説明

サニャック干渉型光電流センサ

【課題】本発明は、位相変調子の変調効率が変化した場合であっても、また、光伝播経路、特に位相変調子と1/4波長板との消光比が悪化した場合であっても、安定かつ高精度な測定を実現するサニャック干渉型光電流センサを提供する。
【解決手段】位相変調子駆動回路は、検出光量を位相変調角周波数で同期検波した際の、2次高調波の振幅と4次高調波の振幅が同じになるよう前記位相変調子の位相変調深度を制御する。演算回路の規格化手段は、前記位相変調子駆動回路により制御された信号の3次高調波の振幅を、2、4、6次の偶数次高調波の振幅のいずれか、又は2次と4次高調波の振幅の和で除算することで基準値を算出する。そして、規格化された前記基準値を被測定電流の大きさに比例した値として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相変調法を光検波手段として用いたサニャック干渉型光電流センサに係り、温度変化、振動・音響や機械的応力などの外部環境変化に対して出力が安定し、かつ、高精度な測定を実現する光電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
位相変調法を光検波手段として用いたサニャック干渉型光電流センサついて、様々なタイプが提案されている。例えば、従来では、図19に示される「全ファイバ型サニャック干渉型光電流センサ」(非特許文献1参照。)や、図20に示される「ファイバ型ファラデー電流センサ」(非特許文献2参照。)や、図21に示される「光電式電流センサーのセンサーヘッドの製造方法」(特許文献1参照。)や、図22に示される「光ファイバ電流センサ」(特許文献2参照。)などが提案されている。
【0003】
また、検出器で検出された検出光量信号から電流換算出力を算出する方法として、上記で説明した従来例の他に、図23に示される「光ファイバ電流センサ及びその校正装置」(特許文献3参照。)や、図24に示される「精密電流検知のための光ファイバ装置及び方法」(特許文献4参照。)などが提案されている。
【0004】
このような図19〜24に示されるサニャック干渉型光電流センサでは、位相変調子において、光に一定の角周波数で一定の振幅の位相変調を与えることを前提とし、この位相変調子には、ポッケルス素子型位相変調子や円筒型圧電素子に光ファイバを巻いて構成される圧電素子型位相変調子等が使用される。なお、前記角周波数を位相変調角周波数、前記振幅を位相変調深度という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−517961号公報
【特許文献2】特表2002−529709号公報
【特許文献3】特開2005−345350号公報
【特許文献4】特表2000−515979号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. Frosio, H. Hug, R. Dandliker, "All-fiber Sagnac current sensor", in Opto 92 (ESI Publications, Paris), p560-564 (Apr 1992)
【非特許文献2】G. Frosio and R. Dandliker, "Reciprocal reflection interferometer for a fiber-optic Faraday current sensor", Appl. Opt. 33, p6111-6122 (Sep 1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような図19〜24で示したサニャック干渉型光電流センサでは、位相変調子として、上述した通り、ポッケルス素子型位相変調子や円筒型圧電素子に光ファイバを巻いて構成される圧電素子型位相変調子等が使用され、何れの位相変調子も位相変調角周波数の電圧信号をポッケルス素子や円筒圧電素子に加えることで、光に位相変調を印加している。この時の位相変調深度は印加する前記電圧信号の振幅の大きさで調整しているため、実際に光に印加される位相変調深度と位相変調子に印加する電圧信号の振幅は等価として取り扱われる。
【0008】
しかしながら、位相変調子は温度特性を有し、位相変調子の周りの環境温度に応じて位相変調効率も変化するため、位相変調子に印加する電圧信号の振幅を一定に制御した場合であっても、実際に光に印加される位相変調の位相変調深度は変化してしまう。また、このような位相変調子の位相変調効率の変化は、温度変化の他に、位相変調子自体の劣化によっても生じる。
【0009】
その結果、位相変調子を一定の位相変調深度で駆動しているつもりでも、実際に印加される位相変調が変化するため、サニャック干渉型光電流センサの出力が変動するといった課題が生じる。位相変調子には、ポッケルス素子や、円筒型圧電素子に光ファイバを巻き付けて構成されたものがあるが、いずれもポッケルス素子や円筒型圧電素子に電圧を印加することで位相変調を発生させているので、位相変調子に印加する印加電圧にノイズが重畳している場合も、同様に、サニャック干渉型光電流センサの出力が変動する。
【0010】
なお、このような従来例では、実際に印加されている位相変調の大きさが変化しても、その大きさを検出しフィードバック制御を駆ける仕組みをそもそも備えていなかった。
【0011】
さらに、光の伝播経路、特に位相変調子と1/4波長板の間の消光比が変化してしまうと、サニャック干渉型光電流センサの出力が変動し、測定精度が低減するといった課題も生じる。例えば、図19〜24で示されるサニャック干渉型光電流センサでは、位相変調子と1/4波長板の間の消光比が悪化すると、サニャック干渉型光電流センサの出力が変動するため、測定精度が低下してしまう。
【0012】
また、図19、図20で提案されているサニャック干渉型光電流センサでは、位相変調子と1/4波長板の間を偏波面保持ファイバで接続することを想定している。偏波面保持ファイバに機械的な応力(振動や音響や温度変化にともなう応力も含む)が加わった場合には、偏波面保持ファイバの2つの光学軸を伝播する光の間でクロストークが発生し消光比が変化するため、サニャック干渉型光電流センサの出力が変動してしまう。
【0013】
この機械的応力が上記の偏波面保持ファイバに印加される要因は様々あり、例えば、人が偏波面保持ファイバを踏みつけて応力が印加されてしまったり、また、1/4波長板とセンサファイバを収納するケースから偏波面保持ファイバを引き出す際、収納ケースの密閉性を高めるために当該ケースの偏波面保持ファイバの引き出し部分が蝋材や接着剤などで封じ切られ、その部分に温度変化が生じると材料の熱膨張の違いにより偏波面保持ファイバに応力が印加されてしまう。
【0014】
さらに、位相変調子と1/4波長板の間をつなぐ偏波面保持ファイバをコイル状に巻き付けて収納する場合や、偏波面保持ファイバを保護管に収納する場合は、振動や音響の共振によって、偏波面保持ファイバに応力が印加されるので、消光比が変化しサニャック干渉型光電流センサの出力が変動し得る。
【0015】
また、位相変調子と1/4波長板の間を偏波面保持ファイバで接続する際、光コネクタによる接続を行った場合には、光コネクタが機械的接続となるため、接続される偏波面保持ファイバ間で光学軸のズレが生じ、その結果、クロストークが発生し消光比が悪化する。仮に、光コネクタで偏波面保持ファイバ同士を理想的に接続できたとしても、上述の通り、光コネクタは機械的接続となるため、光コネクタに振動や温度変化が印加されると、偏波面保持ファイバ同士で光学軸のズレが生じる可能性があり、位相変調子と1/4波長板の間の消光比を安定的に保つことが難しい。
【0016】
また、位相変調子と1/4波長板間の偏波面保持ファイバを放電により融着接続する場合であっても、偏波面保持ファイバ同士で有限な光学軸のズレが生じ得る。そのため、サニャック干渉型光電流センサの1/4波長板を含んだセンサヘッド部分と位相変調子を含んだ信号処理ユニット分とを繋ぐ偏波面保持ファイバ(送光ファイバ)を途中で切り離し、再度接続した際には消光比が変化する可能性がある。これにより、上記の偏波面保持ファイバの切り離し前後で、光電流センサの出力が変化(感度が変化)することもあり得る。
【0017】
このように、消光比の悪化は、偏光子や位相変調子、それらの光学部品を光学的に接続する偏波面保持ファイバのあらゆる部分で起こる可能性があり、光電流センサの出力にも変動が生じる。
【0018】
さらに、図19、図21、図23及び図24で提案されている信号処理方法を用いる場合も、位相変調子と1/4波長板の間の消光比が変化した際には、サニャック干渉型光電流センサの出力が変動するため、サニャック干渉型光電流センサの入出力特性の直線性が悪化し測定精度が低下する。
【0019】
また、図24に示されている信号処理方法では、2つの位相変調子のうち一方の光学的位相差を他方の位相変調子で相殺し、相殺位相量(具体的には位相変調子に与える電圧信号の大きさ)から電流値を求める方式を採用しているが(一般にセロダイン検波方式と呼ばれる検出方式)、この場合、位相変調子は2以上必要であり、かつ、2つの位相変調子の間の位相変調効率が同じでなければ、位相変調子に与えている電圧から正確に相殺位相量を測定できない。そのため、測定精度が低下し、また、2個以上の位相変調子を使用することが不経済であり、部品点数増加による信頼性の低下といった課題が生じる。
【0020】
本発明は、上記のような課題を解決するために提案されたものであって、その目的は、位相変調子の変調効率が変化した場合であっても、また、光伝播経路、特に位相変調子と1/4波長板との消光比が悪化した場合であっても、安定かつ高精度な測定を実現するサニャック干渉型光電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した目的を達成するために、本発明は、位相変調子の位相変調角周波数で検出光量信号を同期検波する同期検波回路と、前記同期検波回路で同期検波された信号を用いて被測定電流の大きさを演算して出力する演算回路と、前記位相変調子の駆動を制御する位相変調子駆動回路と、を有するサニャック干渉型光電流センサであって、前記位相変調子駆動回路は、前記検出光量信号を位相変調角周波数で同期検波した際の、当該信号の2次高調波の振幅と4次高調波の振幅が同じになるよう前記位相変調子の位相変調深度を制御することを特徴とする。
【0022】
また、この演算回路は、前記位相変調子駆動回路により、前記2次及び4次高調波の振幅の絶対値が同じになるよう制御された信号の3次高調波の振幅を、2、4、6次の偶数次高調波の振幅のいずれか、又は2次と4次高調波の振幅の和で除算することで基準値を算出する規格化手段を有し、前記規格化された前記基準値を被測定電流の大きさに比例した値として出力することを特徴とする。
【0023】
このような態様によれば、2次高調波と4次高調波の振幅を同じ大きさになるよう制御するので、3次高調波は安定的に極大とすることができ、ノイズの影響を受け難くすることが可能となる。また、位相変調子の変調効率が変化しても2次高調波と4次高調波の振幅を同じ大きさになるように位相変調深度を制御することで、実際に光に印加される位相変調を一定にすることができる。
【0024】
さらに、3数次高調波を偶数次高調波で規格化することにより、光源の発光光量変化や光伝播経路の光伝送損失変化などによって検出光量が変化しても、安定な被測定電流に比例した出力を得ることができる。特に、2次高調波、4次高調波、6次高調波は、他の高次の偶数次高調波の振幅と比較して、その値が大きいためノイズの影響を受けにくい。加えて、3次高調波の振幅に対して、2次高調波の振幅、4次高調波の振幅、2次高調波の振幅と4次高調波の振幅の和、又は6次高調波の振幅のいずれかを用いて規格化した規格化出力は、位相変調子と1/4波長板の間の消光比が変化しても、消光比の値が小さい又は一定であれば、被測定電流の大きさとの間で良い直線性を得ることができる。
【0025】
また、2次高調波と4次高調波を同じ値に制御する過程では、2次高調波と4次高調波の変化方向が逆であるため、2次高調波の振幅と4次高調波の振幅の和で3次高調波を規格化することは、単に2次高調波や4次高調波で3次高調波を規格化するよりも安定した規格化を行うことができる。
【0026】
また、本発明は、前記位相変調子駆動回路が、前記検出光量信号を位相変調角周波数で同期検波した際の、当該信号の1次高調波の振幅を0とするよう前記位相変調子を制御する態様も包含する。
【0027】
このような態様によれば、1次高調波の振幅を0とするよう位相変調子の位相変調深度を制御するので、実際に光に印加される位相変調を一定にすることが可能となり、位相変調子の温度変化や経年変化等により位相変調効率が変化した場合であっても、サニャック干渉型光電流センサの出力変動を抑制することができる。
【0028】
さらに、本発明は、前記演算回路が、前記位相変調子駆動回路により、前記1次高調波の振幅を0とするよう制御された信号の3次高調波の振幅を、2、4、6次の偶数次高調波の振幅のいずれかで除算することで基準値を算出する規格化手段を有し、前記規格化された前記基準値を被測定電流の大きさに比例した値として出力する態様も包含する。
【0029】
