シフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法
【課題】 確実に所望のシフトフィーリングが得られるように、シフト機構の各種部品の選択及び設計を支援することができるシフト機構の部品設計支援システムを提供する。
【解決手段】 本発明のシフト機構の部品設計支援システムは、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式202を記憶する記憶部140と、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元204を入力可能な入力操作部170と、部品諸元204からシフト機構の変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出すると共に、シフトフィーリング予測式202に所定パラメータを導入してシフトフィーリングの予測結果208を算出する制御部138と、を含むことを特徴とする。
【解決手段】 本発明のシフト機構の部品設計支援システムは、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式202を記憶する記憶部140と、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元204を入力可能な入力操作部170と、部品諸元204からシフト機構の変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出すると共に、シフトフィーリング予測式202に所定パラメータを導入してシフトフィーリングの予測結果208を算出する制御部138と、を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シフト機構の変速時トルクパターンは、ユーザが感じるシフトフィーリング(変速時の操作感)に影響する。シフト機構の変速時トルクパターンは、シフト機構を構成する各種部品(かかる各種部品については「特許文献1」参照)によって決定されるため、各種部品の選択及び設計により所望のシフトフィーリングを得ることが可能である。例えば重い操作感のあるシフト機構の各種部品を設計変更して、軽い操作感になるように調整可能である。
【0003】
しかし従来、所望のシフトフィーリングを満たすために、設計者は経験やノウハウを頼りにシフト機構の各種部品を選択及び設計せざるを得なかった。当然ながら経験やノウハウに基く各種部品の選択及び設計は確実ではない。そのため、従来、各種部品の選択及び設計後に試作機を製作し、試作機に対し官能評価試験を実施する手順が採られていた。そして、官能評価試験において試作機が所望のシフトフィーリングに達した場合にのみ本製作に移行し、達しなかった場合には再度各種部品の選択及び設計、試作機の製作、官能評価試験を繰り返していた。
【0004】
これに対し、本発明者は平成20年10月28日に行った特許出願(「特許文献2」参照)にて、シフトフィーリングの定量化について開示している。特許文献2の明細書の段落0046には、「自動二輪のギアシフト・フィーリングを定量化するための方策として、重さや節度感など、ギアシフトのフィーリングを表す評価語の評点を収集して、重回帰式等を作成することが考えられる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−127392号公報
【特許文献2】特開2010−108009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の重回帰式(シフトフィーリング予測式)を作成するだけでは、従来の上述した手順を採らざるを得ない。この重回帰式により変速時トルクパターンとシフトフィーリングとの関係付けが成されるとしても、どのようにシフト機構の各種部品の選択及び設計を行えば必要な変速時トルクパターンが得られるか分からないからである。すなわち、結局のところ現状では、経験やノウハウを頼りにシフト機構の各種部品を選択及び設計せざるを得ないことに変わりないのである。加えて、そもそも特許文献2には、如何にして重回帰式を作成するか一切記載されていない。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、所望のシフトフィーリングが確実に得られるように、シフト機構の各種部品の選択及び設計を支援することができるシフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、車両のシフト機構の部品設計支援システムにおいて、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式を記憶する記憶部と、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元を入力可能な入力操作部と、部品諸元からシフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、シフトフィーリング予測式に所定パラメータを導入してシフトフィーリングの予測結果を算出する制御部とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、制御部が各種部品の部品諸元から変速時トルクパターンの所定パラメータを算出する。そして、記憶部に記憶されたシフトフィーリング予測式にこの所定パラメータを導入して、シフトフィーリングの予測結果を算出する。これより、実際に試作機を製作して官能評価試験を行わずとも、予測対象のシフト機構のシフトフィーリングを求めることができる。したがって、コストや労力を削減することができる。
【0010】
制御部は、変速時トルクパターンの所定パラメータとして、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相stのいずれかを少なくとも算出するとよい。これにより、予測対象のシフト機構に関し、そのシフトフィーリングを好適に予測することができる。
【0011】
記憶部は、任意の変速時トルクパターンとこの変速時トルクパターンに対する評点とを複数取得し重回帰分析により算出したシフトフィーリング予測式を記憶するとよい。これにより、予測対象のシフト機構に関し、そのシフトフィーリングを精度良く予測することができる。
【0012】
記憶部は、複数の評価項目ごとにそれぞれシフトフィーリング予測式を記憶しており、制御部は、部品諸元からそれぞれのシフトフィーリング予測式の所定パラメータを算出し、そのシフトフィーリング予測式にその所定パラメータを導入して複数の評価項目ごとに予測結果を算出するとよい。これにより、予測対象のシフト機構に関し、複数の評価項目(重さ、ストローク、節度感など)ごとに予測結果を得ることができる。
【0013】
上記課題を解決するために本発明の他の代表的な構成は、車両のシフト機構の部品設計方法において、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元からシフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式に所定パラメータを導入してシフト機構のシフトフィーリングの予測結果を算出することを特徴とする。
【0014】
上述したシフト機構の部品設計支援システムにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該シフト機構の部品設計方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望のシフトフィーリングが確実に得られるように、シフト機構の各種部品の選択及び設計を支援することができるシフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムを利用したシフト機構の設計の概略を示す図である。
