説明

シアニン化合物およびそれを含んでなる近赤外線吸収組成物

【課題】シアニン化合物を含有する、吸収および耐熱堅牢性に優れた実用的な近赤外線吸収組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるシアニン化合物を含む近赤外線吸収組成物。


(式中、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、縮環してもよい5員または6員の含窒素複素環を形成する非金属原子群であり;R1及びR2は、それぞれ独立に、脂肪族基または芳香族基であり;L1は、モルホリノ基が置換した、7個のメチンからなるメチン鎖であり;a及びbは、それぞれ独立に0又は1である。但し、分子内に一つ以上のアニオン性基を含む。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近赤外線吸収組成物に関し、詳しくは特定のシアニン化合物を含む近赤外線吸収組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シアニン化合物の会合体は近赤外線吸収組成物として知られている(例えば、特許文献1を参照。)。また、メチン鎖にモルホリノ基を有する色素も知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0003】
一方、近赤外吸収色素は、熱線吸収フィルタ、バンドパスフィルタ、光学フィルタ等のフィルタ染料、不可視印刷用のインク、レーザー光反射防止用としての赤外線吸収塗料、フラッシュトナー、電子写真感光体、光重合又は光架橋用の増感剤、光ディスク等の光記録材料、光センサー等の用途に有用である。
熱線吸収フィルタにおける近赤外吸収色素の使用態様としては、透明プラスチックに含有させる、透明プラスチックあるいは透明ガラスの表面に塗布する等の手段がある。これにより、透明な熱線遮断フィルタが得られる。用途としては、メガネ、自動車あるいは建材の熱線遮光剤等が挙げられる。
【0004】
CCD等の撮像素子に近赤外線吸収フィルタを光学フィルタとして用いることも可能である。これら撮像素子に近赤外線吸収光学フィルタを用い、入射する近赤外線を遮断することにより、該撮像素子の分光感度を視感度に近づけることができる。この近赤外吸収フィルタに近赤外吸収色素を用いることができる。
プラズマディスプレイ(PDP)の画像表示装置の表面に、近赤外吸収色素を用いた近赤外吸収フィルタを配置して誤動作を防止することができる。
近赤外吸収色素を不可視印刷用のインクとして用いた場合には、機密文書の複写防止が可能となる。
【0005】
従来、近赤外線吸収色素としては、シアニン色素、オキシム又はチオールの金属錯体、ナフトキノン化合物、フタロシアニン化合物及びナフタロシアニン化合物などが知られているが、いずれも可視部の吸収が大きかったり、IR領域(700〜900nm)に十分な吸収がなかったり、耐熱堅牢性が低いという欠点を有している。
【0006】
以上のように、種々の用途で近赤外吸収色素が求められているが、従来知られている近赤外吸収色素は、吸収及び熱堅牢性の実用的な観点では、いまだ満足できる性能のものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−90521号公報
【特許文献2】Synthetic Communications (1992),22(17),2593-2598
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シアニン化合物を含有する、吸収および耐熱堅牢性に優れた実用的な近赤外線吸収組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の化学構造を有するシアニン化合物が近赤外領域に吸収極大を有し、不可視性および熱堅牢性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
<1>下記一般式(1)で表されるシアニン化合物を含むことを特徴とする近赤外線吸収組成物。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、縮環してもよい5員または6員の含窒素複素環を形成する非金属原子群であり;R1及びR2は、それぞれ独立に、脂肪族基または芳香族基であり;L1は、モルホリノ基が置換した、7個のメチンからなるメチン鎖であり;a及びbは、それぞれ独立に0又は1である。但し、分子内に一つ以上のアニオン性基を含む。)
<2>前記一般式(1)で表されるシアニン化合物が、下記一般式(2)で表されるシアニン化合物である、<1>項に記載の近赤外線吸収組成物。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R3〜R8は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R5とR6及びR7とR8はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R10及びR11は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Z3及びZ4のベンゼン環にはさらに別のベンゼン環が縮合していてもよく、置換基を有していてもよい。但し、分子内に一つ以上のアニオン性基を含む。)
