説明

ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩、それらの製造、ならびにその医薬品および化粧品用途

本発明は、一般式I


[式中、
0≦n≦4
nは整数であり、
YはOH、Cl、Br、I、NO、C、CHCO、CFCO、または−OCHを表す]
のショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩、それを製造するための方法、ならびに医薬品および/または化粧品分野におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明はショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩、その製造のための方法、ならびに医薬品および/または化粧品分野におけるその使用に関する。
【0002】
オリゴ糖は、加水分解でオース(oses)のみを生じる炭水化物である。それらは、結合した少なくとも2分子の単糖類(またはオース)からなる糖類である。オリゴ糖はショ糖を含み、グルコース分子1個とフルクトース分子1個の2つのオースの縮合により形成される二糖である。
【0003】
硫酸化オリゴ糖は文献から公知であり、様々な生物活性、美容活性および/または治療活性を有する。
【0004】
WO2006/017752は、オリゴ糖を有効成分として用いて気道の炎症を処置するための方法を開示している。オリゴ糖は、さらに、グルコースの縮合およびフルクトースの縮合により得られる完全硫酸化オリゴ糖を含む。
【0005】
硫酸化オリゴ糖、主としてショ糖オクタ硫酸エステルアルミニウム塩もまた、脱毛症の処置に使用される(US5767104)。
【0006】
ショ糖オクタ硫酸エステルは、その修復/治癒特性のために、胃潰瘍の処置において有効成分として使用される。FR2646604は、創傷または他の潰瘍性炎症の処置に好適な抗炎症特性および治癒特性を有するショ糖オクタ硫酸エステルアルミニウム塩、またはスクラルファートの処方を開示している。WO94/00476は、硫酸化ショ糖塩、より詳しくは、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウムまたはナトリウム塩の投与により消化器官の損傷および/または炎症を処置するための方法を開示している。
【0007】
FR1390007は、硫酸銅および硫酸亜鉛を組織再生、治癒、および無痛化剤として組み合わせたスクラルファートを含んでなる処方の局所的使用を開示している。
【0008】
EP0230023は、創傷治癒のための薬剤として、ポリ硫酸化オリゴ糖、より詳しくは、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩の使用を開示している。
【発明の開示】
【0009】
本発明の目的は、修復特性、抗菌特性および抗ラジカル特性を組み合わせた新規化合物を提供することである。このような化合物は、皮膚修復、創傷治癒および瘢痕形成促進に好適な医薬組成物および/または化粧品組成物の製造において有用であることが見出されている。この種の組成物は、皮膚処置および抗菌性保護の両方を兼ね備えている。
【0010】
本発明は、一般式I:
【化1】

[式中、
0≦n≦4、
nは整数であり、
YはOH、Cl、Br、I、NO、C、CHCO、CFCO、または−OCHを表す]
の化合物に関する。
【0011】
本発明の一つの実施態様では、該化合物は式II:
【化2】

の化合物である。
【0012】
本発明の本実施態様では、該式IIの化合物は、nが4である一般式Iの化合物である。
【0013】
本発明の一つの実施態様では、該化合物は式III:
【化3】

の化合物である。
【0014】
本発明の本実施態様では、該式IIの化合物は、nが3である一般式Iの化合物である。
【0015】
本発明の一つの実施態様では、該化合物は式IV:
【化4】

の化合物である。
【0016】
本発明の本実施態様では、該式IIの化合物は、nが2である一般式Iの化合物である。
【0017】
本発明の一つの実施態様では、該化合物は式V:
【化5】

の化合物である。
【0018】
本発明の本実施態様では、該式IIの化合物は、nが1である一般式Iの化合物である。
【0019】
本発明の一つの実施態様では、該化合物は式VI
【化6】

の化合物である。
【0020】
本発明の本実施態様では、該式IIの化合物は、nが0である一般式Iの化合物である。
【0021】
本発明はまた、これらの化合物を製造するための方法を提供する。
【0022】
一般式Iの化合物は、スキーム1:
【化7】

