説明

シミュレーション装置及びシミュレーション方法並びにそのプログラム、架線交通システム

【課題】変電所送出基準電圧を下げても架線交通システム全体の消費電力を従来と比べて下げることができ、車載電気機器の入力電圧を所望の値より下げることができる場合の架線交通システムの変電所送出基準電圧と架線区間率をシミュレーションするシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】架線区間を走行する車両の最大架線電圧を、架線区間率、変電所送出基準電圧に応じて算出し、また架線区間率および送出基準電圧に応じたシステム消費電力を算出する。そして、予め定められた所定の架線区間率である場合におけるシステム消費電力より小さくなるとともに、算出された最大架線電圧が、予め設定された許容電圧以下となった時の、架線区間率および変電所の送出基準電圧を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、前記架線が配されず前記車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて前記車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーション装置及びシミュレーション方法並びにそのプログラム、およびそのシミュレーション結果を用いた架線交通システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、直流き電においては、架線の送電ロスを低減するために高電圧化(例えば、DC750V)している。また路線内の他の車両の回生電力を、架線を通して受け入れるためにも架線電圧を高くしている。このため車両に搭載された電力変換機器では高電圧に対応した特殊仕様のIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子を用いる必要がありコスト高につながっている。
一方で、省エネルギー化のために蓄電装置を利用する架線レスシステムの技術が特許文献1に開示されている。この技術においては、車両にバッテリを搭載し、無架線区間(バッテリ走行区間)と架線区間(集電走行区間)とを併用し、停車中に充電装置から蓄電装置へ急速充電を行う架線交通システムの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−295640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような蓄電装置を利用する省エネルギー型の架線交通システムにおいて、車両の電力変換機器の入力電圧仕様については着眼されていなかった。車両の電力変換機器の入力電圧仕様が高い電圧に設定されると、当該電圧に対応した特殊使用のIGBTを適用する必要があり、従来の架線方式と同様、コスト高につながるという課題があった。
すなわち、変電所送出基準電圧、及び架線区間を走行する車両の位置における架線の最大架線電圧を下げることで車載電気機器(電力変換器や補助電源等)の低コスト化を図ることができるが、単純に変電所送出基準電圧を下げると送電ロスが増大し、架線交通システム全体の消費電力が増加するため、変電所送出基準電圧を下げても架線交通システム全体の消費電力が増加しないようにするという課題があった。
【0005】
そこでこの発明は、変電所送出基準電圧を下げても架線交通システム全体の消費電力を従来に比べて下げることができ、車載電気機器の入力電圧を所望の値より下げることができる場合の架線交通システムの変電所送出基準電圧と架線区間率をシミュレーションするシミュレーション装置及びシミュレーション方法並びにそのプログラム、およびそのシミュレーション結果を用いた架線交通システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、前記架線が配されず前記車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて前記車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーション装置であって、前記架線区間を走行する車両の前記架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を、前記架線交通システムの架線区間率、および前記変電所の送出基準電圧に応じて算出する最大架線電圧算出部と、前記架線区間率、および前記送出基準電圧に応じた、前記架線交通システムのシステム消費電力を、前記変電所が出力した電力と、前記蓄電池に充電するための充電装置が前記蓄電池に対して出力した電力と、に基づいて算出するシステム消費電力算出部と、を有し、前記最大架線電圧算出部は、第1の前記架線区間率および第1の前記送出基準電圧に応じた第1の最大架線電圧と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nの最大架線電圧を算出し、前記システム消費電力算出部は、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧に応じた第1のシステム消費電力と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nのシステム消費電力を算出することを特徴とするシミュレーション装置である。
【0007】
