説明

シクロヘキシルベンゼンの製造方法

シクロヘキシルベンゼンの製造方法において、ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化条件下で触媒と接触させてシクロヘキシルベンゼンを含む流出物を製造する。その触媒はモレキュラーシーブ、前記モレキュラーシーブとは異なる無機酸化物及び少なくとも一種の水素化金属の複合材料を含み、前記水素化金属の少なくとも50質量%がその無機酸化物で担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシクロヘキシルベンゼンを製造し、必要により得られるシクロヘキシルベンゼンをフェノール及びシクロヘキサノンに変換するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールは化学工業で重要な製品であり、例えば、フェノール樹脂、ビスフェノールA、ε-カプロラクタム、アジピン酸、及び可塑剤の製造に有益である。
現在、フェノールの製造のための最も普通の経路はホック方法である。これは第一の工程がクメンを製造するためのプロピレンによるベンゼンのアルキル化を伴ない、続いて相当するヒドロペルオキシドへのクメンの酸化次いで等モル量のフェノール及びアセトンを製造するためのヒドロペルオキシドの開裂を伴なう3工程方法である。しかしながら、フェノールについての世界の需要がアセトンについての需要よりも迅速に増大しつつある。加えて、プロピレンのコストがおそらく、プロピレンの開発不足のために、増大している。
こうして、供給原料としてプロピレンに代えて高級アルケンを使用し、アセトンではなく、高級ケトン、例えば、シクロヘキサノンを同時製造する方法がフェノールの製造に魅力的な別の経路であるかもしれない。例えば、シクロヘキサノン(これは工業用溶媒として、酸化反応におけるアクチベーターとして、またアジピン酸、シクロヘキサノン樹脂、シクロヘキサノンオキシム、カプロラクタム及びナイロン6の製造に使用される)についての増大する市場がある。
シクロヘキシルベンゼンがベンゼンをゼオライトベータで担持されたルテニウム及びニッケルを含む存在下で水素と接触させることにより製造し得ること、及び得られるシクロヘキシルベンゼンが2工程でシクロヘキサノン及びフェノールに処理し得ることは米国特許第5,053,571号から知られている。そのヒドロアルキル化反応は1から100までの範囲の毎時の液空間速度(LHSV)、100kPaから1000kPaまでの範囲の反応圧力、時間当たり供給原料1モル当り0.2モルから6モルまでの範囲の水素供給速度、及び100℃から300℃までの範囲の反応温度で行なわれる。
【0003】
加えて、米国特許第5,146,024号はベンゼンが一酸化炭素及びパラジウム含有ゼオライトX又はYの存在下で水素と反応させられてシクロヘキシルベンゼンを生成し、次いでこれがその後の酸処理による自動酸化により高収率でフェノール及びシクロヘキサノンに変換し得ることを開示している。そのヒドロアルキル化反応は約1hr-1〜約100hr-1のベンゼン供給原料の毎時の液空間速度(LHSV)、約345kPa〜約10,350kPaの全反応圧力、約0.1:1〜約10:1のH2対ベンゼンのモル比、約0.01:1〜約0.3:1の一酸化炭素対H2のモル比、及び約100℃〜約250℃の温度で行なわれる。
更に、米国特許第6,037,513号はシクロヘキシルベンゼンがベンゼンをMCM-22ファミリーのモレキュラーシーブ並びにパラジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト及びこれらの混合物から選ばれた少なくとも一種の水素化金属を含む二官能性触媒の存在下で水素と接触させることにより製造し得ることを開示している。その触媒はまたバインダー及び/又はマトリックスを含んでもよく、実施例では触媒が初期湿式含浸を使用してMCM-22ファミリーモレキュラーシーブ及びアルミナバインダーの押出物を水素化金属の塩の水溶液で含浸することにより生成される。その'513特許はまた得られるシクロヘキシルベンゼンが相当するヒドロペルオキシドに酸化され、その過酸化物が所望のフェノール及びシクロヘキサノンに分解し得ることを開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、モレキュラーシーブ及び水素化金属を含む二官能性触媒のベンゼンヒドロアルキル化活性は、水素化金属の一部又は全部がモレキュラーシーブとは別だが、それと複合される無機酸化物で担持される場合に高められることが今わかった。更に、得られる触媒がシクロヘキシルベンゼン及びジシクロヘキシルベンゼンへの高められた選択性並びにシクロヘキサンへの低下された選択性を示し、これが望ましい。何とならば、ジシクロヘキシルベンゼンが追加のベンゼンで直ぐにトランスアルキル化されて更なるシクロヘキシルベンゼン生成物を生成し得るからである。