【図2】変速時トルクパターンについて例示する図である。
【図3】本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムとしてのコンピュータを含むシミュレーションシステムの外観図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図3のシミュレーションシステムの概略構成を示すブロック図である。
【図6】図5のその他の構成を示すブロック図である。
【図7】図3のタッチパネルディスプレイの表示画面を例示する図である。
【図8】官能評価試験の実測値と、官能評価試験の評価結果に基き算出したシフトフィーリング予測式による予測値との関係を示す図である。
【図9】自動二輪車のシフト機構のストッパスプリング、ストッパアーム、シフトカムについて示す図である。
【図10】ストッパスプリング、リターンスプリングに関する変速時トルクパターンへの影響を示す図である。
【図11】ストッパスプリング、リターンスプリングのバネ定数を変えた場合の変速時トルクパターンへの影響を示す図である。
【図12】図11(c)に示すストッパスプリング、リターンスプリングの組み合わせを適用したシフト機構に関し、シフトフィーリング予測式にてシフトフィーリングの予測値を算出した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムを利用したシフト機構の設計の概略を示す図である。本実施形態では新規車種等のシフト機構の設計において、各種部品の選択及び設計、試作機の製作、官能評価試験を繰り返さず、各種部品(例えばストッパスプリング、リターンスプリング、シフトカム)の部品諸元204からシフトフィーリングを予測し、再度の各種部品の選択及び設計に役立てる。
【0019】
具体的には、図1に示すように、まず官能評価試験を実施してその評価結果200を得る。得られた評価結果200を重回帰分析ソフトウェア(以下「分析ソフト144」と称する)により重回帰分析して、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式202を算出する。
【0020】
次に予測対象のシフト機構の部品諸元204を入力して、変速時トルクパターン演算ソフトウェア(以下「演算ソフト146」と称する)により、そのシフト機構の変速時のシフトペダル操作時の角度(ストローク)とトルクの関係を表す変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出する。
【0021】
図2は、変速時トルクパターン206について例示する図である。図2に例示するように、変速時トルクパターン206には、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相st等の各種パラメータが含まれる。本実施形態では、必要な変速時トルクパターン206の所定パラメータをシフトフィーリング予測式202に導入することで、そのシフト機構のシフトフィーリングの予測結果208を得る。そして、その予測結果を所望のシフトフィーリングと比較し、その比較結果を各種部品の選択及び設計にフィードバックする。これらの過程を所望のシフトフィーリングが得られるまで繰り返す。
【0022】
上述したように、本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムではシフトフィーリング予測式202を予め記憶しておく必要がある。したがって、以下ではまずシフトフィーリング予測式202を予め記憶する手順について説明する。
【0023】
図3は、本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムとしてのコンピュータ104を含むシミュレーションシステム100の外観図である。本実施形態では、シフト機構の部品設計支援システムはコンピュータ104により実現される。図3に示すように、官能評価試験において、コンピュータ104はシミュレーションシステム100の一部をなし、試験装置102、リアルタイムコントローラ106、タッチパネルディスプレイ108と共同してその評価結果200を得る。そして、得られた評価結果200から複数の評価項目ごとにそれぞれシフトフィーリング予測式202を算出し、これらを記憶する。
【0024】
試験装置102は、官能評価試験の際にユーザ(被験者)が搭乗する装置であって、自動二輪車実機の一部を改造したものである。本実施形態では、試験装置102は、ハンドル、シート、燃料タンク、フットレスト等の部品が実機と同じであるが、シフト機構については実機と同じでない。
【0025】
図4は、図3のA−A断面図である。図4に示すように、試験装置102では、シフトペダル110の回転軸にモータ112のモータシャフト114が直結される。モータ112に電流が印加されると、固定子118(ステータ)と回転子116(ロータ)との相互作用により、モータシャフト114は回転子116と共に回転する。モータシャフト114には、モータシャフト114のトルク(操作トルクτ)を計測するトルクセンサ122が取り付けられる。また、モータシャフト114には、カップリング124(軸継ぎ手)を介して回転角θを計測するエンコーダ126が取り付けられる。本実施形態では、コンピュータ104およびリアルタイムコントローラ106によりモータ112に印加する電流を制御することで、シフトペダル110に任意の変速時トルクパターンを再現させる。
【0026】
図5は、図3のシミュレーションシステム100の概略構成を示すブロック図である。図5に示すように、リアルタイムコントローラ106は、CPU等で構成される制御部128と、ROMやRAM、フラッシュメモリ等で構成される記憶部130とを含む。記憶部130には、制御トルクuを計算するための制御ソフトウェア156が格納されている。制御部128はこの制御ソフトウェア156を実行し、A/Dボード132を介して操作トルクτを取得し、カウンタボード134を介して回転角θを取得し、制御トルクuをリアルタイムで算出する。制御トルクuはインピーダンス制御を実現する(現在シフトペダル110に適用中の変速時トルクパターンを正確に再現する)ためのトルクであり、実際のモータ112の動特性を表す式(1)と目標の動特性を表す式(2)とから、式(3)により求めることができる。なお、目標の慣性モーメントJd、目標の粘性抵抗係数Ddは、実機の部品諸元を参考に予め設定する。回転子116やモータシャフト114の慣性モーメントJ、粘性抵抗係数Dは、モータ112の性質により決定される。変速時トルクパターンの再現トルクKd(θ)は、現在シフトペダル110に適用中の変速時トルクパターンの回転角θのときのトルクである。
【0027】
【数1】
【0028】
図6は、図5のその他の構成を示すブロック図である。実機においてシフトペダル110の変速時トルクパターンは、シフト機構の部品諸元だけではなく、スロットルグリップ148やクラッチレバー150の操作に応じて変化する。したがって、図6(a)、(b)に示すように、スロットルグリップ148、クラッチレバー150の操作量をポテンショメータ166、168で取得し、リアルタイムコントローラ106(A/Dボード132)に伝達してもよい。この場合、リアルタイムコントローラ106の制御部128は、これらを考慮して制御トルクuを算出する。
【0029】