<3>前記一般式(1)で表されるシアニン化合物が、下記一般式(3)で表されるシアニン化合物である、<1>又は<2>項に記載の近赤外線吸収組成物。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R12〜R17は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R14とR15及びR16とR17はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R18及びR19は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Yは電荷のバランスに必要なカチオンを表す。)
<4>前記一般式(1)、(2)又は(3)のいずれかで表されるシアニン化合物が会合体を形成している、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
<5>吸収領域が、波長700nm〜900nmの領域である、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
<6>400nmにおける吸光度が、最大吸収波長における吸光度の1/20以下である、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
<7>前記一般式(1)、(2)又は(3)のいずれかで表されるシアニン化合物の固体微粒子分散体を含む、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
<8><1>〜<7>のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物を含む近赤外吸収フィルタ。
<9>下記一般式(3)で表される会合性シアニン化合物。
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R12〜R17は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R14とR15及びR16とR17はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R18及びR19は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Yは電荷のバランスに必要なカチオンを表す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の近赤外線吸収組成物は、可視部の吸収が小さく、近赤外領域に吸収を示し、耐熱堅牢性が高く、実用的な光学材料として良好な特性を発揮するという優れた効果を奏するものであり、近赤外吸収フィルタ等に好適に適用することができる。また、本発明のシアニン化合物は、近赤外領域に吸収極大を有し、不可視性および熱堅牢性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、下記一般式(1)で表されるシアニン化合物について説明する。
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、縮環してもよい5員または6員の含窒素複素環を形成する非金属原子群であり;R1及びR2は、それぞれ独立に、脂肪族基または芳香族基であり;L1は、モルホリノ基が置換した、7個のメチンからなるメチン鎖であり;a及びbは、それぞれ独立に0又は1である。但し、分子内に一つ以上のアニオン性基を含む。)
【0022】
前記一般式(1)において、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、5員または6員の含窒素複素環を形成する非金属原子群である。含窒素複素環には、他の複素環、芳香族環または脂肪族環が縮合してもよい。含窒素複素環およびその縮合環の例には、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオサゾール環、オキサゾロカルバゾール環、オキサゾロジベンゾフラン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、キノリン環、ピリジン環、ピロロピリジン環、フロピロール環、インドリジン環、イミダゾキノキサリン環およびキノキサリン環が含まれる。含窒素複素環は、6員環より5員環の方が好ましい。5員の含窒素複素環にベンゼン環またはナフタレン環が縮合していることがさらに好ましい。ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、インドレニン環またはベンゾインドレニン環が好ましい。インドレニン環が最も好ましい。
【0023】
含窒素複素環およびその縮合環は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、ホルミル基、カルバモイル基、ウレイド基、ウレタン基、メルカプト基、スルホ基、スルファモイル基、脂肪族基、芳香族基、複素環基、−O−R、−CO−R、−CO−O−R、−O−CO−R、−NH−R、−NR2、−NH−CO−R、−CO−NH−R、−CO−NR2、−NH−CO−NH−R、−NH−CO−NR2、−NH−CO−O−R、−S−R、−SO2−R、−SO2−O−R、−NH−SO2−R、−SO2−NH−R、−SO2−NR2が含まれる。ここで、Rは、それぞれ独立に、脂肪族基、芳香族基または複素環基である。
置換基として好ましくはハロゲン原子、カルボキシル基またはスルホ基であり、特に好ましくはスルホ基である。なお、カルボキシル基及びスルホ基は、水素原子が解離しても、塩の状態であってもよい。