一局面において、本発明はシクロヘキシルベンゼンの製造方法にあり、その方法はベンゼン及び水素をヒドロアルキル化条件下で触媒と接触させてシクロヘキシルベンゼンを含む流出物を生成することを含み、その触媒はモレキュラーシーブ、前記モレキュラーシーブとは異なる無機酸化物及び少なくとも一種の水素化金属の複合材料を含み、前記水素化金属の少なくとも50質量%、例えば、少なくとも75質量%、更には実質的に全部(100質量%程度に多くを含む)がその無機酸化物で担持されている。
【発明を実施するための形態】
【0005】
一実施態様において、前記無機酸化物が前記モレキュラーシーブと複合化される前に、前記少なくとも一種の水素化金属が前記無機酸化物に施される。
都合良くは、触媒が、その少なくとも一種の水素化金属を無機酸化物に付着させ、次いで金属含有無機酸化物及びモレキュラーシーブの混合物を同時ペレット化することにより生成される。
また、触媒が、その少なくとも一種の水素化金属を無機酸化物に付着させ、次いで金属含有無機酸化物及びモレキュラーシーブの混合物を同時押出することにより生成される。典型的には、その混合物が更にバインダーを含む。
都合良くは、モレキュラーシーブが少なくとも7Åの平均細孔サイズを有する。
都合良くは、モレキュラーシーブがゼオライトベータ、ゼオライトX、ゼオライトY、モルデナイト又はMCM-22ファミリーのモレキュラーシーブの一種以上を含む。
一実施態様において、モレキュラーシーブがMCM-22ファミリーの一員であり、かつ12.4±0.25, 6.9±0.15, 3.57±0.07 及び3.42±0.07Åにd-間隔最大を含むX線回折パターンを有する。好適なモレキュラーシーブとして、MCM-22、PSH-3、SSZ-25、ERB-1、ITQ-1、ITQ-2、MCM-36、MCM-49、MCM-56、UZM-8、及びこれらの混合物、特にMCM-22、MCM-49、MCM-56及びこれらのイソタイプが挙げられる。
都合良くは、モレキュラーシーブがアルミノシリケートであり、その場合にモレキュラーシーブ中のアルミニウム対水素化金属のモル比が約75から約750まで、例えば、約100から約300までであることが好ましい。
都合良くは、無機酸化物が元素の周期律表の2族、4族、13族及び14族から選ばれた元素の酸化物、例えば、アルミナ及び/又はチタニア及び/又はジルコニアである。
【0006】
都合良くは、その少なくとも一種の水素化金属がパラジウム、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、及びコバルト、特にパラジウムから選ばれる。
都合良くは、ヒドロアルキル化条件として、約100〜400℃の温度及び/又は約100〜7000kPaaの圧力が挙げられる。典型的には、前記接触の際の水素対ベンゼンのモル比が約0.15:1〜約15:1の範囲である。
一実施態様において、流出物がまたジシクロヘキシルベンゼンを含み、そのジシクロヘキシルベンゼンの少なくとも一部がトランスアルキル化条件下でベンゼンと接触させられて更なるシクロヘキシルベンゼンを生成する。
更なる局面において、本発明はフェノール及びシクロヘキサノンの同時製造方法にあり、その方法はシクロヘキシルベンゼンを本明細書に記載された方法により製造し、シクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを製造し、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを開裂してフェノール及びシクロヘキサノンを製造することを含む。この更なる局面の一実施態様において、シクロヘキサノンがその後に脱水素されて更なるフェノールを生成する。
【0007】
シクロヘキシルベンゼンを製造するためのベンゼンのヒドロアルキル化のための方法そしてその後に任意の更なる段階における、シクロヘキサノン及びフェノールへの2工程方法におけるシクロヘキシルベンゼンの変換が本明細書に記載される。そのヒドロアルキル化工程が所望のモノシクロヘキシルベンゼン生成物に加えてジシクロヘキシルベンゼンを製造する限り、その方法はジシクロヘキシルベンゼンを追加のベンゼンでトランスアルキル化して追加のモノシクロヘキシルベンゼン生成物を製造する更なる工程を含み得る。