このような態様によれば、奇数次高調波は被測定電流にほぼ比例した値であり、奇数次高調波及び偶数次高調波は検出器での検出光量にほぼ比例した値であるため、この奇数次高調波を偶数次高調波で規格化することにより、光源の発光光量変化や光伝播経路の光伝送損失変化等で検出光量が変化する場合であっても、安定な被測定電流に比例した出力を得ることができる。特に、1次高調波の振幅は0になるように制御されているため、被測定電流に比例した出力を得るには、3次以上の奇数次高調波が有効である。
【0030】
また、3次高調波の振幅は、他の高次の奇数次高調波の振幅と比較して、その値が大きいためノイズの影響を受け難く、同様に、2次高調波、4次高調波、6次高調波も他の高次の偶数次高調波の振幅と比較して、その値が大きいためノイズの影響を受け難い。そのため、3次高調波の振幅に対して、2次高調波の振幅、4次高調波の振幅、又は6次高調波の振幅のいずれかを用いて規格化した規格化出力は、位相変調子と1/4波長板の間の消光比が変化しても、消光比の値が小さい又は一定であれば、被測定電流の大きさとの間で良い直線性を得ることができる。
【0031】
また、本発明では、前記位相変調子駆動回路において、ファラデー素子を伝播する2つの円偏光が位相変調子により位相変調を受ける時間差で規定される光学光路長と当該位相変調子の位相変調角周波数との積を2倍の光速で割った値の正弦に対し、位相変調子の位相変調深度δを掛けた値が、0より大きく、かつ、7より小さくなるように前記位相変調深度を制御することも特徴とする。
【0032】
このような態様によれば、ファラデー素子を伝播する2つの円偏光が位相変調子で位相変調を受ける時間差で規定される光学光路長と位相変調子の位相変調角周波数との積を2倍の光速で割った値の正弦に、前記位相変調子の位相変調深度の2倍を掛けた値が、0より大きく、かつ7より小さくなるよう制御しているので、3次高調波の振幅が大きく、かつ、1次高調波が0となる条件が一意に決まり、1次高調波を0とする制御を安定化することができる。
【0033】
また、上記以外の1次高調波が0となる条件では、3次高調波の振幅がより小さくなるので、この条件が3次高調波の振幅が最も大きくなる条件であり、ノイズの影響も受け難い。なお、被測定電流が0の場合には1次高調波は0となるため、位相変調子の位相変調深度はいかなる値もとることができることになり、1次高調波を0とする制御が暴走したり、位相変調深度が極めて大きい場合には位相変調子を破損する可能性があるが、本発明により位相変調深度には制限がかかるため、位相変調子の破損を抑制することも可能となる。
【0034】
また、本発明は、前記演算回路が、前記基準値に対して、2〜6次までの偶数次高調波の振幅のいずれか2つの比を用いることで補正を施す補正手段を有し、前記補正手段により補正された補正値を被測定電流の大きさに比例した値として出力する態様も包含する。
【0035】
このような態様によれば、2次から6次までの偶数次高調波のいずれか2つ以上の振幅を用いて、規格化出力を補正することで、位相変調子と1/4波長板の消光比が変化しても、感度の変化が小さな補正規格化出力を得ることができ、その結果、サニャック干渉型光電流センサの入出力特性の直線性を得ることができるだけでなく、感度変化も抑制することが可能となり、高精度なサニャック干渉型光電流センサを実現することができる。
【0036】
また、本発明は、前記演算回路が、前記検出光量信号を位相変調角周波数で同期検波した際の奇数次高調波の振幅のいずれかを、偶数次高調波の振幅のいずれかで除算することで基準値を算出する規格化手段と、前記基準値に対して、2〜6次の偶数次高調波の振幅の何れか2つの比を用いることで補正を施す補正手段と、を有し、前記補正手段により補正された補正値を被測定電流の大きさに比例した値として出力する態様も包含する。
【0037】
このような態様によれば、上記と同様に、2次から6次までの偶数次高調波のいずれか2つ以上の振幅を用いて、規格化出力を補正することで、位相変調子と1/4波長板の消光比が変化しても、感度の変化が小さな補正規格化出力を得ることができ、その結果、サニャック干渉型光電流センサの入出力特性の直線性を得ることができるだけでなく、感度変化も抑制することができ、高精度なサニャック干渉型光電流センサを実現できる。
【0038】
また、本発明は、前記演算回路が、前記基準値又は補正値に対して、逆正接の補正を実施する逆正接補正手段を有し、前記逆正接補正手段により補正された値を被測定電流の大きさに比例した値として出力する点も特徴とする。
【0039】
このような態様によれば、被測定電流が小さな領域では、規格化出力又は補正規格化出力がほぼ被測定電流に比例すると共に、被測定電流が大きな領域では、規格化出力又は補正規格化出力の逆正接が、被測定電流の大きさにほぼ比例する。そのため、規格化出力、又は補正規格化出力に逆正接の補正を施すことにより、被測定電流が大きな領域でも、サニャック干渉型光電流センサの入出力特性の直線性を向上することが可能となり、その結果、測定精度を高めることができる。
【0040】
また、本発明は、光源からの光を直線偏光に変換し、前記位相変調子と光学的に接続される光学フィルタを備え、この光学フィルタが、偏波面保持ファイバからなる第1のリオ型デポラライザと、前記位相変調子側に繋がる偏波面保持ファイバを用いて構成された偏光子と、を有し、前記位相変調子は、位相変調子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバを有し、加えて、この位相変調子と偏光子間を繋ぐ両者の前記偏波面保持ファイバにより第2のリオ型デポラライザが構成され、前記第1のリオ型デポラライザと前記第2のリオ型デポラライザの全長比は、正の整数nを用いて1:2n又は2n:1である態様も包含する。
【0041】
以上のような態様によれば、まず、第1のリオ型デポラライザにより、偏光子からの出力光量を安定化することが可能となる。また、第1のリオ型デポラライザの全長と第2のリオ型デポラライザの全長の比が正の整数nを用いて1:2n又は2n:1の関係としているため、各デポラライザの群遅延時間差を可干渉時間以上にすることができ、各デポラライザで残存した偏光成分の干渉も抑制され、結果として光学的な位相ドリフトを抑制することが可能となり、サニャック干渉型光電流センサとしての零点ドリフトを抑制することができる。
【0042】
また、本発明は、この前記光学フィルタが、偏光子と、前記偏光子の光源側に、当該偏光子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバである第1のリオ型デポラライザと、前記偏光子の位相変調子側に、当該偏光子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバと、を有し、また、前記位相変調子は、当該位相変調子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバを有し、加えて、前記位相変調子と前記偏光子間で、当該位相変調子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバと、前記偏光子の位相変調子側に当該偏光子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた前記偏波面保持ファイバと、により第2のリオ型デポラライザが形成され、前記第1のリオ型デポラライザと前記第2のリオ型デポラライザの全長比は、正の整数nを用いて1:2n又は2n:1である態様も包含する。
【0043】
以上のような態様によれば、偏光子の機能とは関係なく光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた当該偏光子の偏波面保持ファイバを利用して第1のリオ型デポラライザを構成することで、別途デポラライザ素子を挿入する必要がなくなるため、ファイバ同士の光接続点も少なくなり、光接続損失、光伝送損失、光の伝播偏光特性もより安定化を図ることができ、さらには経済的でもある。
【発明の効果】
【0044】
以上のような本発明によれば、検出器で検出される検出光量を位相変調子の変調角周波数で同期検波した際の1次高調波の振幅が0になるように制御、又は2次高調波の振幅の絶対値と4次高調波の振幅が同じ大きさになるように制御することで、位相変調子の位相変調効率が温度変化や経年変化などで変化する場合でも、位相変調子で印加される位相変調の大きさを一定に保つことができ、さらに、2次から6次の偶数次高調波を用いて補正した3次高調波の振幅を光電流センサの出力として用いることで、光の伝播経路、特に位相変調子と1/4波長板の間の消光比が変化した場合でも、サニャック干渉型光電流センサの出力変動を抑制でき、高精度な測定が可能なサニャック干渉型光電流センサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるサニャック干渉型光電流センサの全体構成を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるリオ型デポラライザの構成を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態におけるベッセル関数とR=2δsinωmαの関係を示す図。
【図4】本発明の第1の実施形態における検出器で検出される光量Poutの波形と波高値の関係を示す図。
【図5】本発明の第1の実施形態におけるθcの大きさに応じた検出器で検出される光量Poutの波形と波高値の関係を示す図。
【図6】本発明の第1の実施形態における電流対応出力Pkとtan4θfの関係を示す図(|P|=|P|の場合)。
【図7】本発明の第1の実施形態におけるθcとη(θc)の関係を示す図(θf=0°、|P|=|P|の場合)。
【図8】本発明の第1の実施形態におけるηとk´の関係を示す図(|P|=|P|の場合)。
【図9】本発明の第1の実施形態における測定電流Iによって生じるθfと比誤差の関係を示す図(θc=0°、|P|=|P|の場合)。
【図10】本発明の第1の実施形態における測定電流Iによって生じるθfと比誤差の関係を示す図(θc=3°、|P|=|P|の場合)。
【図11】本発明の第1の実施形態における測定電流Iによって生じるθfと比誤差の関係を示す図(θc=6°、|P|=|P|の場合)。
【図12】本発明の第1の実施形態における測定電流Iによって生じるθfと比誤差の関係を示す図(θc=10°、|P|=|P|の場合)。
【図13】本発明の第2の実施形態における電流対応出力Pkとtan4θfの関係を示す図(|P|=0の場合)。
【図14】本発明の第2の実施形態におけるθcとη(θc)の関係を示す図(θf=0°、P=0の場合)。
【図15】本発明の第2の実施形態におけるηとk´の関係を示す図(P=0の場合)。
【図16】本発明の第2の実施形態における測定電流Iによって生じるθfと比誤差の関係を示す図(θc=0°、P=Pの場合)。
【図17】本発明の第2の実施形態における測定電流Iによって生じるθfと比誤差の関係を示す図(θc=10°、P=Pの場合)。
【図18】本発明の第2の実施形態におけるサニャック干渉型光電流センサの全体構成を示す図。
【図19】本発明の従来技術に係る電流センサの構成を示す図(1)
【図20】本発明の従来技術に係る電流センサの構成を示す図(2)
【図21】本発明の従来技術に係る電流センサの構成を示す図(3)
【図22】本発明の従来技術に係る電流センサの構成を示す図(4)
【図23】本発明の従来技術に係る電流センサの構成を示す図(5)
【発明を実施するための形態】
【0046】
[1.第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態に係るサニャック干渉型光電流センサについて、図1〜12を参照して以下に説明する。以下では、第1の実施形態に係る光電流センサの基本構成、及び基本的な動作を説明し、光の挙動の説明に関しては、ジョーンズ行列を利用するものとする。
【0047】
[1.1.構成]
まず、第1の実施形態に係るサニャック干渉型光CTの基本構成について、図1を参照して説明する。なお、図1は、第1の実施形態に係るサニャック干渉型光電流センサ(サニャック干渉型CT)の基本構成を示す図である。
【0048】
図1に示す通り、サニャック干渉型光電流センサは、後述する、光源駆動回路101と、光源102と、ファイバカプラ103と、光学フィルタ104と、位相変調子105と、余長コイルと、検出器106と、同期検波回路107と、位相変調子駆動回路108と、演算回路109と、が設けられた信号処理ユニット100を備えている。
【0049】
また、送光ファイバ200を介して、この信号処理ユニット100と繋がれる、1/4波長板301と、センサファイバ302と、鏡303と、を有するセンサヘッド部300を備えている。
【0050】
信号処理ユニット100において、光源駆動回路101は、光源102の駆動を制御する回路であり、その光源102には、干渉性の小さなLED(発光ダイオード)やSLD(スーパールミネッセントダイオード)等が使用され、光源出力が光ファイバに結合されているものが用いられる。この場合の光ファイバとしては、シングルモードファイバや偏波面保持ファイバを使用することが可能であり、特に、偏波保持特性を良好に保ちたい場合には偏波面保持ファイバを使用する。
【0051】
なお、光源102から出た光は一般にランダム光であると考えることができるため、その電界成分を下記[数1]とする。
【0052】
[数1]