【0024】
本明細書において脂肪族基は、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキニル基または置換アルキニル基を意味する。
【0025】
アルキル基は、環状であってもよい。鎖状アルキル基は、分岐を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1乃至20が好ましく、1乃至12がさらに好ましく、1乃至8が最も好ましい。アルキル基の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及び2−エチルヘキシルが含まれる。アルキル基はメチル、エチル、プロピル、ブチルが好ましく、メチル又はエチルが特に好ましい。
【0026】
置換アルキル基のアルキル部分は、上記アルキル基と同様である。置換アルキル基の置換基の例に前述した含窒素複素環の置換基を挙げることができる。置換アルキル基の例には、2−ヒドロキシエチル、2−カルボキシエチル、2−メトキシエチル、2−ジエチルアミノエチル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル、ベンジル及びフェネチルが含まれる。
【0027】
アルケニル基は、環状であってもよい。鎖状アルケニル基は、分岐を有していてもよい。アルケニル基の炭素原子数は、2乃至20が好ましく、2乃至12がさらに好ましく、2乃至8が最も好ましい。アルケニル基の例には、ビニル、アリル、1−プロペニル、2−ブテニル、2−ペンテニル及び2−ヘキセニルが含まれる。
置換アルケニル基のアルケニル部分は、上記アルケニル基と同様である。置換アルケニル基の置換基は、アルキル基の置換基と同様である。
【0028】
アルキニル基は、分岐を有していてもよい。アルキニル基の炭素原子数は、2乃至20が好ましく、2乃至12がさらに好ましく、2乃至8が最も好ましい。アルキニル基の例には、エチニル及び2−プロピニルが含まれる。
置換アルキニル基のアルキニル部分は、上記アルキニル基と同様である。置換アルキニル基の置換基は、アルキル基の置換基と同様である。
【0029】
本明細書において、芳香族基は、アリール基または置換アリール基を意味する。
アリール基の炭素原子数は、6乃至25であることが好ましく、6乃至15であることがさらに好ましく、6乃至10であることが最も好ましい。アリール基の例には、フェニル及びナフチルが含まれる。
置換アリール基のアリール部分は、上記アリール基と同様である。置換アリール基の置換基としては前述した含窒素複素環の置換基と同義である。置換アリール基の例には、4−カルボキシフェニル、4−アセトアミドフェニル、3−メタンスルホンアミドフェニル、4−メトキシフェニル、3−カルボキシフェニル、3,5−ジカルボキシフェニル、4−メタンスルホンアミドフェニル及び4−ブタンスルホンアミドフェニルが含まれる。
【0030】
本明細書において、複素環は5員環または6員環であることが好ましく、置換されていてもよい。複素環に、脂肪族環、芳香族環または他の複素環が縮合していてもよい。複素環(縮合環を含む)の例には、ピリジン環、ピペリジン環、フラン環、フルフラン環、チオフェン環、ピロール環、キノリン環、モルホリン環、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、カルバゾール環、フェノチアジン環、フェノキサジン環、インドリン環、チアゾール環、ピラジン環、チアジアジン環、ベンゾキノリン環およびチアジアゾール環が含まれる。置換複素環基の置換基は、置換アリール基の置換基と同様である。
【0031】
前記一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、脂肪族基または芳香族基である。脂肪族基と芳香族基の定義および例は、前述した通りである。
【0032】
前記一般式(1)において、L1はモルホリノ基が置換した、7個のメチンからなるメチン鎖であり、モルホリノ基は中央の(メソ位)メチン基に置換していることが好ましい。本発明ではモルホリノ基にはチオモルホリノ基を含む。また、メチン鎖は置換基を有していてもよく、該置換基同士が結合して、メチン鎖とともに5、6又は7員環(例えば、シクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン)を形成していてもよい。
【0033】
前記一般式(1)において、a及びbは0又は1であるが、0であることが好ましい。
【0034】
前記一般式(1)において、アニオン性基としてはカルボキシル基(塩でもよい)又はスルホ基(塩でもよい)を挙げることができる。スルホ基を有することが特に好ましい。分子内に1個以上のアニオン性基を有し、2個であることがさらに好ましい。2個のアニオン性基を有する場合、好ましくは、アニオン性基の1個は分子内で塩を形成し、アニオン性基の1個はその他のカチオンと対塩を形成する。アニオン性基の対塩を形成するカチオンとしては、水素原子、アルカリ金属イオン(Li+、Na+、K+)、アルカリ土類金属イオン(例、Mg2+、Ca2+、Ba2+、Sr2+)、遷移金属イオン(例、Ag+、Fe+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+)、その他の金属イオン(例、Al3+)、アンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン及びテトラブチルアンモニウムイオンなどが好ましい。
