説明

シネオール

本発明は、1,8-シネオールから不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物の製造方法に関する。この方法は、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒の存在下で、1,8-シネオールを熱分解する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、シネオールに関し、特に、シネオールを、熱分解によって他の有用な化合物に変換するための方法に関する。本発明は、この方法に従って製造される化合物にも関する。
【背景技術】
【0002】
原油価格の激しい変動と、これに関連して持続可能な生物由来代替物で石油化学製品を置き換えようというますます高まる要求とにより、工業的に有用な化合物としての役割を果たし得る、又はそれらに変換され得る、生物由来原料を見出すことに向けられた、かなりの量の研究努力がされてきた。
【0003】
1,8-シネオール(以下、単にシネオールと称する)は、ゲッケイジュ(bay)、魚柳梅(tea tree)、ヨモギ(mugwort)、メボウキ(sweet basil)、クソニンジン(wormwood)、ローズマリー、セージ及びユーカリなどの様々な植物種から抽出され得る、天然に産する有機化合物である。
【0004】
シネオールは、ユーカリ油の主成分(約90wt%)であり、ユーカリ油は、ユーカリ属から抽出されるオイルに対する一般的な総称である。ユーカリ油においてシネオールが主成分であることは、この化合物のより一般的な名称「ユーカリプトール(eucalyptol)」に反映されている。
【0005】
ユーカリ油の製造量が増加し、それに応じて、そのコストが低下しているので、シネオールは、工業的に有用な化合物の製造のための魅力的な再生可能原料として存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、シネオールを1種又は複数の他の有用な化合物に変換するための方法を開発する可能性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒の存在下で、1,8-シネオールを熱分解する工程を含む、1,8-シネオールから不飽和環状及び/又は芳香族の化合物の製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
今般、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒を、シネオールを1種又は複数の工業的に有用な不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物に効果的かつ効率的に変換するために使用することができることが見出された。特に、シネオールを、p-シメン及びジペンテン(すなわち、リモネンのラセミ混合物)などの環状モノテルペノイドに容易に変換することができる。
【0009】
触媒の遷移金属の種類及び/又は熱分解条件を調整することによって、本発明による方法は、様々な化合物を生じるように、特に、高い収率で所定の化合物の実質的に排他的な選択性を生じるように、都合よく適合させることができる。
【0010】
不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物の製造に加えて、本発明による方法は、有利には、水素ガスを製造することができる。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の方法により、不飽和環状モノテルペノイド及び/又は芳香族モノテルペノイドが製造される。さらなる実施形態では、本方法により、ジペンテン及び/又はp-シメンが製造される。
【0012】
本発明による方法は、様々な遷移金属を用いて有利に実施することができる。1つの実施形態では、遷移金属は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、レニウム、並びに貴金属(すなわち、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、及び金)の1種又は複数種から選択される。
【0013】
パラジウムは、高い変換率及び選択性で、p-シメンを製造するのに特に効果的であることが見出された。
【0014】
したがって、さらなる実施形態では、1,8-シネオールからp-シメンを製造するための方法が提供され、この方法は、1,8-シネオールを、ガンマ-アルミナに担持されたパラジウム触媒の存在下で熱分解する工程を含む。
【0015】
本発明は、1,8-シネオールからの不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物の製造における、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒の使用も提供する。
【0016】
本発明は、さらに、不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物を製造するための1,8-シネオールの熱分解における、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒の使用を提供する。
【0017】
本発明のさらなる態様を、以下により詳細に論じる。
【0018】
1,8-シネオールは、次の構造を有する、天然に産する有機化合物である。
【0019】
【化1】