また本発明は、上述のシミュレーション装置において、前記システム消費電力算出部において算出された前記第nのシステム消費電力が、前記第1の最大架線電圧以下となるとともに、前記最大架線電圧算出部において算出された前記第nの最大架線電圧が、前記第1の最大架線電圧以下となった時の、架線区間率および変電所の送出基準電圧を出力するシミュレーション結果出力部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また本発明は、上述のシミュレーション装置において、前記車両は、前記路線上の所定の位置に設置された充電装置からの電力をパンタグラフを介して前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有することを特徴とする。
【0009】
また本発明は、上述のシミュレーション装置において、前記車両は、搭載された充電装置が架線からパンタグラフを介して入力した電力を前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有することを特徴とする。
【0010】
また本発明は、上述のシミュレーション装置によって出力された架線区間率および変電所の送出基準電圧により構成され、前記車両が路線を走行する架線交通システムである。
【0011】
また本発明は、変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、前記架線が配されず前記車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて前記車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーション装置におけるシミュレーション方法であって、前記架線区間を走行する車両の前記架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を、前記架線交通システムの架線区間率、および前記変電所の送出基準電圧に応じて算出する最大架線電圧算出ステップと、前記架線区間率、および前記送出基準電圧に応じた、前記架線交通システムのシステム消費電力を、前記変電所が出力した電力と、前記蓄電池に充電するための充電装置が前記蓄電池に対して出力した電力と、に基づいて算出するシステム消費電力算出ステップと、を有し、前記最大架線電圧算出ステップにおいて、第1の前記架線区間率および第1の前記送出基準電圧に応じた第1の最大架線電圧と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nの最大架線電圧を算出し、前記システム消費電力算出ステップにおいて、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧に応じた第1のシステム消費電力と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nのシステム消費電力を算出することを特徴とするシミュレーション方法である。
【0012】
また本発明は、上述のシミュレーション方法において、前記システム消費電力算出ステップにおいて算出された前記第nのシステム消費電力が、前記第1の最大架線電圧以下となるとともに、前記最大架線電圧算出ステップにおいて算出された前記第nの最大架線電圧が、前記第1の最大架線電圧以下となった時の、架線区間率および変電所の送出基準電圧を出力するシミュレーション結果出力ステップと、を有することを特徴とする。
【0013】
また本発明は、上述のシミュレーション方法において、前記車両は、前記路線上の所定の位置に設置された充電装置からの電力をパンタグラフを介して前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有することを特徴とする。
【0014】
また本発明は、上述のシミュレーション方法において、前記車両は、搭載された充電装置が架線からパンタグラフを介して入力した電力を前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有することを特徴とする。
【0015】
また本発明は、変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、前記架線が配されず前記車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて前記車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーション装置のコンピュータを、前記架線区間を走行する車両の前記架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を、前記架線交通システムの架線区間率、および前記変電所の送出基準電圧に応じて算出する最大架線電圧算出手段、前記架線区間率、および前記送出基準電圧に応じた、前記架線交通システムのシステム消費電力を、前記変電所が出力した電力と、前記蓄電池に充電するための充電装置が前記蓄電池に対して出力した電力と、に基づいて算出するシステム消費電力算出手段、として機能させ、前記最大架線電圧算出手段が、第1の前記架線区間率および第1の前記送出基準電圧に応じた第1の最大架線電圧と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nの最大架線電圧を算出し、前記システム消費電力算出手段が、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧に応じた第1のシステム消費電力と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nのシステム消費電力を算出することを特徴とするプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、変電所送出基準電圧を下げても架線交通システム全体の消費電力が従来と比べて増加せず、車両の電力変換機器への入力電圧を所望の閾値よりも低減することができるような、変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせを、車両の電気系統の構成に応じて決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】シミュレーション装置がシミュレーションする架線交通システムの概略図である。
