説明

サブ波長格子光学素子

【課題】 サブ波長格子がその機能を常時有効に発揮することができるサブ波長格子光学素子を提案する。
【解決手段】 本発明のサブ波長格子光学素子は、少なくとも1つが透明な材料で形成されている複数の基材によって気密空間を形成する。この気密空間を構成する少なくとも1面に、光を制御するためのサブ波長格子が設けられている。サブ波長格子が気密空間内に存在するため、サブ波長格子の突起の損傷を防止でき、また、サブ波長格子に対する水や油などの付着を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の制御素子としてサブ波長格子を適用したサブ波長格子光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サブ波長周期の突起を格子状に有するサブ波長格子の各種光学素子への適用が研究、開発されている。例えば、反射防止表面や偏光分離素子として、ディスプレイ、光検出器や発光素子へサブ波長格子を応用することが期待されている。
【0003】
非特許文献1には、サブ波長格子を表面に有する色フィルタが記載されており、特許文献1には、サブ波長格子を表面に有する、光ピックアップに適用できる光学素子が記載されている。
【非特許文献1】金森義明、羽根一博著、「サブ波長格子 −バイオミメティック構造からフォトニックデバイスへ−」、応用物理、第74巻第7号、pp.935−938、2005年
【特許文献1】特開2005−285305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サブ波長格子は、上述したように、サブ波長周期の突起を格子状に配置したものである。光学素子のサブ波長格子面が取扱いの最中に他の物体と接し、サブ波長格子の一部の突起が破壊又は離脱すると、サブ波長格子が所望する機能を発揮し得なくなる。
【0005】
また、光学素子のサブ波長格子面に水や油などが付くと(例えば、微細なため、指を接することによっても付く)、空気の屈折率と、水や油などの屈折率との相違により、サブ波長格子が所望する機能を発揮し得ず、又は、機能が低下する。また、付着した水や油は、突起間の隙間に入ると除去し難く、除去しようとすると、サブ波長格子の一部の突起を破壊又は離脱させる恐れがある。
【0006】
そのため、サブ波長格子がその機能を常時有効に発揮することができるサブ波長格子光学素子が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のサブ波長格子光学素子は、少なくとも1つが透明な材料で形成されている複数の基材によって形成された気密空間を構成する少なくとも1面に光を制御するためのサブ波長格子が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のサブ波長格子光学素子によれば、サブ波長格子が気密空間内に設けられているので、サブ波長格子の突起の破壊や離脱を防止でき、サブ波長格子への水や油などの付着も防止でき、サブ波長格子を、その機能を常時有効に発揮できる状態にしておくことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(A)第1の実施形態
以下、本発明によるサブ波長格子光学素子の第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、第1の実施形態に係るサブ波長格子光学素子の構造を示す図面であり、図1(A)が平面図であり、図1(B)が図1(A)のIB−IB線断面図である。なお、第1の実施形態のサブ波長格子光学素子には上下という概念がないものであるが、説明の便宜上、図1(B)の表示状態で適宜上下関係に言及する。
【0011】
第1の実施形態のサブ波長格子光学素子1は、皿状の第1の基材2と、平板状の第2の基材3と、サブ波長格子4とを有する。
【0012】
第1の基材2に形成されている凹部の底面は平面になっており、この平面にサブ波長格子4が設けられている。なお、図1では、凹部の周囲形状が矩形状のものを示しているが、他の形状(例えば円形)であっても良いことは勿論である。第1の基材2及び第2の基材3の周囲形状も矩形状に限定されるものではない。第2の基材3は、第1の基材2の凹部を完全に覆うように第1の基材2に対して設けられている。これにより、第1の基材2の凹部は、当該光学素子1の全体から見れば空隙(気密空間)5となり、この空隙5内にサブ波長格子4が設けられている。言い換えると、空隙5を構成する平行平面の一面にサブ波長格子4が設けられている。なお、平行平面の両面にサブ波長格子4が設けられていても良い。
【0013】
空隙5の厚みは、空隙5の上下面での反射などで特定の波長成分が干渉で浮き立たないように選定されている。例えば、5μm以上できれば20μm以上あることが好ましい。
【0014】
さらに、対向する斜面に、同一の特性を有するサブ波長格子で形成した色分離フィルタによって、色分離特性を向上させることができた。
【0015】
第1の基材2及び第2の基材3間の接合部6は、空隙5を気密なものとするように、第1の基材2及び第2の基材3を接合する。例えば、光学接着剤を用いた接着により接合する。空隙(気密空間)5は真空である必要はないが、上述したように、当該空隙5に外気が出入りすることを防止できるようになされている。
【0016】
ここで、第1の基材2及び第2の基材3の少なくとも一方は透明体である。サブ波長格子4が、反射により、光の特性を制御するものである場合には、第1の基材2及び第2の基材3の少なくとも一方が透明体であれば良く、サブ波長格子4が、透過により、光の特性を制御するものである場合には、第1の基材2及び第2の基材3が共に透明体であることを要する。例えば、第1の基材2に金属を適用し、第2の基材3に透明体を適用することができる。このとき、金属表面は光沢鏡面となっていても良いし、黒アルマイト処理などの表面処理を施した光吸収面となっていても良い。基材2又は3のうち透明な基材は、例えば、ガラス又は高分子材料でなっている。