【0053】
ここで、係数1/√2は、Einの絶対値|Ein| が「1」となるように規格化するために設けた係数であり、位相φr(t)は、Einのx成分には無関係に変化する位相差で、この位相φr(t)をもって、ランダム光を表現している。
【0054】
ファイバカプラ103は、光源102から出た光を分岐する光分岐手段であり、その一方が偏光子である光学フィルタ104に繋がれる。このファイバカプラ103はシングルモードファイバカプラでも偏波面保持ファイバカプラでも良く、偏波保持特性を良好に保ちたい場合には偏波面保持ファイバカプラを使用する。
【0055】
光学フィルタ104は、偏光子であるが、実際の光源102では、ランダム光とはいえ光の偏光状態が偏っている場合も想定される。そのため、ファイバカプラ103と偏光子104aの間にデポラライザ104bを挿入し、このデポラライザ104bと偏光子104aで当該光学フィルタ104を構成している。このような構成を有することにより偏光子104aからの出力は安定化する。
【0056】
より詳細には、この偏光子104aに、偏波面保持ファイバで構成されたものを用いることを想定し、また、デポラライザ104bとしては、図2に示す通り、偏波面保持ファイバ同士の光学軸を45°回転させて接続したリオ型デポラライザを用いている。ここで、リオ型デポラライザに関して、接続する偏波面保持ファイバ同士の長さは1:2、又は2:1として接続することでデポラライザ104bの特性は安定する(JOURNAL Of Lightwave Technology Vol.LT1 No.1 Mar 1983 P71-74参照。)。
【0057】
また、光分岐手段であるファイバカプラ103として、偏波面保持ファイバカプラを使用する場合には、この偏波面保持ファイバカプラのリード部分(偏波面保持ファイバ)と、偏光子104aの実体的な機能とは関係なく、当該偏光子104aに光学軸を規定して光を伝播することを目的に設けられた偏波面保持ファイバ(以下、偏光子のリード部分と表記する。)と、の光学軸を45°回転させて接続することによりデポラライザ104bを構成する。これによれば、別途デポラライザ素子を挿入する必要がないため、ファイバ同士の光接続点も少なくなり、光接続損失、光伝送損失及び光の伝播偏光特性もより安定し、経済的となる。
【0058】
なお、このようなデポラライザ104bを用いる場合も、該当する偏波面保持ファイバカプラ103のリード部分(偏波面保持ファイバ)の長さと偏光子104aのリード部分(偏波面保持ファイバ)の長さの比を1:2又は2:1とする。これにより、デポラライザ104bとしての安定性が向上する。
【0059】
一方、偏光子104aに偏波面保持ファイバを使用している状況下において、ファイバカプラ103として、シングルモードファイバカプラを使用する場合には、当該シングルモードファイバカプラのリード部分(シングルモードファイバ)と偏光子104aの間に偏波面保持ファイバを挿入し、この偏波面保持ファイバの光学軸と偏光子104aのリード部分(偏波面保持ファイバ)の光学軸を45°回転させて接続することでリオ型のデポラライザを構成する。これによれば、別途デポラライザ素子を挿入する必要がないため、ファイバ同士の光接続点も少なくなり、光接続損失、光伝送損失及び光の伝播偏光特性も安定し、経済的でもある。
【0060】
なお、この場合においても、該当するシングルモードファイバカプラに接続された偏波面保持ファイバの長さと偏光子104aのリード部分(偏波面保持ファイバ)の長さの比を1:2又は2:1とすることでデポラライザ104bとしての安定性を向上させる。
【0061】
また、偏光子104aは、入射光のx、y成分の一方を通過させる素子と考えることができるが、説明に当たっては入射光のx成分のみ通過させるとし、偏光子のジョーンズ行列Lpを次式のように置く。
【0062】
[数2]

【0063】
この偏光子104aには、偏波面保持ファイバを利用したファイバ形偏光子や、結晶素子と偏波面保持ファイバを組み合わせて構成されたバルク素子形ファイバ偏光子などが使用され、偏光子104aの光学軸は偏光子104aを構成する偏波面保持ファイバの光学軸で規定されているものを利用する。すなわち、偏光子104aは、当該偏光子104aを構成する偏波面保持ファイバの2つの光学軸の一方のみの光を伝播させる素子ということになり、特に、偏光子104aはx成分のみ通過させるものとする。
【0064】
位相変調子105は、ピエゾ管(PZT)に偏波面保持ファイバを巻き付けて構成されるPZT形位相変調子やポッケルス素子を利用したポッケルス素子形位相変調子等が使用される。
【0065】
位相変調子105にポッケルス素子形位相変調子を使用する場合、このポッケルス素子への光の導入・導出には上述した偏波面保持ファイバが使用され、当該位相変調子105内において、偏波面保持ファイバの2つの光学軸のどちらか一方を伝播する光に、相対的な位相変調を印加する構成を有している。すなわち、位相変調子105を構成する偏波面保持ファイバの光学軸によって、位相変調の方向が規定されている。
【0066】
また、偏波面保持ファイバの2つの光学軸の各々を伝播する光は、位相変調に関係なく位相変調子105内を伝播するものを使用する。なお、説明上、位相変調子105はx成分のみ相対的位相変調を印加するものとする。
【0067】
また、この位相変調子105を構成する偏波面保持ファイバの光学軸は、上述した偏光子104aを構成する偏波面保持ファイバと45°回転させた状態で接続される。偏波面保持ファイバを45°回転させた状態とすることで、位相変調子105を構成する偏波面保持ファイバの2つの光学軸にそれぞれ独立な直線偏光を伝播させていることと等価になり、偏光子104aのリード部分(偏波面保持ファイバ)と位相変調子105のリード部分(偏波面保持ファイバ)でリオ型のデポラライザを構成していることになる。
【0068】
ここで、位相変調子105の機能とは関係なく、当該位相変調子105に光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏光子104a(光学フィルタ104)側へ接続される偏波面保持ファイバ(位相変調子のリード部分)と、偏光子104aの機能とは関係なく、当該偏光子104aに光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた位相変調子105側へ接続される偏波面保持ファイバ(偏光子のリード部分)と、を45°回転させて接続するときには、各々の偏波面保持ファイバの長さの比を1:2又は2:1としてデポラライザを構成する。これにより、位相変調子105内を伝播するx、y成分間の群遅延時間差を可干渉時間(コヒーレント時間)以上にすることができ、位相変調子105内を伝播するx、y成分の独立性がより高くなるので光学特性が安定する。
【0069】
なお、光学フィルタ104にリオ型のデポラライザを用いる場合、当該光学フィルタ104に用いたリオ型デポラライザの全長と偏光子104a−位相変調子105間で構成されるデポラライザの全長の比を1:2n又は2n:1(ここで、nは1以上の整数)とする。これにより、各デポラライザで残存した偏光成分の干渉も抑制され、結果として光学的な位相ドリフトを抑制することができ、光電流センサとしての零点ドリフトを抑制することが可能となる。
【0070】
また、上記の通り、偏光子104aを通過した光(直線偏光)は、偏光子104aの光学軸と位相変調子105の光学軸を45°ずらした状態で位相変調子105へ挿入することは説明したが、このように、光学軸を45°ずらして(回転させて)位相変調子105へ挿入することをジョーンズ行列で表記すると(入射方位角で−45°回転させることに相当)、下記[数3]に示す通りである。
【0071】
[数3]

【0072】
なお、位相変調子105では、位相変調子105内を伝播する光のx成分に対して、相対的に位相差φだけ位相変調を与えることとする。ここで時刻t=τ1に位相変調を受けるとすると、位相差φは、[数4]で表される。
【0073】
[数4]