また、実機においてはギアのドッグが噛合う音が発生するため、試験装置102にスピーカ152を取り付け、回転角θに基きこの噛合う音をスピーカ152から発生させてもよい。図6(c)に示すように、例えばスピーカ152への指令はコンピュータ104に行わせることができる。実機に相当する音をスピーカ152から発生させることで、より実機と同じ条件下で官能評価試験を実施することができ、音の有無によるシフトフィーリングへの影響を排除することができる。
【0030】
さらに、実機ではクラッチ板の連結に伴い振動が発生するので、試験装置102に振動発生装置154を取り付け、回転角θに基き振動発生装置154により振動を発生させてもよい。図6(d)に示すように、例えば振動発生装置154への指令はリアルタイムコントローラ106のD/Aボード136を介して伝達することができる。かかる振動を発生させることで、より実機と同じ条件下で官能評価試験を実施することができ、振動の有無によるシフトフィーリングへの影響を排除することができる。
【0031】
図5に示すように、算出された制御トルクuは、この制御トルクuを実現するための電流指令値という形でD/Aボード136を介してサーボドライバ120へと伝達される。サーボドライバ120は、モータ112に印加する電流をこの電流指令値に追従させる。これより、任意の変速時トルクパターンを正確に再現することができる。
【0032】
上述したリアルタイムコントローラ106は官能評価試験においてリアルタイム性が要求される処理を実行するのに対し、コンピュータ104は官能評価試験においてリアルタイム性の要求されない処理を実行する。コンピュータ104は、CPU等で構成される制御部138と、ROMやRAM、フラッシュメモリ等で構成される記憶部140と、マウスやキーボード等で構成される入力操作部160と、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成される表示部162とを含む。記憶部140には、官能評価試験においてリアルタイム性の要求されない処理を実行する官能評価試験ソフトウェア(以下「試験ソフト142」と称する)が格納される。また、記憶部140には、上述した分析ソフト144および演算ソフト146が格納される。
【0033】
試験ソフト142はシフトペダル110に適用する変速時トルクパターンの入出力管理を行う機能を有する。制御部138は、官能評価試験において試験ソフト142を実行し、シフトペダル110に適用する変速時トルクパターンをリアルタイムコントローラ106へと出力する。リアルタイムコントローラ106は、コンピュータ104の制御部138が指定した変速時トルクパターンをシフトペダル110に再現させるように、サーボドライバ120に印加する電流を制御する。
【0034】
図3に示すように、タッチパネルディスプレイ108は試験装置102に取り付けられ、ユーザに画像を表示するとともにユーザからの入力操作を受け付ける。図7は、図3のタッチパネルディスプレイ108の表示画面を例示する図である。図7に例示するように、タッチパネルディスプレイ108には、変速時トルクパターンについて、各種評価項目(重さ、ストローク、節度感など)に対しユーザが触れることで評点可能な評点領域158が設定される。
【0035】
コンピュータ104の制御部138は、その記憶部140に、リアルタイムコントローラ106に指定した変速時トルクパターンとタッチパネルディスプレイ108を通じて入力されたこれに対する評点とを複数記憶し、官能評価試験の評価結果200を保存する。官能評価試験の終了後(評価結果200取得後)、コンピュータ104の制御部138は分析ソフト144を実行し、それぞれの変速時トルクパターンの各種パラメータとこれに対する評点とを用いて重回帰分析を行い、個々の評価項目についてのシフトフィーリング予測式202を算出する。
【0036】
より具体的には、評価結果200に対し、分析ソフト144は、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相st等の各種パラメータを独立変数、その変速時トルクパターンに対する評点を従属変数として評価項目ごとに重回帰分析を行う。重回帰分析では、共線性が見つかった変数や不要な変数を除去しつつ、シフトフィーリング予測式202を算出する。下記式(4)は「重さ」のシフトフィーリング予測式202の一例であり、下記式(5)は「ストローク」のシフトフィーリング予測式の一例であり、下記式(6)は「節度感」のシフトフィーリング予測式202の一例である。
「重さ」の予測値=1.07×Pmax+0.126×a+0.683×ΔP−8.15 …(4)
「ストローク」の予測値=−0.442×Pmax−0.0933×a+0.735×st−7.53
…(5)
「節度感」の予測値=0.196×a+1.28×ΔP−4.99 …(6)
【0037】
図8は、官能評価試験の実測値と、官能評価試験の評価結果200に基き算出したシフトフィーリング予測式202による予測値との関係を示す図である。図8(a)は式(4)の「重さ」のシフトフィーリング予測式202を適用した図であり、図8(b)は式(5)の「ストローク」のシフトフィーリング予測式202を適用した図であり、図8(c)は式(6)の「節度感」のシフトフィーリング予測式202を適用した図である。図8(a)〜(c)に示すように、予測値の方が実測値よりも強弱が弱い(差が出にくくなる)傾向のあるものの、いずれのシフトフィーリング予測式202においても、精度良くシフトフィーリングを予測することができる。
【0038】
なお、官能評価試験においてユーザ(被験者)の年齢、性別、人種、好み(スタンダートタイプ、アメリカンタイプ)などの識別情報をその被験者の評価結果200と関連付けて記憶部140に記憶しておき、シフトフィーリング予測式202の算出に際して特定の被験者の評価結果200のみを用いるようにしてもよい。例えば、アメリカンタイプ自動二輪車のシフト機構の各種部品の選択及び設計を行うためにそのシフトフィーリングを予測する必要がある場合、アメリカンタイプが好みの被験者の評価結果200のみを抽出するとよい。これにより、さらに精度良くシフトフィーリングを予測することができる。
【0039】
上述した官能評価試験によれば、精度良くシフトフィーリングを予測可能なシフトフィーリング予測式202をコンピュータ104の記憶部140に記憶することができる。以下では、記憶部140にこれが記憶されたコンピュータ104を用いたシフト機構の部品設計方法について説明する。
【0040】
図9は、自動二輪車のシフト機構のストッパスプリング172、ストッパアーム174、シフトカム176について示す図である。図9に示すように、変速時においてシフトカム176が回転しストッパアーム174のストッパローラ174aが持ち上げられると、ストッパスプリング172によって回転を妨げる向きにトルクが発生する。これが変速時にトルクが発生する要因の一つである。
【0041】
図10は、ストッパスプリング、リターンスプリングに関する変速時トルクパターンへの影響を示す図である。図10(a)はストッパスプリングによって発生するトルクを示す図であり、図10(b)はリターンスプリングによって発生するトルクを示す図であり、図10(c)は図10(a)のストッパスプリングと図10(b)のリターンスプリングとによって発生するトルクを合わせた図である。
【0042】
図10(a)(b)に示すように、ストッパスプリング、リターンスプリングは、変速時においてシフトペダルの角度に応じて所定のトルクを発生する。図10(c)に示すように、これらのトルクは合わさってユーザに作用する。これと同じように、ユーザに変速時に作用するトルク(変速時トルクパターン206)は、シフトペダルの角度に応じてシフト機構の各種部品が発生する全てのトルクを合わせたものである。
【0043】