【0020】
本発明において用いるのに適するシネオールは、容易に市場で入手可能である。例えば、+99%のシネオールは、オーストラリアの会社であるFGB Natural products(Felton Grimwade & Bosisto’s Pty Ltd)及びKalannie Distillersから入手できる。本発明において用いるシネオールは、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、最も好ましくは少なくとも99%の純度を有することが好ましい。
【0021】
本発明の方法によって製造される化合物について「不飽和」であるとは、このような化合物が1個又は複数個の多重結合を含むことを意味することを意図する。不飽和は、化合物の環状及び/又は非環状の部分の一部を形成し得る。通常、不飽和は、1個又は複数個の2重結合の形であり得る。
【0022】
製造される不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物は、一般に、主として(すなわち、約50wt%を超えて)、不飽和環状及び/又は芳香族モノテルペノイドの形態であり得る。
【0023】
不飽和環状モノテルペノイド及び/又は芳香族モノテルペノイドは、一般に、C10不飽和環状モノテルペノイド及び/又はC10芳香族モノテルペノイドであり得る。
【0024】
1つの実施形態では、本方法により、ジペンテン及びp-シメンから選択される不飽和環状モノテルペノイド及び/又は芳香族モノテルペノイドを製造する。
【0025】
ジペンテン及びp-シメンは、それぞれ次の構造を有する。
【0026】
【化2】