ここでδは、位相変調深度であり、ωmは、位相変調角周波数である。
【0074】
従って、位相変調子105内の挙動をジョーンズ行列で表記すると、[数5]の通りである。
【0075】
[数5]

【0076】
また、検出器106は、後述するセンサヘッド部300により反射し、位相変調子105、光学フィルタ104を通過し、ファイバカプラ103により分岐された一方の光量を検出する。この検出器106には、フォトダイオードや光電子増倍管などのような光/電気交換素子(O/E変換素子)を用いている。
【0077】
同期検波回路107は、検出器106により検出された光量を、位相変調角周波数で同期検波する。なお、光量の同期検波については[1.2.作用]の項目において詳述する。
【0078】
位相変調子駆動回路108は、位相変調子105に対して、同期検波された信号の2次高調波の振幅と4次高調波の振幅の絶対値が同じ大きさになるようにフィードバック制御する。なお、具体的な機能については、[1.2.作用]の項目にて詳述する。
【0079】
演算回路109は、位相変調子駆動回路108により位相変調された3次高調波の振幅を測定電流に対応した出力として用いる。また、具体的な機能は後述するが、出力対象となる3次高調波に対して規格化を施す規格化手段109aと、規格化後の出力に対して補正を実施する補正手段109bと、を備えている。
【0080】
なお、この演算回路109の具体的な回路構成としては、デジタル処理が一般的だが、規格化の場合は、アナログ除算器を用いることで、アナログ的に実現でき、補正の場合は、アナログ乗算器とアナログ加算器を用いることで実現できる。また、アークタンジェントの補正の場合も、アナログ乗算器とアナログ加算器を用いることで実現が可能である。
【0081】
送光ファイバ200は、後述するセンサヘッド部300の1/4波長板301と、各々光学軸が45°回転して接続される(入射方位角で−45°回転させることに相当する)。そのため、この関係をジョーンズ行列で表すと上記[数3]と同様となる。
【0082】
センサヘッド部300は、入射する光に対して、1/4波長分の位相差を生じさせる1/4波長板301と、ファラデー位相差を生じさせるセンサファイバ302と、センサファイバ302からの光を反射する鏡303と、から構成されている。
【0083】
このセンサヘッド部300の1/4波長板301では、通過する光のx成分に対して1/4波長分の位相差(360°/4=90°)を生じさせ、当該1/4波長板301での光の挙動は、ジョーンズ行列で表記すると[数6]の通りとなる。
【0084】
[数6]

【0085】
センサファイバ302は、図1に示す通り、一般に測定する電流を取り囲むように周回配置され、ファラデー効果によって回転に相当する位相差(ファラデー位相差)を生じさせる。なお、センサファイバ302におけるファラデー効果によって生じるファラデー位相差θrは、下記[数7]で表される。
【0086】
[数7]

ここで、nは被測定電流を取り囲むファイバの巻数、Vはセンサファイバのベルデ定数、Iは被測定電流の大きさである。
【0087】
なお、センサファイバ302が電流を取り囲むように周回配置した場合について説明したが、逆に、センサファイバ302を電流が取り囲むように電線が周回配置される場合には、nがセンサファイバ302を取り囲む電流を通電する電線の巻数となる。この場合におけるセンサファイバ302で生じるファラデー位相差を、ジョーンズ行列で表記すると下記[数8]の通りである。
【0088】
[数8]

【0089】
鏡303は、図1に示す通り、センサファイバ302の端部に設けられ、センサファイバ302を通過した2つの円偏光を反射することで、光のy成分を反転させる。このような鏡303の効果をジョーンズ行列で表記すると[数9]のようになる。
【0090】
[数9]

【0091】
[1.2.作用]
[1.2.1.位相変調制御]
次に、上記のような構成を有する第1の実施形態に係るサニャック干渉型電流センサにおける出力手順を、図2〜4を参照して以下に説明する。
【0092】
まず、光源駆動回路101において、光源102の駆動を制御し、光源102から出た光Einは、その後、光分岐手段であるファイバカプラ103で分岐され、その一方が、光学フィルタ104である偏光子へと導入される。光学フィルタ104では、偏光子104aを構成する偏波面保持ファイバの2つの光学軸の一方のみの光を伝播させる。特に、第1の実施形態では、偏光子はx成分のみ通過させるものとする。
【0093】
そして、光学フィルタ104を出た光(直線偏光)は、位相変調子105に導入され、位相変調子105内では、偏波面保持ファイバの2つの光学軸のどちらか一方を伝播する光に、相対的な位相変調を印加する。なお、説明上、位相変調子105はx成分のみ相対的位相変調を印加させるものとする。
【0094】
位相変調子105では、位相変調子105内を伝播する光のx成分に対して、相対的に位相差φだけ位相変調を与えることとし、ここで時刻t=τ1に位相変調を受けるとする場合は、位相差φは上記[数4]の通りであり、位相変調子105内の挙動はジョーンズ行列で表記すると上記[数5]の通りである。
【0095】
位相変調子105を通過し、位相変調子105のリード部分の偏波面保持ファイバの2つの光学軸それぞれに拘束され伝播する2つの直線偏光は、偏波面保持ファイバで構成された送光ファイバ200へ導かれる。そして、送光ファイバ200を通過した2つの直線偏光は、センサヘッド部300の1/4波長板301に導入される。
【0096】
この1/4波長板301では、通過する光のx成分に対して1/4波長分の位相差(360°/4=90°)を生じさせる。これにより、送光ファイバ200を伝播した2軸の直線偏光は、1/4波長板301を通じて2つの逆回りの円偏光となる。そして、この円偏光がファラデー素子であるセンサファイバ302へ導入される。
【0097】
センサファイバ302では、ファラデー効果によって回転に相当する位相差(ファラデー位相差)を生じさせる。ここで、センサファイバ302におけるファラデー効果によって生じるファラデー位相差θrは上述した[数7]の通りである。そして、図1に示す通り、センサファイバ302を通過した2つの円偏光は、センサファイバ302の端部に設けられた鏡303により反射されることで、光のy成分を反転させる。このような鏡303の効果をジョーンズ行列で表記すると、上記[数9]の通りである。
【0098】
鏡303で折り返された2つの円偏光は再び、センサファイバ302でファラデー効果を受けるが、鏡303に入射する方向に進む光と反射した方向に進む光とでは感じる磁界の向きが反対となるため、センサファイバ302内を伝播する光の挙動はジョーンズ行列により下記[数10]の通りとなる。
【0099】
[数10]

【0100】
センサファイバ302を通過した2つの円偏光は1/4波長板301に導入され、再び、光のx成分のみ1/4波長分の位相差(360°/4=90°)を生じさせる。そのため、1/4波長板での光の挙動は、ジョーンズ行列で表記すると上記[数6]の通りである。
【0101】
そして、センサファイバ302を伝播した2つの逆回りの円偏光は1/4波長板301を通過した後、送光ファイバ200(偏波面保持ファイバ)に2つの直線偏光として入射する。なお、1/4波長板301と送光ファイバ200は光学軸を45°だけ回転させて接続されているため(入射方位角で−45°回転させることに相当)、この効果をジョーンズ行列で表記すると、上記[数3]の通りである。
【0102】
ここで、送光ファイバ200の2つの光学軸のうちx軸で伝播して1/4波長板301に入射した直線偏光が、センサファイバ302を経由して1/4波長板301から送光ファイバ200へ再入射する際には、送光ファイバ200の2つの光学軸のうちy軸で伝搬する。同様に、送光ファイバ200の2つの光学軸のうちy軸で伝播して1/4波長板301に入射した直線偏光が、センサファイバを経由して1/4波長板から送光ファイバへ再入射する際には、送光ファイバ200の2つの光学軸のうちx軸で伝搬する。
【0103】
その後、光は、再び送光ファイバ200を伝播して位相変調子105に挿入するが、位相変調子105では、位相変調子105内を伝播する光のx成分に相対的に位相差φ´だけ位相変調を与える。ここで時刻t=τ2に位相変調を受けるとすると、位相差φ´は、下記[数11]で表される。
【0104】
[数11]

【0105】
この場合の位相変調子105内の挙動をジョーンズ行列で表記すると、[数12]の通りとなる。
【0106】
[数12]

【0107】
そして、位相変調子105を通過した光は、光学フィルタ104へ入射される。また、位相変調子105と偏光子の光学軸は45°回転させて接続しているので(入射方位角で−45°回転させることに相当)、この効果をジョーンズ行列で表記すると上記[数3]となる。
【0108】
そのため、位相変調子105と偏光子の光学軸が45°回転させて接続された点を通過した後、位相変調子105内を伝播していた2つの直線偏光が合波されて干渉する。なお、偏光子では、入射光のx成分のみ通過させるので、当該偏光子のジョーンズ行列Lpは上記[数2]と同様である。
【0109】
そして、光学フィルタ104を通過した光は、再度、ファイバカプラ103を通過して2つの光に分岐され、その一方が検出器106で検出される。すなわち、検出器106では、ファイバカプラ103により分岐された2つの光のうちの一方を検出する。ここで、検出器106に入射する光の電界成分をEoutとすると、EinとEoutの関係は下記[数13]の通りである。
【0110】
[数13]

【0111】
なお、検出器106では、検出された光の光量が測定されるため、検出光量をPoutとすると、光量は電界の2乗に比例するため、[数14]のように定義することができる。
【0112】
[数14]

【0113】
そして、検出器106により検出された光量Poutを、同期検波回路107において、位相変調角周波数ωmで同期検波する。ここで、位相変調角周波数ωmの高調波で、検出された光量Poutを展開すると、[数15]の通りとなる。
【0114】
[数15]

【0115】
、P、P、P、P、P、Pは、Poutを変調角周波数ωmで同期検波した際の0次、1次、2次、3次、4次、5次、6次の高調波の振幅を示し、それぞれ下記[数16]〜[数22]の通りとなる。
【0116】
[数16]

[数17]

[数18]

[数19]

[数20]

[数21]

[数22]

なお、Jnはn次のベッセル関数であり、R=2δsinωmαと置く。
【0117】
ここで、計算に当たっては、t0=t−(τ2+τ1)/2、α=(τ2−τ1)/2と置き、以下の関係式である[数23]及び[数24]を利用する。
【0118】
[数23]

[数24]

【0119】
αはファラデー素子であるファイバを伝播する2つの円偏光が位相変調子で位相変調を受ける時間の時間差で規定される光学光路長Loptを用いて、下記[数25」で表すことができる。
【0120】
[数25]

