説明

シアン化合物分解処理装置、分解処理システムおよび分解処理方法

【課題】 光触媒を利用したシアン化合物含有廃水処理において、被処理水との接触効率、光照射効率を改善することによりシアン化合物分解効率を向上し、処理コスト上昇の原因となる次亜塩素酸ソーダのような薬剤を使用せず、また安全性の高いシアン化合物分解処理装置および分解処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明のシアン化合物分解処理システムは、被処理水を一方向に流動させる流動槽と、該流動槽内に設けられ、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布と、180〜190nmと250〜260nmにそれぞれピーク波長を有する紫外線を照射可能な、長手方向に延びる形状を有する紫外線照射手段とを備え、前記平板状不織布の面と紫外線照射手段の長手方向とは平行であることを特徴とするシアン化合物分解処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射ランプからの紫外線照射下に、光触媒反応により水中に含まれるシアン化合物を分解除去するシアン化合物分解処理装置および分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき工場、鉄鋼熱処理工場、コークス製造向上などから排出される廃水には毒性の強いシアン化合物が大量に含まれている。シアン化合物は水質汚濁防止法により排水基準が決められていることから発生源となる工場ではその排水処理が必要である。シアン化合物を含む廃水の処理方法としては、オゾン酸化法、電解酸化法、アルカリ塩素法などがあり、現在ではアルカリ塩素法が広く利用されている。
【0003】
例えば特許文献1に示すオゾン酸化法は、オゾンガスをシアン化合物が含まれる廃水に接触させることにより、オゾンの酸化力を利用してシアン化合物を分解処理するものである。しかしながらこのような気―液接触は一般的に効率が悪く、過剰のオゾンが必要であり、またオゾン自体が有害であることから分解処理において注意が必要なことと、後処理が必要といった課題がある。これは特許文献2に示すAOP(促進酸化)法においても同様である。また、例えば特許文献3に示す電解酸化法は、電解槽にシアン化合物を含む被処理水を入れ、陽極および陰極を挿入して通電することによりシアン化合物を電解処理して除去する方法であるが、シアン化合物を低濃度まで分解することが困難である。
【0004】
現状最も利用されているアルカリ塩素法は、例えば特許文献4に示すように、アルカリ性条件下で塩素を添加した後、pHを中性としてさらに塩素を添加し、二段階でシアン化合物を分解するものである。しかしながら、アルカリ塩素法は多量の次亜塩素酸ソーダを必要としコストが高い。また、分解反応を確実に行うためには処理液のpH管理が重要であり、pH管理を誤ると猛毒のCNClが発生する恐れがあり、コストおよび安全性において課題を抱えている。こうした課題を解決するものとして例えば特許文献5に示されるように、光触媒を利用した有害物質含有廃水処理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−153284号
【特許文献2】特開2006−341229号
【特許文献3】特開2005−219001号
【特許文献4】特開昭50−118962号
【特許文献5】特開平9−267091号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、光触媒を利用した水質浄化技術が注目されている。光触媒(主としてチタニア)の原理は、以下の通りである。チタニアは光(主として紫外線)の照射によって励起され、価電子帯の電子が伝導帯へと移動する。このときチタニアの価電子帯には、正孔(ホール)が生成する。この正孔は、チタニア周囲の水から電子を奪うことにより強力な酸化力を持ったOHラジカルを代表とする活性酸素種が生成する。この活性酸素種が様々な有害物質を酸化分解する。この光触媒反応によってシアン化合物は効果的に分解される。しかしながら光触媒から発生するOHラジカルの寿命は10−6秒と極めて短いことから、光触媒反応によるシアン化合物の分解はOHラジカルが発生する光触媒表面上のみで起こり得る。したがって光触媒反応を利用してシアン化合物を効率的に分解するためには、シアン化合物を含む被処理水と光触媒との接触を良くすることが重要である。また、光触媒は光照射によってOHラジカルを発生するものであり、光触媒への光照射効率も良くすることが重要となる。しかしながら特許文献5に示されている方法では、光触媒とこれが挿入された反応容器の間に空隙があり、被処理水が光触媒と十分に接触しない構造となっている。また、光触媒が光源に対して直角方向に配置されているため、光触媒への光照射効率も良好とは言えない構造になっている。
【0007】
本発明は、光触媒を利用したシアン化合物含有廃水処理において、被処理水との接触効率、光照射効率を改善することによりシアン化合物分解効率を向上し、処理コスト上昇の原因となる次亜塩素酸ソーダのような薬剤を使用せず、また安全性の高いシアン化合物分解処理装置および分解処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布に平行となるように設置された紫外線照射手段から平板状不織布に180〜190nm間と250〜260nm間にピーク波長を有する紫外線を照射することにより、水中に存在するシアン化合物を効率的に分解することができることを見出した。すなわち本発明は、被処理水を一方向に流動させる流動槽と、該流動槽内に設けられ、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布と、180〜190nmと250〜260nmにそれぞれピーク波長を有する紫外線を照射可能な、長手方向に延びる形状を有する紫外線照射手段とを備え、前記平板状不織布の面と紫外線照射手段の長手方向とは平行であることを特徴とするシアン化合物分解処理装置である。