【0027】
不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物(すなわち、疎水性有機生成物)に加えて、本発明による方法により、一般に、水(すなわち、親水性生成物)、並びに場合によって、水素、一酸化炭素、及び/又は二酸化炭素(すなわち、気体生成物)を生成し得る。これらのさらなる生成物に関するさらなる詳細を、以下で論じる。
【0028】
本発明による方法は、シネオールを工業的に有用な他のC10化合物に変換するのに特に効果的であると考えられる。このような化合物の中で、p-シメンは、それが、p-クレゾール、芳香剤、医薬品、除草剤、及びファインケミカルの製造に使用され得るという点で、特に関心がもたれる。
【0029】
シメンは、従来、トルエンおよびプロピレンから商業的に誘導されており、トルエンおよびプロピレンはいずれも原油から通常誘導されている。この製造プロセスは、m-及びp-異性体が主である3つの異なる異性体の混合物を生じる。純粋なp-シメンへのさらなる分離は、通常、UOP「Cymex」法を用いて実現され、その方法では、異性体の混合物は、吸着材(例えば、モレキュラーシーブ)及び脱離媒体(例えば、トルエン)を用いるクロマトグラフィーにかけられる。
【0030】
トルエンのアルキル化における位置選択性(regioselectivity)のためにZSM-5触媒を用いるp-シメンの直接合成の探求が行われ、原料としてピネンを用いる研究も行われてきた。
【0031】
しかし、これらの方法は、それでもやはり、再生可能でない原油原料を用いることに依存している。
【0032】
触媒によるシネオールのp-シメンへの変換も知られている。しかし、このような方法は、多くの場合、比較的劣った、p-シメンへの変換率及び/又は選択性をもたらす。いくつかの方法は、p-シメンを生じるように、比較的高い温度(例えば、450℃)で実施されなければならない。したがって、このような方法には、多数の商業上の制約がある。
【0033】
かなりの数の様々な化合物を製造する柔軟性を備えることは別にしても、本発明による方法は、比較的低い温度で、高い変換率及び選択性でシネオールからp-シメンを有利に製造することができる。したがって、本方法は、先行技術を凌ぐ、多くの工業的な利点を有する。
【0034】
不飽和環状化合物又は芳香族化合物は、本方法において用いるシネオールの質量に対して約50wt%以上、例えば、約60wt%以上、約70wt%以上、約80wt%以上、又は約90wt%以上の収率で、本方法に従って有利に製造することができる。
【0035】
1つの実施形態では、本発明の方法は、シネオールからp-シメンを、シネオールの質量に対して約50wt%以上、例えば、約60wt%以上、約70wt%以上、約80wt%以上、又は約90wt%以上の量で、生成する。
【0036】
本発明により製造される有機化合物の前記収率は、比較的低い熱分解温度で有利に達成することができる。例えば、1つ又は複数の前記収率は、約200℃から約400℃、又は約200℃から約350℃の範囲の温度で、シネオールを熱分解することによって達成され得る。1つの実施形態では、シネオールの熱分解は、約200℃から約275℃の範囲の温度で実施される。熱分解は一定温度で実施することができ、温度を所望するプロフィールに従って変化させることもできる。
【0037】
本明細書において用語「熱分解」、又は「熱分解する」、「熱分解される」などのその変形は、熱の作用によって、引き起こされるシネオールの分子変換を誘発させることを意味する。分子変換は、例えば、脱水及び/又は脱水素反応を受けるシネオールにより起こり得る。
【0038】
本発明によるシネオールの熱分解は、当業者によく知られている技術を用いて実施することができる。例えば、シネオールを蒸気相において都合よく熱分解することができる。その場合、触媒を、ステンレス鋼メッシュバスケット(mesh basket)内に入れ、次いで、そのバスケットは、電気加熱管状下降流反応器内に置く。次に、反応器を、所望の温度、例えば、約200℃から約500℃の温度に加熱することができる。
【0039】
当業者であれば、このような管状反応器の測定温度が、反応器内部のメッシュバスケット(以下、「固定床」と呼ぶ場合がある)内に入れた触媒の温度を正確に反映しない場合があり得ることを理解するであろう。一般に、触媒の固定床の温度は、反応管の温度より低くなり得る。
【0040】
不正確となることを避けるために、本発明による熱分解が起こる温度は、触媒の位置で測定された温度とする。この温度は、反応器自体の測定温度であることも、そうでないこともあり得る。これらの温度は、適切な手段のいずれかによって、例えば、適切な位置に置かれた熱電対(例えば、K型熱電対)を用いることによって測定することができる。
【0041】
反応器が所望の温度に加熱された後にシネオールを導入することができる。シネオールは、適切な手段のいずれかによって、例えば、シリンジポンプなどのポンプによって、導入することができる。
【0042】
シネオールは、反応器に導入された直後に、実質的に気化され得る。気化したシネオールを固定床触媒に運ぶことを助けるために、キャリアガスを使用することができる。キャリアガスは、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスであってよい。その場合、本発明に従って実施される熱分解は、不活性熱分解と呼ばれ得る。別法では、キャリアガスは、酸素などの反応性ガスを含んでいてよい。その場合、熱分解は、酸化性熱分解と呼ばれ得る。
