説明

シリコンウェーハの製造方法

【課題】酸化膜の傷及び研磨量を抑制してそのドーパント揮散防止用保護膜としての品質を保ちつつ、高平坦度を有するシリコンウェーハを製造できるシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】原料シリコンウェーハの片面に化学気相成長法により酸化膜を成長させた後に、酸化膜表面側に、ウレタン樹脂を塗布後に湿式凝固させて発泡させたスウェード系研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が50°以上90°未満の研磨布を用い、酸化膜を成長させていない表面を研磨する側に、ウレタン単発泡体研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が90°以上の研磨布を用いて原料シリコンウェーハを両面研磨する工程を有することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャルシリコンウェーハ製造用の、片面に鏡面研磨面を有し、他表面にドーパント揮散防止用保護膜を有するシリコンウェーハを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクリート半導体やバイポーラIC等を製造するウェーハとして、半導体エピタキシャルウェーハがその優れた特性から広く用いられてきた。また、半導体エピタキシャルウェーハは、MOS LSIについても、ソフトエラーやラッチアップ特性が優れている事から、マイクロプロセッサユニットやフラッシュメモリデバイスにも広く用いられている。
【0003】
このような半導体エピタキシャルウェーハは例えば以下のようにして製造される。
まず、一般的にチョクラルスキー(CZ)法またはフローティングゾーン(FZ)法等により単結晶インゴットが製造される。この製造された単結晶インゴットは、ブロックに切断され、直径を揃えるために丸め加工(円筒研削工程)が施される。この単結晶インゴットブロックから複数のウェーハが切り出され(スライス加工工程)、切り出されたウェーハの周辺部の角を落とすために面取り(ベベリング加工工程)が施される。さらに、このウェーハ表面の凹凸を無くし、平坦度を高め、スライス時の加工歪を最小にするために機械研削(ラッピング加工工程)が施される。その後、機械研削時にウェーハの表面層に形成された加工歪み層が混酸エッチングなどにより除去される(エッチング工程)。
【0004】
次いで、オートドーピングを防止するための保護膜(ドーパント揮散防止用保護膜)が少なくともウェーハの裏面側に形成され、その後、化学的かつ機械的に研磨(CMP)をすることで半導体ウェーハの表面を鏡面状にするための鏡面研磨(ミラーポリッシュ工程)が施され、この鏡面研磨されたウェーハの表面にエピタキシャル膜を形成する工程を経て半導体エピタキシャルウェーハを製造している。
【0005】
ここでオートドーピングについて、説明を補足する。ウェーハ上に単結晶薄膜(エピタキシャル膜)を気相成長させるエピタキシャル工程においては、そのウェーハは、通常、おおよそ1000〜1200℃の高温にさらされる。その際、そのウェーハ中に含まれていたドーパントがエピタキシャル膜の形成工程中に揮散し、エピタキシャル膜に取り込まれる現象、いわゆるオートドーピング現象が発生する。
特に、従来からパワーMOS用半導体エピタキシャルウェーハの製造には、不純物を高濃度にドープしたP型あるいはN型のいずれかの導電型の低抵抗率のウェーハがエピタキシャル膜形成用の基板として用いられ、この場合、オートドーピングの発生が顕著となる。
【0006】
すなわち、このような高濃度にドープされたウェーハを加熱した場合に、ドーパント揮散防止用保護膜がウェーハに形成されていないと、ウェーハにドープしてあるボロンやリン、アンチモン、ヒ素等の不純物がウェーハから飛び出し、エピタキシャル膜に入り込むオートドーピング現象が生じ、所望する抵抗率のエピタキシャル膜が得られない。その結果、半導体エピタキシャルウェーハの電気特性が変化してしまい、この半導体エピタキシャルウェーハを用いて作製した半導体素子が設計通りの特性を示さず、不良となる。
【0007】
そこで、上記したように、オートドーピングを防ぐために、ウェーハの裏面にドーパント揮散防止保護膜が必要となる。例えば、直径300mmなどの大直径のウェーハの場合、特に高平坦度が要求されるため、両面研磨を行いウェーハを高平坦化した後にドーパント揮散防止用保護膜として酸化膜を化学的気相成長法(CVD)などによりウェーハの裏面側に形成させる。
その後、上記したミラーポリッシュ工程においてシリコンウェーハの表面側、すなわちエピタキシャル膜を気相成長させる側を片面研磨により鏡面研磨するが、CVDによる酸化膜形成工程によって歪みなどがシリコン表面に生じてしまうので、その歪みなどを除去するために、この片面研磨においてシリコン表面側を数ミクロン以上研磨して鏡面に仕上げる必要がある。
【0008】
しかし、このようなCVDによる酸化膜形成工程で生じる歪みなどを除去するために必要な研磨代での片面研磨によって平坦度が悪化するという問題が生じる。近年、より高平坦なウェーハの要求が強くなり、この要求を満たすためにウェーハの平坦度の悪化を改善する必要性が出てきた。