【0009】
また、本発明は、被処理水から少なくとも懸濁物質を除去するプレフィルタと、前記シアン化合物分解処理装置と、被処理水のpHを調整する中和槽とを備えることを特徴とするシアン化合物分解処理システムである。
【0010】
さらに、本発明は、被処理水を流動させながら、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布を通過させ、長手方向に延びる形状を有し、該長手方向と前記平板状不織布が平行となるように設置された紫外線照射手段から前記平板状不織布に180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射することを特徴とするシアン化合物分解処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、光触媒を利用して水中に含まれるシアン化合物を効果的に分解処理することが可能で、さらに高コスト要因となる次亜塩素酸ソーダを使用することなく安全な水中のシアン化合物分解処理装置および分解処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態に係るシアン化合物分解処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明のシアン分解処理装置の一実施形態を示す概念図である。
【図3】本発明に係る平板状不織布からなる光触媒カートリッジの拡大図である。
【図4】実施例に用いたシアン分解処理装置の概念図である。
【図5】比較例に用いたシアン分解処理装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係るシアン化合物分解処理システムの実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係るシアン化合物分解処理システムの構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態に係るシアン化合物分解処理システムは、シアン化合物含有被処理水中の懸濁物質を除去するプレフィルタAと、被処理水中のシアン化合物を分解可能なシアン化合物分解処理装置Bと、被処理水のpHを調整する中和槽Cとが、被処理水の流路に沿って順に配置されている。
【0014】
シアン化合物含有被処理水中に含まれるシアン化合物としては、CNを含有するものであれば、特に限定されないが、例えば、遊離シアン、金属錯シアンが挙げられる。
【0015】
本実施の形態に係るシアン化合物分解処理システムにおいて、プレフィルタAは、凝集ろ過装置、カートリッジフィルタなどであり、被処理水中のゴミなどの懸濁物質を取り除くための装置である。中和槽Cは被処理水を中和し、排水可能または再利用可能なpHに調整するための装置である。
【0016】
本実施の形態に係るシアン化合物分解処理システムは、例えば、めっき工場などシアン化合物を排出する工場の排水基準適合、排水再利用による水資源の有効利用に資することができる。
【0017】
本発明の形態に係るシアン化合物分解処理システムにおいて、シアン化合物分解処理装置Bは、図2に示すように、側面に形成された流入口1から反対側側面に形成された流出口2に被処理水を流動させる流動槽3と、流動槽3内に収容され、被処理水の流動方向に対してその面が垂直に交わるように互いに平行に設置された3つの光触媒カートリッジ4と、これら光触媒カートリッジ4の間に、平板状不織布5の面と紫外線ランプ6の長手方向とが平行になるように配置された紫外線ランプ6とを備えている。
【0018】
紫外線ランプ6の外表面を構成するカバー部材は、円柱状に形成され、250〜260nmだけでなく、180〜190nmのピーク波長を透過する材質からなる。このカバー部材の材質としては、例えば、合成石英が挙げられる。一般的な低圧水銀ランプは、本来、185nmと254nmの2つの波長を有するが、通常のカバー部材の素材であるガラスが短波長の紫外線を透過しないため、254nmの波長のみを照射する。本実施の形態に係るシアン化合物分解処理装置Bにおいて、紫外線ランプ6は、上述のようにカバー部材の素材を特殊なものとすることによって、180〜190nmと250〜260nmにピーク波長を有する紫外線を照射可能に構成されている。紫外線ランプ6から照射される紫外線は、180〜190nm、好ましくは185nmにピーク波長を有し、かつ、250〜260nm、好ましくは254nmにピーク波長を有する。
【0019】
各紫外線ランプ6は、各光触媒カートリッジ4の間に2本ずつ、計4本配置されており、各光触媒カートリッジ4の間に配置することにより、光触媒カートリッジが備える平板状不織布5の両面に紫外線が照射可能となっている。紫外線ランプ6は、それぞれ平行に、かつその軸方向が光触媒カートリッジ4に平行になるように配置されている。なお、本実施の形態において、紫外線ランプ6のカバー部材は、円柱状に形成したが、それに限定されず、長手方向に延びる形状であれば良い。紫外線ランプ6の数は、求められる水質や被処理水中に含まれるシアン化合物の濃度等に応じて決定される。
【0020】
流動槽3内の溶存酸素濃度を高めるために、流動槽3内又は流入口1の前に溶存酸素増大手段を設けても良い。溶存酸素増大手段とは、被処理水中に空気などを吹き込み気−液接触させ、水中の溶存酸素濃度を増大させる機構であり、例えばマイクロ(ナノ)バブル発生装置、及びエアレーション(気泡発生装置)が挙げられる。吹き込む気体は、一般に空気のバブルであるが、酸素のバブルを用いればより効果的である。また、被処理水中に過酸化水素を添加することも溶存酸素を増大させる上で有用である。これは過酸化水素の分解反応(2H→2HO+O)を利用したものである。
【0021】