ベンゼンヒドロアルキル化
本方法における第一の工程はベンゼンをヒドロアルキル化条件下かつ新規ヒドロアルキル化触媒の存在下で水素と接触させることであり、それによりベンゼンが下記の反応を受ける。
【0008】
【化1】

【0009】
競争反応はシクロヘキサンを生成するためのベンゼンの完全飽和、ジシクロヘキシルベンゼンを生成するためのジアルキル化及び不純物、例えば、メチルシクロペンチルベンゼンを生成するための再編成/アルキル化反応を含む。ジシクロヘキシルベンゼンは追加のモノシクロヘキシルベンゼン生成物を生成するためにトランスアルキル化し得るが、シクロヘキサンへの変換が貴重な供給原料の損失に相当し、不純物、例えば、メチルシクロヘキシルベンゼン(MCPB)が特に望ましくない。何とならば、MCPBの沸点がシクロヘキシルベンゼン(CHB)のそれに非常に近く、それ故、MCPBをCHB(これはヒドロアルキル化反応からの所望の生成物である)から分離することが非常に困難であるからである。
あらゆる市販のベンゼン供給原料がヒドロアルキル化工程で使用し得るが、ベンゼンが少なくとも99質量%の純度レベルを有することが好ましい。同様に、水素の源が重要ではないが、水素が少なくとも99質量%の純度であることが一般に望ましい。
ヒドロアルキル化工程への全部の供給原料は1000ppm未満、例えば、500ppm未満の水を含むことが好ましい。全部の供給原料は典型的には100ppm未満、例えば、30ppm未満、例えば、3ppm未満の硫黄を含むことが好ましい。全部の供給原料は10ppm未満、例えば、1ppm未満、例えば、0.1ppm未満の窒素を含むことが好ましい。特に好ましい実施態様において、水、硫黄及び窒素についての上記好ましいレベルの少なくとも二つ、好ましくは、三つ全てが達成される。
ヒドロアルキル化反応は固定床、スラリー反応器、及び/又は接触蒸留塔を含む広範囲の反応器配置で行ない得る。好適な反応温度は約100℃〜約400℃、例えば、約125℃〜約250℃である。好適な反応圧力は約100kPaa〜約7,000kPaa、例えば、約500kPaa〜約5,000kPaaである。水素対ベンゼンのモル比に適した値は約0.15:1〜約15:1、例えば、約0.4:1〜約4:1である。
ヒドロアルキル化反応に使用される新規触媒はモレキュラーシーブ、モレキュラーシーブとは異なる無機酸化物及び水素化金属の複合材料であり、その水素化金属の少なくとも50質量%がモレキュラーシーブよりもむしろ無機酸化物に担持される。特に、水素化金属を無機酸化物で担持することにより、触媒の活性並びにシクロヘキシルベンゼン及びジシクロヘキシルベンゼンへのその選択性が均等触媒(水素化金属がモレキュラーシーブで担持される)と較べて増大されることがわかる。
【0010】
一般に、本ヒドロアルキル化方法に使用されるモレキュラーシーブは少なくとも7Åの平均細孔サイズを有し、都合良くはゼオライトベータ、ゼオライトX、ゼオライトY、モルデナイト及びMCM-22ファミリーのモレキュラーシーブからなる群から選ばれる。ゼオライトベータ及びその合成が、例えば、米国特許第3,308,069号に開示されている。
本明細書に使用される“MCM-22 ファミリー物質”(又は“MCM-22 ファミリーの物質”もしくは“MCM-22 ファミリーのモレキュラーシーブ”)という用語は、
・普通の第一級(first degree)結晶性ビルディングブロック単位セル(その単位セルはMWWフレームワークトポロジーを有する)からつくられたモレキュラーシーブ(単位セルは原子の空間配置であり、これは三次元空間中で傾斜された場合に結晶構造を記載する。このような結晶構造が“ゼオライトフレームワーク型のアトラス“, 第五編, 2001(その全内容が参考として含まれる)に説明されている);
・一つの単位セル厚さ、好ましくは一つのc-単位セル厚さの単層を形成する、このようなMWWフレームワークトポロジー単位セルの2次元の傾斜である、普通の第二級(second degree)ビルディングブロックからつくられたモレキュラーシーブ;
・一つ以上の一単位セル厚さの層である、普通の第二級ビルディングブロックからつくられたモレキュラーシーブ(一つより多い単位セル厚さの層が一単位セル厚さの少なくとも二つの単層を積み重ね、充填し、又は結合することからつくられる。このような第二級ビルディングブロックの積み重ねは規則的な様式、不規則な様式、ランダム様式、又はこれらのあらゆる組み合わせであってもよい);及び