[式中、
MはK、Na、またはHを表し、
YはOH、Cl、Br、I、NO、BF、C、CHCO、CFCO、または−OCHを表し、
0≦n≦4、
nは整数である]
に従って製造される。
【0023】
一般式Iの化合物は、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩(MはKを表す)、ショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩(MはNaを表す)または酸性型のショ糖オクタ硫酸エステル(MはHを表す)から得られる。出発ショ糖オクタ硫酸エステル塩がナトリウム塩またはカリウム塩である場合、カリウムまたはナトリウムとプロトンとのイオン交換工程は、イオン交換樹脂上にロードすることにより行う。酸性型のショ糖オクタ硫酸エステルには、Zn(OH)、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(NO、もしくはZn(BFから選択される無機亜鉛塩、またはZn(CHCO、Zn(CFCO、Zn(C、もしくはZn(CHO)から選択される有機亜鉛塩のいずれかを添加する。該亜鉛塩は、一般式Iの化合物を生成するために必要な量を添加し、この際、数nは0〜4の間、または0および4に等しい整数である。
【0024】
従って、本発明は以下の製造方法を含む。
【0025】
一般式Iの化合物を製造するための方法は、
1)ショ糖オクタ硫酸エステル塩を水に溶解させる工程、
2)該塩をイオン交換カラム上にロードする工程、
3)亜鉛塩を添加する工程、
4)ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩を沈殿させる工程
を含んでなる。
【0026】
本発明の一つの実施態様では、工程1の該ショ糖オクタ硫酸エステル塩は、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩またはショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩から選択される。
【0027】
イオン交換カラム通過後、酸性型のショ糖オクタ硫酸エステル塩が得られる。より好ましくは、それは陽イオン交換樹脂である。本発明の一つの実施態様では、該陽イオン交換樹脂はアンバーライトである。
【0028】
本発明の一つの実施態様では、該亜鉛塩は、無機亜鉛塩、例えばZn(OH)、ZnO、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(NO、もしくはZn(BF、または有機亜鉛塩、例えばZn(CHCO、Zn(CFCO、Zn(C、もしくはZn(CHO)のいずれかから選択される。該亜鉛塩は、例えば水酸化亜鉛Zn(OH)である。
【0029】
本発明の一つの実施態様では、ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩の沈澱はアセトンを添加することにより行う。
【0030】
一般式Iの化合物を製造するための方法は、
1)酸性型ショ糖オクタ硫酸エステル塩を水に溶解させる工程、
2)亜鉛塩を添加する工程、
3)ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩を沈殿させる工程
を含んでなる。
【0031】
該亜鉛塩は、無機亜鉛塩、例えばZn(OH)、ZnO、ZnCl、ZnBr、ZnI、Zn(NO、もしくはZn(BF、または有機亜鉛塩、例えばZn(CHCO、Zn(CFCO、Zn(C、もしくはZn(CHO)のいずれかから選択される。
【0032】
本発明の一つの実施態様では、該ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩の沈澱はアセトンを添加することにより行う。
【0033】
本発明の式Iの化合物は、局所経路または経口経路により投与することができる。特に、該化合物は、好適な処方で局所的に投与することができる。本発明の組成物中の式Iの化合物の用量レベルは、投与方法に適した組成物に対して所望の治療応答および/または美容応答を達成するために効果的な有効成分の量を得る目的で調整することができる。従って、選択される用量レベルは、所望の治療効果および/または美容効果、投与経路、所望の処置期間ならびに他の因子によって決まる。
【0034】
従って、本発明はまた、少なくとも1つの一般式Iの化合物と薬学上および/または美容学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物および/または化粧品組成物にも関する。
【0035】
本発明はまた、少なくとも1つの一般式Iの化合物と薬学上および/または美容学上許容される賦形剤とを含んでなる医療装置に関する。