各光触媒カートリッジ4は、図3に示すように平板状不織布5と一対の金網7とからなり、平板状不織布5が一対のステンレス製の金網7に挟持されている。このように金網7をサポート材として用いてカートリッジ状にすることにより、光触媒機能が劣化した平板状不織布5を容易に取り換えることができる。多段の光触媒カートリッジ4を枠体等を用いて連結構造とすることにより、脱着を容易にすることもできる。本実施の形態においては、平板状不織布5を3個としたが、求められる水質等に応じて、任意にその数を決定することができ、例えば1〜50個とすることができるが、分解効率を上げるためには、平板状不織布5を2つ以上配置し、紫外線照射手段をこれら平板状不織布の間に配置することが好ましい。また、本実施の形態においては、光触媒カートリッジ4として平板状不織布5を流動槽3に固定したが、他の手段により設置しても良い。また、本実施の形態において、各光触媒カートリッジ4は、その面が水の流動方向に垂直に交わるように設置したが、流動する水が効率良く平板状不織布5を通過すれば良く、例えば流動方向に対して10°前後、好ましくは5°前後、傾いて設置されても良い。
【0022】
平板状不織布5は、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなるシリカ基複合酸化物繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大している光触媒繊維からなる。
【0023】
光触媒繊維の表面は、必要に応じて白金(Pt)、パラジウム(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうちの1以上が担持されてもよい。担持方法は、特に限定されないが、前記担持される金属イオンが含まれる液と光触媒繊維とを接触させながら、第2相を構成する金属酸化物のバンドギャップに相当するエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することによって、担持させることができる。
【0024】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であっても良く、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有しても良い。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)あるいはその酸化物がシリカと特定組成の化合物を形成し得る金属元素(B)としては特に限定されるものではないが、例えば(A)としてチタン、また(B)としてアルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、鉄等があげられる。
【0025】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することが好ましい。
【0026】
一方、第2相は、チタンを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、チタンが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよいが、チタニアであることが好ましい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表面相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60重量%であることが好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のチタンを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0027】
第2相に含まれる金属酸化物のチタンの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでも良い。尚、本発明において、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の重量%を示している。
【0028】
シアン化合物分解処理装置において、平板状不織布上の平均紫外線強度は、1〜10mW/cmであることが好ましく、さらに2〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。平板状不織布表面での紫外線強度が1〜10mW/cmであると、2つの紫外線成分による水処理を高効率に行うことができる。このような範囲にするには、紫外線照射手段と平板状不織布との距離を適当な範囲になるようにすればよい。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の中央部から端部までの複数個所の紫外線強度を測定し、それらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0029】
次に、傾斜構造を有する光触媒繊維の製造方法について説明する。
【0030】
(溶融紡糸法)
光触媒繊維は、主として一般式
【0031】
【化1】

【0032】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシラン、あるいは変性ポリカルボシランと有機金属化合物との混合物を得る第A工程、溶融紡糸する第B工程、不融化処理する第C工程、及び空気中又は酸素中で焼成する第D工程により製造することができる。
【0033】
第A工程は、シリカ基複合酸化物繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、本発明では、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。
【0034】