【0043】
本発明に従って生成されるガス状化合物は、キャリアガスの組成に応じて変わり得ることが見出された。例えば、不活性キャリアガスを用いる場合、主として、水素が生成され得る。このような不活性キャリアガスに、ある体積パーセントの酸素を導入すると、生成される水素の量が減少し、それに対応して二酸化炭素及び/又は一酸化炭素などの酸化物気体生成物が増加し得る。
【0044】
キャリアガス中の酸素の存在は、本発明により生成される不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物の収率および種類を変えることも見出された。例えば、固定床触媒の所定の温度において、不活性キャリアガスに、ある体積パーセントの酸素ガスを導入すると、結果的に、シネオールの、不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物への変換率がより大きくなり得る。
【0045】
キャリアガスが、酸素などの反応性ガスを含む場合、反応性ガスは、通常、約0.05vol%から約22vol%、例えば約5vol%から約15vol%の範囲の量で存在し得る。
【0046】
したがって、本方法の実施において、シネオールは固定床触媒の上流で反応器に導入され、そのシネオールが気化され、キャリアガスの助けによって固定床触媒に運ばれ得る。
【0047】
したがって、1つの実施形態では、シネオールは気化され、キャリアガスは、シネオールを触媒に輸送する助けをする。
【0048】
シネオールを触媒の「存在」下で熱分解されることは、シネオールが不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物に変換されるのに十分な温度で、シネオールが触媒と接触することを意味する。
【0049】
本発明において用いる、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒は、1種又は複数種の遷移金属でドーピングされたガンマ-アルミナを含む。当業者であれば、ガンマ-アルミナは、それだけで触媒物質として使用され得、あるいは、本発明におけるように触媒物質の製造における担体としても使用され得る、特別な形態の酸化アルミニウムであることを理解するであろう。
【0050】
触媒用途に用いるのに適するガンマ-アルミナは、一般に、例えば、約10m2/gを超える、又は約50m2/gを超える、又は約100m2/gを超える、又は約200m2/gを超える、比較的大きな表面積を有する。一般に、本発明により用いるアルミナ担体は、約10m2/gから約240m2/gの範囲の表面積を有し得る。
【0051】
本発明において用いるのに適するガンマ-アルミナは、市場から、例えば、Saint-Gobain NorPro(米国)から容易に入手可能である。
【0052】
ガンマ-アルミナは、1種又は複数種の遷移金属のための担体として役割を果たし、この形態では、1種又は複数種の遷移金属により「ドーピング」されていると言うことができる。
【0053】
触媒が、シネオールの、不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物への変換において、機能を果たす限りにおいて、それが如何に調製され得るかについての特別な制限は存在しない。例えば、触媒は、湿式含侵法によって調製され得る。その場合、例えばペレットの形又は望みの任意の他の形態のガンマ-アルミナを、選択された遷移金属の適切な金属塩(例えば、硝酸塩)の水溶液を用いてドーピングすることができる。次いで、得られたドーピングされたガンマ-アルミナを、本発明において用いるために適した触媒物質を得るために、乾燥させた後、空気中で焼成することができる。
【0054】
1つの実施形態では、触媒は、ガンマ-アルミナ担体を遷移金属塩を含む水溶液に浸漬する工程、得られた遷移金属でドーピングされたガンマ-アルミナ担体を水溶液から単離する工程、及び、単離した生成物を焼成して触媒を得る工程、によって調製される。このような実施形態において、水溶液中の遷移金属塩の濃度は、通常、約0.1Mから約2.5Mの範囲であってよい。当業者であれば、いくつかの遷移金属塩は、2.5M未満の濃度で飽和溶液を生成し得ることを理解するであろう。その場合、濃度範囲は、約0.1Mからほぼ飽和した状態までであってよい。
【0055】
別の実施形態では、触媒は、ガンマ-アルミナ担体を、遷移金属塩を含む水溶液に浸漬する工程、この溶液から水性液体を蒸発させて、遷移金属でドーピングされたガンマ-アルミナ担体を単離する工程、及び、単離した生成物を焼成して触媒を得る工程、によって調製される。このような実施形態では、水溶液に用いる遷移金属の量は、触媒によって担持させるべき量と、通常、同量であることができる。別の言い方をすると、水性液体を蒸発させることによって、ガンマ-アルミナ担体を、溶液中に存在した実質的に全ての遷移金属でドーピングすることができる。
【0056】
通常、ガンマ-アルミナは、(担体の質量に基づく遷移金属の質量%で)約0.01%から約10%、例えば、約0.3%から約2.5%の範囲の量の1種又は複数種の遷移金属でドーピングすることができる。
【0057】
本明細書で用いる「遷移金属」は、原子が不完全に占有されたd副殻を有する周期表の元素、又は、不完全に占有されたd副殻を有する陽イオンを生じ得る周期表の元素を意味する。したがって、本発明において用いるのに適する遷移金属には、下のTable 1 (表1)に示される、周期表の3族から11族の元素が含まれる。
【0058】
【表1】