【0035】
前記一般式(1)で表されるシアニン化合物のうち、下記一般式(2)で表されるシアニン化合物が好ましい。下記一般式(2)で表されるシアニン化合物について説明する。
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、R3〜R8は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R5とR6及びR7とR8はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R10及びR11は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Z3及びZ4のベンゼン環にはさらに別のベンゼン環が縮合していてもよく、置換基を有していてもよい。但し、分子内に一つ以上のアニオン性基を含む。)
【0038】
前記一般式(2)中、R3〜R8で表される脂肪族基は前述と同義である。R5とR6及びR7とR8がそれぞれお互いに結合する環としてはシクロペンタン、シクロヘキサン環を挙げることができる。R10及びR11によって形成される5、6又は7員環としてはシクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン環を挙げることができる。
3及びZ4に縮合するベンゼン環は置換基を有していても良い。置換基は上述した含窒素複素環の置換基と同義である。
【0039】
さらに、前記一般式(1)で表されるシアニン化合物は、下記一般式(3)で表されるシアニン化合物であることが最も好ましい。
【0040】
【化7】

【0041】
(式中、R12〜R17は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R14とR15及びR16とR17はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R18及びR19は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Yは電荷のバランスに必要なカチオンを表す。)
【0042】
前記一般式(3)中、R12及びR13は前記一般式(2)におけるR3及びR4と、R14〜R17は前記一般式(2)におけるR5〜R8と、R18及びR19は前記一般式(2)におけるR10及びR11とそれぞれ同義である。Yで表されるカチオンとしては前述のカチオンを挙げることができる。
前記一般式(3)中、R12及びR13がメチル、エチル、プロピル又はブチル、R14〜R17がメチル、R18及びR19が互いに結合して5員環を形成するのが最も好ましい。
【0043】
以下に前記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0044】
【化8】

【0045】
【化9】

【0046】
前記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物は、エフ・エム・ハーマー(F.M.Harmer)著「ヘテロサイクリック・コンパウンズ シアニン・ダイズ・アンド・リレイテッド・コンパウンズ(Heterocyclic Compounds Cyanine Dyes and Related Compounds)」,ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley&Sons)社−ニューヨーク,ロンドン,1964年刊、ディー・エム・スターマー(D.M.Sturmer)著「ヘテロサイクリック・コンパウンズ−スペシャル・トッピクス・イン・ヘテロサイクリック・ケミストリー(Heterocyclic Compounds-Special topics in heterocyclic chmistry)」,第18章,第14節,482〜515頁,ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley&Sons)社−ニューヨーク,ロンドン,1977年刊、「ロッズ・ケミストリー・オブ・カーボン・コンパウンズ(Rodds Chemistry of Carbon Compounds)」2nd.Ed.vol.IV,part B,第15章,369〜422頁,エルセビア・サイエンス・パブリック・カンパニー・インク(Elsevier Science Publishing Company Inc.)社刊,ニューヨーク,1977年刊、特開平4−362932号公報記載の参考文献を参照して合成できる。
【0047】
前記一般式(1)、(2)又は(3)で表されるシアニン化合物は、シアニン色素として好ましく用いることができる。前記一般式(1)、(2)又は(3)で表されるシアニン化合物からなる色素は、好ましくは700〜1000nm、より好ましくは750〜900nmの範囲に吸収極大を示す。上記の吸収極大を示す波長(吸収極大波長)は、前記色素が会合体を形成したときのものであってもよい。
【0048】
さらに本発明の近赤外線吸収組成物の吸収スペクトルとしては、可視域(400〜600nm)の副吸収が少ないことが好ましく、可視域の吸収が実質的に無いことがより好ましい。ここで、「実質的に無い」とは、目視で確認できない程度をいう。より具体的には、吸収波長400nmにおける吸光度(Dv)が、吸収極大波長における吸光度(Dm)の1/10以下であることが好ましく、1/15以下であることがより好ましく、1/20以下であることが特に好ましい。
【0049】