【図3】車両内の電気系統の第1の概略回路図である。
【図4】最大架線電圧の算出処理の概要を示す図である。
【図5】シミュレーション結果の概要を示す第1の図である。
【図6】車両内の電気系統の第2の概略回路図である。
【図7】シミュレーション結果の概要を示す第2の図である。
【図8】シミュレーション装置の処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態によるシミュレーション装置を図面を参照して説明する。
図1は同実施形態によるシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
この図において、符号10は変電所送出基準電圧を下げても架線交通システム全体の消費電力を従来に比べて下げることができ、車載電気機器の入力電圧を所望の値より下げることができる場合の架線交通システムの変電所送出基準電圧と架線区間率をシミュレーションするシミュレーション装置である。当該シミュレーション装置10は、システム消費電力が、予め定められた所定の架線区間率である場合(例えば架線区間率100%の場合)におけるシステム消費電力より小さくなるとともに、最大架線電圧が、予め設定された許容電圧以下となった時の、架線区間率および変電所の送出基準電圧を決定するために必要な各種パラメータを記憶するデータベース11、シミュレーション処理の制御を行うシミュレーション制御部12、最大架線電圧を算出する最大架線電圧算出部13、システム消費電力を算出するシステム消費電力算出部14、シミュレーション結果を出力するシミュレーション結果出力部15、の各処理部や記憶部を備えている。
【0019】
本実施形態におけるシミュレーション装置10は、変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、架線が配されず車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーションを行うものである。
そして、まず、シミュレーション制御部12の制御に基づいて、最大架線電圧算出部13が、架線区間を走行する車両の架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を、架線交通システムの架線区間率、および変電所の送出基準電圧に応じて算出する。このとき最大架線電圧算出部13は、第1の前記架線区間率および第1の送出基準電圧に応じた第1の最大架線電圧と、第1の架線区間率および第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nの最大架線電圧を算出する。
次に、シミュレーション制御部12の制御に基づいて、システム消費電力算出部14が、架線交通システムの架線区間率、および送出基準電圧に応じた、架線交通システムのシステム消費電力を、変電所が出力した電力と、蓄電池に充電するための充電装置が蓄電池に対して出力した電力とに基づいて算出する。このときシステム消費電力算出部14は、第1の架線区間率および第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nのシステム消費電力を算出する。
そして、シミュレーション制御部12の制御に基づいて、シミュレーション結果出力部15が、システム消費電力算出部14において算出された第nのシステム消費電力が、予め定められた所定の架線区間率である場合におけるシステム消費電力より小さくなるとともに、最大架線電圧算出部13において算出された第nの最大架線電圧が、予め設定された許容電圧以下となった時の、架線区間率および変電所の送出基準電圧を出力する。
【0020】
図2はシミュレーション装置がシミュレーションする架線交通システムの概略図である。
この図が示すように、シミュレーション装置10がシミュレーションする架線交通システムは、複数の車両が上り線と下り線の路線を行き来するものであり、変電所から出力された送出基準電圧に基づく電力を、架線を通して車両に入力して走行(力行)する架線区間と、車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて車両が走行する無架線区間とを有している。当該架線交通システムにおいて、車両は、上り線と下り線の間に分岐軌道を設けており、当該上り線と下り線の間の分岐軌道を通過して、上り線と下り線を行き来する。また、図示していないが、路線内には駅が点在しているものとする。また、当該駅には車両に搭載された蓄電池へ電力を供給する充電装置が備えられているものとする。車両が駅に停車した際に、当該充電装置から車両に搭載された蓄電池へ電力が供給される。
【0021】
図3は車両内の電気系統の第1の概略回路図である。
この図が示すように、車両内の電気系統は、蓄電池31と並列に、インバータ32および、空調や照明などの補機用に用いられるSIV(スタティックインバータ)33が接続され、またモータ34がインバータ32と接続されている。車両の制御部は架線区間においては蓄電池31のスイッチ35をOFFに制御することで、架線から供給される電力をモータ等の電力として使用し、無架線区間においては蓄電池31のスイッチ35をONに制御することで、蓄電池31に蓄積された電力をモータ等の電力として使用する。無架線区間においてはスイッチ35がONに制御されることで、ブレーキ時などにおける回生電力が蓄電池31に蓄積されるが、架線区間においてはスイッチ35がOFFに制御されるため、ブレーキ時などにおける回生電力は蓄電池31に蓄積されない。また、車両は、駅停車時に当該駅に設置された充電装置36からの電力供給を受け、蓄電池31に供給する。