【0059】
本発明の1つの実施形態では、遷移金属は、Table 1 (表1)に示した3から11族で、第4から第6周期だけのものの1種又は複数種から選択される。さらなる実施形態において、遷移金属は、Table 1 (表1)に示した5から11族で、第4から第6周期だけのものの1種又は複数種から選択される。さらなる実施形態において、遷移金属は、Table 1 (表1)に示した5から10族で、第4から第6周期だけのものの1種又は複数種から選択される。さらなる実施形態において、遷移金属は、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び金の1種又は複数種から選択される。さらなる実施形態において、遷移金属は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金の1種又は複数種から選択される。別の実施形態において、遷移金属はパラジウムである。
【0060】
用いる触媒の種類及び/又は熱分解条件に応じて、本発明により製造される化合物の特質を、都合よく変えることができる。
【0061】
1つの実施形態では、シネオールが熱分解されて、ジペンテン及び/又はp-シメンを生成する。その場合、触媒によるシネオールの変換は、ジペンテン及び他の構造的に類似の不飽和環状モノテルペノイドの形成は脱水機構によって、また、p-シメンの形成はさらなる脱水素反応によって起こると考えられる。このような変換機構を、以下のスキーム1に示す。
【0062】
【化3】

スキーム1:脱水による、シネオールの、不飽和環状モノテルペノイドへの変換、及び、p-シメンなどの芳香族モノテルペノイドを与える脱水素反応について提案する機構。
【0063】
1つの実施形態では、本発明に従って製造される主要な有機化合物は、ジペンテン及び/又はp-シメンである。シネオールの、これらの化合物への変換は、水、並びに、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素などの気体生成物をも与える。シネオールのこの変換を、以下のスキーム2に示す。
【0064】
【化4】

