曲げられて連続するエプロン部14は、成形性等の観点からスプリングサポート部12に比べて強度及び剛性が低く設定されている。このエプロン部14は、車両幅方向外側端がフロントフェンダ(図示省略)やホイルハウスインナ(図示省略)に接合されており、スプリングサポート部12の下方に前記サスペンションの上部を収容する空間を形成している。すなわち、前記サスペンションの上部に設けられた前記コイルスプリングは、エプロン部14が形成する収容空間に配設されている。
【0017】
なお、前記コイルスプリングはサスペンション形式によって配設部位が異なり、前記ショックアブソーバとは分離独立して配設される場合もあれば、前記ショックアブソーバの外周に巻装される場合もあるが、本実施形態は、後者の場合とされている。
【0018】
以上によって、サスペンションタワーブラケット10は、前記サスペンションを構成する前記ショックアブソーバ及び前記コイルスプリングを車体側に支持している。換言すれば、前記ショックアブソーバ及び前記コイルスプリングからの荷重は、サスペンションタワーブラケット10を介して車体側に支持されている。
【0019】
次に、本実施形態に係るサスペンションタワーブラケットの製造方法の説明を通して本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0020】
図1には、サスペンションタワーブラケットの製造方法における加熱工程で通電される板材としてのブランク材20が模式的な平面図で示されている。図1に示されるように、ブランク材20は、略円板形状に形成された金属製(本実施形態では鋼製)の板材(金属平板)で導電性を有しており、板厚が一定とされている。なお、本実施形態では、ブランク材20の中心部に円孔12Aが予め形成されている。
【0021】
ブランク材20の中心側となる略中央部22には、棒状の電極30(通電端子)が円孔12Aに嵌るように挿入された状態で接続されている。なお、本実施形態では、電極30が円孔12Aに挿入されているが、電極30は、円孔12Aの外周部上に接して接続されてもよい。また、略中央部22は、ブランク材20の概ね中央領域に属する部分として認識される部位である。一方、ブランク材20の周縁部26(外周部)上には、リング状の電極32(通電端子)がブランク材20の全周に亘って接続されている。図1からも明らかなように、棒状の電極30とブランク材20との接触面積は、リング状の電極32とブランク材20との接触面積に比べて小さく設定されている。また、電極30は、導線を介して電源部(図示省略)のマイナス極に接続され、電極32は、導線を介して前記電源部のプラス極に接続されている。
【0022】
加熱工程では、ブランク材20に電極30、32を以上のように接続して通電することによって、ブランク材20の周縁部26側からブランク材20の略中央部22側へ向けて(矢印i方向参照)電流を流し、ブランク材20を加熱する。
【0023】
すなわち、加熱工程で、電極32からブランク材20を介して電極30の側へ(ブランク材20の半径方向の内側に)電流を流すと、ブランク材20が有する電気抵抗によってブランク材20が加熱される(通電加熱)。このとき、ブランク材20を流れる電流の電流密度は、周縁部26側(電極32側)に比べて略中央部22側(電極30側)で高くなるので、ブランク材20は、一様には加熱されずに略中央部22側が周縁部26側に比べて高温で加熱される。本実施形態では、ブランク材20において略中央部22側の所定範囲(二点鎖線24で囲まれた部分)が焼き入れ可能な温度で加熱される。
【0024】
加熱工程で上記のように通電加熱されたブランク材20は、成形工程でプレスされると共に冷却されてサスペンションタワーブラケット10(図2参照)の形状に成形される。より具体的に説明すると、この成形工程では、まず、加熱されたブランク材20が金型(図示省略)にセットされる。このとき、金型上において、ブランク材20の略中央部22側をスプリングサポート部12(図2参照)に成形する位置に配置しかつその外周側をエプロン部14(図2参照)に成形する位置に配置する。一方、前記金型には、冷却水等の冷媒が流れる流路(図示省略)が形成されており、加熱工程において、通電加熱されたブランク材20が前記金型によりプレスされると、ブランク材20は、サスペンションタワーブラケット10(図2参照)の形状に成形されると共に、冷媒で冷却された前記金型により急冷(冷却)される。
【0025】
ここで、前記金型によってブランク材20が急冷されることによって、ブランク材20の略中央部22側の焼き入れ可能な温度で加熱されていた部位(二点鎖線24で囲まれた部分)、換言すればスプリングサポート部12(図2参照)に、焼き入れ(部分焼き入れ)が施される。これにより、図2に示されるスプリングサポート部12がエプロン部14よりも高強度かつ高剛性になると共に、スプリングサポート部12とエプロン部14との溶接が不要となる。なお、サスペンションタワーブラケット10には、その後、仕上げ(トリム)処理が施される。
【0026】
対比例と比較しながら補足説明すると、例えば、厚板の鋼板で構成されたスプリング受け部と薄板の鋼板で構成されたエプロン部とを溶接する対比例では、スプリング受け部を高強度・高剛性に設定できてエプロン部の成形性も良いが、その反面、溶接強度に十分に配慮する必要があるうえに、溶接代を設けなければならない分だけ質量が増加してしまう。これに対して、本実施形態の場合には、これらの問題点を解消することができ、疲労強度や軽量化の点でより優れたサスペンションタワーブラケット10を製造することができる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係るサスペンションタワーブラケットの製造方法によれば、スプリングサポート部12をエプロン部14よりも高強度かつ高剛性としながら、スプリングサポート部12とエプロン部14との溶接を不要にすることができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、車体前部に配設されるサスペンションタワーブラケット10の製造に適用される場合を例に挙げて説明したが、例えば、図3に示されるように、車体後部にてホイルハウスインナ46に配設されるリヤサスペンション支持用のサスペンション支持部材としてのサスペンションタワーブラケット40の製造に適用されてもよい。なお、このサスペンションタワーブラケット40は、前記サスペンションのコイルスプリング(図示省略)からの荷重を受けるためのスプリング受け部42と、スプリング受け部42の周端部から曲げられて前記サスペンションの上部を収容する空間を形成するエプロン部44と、を含んで構成されている。また、図3では、一例として、焼き入れ部を斜線部で示している。
【符号の説明】
【0029】
10 サスペンションタワーブラケット(サスペンション支持部材)
12 スプリングサポート部(スプリング受け部)
14 エプロン部
20 ブランク材(板材)
22 略中央部
26 周縁部
30 電極
32 電極
40 サスペンションタワーブラケット(サスペンション支持部材)
42 スプリング受け部
44 エプロン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションのコイルスプリングからの荷重を受けるためのスプリング受け部と、前記スプリング受け部の周端部から曲げられて前記サスペンションの一部を収容する空間を形成するエプロン部と、を含んで構成されたサスペンション支持用のサスペンション支持部材の製造に適用され、
略円板形状に形成された金属製の板材における略中央部と周縁部との各々に電極を接続して通電することによって、前記板材を加熱する加熱工程と、
金型上において前記板材の略中央部側を前記スプリング受け部に成形する位置に配置しかつその外周側を前記エプロン部に成形する位置に配置して前記板材をプレスすると共に冷却して成形する成形工程と、
を有するサスペンション支持部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−189671(P2010−189671A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32496(P2009−32496)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】