変性ポリカルボシランは、主として化1で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR')n、或いはMR''m(Mは金属元素、R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R''はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0035】
傾斜組成を有する繊維を製造するには、上記有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、上記有機金属化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0036】
なお、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、上記1官能しか反応せず未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0037】
傾斜構造を有する光触媒繊維を製造するには、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物或いは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に出発原料として使用できる。
【0038】
第B工程においては、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、或いは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物(以下、前駆体という場合がある。)を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けてもよい。なお、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0039】
前記紡糸の他に、第A工程で得られた変性ポリカルボシラン、或いは変性ポリカルボシランと低分子量の有機金属化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他該変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸用装置により乾式紡糸法により巻き取り速度を制御しながら紡糸してもよい。
【0040】
これらの紡糸工程において、必要ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、或いは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0041】
第C工程においては、第B工程で得られた紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力または無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。この工程は、後工程の焼成の際に繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に規定しないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。また、上記酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていても良く、酸素分圧を意図的に変えても良い。
【0042】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。尚、第C工程並びに第B工程の際に、原料中に含まれている低分子量化合物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えられる。
【0043】
第D工程においては、第C工程により不融化された繊維を、張力または無張力下で、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中において焼成し、目的とする、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、表層に向かって第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が傾斜的に増大するシリカ基複合酸化物繊維を得る。第D工程において、不融化繊維中に含まれる有機物成分は基本的には酸化されるが、選択する条件によっては、炭素や炭化物として繊維中に残存する場合もある。このような状態でも、目的とする機能に支障を来さない場合はそのまま使用されるが、支障を来す場合は、更なる酸化処理が施される。その際、目的とする傾斜組成並びに結晶構造に問題が生じない温度、処理時間が選択される。
【0044】
なお、光触媒繊維を平板状不織布とするには、上記製法により得られる光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維を短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより不織布とすることができる。
【0045】
(メルトブロー法)
平板状不織布は、メルトブロー法を用いて、第A工程で得られた前駆体を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出するとともに、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中で焼成することにより製造することもできる。
【0046】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/s程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、第A工程で得られた前記前駆体を紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより安定して紡糸を行うことができる。