【0121】
なお、図1のサニャック干渉型光電流センサの場合、位相変調子105の印加点から鏡までの光伝播長さをL、ファイバの屈折率をnsとするとLopt=2・ns・Lとなる。ここで、cは光速である。よって、αは光学光路長を決定すると一義的に決まるシステムパラメータである。
【0122】
次に、このように同期検波回路107により位相変調角周波数ωmで同期検波された2次高調波の振幅と4次高調波の振幅の絶対値を、位相変調子駆動回路108が、両振幅を同じ大きさになるように、すなわち、|P|=|P|となるようにフィードバック制御する。なお、フィードバック制御は、位相変調深度δを調整して、|P|=|P|となるようにする。そして、演算回路109は、3次高調波の振幅Pを測定電流に対応した出力として用いる。
【0123】
ここで、位相変調子駆動回路108において、|P|=|P|となるようにフィードバック制御するのは、図3のように、2次、3次、4次のベッセル関数において2次と4次のベッセル関数の値が同じ時、3次が極大となるためである。すなわち、|P|=|P|の時、|P|が極大となり、ノイズの影響を受けにくい安定した出力を得ることができるからである。
【0124】
また、位相変調子の変調効率が変化しても2次高調波Pと4次高調波Pの振幅を同じ大きさになるように位相変調深度を制御することで、実際に印加される位相変調を一定にすることができる。
【0125】
ここで、光源発光光量や光学回路系の光伝送損失が変化した場合、検出器106で検出される光量は通常変化する。そのため、検出光量に依存しない出力とすべく、演算回路109の規格化手段109aは、図4で示されるように検出器106で検出される光量Poutの波高値でPを規格化する。
【0126】
規格化手段109aによるPの規格化の方法については、他に、検出器106で検出される光量Poutの電気信号に適当な時定数の低域通過フィルタを施すことで、Poutを平均化してPを規格化する方法もあるが、この場合、光学系のビジビリティが悪く、光学素子からの戻り光が多いような場合、検出される光量にDC的なノイズ光が重畳しているため、規格化する際の誤差となってしまい適切ではない。また、別の方法として、検出された光量Poutの電気信号に適当な時定数のDCカットフィルタ(高域通過フィルタ)を施すことで、検出された光量PoutのDC成分を取り除き、半波整流したものを平均化した値でPを規格化することも可能である。
【0127】
そして、このように検出された検出光量Poutの信号で規格化されたPの大きさは、上記[数19]のように、sin4θfに比例した出力となり、演算回路109では、この規格されたPに対してアークサイン補正を実施した後、電流対応出力として出力する。
【0128】
[1.2.2.3次高調波に対する規格化]
ここで、演算回路109の規格化手段109aによる3次元高調波であるPに対する規格化について、図5を参照して具体的に説明する。なお、以下では、実用上の課題を含め、当該課題を解決すべき演算回路109の規格化手段109aによる規格化態様を詳述する。
【0129】
まず、実用上、センサヘッド部300と信号処理ユニット100は、図1中の送光ファイバ200のA点部分で分離し、後にA点部分を基準に接続してる。というのも、一般的に、センサヘッド部300と信号処理ユニット100はそれぞれ設置される場所が離れており、当該センサヘッド部300と信号処理ユニット100が送光ファイバ200で繋がった状態では施工性が悪いからである。
【0130】
そのため、センサヘッド部300と信号処理ユニット100を図1のA点で分離し、それぞれの施工が終了した時点でA点の送光ファイバ200(偏波面保持ファイバ)同士を融着接続したり、光コネクタ接続したりすることで利便性を確保する。
【0131】
しかしながら、上記のような接続の場合、接続時の送光ファイバ200(偏波面保持ファイバ)同士の光学軸の軸ズレが問題となる。融着接続の場合、送光ファイバ200(偏波面保持ファイバ)同士の光学軸の軸ズレは、比較的小さな軸ズレでコントロールできるようになってきているが、融着接続には専用の融着接続機が必要であり、実際には有限な光学軸の軸ズレが残存する。
【0132】
以上のことから、偏波面保持ファイバ同士の接続において、光学軸の軸ズレが生じても光電流センサの出力が安定で、かつ、偏波面保持ファイバの接続が比較的容易である光コネクタを利用しても、高精度の電流測定が実現できるサニャック干渉型光電流センサが望まれる。
【0133】
ここで、一般的な偏波面保持ファイバ用の光コネクタは、機械的接続のため、その光学軸の軸ズレの値は、良品でも±1°程度発生する。この光学軸の軸ズレは、光コネクタ接続時に生じるが、温度変化や振動などが光コネクタに加わった場合にも、機械的な接続のため、光学軸の軸ズレが生じ得る。
【0134】
ここで、送光ファイバ200(偏波面保持ファイバ)同士の光学軸の軸ズレが生じた場合、偏波面保持ファイバの2つの光学軸を伝播する光の間にクロストークが発生して、消光比が悪化し、結果として光電流センサとしての感度に変化が生じることは明らかであるが、高精度な光電流センサを構成するにあたり、送光ファイバ200(偏波面保持ファイバ)部分の光コネクタ化にはこれまで困難を要していた。
【0135】
なお、図1のA点で偏波面保持ファイバ間に光学軸の軸ズレが起こったと仮定し、その場合の光の挙動を解析した結果を以下に説明する。
【0136】
特に、図1のA点で光コネクタ化することを想定し、光コネクタで接続した場合には、角度θcだけ、接続点で偏波面保持ファイバ同士の光学軸の軸ズレが生じるとする(A点で角度θcだけ光学軸が回転して偏波面保持ファイバ同士が接続されており、入射方位角で−θc回転させることに相当)。この場合、A点での光の挙動を表すジョーンズ行列は、下記[数26]で表される。
【0137】
[数26]

【0138】
ここで、θcの変化は、偏波面保持ファイバ同士間(位相変調子と1/4波長板の間)の消光比γの変化と等価であり、γ=tan2θc(|θc|≦45°)の関係がある。よって、θcが増加すれば、消光比γが増加(悪化)することになる。
【0139】
すなわち、光源から出射した光の電界成分を上記[数1]と置くと、検出器106に到達する光の電界成分Eoutは、下記[数27]で表される。
【0140】
[数27]

【0141】
よって、検出器106で検出される光の検出光量Poutは、下記[数28]となる。
【0142】
[数28]

【0143】
そして、検出器106により検出された光量Poutは、上述した通り、同期検波回路107にて位相変調角周波数ωmで同期検波されるので、位相変調角周波数ωmの高調波で検出された光量Poutを展開すると下記[数29]の通りとなる。
【0144】
[数29]

【0145】
ここで、P、P、P、P、P、P、Pは、Poutを変調角周波数ωmで同期検波した際の0次、1次、2次、3次、4次、5次、6次の高調波の振幅を表し、それぞれ、下記[数30]〜[36]の通りである。
【0146】
[数30]

[数31]

[数32]

[数33]

[数34]

[数35]

[数36]

ここで、Jnはn次のベッセル関数であり、R=2δsinωmα、R´=2δcosωmαと置く。
【0147】
なお、このような計算に当たっては、t0=t−(τ2+τ1)/2、α=(τ2−τ1)/2と置き、上記[数23]及び[数24]に加え、下記[数37]の関係を利用した。
【0148】
[数37]

【0149】
θc=0の理想的な場合(偏波面保持ファイバ同士の光学軸の軸ズレが無い場合)には、[数28]式から[数36]式の[ ]の部分が除かれた式となり、[数14]式から[数22]式と同じになる。
【0150】
ここで、本実施形態に係るサニャック干渉型光電流センサでは、上述した通り、|P|=|P|となるようにフィードバック制御し、3次高調波の振幅Pを測定電流に対応した出力として用いている。
【0151】
しかしながら、以上のような分析結果を考慮すれば、θc=10°と大きな値の場合、[数29]式から計算されるPoutは図5に示すように波形が歪になり、検出光量Poutの波高値を利用してPを規格化する場合や、検出された光量PoutのDC成分を取り除いて半波整流したものの値でPを規格化する場合の規格化の誤差は大きくなってしまう。その結果、規格化されたPにアークサインの補正を施してもθf、すなわち測定電流Iとの直線性が悪くなってしまうといった問題が生じる。
【0152】
さらに、[数33]式から分かるように3次高調波の振幅Pは、偏波面保持ファイバ同士の光学軸の軸ズレ角度θcに依存した出力となっているため、θcによって光電流センサの出力が変化してしまう。すなわち、上記をまとめると、以下の2つの点が問題として挙がる。
【0153】
(1)Poutの波形が歪になり、Poutを利用したPの規格化ではθfとの直線性が悪くなる。
(2)θcの大きさにより光電流センサの出力が変化してしまう。
【0154】
そこで、本作用では、このような問題を解決するために、演算回路109の規格化手段109aにおいて、Pを、|P|、|P|、|P|と|P|の和、又は|P|で除算することにより規格化する。なお、第1の実施形態に係るサニャック干渉型光電流センサでは、|P|=|P|となるように、フィードバック制御しているため、Pを|P|で規格化することと、Pを|P|で規格化することとは等価である。
【0155】
また、Pを|P|と|P|の和で規格化することも、Pを|P|又は|P|で規格化することと実質的に等価であり、特に、フィードバック調整時の|P|と|P|の僅かな値のズレを平均化する意味においてはより適切な規格化方法である。なお、Pを|P|と|P|の和での規格化することは、Pを|P|又は|P|で規格化することと等価であるとして説明は割愛する。
【0156】
ここで、以下において、演算回路109の規格化手段109aが、Pを、|P|、|P|、|P|と|P|の和、又は|P|により規格化する理由を説明する。
【0157】
まず、上記[数29]〜[数36]から明らかなように、電流が流れていない、すなわちθf=0の場合、検出器106で検出された光を同期検波回路107により変調角周波数で同期検波した際の奇数次高調波は、値が「0」となり、偶数次高調波のみが検出される。そのため、偶数次高調波は検出光量の大きさを反映した信号であると言え、また、偶数次の高調波の中では、0次を除いて、PとPが最も振幅の絶対値が大きい高調波となるので、より高次の偶数次高調波と比較し、Pの規格化に有効な信号であると言える。
【0158】
加えて、PとPのθcの影響度合い(変化割合)は、Pのθcの影響度合い(変化割合)とほぼ同等レベルであるため、Pを、|P|又は|P|で規格化することはθcの変化に対してより安定的な規格化であると言える。なお、光学系の光伝送損失の変化や光源発光光量の変化に伴う検出光量の変化は、変調角周波数で同期検波した高調波信号の全ての成分に対して同じ割合で作用するため、上記の規格化方法で得られた規格化値は、検出光量変動の影響を受けない値となる。
【0159】
一方で、0次成分も検出光量を反映した値であるが、DC的な成分となり光学系のビジビリティが悪く、光学素子からの戻り光が多いような場合には、検出される光量にDC的なノイズ光が重畳するため、規格化する際の誤差となり適切でない。
【0160】
また、6次高調波Pは、Pの規格化に有効な信号であり利用可能であるが、8次以上の偶数次高調波は、2次、4次、6次の偶数次高調波と比較して振幅が小さく、ノイズの影響をより受けやすい。加えて、8次以上の偶数次高調波は、消光比変化が大きく、被測定電流の値が大きい場合、極性が反転することがあるため適切ではない。なお、6次高調波PについてもPの規格化に有効な信号ではあるが、2次高調波P、4次高調波Pと同じように考えることとし、説明は割愛する。
【0161】
[1.2.3.アークタンジェント補正]
次に、上記のように規格された高調波の出力に対して、演算回路109の補正手段109bがアークタンジェントの補正を実施する態様について、図6〜8を参照して以下に説明する。
【0162】
まず、θc=0の理想的な場合には、Pを|P|又は|P|で規格化した出力はtan4θfに比例した出力となる。そのため、演算回路109の補正手段109bは、このtan4θfに比例した出力に対してアークタンジェントの補正を実施する。これにより、θfが大きい条件である大電流測定の場合においても高精度な出力を得ることが可能となる。
【0163】
具体的には、まず、θc=0の場合、検出器106で検出された光は上記[数15]式から[数22]式に従うため、|P|=|P|の条件の下、Pを|P|又は|P|で規格化した電流対応出力P´は、下記[数38]及び[数39]で表される。
【0164】
[数38]