【0036】
「薬学上および/または美容学上許容される」という表現は、それらが動物またはヒトに投与された場合に、有害な副作用、アレルギーまたは他の望ましくない反応を引き起こさない、分子実体および組成物を意味する。
【0037】
一つの実施態様では、本発明による組成物は0.01〜30重量%の間の量の一般式Iのショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩を含有する。
【0038】
本発明による一つの実施態様では、該組成物は式IIの化合物を含んでなる。
【0039】
本発明による組成物を得るための薬学上および/または美容学上許容される賦形剤は、局所または経口投与に適するように選択される。
【0040】
有利には、該局所形は、乳液、クリーム、香油、オイル、ローション、ゲル、起泡性ゲル、軟膏、スプレー、ペースト、パッチ、坐剤などからなる群から選択される。
【0041】
有利には、該経口形は、ガム、トローチ剤、錠剤、調理糖(cooked sugar)、ドリンクゲル(drinking gel)、溶解用粉末などからなる群から選択される。
【0042】
本発明の目的では、該局所形は、皮膚使用、経口使用(口腔粘膜)、生殖器使用(肛門、膣粘膜)および/または胃使用のための局所投与形を含む。
【0043】
本発明の目的では、該経口形は、経口使用(口腔粘膜)および/または胃使用のための経口投与形を含む。
【0044】
本発明による医薬組成物および/または化粧品組成物は、創傷治癒を促進するために設計される。
【0045】
亜鉛の抗菌性は十分に記載されている。このために、本発明による医薬組成物および/または化粧品組成物は、さらに細菌感染に対する保護を提供することを意図する。
【0046】
従って、本発明による医薬組成物および/または化粧品組成物は、創傷治癒を促進し、かつ/または細菌感染に対する保護を提供する。
【0047】
in vitro試験では、本発明による化合物はケラチノサイト移動を誘導することが示された。これに対して、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩およびショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩は細胞移動を誘導しない。
【0048】
従って、驚くことに、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩およびショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩双方とは異なり、ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩はケラチノサイト移動に対して極めて有用な特性を示し、従って皮膚治癒に好適であることが認められている。
【0049】
従って、本発明の化合物は、特に治癒プロセスにおける皮膚の処置、およびその審美的外観を増進するために使用することができる。
【0050】
従って、本発明の化合物は、創傷治癒を促進する目的で、組成物ならびに医薬品および/または化粧品の製造のために使用することができる。
【0051】
従って、本発明のもう一つの目的は、薬剤として使用するための本発明による化合物に関する。
【0052】
本発明の化合物の別の目的はまた、化粧品の有効成分として使用するための本発明による化合物に関する。
【0053】
本発明の別の目的はさらに、薬剤および/または化粧品の有効成分として使用するための本発明による化合物に関する。
【0054】
本発明の特定の一つの実施態様では、式Iの化合物は皮膚の処置のために使用される。
【0055】
より詳しくは、該式Iの化合物は創傷治癒を促進するために使用される。より詳しくは、本発明は、急性創傷、例えば、擦り傷、火傷、放射線皮膚炎など、または慢性創傷、例えば潰瘍、褥瘡、および糖尿病性足などの創傷治癒に関する。
【0056】
より詳しくは、本発明は火傷(熱、物理的、化学的、放射線起源)、放射線皮膚炎、様々な発疹、皮膚炎、擦り傷、引っ掻き傷、かすり傷、切り傷、下肢潰瘍、褥瘡、糖尿病性創傷、胃潰瘍、口腔びらん、口腔環境における様々な創傷、瘢痕性座瘡、凍結療法の瘢痕、外科手術後または皮膚形成外科手術後瘢痕(レーザー、脱毛、ピーリング、注射)、水泡、口唇炎、湿疹、おむつかぶれ、皮膚粗鬆症等の創傷治癒に関する。
【0057】
本発明の特定の一つの実施態様では、該式Iの化合物は、創傷治癒を促進し、かつ/または細菌感染に対する保護のために使用される。
【実施例】
【0058】
以下に示す実施例は例示的なものであり、限定されるものではない。
【0059】
実施例1:式IIの化合物の製造
a.製造手順
【化8】

