説明

サファイア単結晶の製造装置

【課題】結晶方位のずれに起因する結晶欠陥の発生を防止することができるサファイア単結晶の製造装置を提供する。
【解決手段】サファイア単結晶の製造装置1は、支持部材3によって支持されたルツボ20内に種子結晶および原料を収納し、育成炉10内の筒状ヒーター14内に該ルツボ20を配置して筒状ヒーター14により加熱して原料および種子結晶の一部を融解して結晶化させるサファイア単結晶の製造装置において、カップ状をなす前記ルツボ20における所定の外周位置を円環状に冷却する冷却手段を備える。前記冷却手段はルツボ20の突周部21と当該突周部21に対して円環状に面接触して当該ルツボ20を支持する支持部材3とを備えて構成され、ルツボ20の下面と支持部3とは離間するように配設される。この構成により、突周部21から支持部材3へ熱が移動し、ルツボ20における所定の外周位置を円環状に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア単結晶の製造装置に関し、さらに詳細には、一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイアは種々の用途に用いられているが、中でもLED製造用のサファイア基板としての用途が重要になってきている。すなわち、サファイア基板上にバッファー層および窒化ガリウム系被膜をエピタキシャルさせることにより、LED発光基板を得ることが主流となってきている。
そのため、サファイアを効率よく安定的に生産できるサファイア単結晶製造装置が求められている。
【0003】
LED製造用のサファイア基板は、ほとんどがc面方位(0001)の基板である。従来、工業的に採用されているサファイア単結晶の製造方法は、縁端限定成長(EFG)法、カイロポーラス(KP)法、チョクラルスキー(CZ)法等があるが、直径3インチ以上の結晶を得ようとすると種々の結晶欠陥が発生するため、a軸方位成長の単結晶を生産して代替している。a軸成長サファイア結晶からc軸サファイア結晶ブールを加工するためには、結晶を横方向から刳り抜く必要があり、加工が容易でないことに加え、利用できない部分が多く、収率が悪いという課題がある。
【0004】
酸化物単結晶の製造方法には、いわゆる垂直ブリッジマン法(垂直温度勾配凝固法)も知られている。この垂直ブリッジマン法の場合、生成した単結晶を容易に取り出せるように、薄肉のルツボを用いている。サファイアのような高融点融液からの単結晶を得るためには、薄肉であって且つ高温下で強度的、化学的に耐えられるルツボが必要となり、当該ルツボに関する従来技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−119297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に、垂直ブリッジマン法による単結晶製造装置によって、結晶欠陥の無いサファイア単結晶を得るためには、種子結晶の軸(c軸)の傾きを防止して、種子結晶の溶融・再結晶時に結晶方位のずれが発生しないようにすることが重要である。
【0007】
ここで、本願出願人において試作・検討を行ったサファイア単結晶の製造装置101(図6参照)を例に挙げて、一方向凝固法である垂直ブリッジマン法によるサファイア単結晶の製造工程について説明する(図7(a)〜図7(f)参照)。
当該サファイア単結晶の製造装置101は、冷却水が流通される筒状のジャケット112およびベース113によって密閉された空間内に、円筒ヒーター114および断熱部材116が配置されてホットゾーン118が形成される育成炉110を備える。また、種子結晶124と原料126が入れられるルツボ120は、駆動軸104によって上下動される構造である。
【0008】
サファイア単結晶の製造工程としては、先ず、ルツボ120内にはサファイアの種子結晶124と原料126が入れられる(図7(a))。
育成炉110の円筒ヒーター114で囲まれたホットゾーンは、サファイアの融点を跨いで、上部側が融点の温度以上、下部側が融点の温度以下の温度となるように温度制御されている(図7(f))。
サファイアの種子結晶124と原料126が入れられたルツボ120は、ホットゾーンを下部から上部側へと上昇させられ、原料126が融解し、種子結晶124の上部が融解した段階で上昇を停止され(図7(b))、次いでゆっくりと所要の下降速度で下降される(図7(c))。これにより種子結晶124の結晶面に沿って融液が徐々に結晶、析出する(図7(c)、(d))。
