説明

シクロアルタン型トリテルペンサポニンおよびその用途

【課題】低いコルチコトロピン放出因子(CRF、副腎皮質刺激ホルモン放出因子)レベルにより示されるようなストレス系の機能低下は、いくつかの疾患の原因となる。低減したCRFの作用を増強することにより、前記のようなストレス系の機能低下などによる疾患を効果的に処置することを目的とする
【解決手段】本発明は新規なシクロアルタン型トリテルペンサポニン、これを有効成分として含有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)増強剤および副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)刺激時の副腎皮質刺激ホルモン分泌促進剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシクロアルタン型トリテルペンサポニンを有効成分として含有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)増強剤および副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)刺激時の副腎皮質刺激ホルモン分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
低いコルチコトロピン放出因子(CRF、副腎皮質刺激ホルモン放出因子)レベルにより示されるようなストレス系の機能低下は、いくつかの疾患の原因となる。例えば、肥満症のいくつかの形態は、機能低下した視床下部−下垂体−副腎軸によって特徴づけられ、外傷後ストレス症候群の患者は低いコルチゾル排泄を有し、そして禁煙中の患者はアドレナリン及びノルアドレナリンの排泄の減少、ならびに血中のコルチゾル量の減少を有する。CRFが視床下部−下垂体−副腎軸の主要なレギュレーターであるので、これらの発現にはCRFが中心的役割を果たす。これらの疾患の処置にはあまり有効なものはない。例えば、肥満症を処置するために最も有効なアプローチは、行動変更プログラムである。しかし、目標体重に到達する参加者はほとんどなく、そして再発率が高い。このような疾患および病気の処置における欠点を考慮すると、より有効な処置が必要とされる。従来は、副腎機能不全や肥満など各種疾患の改善、予防に生理活性ペプチドを使用した副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)分泌調節剤が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−173444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、低減したCRFの作用を増強することにより、前記のようなストレス系の機能低下などによる疾患を効果的に処置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、次式
【0005】
【化3】

または次式
【0006】
【化4】

【0007】
に示されるシクロアルタン型トリテルペンサポニンである。また本発明は、このシクロアルタン型トリテルペンサポニンを有効成分として含有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)増強剤である。さらに本発明は、シクロアルタン型トリテルペンサポニンを有効成分として含有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)刺激時の副腎皮質刺激ホルモン分泌促進剤である。
【0008】
シクロアルタン型トリテルペンサポニンはブラックコホシュに含まれる化合物である。ブラックコホシュはシミシフガ・ラセモサ(Cimicifuga racemosa)の学名で、キンポウゲ科に属する植物である。その主成分のシミシフギン(Cimicifugin)は急激なエストロゲンの減少を抑えて、更年期障害の症状を和らげることが知られている。ブラックコホシュ抽出物の使用については、心臓血管疾患、特にアテローム性動脈硬化症、骨粗鬆症および更年期障害の治療および予防として用いられている。しかし、ブラックコホシュおよびその構成成分にCRFのACTH分泌作用を促進させる効果は言及されていない。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシクロアルタン型トリテルペンサポニンは、キンポウゲ科ブラックコホシュ(シミシフガ・ラセモサ)根及び根茎部より抽出することができ、新規のシクロアルタン型トリテルペンサポニンneocimicigenoside A、neocimicigenoside Bを有効成分とする。これら化合物はコルチコトロピン放出因子(CRF)の副腎皮質ホルモン刺激ホルモン(ACTH)分泌作用を促進させる効果を有する。従って、これら化合物は、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)増強剤および副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)刺激時の副腎皮質刺激ホルモン分泌促進剤として有用である。具体的には、肥満症、アジソン病、副腎皮質機能低下症、低アルドステロン症、低コルチゾール血症、副腎機能不全などの各種疾患の治療、改善、予防に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)neocimicigenoside A、neocimicigenoside B の抽出、精製、単離の検討
シミシフガ・ラセモサ(Cimicifuga racemosa、別名ブラックコホシュ)の根および根茎(5.2kg)を熱メタノールで抽出(3時間、2回)し、抽出液を減圧濃縮した。濃縮エキス(445g)を30%メタノールにて懸濁させ、Diaion HP−20カラムクロマトグラフィーに付し、30%メタノール、50%メタノール、メタノール、エタノール、酢酸エチルで順次極性を下げながら溶出させ、5つの粗画分に分画した。
【0011】
【化5】