【0047】
紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら紡糸することが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0048】
得られた不織布は、上記溶融紡糸法の場合と同様の不融化処理及び焼成(第C工程及び第D工程)を行うことにより、光触媒繊維からなる不織布が得られる。メルトブロー法により製造される光触媒繊維は、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、溶融紡糸で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も大きくでき、触媒活性が増大する。また、メルトブロー法により製造される平板状不織布は、溶融紡糸法で製造された長さ40〜50mm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く(引張強度2N以上)、フィルタ等に加工する際に十分なプリーツ加工性を有する。
【0049】
平板状不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが、通常目付けが50〜500g/m、厚みが0.5〜20mmであることが好ましい。厚みは、必要に応じて不織布を積層することにより調整できる。厚みは、0.5mmよりも薄い場合には、光触媒量そのものが少なすぎてシアン化合物分解効果が十分に得られない。20mmよりも厚い場合は平板状不織布が抵抗となり、圧力損失が増大し、水処理が難しくなる。平板状不織布の形状は特に制限はないが、平板状不織布を挿入する流動槽の形状に合わせて、丸型、角型などにすることができ、平板状不織布の表面積を大きくするために波板状にすることもできる。
【0050】
上記のような平板状不織布5の製造方法によれば、繊維同士のブリッジングが全く無く、一本一本の繊維表面にチタニアを始めとする光触媒成分が緻密に析出した構造の光触媒繊維からなる平板状不織布5が得られる。また、この光触媒繊維は、従来のコーティングという手法によらないため、繊維表面の光触媒成分が脱落するという問題がない。さらにこの繊維からなる平板状不織布5は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、処理流体と光触媒との接触面積が非常に大きくなる。一般に、光触媒の機能を十分に引き出すためには、光触媒への光の照射効率と処理流体との接触効率を高めることが必要である。
【0051】
次に、本実施の形態に係るシアン化合物分解処理方法について説明する。
【0052】
まず、図2に示されるように、被処理水が流入口1から流動槽3に供給される。流し込まれた被処理水は、流動槽3内を通って流出口2から排出される。平板状不織布5は、繊維一本一本がある程度の空隙を有して分散した構造になっているために、水が通過する際、光触媒との接触面積が非常に大きい。このため、光触媒機能を有する平板状不織布5によって効率的にラジカルが発生し、シアン化合物を分解する。シアン化合物の分解の原理は、次の通りである。光触媒繊維に含まれるチタニア(酸化チタン)は紫外線の照射によって励起され、価電子帯の電子が伝導帯へと移動する。このときチタニアの価電子帯には、正孔(ホール)が生成する。この正孔は、チタニア周囲の水から電子を奪うことにより強力な酸化力を持ったOHラジカルを代表とする活性酸素種が生成する。この活性酸素種が様々な物質を酸化分解する。光触媒繊維からなる平板状不織布5の表面及び裏面の両面に紫外線が照射されることにより、さらに効率的にラジカルを発生させることができる。また、185nmの紫外線が直接水に照射されることにより、不要な有機物が分解される。
【0053】
通常、チタニア光触媒を利用した装置においては、紫外線ランプは、波長351nmブラックライト蛍光ランプ又は波長254名nmの殺菌ランプが用いられる。チタニア光触媒は、387nm以下の波長であれば励起することができ、又これらのランプは製品として入手しやすいためである。シアン化合物分解処理装置Bにおいては、従来用いられなかった紫外線を利用し、かつ光触媒を所定の配置構造にすることにより、高い分解効率を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0055】
(参考例1)
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0056】
実施例1
参考例1の方法により合成されたポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0057】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、チタニア/シリカ繊維(光触媒繊維)を得た。
【0058】
このチタニア/シリカ繊維を平板状のカートリッジ4とし、図4に示されるシアン化合物分解処理システムを作製した。これに使われる紫外線ランプ6の出力は15Wであり、4本を使用した。また、光触媒カートリッジ4は3枚を使用した。紫外線ランプ6の波長は254nmと185nmの両方を放射するものである。紫外線ランプ6と光触媒カートリッジ4の距離は90mmとし、光触媒カートリッジ4表面の平均紫外線強度は2mW/cmであった。300mg/lのシアンを含む廃水20lを10μmのプレフィルタA、活性炭フィルタに通過させた後、図2のシアン化合物分解処理装置Bに導入し、シアン化合物分解処理装置Bから出た廃水をタンクDに導入した後、プレフィルタA部に戻し、図4に示すように光照射を行いながら循環処理を行った。このときの循環流量は、100l/hとし、循環処理は10時間行った。結果は表1に示すように、2時間でシアン濃度が0.1mg/l以下になっており、良好なシアン分解性能を有することが確認された。