種子結晶124はc面が水平になるようにルツボ120中に配置され、融液はこのc面に沿って、すなわちc軸方向に成長する。
【0009】
結晶化後、同じ育成炉110内でアニール処理工程を実施することが好適である。より具体的には、円筒ヒーター114への出力を低下させて円筒ヒーター114内を所要温度(例えば1800[℃])にまで低下させると共に、ルツボ120を円筒ヒーター114中間部の他の部位よりも温度勾配の少ない均熱ゾーン128(図7(f))にまで上昇させて(図7(e))、この均熱ゾーン128に所要時間(例えば1時間)にわたって位置させて、そのままルツボ120内でサファイア単結晶のアニール処理を実施する。ただし、残留応力が少ない成長結晶の場合には、必ずしもアニール処理は必要ではない。
【0010】
なお、ルツボ120の形成材料として、特にタングステンを用いることによって、結晶化工程、および後述するアニール工程、および冷却工程において、ルツボ120の内壁面とサファイア単結晶の外壁面とが非接触の状態となる効果が得られる。これにより、サファイアに外部応力が加わらず、サファイアにクラックが発生するのを防止できる。また、結晶を取り出す際にも結晶とルツボ120内壁面との間に応力が加わってないため、結晶を取り出すことも支障なく行えると共に、ルツボ120も変形することなく繰り返し使用することができる。
【0011】
また、結晶化後、同じ育成炉110内においてそのままルツボ120内でアニール処理を行うことによって、アニール処理を手早く効率よく行うことができ、結晶内部の熱応力を除去して結晶欠陥の少ない高品質なサファイア単結晶を得ることができる。
【0012】
一例として、サファイア単結晶の製造装置101によって製造されたサファイア単結晶の写真(X線トポグラフ写真)を図8に示す。なお、図8(a)は平面視の写真であり、図8(b)は正面断面視の写真である。この写真から明らかなように、サファイア単結晶の製造装置101によれば、従来の製造装置で製造されるサファイア単結晶よりも結晶欠陥の少ないサファイア単結晶を製造することが可能となる。
しかしながら、同図8に示すサファイア単結晶において、その外周部近傍に、僅かに白色になっている部分(図中A部)が認められる。当該白色部分は、小傾角境界と呼ばれる結晶境界であって、中心部とは方位の異なる結晶が成長した部分であると考えられる。すなわち、小傾角境界は、いわゆる結晶欠陥に相当し、製品としてサファイア単結晶を得ようとする場合には削り取らなければならない部分であるため、その発生を防止することが要求される。
本願発明者らは、サファイア単結晶の製造装置を用いて製造されるサファイア単結晶において、小傾角境界が発生する原因の究明に取り組み、その究明を果たすと共に、小傾角境界のような結晶欠陥の発生を防止することができるサファイア単結晶の製造装置を案出するに至った。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、結晶方位のずれに起因する結晶欠陥の発生を防止することができるサファイア単結晶の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0015】
開示のサファイア単結晶の製造装置は、支持部材によって支持されたルツボ内に種子結晶および原料を収納し、育成炉内の筒状ヒーター内に該ルツボを配置して筒状ヒーターにより加熱して原料および種子結晶の一部を融解して結晶化させるサファイア単結晶の製造装置において、カップ状をなす前記ルツボにおける所定の外周位置を円環状に冷却する冷却手段を備えることを要件とする。
【発明の効果】
【0016】
開示のサファイア単結晶の製造装置によれば、結晶方位のずれに起因する結晶欠陥の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るサファイア単結晶の製造装置の例を示す概略図(正面断面図)である。
【図2】図1のサファイア単結晶の製造装置のルツボの例を示す概略図である。
【図3】図1のサファイア単結晶の製造装置の支持部材の例を示す概略図である。
【図4】図1のサファイア単結晶の製造装置により製造されたサファイア単結晶のX線トポグラフ写真である。
【図5】図1のサファイア単結晶の製造装置のルツボ部分における温度分布を示す等温線図である。
【図6】本願出願人が試作・検討を行ったサファイア単結晶の製造装置の構造を示す概略図(正面断面図)である。
【図7】垂直ブリッジマン法によるサファイア単結晶の製造工程を説明する説明図である。
【図8】図6のサファイア単結晶の製造装置により製造されたサファイア単結晶のX線トポグラフ写真である。