【0022】
以上のような架線交通システムを想定して、シミュレーション装置10はシミュレーションを行う。
図8は、シミュレーション装置の処理フローを示す図である。
図8より、シミュレーション制御部12は、ユーザ等からの操作入力に基づくシミュレーションの開始信号を受信すると(ステップS101)、データベース11から、シミュレーションのための各種パラメータを読み込む(ステップS102)。例えばこのパラメータは、最大架線電圧を算出するためのパラメータであり、変電所送出基準電圧、架線区間率(架線区間率=部分架線区間長÷路線全長)、路線における車両位置、変電所位置、架線の単位長さ当たり抵抗値・・・・等の情報である。そして、シミュレーション制御部12は、入力したパラメータを最大架線電圧算出部13へ出力し、また、ある架線区間率、および変電所のある送出基準電圧において、複数の異なる車両のうち架線区間を走行する各車両の架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を算出するよう要求する信号を最大架線電圧算出部13へ出力する。すると、最大架線電圧算出部13は、シミュレーション制御部12より各パラメータを入力して最大架線電圧を算出する(ステップS103)。
【0023】
図4は最大架線電圧の算出処理の概要を示す図である。
図4(a)で示す例では、変電所によりき電された架線下を、2つの車両(車両1,車両2)が走行し、そのうちの一方の車両1が力行(架線からの電力をモータ等の電力として使用し走行)し、他方の車両2が回生中である場合を示している。このような場合、図4(b)で示す回路網として考えることが出来る。ここで、変電所の送出基準電圧Vssは、送出電流Issの大きさに応じて図4(c)で示すような特性となる。ここで、架線抵抗RやRは、車両位置や変電所位置に基づく車両間の距離、または車両と変電所間の距離と、架線の単位長さ辺りの抵抗値によって、求めることが出来る。そして、車両1における架線電圧(パンタ点電圧)をV、車両2における架線電圧(パンタ点電圧)をVとし、また、車両1のパンタ点電流をI、車両2のパンタ点電流をIとすると、
=Vss−R(I+I
=Vss+R
により架線電圧を算出することができる。そして、最大架線電圧算出部13は、時刻表等による各時刻における車両の位置に基づいて、車両の架線電圧を算出し、各時刻において算出したいずれかの車両の最大の架線電圧を特定する。これにより、最大架線電圧が算出できる。
【0024】
次に、シミュレーション制御部12は、システム消費電力を算出するための各種パラメータをデータベース11から読み込む。例えばこのパラメータは、変電所送出基準電圧、架線区間率、車両に搭載された蓄電池31の容量、時刻表に基づく車両の駅停車回数(充電回数)等の情報である。そして、シミュレーション制御部12は、入力したパラメータをシステム消費電力算出部14へ出力し、また、ある架線区間率、および変電所のある送出基準電圧において、変電所が出力した電力と、蓄電池に充電するための充電装置が蓄電池に対して出力した電力と、に基づいて架線交通システムのシステム消費電力を算出するよう要求する信号をシステム消費電力算出部14へ出力する。すると、システム消費電力算出部14は、例えば、変電所送出基準電圧Vss、変電所送出電流Iss、車両に搭載された蓄電池31の容量、時刻表に基づく車両の駅停車回数(充電回数)等の情報に基づいて、単位時間(h)における変電所が出力した変電所出力電力(Vss×Iss×h)と、単位時間における駅に設置されている充電装置36が出力した充電装置出力電力を算出する(ステップS104)。そして、システム消費電力算出部14は、例えば、「変電所出力電力+充電装置出力電力」により、単位時間におけるにおけるシステム消費電力を算出する(ステップS105)。
【0025】
そして、シミュレーション制御部12は、変電所送出基準電圧、および架線区間率を、ある所定の値減じて、再度算出処理を繰り返すよう、最大架線電圧算出部13と、システム消費電力算出部14へ通知し、最大架線電圧算出部13およびシステム消費電力算出部14は、異なる第nの変電所送出基準電圧および第nの架線区間率に基づいて(n=1,2,3,・・・)、閾値(nを示す閾値や、変電所送出基準電圧や架線区間率の閾値)等に基づいて終了と判定するまで算出を繰り返し、その算出結果と当該算出結果の算出に用いた変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせの情報をシミュレーション結果出力部15へ出力する(ステップS106)。
【0026】
次に、シミュレーション制御部12は、データベース11より、予め求められた架線区間率100%の際における架線交通システムのシステム消費電力と、車載電気機器(IGBT等)の低コスト化を図るための予め設定された架線の許容電圧値とを読取り(ステップS107)、シミュレーション結果出力部15へ閾値として出力するとともに、出力処理をするよう指示する。すると、シミュレーション結果出力部15は、システム消費電力算出部14から出力されたシステム消費電力がシステム消費電力の閾値より小さくなり、また、最大架線電圧算出部13において算出された最大架線電圧が許容電圧以下である場合の、変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせを特定する(ステップS108)。そして、それらの組み合わせの情報に基づいて、出力画面を生成して、表示部へ出力する。
【0027】
図5はシミュレーション結果の概要を示す第1の図である。