[数39]

【0165】
ここで、kは次の[数40]で表される。
【0166】
[数40]

【0167】
この[数40]より、kは、θfによらず、|P|=|P|の条件の下で、一意に決まる定数であり、k≒1.4である(図3を参照)。そのため、下記[数41]及び[数42]のように置くと、下記[数43]及び[数44]が成立する。
【0168】
[数41]

[数42]

【0169】
[数43]

[数44]

【0170】
このことから、演算回路109の補正手段109bは、P´を定数kで割り付けた電流対応出力Pkにアークタンジェント(逆正接)の補正を施すことでθf、すなわち電流Iに比例した出力を得ることができる(上記[数7]を参照)。また、被測定電流Iが小さな領域(θf≪1)では、θf≒Pk/4 の近似が成り立つので、アークタンジェントの補正は、被測定電流Iが大きな領域でのサニャック干渉型光電流センサの測定精度を改善することができる。
【0171】
一方、θc≠0の場合には、検出器106で検出された光が上記[数29]から[数36]に従うため、|P|=|P|の条件でθc=0の時と同様に、P´を定数k≒1.4で割り付けた電流対応出力Pkは、上記[数38]及び[数41]より、下記[数45]及び[数46]の通りとなる。
【0172】
[数45]

[数46]

【0173】
ここで、θcに対するPとP及びPの変化の割合は、ほぼ同じであるため、図6に示す通り、Pkとtan4θfとの関係は良い直線性を示している。そのため、Pを|P|又は|P|で規格化した値を電流対応出力として用いることは、θf、すなわち、測定電流との直線性の悪化を抑制する上で有効である。
【0174】
しかしながら、図6に示されるようにθc≠0の場合、θcの大きさにより、Pkの変動が生じることが分かるため(tan4θfに対するPkの比例係数変化に相当)、[数45]又は[数46]で得られたPkに対して、演算回路109の補正手段109bによりアークタンジェントの補正を行っても、少なからず誤差が発生する。なお、Pを|P|又は|P|で規格化した値であるPkは、tan4θfと良い直線性を示すことから、θ≠0の場合でも、θcが小さい値又は一定であれば、図1のA点を接続した後の光電流センサ毎に4θf≪1を満足する電流で較正することにより高精度な測定を実現できるが、そのような較正は実用的ではない。
【0175】
ここで、図6に示すとおり、θcの大きさにより、tan4θfに対するPkの比例係数変化k´が僅かに変化しているので(θc=0の理想的な場合、k´=1)、tan4θf、Pk、k´は、下記[数47]のように関連付けられる。
【0176】
[数47]

【0177】
従って、θcの大きさが分かり、θcによるk´の変化が分かれば、[数47]を補正することができる。そのため、上記[数32]及び[数34]と[数36]を比較すると、θcに対する変化の割合がベッセル関数の値分、異なっていることが分かり、演算回路109の補正手段109bを通じて、|P|又は|P|を|P|で割り付けた値を用いれば、θcの大きさが推定可能である。ここで、偶数次高調波についてのみ着目しているのは、偶数次高調波はθf=0の場合でも出力が「0」とならないからである。
【0178】
なお、上記では、θcの大きさを知る手がかりとして|P|又は|P|を|P|で割り付けた値を用いているが、他のより高次の偶数次高調波同士もベッセル関数分、θcに対する変化の割合が異なるため、同様に利用することができる。但し、8次以上の偶数次高調波は、2次、4次、6次の偶数次高調波と比較して振幅が小さく、ノイズの影響をより受け易く、また、消光比変化が大きく、被測定電流の値が大きい場合には極性が反転することがあるので適用しない。
【0179】
従って、|P|、|P|、|P|を用いてθcの大きさを推定する方がより精度が向上するため、|P|又は|P|を|P|で割り付けた値をηとすると、当該ηは、下記[数48]の通り表すことができる。
【0180】
[数48]

【0181】
ここで、ηは、上記[数32]、[数34]、[数36]から明らかなように|P|=|P| の条件下においてθcとθfの関数となる。しかしながら、θcが小さい値又は一定であれば、4θf≪1なるθfに対して、[数48]で定義されるηはほとんど変化しないので、近似的にηは、θcの関数であると把握される。
【0182】
すなわち、θf=0の場合、|P|=|P|の条件の下、上記[数32]、[数34]、[数36]及び[数48]から、ηは次式のように表される。
【0183】
[数49]

[数50]

【0184】
このように、[数49]及び[数50]により計算されたθcとηの関係は、図7に示す通りである。図7によれば、θcによって一意にηが定まり、当該ηを測定することで近似的にθcの大きさを知ることが可能となる。このように、ηから近似的にθcを知ることができるので、次に、θcと相関のあるk´についてηとの関係を評価する。まず、k´は、上記[数47]式より下記のように定義することができる。
【0185】
[数51]

【0186】
そして、|P|=|P|の条件の下、4θf≪1を満足する「0」ではない一定値のθfについて、この[数51]を用いてk´を求め、また、[数48]を用いてηを求めることで、互いの関係を評価した結果が図8である。なお、この評価に当たっては4θf=1.0405E−05(rad)と置いている。
【0187】
図8に示す通り、[数48]で定義されるηを用いると、k´を近似的に一意に決めることができ、補正はηに関して3次の補正で十分であることが分かる。なお、評価されたk´は、ηを用いて下記[数52]のように表される。
【0188】
[数52]

【0189】
以上の通り、|P|=|P|の条件の下、[数47]及び[数52]からθfを近似すると下記[数53]のようになる。
【0190】
[数53]

【0191】
ここで、anは定数であり、a0=5.354×10-1、a1=2.352×10-1、a2=−4.137×10-2、a3=2.578×10-3 となる。
【0192】
また、Pkは、下記[数54]で表され、ηは、上記[数48]で表される。
【0193】
[数54]

【0194】
従って、P、P、P、Pの4つの高調波を利用することで、[数53]に基づき、最終的に出力したい測定電流値Iに比例したθfを得ることができる。これにより、[数53]で、偏波面保持ファイバ同士の光学軸の軸ズレ角度が小さい場合又は一定の場合(消光比の値が小さい場合、又は一定の場合)において、被測定電流Iが小さな領域(θf≪1)では、θf≒Pk/4の近似が成り立ち、被測定電流Iが大きな領域ではアークタンジェントの補正を施すことでサニャック干渉型光電流センサの測定精度を改善することができる。
【0195】
[1.2.4.θcに対するθf比誤差の関係]
次に、上記[数53]による近似がどの程度高精度に行われているかを示すために、比誤差を下記[数55]のように置くことにより、図1のA点における偏波面保持ファイバ同士の角度ズレθcに対するθfと比誤差の関係を図9から図12に示す。
【0196】
[数55]