図11は、ストッパスプリング、リターンスプリングのバネ定数を変えた場合の変速時トルクパターン206への影響を示す図である。図11(a)がストッパスプリングの部品諸元204を示す図、図11(b)がリターンスプリングの部品諸元204を示す図、図11(c)がストッパスプリングとリターンスプリングとの組み合わせにより発生するそれぞれのトルクを示す図である。
【0044】
図11(a)〜(c)に示すように、ストッパスプリング、リターンスプリングのセットトルクやバネ定数などの部品諸元204を変えることで、ユーザに変速時に作用するトルクは変化する。すなわち、各種部品の部品諸元204により、各種部品が発生するトルクが決定される。上記のように、変速時トルクパターン206は、シフトペダルの角度に応じてシフト機構の各種部品が発生する全てのトルクを合わせたものであるので、各部品諸元204から変速時トルクパターン206を算出することも可能である。
【0045】
したがって、本実施形態では、まずユーザがコンピュータ104の入力操作部160を通じて、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元204を入力する。シフト機構を構成する各種部品とは、例えば、ストッパスプリング、リターンスプリング、ストッパアーム、シフトカム、ドライバプレート、ピン、リンクロッド、シフトペダル等である(特許文献1参照)。各種部品の部品諸元とは、例えば、ストッパスプリング及びリターンスプリングのセットトルクやバネ定数、シフトカム形状、ストッパローラの半径、ストッパアーム長、リンクロッド長等である。
【0046】
コンピュータ104の制御部138は演算ソフト146を実行して、部品諸元204からそのシフト機構の変速時トルクパターン206及び変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出する。演算ソフト146は、好ましくは、各種部品の部品諸元204の数値を入力すると自動計算を行い、そのシフト機構の変速時トルクパターン206及び変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出するソフトウェアである。
【0047】
演算ソフト146によって変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出したら、コンピュータ104の制御部138は、官能評価試験によって記憶部140に記憶した評価項目(重さ、ストローク、節度感など)ごとのシフトフィーリング予測式202にこれを導入し、そのシフト機構のシフトフィーリングの予測結果208を算出する。そして、制御部138は、その予測結果208を表示部162に表示させる。
【0048】
図12は、図11(c)のストッパスプリング、リターンスプリングの組み合わせを適用したシフト機構に関し、式(4)、式(5)、式(6)のシフトフィーリング予測式202にてシフトフィーリングの予測値を算出した図である。図12に示すように、各種部品の部品諸元204等の設定を変更することによって、当然ながらそのシフトフィーリング(予測値)を変えることができる。したがって、制御部138が算出した予測結果208を所望のシフトフィーリングと比較し、その比較結果を各種部品の選択及び設計にフィードバックすることで、所望のシフトフィーリングを実現することができる。
【0049】
上述した構成によれば、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元204を入力するだけで、そのシフトフィーリングが予測され表示される。したがって、ユーザのシフト機構の作り込みにかかる工数を削減することができ、最適なシフト機構の作り込みを実現することができる。また、部品諸元204を入力するだけでそのシフトフィーリングを予測可能なため、同一のシフトフィーリングを実現可能な構成の中で最もコストを抑制可能な構成について容易に探ることもできる。
【0050】
なお、上述した手法により、所望のシフトフィーリングを実現するシフト機構の各種部品の選択及び設計(シフト機構の作り込み)を完了したら、そのシフト機構の変速時トルクパターン206についてコンピュータ104の制御部138が試験装置102に出力し、試験装置102にてその操作感を体験可能とするとよい。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば、本発明は、変速を機械的に行わないシフト・バイ・ワイヤー等のシフト機構の作り込みにも応用可能である。具体的には、シフト・バイ・ワイヤー等のシフト機構についてその構成を実質的に変えることなく、通常のシフト機構の操作感を実現するための部品の選択及び設計を決定できる。また、本発明は、自動二輪車に限らず、四輪MT、四輪AT、ATV、船外機などにも応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、シフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100…シミュレーションシステム、102…試験装置、104…コンピュータ、106…リアルタイムコントローラ、108…タッチパネルディスプレイ、110…シフトペダル、112…モータ、114…モータシャフト、116…回転子、118…固定子、120…サーボドライバ、122…トルクセンサ、124…カップリング、126…エンコーダ、128…制御部、130…記憶部、132…A/Dボード、134…カウンタボード、136…D/Aボード、138…制御部、140…記憶部、142…試験ソフト、144…分析ソフト、146…演算ソフト、148…スロットルグリップ、150…クラッチレバー、152…スピーカ、154…振動発生装置、156…制御ソフトウェア、158…評点領域、160…入力操作部、162…表示部、166、168…ポテンショメータ、172…ストッパスプリング、174…ストッパアーム、174a…ストッパローラ、176…シフトカム、200…評価結果、202…シフトフィーリング予測式、204…部品諸元、206…変速時トルクパターン、208…予測結果
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シフト機構の変速時トルクパターンは、ユーザが感じるシフトフィーリング(変速時の操作感)に影響する。シフト機構の変速時トルクパターンは、シフト機構を構成する各種部品(かかる各種部品については「特許文献1」参照)によって決定されるため、各種部品の選択及び設計により所望のシフトフィーリングを得ることが可能である。例えば重い操作感のあるシフト機構の各種部品を設計変更して、軽い操作感になるように調整可能である。
【0003】
しかし従来、所望のシフトフィーリングを満たすために、設計者は経験やノウハウを頼りにシフト機構の各種部品を選択及び設計せざるを得なかった。当然ながら経験やノウハウに基く各種部品の選択及び設計は確実ではない。そのため、従来、各種部品の選択及び設計後に試作機を製作し、試作機に対し官能評価試験を実施する手順が採られていた。そして、官能評価試験において試作機が所望のシフトフィーリングに達した場合にのみ本製作に移行し、達しなかった場合には再度各種部品の選択及び設計、試作機の製作、官能評価試験を繰り返していた。
【0004】
これに対し、本発明者は平成20年10月28日に行った特許出願(「特許文献2」参照)にて、シフトフィーリングの定量化について開示している。特許文献2の明細書の段落0046には、「自動二輪のギアシフト・フィーリングを定量化するための方策として、重さや節度感など、ギアシフトのフィーリングを表す評価語の評点を収集して、重回帰式等を作成することが考えられる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−127392号公報