図5(a)は変電所送出基準電圧および架線区間率を所定の値減じてシミュレーションを繰り返した場合の算出結果を示しており、変電所送出基準電圧が750Vであるときに架線区間率を100%(Case1)、75%(Case4)、50%(Case7)、25%(Case10)と減じたときのそれぞれの最大架線電圧値、また、変電所送出基準電圧が600Vであるときに架線区間率を100%(Case2)、75%(Case5)、50%(Case8)、25%(Case11)と減じたときのそれぞれの最大架線電圧値、また、変電所送出基準電圧が450Vであるときに架線区間率を100%(Case3)、75%(Case6)、50%(Case9)、25%(Case12)と減じたときのそれぞれの最大架線電圧値を示している。
【0028】
また図5(b)は(a)と同様に、変電所送出基準電圧が750Vであるときに架線区間率を100%、75%、50%、25%と減じたときのそれぞれのシステム消費電力値と、また、変電所送出基準電圧が600Vであるときに架線区間率を100%、75%、50%、25%と減じたときのそれぞれのシステム消費電力値、また、変電所送出基準電圧が450Vであるときに架線区間率を100%、75%、50%、25%と減じたときのそれぞれのシステム消費電力値の推移を示している。
【0029】
変電所送出基準電圧が750V、架線区間率100%であるときの従来の架線交通システムでのシステム消費電力以下となる場合は、図5(b)より、変電所送出基準電圧750Vで、架線区間率50%,25%の場合、および、変電所送出基準電圧600Vで、架線区間率75%,50%,25%の場合、および、変電所送出基準電圧450Vで、架線区間率75%,50%,25%の場合である。
また、図5(a)より、最大架線電圧の閾値である600V以下となる最大架線電圧が算出された場合の変電所送出基準電圧と架線区間率の組み合わせは、変電所送出基準電圧450Vで架線区間率が50%または25%となった場合である。
従って、シミュレーション結果出力部15は、システム消費電力算出部14から出力されたシステム消費電力がシステム消費電力の閾値より小さくなり、また、最大架線電圧算出部13において算出された最大架線電圧が許容電圧以下である場合の、変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせとして、Case9;「変電所基準電圧値450V,架線区間率50%」およびCase12;「変電所基準電圧値450V,架線区間率25%」を示す情報を出力する。
なお、図5(c)は、Case1,Case8,Case9における、ある車両の架線電圧値(パンタ点電圧値)の遷移を示している。回生電力が蓄電池31に蓄積される際には架線電圧が上昇した場合であっても、Case9においては、許容電圧を下回っていることが分かる。
【0030】
図6は車両内の電気系統の第2の概略回路図である。
上述では、充電装置36が車外の駅等に設置されている場合について説明したが、図6で示すように、充電装置36が車内に搭載され、パンタグラフ37からの電流をCCCV制御(定電流定電圧制御)して蓄電池31やインバータ32,SIV33に供給するようにしても良い。この場合、蓄電池31や負荷の状態によって架線と蓄電池31の双方からモータ32やSIV33へ電力が供給される。蓄電池31は架線区間では、充電装置36を介して架線から徐々に充電することができるため、図3を用いて説明した駅に設置された充電装置36から急速充電が行われる場合に比べて、充電時の蓄電池損失を低減することができる。架線区間でも蓄電池31が接続されているため、当該蓄電池31への回生電力の吸収が可能である。このため、架線への回生による架線電圧の上昇をなくすことができる。よって、架線の送出基準電圧を図3の例に比べて高くすることができる。これにより架線の送電損失を低減することができる。
【0031】
そして、車両が図6で示すような電気系統である場合に、上述と同様の処理によりシミュレーション装置10がシミュレーションを行う。このとき、最大架線電圧の算出は車両が図3で示すような電気系統である場合の処理と同様であるが、システム消費電力については、変電所が出力した電力をそのままシステム消費電力として(つまり、充電装置が蓄電池に対して出力した電力を0として)シミュレーションを行う。そして図3で説明した処理と同様に、シミュレーション結果出力部15が、システム消費電力算出部14から出力されたシステム消費電力がシステム消費電力の閾値より小さくなり、また、最大架線電圧算出部13において算出された最大架線電圧が許容電圧以下である場合の、変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせを特定し、それらの組み合わせの情報に基づいて、出力画面を生成して、表示部へ出力する。
【0032】
図7はシミュレーション結果の概要を示す第2の図である。
図7(a)は、図3で示した電気系統である場合において、変電所送出基準電圧が750Vで架線区間率を減じた場合の最大架線電圧値を示すCase1,4,7,10(図5(a))と、変電所送出基準電圧が600Vで架線区間率を減じた場合の最大架線電圧値を示すCase2,5,8,11(図5(a))と、変電所送出基準電圧が450Vで架線区間率を減じた場合の最大架線電圧値を示すCase3,6,9,12(図5(a))と、を示し、また、図6で示す電気系統である場合において、変電所送出基準電圧が600Vであり、架線区間率を100%(Case2’)、50%(Case8’)と減じたときのそれぞれの最大架線電圧値を示している。図7(a)が示すように、車両が図6で示す電気系統を有している場合、図3で示す電気系統を有する場合に比べて、変電所送出基準電圧が高いまま、最大架線電圧を低下させることができることがわかる。
【0033】