スキーム2:本発明に従ってシネオールを熱分解することによって製造され得る生成物の例示。
【0065】
本発明に従って製造される生成物は、当業者によく知られた手段によって捕集され得る。例えば、疎水性及び親水性相を、適切な温度に保たれたステンレス鋼トラップに集めることができる。これらの相は、通常、トラップに入ると液体へと凝縮し、それらの非混和性に基づいて容易に分離することができる。気相は、通常の気体捕集装置/技術を用いて捕集することができる。
【0066】
本発明の利点は、シネオールを、高い変換率および高い選択性で、特定の有機化合物に、変換することができることである。したがって、本発明に従って生成される有機化合物は、精製するとしても最低限の精製により、次の用途のために効率的かつ効果的に集めることができる。
【0067】
用いる触媒組成(例えば、遷移金属の種類)及び/又は熱分解条件(例えば、温度、キャリアガスの組成など)を変化させることによって、本発明による方法を都合よく適合させて、様々な特定の生成物を製造することができる。例えば、鉄及びコバルトなどの遷移金属は、ジペンテン生成への選択性を示すことが見出されており、モリブデン、クロム、パラジウム、マンガン及びルテニウムなどの遷移金属は、p-シメン生成への選択性を示すことが見出された。温度の変化させること及び/又は酸素を存在させることによって、遷移金属としてニッケル又はバナジウムを用いるシネオールの熱分解により、p-シメンだけを得ることができ、あるいはp-シメンとジペンテンの混合物を得ることができる。
【0068】
用いる遷移金属にかかわらず、本発明により生成される有機化合物の収率は、熱分解が行われる温度を変えること、及び/又は、キャリアガスの組成を変えることによって、調節することができる。本発明に従って生成され得る水素の収率も、熱分解が行われる温度を変えること、及び/又は、キャリアガスの組成を変えることによって、調節することができる。
【0069】
以下に、本発明を、非限定的実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0070】
<実験の一般的な詳細>
[触媒の調製]
約1.5mmの直径を有する高表面積(約200m2g-1)ガンマ-アルミナ(以下、γ-Al2O3と称する)の管状ペレットを、僅かに酸性の触媒として、また、モリブデン、鉄、コバルト、クロム及びパラジウム金属の固体担体として用いた。金属でドーピングされたγ-Al2O3触媒を、適当な金属塩の1M水溶液を用いて、湿式含侵法によって調製した。
【0071】
1つの手順では、100mLの1M金属硝酸塩溶液を、90℃の真空オーブンで一夜加熱した70gのγ-Al2O3ペレット(Saint-Gobain NorPro、米国)の上に注いだ。混合物を、スパチュラでしばらく撹拌し、室温で一夜放置した。得られた金属-含侵γ-Al2O3ペレットを捕集し、脱イオン水で3回洗い、90℃の真空オーブン中で一夜乾燥した。次いで、コーティングされたペレットをルツボに移し、350℃で12時間、空気中で焼成した。比較例として、ドーピングしていないγ-Al2O3ペレットに、使用前に、金属をドーピングした試料と同じ処置をし、ガラスビーズを、反応表面のブランクとして用いた。
【0072】
別の手順では、γ-Al2O3ペレット担体(Saint-Gobain NorPro)を、最初に、真空中、90℃で一夜乾燥させ、次いで、100gを蒸留水(200mL)に溶かした硝酸パラジウム二水和物(0.960g)に浸漬させた。この混合物を撹拌し、溶媒を、真空中、60℃で4時間加熱することによって除去した。次に、Pd-γ-Al2O3触媒を、真空中、90℃で一夜乾燥し、350℃で12時間焼成した。最終の触媒は、γ-Al2O3上に0.38%のPdを含むことが確認された。
【0073】
[触媒の再生]
触媒は、まず反応管から取り出し、ルツボに入れ、次いで、空気中、350℃で12時間焼成することによって再生することができる。
【0074】
[安定性研究]
触媒は、8時間に亘る実験の間に、一定の僅かな失活を示すため、触媒系の長期安定性の研究が促された。一連の4サイクルの8時間連続実験を、それぞれの場合に同一の触媒物質を用いて実施した。第1サイクルでは、4gの新たに調製した0.38%Pd-γAl2O3触媒を用いて約92%のp-シメンを得て、8時間に渡り、僅かな失活/p-シメン収率の低下を示しただけであり、反応によって生成される水素の量も一定のままであった。反応を停止させ、使用した触媒を少量取り出し、TGAによる分析のために保存した。3gの使用した触媒を、350℃で12時間焼成することによって再生させた後、第2サイクルに用いた。p-シメン(約90%)の高収率が再び観察され、新鮮な触媒に非常に近い変換率を示したが、8時間の連続運転に亘って、p-シメンの収率が約85%にまで低下した。触媒を取り出し、TGA分析のための試料を保存し、残りに再び再焼成を行った。第3サイクルも、最初は、p-シメンの高収率>85%を示し、その後8時間に亘って、触媒活性が約80%にまで漸減した。再び、実験の終わりに、使用した触媒を取り出してTGAによって分析し、次いで、焼成によって再生させた。この触媒を、第4サイクルに用い、シネオールのp-シメンへの変換に対する高い触媒活性を再び観察する。このサイクルでは、触媒活性の僅かに速やかな低下が認められ、8時間後に、約75%の収率で終了する。1回目を除いて、水素の収率は、再生した触媒の全てで、比較的一定のままである(Table 3 (表3)及び7(表7)参照)。
【0075】
[触媒の特性評価]