【特許文献2】特開2010−108009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の重回帰式(シフトフィーリング予測式)を作成するだけでは、従来の上述した手順を採らざるを得ない。この重回帰式により変速時トルクパターンとシフトフィーリングとの関係付けが成されるとしても、どのようにシフト機構の各種部品の選択及び設計を行えば必要な変速時トルクパターンが得られるか分からないからである。すなわち、結局のところ現状では、経験やノウハウを頼りにシフト機構の各種部品を選択及び設計せざるを得ないことに変わりないのである。加えて、そもそも特許文献2には、如何にして重回帰式を作成するか一切記載されていない。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、所望のシフトフィーリングが確実に得られるように、シフト機構の各種部品の選択及び設計を支援することができるシフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、車両のシフト機構の部品設計支援システムにおいて、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式を記憶する記憶部と、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元を入力可能な入力操作部と、部品諸元からシフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、シフトフィーリング予測式に所定パラメータを導入してシフトフィーリングの予測結果を算出する制御部とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、制御部が各種部品の部品諸元から変速時トルクパターンの所定パラメータを算出する。そして、記憶部に記憶されたシフトフィーリング予測式にこの所定パラメータを導入して、シフトフィーリングの予測結果を算出する。これより、実際に試作機を製作して官能評価試験を行わずとも、予測対象のシフト機構のシフトフィーリングを求めることができる。したがって、コストや労力を削減することができる。
【0010】
制御部は、変速時トルクパターンの所定パラメータとして、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相stのいずれかを少なくとも算出するとよい。これにより、予測対象のシフト機構に関し、そのシフトフィーリングを好適に予測することができる。
【0011】
記憶部は、任意の変速時トルクパターンとこの変速時トルクパターンに対する評点とを複数取得し重回帰分析により算出したシフトフィーリング予測式を記憶するとよい。これにより、予測対象のシフト機構に関し、そのシフトフィーリングを精度良く予測することができる。
【0012】
記憶部は、複数の評価項目ごとにそれぞれシフトフィーリング予測式を記憶しており、制御部は、部品諸元からそれぞれのシフトフィーリング予測式の所定パラメータを算出し、そのシフトフィーリング予測式にその所定パラメータを導入して複数の評価項目ごとに予測結果を算出するとよい。これにより、予測対象のシフト機構に関し、複数の評価項目(重さ、ストローク、節度感など)ごとに予測結果を得ることができる。
【0013】
上記課題を解決するために本発明の他の代表的な構成は、車両のシフト機構の部品設計方法において、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元からシフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式に所定パラメータを導入してシフト機構のシフトフィーリングの予測結果を算出することを特徴とする。
【0014】
上述したシフト機構の部品設計支援システムにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該シフト機構の部品設計方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所望のシフトフィーリングが確実に得られるように、シフト機構の各種部品の選択及び設計を支援することができるシフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムを利用したシフト機構の設計の概略を示す図である。
【図2】変速時トルクパターンについて例示する図である。
【図3】本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムとしてのコンピュータを含むシミュレーションシステムの外観図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】図3のシミュレーションシステムの概略構成を示すブロック図である。
【図6】図5のその他の構成を示すブロック図である。
【図7】図3のタッチパネルディスプレイの表示画面を例示する図である。
【図8】官能評価試験の実測値と、官能評価試験の評価結果に基き算出したシフトフィーリング予測式による予測値との関係を示す図である。
【図9】自動二輪車のシフト機構のストッパスプリング、ストッパアーム、シフトカムについて示す図である。
【図10】ストッパスプリング、リターンスプリングに関する変速時トルクパターンへの影響を示す図である。
【図11】ストッパスプリング、リターンスプリングのバネ定数を変えた場合の変速時トルクパターンへの影響を示す図である。
【図12】図11(c)に示すストッパスプリング、リターンスプリングの組み合わせを適用したシフト機構に関し、シフトフィーリング予測式にてシフトフィーリングの予測値を算出した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムを利用したシフト機構の設計の概略を示す図である。本実施形態では新規車種等のシフト機構の設計において、各種部品の選択及び設計、試作機の製作、官能評価試験を繰り返さず、各種部品(例えばストッパスプリング、リターンスプリング、シフトカム)の部品諸元204からシフトフィーリングを予測し、再度の各種部品の選択及び設計に役立てる。
【0019】
具体的には、図1に示すように、まず官能評価試験を実施してその評価結果200を得る。得られた評価結果200を重回帰分析ソフトウェア(以下「分析ソフト144」と称する)により重回帰分析して、ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式202を算出する。
【0020】
次に予測対象のシフト機構の部品諸元204を入力して、変速時トルクパターン演算ソフトウェア(以下「演算ソフト146」と称する)により、そのシフト機構の変速時のシフトペダル操作時の角度(ストローク)とトルクの関係を表す変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出する。
【0021】
図2は、変速時トルクパターン206について例示する図である。図2に例示するように、変速時トルクパターン206には、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相st等の各種パラメータが含まれる。本実施形態では、必要な変速時トルクパターン206の所定パラメータをシフトフィーリング予測式202に導入することで、そのシフト機構のシフトフィーリングの予測結果208を得る。そして、その予測結果を所望のシフトフィーリングと比較し、その比較結果を各種部品の選択及び設計にフィードバックする。これらの過程を所望のシフトフィーリングが得られるまで繰り返す。