好ましい吸収波形を得るために、本発明の近赤外線組成物は、前記色素を水や溶剤等に溶解させた組成物としてもよいが、吸収および耐光性向上のために前記色素を会合状態にすることが好ましく(以下、この状態の色素を「会合体色素」ともいう)、J会合体を含む会合体状態の色素を用いることがより好ましい。会合体は、好ましくは4分子以上、より好ましくは10〜30分子から形成される。
【0050】
なお、会合体色素は、いわゆるJバンドを形成するため、シャープな吸収スペクトルピークを示す。色素の会合とJバンドについては、例えば、「フォトグラフィック・サイエンス・アンド・エンジニアリング(Photographic Science and Engineering)」,Vol.18,No.323−335(1974)に詳細な記載がある。J会合状態の色素の吸収極大は、溶液状態の色素の吸収極大よりも長波側に移動する。従って、近赤外線吸収組成物に含まれる色素が会合状態であるか、非会合状態であるかは、吸収極大を測定することで判断できる。
【0051】
本発明においては、島津製作所社製、UV−3100Pc(商品名)を用いて測定した溶剤中での色素の吸収極大波長(λma)に対して、同装置により測定した会合後(例えば、膜)の吸収極大波長(λmb)が30nm以上長波長であるとき、その会合後の色素を会合状態の色素(会合体色素)という。ここで、より良好な会合状態として、溶液状態での吸収極大波長と会合後の吸収極大波長との差(λmb−λma)を、50nm以上とした会合体色素であることが好ましく、70nm以上とした会合体色素であることがより好ましい。
【0052】
本発明において、会合体色素の形成は、前記一般式(1)、(2)又は(3)で表される色素を水に溶解し、ゼラチン又は塩(例えば、塩化バリウム、塩化カルシウムなど)を添加することで行うことができ、これにより水中で会合体色素とすることができる。また、固体微粒子として分散させて会合体色素とすることもできる。分散は、色素のカリウム塩またはナトリウム塩でも可能であり、さらに、色素の水溶液に金属塩(例えば、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、又は塩化バリウム)の水溶液を添加してレーキ顔料で行うこともできる。逆に上記金属塩の水溶液に前記一般式(1)、(2)又は(3)で表される色素の水溶液を添加してもよい。
【0053】
本発明の近赤外線吸収組成物における前記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物の含有量は、必要に応じて調節することができるが、組成物中に0.1〜30質量%含有させることが好ましく、0.5〜10質量%含有させることがより好ましい。
【0054】
色素の固体微粒子分散物については、例えば、株式会社技術情報協会発行の「顔料分散技術−表面処理と分散剤の使い方および分散性評価−」、株式会社朝倉書店発行の「顔料の事典」、株式会社技術情報協会発行の「最新『顔料分散』実務ノウハウ・事例集」に詳しく記載されている。固体微粒子分散物にするためには、通常の分散機を用いることができる。分散機の例には、ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、サンドミル、コロイドミル、ジェットミル及びローラミルが含まれる。分散機については、特開昭52−92716号公報及び国際公開第88/074794号パンフレットに記載がある。縦型又は横型の媒体分散機が好ましい。
【0055】
分散は、適当な媒体(例、水、アルコール、シクロヘキサノン、2−メトキシ−1−メチルエチル アセテート)の存在下で実施してもよい。分散用界面活性剤を用いることが好ましい。分散用界面活性剤としては、アニオン界面活性剤(特開昭52−92716号公報及び国際公開第88/074794号パンフレットに記載)が好ましく用いられる。必要に応じてアニオン性ポリマー、ノニオン性界面活性剤あるいはカチオン性界面活性剤を用いてもよい。
【0056】
また、色素を適当な溶媒中に溶解した後、その溶液に貧溶媒を添加して、微粒子化し、必要に応じてその粉末を得てもよい。この場合も、上記の分散用界面活性剤を用いてもよい。あるいはpHを調整することによって溶解し、次にpHを変化させて色素の微粒子を析出させてもよい。この微粒子も上述した会合体色素であることが好ましい。
【0057】
会合体色素が微粒子(又は微結晶)である場合、平均粒径1000μm以下であることが好ましく、0.001μm〜100μmであることがより好ましく、0.005μm〜50μmであることが特に好ましい。なお、本発明において「平均粒径」とは、特に断わらない限り体積平均粒径をいい、レーザー回折散乱法または動的光散乱法を用いて測定したものをいう。
【0058】