【0197】
図9から図12に示す通り、上記[数53]で示した近似式は、高精度な近似を実現でき、θc=0°〜10°の範囲で、θf<0.06(rad)の電流を精度0.1%以内で近似することが可能となる。すなわち、当該[数53]に従って、補正手段109bにより光電流センサの出力を補正することで、高精度な電流測定を実現することができる。
【0198】
ちなみに、図1の光源に波長830nmのSLDを用い、センサファイバに石英ファイバを用いた場合、石英のベルデ定数Vは、V=2.6×10-6(rad/A)であるため、センサファイバの巻数nを1巻とすると、θf<0.06(rad)なる大きさは、電流値で23kA以下に相当する。
【0199】
[1.3.効果]
以上のような第1の実施形態によれば、検出器106で検出される光量を変調角周波数で同期検波した際の2次高調波、4次高調波の振幅が同じになるように位相変調深度を制御し、3次高調波の振幅を2次高調波又は4次高調波又は2次高調波と4次高調波の和で規格化したものに対して、2次高調波の振幅又は4次高調波の振幅を6次高調波の振幅で割り付けた値で補正を加え、さらに、アークタンジェント補正を加えた出力をサニャック干渉型光電流センサの出力として用いることができるので、センサヘッド部300と信号処理ユニット100をつなぐ送光ファイバ200の消光比が悪化する場合であっても、高精度な電流測定が可能な光電流センサを提供することが可能となる。
【0200】
[1.4.他の態様]
なお、第1の実施形態では、使用される光分岐手段であるファイバカプラ103やデポラライザ104b、偏光子104a、1/4波長板301といった光学素子には光学結晶素子を使用し、導波路(光伝播路)としては、ファイバを用いずに、空間を伝播させても構わない。例えば、光分岐手段にはビームスプリッター、偏光子104aには、グランドトムソンプリズムなどを利用することが可能である。
【0201】
加えて、センサファイバ302の代わりにファラデー素子である鉛ガラスの結晶やファイバ、石英結晶を用いることもできる。
【0202】
また、上記において、電流対応出力として奇数次高調波は3次高調波を考えたが、他の奇数次高調波を用いても同様な考え方で規格化が可能である。また、電流対応出力として考えた3次高調波の規格化には、偶数次高調波として、2次、4次の高調波、規格化出力の補正には、2次、4次、6次の高調波を考えたが、より高次の偶数次高調波を用いても同様な考え方で補正が可能である。
【0203】
なお、図8では、|θc|=≦10°の範囲で、ηとk´の関係を求めたが、想定されるθcの変化が小さな場合には、その範囲で、ηとk´の関係を求めれば、よりηによるk´の近似の精度が向上する。また、近似の次数も3次である必要はなく、より高次の次数の方が近似の精度は向上する。
【0204】
[2.第2の実施形態]
[2.1.構成]
次に、本発明の第2の実施形態に係るサニャック干渉型光電流センサの構成について、図13〜18を参照して以下に説明する。ここで、第2の実施形態では、位相変調子駆動回路108以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、省略し同じ符号を付すものとする。
【0205】
また、第2の実施形態では、図18に示す通り、位相変調子駆動回路108において、位相変調深度δを制御することにより、常にPを「0」とする点に特徴を有し、具体的な制御態様については[2.2.作用]の項目にて詳述する。
【0206】
[2.2.作用]
[2.2.1.位相変調制御]
次に、位相変調子駆動回路108におけるPを「0」にするための、位相変調深度δの制御態様について以下に説明する。なお、第1の実施形態と同様に、光の挙動の説明に関してはジョーンズ行列を利用するものとする。
【0207】
まず、1次高調波を表す上記[数31]において、常にPを「0」とするためには、図1のA点の偏波面保持ファイバ同士の光学軸の軸ズレ角度θcに関係なく、J1(R)を「0」とする必要がある。ここで、J1(R)は、R=2δsinωαによって決まっており、ωαは、[数25]より、ファラデー素子を伝播する2つの円偏光が位相変調子で位相変調を受ける時間の時間差で規定される光学光路長(Lopt)と位相変調角周波数(ωm)との積を2倍の光速(2c)で割った値となる(ωmα=ωmopt/2c)。よって、位相変調角周波数ωmを決めると、ωmαは一意に決まる固定値(一定値)となる。
【0208】
以上から、常にPを「0」とするためには、位相変調子駆動回路108において、位相変調深度δを制御して、常にJ1(R)で制御する必要がある。言い換えると、常にPを「0」で制御することで、一定の位相変調深度δを位相変調子に与えるように制御することになる。
【0209】
そのため、Pを「0」に制御することで、位相変調子105の位相変調効率が、温度変化や経年劣化によって変化しても、実際に印加される光の位相変調を一定にすることができる。従って、[数28]から[数36]のように実際に光に印加される位相変調深度δが変化するとサニャック干渉型光電流センサの出力が変動するが、Pを「0」に制御することで、位相変調効率が変化しても、サニャック干渉型光電流センサの出力変動は抑制される。
【0210】
ちなみに、Pを「0」に制御するには、R=2δsinωmα≒3.83となるように、位相変調深度δを制御することで実現できる。
【0211】
さらに、上記の通り、位相変調子駆動回路108では、Pを「0」となるように制御しているため、電流対応出力として利用できる奇数次高調波は3次以上となり、特に、3次高調波Pの振幅が最も大きいため、このPを電流対応出力とすることでノイズの影響を受け難くすることが可能となる。
【0212】
[2.2.2.規格化・補正]
次に、Pを「0」となるように制御した時の3次高調波Pに対して、第1の実施形態と同様に、演算回路109の規格化手段109a及び補正手段109bを介して、2次高調波、4次高調波、6次高調波の振幅で割り付ける規格化、並びに、アークタンジェントを含む補正を実施する態様を説明する。
【0213】
まず、Pを「0」となるように制御した時の3次高調波Pを、第1の実施形態と同様に、|P|、|P|、又は|P|で規格化する。これにより、サニャック干渉型光電流センサの光学系の光伝送損失の変化や光源発光光量の変化等に伴う検出光量の変化の影響を受けないθcの変化に対しても安定した規格化値を得ることができる。
【0214】
具体的には、θc=0の場合、検出器で検出された光は[数15]から[数22]に従う。P=0の条件で、Pを|P|で規格化した電流対応出力P´は、[数38]と同様に下記[数56]や[数57]により表される。
【0215】
なお、4次高調波、6次高調波を用いた規格化も同様な考えで行えば良いので、説明は割愛する。また、8次以上の偶数次高調波は、2次、4次、6次の偶数次高調波と比較して振幅が小さく、ノイズの影響をより受け易い。加えて、8次以上の偶数次高調波は消光比変化が大きく、被測定電流の値が大きい場合には極性が反転することがあるため、適用しない。
【0216】
[数56]

[数57]

【0217】
ここで、kは次式で表される。
【0218】
[数58]

【0219】
[数58]より、kは、θfによらず、P=0の条件の下で一意に決まる定数であり、k≒1.044となる(図3を参照)。
【0220】
よって、Pkを下記[数59]及び[数60]と置くことで、θfは下記[数61]及び[数62]のように表される。
【0221】
[数59]

[数60]

【0222】
[数61]

[数62]

【0223】
この[数61]及び[数62]の通り、P´を定数kで割り付けた電流対応出力Pkに対して、アークタンジェント(逆正接)の補正を施すことでθf、すなわち電流Iに比例した出力を得ることができる([数7]を参照)。つまり、アークタンジェントの補正は、被測定電流Iが大きな領域でのサニャック干渉型光電流センサの測定精度を改善する。なお、被測定電流Iが小さな領域(θf≪1)では、θf≒Pk/4 の近似が成り立つ。
【0224】
次に、θc≠0の場合、検出器で検出された光は、[数29]から[数36]に従い、P=0の条件で、θc=0の時と同様にP´を定数k≒1.044で割り付けた電流対応出力Pkは、[数56]及び[数59]から、下記[数63]の通りとなる。
【0225】
[数63]

【0226】
ここで、θcに対するPとPの変化の割合は同程度であるため、Pkとtan4θfとの間は良い直線性を示している(図13を参照)。
【0227】
以上から、Pを|P|で規格化した値を電流対応出力として用いることは、θf、すなわち、測定電流との直線性の悪化を抑制する上で有効であることが分かる。
【0228】
しかしながら、図13に示されるようにθc≠0の場合、θcの大きさによりPkの変動が生じることが分かる(tan4θfに対するPkの比例係数変化に相当)。そのため、[数63]で得られたPkにアークタンジェントの補正を行っても、少なからず誤差が発生することになる。
【0229】
なお、Pを|P|で規格化した値であるPkは、tan4θfと良い直線性を示すことから、θc≠0の場合でも、θcが小さい値又は一定であれば、図1のA点を接続した後の光電流センサ毎に4θf≪1を満足する電流で較正することにより高精度な測定を実現できるが、そのような較正は実用的ではない。
【0230】
ここで、図13に示す通り、θcの大きさにより、tan4θfに対するPkの比例係数変化k´が僅かに変化しているので(θc=0の理想的な場合、k´=1)、tan4θf、Pk、k´は、下記[数64]のように関連付けられる。
【0231】
[数64]

【0232】
従って、θcの大きさが分かり、θcによるk´の変化が分かれば、[数64]を補正することが可能となる。そのため、上記[数32]及び[数34]と[数36]を比較すると、θcに対する変化の割合がベッセル関数の値分、異なっていることが分かり、|P|を|P|で割り付けた値を用いれば、θcの大きさを推定することができる。
【0233】
ここで、偶数次高調波についてのみ着目しているのは、偶数次高調波はθf=0の場合でも出力が「0」とならないからである。なお、上記では、θcの大きさを知る手がかりとして|P|を|P|で割り付けた値を用いているが、0次を除く他の高次の偶数次高調波同士もベッセル関数分、θcに対する変化の割合が異なるため、同様に利用することができる。
【0234】
但し、8次以上の偶数次高調波は、2次、4次、6次の偶数次高調波と比較して振幅が小さく、ノイズの影響をより受け易く、また、消光比変化が大きく、被測定電流の値が大きい場合には極性が反転することがあるので適用しない。
【0235】
従って、|P|、|P|、|P|を用いてθcの大きさを推定する方がより精度が向上するため、|P|を|P|で割り付けた値をηとすると、当該ηは、下記[数65]の通り表すことができる。
【0236】
[数65]

【0237】
ここで、ηは、上記[数32]、[数36]から明らかなようにP=0の条件下においてθcとθfの関数となる。しかしながら、θcが小さい値又は一定であれば、4θf≪1なるθfに対して、[数65]式で定義されるηはほとんど変化しないので、近似的にηは、θcの関数であると把握される。
【0238】
よって、4θf≪1なる任意のθfに対して、ηのθcの挙動を評価し、θcによって、一意にηが定まれば、ηを測定することで近似的にθcの大きさを知ることができる。すなわち、θf=0の場合、P=0の条件の下、上記[数32]、[数36]及び[数65]から、ηは次式のように表される。
【0239】
[数66]

【0240】
このように、[数66]から計算されたθcとηの関係は、図14に示す通りである。図14によれば、θcによって一意にηが定まり、当該ηを測定することで近似的にθcの大きさを知ることが可能となる。このように、ηから近似的にθcを知ることができるので、次に、θcと相関のあるk´についてηとの関係を評価する。まず、k´は、上記[数64]式より下記のように定義することができる。
【0241】
[数67]

【0242】
そして、P=0の条件の下、4θf≪1を満足する「0」ではない一定値のθfについて、この[数67]を用いてk´を求め、また、[数65]を用いてηを求めることで、互いの関係を評価した結果が図15である。なお、この評価に当たっては4θf=1.0405E−05(rad)と置いている。
【0243】
図15に示す通り、[数65]で定義されるηを用いると、k´を近似的に一意に決めることができ、補正はηに関して1次の補正で十分であることが分かる。なお、評価されたk´は、ηを用いて下記[数68]のように表される。
【0244】
[数68]

【0245】
以上の通り、P=0の条件の下、[数64]及び[数68]からθfを近似すると下記[数69]のようになる。
【0246】
[数69]

【0247】
ここで、anは定数であり、a0=−8.000×10-2、a1=1.070×10-1となる。
【0248】
また、Pkは、下記[数70]で表され、ηは、上記[数65]で表される。
【0249】
[数70]

【0250】
従って、P、P、Pの3つの高調波を利用することで、[数69]に基づき、最終的に出力したい測定電流値Iに比例したθfを得ることができる。これにより、[数69]で、偏波面保持ファイバ同士の光学軸の軸ズレ角度が小さい場合、又は一定の場合(消光比の値が小さい場合、又は一定の場合)は、被測定電流Iが小さな領域(θf≪1)では、θf≒Pk/4の近似が成り立ち、被測定電流Iが大きな領域では、アークタンジェントの補正を施すことでサニャック干渉型光電流センサの測定精度を改善することができる。
【0251】
[2.2.3.θcに対するθfと比誤差の関係]
次に、上記[数69]による近似がどの程度高精度に近似できているかを示すために、比誤差を下記[数71]のように置くことにより、図1のA点における偏波面保持ファイバ同士の角度ズレθcに対するθfと比誤差の関係を図16及び17に示す。
【0252】
[数71]