【0059】
実施例2
実施例1において、シアン化合物分解処理装置にエアレーション装置を取り付け、反応容器内に1l/minでエアーを供給した以外は実施例1の場合と同様の処理を行った。結果は表1に示すように、1時間でシアン濃度が0.1mg/l以下になっており、良好なシアン分解性能を有することが確認された。
【0060】
実施例3
実施例1において、被処理水中に過酸化水素(35重量%水溶液)を100ml添加した以外は実施例1の場合と同様の処理を行った。結果は表1に示すように、1時間でシアン濃度が0.1mg/l以下になっており、良好なシアン分解性能を有することが確認された。
【0061】
比較例1
紫外線ランプを点灯しない以外は実施例1と同様の処理を行った。結果は表1に示すように、シアン濃度は全く変化しておらず、プレフィルタ、活性炭フィルタ、光触媒等、本処理装置を構成する部材の吸着によるシアン濃度の低下が起こらないことが確認された。
【0062】
比較例2
特許文献5の実施例に示される反応容器(図5)を製作し、シアン分解性能を調べた。光触媒13は、目付け400g/m、たて糸、よこ糸ともに30本/25mmのEガラスクロスに酸化チタンを担持したものを使用した。担持量はガラスクロスに対して3重量%とした。この光触媒13を反応容器8内に250g積層配置し、予め10μmのプレフィルタおよび活性炭フィルタを通した300mg/lのシアンを含む廃水5lを反応容器8に投入口9より導入し、封入した。このとき廃水中に浸かっていない光触媒は250gのうち50gで、水中の光触媒は200gであった。光源14としては、60Wの紫外線ランプを1本使用した。紫外線ランプの波長は254nmと185nmの両方を放射するものである。反応容器8内に封入した廃水を循環パイプ11と循環ポンプ12により、循環流量100l/hで循環させて滴下皿15を通して光触媒13に滴下させながら10時間光照射を行った。結果は表1に示すように、10時間でシアン濃度が0.1mg/l以下になっていたものの、実施例1および実施例2と比較して、シアン分解性能は著しく劣ることが確認された。
【0063】
【表1】

【符号の説明】
【0064】
A プレフィルタ
B シアン化合物分解処理装置
C 中和槽
D タンク
1 流入口
2 流出口
3 流動槽
4 光触媒カートリッジ
5 平板状不織布
6 紫外線ランプ
7 金網
8 反応容器
9 投入口
10 排出口
11 循環パイプ
12 ポンプ
13 光触媒
14 光源
15 滴下皿
16 バルブ(投入口)
17 バルブ(排出口)
18 投入量検知手段
19 投入量制御手段
20 圧抜き弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化合物含有被処理水を一方向に流動させる流動槽と、該流動槽内に設けられ、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布と、180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射可能な、長手方向に延びる形状を有する紫外線照射手段とを備え、前記平板状不織布の面と紫外線照射手段の長手方向とは平行であるシアン化合物分解処理装置。
【請求項2】
前記光触媒繊維が、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることを特徴とする請求項1記載のシアン化合物分解処理装置。
【請求項3】
前記平板状不織布は、二以上配置されており、前記紫外線照射手段は、前記平板状不織布の間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2記載のシアン化合物分解処理装置。
【請求項4】
前記平板状不織布は、流動槽から着脱できることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシアン化合物分解処理装置。
【請求項5】
シアン化合物含有被処理水から少なくとも懸濁物質を除去するプレフィルタと、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシアン化合物分解処理装置と、被処理水のpHを調整する中和槽とを備えることを特徴とするシアン化合物分解処理システム。
【請求項6】
シアン化合物含有被処理水を流動させながら、表面に酸化チタンを含む光触媒繊維からなる平板状不織布を通過させ、長手方向に延びる形状を有し、該長手方向と前記平板状不織布が平行となるように設置された紫外線照射手段から前記平板状不織布に180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射することを特徴とするシアン化合物分解処理方法。
【請求項7】
前記光触媒繊維が、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とチタンを含む金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなる繊維であって、第2相を構成する金属酸化物のチタンの存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大していることを特徴とする請求項6記載のシアン化合物分解処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−78935(P2011−78935A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234681(P2009−234681)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】