説明

シリコンウェハの表面処理方法及び半導体装置の製造方法並びに太陽電池

【課題】
白金等の触媒金属を含まない,溶液を作用させて、シリコン基板(Siウェハ)表面にナノ構造の多孔質層を形成する。
【解決手段】
Siウェハ表面に対して、アンモニア含む、および過酸化水素の群から選ばれる少なくとも1つの水溶液を作用させる工程によりSiウェハの表面処理を行って、Siウェハ表面にナノ構造の微細な多孔質層を形成することができた。これによって、Siウェハ表面での可視光域での反射率を5−8%まで低減することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板の表面を微細なナノ構造の多孔質層に成したシリコンウェハの表面処理方法及び半導体装置の製造方法並びに太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン基板(Siウェハ)は、白金等の触媒金属の共存するフッ酸(HF)の水溶液に作用させると、Siウェハ表面を微細なナノ構造の多孔質層にでき、これを太陽電池の受光面に用いると、表面の光反射率が低減して、受光特性の向上が期待されることが知られている(例えば特開2005-183505号公報参照)。
しかし、一方で、上述の従来技術では、その処理後に、上記溶液中の白金等の触媒金属がSiウェハの表面に付着して残存することは避けがたいので、それによる半導体特性への影響を無視することはできず、太陽電池等で安定性の高い性能を実現することに、課題の想定されるところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-183505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述の従来例のような白金等の触媒金属の共存する溶液を用いることなしに、Siの表面を微細なナノ構造の多孔質層に形成するシリコンウェハの表面処理方法及び半導体装置の製造方法並びに微細なナノ構造の多孔質層を有する太陽電池を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シリコン基板(Siウェハ)の表面に対して、アンモニア、フッ化アンモニウムあるいは硝酸アンモニウムを含む,硝酸、フッ酸あるいは過酸化水素から選ばれる溶液(例えば水溶液)を単独で、あるいは選択的に適宜複合して作用させて、Siウェハ表面にナノ構造の微細な多孔質層を形成することができるという事象を基礎にする。
【0006】
すなわち、本発明は、Siウェハの表面にナノ構造の多孔質層を実現する方法として、同Siウェハ表面に対して、アンモニア、フッ化アンモニウムあるいは硝酸アンモニウム含む,硝酸(HNO),フッ酸(HF)および過酸化水素(H)のいずれか、少なくとも1つの水溶液、を作用させる工程をそなえたシリコンウェハの表面処理方法及び半導体装置の製造方法並びに微細なナノ構造の多孔質層を有する太陽電池を提供するものである。
【0007】
本発明は、1つの具体事例として、アンモニア(NH)を含む硝酸(HNO)とフッ酸(HF)との混合酸の溶液が利用されるSiウェハの表面処理方法及び半導体装置の製造方法並びに同混合酸水溶液の作用による微細なナノ構造の多孔質層を有する太陽電池を提供する。
【0008】
本発明は、他の具体事例として、フッ化アンモニウム(NHF)を含む硝酸(HNO)の溶液が利用されるSiウェハの表面処理方法及び半導体装置の製造方法並びに同混合酸の溶液を作用させた太陽電池を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、別の具体事例として、硝酸アンモニウム(NHNO)含むフッ酸(HF)の水溶液が利用されるSiウェハの表面処理及び半導体装置の製造方法並びに同混合酸の溶液の作用による微細なナノ構造の多孔質層を有する太陽電池を提供する。
【0010】
本発明は、Siウェハとして、Si単結晶、Si多結晶、Si非結晶性層およびSi含有混合固体層から選ばれるSiウェハを選択的に使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、Siウェハ表面に対して、アンモニア、フッ化アンモニウムあるいは硝酸アンモニウムを含む,硝酸(HNO)、フッ酸(HF)および過酸化水素(H)のいずれか、少なくとも1つの溶液を作用させることにより、Siウェハ表面をナノ構造の微細な多孔質層に実現でき、これによるSiウェハ表面の光学反射特性では,可視域での表面反射率が5−8%という,低反射率特性の顕著な効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による多結晶Siウェハ表面のSEM像図である。