・MWWフレームワークトポロジーを有する単位セルのあらゆる規則的又はランダムな2次元又は3次元の組み合わせによりつくられたモレキュラーシーブ
の一つ以上を含む。
【0011】
MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブは一般に12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07及び3.42±0.07 Åにd-間隔最大を含むX線回折パターンを有する。これらの物質を特性決定するのに使用されるX線回折データは通常の技術により、例えば、入射放射線としての銅のK-α二重線及び収集システムとしてのシンチレーションカウンター及び関連コンピュータを備えたディフラクトメーターを使用して得られる。
MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブとして、MCM-22 (米国特許第4,954,325号に記載されている)、PSH-3 (米国特許第4,439,409号に記載されている)、SSZ-25 (米国特許第4,826,667号に記載されている)、ERB-1 (欧州特許第0293032号に記載されている)、ITQ-1 (米国特許第6,077,498号に記載されている), ITQ-2 (国際特許公開WO97/17290に記載されている)、MCM-36 (米国特許第5,250,277号に記載されている)、MCM-49 (米国特許第5,236,575号に記載されている)、MCM-56 (米国特許第5,362,697号に記載されている)、UZM-8 (米国特許第6,756,030号に記載されている)、及びこれらの二種以上の混合物が挙げられる。モレキュラーシーブは(a) MCM-49、(b) MCM-56 並びに(c) MCM-49 及びMCM-56のイソタイプ、例えば、ITQ-2から選ばれることが好ましい。
ヒドロアルキル化触媒中に使用される無機酸化物は、それがヒドロアルキル化反応の条件下で安定かつ不活性であることを条件として狭く特定されない。好適な無機酸化物として、元素の周期律表の2族、4族、13族及び14族の元素の酸化物、例えば、アルミナ、チタニア及びジルコニアが挙げられる。本明細書に使用される周期律表グループについてのナンバリングスキームはChemical and Engineering News, 63(5), 27 (1985)に開示されているようなものである。
同様に、あらゆる既知の水素化金属が触媒複合材料中に使用し得るが、好適な金属として、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、及びコバルトが挙げられ、パラジウムが特に有利である。一般に、触媒中に存在する水素化金属の量は触媒の約0.05質量%〜約10質量%、例えば、約0.1質量%〜約5質量%である。一実施態様において、モレキュラーシーブがアルミノシリケートである場合、存在する水素化金属の量はモレキュラーシーブ中のアルミニウム対水素化金属のモル比が約1.5から約1500まで、例えば、約75から約750まで、例えば、約100から約300までであるような量である。
【0012】
水素化金属は水素化金属の少なくとも50質量%、例えば、少なくとも75質量%、好ましくは実質的に全て、更には100質量%が無機酸化物で担持されるように複合材料触媒中に存在する。これは水素化金属の少なくとも一部、好ましくは実質的に全てを無機酸化物に付着することにより都合良く達成され、その後に金属含有無機酸化物が前記モレキュラーシーブと複合される。必要により、追加の水素化金属が続いて得られる触媒複合材料に付着し得る。典型的には、触媒複合材料は同時ペレット化により生成され、その場合、モレキュラーシーブ及び無機酸化物の混合物が高圧(一般に約350kPa〜約350,000kPa)で、又は同時押出(この場合、モレキュラーシーブ及び無機酸化物の混合物、例えば、スラリーが、必要により別のバインダーと一緒に、ダイに押しやられる)によりペレットに成形される。