【0060】
100mLの丸底フラスコに水(20ml)中、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩溶液(1.50g;1.16mmol,1.00当量,99%)を添加する。該溶液を250gのイオン交換樹脂アンバーライトIR 120 Hを含むカラム(φ40×500mm)に、流速2〜3mL/分、0℃でロードする。酸性画分(120mL;pH=1.2)を回収し、新しく作製した水酸化亜鉛(600mg;5.76mmol;5.05当量,95%)を添加することにより、直ちに中和する。得られた混合物(約pH6では濁っている)を、室温、撹拌下で一晩(約12時間)静置する。これらの工程は総て、反応媒体をアルミニウムホイルで覆うことにより、暗所で行った。
【0061】
次に、該混合物を濾過し、360mLのアセトンを濾液に添加する。得られた混合物を一晩静置する。上清をデカントし、残ったシロップをアセトンで洗浄する。ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩が白色固体として得られる(0.40g;28%)。
【0062】
1H NMR (D2O, ppm): δ: 4.02-4.50 (m, 10 H); 4.53-4.71 (m, 2 H); 5.03 (d, J = 8.1 Hz, 1 H); 5.70-5.71 (d, J = 3.6 Hz, 1 H).
【0063】
b.ショ糖オクタ硫酸エステルの測定
ショ糖オクタ硫酸エステルの量を、アンスロン法を用いた分光光度アッセイにより測定する(Brooks, J.; Griffin, V. K.; Kattan, M. W.; ≪A Modified Method for Total Carbohydrate Analysis of Glucose Syrups, Maltodextrins, and Other Starch Hydrolysis Products≫; Cereal Chemistry, 63, 5, 465-466, 1986)。
【0064】
アンスロンの標準溶液は、50mgのアンスロンを10mLの蒸留水および90mLの濃硫酸の混合物に溶解させることにより作製する。
【0065】
ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩は、あらかじめ真空(約23.5Pa)で30℃にて6時間、脱水しておく。それぞれ0.3、0.6および0.7mLの容量のショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩水溶液(0.4018mg/mL)の3つのサンプルを蒸留水で2mLに希釈する。6.0mLのアンスロン標準溶液を各溶液に添加する。得られた溶液を水浴中で10分間加熱する。直ちに室温まで冷却した後、ショ糖を参照として用いて各溶液の吸光度を620nmにて測定する(結果を表1に示す)。
【0066】
【表1】