【図2】本発明の実施形態による多結晶Siウェハ断面のSEM像図である。
【図3】本発明の実施形態による多結晶Siウェハ表面の反射率特性図である。
【図4】本発明の実施形態による単結晶Siウェハ表面の反射率特性図である。
【図5】本発明の実施形態によるLSI用単結晶Siウェハ表面の反射率特性図である。
【図6】本発明の実施形態によるLSI用単結晶ウェハ表面のSEM像図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0013】
つぎに、本発明を、実施の形態である各実施例により、図面を参照して詳細に述べる。
【0014】
<第1実施例>
本発明の1つの実施例(第1実施例)を述べる。
太陽電池用(アズスライス,P型)の多結晶Si基板(ウェハ)表面に対して、29%濃度のアンモニア(NH)を体積比4、70%濃度の硝酸(HNO)を体積比1及び50%濃度のフッ酸(HF)を体積比12の各分量と、水(HO)を体積比4の割合に各ミリリットル(ml)単位で加えて、各成分のモル濃度(M=mole/L)で(NH; 1.37M)/(HNO;0.75M)/(HF;16.9M)となる比率の混合水溶液を調製して、この混合水溶液を用いて、室温で約1分間作用させる処理を行った。この処理により、同ウェハの表面は約0.5μm程度削られたが、ウェハ表面は、図1の走査型電子顕微鏡(SEM)像図に示される通り、ナノオーダーの微細な穴が無数に形成された表面構造、いわゆるナノ構造の多孔質層になっていることが分かった。
【0015】
図2は、本実施例による室温での約1分間処理後の多結晶Siウェハ断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像図であり、P型Si基板(ウェハ)1の最表部の浅い領域にナノ構造の多孔質層2が形成されていることが分かる。
【0016】
図3には、本実施例による光波長域300〜800nmでの表面反射率特性を、未処理の場合と比較して示す。反射特性では,図3のように,可視光域でのナノ構造の多孔質層2の表面反射率が5−8%の低反射率特性であった。また、室温で約10分間継続して作用させる処理を行った場合でも、図3で分かるように、表面反射率の低下は概ね極限状態であり、表面構造は1分程度の短時間処理でナノ構造の多孔質層化がほぼ全面的に十分達成されているものと思われる。とりわけ、表面ナノ構造多孔質層の短波長可視光領域での低反射率特性が得られたことは特筆である。
【0017】
なお、本実施例は、P型の多結晶Si基板(ウェハ)を用いたが、P型以外の多結晶Si基板(ウェハ)であっても、ナノ構造の多孔質層の形成が可能である。
【0018】
<第2実施例>
本実施例では、太陽電池用の単結晶ウェハ表面に対して、29%濃度のアンモニア(NH)、70%濃度の硝酸(HNO)及び50%濃度のフッ酸(HF)の水溶液に、適宜の水を加えて、各成分比がモル濃度(M=mole/L)で(NH; 1.37M)/(HNO;0.75M)/(HF;16.9M)である,上述の第1実施例の場合と同じ組成の混合水溶液により、室温で約1−10分間作用させる処理を行った。
【0019】
図4には、本実施例による光波長域300〜800nmの表面反射率特性を未処理の場合と比較して示す。これによると、室温での処理時間が1分間では、可視光域の表面反射率がおよそ30〜15%であり、また、室温で約10分間継続して作用させる処理を行った場合でほぼ10%以下になる。つまり、単結晶Siウェハの場合には表面構造の全面的なナノ構造の多孔質層化を達成するのに、多結晶Siウェハの場合に比べて、より高い反応性の処理条件に選択設定することを要するが、概ね上述の第1実施例の場合と同様に表面ナノ構造の多孔質層化が実現されていると認められる。
【0020】
<第3実施例>