好適なバインダー材料として、合成物質又は天然産物質だけでなく、無機物質、例えば、クレー、シリカ及び/又は金属酸化物が挙げられる。後者は天然産であってもよく、又はシリカ及び金属酸化物の混合物を含むゼラチン質の沈殿又はゲルの形態であってもよい。バインダーとして使用し得る天然産クレーとして、モンモリロナイトファミリー及びカオリンファミリーのクレー(これらのファミリーはサブベントナイトを含む)並びにディキシイクレー、マックナミイクレー、ジョージアクレー及びフロリダクレーとして普通知られているカオリン又はその他(その場合、主金属成分がハロイサイト、カオリナイト、ジッカイト、ナクライト又はアナウキサイトである)が挙げられる。このようなクレーは初期に微粉砕され、又は最初に焼成、酸処理もしくは化学変性にかけられた生の状態で使用し得る。好適な金属酸化物バインダーとして、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニアだけでなく、3成分組成物、例えば、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア及びシリカ-マグネシア-ジルコニアが挙げられる。上記された別のバインダーは酸化物が触媒金属(その少なくとも50質量%)を担持し、別のバインダーが担持しない点で複合材料触媒の必要な成分である無機酸化物とは異なることが理解されるであろう。
ヒドロアルキル化工程はシクロヘキシルベンゼンについて高度に選択的であるが、ヒドロアルキル化反応からの流出物は通常若干のジアルキル化生成物だけでなく、未反応の芳香族供給原料及び所望のモノアルキル化種を含むであろう。未反応の芳香族供給原料は通常蒸留により回収され、アルキル化反応器に循環される。ベンゼン蒸留からのボトムが更に蒸留されてモノシクロヘキシルベンゼン生成物をジシクロヘキシルベンゼン及びその他のヘビーから分離する。反応流出物中に存在するジシクロヘキシルベンゼンの量に応じて、ジシクロヘキシルベンゼンを追加のベンゼンでトランスアルキル化して所望のモノアルキル化種の生成を最大にすることが望ましいかもしれない。
【0013】
追加のベンゼンによるトランスアルキル化は典型的には好適なトランスアルキル化触媒、例えば、MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブ、ゼオライトベータ、MCM-68(米国特許第6,014,018号を参照のこと)、ゼオライトY又はモルデナイトについて、ヒドロアルキル化反応器とは別の、トランスアルキル化反応器中で行なわれる。トランスアルキル化反応は典型的には少なくとも部分的液相条件下で行なわれ、これらの条件は好適には約100℃〜約300℃の温度を含む。トランスアルキル化は約800kPa〜約3500kPaの圧力及び/又は全供給原料についての約1hr-1〜約10hr-1の毎時の質量空間速度及び/又は約1:1〜約5:1のベンゼン/ジシクロヘキシルベンゼン質量比で行なわれることが好ましい。
シクロヘキシルベンゼン酸化
シクロヘキシルベンゼンをフェノール及びシクロヘキサノンに変換するために、シクロヘキシルベンゼンが最初に相当するヒドロペルオキシドに酸化される。これは空気の如き酸素含有ガスをシクロヘキシルベンゼンを含む液相に導入することにより達成される。クメンと違って、触媒の不在下のシクロヘキシルベンゼンの大気の空気酸化は非常に遅く、それ故、その酸化は通常触媒の存在下で行なわれる。
【0014】
シクロヘキシルベンゼン酸化工程に適した触媒は米国特許第6,720,462号(本明細書に参考として含まれる)に記載されたN-ヒドロキシ置換環状イミド、例えば、N-ヒドロキシフタルイミド、4-アミノ-N-ヒドロキシフタルイミド、3-アミノ-N-ヒドロキシフタルイミド、テトラブロモ-N-ヒドロキシフタルイミド、テトラクロロ-N-ヒドロキシフタルイミド、N-ヒドロキシヘトイミド、N-ヒドロキシヒムイミド、N-ヒドロキシトリメリットイミド、N-ヒドロキシベンゼン-1,2,4-トリカルボキシミド、N,N'-ジヒドロキシ(ピロメリットジイミド)、N,N'-ジヒドロキシ(ベンゾフェノン-3,3',4,4'-テトラカルボキシルジイミド)、N-ヒドロキシマレイミド、ピリジン-2,3-ジカルボキシミド、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-ヒドロキシ(酒石酸イミド)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシミド、エキソ-N-ヒドロキシ-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシミド、N-ヒドロキシ-シス-シクロヘキサン-1,2-ジカルボキシミド、N-ヒドロキシ-シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシミド、N-ヒドロキシナフタルイミドナトリウム塩又はN-ヒドロキシ-o-ベンゼンジスルホンイミドである。触媒がN-ヒドロキシフタルイミドであることが好ましい。別の好適な触媒はN,N',N''-トリヒドロキシイソシアヌル酸である。