【0022】
上述したように、本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムではシフトフィーリング予測式202を予め記憶しておく必要がある。したがって、以下ではまずシフトフィーリング予測式202を予め記憶する手順について説明する。
【0023】
図3は、本実施形態にかかるシフト機構の部品設計支援システムとしてのコンピュータ104を含むシミュレーションシステム100の外観図である。本実施形態では、シフト機構の部品設計支援システムはコンピュータ104により実現される。図3に示すように、官能評価試験において、コンピュータ104はシミュレーションシステム100の一部をなし、試験装置102、リアルタイムコントローラ106、タッチパネルディスプレイ108と共同してその評価結果200を得る。そして、得られた評価結果200から複数の評価項目ごとにそれぞれシフトフィーリング予測式202を算出し、これらを記憶する。
【0024】
試験装置102は、官能評価試験の際にユーザ(被験者)が搭乗する装置であって、自動二輪車実機の一部を改造したものである。本実施形態では、試験装置102は、ハンドル、シート、燃料タンク、フットレスト等の部品が実機と同じであるが、シフト機構については実機と同じでない。
【0025】
図4は、図3のA−A断面図である。図4に示すように、試験装置102では、シフトペダル110の回転軸にモータ112のモータシャフト114が直結される。モータ112に電流が印加されると、固定子118(ステータ)と回転子116(ロータ)との相互作用により、モータシャフト114は回転子116と共に回転する。モータシャフト114には、モータシャフト114のトルク(操作トルクτ)を計測するトルクセンサ122が取り付けられる。また、モータシャフト114には、カップリング124(軸継ぎ手)を介して回転角θを計測するエンコーダ126が取り付けられる。本実施形態では、コンピュータ104およびリアルタイムコントローラ106によりモータ112に印加する電流を制御することで、シフトペダル110に任意の変速時トルクパターンを再現させる。
【0026】
図5は、図3のシミュレーションシステム100の概略構成を示すブロック図である。図5に示すように、リアルタイムコントローラ106は、CPU等で構成される制御部128と、ROMやRAM、フラッシュメモリ等で構成される記憶部130とを含む。記憶部130には、制御トルクuを計算するための制御ソフトウェア156が格納されている。制御部128はこの制御ソフトウェア156を実行し、A/Dボード132を介して操作トルクτを取得し、カウンタボード134を介して回転角θを取得し、制御トルクuをリアルタイムで算出する。制御トルクuはインピーダンス制御を実現する(現在シフトペダル110に適用中の変速時トルクパターンを正確に再現する)ためのトルクであり、実際のモータ112の動特性を表す式(1)と目標の動特性を表す式(2)とから、式(3)により求めることができる。なお、目標の慣性モーメントJd、目標の粘性抵抗係数Ddは、実機の部品諸元を参考に予め設定する。回転子116やモータシャフト114の慣性モーメントJ、粘性抵抗係数Dは、モータ112の性質により決定される。変速時トルクパターンの再現トルクKd(θ)は、現在シフトペダル110に適用中の変速時トルクパターンの回転角θのときのトルクである。
【0027】
【数1】
【0028】
図6は、図5のその他の構成を示すブロック図である。実機においてシフトペダル110の変速時トルクパターンは、シフト機構の部品諸元だけではなく、スロットルグリップ148やクラッチレバー150の操作に応じて変化する。したがって、図6(a)、(b)に示すように、スロットルグリップ148、クラッチレバー150の操作量をポテンショメータ166、168で取得し、リアルタイムコントローラ106(A/Dボード132)に伝達してもよい。この場合、リアルタイムコントローラ106の制御部128は、これらを考慮して制御トルクuを算出する。
【0029】
また、実機においてはギアのドッグが噛合う音が発生するため、試験装置102にスピーカ152を取り付け、回転角θに基きこの噛合う音をスピーカ152から発生させてもよい。図6(c)に示すように、例えばスピーカ152への指令はコンピュータ104に行わせることができる。実機に相当する音をスピーカ152から発生させることで、より実機と同じ条件下で官能評価試験を実施することができ、音の有無によるシフトフィーリングへの影響を排除することができる。
【0030】
さらに、実機ではクラッチ板の連結に伴い振動が発生するので、試験装置102に振動発生装置154を取り付け、回転角θに基き振動発生装置154により振動を発生させてもよい。図6(d)に示すように、例えば振動発生装置154への指令はリアルタイムコントローラ106のD/Aボード136を介して伝達することができる。かかる振動を発生させることで、より実機と同じ条件下で官能評価試験を実施することができ、振動の有無によるシフトフィーリングへの影響を排除することができる。
【0031】
図5に示すように、算出された制御トルクuは、この制御トルクuを実現するための電流指令値という形でD/Aボード136を介してサーボドライバ120へと伝達される。サーボドライバ120は、モータ112に印加する電流をこの電流指令値に追従させる。これより、任意の変速時トルクパターンを正確に再現することができる。
【0032】
上述したリアルタイムコントローラ106は官能評価試験においてリアルタイム性が要求される処理を実行するのに対し、コンピュータ104は官能評価試験においてリアルタイム性の要求されない処理を実行する。コンピュータ104は、CPU等で構成される制御部138と、ROMやRAM、フラッシュメモリ等で構成される記憶部140と、マウスやキーボード等で構成される入力操作部160と、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成される表示部162とを含む。記憶部140には、官能評価試験においてリアルタイム性の要求されない処理を実行する官能評価試験ソフトウェア(以下「試験ソフト142」と称する)が格納される。また、記憶部140には、上述した分析ソフト144および演算ソフト146が格納される。
【0033】
試験ソフト142はシフトペダル110に適用する変速時トルクパターンの入出力管理を行う機能を有する。制御部138は、官能評価試験において試験ソフト142を実行し、シフトペダル110に適用する変速時トルクパターンをリアルタイムコントローラ106へと出力する。リアルタイムコントローラ106は、コンピュータ104の制御部138が指定した変速時トルクパターンをシフトペダル110に再現させるように、サーボドライバ120に印加する電流を制御する。
【0034】
図3に示すように、タッチパネルディスプレイ108は試験装置102に取り付けられ、ユーザに画像を表示するとともにユーザからの入力操作を受け付ける。図7は、図3のタッチパネルディスプレイ108の表示画面を例示する図である。図7に例示するように、タッチパネルディスプレイ108には、変速時トルクパターンについて、各種評価項目(重さ、ストローク、節度感など)に対しユーザが触れることで評点可能な評点領域158が設定される。
【0035】
コンピュータ104の制御部138は、その記憶部140に、リアルタイムコントローラ106に指定した変速時トルクパターンとタッチパネルディスプレイ108を通じて入力されたこれに対する評点とを複数記憶し、官能評価試験の評価結果200を保存する。官能評価試験の終了後(評価結果200取得後)、コンピュータ104の制御部138は分析ソフト144を実行し、それぞれの変速時トルクパターンの各種パラメータとこれに対する評点とを用いて重回帰分析を行い、個々の評価項目についてのシフトフィーリング予測式202を算出する。