【図9】図6のサファイア単結晶の製造装置のルツボ部分における温度分布を示す等温線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1にサファイア単結晶の製造装置1の正面断面図(概略図)を示す。本実施形態に係るサファイア単結晶の製造装置1は、公知の垂直ブリッジマン法によってサファイア単結晶を製造する育成炉10を備える。その構造を簡単に説明すると、育成炉10は、冷却水が流通される筒状のジャケット12およびベース13によって密閉された空間内に、上下に長い筒状ヒーターが1個ないし複数個配設されて構成される。本実施の形態では1個の円筒ヒーター14を用いている。なお、育成炉10の寸法は、製造する単結晶の大きさによって当然異なるが、一例として、直径0.5[m]、高さ1[m]程度である。
【0019】
育成炉10内には、図示しないが開口部が2箇所設けられており、不活性ガス、好適にはアルゴンガスが給排され、結晶育成時には、育成炉10内は不活性ガスで満たされる。なお、図示しないが、育成炉10内には、炉内の温度を複数個所で計測する温度計が配設されている。
【0020】
円筒ヒーター14は、本実施の形態ではカーボンヒーターで形成され、制御部(図示せず)を通じて通電制御されて、温度調節がなされる。また、円筒ヒーター14の周りには断熱部材16が配置され、断熱部材16によって囲まれてホットゾーン18が形成される。円筒ヒーター14への通電量を制御することによって、ホットゾーン18内の上下方向に温度勾配を作ることができる。
【0021】
一例として、断熱部材16は、カーボンフェルトを用いて形成されている。カーボンフェルトの使用が可能となることによって、従来から断熱部材の材料として用いられているセラミック、ジルコニアを使用した場合に高温下で割れが生じるという課題を解決することが可能となる。
【0022】
図中の符号20はカップ状に形成されたルツボであり、駆動軸4の先端に固定された支持部材3によって支持されている。ルツボ20は、駆動軸4の上下動に伴って円筒ヒーター14内で上下動可能になっている。また、駆動軸4が軸線周りに回転することによって円筒ヒーター14内で回転可能になっている。
一方、駆動軸4は後述の冷却軸5に連結され、図示しないボールネジにより上下動される。これにより、ルツボ20は、上昇速度、下降速度を精密に制御されて上下動可能となっている。なお、育成炉10および底部の断熱部材16等には、駆動軸4を挿通させるための構造(貫通孔等)が設けられる。
【0023】
上記の構成によれば、ルツボ20内に種子結晶および原料を収納し、育成炉10内の円筒ヒーター14内にルツボ20を配置して円筒ヒーター14により加熱して原料6および種子結晶の一部を融解すると共に、円筒ヒーター14内に上が高く下が低い温度勾配を形成し、駆動軸4を上下させることによって、ルツボ20内の融液を順次結晶化させて、サファイア単結晶の製造を行うことが可能となる。
なお、本実施形態に係るサファイア単結晶の製造装置1を用いて、垂直ブリッジマン法によりサファイア単結晶を製造する工程は、図7(a)〜図7(f)に示す前述の工程と基本的に同様であり、説明を省略する。
【0024】
ここで、サファイア単結晶の製造装置1に特徴的な構成として、ルツボ20は、熱伝導性材料からなり、外周面における所定位置に放射状に突出する突周部21を有する。
本実施形態における突周部21は、図1、図2(図2(a)は正面断面図であり、図2(b)は底面図である)に示すように、ルツボ20の外周面に沿ってリング状に形成されると共に、断面が台形状に形成される構成である。なお、断面形状は台形に限定されるものではなく、矩形、三角形等であっても構わない。ただし、後述の支持部材3との面接触を可能とする一面(本実施形態では下面21a)を備えることが好適である。
【0025】
なお、上記ルツボ20の形成材料として、ルツボ20の線膨張係数と製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向の線膨張係数との相違に起因する相互応力を、ルツボ20およびサファイア単結晶に全く発生させない、もしくはサファイア単結晶に相互応力による結晶欠陥を発生させずルツボに相互応力による変形を起こさせないような線膨張係数を持つ材料を用いると好適である。
【0026】
あるいはルツボ20の形成材料として、サファイア融点と常温との2点間における平均線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイア融点と常温との2点間における平均線膨張係数よりも小さい材料を用いると好適である。