これらの物質は単独で、又は遊離基開始剤の存在下で使用でき、液相、均一触媒として使用でき、又は不均一触媒を用意するために固体担体で担持し得る。典型的には、N-ヒドロキシ置換環状イミド又はN,N',N''-トリヒドロキシイソシアヌル酸がシクロヘキシルベンゼンの0.0001質量%〜15質量%、例えば、0.001質量%〜5質量%の量で使用される。
酸化工程に適した条件として、約70℃〜約200℃、例えば、約90℃〜約130℃の温度及び/又は約50kPa〜10,000kPaの圧力が挙げられる。あらゆる酸素含有ガス、好ましくは空気が酸化媒体として使用し得る。その反応は回分式反応器又は連続流反応器中で行ない得る。塩基性緩衝剤が酸化中に生成し得る酸性副生物と反応するために添加されてもよい。加えて、水相が導入されてもよく、これが炭酸ナトリウムの如き塩基性化合物を溶解することを助け得る。
【0015】
ヒドロペルオキシド開裂
フェノール及びシクロヘキサノンへのシクロヘキシルベンゼンの変換における最後の反応工程はシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂を伴ない、これは都合良くはそのヒドロペルオキシドを液相中で触媒と接触させることにより行なわれる。その接触は約20℃〜約150℃、例えば、約40℃〜約120℃の温度であることが好ましい。圧力は約50kPa〜約2,500kPa、例えば、約100kPa〜約1000kPaであることが好ましい。シクロヘキシルベンゼンはその開裂反応に不活性な有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、フェノール又はシクロヘキシルベンゼン中で希釈されて、熱除去を助けることが好ましい。その開裂反応は都合良くは接触蒸留ユニット中で行なわれる。
開裂工程で使用される触媒は均一触媒又は不均一触媒であってもよい。
好適な均一開裂触媒として、硫酸、過塩素酸、リン酸、塩酸及びp-トルエンスルホン酸が挙げられる。塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、二酸化硫黄及び三酸化硫黄がまた有効な均一開裂触媒である。好ましい均一開裂触媒は硫酸であり、その好ましい濃度は0.05質量%〜0.5質量%の範囲である。均一酸触媒について、中和工程がその開裂工程に続くことが好ましい。このような中和工程は典型的には塩基性成分との接触、その後の塩に富む水相のデカントを伴なう。
シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂における使用に適した不均一触媒として、スメクタイトクレー、例えば、米国特許第4,870,217号(その全開示が参考として本明細書に含まれる)に記載されたような、酸性モンモリロナイトシリカ-アルミナクレーが挙げられる。
開裂工程からの粗シクロヘキサノン及び粗フェノールは精製シクロヘキサノン及び/又は精製フェノールを生成するために更なる精製にかけられてもよい。好適な精製プロセスとして、シクロヘキサノン及びフェノールをその他の種から分離するための一連の蒸留塔が挙げられるが、それに限定されない。粗又は精製シクロヘキサノンはそれをフェノールに変換するためにそれ自体が脱水素化にかけられてもよい。このような脱水素化は、例えば、白金、ニッケル又はパラジウムの如き触媒で行なわれてもよい。
下記の実施例は例示目的のために示され、本発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0016】
ヒドロアルキル化における水素化金属の配置の重要性を説明するために、下記の表1はパラジウムがモレキュラーシーブ(触媒A)又は無機酸化物担体(触媒B)にある以外は同じ量のパラジウムを含む、2種の触媒、A及びBの性能を比較する。両方の触媒がPd0.006g及びMCM-49 1.6gを含み、触媒Aがガンマアルミナ担体0.4gを含み、触媒Bがガンマアルミナ担体2.0gを含む。