また図7(b)は、図5(a)と同様に、図3で示した電気系統である場合において、変電所送出基準電圧が750Vであるときに架線区間率を100%、75%、50%、25%と減じたときのそれぞれのシステム消費電力値と、また、変電所送出基準電圧が600Vであるときに架線区間率を100%、75%、50%、25%と減じたときのそれぞれのシステム消費電力値、また、変電所送出基準電圧が450Vであるときに架線区間率を100%、75%、50%、25%と減じたときのそれぞれのシステム消費電力値と、を示している。また図7(b)は、さらに、図6で示す電気系統である場合において、変電所送出基準電圧が600Vであるときに架線区間率を100%、50%と減じたときのそれぞれのシステム消費電力値(Case2’、Case8’)の推移を示している。図7(b)が示すように、車両が図6で示す電気系統を有している場合、図3で示す電気系統を有する場合に比べて、変電所送出基準電圧の高低によらず、システム消費電力を全体的に低下させることができることがわかる。
【0034】
図6で示す電気系統である場合であって、変電所送出基準電圧が750V、架線区間率100%であるときの従来の架線交通システムでのシステム消費電力以下となる場合は、図7(b)より、変電所送出基準電圧600Vで、架線区間率100%,50%(Case2’、Case8’)の場合である。
また、図6で示す電気系統である場合であって、最大架線電圧の閾値である600V以下となる最大架線電圧が算出された場合の変電所送出基準電圧と架線区間率の組み合わせは、変電所送出基準電圧600Vで架線区間率100%,50%(Case2’、Case8’)の場合である。
従って、シミュレーション結果出力部15は、図6で示す電気系統である場合において、システム消費電力算出部14から出力されたシステム消費電力がシステム消費電力の閾値より小さくなり、また、最大架線電圧算出部13において算出された最大架線電圧が許容電圧以下である場合の、変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせとして、Case2’「変電所基準電圧値600V,架線区間率100%」、Case8’「変電所基準電圧値600V,架線区間率50%」を示す情報を出力する。
【0035】
つまり、車両の電気系統を、図6で示す電気系統のような構成とすることで変電所の送出基準電圧がある程度高いままであっても(例えば600V)、架線区間率にかかわらず、従来の全線架線式、高い基準電圧(例:750V)である場合の架線交通システムに対して、システム消費電力を大幅に低減し、かつ車両の電力変換機器への入力電圧を低減する(例えば、600V以下)ことができる。
【0036】
そして、車両が図3で示す電気系統である場合の上述のシミュレーションによって得られた変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせ、または、車両が図6で示す電気系統である場合の上述のシミュレーションによって得られた変電所送出基準電圧および架線区間率の組み合わせにより、架線交通システムを構成することによって、車両が図3で示す電気系統である場合、または、車両が図6で示す電気系統である場合において、変電所送出基準電圧を下げても架線交通システム全体の消費電力が増加せず、また、車両の電力変換機器への入力電圧を低減させることによって低コスト化できる架線交通システムを構成することができる。
【0037】
なお、上述のシミュレーション装置は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0038】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0039】
10・・・シミュレーション装置
11・・・データベース
12・・・シミュレーション制御部
13・・・最大架線電圧算出部
14・・・システム消費電力算出部
15・・・シミュレーション結果出力部
31・・・蓄電池
32・・・インバータ
33・・・SIV
34・・・モータ
35・・・スイッチ
36・・・充電装置
37・・・パンタグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、前記架線が配されず前記車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて前記車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーション装置であって、
前記架線区間を走行する車両の前記架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を、前記架線交通システムの架線区間率、および前記変電所の送出基準電圧に応じて算出する最大架線電圧算出部と、
前記架線区間率、および前記送出基準電圧に応じた、前記架線交通システムのシステム消費電力を、前記変電所が出力した電力と、前記蓄電池に充電するための充電装置が前記蓄電池に対して出力した電力と、に基づいて算出するシステム消費電力算出部と、を有し、
前記最大架線電圧算出部は、第1の前記架線区間率および第1の前記送出基準電圧に応じた第1の最大架線電圧と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nの最大架線電圧を算出し、
前記システム消費電力算出部は、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧に応じた第1のシステム消費電力と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nのシステム消費電力を算出する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記システム消費電力算出部において算出された前記第nのシステム消費電力が、前記第1の最大架線電圧以下となるとともに、前記最大架線電圧算出部において算出された前記第nの最大架線電圧が、前記第1の最大架線電圧以下となった時の、架線区間率および変電所の送出基準電圧を出力するシミュレーション結果出力部と、