本発明の組成物には、色素の分散性を向上させる目的で通常の顔料用分散剤や界面活性剤を添加することができる。これらの分散剤としては、多くの種類の化合物が用いられるが、例えば、フタロシアニン誘導体(市販品:EFKA−745(商品名、エフカ社製))、ソルスパース5000(商品名、ゼネカ社製);オルガノシロキサンポリマーKP341(商品名、信越化学工業(株)製)、(メタ)アクリル酸系(共)重合体ポリフローNo.75、No.90、No.95(商品名、共栄社油脂化学工業(株)製)、W001(商品名、裕商(株)製)等のカチオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、エマルゲンA60(商品名、花王(株)製)等のノニオン系界面活性剤;W004、W005、W017(商品名、裕商(株)製)、ドデシルベンゼンスルホン酸Na、デモールSNB(商品名、花王(株)製)等のアニオン系界面活性剤;EFKA−46、EFKA−47、EFKA−47EA、EFKAポリマー100、EFKAポリマー400、EFKAポリマー401、EFKAポリマー450(以上、商品名、森下産業(株)製)、ディスパースエイド6、ディスパースエイド8、ディスパースエイド15、ディスパースエイド9100(商品名、サンノプコ(株)製)等の高分子分散剤;ソルスパース3000、5000、9000、12000、13240、13940、17000、24000、26000、28000などの各種ソルスパース分散剤(商品名、ゼネカ(株)製);アデカプルロニックL31、F38、L42、L44、L61、L64、F68、L72、P95、F77、P84、F87、P94、L101、P103、F108、L121、P−123(商品名、旭電化(株)製)及びイソネットS−20(商品名、三洋化成(株)製)が挙げられる。
【0059】
上記分散剤は、単独で用いてもよくまた2種以上組み合わせて用いてもよい。上記分散剤の本発明の組成物中の添加量は、前記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物(色素)100質量部に対して1〜150質量部程度が好ましい。
【0060】
さらに、本発明の組成物は、褪色防止剤、酸化防止剤や紫外線防止剤を含んでもよい。褪色防止剤には、ハイドロキノン誘導体、ハイドロキノンジエーテル、フェノール誘導体、スピロインダン、メチレンジオキシベンゼン、クロマン、スピロクロマン、クマラン誘導体、ハイドロキノンモノエーテル、p−アミノフェノール誘導体およびビスフェノール誘導体が含まれる。ハイドロキノン誘導体については、米国特許第3935016号、同第3982944号の各明細書に記載がある。ハイドロキノンジエーテルについては、米国特許第4254216号明細書、特開昭55−21004号公報に記載がある。フェノール誘導体については、特開昭54−145530号公報に記載がある。スピロインダン、メチレンジオキシベンゼンについては、英国特許第2062888号、同第2077455号の各明細書に記載がある。クロマン、スピロクロマン、クマラン誘導体については、米国特許第3432300号、同第3573050号、同第3574627号、同第3764337号の各明細書、特開昭52−152225号、同53−17729号、同53−20327号、同61−90156号の各公報に記載がある。ハイドロキノンモノエーテル、p−アミノフェノール誘導体については、英国特許第1347556号、同第2066975号の各明細書、特公昭54−12337号、特開昭55−6321号の各公報に記載がある。ビスフェノール誘導体については、米国特許第3700455号明細書、特公昭48−31625号公報に記載がある。
【0061】
また、金属錯体(米国特許第4245018号明細書、特開昭60−97353号公報記載)や一重項酸素クウェンチャーを組成物に添加しても良い。一重項酸素クウェンチャーには、ニトロソ化合物(特開平2−300288号公報記載)、ジインモニウム化合物(米国特許第465612号明細書記載)、ニッケル錯体(特開平4−146189号公報記載)および酸化防止剤(欧州特許第820057A1号明細書記載)が含まれる。
【0062】
本発明の近赤外線吸収組成物は、さらにポリマーバインダーを含むことが好ましい。天然ポリマー(例、ゼラチン、セルロース誘導体、アルギン酸)又は合成ポリマー(例、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、スチレン−ブタジエンコポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、水溶性ポリアミド)をポリマーバインダーとして用いることができる。親水性ポリマー(上記天然ポリマー、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、水溶性ポリアミド)が特に好ましい。
【0063】
また、本発明の近赤外線吸収組成物は、光硬化性組成物または熱硬化性組成物中に前記一般式(1)、(2)又は(3)で表される化合物を含んでなるものであってもよい。光硬化性組成物、熱硬化性組成物としては、エチレン性不飽和基を持つ化合物を含む組成物が好ましい。その例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能のアクリレートやメタアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能のアクリレートやメタクリレートが挙げられる。また更に、日本接着協会誌,Vol.20,No.7,300〜308頁に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものが挙げられる。
【0064】
本発明の近赤外線吸収組成物は、近赤外吸収フィルタに好ましく用いることができる。
近赤外吸収フィルタにおいて、本発明の近赤外線吸収組成物を含む層の厚さは、0.1μm乃至1cmであることが好ましく、0.5μm乃至100μmであることがさらに好ましい。
【0065】