【0067】
ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩中のショ糖オクタ硫酸エステルの量は:0.296mM/0.4018mg/mL=0.737mmol/gである。
【0068】
c.亜鉛含量の測定
亜鉛含量は、EDTAを用いた滴定で測定した。
【0069】
ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩(0.2009g)を脱イオン水(250mL)に溶解させる。塩は、6mLのヘキサメチレンテトラミン(20%)をバッファー溶液として、また2滴のキシレノール・オレンジ(0.2%)を呈色指示薬として含有するEDTA水溶液(0.0101M)を用いて滴定する(表2)。
【0070】
【表2】

【0071】
ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩中の亜鉛量は:2.30mM×0.250l/0.2009g=2.86mmol/gである。
【0072】
亜鉛/ショ糖オクタ硫酸エステルの比は2.86/0.737、すなわち3.88である。
【0073】
d.カリウム不純物の分析
UFLC(超高速液体クロマトグラフィー)を使用して、出発材料由来のカリウムの存在を検出した。
【0074】
条件:
カラム:Merck SeQuant ZIC_HILIC 150×4.6mm
5μm 200A
移動相A:アセトニトリル
移動相B:100mM酢酸アンモニウム pH=5.0
流速:0.6ml/分
カラム温度:35℃
検出器:ELSD
勾配:11.0分かけて15%から85%B、8.0分かけて85%から95%B、95%B 5分間
【0075】
結果:
実施例1に従って得られたショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩および2つの対照をUFLCにより分析した:
ZnCl(図1参照);
ZnCl+KCl(図2参照);
ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩(式II)(図3参照)。
【0076】
この分析から、合成された生成物中にカリウムは存在しないことが確認された。亜鉛のみが陽イオンとして存在する。
【0077】
実施例2:in vitro細胞移動アッセイ
上皮細胞移動は、発生および組織修復プロセス、例えば胚発生および創傷治癒の実質的な段階である。
【0078】
細胞移動の開始、協調および停止のメカニズムは十分には解明されていないが、細胞移動が重要な役割を果たすことは立証されている(Santoro M.M. and Gaudino G. Cellular and molecular facets of keratinocyte reepithelization during wound healing Exp. Cell. Res. 304 (1): 274-286, 2005; Werner S. and Grose R. Regulation of wound healing by growth factors and cytokines Physiol. Rev. 3(3): 835-870, 2003; Steffensen B, Akkinen L., Lariava H. Proteolytic events of wound healing-coordinated interactions among matrix metalloproteinases(MMPs), integrins, and extracellular matrix molecules Crit. Rev. Oral Biol. Med. 12(5): 373-398, 2001).
【0079】
皮膚の治癒過程および皮膚の慢性炎症状態において、ケラチノサイトは「活性化」され、移動プロセスを開始する。次に、該細胞は、一方では細胞外マトリックスとの相互作用により、また他方では細胞−細胞相互作用により、それらの表現型を支配する(McMillan JR, Akiyama M., Shimizu H.Epidermal basement membrane zone component: ultrastructural distribution and molecular interactions J. Derm. Sc. 31: 169-177, 2003)。創傷の境界の基底面のケラチノサイトは、移動して創傷を覆う。
【0080】
実際に、ケラチノサイトは、フィブロネクチン、間質皮膚コラーゲン(1型)、コラーゲンIV、および基底膜由来のラミニン5と接触した場合に活性化される。それらはまた、一部のポリペプチド増殖因子、例えば、TGFβ、TGFα、およびEGFによっても制御される。さらに、サイトカイン(IL1、TNFα)、ならびにケモカイン(RANTESおよびIL−8)もまた、ケラチノサイトを活性化することにより創傷の再上皮化の速度を増加させるのを助ける(Szabo I., Wetzel M. A., Rogers TJ. Cell-Density-Regulated Chemotactic Resposiveness of Keratinocytes In Vitro J. Invest. Dermatol. 117: 1083-1090, 2001)。
【0081】
試験の目的
本試験の目的は、Oris細胞移動アッセイキット(Platypus Technologies)を用いて、ケラチノサイト細胞系統であるHaCATの細胞移動に対するショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩の効果を評価することであった。本試験は、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩、およびショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩と比較して行った。
【0082】
従って、3つのショ糖のHaCaT細胞の移動に対する効果について分析した。
【0083】
材料および方法
a.生物材料
自然に不死化したヒトケラチノサイト細胞系統HaCATは、文献において頻繁に標準モデルとして紹介されている。
【0084】
b.細胞移動プロトコール
細胞移動試験に用いたプロトコールは、96穴Oris細胞移動アッセイキット(Platypus Technologies-TEBU)の使用に基づき、この細胞プロセスの縮小化および定量化を提供する。それは、コード番号QRD/TO/154/107で表される。
【0085】
本アッセイの原理は、96穴プレートのウェルの中心部への細胞移動を調査することである。一部のウェルにはストッパーを配置し、直径2mmの検出ゾーンを設ける。次に、細胞が該ストッパー周囲の表面に十分付着した後に該ストッパーを除去し、細胞が検出ゾーンに向かって移動できるようにする。ストッパー無しで活性物質を含むプレートをDMEM 0%SVF中で37℃、24時間インキュベートする。この後、ストッパーが配置されていたゾーンに位置する細胞量を分析し、細胞移動を評価する。マスクは可視化およびこのゾーンに位置する細胞のみの読み取りを制限する。各条件につき、平均4から8個のウェルを計算する。
【0086】
c.試験品
陽性対照:TGFβ1
ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩(SOS−K)
ショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩(SOS−Na)
実施例1のショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩(SOS−Zn)
【0087】
d.結果の分析
結果はODとして表す(移動した細胞の量に比例)。
【0088】
陰性対照に対する活性パーセントは次のように計算する。
【数1】