表面分析の前に、VacPrep 061脱ガス装置を用い、試料を、真空下、300℃で一夜脱ガスした。BET表面積は、Micromeretics Tristar 3000を用い、77KでN2吸着によって求めた。XRD測定は、Cu-K α(1.542Å)線(40kV、25mA)で、Phillips DW 1130装置を用い、0.1°のステップサイズ、1°min-1の走査速度で、5°〜80°の2θの範囲に渡って、実施した。
【0076】
[触媒活性測定]
全ての反応は、注文設計した熱分解装置(pyrolysis rig)を用いて実施した。シネオールの蒸気相触媒変換は、電気加熱した管状下降流反応器(13.5mmの内径、300mmの長さ)を用い、大気圧で、触媒を固定床として保持して実施した。K型熱電対を用いて、床の温度をモニターした。供給ガスによる冷却に起因する床温度のいくらかの変動が全ての実験で見られた。熱電対、炉、加熱バンド及びマスフローコントローラ(MFC)の全てを管理し、データは、特別設計のソフトウェアを用いて記録した。
【0077】
液体生成物は、ステンレス鋼トラップに、40℃で捕集した。気体生成物は、0℃の第2トラップを通して、1mLのValco自動試料バルブを装備したオンラインShimatzu GC8Aガスクロマトグラフに送った。
【0078】
[液体生成物の分析]
大多数の試料で得られた液体生成物は、オイル状の疎水性相と水性相とからなっていた。疎水性液体生成物の分析は、Graceからの15M×0.1mm ID-BPX5 0.1μMカラムを装備した、Thermo Finnigan GCMSを用い、Thermo Scientific Triplusオートサンプラーを用いて実施した。分析のために、内部標準として0.1%のメシチレン(Aldrich)を添加した1.5mLのアセトニトリル(Aldrich)に、10μLの疎水性相を溶解させた。1,8-シネオール、p-シメン、及びジペンテンのクロマトグラフィー用標準を、同じ試料調製法を用いて分析した。主生成物のp-シメンは、1H及び13C NMRによって確認した。p-シメンの収率は、全疎水性相中のp-シメンのパーセンテージと定義される。p-シメンの選択性は、シネオールを除く疎水性相のフラクション中のp-シメンのパーセンテージとして定義される。特に指示しない限り、シネオールを除く疎水性相のフラクションは、スキーム1に示される生成物からなっていた。親水性相は、主として水であることが分かった。
【0079】
[気体生成物の分析]
気体生成物の分析は、1mLの試料ループを有するValcoサンプリングバルブを装備したオンラインShimadzu GC 8Aにより実施した。このGCは、12mのHAYESEP Qカラム、及び熱伝導度検出器(TCD)を装備していた。GCは、各運転の前に、混合キャリアガス、さらには、既知濃度の水素、ヘリウム、メタン、窒素、一酸化炭素、及び二酸化炭素を含む校正ガス混合物により校正した。オンラインガス分析は、液体試料の捕集時に実施した。
【0080】
<触媒、液体生成物、及び気体の特性評価>
[触媒の特性評価]
湿式含侵法によって調製した、金属をドーピングしたγ-Al2O3触媒について、XRDパターンを測定した。金属をドーピングしたγ-Al2O3試料はいずれも、担体物質と、ドーピングされた金属とに関連するXRDパターンを示す。
【0081】
調製後未使用の触媒の全て、及びγ-Al2O3について、BET表面積を測定した。γ-Al2O3の表面積が最大であったのに対して、他の触媒の全ては、表面積がより小さかった。湿式含侵法を用いるγ-Al2O3の金属ドーピングは、最少量の表面積の低下を示した。
【0082】
[触媒活性]
熱分解プロセスの生成物を、3つの相:疎水性相、親水性相、及び気体相に分離した。全ての実験において、親水性相は、主として水であることが明らかとなり、他方、疎水性相は、一般に、芳香族C10炭化水素及び非芳香族C10炭化水素の両方の混合物を含み、主生成物としてジペンテン及びp-シメンを含んでいた。生成した主な気体は、水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素であった。
【0083】
<熱分解実験の例>
[一般的変温実験]
典型的な変温実験では、3gの触媒をステンレス鋼メッシュバスケットに充填し、これを、管状反応器内に置いた。炉を、250℃の初期温度に設定し、1時間、安定化させた。シネオールを、ISCO 500Dシリンジポンプを用いて0.5mL min-1の速度で、予備ヒーターの上流に注入した。キャリアガスを、150mL min-1の一定速度で供給した。平衡に達した後、気体試料を採取し、液体生成物を捕集した。次いで、炉の温度を、50℃だけ上げ、その手順を、500℃の最終反応温度に達するまで繰り返した。他の実験パラメータの概略を、下記Table 2 (表2)に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
[一般的固定温度床実験]
典型的な固定温度床実験では、4gの触媒をステンレス鋼メッシュバスケットに充填し、このバスケットを、管状反応器内に置いた。炉を、床温度が所望の温度となるように設定し、1時間、安定化させた。シネオールを、ISCO 500Dシリンジポンプを用いて0.3mL min-1の速度で、予備ヒーターの上流に注入した。キャリアガスを、150mL min-1の一定速度で供給した。平衡に達した後、気体試料を採取し、液体生成物を捕集した。他の実験パラメータは、下で、Table 3 (表3)に概略を示す。
【0086】
【表3】