パラジウムを初期湿式技術によりMCM-49ゼオライトに付着することにより触媒Aを調製した。次いでガンマアルミナをPd含浸MCM-49に添加して混合物を生成した。次いで136,000kPaaより下の手のプレスを60秒間使用してその混合物をペレット化してペレットを形成した。次いでそのペレットを0.250mmの開口部中を通らないが、0.841mmの開口部中を通る粒子(20/60メッシュ粒子)に分粒し、その後にそれをそのベンゼンヒドロアルキル化性能について試験した。触媒Aでは、全てのパラジウムがモレキュラーシーブ上にある。
最初にパラジウムをガンマアルミナに付着することにより触媒Bを調製した。次いでPd含有ガンマアルミナをMCM-49に添加して混合物を生成した。次いで136,000kPaaより下の手のプレスを60秒間使用してその混合物をペレットにした。次いでそのペレットを0.250mmの開口部中を通らないが、0.841mmの開口部中を通る粒子(20/60メッシュ粒子)に分粒し、その後にそれをそのベンゼンヒドロアルキル化性能について試験した。触媒Bでは、全てのパラジウムが無機酸化物上にある。
0.08cc/分のベンゼン及び10cc/分の水素を含む供給原料を用いて、触媒を150℃の温度及び1034kpag(150psig)の圧力で試験した。結果を表1に要約する。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から見られるように、触媒Bの性能は触媒Aのそれよりも優れている。触媒Bの転化率は触媒Aについての36.9質量%と較べて43.5質量%である。更に、シクロヘキシルベンゼン及びジシクロヘキシルベンゼンについての全転化率は触媒Bについてほぼ88質量%であり、これは触媒Aにより示される85%の選択率よりも有意に高い。その表は無機酸化物上に水素化金属を有することの重要性を説明する。
本発明が特別な実施態様を参照して記載され、説明されたが、当業者は本発明が必ずしも本明細書に説明されていない変化に適合することを認めるであろう。この理由のために、本発明の真の範囲を決める目的のために特許請求の範囲のみが参考にされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロヘキシルベンゼンの製造方法であって、ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化条件下で触媒と接触させてシクロヘキシルベンゼンを含む流出物を生成することを含み、その触媒がモレキュラーシーブ、前記モレキュラーシーブとは異なる無機酸化物及び少なくとも一種の水素化金属の複合材料を含み、前記水素化金属の少なくとも50質量%が該無機酸化物で担持されていることを特徴とする、シクロヘキシルベンゼンの製造方法。
【請求項2】
水素化金属の少なくとも75質量%が該無機酸化物で担持されている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
水素化金属の実質的に全てが該無機酸化物で担持されている、請求項2記載の方法。
【請求項4】
該無機酸化物がモレキュラーシーブと複合化される前に、少なくとも一種の水素化金属が該無機酸化物に施される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
触媒が、少なくとも一種の水素化金属を該無機酸化物に付着させ、次いで金属含有無機酸化物及びモレキュラーシーブの混合物を同時ペレット化することにより生成される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
触媒が、少なくとも一種の水素化金属を無機酸化物に付着させ、次いで金属含有無機酸化物及びモレキュラーシーブの混合物を同時押出することにより生成される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
混合物が更にバインダーを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
モレキュラーシーブが少なくとも7Åの平均細孔サイズを有する、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
モレキュラーシーブがゼオライトベータ、ゼオライトX、ゼオライトY、モルデナイト及びMCM-22ファミリーのモレキュラーシーブから選ばれる、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