【0036】
より具体的には、評価結果200に対し、分析ソフト144は、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相st等の各種パラメータを独立変数、その変速時トルクパターンに対する評点を従属変数として評価項目ごとに重回帰分析を行う。重回帰分析では、共線性が見つかった変数や不要な変数を除去しつつ、シフトフィーリング予測式202を算出する。下記式(4)は「重さ」のシフトフィーリング予測式202の一例であり、下記式(5)は「ストローク」のシフトフィーリング予測式の一例であり、下記式(6)は「節度感」のシフトフィーリング予測式202の一例である。
「重さ」の予測値=1.07×Pmax+0.126×a+0.683×ΔP−8.15 …(4)
「ストローク」の予測値=−0.442×Pmax−0.0933×a+0.735×st−7.53
…(5)
「節度感」の予測値=0.196×a+1.28×ΔP−4.99 …(6)
【0037】
図8は、官能評価試験の実測値と、官能評価試験の評価結果200に基き算出したシフトフィーリング予測式202による予測値との関係を示す図である。図8(a)は式(4)の「重さ」のシフトフィーリング予測式202を適用した図であり、図8(b)は式(5)の「ストローク」のシフトフィーリング予測式202を適用した図であり、図8(c)は式(6)の「節度感」のシフトフィーリング予測式202を適用した図である。図8(a)〜(c)に示すように、予測値の方が実測値よりも強弱が弱い(差が出にくくなる)傾向のあるものの、いずれのシフトフィーリング予測式202においても、精度良くシフトフィーリングを予測することができる。
【0038】
なお、官能評価試験においてユーザ(被験者)の年齢、性別、人種、好み(スタンダートタイプ、アメリカンタイプ)などの識別情報をその被験者の評価結果200と関連付けて記憶部140に記憶しておき、シフトフィーリング予測式202の算出に際して特定の被験者の評価結果200のみを用いるようにしてもよい。例えば、アメリカンタイプ自動二輪車のシフト機構の各種部品の選択及び設計を行うためにそのシフトフィーリングを予測する必要がある場合、アメリカンタイプが好みの被験者の評価結果200のみを抽出するとよい。これにより、さらに精度良くシフトフィーリングを予測することができる。
【0039】
上述した官能評価試験によれば、精度良くシフトフィーリングを予測可能なシフトフィーリング予測式202をコンピュータ104の記憶部140に記憶することができる。以下では、記憶部140にこれが記憶されたコンピュータ104を用いたシフト機構の部品設計方法について説明する。
【0040】
図9は、自動二輪車のシフト機構のストッパスプリング172、ストッパアーム174、シフトカム176について示す図である。図9に示すように、変速時においてシフトカム176が回転しストッパアーム174のストッパローラ174aが持ち上げられると、ストッパスプリング172によって回転を妨げる向きにトルクが発生する。これが変速時にトルクが発生する要因の一つである。
【0041】
図10は、ストッパスプリング、リターンスプリングに関する変速時トルクパターンへの影響を示す図である。図10(a)はストッパスプリングによって発生するトルクを示す図であり、図10(b)はリターンスプリングによって発生するトルクを示す図であり、図10(c)は図10(a)のストッパスプリングと図10(b)のリターンスプリングとによって発生するトルクを合わせた図である。
【0042】
図10(a)(b)に示すように、ストッパスプリング、リターンスプリングは、変速時においてシフトペダルの角度に応じて所定のトルクを発生する。図10(c)に示すように、これらのトルクは合わさってユーザに作用する。これと同じように、ユーザに変速時に作用するトルク(変速時トルクパターン206)は、シフトペダルの角度に応じてシフト機構の各種部品が発生する全てのトルクを合わせたものである。
【0043】
図11は、ストッパスプリング、リターンスプリングのバネ定数を変えた場合の変速時トルクパターン206への影響を示す図である。図11(a)がストッパスプリングの部品諸元204を示す図、図11(b)がリターンスプリングの部品諸元204を示す図、図11(c)がストッパスプリングとリターンスプリングとの組み合わせにより発生するそれぞれのトルクを示す図である。
【0044】
図11(a)〜(c)に示すように、ストッパスプリング、リターンスプリングのセットトルクやバネ定数などの部品諸元204を変えることで、ユーザに変速時に作用するトルクは変化する。すなわち、各種部品の部品諸元204により、各種部品が発生するトルクが決定される。上記のように、変速時トルクパターン206は、シフトペダルの角度に応じてシフト機構の各種部品が発生する全てのトルクを合わせたものであるので、各部品諸元204から変速時トルクパターン206を算出することも可能である。
【0045】
したがって、本実施形態では、まずユーザがコンピュータ104の入力操作部160を通じて、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元204を入力する。シフト機構を構成する各種部品とは、例えば、ストッパスプリング、リターンスプリング、ストッパアーム、シフトカム、ドライバプレート、ピン、リンクロッド、シフトペダル等である(特許文献1参照)。各種部品の部品諸元とは、例えば、ストッパスプリング及びリターンスプリングのセットトルクやバネ定数、シフトカム形状、ストッパローラの半径、ストッパアーム長、リンクロッド長等である。
【0046】
コンピュータ104の制御部138は演算ソフト146を実行して、部品諸元204からそのシフト機構の変速時トルクパターン206及び変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出する。演算ソフト146は、好ましくは、各種部品の部品諸元204の数値を入力すると自動計算を行い、そのシフト機構の変速時トルクパターン206及び変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出するソフトウェアである。
【0047】
演算ソフト146によって変速時トルクパターン206の所定パラメータを算出したら、コンピュータ104の制御部138は、官能評価試験によって記憶部140に記憶した評価項目(重さ、ストローク、節度感など)ごとのシフトフィーリング予測式202にこれを導入し、そのシフト機構のシフトフィーリングの予測結果208を算出する。そして、制御部138は、その予測結果208を表示部162に表示させる。
【0048】
図12は、図11(c)のストッパスプリング、リターンスプリングの組み合わせを適用したシフト機構に関し、式(4)、式(5)、式(6)のシフトフィーリング予測式202にてシフトフィーリングの予測値を算出した図である。図12に示すように、各種部品の部品諸元204等の設定を変更することによって、当然ながらそのシフトフィーリング(予測値)を変えることができる。したがって、制御部138が算出した予測結果208を所望のシフトフィーリングと比較し、その比較結果を各種部品の選択及び設計にフィードバックすることで、所望のシフトフィーリングを実現することができる。
【0049】
上述した構成によれば、シフト機構を構成する各種部品の部品諸元204を入力するだけで、そのシフトフィーリングが予測され表示される。したがって、ユーザのシフト機構の作り込みにかかる工数を削減することができ、最適なシフト機構の作り込みを実現することができる。また、部品諸元204を入力するだけでそのシフトフィーリングを予測可能なため、同一のシフトフィーリングを実現可能な構成の中で最もコストを抑制可能な構成について容易に探ることもできる。