【0253】
図16及び17に示す通り、上記[数69]で示した近似式は、高精度な近似を実現でき、θc=0°〜10°の範囲で、θf<0.06(rad)の電流を精度0.1%以内で近似することが可能となる。すなわち、当該[数69]に従って、補正手段109bにより光電流センサの出力を補正することで、高精度な電流測定を実現することができる。
【0254】
[2.3.効果]
以上のような第2の実施形態によれば、検出器106で検出される光量を変調角周波数で同期検波した際の1次高調波が0となるように位相変調深度を制御し、3次高調波の振幅を2次高調波又は4次高調波又は6次高調波の振幅で規格化したものに対して、2次高調波の振幅を6次高調波の振幅で割り付けた値(2次から6次次までの偶数次高調波のいずれか2つ以上の偶数次高調波を用いても同じ効果を得られる)で補正を加え、さらに、アークタンジェントの補正を加えた出力をサニャック干渉型光電流センサの出力として用いることができるので、センサヘッド部300と信号処理ユニット100をつなぐ送光ファイバ200の消光比が悪化しても、高精度な電流測定が可能な光電流センサを提供することが可能となる。
【0255】
[2.4.他の態様]
なお、上記では、電流対応出力として奇数次高調波は3次高調波を考えたが、他の奇数次高調波を用いても上記と同様な考え方で規格化が可能である。また、電流対応出力として考えた3次高調波の規格化には、偶数次高調波として、2次、4次の高調波、規格化出力の補正には、2次、4次、6次の高調波を考えたが、より高次の偶数次高調波を用いても上記と同様な考え方で補正が可能である。
【0256】
[3.第3の実施形態]
[3.1.構成]
次に、本発明の第3の実施形態に係るサニャック干渉型光電流センサの構成について、以下に説明する。ここで、第3の実施形態では、位相変調子駆動回路108以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、省略し同じ符号を付すものとする。
【0257】
第3の実施形態では、位相変調子駆動回路108において、後述するが、R=2δsinωmα≒3.83以外でP=0とならないように、R=2δsinωmαを、0よりは大きいが7より小さくするように制御する点に特徴を有し、具体的な制御態様は[3.2.作用]の項目にて説明する。
【0258】
[3.2.作用]
次に、第3の実施形態に係る位相変調子駆動回路108における位相変調子の制御態様について、従来からの課題を含め以下に説明する。
【0259】
第2の実施形態では、位相変調子駆動回路108において、P=0となるように制御したが、[数31]から明らかなように、被測定電流Iが0の時、すなわちθf=0の時、位相変調深度δの大きさに関係なくP=0となってしまう。そのため、位相変調深度δはどのような値をとっても良いことになり、P=0とする制御が暴走したり、加えて、位相変調深度δが極めて大きくなった場合には位相変調子105を破損する可能性がある。
【0260】
その理由は、位相変調子105として、ポッケルス素子や、円筒型圧電素子に光ファイバを巻き付けて構成されたものがあり、いずれもポッケルス素子や円筒型圧電素子に電圧を印加することで位相変調を発生させ、その印加電圧の大きさが位相変調深度δに比例するからである。加えて、θf≠0でもP=0となる条件は、R=2δsinωmα≒3.83以外にもある(図3を参照)。
【0261】
そのため、このような問題を解決するために、第3の実施形態では、位相変調子駆動回路108において、R=2δsinωmα≒3.83以外のP=0となる条件が成立しない範囲で、位相変調深度δを変化させる。具体的には、図3に示す通り、R=2δsinωmα≒3.83以外でP=0とならないようにするために、R=2δsinωmαを0より大きく、7より小さくするように制御する。
【0262】
ここで、ωmは、上述した[数25]より、ファラデー素子を伝播する2つの円偏光が位相変調子105で位相変調を受ける時間の時間差で規定される光学光路長(Lopt)と位相変調角周波数(ωm)との積を2倍の光速(2c)で割った値となる[ωmα=ωmopt/2c] 。そのため、位相変調角周波数ωmを決めると、ωmαは、一意に決まる固定値(一定値)となる。
【0263】
つまり、位相変調深度δのみでR=2δsinωmα≒3.83を制御することが可能であり、位相変調子駆動回路108において、R=2δsinωmα、すなわち、ファラデー素子を伝播する2つの円偏光が位相変調子105により位相変調を受ける時間差で規定される光学光路長と当該位相変調子105の位相変調角周波数との積を2倍の光速で割った値の正弦に対し、位相変調子105の位相変調深度δを掛けた値が、0より大きく、かつ7より小さな値となるよう制御する。
【0264】
[3.3.効果]
以上のような第3の実施形態によれば、ファラデー素子を伝播する2つの円偏光が位相変調子105により位相変調を受ける時間差で規定される光学光路長と当該位相変調子105の位相変調角周波数との積を2倍の光速で割った値の正弦に対し、位相変調子105の位相変調深度δを掛けた値が、0より大きく、かつ7より小さな値とするよう制御すれば、P=0とする制御が暴走したり、位相変調深度が極めて大きくなった場合の位相変調子105の破損等を抑制することができる。
【符号の説明】
【0265】
100…信号処理ユニット
101…光源駆動回路
102…光源
103…ファイバカプラ
104…光学フィルタ
104a…偏光子
104b…デポラライザ
105…位相変調子
106…検出器
107…同期検波回路
108…位相変調子駆動回路
109…演算回路
109a…規格化手段
109b…補正手段
200…送光ファイバ
300…センサヘッド部
301…1/4波長板
302…センサファイバ
303…鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相変調子の位相変調角周波数で検出光量信号を同期検波する同期検波回路と、前記同期検波回路で同期検波された信号を用いて被測定電流の大きさを演算して出力する演算回路と、前記位相変調子の駆動を制御する位相変調子駆動回路と、を有するサニャック干渉型光電流センサであって、
前記位相変調子駆動回路は、
前記検出光量信号を位相変調角周波数で同期検波した際の、当該信号の2次高調波の振幅と4次高調波の振幅が同じになるよう前記位相変調子の位相変調深度を制御することを特徴とするサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項2】
前記演算回路は、
前記位相変調子駆動回路により、前記2次及び4次高調波の振幅の絶対値が同じになるよう制御された信号の3次高調波の振幅を、2、4、6次の偶数次高調波の振幅のいずれか、又は2次と4次高調波の振幅の和で除算することで基準値を算出する規格化手段を有し、
前記規格化された前記基準値を被測定電流の大きさに比例した値として出力することを特徴とする請求項1に記載のサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項3】
位相変調子の位相変調角周波数で検出光量信号を同期検波する同期検波回路と、前記同期検波回路で同期検波された信号を用いて被測定電流の大きさを演算して出力する演算回路と、前記位相変調子の駆動を制御する位相変調子駆動回路と、を有するサニャック干渉型光電流センサであって、
前記位相変調子駆動回路は、
前記検出光量信号を位相変調角周波数で同期検波した際の、当該信号の1次高調波の振幅を0とするよう前記位相変調子を制御することを特徴とするサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項4】
前記演算回路は、
前記位相変調子駆動回路により、前記1次高調波の振幅を0とするよう制御された信号の3次高調波の振幅を、2、4、6次の偶数次高調波の振幅のいずれかで除算することで基準値を算出する規格化手段を有し、
前記規格化された前記基準値を被測定電流の大きさに比例した値として出力することを特徴とすることを特徴とする請求項3に記載のサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項5】
前記位相変調子駆動回路は、[数1]により算出される値を、0より大きく、かつ、7より小さくなるように前記位相変調深度を制御することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のサニャック干渉型光電流センサ。
[数1]

opt:前記位相変調子で位相変調を受ける時間差で規定される光学光路長
δ:位相変調深度
ωm:前記位相変調子の位相変調角周波数
c:光速
【請求項6】
前記演算回路は、
前記基準値に対して、2〜6次までの偶数次高調波の振幅のいずれか2つの比を用いることで補正を施す補正手段を有し、
前記補正手段により補正された補正値を被測定電流の大きさに比例した値として出力することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載のサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項7】
位相変調子の位相変調角周波数で検出光量信号を同期検波する同期検波回路と、前記同期検波回路で同期検波された信号を用いて被測定電流の大きさを演算して出力する演算回路と、前記位相変調子の駆動を制御する位相変調子駆動回路と、を有するサニャック干渉型光電流センサであって、
前記演算回路は、
前記検出光量信号を位相変調角周波数で同期検波した際の奇数次高調波の振幅のいずれかを、偶数次高調波の振幅のいずれかで除算することで基準値を算出する規格化手段と、
前記基準値に対して、2〜6次の偶数次高調波の振幅の何れか2つの比を用いることで補正を施す補正手段と、を有し、
前記補正手段により補正された補正値を被測定電流の大きさに比例した値として出力することを特徴とするサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項8】
前記演算回路は、
前記基準値に対して、逆正接の補正を実施する逆正接補正手段を有し、
前記逆正接補正手段により補正された値を被測定電流の大きさに比例した値として出力することを特徴とする請求項2又は請求項4に記載のサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項9】
前記演算回路は、
前記補正値に対して、逆正接の補正を実施する逆正接補正手段を有し、
前記逆正接補正手段により補正された値を被測定電流の大きさに比例した値として出力することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項10】
光源からの光を直線偏光に変換し、前記位相変調子と光学的に接続される光学フィルタを備え、
前記光学フィルタは、
偏波面保持ファイバからなる第1のリオ型デポラライザと、
前記位相変調子側に繋がる偏波面保持ファイバを用いて構成された偏光子と、を有し、
前記位相変調子は、位相変調子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバを有し、
この位相変調子と偏光子間を繋ぐ両者の前記偏波面保持ファイバにより第2のリオ型デポラライザが構成され、
前記第1のリオ型デポラライザと前記第2のリオ型デポラライザの全長比は、正の整数nを用いて1:2n又は2n:1であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のサニャック干渉型光電流センサ。
【請求項11】
光源からの光を直線偏光に変換し、前記位相変調子と光学的に接続される光学フィルタを備え、
前記光学フィルタは、
偏光子と、
前記偏光子の光源側に、当該偏光子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバである第1のリオ型デポラライザと、
前記偏光子の位相変調子側に、当該偏光子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバと、を有し、
前記位相変調子は、当該位相変調子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバを有し、
前記位相変調子と前記偏光子間で、当該位相変調子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた偏波面保持ファイバと、前記偏光子の位相変調子側に当該偏光子の光学軸を規定して光を伝播させることを目的に設けられた前記偏波面保持ファイバと、により第2のリオ型デポラライザが形成され、
前記第1のリオ型デポラライザと前記第2のリオ型デポラライザの全長比は、正の整数nを用いて1:2n又は2n:1であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のサニャック干渉型光電流センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−122948(P2011−122948A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281021(P2009−281021)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】