【0017】
サブ波長格子4は、入射光に対して反射又は透過時に所望の制御を行って出射する一般的なサブ波長格子である。すなわち、サブ波長格子4は、光の波長の1/20〜1/2程度の深さの凹凸構造を、光の波長の1/20〜1/2程度の周期構造で面上に形成した回折格子の一種であり、この深さ(後述する図4のh参照)やピッチ(図4のp参照)や形成パターン(図4のdはピッチと共に形成パターンを規定する突起の幅を示している)を制御することによって、種々の機能を持った光学素子を設計することができる。例えば、サブ波長格子4を用いた当該サブ波長格子光学素子1の用途としては、ダイクロイックミラー、バンドパスフィルタ、偏光ビームスプリッタ、反射ミラー、半透過ミラー、無反射コーティングなどを上げることができる。
【0018】
サブ波長格子4を第1の基材2に設ける方法(作製方法)としては、例えば、以下の方法を適用することができる。第1は、第1の基材2に、サブ波長格子4として機能する高分子膜を転写(インプリント)し、サブ波長格子4を作製する。第2は、第1の基材2が高分子の基材の場合には、イオンビームを照射したり、フォト微細加工技術を用いたりして基材に対する直接の加工を施すことにより、サブ波長格子4を作製する。第2の作製方法には、金型を用いて、第1の基材2の表面にサブ波長格子4の凹凸を直接作製する場合が含まれる。第3に、第1の基材2の表面にストリップ(箔)を貼り付けていくことにより、サブ波長格子4を作製する。第4に、シリコン、ゲルマニウム又は化合物半導体などの半導体基板の表面を加工してサブ波長格子4を形成し、サブ波長格子4が形成された半導体基板を第1の基材2に接合する。
【0019】
なお、図2は、第4の作製方法を適用した場合における、図1(B)に対応する断面図を示している。半導体基板7のサブ波長格子4が設けられていない面が、第1の基材2に形成された凹部の底面(平面)に貼り付けられる。必要ならば、半導体基板7の厚さを薄くし、光の透過を妨げないようにしても良い。
【0020】
第1の実施形態のサブ波長格子光学素子によれば、サブ波長格子が気密空間内に配置されているので、取り扱い時に他の物体と光学素子が接触してもサブ波長格子の機能を行うことがない。また、水や油が光学素子に付着しても、容易に除去することができ、その除去の際に、サブ波長格子の突起を破壊したり離脱したりすることはない。
【0021】
すなわち、第1の実施形態のサブ波長格子光学素子によれば、サブ波長格子を、その機能を常時有効に発揮できる状態にしておくことができる。
【0022】
(B)第2の実施形態
次に、本発明によるサブ波長格子光学素子の第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図3は、第2の実施形態に係るサブ波長格子光学素子の構造を示す断面図であり、上述した図1(B)に対応する図面であり、図1(B)との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
【0024】
第2の実施形態のサブ波長格子光学素子1Aも、第1の基材2と、第2の基材3と、サブ波長格子4とを有する。
【0025】
第2の実施形態の場合、第1の基材2及び第2の基材3は、概ね、底面が直角二等辺三角形形状の三角柱形状をしており、両者の最も広い面が互いに面するように、第1の基材2及び第2の基材3が一体化されている。第1の基材2の最も広い面は大半が凹部となっており、その凹部底面は平面となっており、その平面にサブ波長格子4が設けられている。第1の基材2の凹部が、第2の基材3の最も広い面で覆われることにより、サブ波長格子4が収容した凹部が空隙(気密空間)5となる。図3では、空隙5を構成する平行平面の一面にサブ波長格子4が設けられている場合を示したが、平行平面の両面にサブ波長格子4が設けられていても良い。
【0026】
第1の基材2及び第2の基材3間の接合部6は、空隙5を気密なものとするように、第1の基材2及び第2の基材3を接合する。この第2の実施形態の場合、第1の基材2又は第2の基材3に形成された接合部6の一方に、突起又は突条が設けられており、他方に、凹部又は凹条が設けられており、両者の嵌合により、第1の基材2及び第2の基材3間を、位置決めしながら、かつ、気密性を高めるように接合する。
【0027】
この第2の実施形態の場合も、サブ波長格子4は、入射光に対して反射又は透過時に所望の制御を行って出射するものである。そのため、第1の基材2及び第2の基材3の少なくとも一方が透明であることを要する。
【0028】
図4は、第2の実施形態に係るサブ波長格子の表面を示す拡大断面図である。第2の実施形態のサブ波長格子4は、例えば、金型を利用して作製されるものである。第2の実施形態のサブ波長格子4は、格子状に配置される突起の伸長方向が、図4に示すように、サブ波長格子4の法線方向と平行ではなく傾斜している。格子状に配置される突起の伸長方向は、金型のプレス方向、金型の抜き方向に平行になっており、金型を利用した作製時に突起が損傷し難くなされている。もちろん、金型の抜き方向がサブ波長格子形成面に対して垂直な場合は、突起の伸長方向がサブ波長格子形成面に垂直になるようにサブ波長格子を設計するのが好ましい。
【0029】
第2の実施形態のサブ波長格子光学素子4も、第1の実施形態で言及したような種々の用途に適用可能である。例えば、偏光ビームスプリッタにサブ波長格子を適用する場合に、第2の実施形態の構造を適用することができる。
【0030】
第2の実施形態のサブ波長格子光学素子によっても、サブ波長格子を気密空間内に設けたので、第1の実施形態と同様に、サブ波長格子を、その機能を常時有効に発揮できる状態にしておくことができる。
【0031】
(C)第3の実施形態