【0087】
実施例36〜42では、新しいバッチのPd-γ-Al2O3ペレットを、僅かに変更した手順で作製した。典型的な手順では、所定の量の金属硝酸塩を水に溶かし、90℃の真空オーブン内で一夜加熱させたγ-Al2O3ペレット(Saint-Gobain NorPro、米国)に注いだ。混合物を、ロータリーエバポレータで3時間撹拌した後、真空によって水を除去した。金属を含侵させて得られたγ-Al2O3ペレットを、捕集し、真空オーブン中、90℃で一夜乾燥した。次いで、コーティングされたペレットをルツボに移し、空気中、350℃で12時間焼成した。
【0088】
[疎水性相の分析]
ガラスビーズを用いた全ての実験で、シネオールは、比較的、変わらないままであった。
【0089】
残りの試料についての分析データを、下記Table 4 (表4)〜7(表7)に示す。
【0090】
【表4A】

【0091】
【表4B】

【0092】
【表5A】

【0093】
【表5B】

【0094】
【表6A】

【0095】
【表6B】

【0096】
【表7】

【0097】
[ガス分析]
各試料についての分析データを、下記Table 8 (表8)〜10(表10)に示す。
【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
【表10】

【0101】
本明細書、及び以下の特許請求の範囲の全体を通して、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、用語「含む」、及び「含んでいる」などの変形は、挙げられている整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップのグループを含むが、何らかの他の整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップのグループを排除しないことを意味すると理解される。
【0102】
本明細書における何らかの先行刊行物(若しくは、それに由来する情報)、又は知られている何らかの事柄の参照は、その先行刊行物(若しくは、それに由来する情報)、又は知られている事柄が、本明細書が関連する活動分野における一般常識の一部を成すということの認知若しくは承認又は何らかの形の示唆とは見なされず、また見なされるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒の存在下で1,8-シネオールを熱分解する工程を含む、1,8-シネオールからの不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物が、モノテルペノイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物が、C10モノテルペノイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物が、ジペンテン及びp-シメンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
遷移金属が、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、レニウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、及び金の1種又は複数種から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
遷移金属が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物が、用いる1,8-シネオールの量に対して、少なくとも70質量%の量で製造される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物が、用いる1,8-シネオールの量に対して、少なくとも80質量%の量で製造される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
熱分解を、約200℃から約350℃の範囲の温度で実施する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
熱分解が、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒を、気化させた1,8-シネオールと接触させる工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記気化させた1,8-シネオールが、窒素、アルゴン、及び酸素から選択されるキャリアガスを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記キャリアガスが酸素である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒を、遷移金属塩を含む水溶液中にガンマ-アルミナ担体を浸漬させる工程、得られた遷移金属でドーピングされたガンマ-アルミナ担体を水溶液から単離する工程、及び、単離した前記生成物を焼成して前記触媒を得る工程によって調製する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒を、遷移金属塩を含む水溶液中にガンマ-アルミナ担体を浸漬させる工程、前記溶液から水性液体を蒸発させて遷移金属でドーピングされたガンマ-アルミナ担体を単離する工程、及び、単離した前記生成物を焼成して前記触媒を得る工程によって調製する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ガンマ-アルミナ担体が、約10m2/gを超える表面積を有する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒が、(ガンマ-アルミナ担体の質量に基づく遷移金属の質量%で)約0.01質量%から約10質量%の1種又は複数の遷移金属を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
1,8-シネオールからの不飽和環状化合物及び/又は芳香族化合物の製造における、ガンマ-アルミナに担持された遷移金属触媒の使用。

【公表番号】特表2012−532893(P2012−532893A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519847(P2012−519847)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000232
【国際公開番号】WO2011/006183
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】