【0012】
得られたメタノール画分(181g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー[クロロホルム−メタノール(19:1、9:1,4:1、2:1)、メタノール]により7つの画分(フラクションA〜G)に分画した。
フラクションCをシリカゲルクロマトグラフィー[クロロホルム−メタノール(19:1)]、オクタデシル化シリカゲルクロマトグラフィー[アセトニトリル−水(1:1)]、セファデックスLH−20(メタノール)により、さらに5つの画分(フラクションC−1からC−5)に分画した。
フラクションDをメタノールに溶解し、室温で放置しておいたところ沈殿が生じた。沈殿物をろ過し、ろ液をシリカゲルクロマトグラフィー[クロロホルム−メタノール(25:1、19:1)]、オクタデシル化シリカゲルクロマトグラフィー[アセトニトリル−水(2:1、5:3)]、セミ分取オクタデシル化シリカゲル高速液体クロマトグラフィー[アセトニトリル−水(5:3)]を繰り返し行うことにより精製して、neocimicigenoside A(45.0mg), neocimicigenoside B(16.4mg)を単離した。
【0013】
【化6】

【0014】
アモルファス固体 C375810
[α]27+58.0°(c=0.10,CN)
HRESITOFMS m/z663.4111[M+H](calcd for C375910,633.4108)
IR(film)νmax 3443(OH), 2993 and 2871(CH),
1732(C=O), 1455, 1377, 1336, 1250, 1140, 1070, 1042, 990cm-1
1H-NMR(表1)
13C-NMR(表1)
【0015】
【化7】

【0016】
アモルファス固体 C375810
[α]27+18.0°(c=0.10,CN)
HRESITOFMS m/z663.4111[M+H](calcd for C375910,633.4108)
IR(film)νmax 3347(OH), 2928 and 2870(CH),
1732(C=O), 1454, 1413, 1377, 1257, 1145, 1069, 1049, 991, 957cm-1
1H-NMR(表1)
13C-NMR(表1)
【0017】
【表1】

【0018】
(2)副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌促進作用の検討
マウス下垂体腫瘍細胞AtT−20を10cells/well/mlで24wellプレートに蒔き、80−90%コンフルエントになるまで培養した。0.1%BSA含DMEM培地1mlで2回洗浄し、0.1%DMSO、0.1%BSA含有DMEM培地1mlを各wellに添加し、37℃、5%COインキュベーター内で1時間インキュベートした。0.1%BSA含DMEM培地1mlで2回洗浄し、neocimicigenoside A、neocimicigenoside Bを0.1%BSA含DMEM培地1mlに溶解し、最終濃度1μg/mlで各wellに1mlずつ添加した。対照群およびCRF群には、0.1%DMSO、0.1%BSA含有DMEM培地1mlを各wellに添加した。37℃、5%COインキュベーター内で30分間インキュベート後、CRFを最終濃度10ng/mlで対照群を除く各wellに添加した。37℃、5%COインキュベーター内で2時間インキュベート後、培養上清を回収し、10000gで5分間遠心した。ACTH測定キットにて培養上清中のACTH濃度を測定した。
表2に示す通り、CRF刺激によりACTH分泌が対照群により有意に上昇した。Neocimicigenoside A、neocimicigenoside B添加によりCRF刺激時のACTH分泌が更に上昇する傾向が観察された。
【0019】
表2 neocimicigenoside A, neocimicigenoside BのCRF作用増強効果
ACTH(pg/ml)
対照群 7.0±0.7
CRF群 9.9±0.4**
Neocimicigenoside A群 13.7±1.5**
Neocimicigenoside B群 14.9±2.9**
(平均値±標準偏差、**p<0.01vs対照群)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式
【化1】

または次式
【化2】

に示されるシクロアルタン型トリテルペンサポニン。
【請求項2】
請求項1記載のシクロアルタン型トリテルペンサポニンを有効成分として含有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)増強剤。
【請求項3】
請求項1記載のシクロアルタン型トリテルペンサポニンを有効成分として含有する副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)刺激時の副腎皮質刺激ホルモン分泌促進剤。

【公開番号】特開2006−52141(P2006−52141A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232551(P2004−232551)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】