を備えることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項3】
前記車両は、前記路線上の所定の位置に設置された充電装置からの電力をパンタグラフを介して前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記車両は、搭載された充電装置が架線からパンタグラフを介して入力した電力を前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のシミュレーション装置によって出力された架線区間率および変電所の送出基準電圧により構成され、前記車両が路線を走行する架線交通システム。
【請求項6】
変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、前記架線が配されず前記車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて前記車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーション装置におけるシミュレーション方法であって、
前記架線区間を走行する車両の前記架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を、前記架線交通システムの架線区間率、および前記変電所の送出基準電圧に応じて算出する最大架線電圧算出ステップと、
前記架線区間率、および前記送出基準電圧に応じた、前記架線交通システムのシステム消費電力を、前記変電所が出力した電力と、前記蓄電池に充電するための充電装置が前記蓄電池に対して出力した電力と、に基づいて算出するシステム消費電力算出ステップと、を有し、
前記最大架線電圧算出ステップにおいて、第1の前記架線区間率および第1の前記送出基準電圧に応じた第1の最大架線電圧と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nの最大架線電圧を算出し、
前記システム消費電力算出ステップにおいて、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧に応じた第1のシステム消費電力と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nのシステム消費電力を算出する
ことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項7】
前記システム消費電力算出ステップにおいて算出された前記第nのシステム消費電力が、前記第1の最大架線電圧以下となるとともに、前記最大架線電圧算出ステップにおいて算出された前記第nの最大架線電圧が、前記第1の最大架線電圧以下となった時の、架線区間率および変電所の送出基準電圧を出力するシミュレーション結果出力ステップと、
を有することを特徴とする請求項6に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記車両は、前記路線上の所定の位置に設置された充電装置からの電力をパンタグラフを介して前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有する
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記車両は、搭載された充電装置が架線からパンタグラフを介して入力した電力を前記蓄電池に蓄積する電気系統回路を有する
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
変電所と接続された架線が配されて当該架線から得た電力に基づいて車両が走行する架線区間、および、前記架線が配されず前記車両に搭載された蓄電池から得た電力に基づいて前記車両が走行する無架線区間を有する架線交通システムのシミュレーション装置のコンピュータを、
前記架線区間を走行する車両の前記架線区間内の位置における架線電圧のうちの最大架線電圧を、前記架線交通システムの架線区間率、および前記変電所の送出基準電圧に応じて算出する最大架線電圧算出手段、
前記架線区間率、および前記送出基準電圧に応じた、前記架線交通システムのシステム消費電力を、前記変電所が出力した電力と、前記蓄電池に充電するための充電装置が前記蓄電池に対して出力した電力と、に基づいて算出するシステム消費電力算出手段、
として機能させ、
前記最大架線電圧算出手段が、第1の前記架線区間率および第1の前記送出基準電圧に応じた第1の最大架線電圧と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nの最大架線電圧を算出し、
前記システム消費電力算出手段が、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧に応じた第1のシステム消費電力と、前記第1の架線区間率および前記第1の送出基準電圧よりもそれぞれ低い値に順次再設定した第n(n=2,3,4,・・・)の架線区間率および第nの送出基準電圧に応じた第nのシステム消費電力を算出する
ことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−16148(P2012−16148A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149220(P2010−149220)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】