本発明の近赤外吸収フィルタは透明支持体を有する。透明支持体はガラス又はポリマーフィルムからなることが好ましい。ポリマーの例には、セルロースエステル(例、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースニトレート)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリアリレート(例、ビスフェノールAとフタル酸の縮合物)、ポリスチレン(例、シンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリオキシエチレンが含まれる。セルローストリアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートが好ましい。
透明支持体の厚みは、5μm乃至5cm以下であることが好ましく、25μm乃至1cmであることがさらに好ましく、80μm乃至1.2mmであることが最も好ましい。
【0066】
透明支持体の透過率は80%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。ヘイズは、2%以下であることが好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。屈折率は、1.45〜1.70であることが好ましい。
【0067】
透明支持体に、紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤の添加量は、透明支持体の0.01乃至20質量%であることが好ましく、0.05乃至10質量%であることがさらに好ましい。滑り剤として、不活性無機化合物の粒子を透明支持体に添加してもよい。無機化合物の例には、SiO2、TiO2、BaSO4、CaCO3、タルク及びカオリンが含まれる。
【0068】
透明支持体には表面処理を施すことが好ましい。表面処理の例には、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理およびオゾン酸化処理が含まれる。グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および火炎処理が好ましく、コロナ放電処理がさらに好ましい。
【実施例】
【0069】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらにより限定されるものではない。
【0070】
実施例1
(例示化合物(1)の調製)
例示化合物(1)の合成ルートを次に示す。
【0071】
【化10】

【0072】
化合物a 1.5g及び化合物b 1gをメタノール10mlに溶解し、無水酢酸0.85ml及びトリエチルアミン2.5mlを加え、30℃で2時間反応させ、析出した結晶を濾過した。得られた結晶にメチルアルコール10ml及びモルホリン0.22gを加え、室温で2時間攪拌し、酢酸カリウム0.25gを加えた。析出した結晶をろ過し、MeOH/H2O=1/1で精製を行い、例示化合物(1)を0.7g得た。λmaxはジメチルスルホキシド中で704.4nmであり、モル吸光係数は1.09×105dm3/mol・cmで、融点は300℃以上だった。
【0073】
(例示化合物(9)の調製)
例示化合物(1)の調製において、モルホリン0.22gをチオモルホリン0.34gに代えたこと以外は例示化合物(1)の調製と同様の操作を行い、例示化合物(9)を0.3g得た。λmaxは水中で683.0nmで、モル吸光係数は1.16×105dm3/mol・cmで、融点は300℃以上だった。
【0074】
(例示化合物(13)の調製)
例示化合物(1)の調製において、化合物a 1.5gを下記の化合物(d)2.5gに代えたこと以外は例示化合物(1)の調製と同様の操作を行い、例示化合物(13)を0.5g得た。λmaxは水中で714.0nmで、モル吸光係数は1.24×105dm3/mol・cmで、融点は300℃以上だった。
【0075】
(例示化合物(15)の調製)
例示化合物(1)の調製において、化合物a 1.5gを下記の化合物(e)1.84gに代えたこと以外は例示化合物(1)の調製と同様の操作を行い、例示化合物(15)を1.0g得た。λmaxはジメチルスルホキシド中で734.0nmで、モル吸光係数は1.33×105dm3/mol・cmで、融点は283〜287℃だった。
【0076】
【化11】

【0077】
実施例2
(赤外吸収フィルタAの作製)
例示化合物(1)0.5g、エマルゲンA60(商品名、花王(株)製)0.05g、ジルコニアビーズ(0.1mm)10g、蒸留水4.5gの混合物を、遊星型ボールミル(ドイツ フリッチュ社製)を用いて分散し、固体微粒子分散物を得た。
4質量%ゼラチン水溶液2.0gに上記で得られた分散物0.6gを40℃にて加え、混合した。この液をガラス基板上にスピンコートし、赤外吸収フィルタAを作製した。
【0078】
(赤外吸収フィルタB〜Fの作製)
例示化合物(1)の代わりに例示化合物(2)、(13)、(15)、(6)及び(9)を用いたこと以外は上記と同様にして、分散物ならびに赤外吸収フィルタB、C、D、E及びFを作製した。
【0079】
比較例1
実施例2で使用した例示化合物(1)の代わりに比較色素(a)及び(b)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、分散物ならびに赤外吸収フィルタG及びHを作製した。比較色素(a)は特開2002−90521号公報、比較色素(b)はSynthetic Communications (1992),22(17),2593-2598に記載の色素である。
【0080】
【化12】

【0081】
[フィルタの評価]
作成した各フィルタについて下記評価を行った。その結果を下記表1に示す。
【0082】
<吸収>