【0027】
あるいはまた、ルツボ20の形成材料として、サファイアの融点(2050[℃])から常温までの間において、平均線膨張係数が、製造されるサファイア単結晶の成長軸に垂直な方向のサファイアの平均線膨張係数よりも常に小さい材料を用いると好適である。
【0028】
上記のような各ルツボ材料として、タングステン、タングステン−モリブデン合金、モリブデンが挙げられる。
特にタングステンは各温度において、線膨張係数がサファイアよりも小さく、したがって、これらの材料からなるルツボを用いることによって、後述するように結晶化過程、アニール処理過程、冷却過程において、収縮率がサファイアよりも小さく、ルツボ20の内壁面とサファイア単結晶の外壁面とが非接触の状態となって、サファイアに応力が加わらず、サファイアのクラック発生を防止できる。
【0029】
一方、支持部材3は、熱伝導性材料からなり、ルツボ20の突周部21に対して円環状に面接触してルツボ20を支持する支持面を有する。図1、図3(図3(a)は平面図であり、図3(b)は正面断面図である)に示すように、本実施形態においては、支持部材3はカップ状に形成されており、上端面3aがルツボ20の突周部21の下面21aに対して面接触して当該ルツボ20を支持する支持面となる。
一例として、支持部材3は、ルツボ20と同じ材料を用いて形成される。すなわち、タングステン、タングステン−モリブデン合金、モリブデン等が材料として好適である。
【0030】
ここで、本実施形態に係るサファイア単結晶の製造装置1は、特徴的な構成として、
ルツボ20における所定の外周位置を円環状に冷却する冷却手段を備える。
一実施形態として、当該冷却手段は、ルツボ20の突周部21と当該突周部21に対して円環状に面接触して当該ルツボ20を支持する支持部材3とを備えて構成される。このとき、ルツボ20の下面20aと支持部3とは離間するように配設される(図1参照)。
この構成によれば、突周部21から支持部材3への熱の移動(支持部材3による吸熱作用)が生じる。これによって、ルツボ20における所定の外周位置(本実施形態では突周部21の形成位置となる)を円環状に冷却する作用が生じる。
なお、突周部21から支持部材3へ移動した熱は、さらに支持部材3から駆動軸4へと移動する。これらの熱の移動作用が得られるのは、円筒ヒーター14によりホットゾーン18内に発生する温度勾配によって、ルツボ20の温度が相対的に高くなり、支持部材3の温度は当該ルツボ20の温度よりも低くなり、さらに、駆動軸4の温度は当該支持部材3の温度よりも低くなるためである。
【0031】
さらに、本実施形態に係るサファイア単結晶の製造装置1は、駆動軸4を冷却する冷却部材を備えて構成される。
一実施形態として、冷却部材は、内部に循環管路51を有する軸状部材であって、該管路に冷媒(例えば、冷却水)を通流させて冷却を行う冷却軸5である。冷却軸5の上端部に駆動軸4が固定される構造となる。
冷却部材としての冷却軸5によって、駆動軸4に対する吸熱作用が生じ、駆動軸4の温度を低下させることができる。これにより、支持部材3から駆動軸4への熱の移動作用を促進させることができる。すなわち、支持部材3の冷却が促進されることとなり、結果として、突周部21から支持部材3へ熱の移動が促進されるため、前記冷却手段による冷却作用を大きくする効果が得られる。
加えて、循環管路51内を通流させる冷媒温度をコントロールすることによって、当該冷却作用のコントロールが容易になる効果も得られる。
【0032】
なお、ルツボ20における所定の外周位置を円環状に冷却する冷却手段は、上記の実施例に限定されるものではなく、例えば、ルツボ20が突周部21を備えないカップ状であっても、ルツボ20の外周位置または底面20aの周縁部を円環状に冷却する構成によって、同様の効果が得られる場合がある。具体的な構成例としては、支持部材3を当該箇所に当接させる構造(不図示)等が考えられる。
【0033】
上記のように、本実施形態に係るサファイア単結晶の製造装置1によれば、ルツボ20における所定の外周位置を冷却することが可能となるが、これによって、結晶の外周部に小傾角境界等の欠陥が発生することが防止でき、高品質のサファイア単結晶を得ることができる。この点について、以下に詳しく説明する。
【0034】