【0089】
TGFβに対する活性パーセントは次のように計算する。
【数2】

【0090】
結果
様々な濃度の3種類のショ糖を、それらのHaCaT細胞移動に対する効果について、二重測定で分析した(表3および4)。
【0091】
a.実験1
【表3】

【0092】
b.実験2
【表4】

【0093】
以下のことが確認された。
・実験の陽性対照であるTGFβは5ng/mLはケラチノサイト移動を再現性良く誘導する。
・ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩(SOS−Zn)もまた、1μMにおいて細胞移動を再現性良く誘導する。この濃度では、それは陽性対照であるTGFβと同等の活性を有する。
・試験した濃度では、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩(SOS−K)およびショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩(SOS−Na)はケラチノサイト移動を誘導しない。
【0094】
この細胞移動キットを用いて、3種類のショ糖のケラチノサイト移動に対する効果を検討した。
【0095】
本発明者らは、ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩がケラチノサイト移動を誘導することを示した。これに対して、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩およびショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩は細胞移動を誘導しない。
【0096】
ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩およびショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩とは異なり、ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩はケラチノサイト移動に対して極めて有用な特性を有し、従って、皮膚治癒に好適であることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】
【図2】
【図3】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iの化合物:
【化1】

[式中、
0≦n≦4、
nは整数であり、
YはOH、Cl、Br、I、NO、BF、C、CHCO、CFCO、または−OCHを表す]。
【請求項2】
式II:
【化2】

の化合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の一般式Iの化合物を製造するための方法であって、
1)ショ糖オクタ硫酸エステル塩を水に溶解させる工程、
2)該塩をイオン交換カラム上にロードする工程、
3)亜鉛塩を添加する工程、
4)ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩を沈殿させる工程
を含んでなる、方法。
【請求項4】
ショ糖オクタ硫酸エステル塩が、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム塩またはショ糖オクタ硫酸エステルナトリウム塩である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
一般式Iの化合物を製造するための方法であって、
1)酸性型ショ糖オクタ硫酸エステル塩を水に溶解させる工程、
2)亜鉛塩を添加する工程、
3)ショ糖オクタ硫酸エステル亜鉛塩を沈殿させる工程
を含んでなる、方法。
【請求項6】
前記亜鉛塩が、Zn(OH)、ZnCl、ZnBr、ZnIr、Zn(NO、もしくはZn(BFから選択される無機亜鉛塩、またはZn(CHCO、Zn(CFCO、Zn(C、もしくはZn(CHO)から選択される有機亜鉛塩である、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の少なくとも1つの化合物と、薬学上および/または美容学上許容される賦形剤とを含んでなる、医薬品および/または化粧品組成物。
【請求項8】
薬剤として使用するための、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項9】
皮膚または粘膜の処置のための、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
創傷治癒を促進するための、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
火傷および急性または慢性創傷の治癒に好適である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
火傷、放射線皮膚炎、様々な発疹、皮膚炎、擦り傷、引っ掻き傷、かすり傷、切り傷、下肢潰瘍、褥瘡、糖尿病性創傷、胃潰瘍、口腔びらん、口腔環境における様々な創傷、瘢痕性座瘡、凍結療法の瘢痕、外科手術後または皮膚形成外科手術後瘢痕、水泡、口唇炎、湿疹、おむつかぶれ、および皮膚粗鬆症の治癒に好適である、請求項10に記載の化合物。
【請求項13】
請求項1または2に記載の少なくとも1つの化合物の有効成分としての適用を含む、皮膚および粘膜の美容学的処置の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−512938(P2013−512938A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542475(P2012−542475)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068873
【国際公開番号】WO2011/069921
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(500166231)ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク (30)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【Fターム(参考)】