UV−3100Pc(商品名、島津製作所社製)を用いて、フィルタの吸収極大波長(λmb)を測定した。また、H2O、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はメチルアルコール(MeOH)中に溶解した各色素の吸収極大波長(λma)を測定した(色素1mgを溶剤 100mlに溶解して測定した)。
【0083】
<不可視性>
不可視性については、UV−3100Pc(商品名、島津製作所社製)を用いてフィルタの400nmの吸収濃度(Dv)を吸収極大波長の濃度(Dm)で除した値(Dv/Dm)の値を示した。
【0084】
<耐熱性>
220℃に熱したホットプレート(柴田化学製NP−6型、商品名)上にフィルタをおき、1時間放置した。加熱前後の画像濃度を、上記UV−3100Pc(商品名、島津製作所社製)を用いて測定し、加熱後濃度/加熱前濃度=色素残存率として評価した。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から明らかなように、分子内にモルホリノ基を有しない比較色素(a)を用いたフィルタEおよび分子内にアニオン性基を有しない比較色素(b)を用いたフィルタFでは、可視領域における吸収が大きく、また耐熱堅牢性が低かった。これに対し、本発明の近赤外線吸収組成物を含む近赤外吸収フィルタは、可視領域における吸収が小さく不可視性に優れるとともに、耐熱堅牢性にも優れるものであった。
なお、いずれも溶液状態の吸収よりも長波化しており、組成物中の化合物(色素)が会合状態であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるシアニン化合物を含むことを特徴とする近赤外線吸収組成物。
【化1】

(式中、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、縮環してもよい5員または6員の含窒素複素環を形成する非金属原子群であり;R1及びR2は、それぞれ独立に、脂肪族基または芳香族基であり;L1は、モルホリノ基が置換した、7個のメチンからなるメチン鎖であり;a及びbは、それぞれ独立に0又は1である。但し、分子内に一つ以上のアニオン性基を含む。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるシアニン化合物が、下記一般式(2)で表されるシアニン化合物である、請求項1記載の近赤外線吸収組成物。
【化2】

(式中、R3〜R8は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R5とR6及びR7とR8はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R10及びR11は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Z3及びZ4のベンゼン環にはさらに別のベンゼン環が縮合していてもよく、置換基を有していてもよい。但し、分子内に一つ以上のアニオン性基を含む。)
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるシアニン化合物が、下記一般式(3)で表されるシアニン化合物である、請求項1又は2に記載の近赤外線吸収組成物。
【化3】

(式中、R12〜R17は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R14とR15及びR16とR17はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R18及びR19は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Yは電荷のバランスに必要なカチオンを表す。)
【請求項4】
前記一般式(1)、(2)又は(3)のいずれかで表されるシアニン化合物が会合体を形成している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
【請求項5】
吸収領域が、波長700nm〜900nmの領域である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
【請求項6】
400nmにおける吸光度が、最大吸収波長における吸光度の1/20以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
【請求項7】
前記一般式(1)、(2)又は(3)のいずれかで表されるシアニン化合物の固体微粒子分散体を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の近赤外線吸収組成物を含む近赤外吸収フィルタ。
【請求項9】
下記一般式(3)で表される会合性シアニン化合物。
【化4】

(式中、R12〜R17は各々独立に、置換基を有してもよい脂肪族基を表し、R14とR15及びR16とR17はそれぞれお互いに結合して環を形成してもよい。R18及びR19は水素原子またはお互いに連結して5,6又は7員環を形成してもよい。Xは酸素原子または硫黄原子を表す。Yは電荷のバランスに必要なカチオンを表す。)

【公開番号】特開2009−108267(P2009−108267A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284413(P2007−284413)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】