【0050】
なお、上述した手法により、所望のシフトフィーリングを実現するシフト機構の各種部品の選択及び設計(シフト機構の作り込み)を完了したら、そのシフト機構の変速時トルクパターン206についてコンピュータ104の制御部138が試験装置102に出力し、試験装置102にてその操作感を体験可能とするとよい。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば、本発明は、変速を機械的に行わないシフト・バイ・ワイヤー等のシフト機構の作り込みにも応用可能である。具体的には、シフト・バイ・ワイヤー等のシフト機構についてその構成を実質的に変えることなく、通常のシフト機構の操作感を実現するための部品の選択及び設計を決定できる。また、本発明は、自動二輪車に限らず、四輪MT、四輪AT、ATV、船外機などにも応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、シフト機構の部品設計支援システム、およびシフト機構の部品設計方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100…シミュレーションシステム、102…試験装置、104…コンピュータ、106…リアルタイムコントローラ、108…タッチパネルディスプレイ、110…シフトペダル、112…モータ、114…モータシャフト、116…回転子、118…固定子、120…サーボドライバ、122…トルクセンサ、124…カップリング、126…エンコーダ、128…制御部、130…記憶部、132…A/Dボード、134…カウンタボード、136…D/Aボード、138…制御部、140…記憶部、142…試験ソフト、144…分析ソフト、146…演算ソフト、148…スロットルグリップ、150…クラッチレバー、152…スピーカ、154…振動発生装置、156…制御ソフトウェア、158…評点領域、160…入力操作部、162…表示部、166、168…ポテンショメータ、172…ストッパスプリング、174…ストッパアーム、174a…ストッパローラ、176…シフトカム、200…評価結果、202…シフトフィーリング予測式、204…部品諸元、206…変速時トルクパターン、208…予測結果
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシフト機構の部品設計支援システムにおいて、
ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式を記憶する記憶部と、
前記シフト機構を構成する各種部品の部品諸元を入力可能な入力操作部と、
前記部品諸元から前記シフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、前記シフトフィーリング予測式に該所定パラメータを導入してシフトフィーリングの予測結果を算出する制御部とを含むことを特徴とするシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記変速時トルクパターンの所定パラメータとして、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相stのいずれかを少なくとも算出することを特徴とする請求項1に記載のシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項3】
前記記憶部は、任意の変速時トルクパターンと該変速時トルクパターンに対する評点とを複数取得し重回帰分析により算出した前記シフトフィーリング予測式を記憶することを特徴とする請求項1または2に記載のシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項4】
前記記憶部は、複数の評価項目ごとにそれぞれ前記シフトフィーリング予測式を記憶しており、
前記制御部は、前記部品諸元からそれぞれの前記シフトフィーリング予測式の所定パラメータを算出し、該シフトフィーリング予測式に該所定パラメータを導入して前記複数の評価項目ごとに前記予測結果を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項5】
車両のシフト機構の部品設計方法において、
前記シフト機構を構成する各種部品の部品諸元から該シフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、
ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式に前記所定パラメータを導入して前記シフト機構のシフトフィーリングの予測結果を算出することを特徴とするシフト機構の部品設計方法。
【請求項1】
車両のシフト機構の部品設計支援システムにおいて、
ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式を記憶する記憶部と、
前記シフト機構を構成する各種部品の部品諸元を入力可能な入力操作部と、
前記部品諸元から前記シフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、前記シフトフィーリング予測式に該所定パラメータを導入してシフトフィーリングの予測結果を算出する制御部とを含むことを特徴とするシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記変速時トルクパターンの所定パラメータとして、ピークトルクPmax、ピーク位相a、トルク差ΔP、ストローク位相stのいずれかを少なくとも算出することを特徴とする請求項1に記載のシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項3】
前記記憶部は、任意の変速時トルクパターンと該変速時トルクパターンに対する評点とを複数取得し重回帰分析により算出した前記シフトフィーリング予測式を記憶することを特徴とする請求項1または2に記載のシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項4】
前記記憶部は、複数の評価項目ごとにそれぞれ前記シフトフィーリング予測式を記憶しており、
前記制御部は、前記部品諸元からそれぞれの前記シフトフィーリング予測式の所定パラメータを算出し、該シフトフィーリング予測式に該所定パラメータを導入して前記複数の評価項目ごとに前記予測結果を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のシフト機構の部品設計支援システム。
【請求項5】
車両のシフト機構の部品設計方法において、
前記シフト機構を構成する各種部品の部品諸元から該シフト機構の変速時トルクパターンの所定パラメータを算出し、
ユーザのシフトフィーリングを定量化したシフトフィーリング予測式に前記所定パラメータを導入して前記シフト機構のシフトフィーリングの予測結果を算出することを特徴とするシフト機構の部品設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−96885(P2013−96885A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240930(P2011−240930)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
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