上記の効果を説明するに際し、先ず、本願発明者らが究明した小傾角境界が発生する原因について説明する。一例として、サファイア単結晶の製造装置101(図6参照)によって製造されたサファイア単結晶の写真(図8)を観察すると、中央部に白色化した凸状の円弧曲線がある。これは種子結晶と育成された結晶との界面である。さらに、当該凸状の円弧曲線を外周に向かって辿ると、当該曲線の終点部分すなわち結晶の下端部で且つ周縁部の位置に白色化した部分(図8中B部)がある。すなわち、種子結晶とは方位が異なる結晶が当該B部において生じ、当該異方結晶を基盤としてその上方に結晶育成が行われることによって、小傾角境界(図8中A部)が発生するものと考えられる。特に、結晶の下端部で且つ周縁部の位置に生じる白色化部分(図8中B部)は、種子結晶が溶融される工程(図7(b)参照)において、外周部が溶融して該種子結晶の下端部に浸入することによって種子結晶に傾きが発生することが原因であることが究明された。同時に、種子結晶と育成された結晶との界面(凸状の円弧曲線)が、種子結晶の下端部およびその近傍に達する場合に、その浸入現象が発生していることが究明された。この種子結晶の傾きにより発生する方位ずれは、育成結晶のひび割れの原因ともなるものである。
【0035】
したがって、種子結晶が溶融される工程において、外周部が溶融して該種子結晶の下端部に進入することを防止するためには、種子結晶と育成された結晶との界面(凸状の円弧曲線)が、種子結晶の下端部およびその近傍に達することを防止すればよいことが究明された。具体的な方法として先ず考えられるのは、種子結晶を大きく(c軸方向に長く)して、ルツボをヒーター内で上昇させる量を小さくする方法である。
しかし、その方法では、大きな種子結晶が必要となるため、コストは大きくなり、反面、育成される結晶量は小さくなるという課題が生じ得る。
【0036】
一方、サファイア単結晶の製造装置101(ルツボ120近傍)における温度分布を等温線図(濃色の上方が高温である)で表示すると図9のように凸状形状を有し、これが、種子結晶と育成された結晶との界面(凸状の円弧曲線)形状を規定していることが究明された。
すなわち、種子結晶と育成された結晶との界面(凸状の円弧曲線)が、種子結晶の下端部およびその近傍に達することを防止する方法として、種子結晶と育成された結晶との界面(凸状の円弧曲線)形状を、凸状ではなく、より平坦な形状とする方法が実現すれば、種子結晶を大きくして、ルツボをヒーター内で上昇させる量を小さくする方法を採用せずに、種子結晶と育成された結晶との界面(凸状の円弧曲線)が、種子結晶の下端部およびその近傍に達することを防止することができる。
【0037】
この点、本実施形態に係るサファイア単結晶の製造装置1によれば、ルツボ20における所定の外周位置(ここでは突周部21形成位置)を冷却することが可能となる。すなわち、当該外周位置(突周部21形成位置)におけるルツボ20内温度分布を、凸状ではなく、より平坦な形状とすることが可能となる。実際にシミュレーションを行って算出したサファイア単結晶の製造装置1(ルツボ20近傍)における温度分布(等温線図)を図5に示す(濃色の上方が高温である)。
【0038】
したがって、突周部21形成位置を、円筒ヒーター14内を上昇するルツボ20の温度がサファイアの融点温度以上となる領域(軸方向)の最下位置に設定することによって、すなわち、種子結晶の溶融位置(軸方向)と、突周部21形成位置(軸方向)とを略一致させることによって、種子結晶と育成された結晶との界面(凸状の円弧曲線)形状を、凸状ではなく、より平坦な形状とすることが可能となる。
これによって、種子結晶が溶融される工程において、外周部が溶融して該種子結晶の下端部に進入し、該種子結晶が傾いてしまうことを防止でき、その結果、結晶の下端部で且つ周縁部の位置に白色化した部分、すなわち、種子結晶とは方位が異なる結晶が生じることを防止でき、最終的に、結晶の下端部で且つ周縁部の位置に生じる白色化部分を基盤として周縁部において上方向に成長する小傾角境界の発生を防止することが可能となる。併せて、種子結晶の傾きに起因するひび割れの発生も防止できる。
一例として、サファイア単結晶の製造装置1によって製造されたサファイア単結晶の写真(X線トポグラフ写真)を図4に示す。この写真から明らかなように、図8の写真に示されるサファイア単結晶と比べて小傾角境界の発生が顕著に抑制されていることが分かる。
【0039】
以上、説明した通り、開示のサファイア単結晶の製造装置によれば、結晶方位のずれに起因する結晶欠陥(小傾角境界、ひび割れ等)の発生を防止して高品質のサファイア単結晶を製造することが可能となる。
【0040】
なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。特に、上記では垂直ブリッジマン法で説明したが、垂直ブリッジマン法と同じ一方向凝固法である垂直温度勾配凝固法(VGF法)によって結晶化、アニール処理を行ってサファイア結晶を得るようにすることもできる。その場合、ルツボを円筒ヒーター内で上昇させて、円筒ヒーターの均熱ゾーン内に位置させてアニール処理を行う。
また、結晶の成長軸は、上記実施の形態ではc軸としたが、a軸を成長軸としてもよく、またr面に垂直な方向を成長軸としてもよい。
また、本製造装置は、サファイア単結晶の製造に好適であるが、他の単結晶の製造にも適用できることは当然である。
【符号の説明】
【0041】
1、101 サファイア単結晶の製造装置
3 支持部材
4、104 駆動軸
5 冷却軸
10、110 育成炉
12、112 ジャケット
13、113 ベース
14、114 円筒ヒーター
16、116 断熱部材
18、118 ホットゾーン
20、120 ルツボ
21 突周部
124 種子結晶
126 原料
128 均熱ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材によって支持されたルツボ内に種子結晶および原料を収納し、育成炉内の筒状ヒーター内に該ルツボを配置して筒状ヒーターにより加熱して原料および種子結晶の一部を融解して結晶化させるサファイア単結晶の製造装置において、
カップ状をなす前記ルツボにおける所定の外周位置を円環状に冷却する冷却手段を備えること
を特徴とするサファイア単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記ルツボは、熱伝導性材料からなり、外周面における所定位置に放射状に突出する突周部を有し、
前記支持部材は、熱伝導性材料からなり、前記ルツボの突周部に対して円環状に面接触して該ルツボを支持する支持面を有し、
前記冷却手段は、前記突周部と前記支持部材とを備えて構成されること
を特徴とする請求項1記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記製造装置は、筒状ヒーターに上が高く下が低い温度勾配を形成することによって融液を順次結晶化させる一方向凝固法によるサファイア単結晶の製造装置であって、
前記ルツボにおいて前記突周部が設けられる位置は、該ルツボの温度がサファイアの融点温度以上となる領域の最下位置であること
を特徴とする請求項2記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記支持部材は、カップ状であって、上端面が前記突周部の下面に対して面接触すること
を特徴とする請求項2または請求項3記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記ルツボの下面と前記支持部とが離間していること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項6】
先端に前記支持部材が固定される駆動軸と、
前記駆動軸を冷却する冷却部材と、を備えること
を特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項7】
前記冷却部材は、内部に循環管路を有する軸状部材であって、該循環管路に冷媒を通流させて冷却を行う冷却軸であること
を特徴とする請求項6記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項8】
前記冷却手段は、前記ルツボにおける底面の周縁部を冷却することによって、該ルツボにおける所定の外周位置を円環状に冷却すること
を特徴とする請求項1記載のサファイア単結晶の製造装置。
【請求項9】
支持部材によって支持されたルツボ内に種子結晶および原料を収納し、育成炉内の筒状ヒーター内に該ルツボを配置して筒状ヒーターにより加熱して原料および種子結晶の一部を融解して結晶化させるサファイア単結晶の製造装置において、
カップ状をなす前記ルツボにおける底面の周縁部を円環状に冷却する冷却手段を備えること
を特徴とするサファイア単結晶の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−178628(P2011−178628A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45593(P2010−45593)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000236687)不二越機械工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】