本実施例では、LSI用の高純度単結晶ウェハ表面に対して、29%濃度のアンモニア(NH)、70%濃度の硝酸(HNO)及び50%濃度のフッ酸(HF)の水溶液に、適宜の水を加えて、各成分比がモル濃度(M=mol/L)比で(NH; 1.37M)/(HNO;0.75M)/(HF;16.9M)となる,上述の第1実施形態の場合と同じ組成の混合水溶液により、室温で約10分間作用させる処理を行った。
【0021】
図5には、本実施例による光波長域300〜800nmの表面反射率特性を、未処理の場合と比較して示す。これによると、室温で約10分間継続して作用させる処理を行った場合でほぼ10%以下になり、表面反射率は、概ね上述の第2実施形態の場合と同様であった。
【0022】
図6には、LSI用の高純度単結晶ウェハ表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像図を示し、本実施例においても、ナノオーダーの微細な穴が無数に形成された表面構造、いわゆるナノ構造の多孔質層になっていることが観られた。
【0023】
なお、本実施例は、第1〜3の各実施例でのアンモニアに代えて、あるいはフッ化アンモニウムを用いることが可能で、それらの場合には、硝酸及びフッ酸との混合酸中のフッ酸を減量ないしは無にして、硝酸(HNO)の水溶液を用いることが可能である。
また、本実施例は、第1〜3の各実施例でのアンモニアに代えて、硝酸アンモニウムを用いることも可能で、それらの場合には、硝酸及びフッ酸との混合酸に代えて、フッ酸(HF)および過酸化水素(H)のうちのいずれか1つの水溶液を選択して使用することが可能である。
【0024】
そして、いずれの場合も、硝酸、フッ酸、および過酸化水素等の酸性溶液および同酸性溶液中のアンモニア、フッ化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の成分とその成分割合は、適宜、選択して、経験的に最適化して利用し得ることである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、ウェハ表面に対して、アンモニア、あるいはフッ化アンモニウム、もしくは硝酸アンモニウムを含む硝酸,フッ酸および過酸化水素のいずれか1つの水溶液を作用させることにより、白金等の触媒金属を用いることなしで、ウェハ表面にナノ構造の微細な穴を持った,いわゆる多孔質層を実現できるので、太陽電池のみならず、光電変換作用を利用する半導体デバイス用のSiウェハに利用することができ、そのデバイスの高性能化に寄与する。
【符号の説明】
【0026】
1 P型Si基板(ウェハ)
2 ナノ構造の多孔質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siウェハ表面に対して、アンモニア、あるいはフッ化アンモニウム、もしくは硝酸アンモニウム含む、硝酸,フッ酸および過酸化水素の群から選ばれる少なくとも1つの溶液を作用させる工程を含むシリコンウェハの表面処理方法。
【請求項2】
Siウェハが、Si単結晶、Si多結晶、Si非結晶性層およびSi含有混合固体層から選ばれる請求項1に記載のシリコンウェハの表面処理方法。
【請求項3】
Siウェハ表面に対して、アンモニア、あるいはフッ化アンモニウム、もしくは硝酸アンモニウム含む、硝酸,フッ酸および過酸化水素の群から選ばれる少なくとも1つの溶液を作用させる工程を含む半導体装置の製造方法。
【請求項4】
Siウェハが、Si単結晶、Si多結晶、Si非結晶性層およびSi含有混合固体層から選ばれる請求項3に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
Siウェハ表面に対して、アンモニア、あるいはフッ化アンモニウム、もしくは硝酸アンモニウム含む、硝酸,フッ酸および過酸化水素の群から選ばれる少なくとも1つの溶液の作用で形成したナノ構造の多孔質層をそなえた太陽電池。
【請求項6】
Siウェハが、Si単結晶、Si多結晶、Si非結晶性層およびSi含有混合固体層から選ばれる請求項5に記載の太陽電池。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−84835(P2013−84835A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224636(P2011−224636)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(594056384)
【Fターム(参考)】