次に、本発明によるサブ波長格子光学素子の第3の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0032】
図5は、第3の実施形態に係るサブ波長格子光学素子の構造を示す断面図であり、上述した図1(B)に対応する図面であり、図1(B)との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
【0033】
第3の実施形態のサブ波長格子光学素子1Bは、直角二等辺三角柱状の4個のプリズム11〜14を互いに接合することにより、概ね四角柱状をなしている。各プリズム11〜14の他のプリズムと面する面の一部は底部が平面の凹部となされており、4個のプリズム11〜14が結合された状態で断面X字状の空隙(気密空間)5が形成されている。この第3の実施形態では、プリズム11〜14が基材になっている。
【0034】
空隙5の気密性を高め、かつ、プリズム11〜14の位置関係が所望するものとなるように、接合部6の一方に、突起又は突条が設けられており、他方に、凹部又は凹条が設けられており、両者が嵌合するようになされている。
【0035】
X字状をした空隙5を形成している平面の内、対向する計8個の平面にはそれぞれ、入射光に対して反射又は透過時に所望の制御を行って出射するサブ波長格子4が設けられている。言い換えると、対向する平行平面同士に、サブ波長格子4がそれぞれ設けられている。この第3の実施形態では、進行光に対して少なくとも2以上のサブ波長格子4が作用するので、光に対する制御をより実行し易いものとなっている。
【0036】
第3の実施形態のサブ波長格子光学素子4も、第1の実施形態で言及したような種々の用途に適用可能である。例えば、ダイクロイックミラーや偏光ビームスプリッタにサブ波長格子を適用する場合に、第3の実施形態の構造を適用することができる。
【0037】
第3の実施形態のサブ波長格子光学素子によっても、サブ波長格子を気密空間内に設けたので、第1の実施形態と同様に、サブ波長格子を、その機能を常時有効に発揮できる状態にしておくことができる。
【0038】
(D)他の実施形態
気密空間の形状は、上記各実施形態のものに限定されず、また、その気密空間に収容するサブ波長格子の数も上記実施形態のものに限定されない。例えば、図6(A)に示すように、直方体形状の気密空間に4個のサブ波長格子を設けても良く、また例えば、図6(B)に示すように、三角柱形状の気密空間に3個のサブ波長格子を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1の実施形態に係るサブ波長格子光学素子の構造を示す図面である。
【図2】第1の実施形態に係るサブ波長格子光学素子の変形例を示す断面図である。
【図3】第2の実施形態に係るサブ波長格子光学素子を示す断面図である。
【図4】第2の実施形態に係るサブ波長格子表面の拡大断面図である。
【図5】第3の実施形態に係るサブ波長格子光学素子を示す断面図である。
【図6】他の実施形態に係るサブ波長格子光学素子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1、1A、1B…サブ波長格子光学素子、2…第1の基材、3…第2の基材、4…サブ波長格子、5…空隙、6…接合部、7…半導体基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つが透明な材料で形成されている複数の基材によって形成された気密空間を構成する少なくとも1面に光を制御するためのサブ波長格子が設けられていることを特徴とするサブ波長格子光学素子。
【請求項2】
上記気密空間は対向する平行平面を有しており、サブ波長格子はこの平行平面の一方又は両方に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のサブ波長格子光学素子。
【請求項3】
上記気密空間を形成するために、上記複数の基材は、基材間を接合する接合部で気密に接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のサブ波長格子光学素子。
【請求項4】
上記接合部には、位置を決めるための嵌合部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のサブ波長格子光学素子。
【請求項5】
上記サブ波長格子は、上記基材に対して、高分子材料を転写して形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のサブ波長格子光学素子。
【請求項6】
上記サブ波長格子は、高分子材料の上記基材の表面を直接加工して形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のサブ波長格子光学素子。
【請求項7】
上記サブ波長格子は、シリコン、ゲルマニウム又は化合物半導体などの半導体基板の表面を加工して形成されており、この半導体基板を上記基材に接合して上記気密空間に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のサブ波長格子光学素子。
【請求項8】
上記基材のうち透明な基材の材料は、ガラス又は高分子材料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のサブ波長格子光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−279458(P2007−279458A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106757(P2006−106757)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000140890)ミライアル株式会社 (74)
【Fターム(参考)】