モレキュラーシーブがMCM-22ファミリーのものであり、かつ12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07及び3.42±0.07 Åにd-間隔最大を含むX線回折パターンを有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
モレキュラーシーブがMCM-22、PSH-3、SSZ-25、ERB-1、ITQ-1、ITQ-2、MCM-36、MCM-49、MCM-56、UZM-8、及びこれらのあらゆる二種以上の組み合わせから選ばれる、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
モレキュラーシーブがMCM-22、MCM-49、MCM-56及びこれらのあらゆる二種以上の組み合わせから選ばれる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
モレキュラーシーブがアルミノシリケートであり、かつモレキュラーシーブ中のアルミニウム対水素化金属のモル比が1.5から1500までである、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
モレキュラーシーブ中のアルミニウム対水素化金属のモル比が100から300までである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
無機酸化物が元素の周期律表の2族、4族、13族及び14族の少なくとも一種の元素の酸化物を含む、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
無機酸化物がアルミナ及び/又はチタニア及び/又はジルコニアを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも一種の水素化金属又はその一種がパラジウム、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、及びコバルトから選ばれる、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも一種の水素化金属又はその一種がパラジウムを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記接触における水素対ベンゼンのモル比が0.15:1〜15:1の範囲である、請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
ヒドロアルキル化条件が100℃から400℃までの温度及び/又は100kPaaから7000kPaaまでの圧力を含む、請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
流出物がまたジシクロヘキシルベンゼンを含み、かつそのジシクロヘキシルベンゼンの少なくとも一部をトランスアルキル化条件下でベンゼンと接触させて更なるシクロヘキシルベンゼンを生成する、請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
フェノール及びシクロヘキサノンの同時製造方法であって、その方法がシクロヘキシルベンゼンを請求項1から21のいずれかに記載の方法により製造し、シクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、そのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを開裂してフェノール及びシクロヘキサノンを製造することを特徴とする、前記製造方法。
【請求項23】
シクロヘキサノンを脱水素して更なるフェノールを製造することを更に含む、請求項22記載の方法。

【公表番号】特表2010−535822(P2010−535822A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520442(P2010−520442)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006072
【国際公開番号】WO2009/021604
【国際公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(509004675)エクソンモービル ケミカル パテンツ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】