ここで、特許文献1には、CVDにより片面に酸化膜を成長させたウェーハを両面研磨装置により研磨することで鏡面と粗面を有し、平坦度の高いウェーハの加工を可能とした半導体ウェーハの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9―199465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、この方法は片面を粗面とした高平坦なウェーハを製造することを目的とし、その両面研磨によって酸化膜は除去されてしまう。また、この方法を用いて酸化膜の厚さ及び両面研磨時の研磨代を調整して酸化膜が残るようにしても、酸化膜が研磨によって薄くなったり、酸化膜表面に傷が発生してしまい、ドーパント揮散防止用保護膜としての品質が得られないという問題が生じる。
【0011】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、酸化膜の傷及び研磨量を抑制してそのドーパント揮散防止用保護膜としての品質を保ちつつ、高平坦度を有するシリコンウェーハを製造できるシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、原料シリコンウェーハの片面に化学気相成長法により酸化膜を成長させた後、該酸化膜を成長させていない側の前記原料シリコンウェーハの表面を研磨して、鏡面研磨面と酸化膜面とを有するシリコンウェーハを製造する製造方法であって、前記酸化膜を成長させた後に、前記酸化膜表面側に、ウレタン樹脂を塗布後に湿式凝固させて発泡させたスウェード系研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が50°以上90°未満の研磨布を用い、前記酸化膜を成長させていない表面を研磨する側に、ウレタン単発泡体研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が90°以上の研磨布を用いて前記原料シリコンウェーハを両面研磨する工程を有することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法が提供される。
【0013】
このような製造方法であれば、両面研磨において、酸化膜が研磨され過ぎることもなく、酸化膜の傷を抑制でき、かつシリコンウェーハを高平坦に研磨でき、ドーパント揮散防止用保護膜としての酸化膜の品質を保ちつつ、高平坦度を有するシリコンウェーハを製造できる。
【0014】
このとき、前記両面研磨する工程の後に、前記鏡面研磨面を片面研磨装置を用いて研磨できる。
このようにすれば、シリコンウェーハの平坦度を更に向上でき、鏡面研磨面を高精度に仕上げることができる。
【0015】
またこのとき、前記原料シリコンウェーハとして、抵抗率が0.1Ω・cm以下のシリコンウェーハを用いることができる。
このような、後工程でのエピタキシャルウェーハ工程においてオートドーピングが発生し易い低抵抗率のシリコンウェーハを用いた場合においても、本発明によってドーパント揮散防止用保護膜としての酸化膜の傷を抑制し、オートドーピングを確実に防ぐことができるシリコンウェーハを製造できる。
【0016】
またこのとき、前記酸化膜表面側の研磨布のアスカーCゴム硬度が50°以上70°以下であることが好ましい。
このようにすれば、両面研磨において、酸化膜の傷をより確実に抑制でき、かつより確実に高平坦に研磨できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、原料シリコンウェーハの片面に化学気相成長法により酸化膜を成長させた後、酸化膜表面側に、ウレタン樹脂を塗布後に湿式凝固させて発泡させたスウェード系研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が50°以上90°未満の研磨布を用い、酸化膜を成長させていない表面を研磨する側に、ウレタン単発泡体研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が90°以上の研磨布を用いて原料シリコンウェーハを両面研磨するので、両面研磨において、酸化膜が研磨され過ぎることもなく、酸化膜の傷を抑制でき、かつシリコンウェーハを高平坦に研磨でき、ドーパント揮散防止用保護膜としての酸化膜の品質を保ちつつ、高平坦度を有するシリコンウェーハを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のシリコンウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明で用いることができる両面研磨装置の一例を示す概略図である。
【図3】実施例1乃至実施例5、比較例1の酸化膜の傷の結果を示す図である。
【図4】実施例6、比較例2の平坦度の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
一般に、半導体エピタキシャルウェーハ製造用のシリコンウェーハには、オートドーピングを防止するために、ドーパント揮散防止用保護膜としての酸化膜がウェーハの裏面側に形成される。この酸化膜はCVDによって形成されるが、このCVDの際にシリコン表面に歪みが生じてしまう。この歪みを除去するため、エピタキシャル膜を気相成長させる側の表面を片側研磨によって鏡面に仕上げる際に研磨代を数ミクロン以上とする必要がある。しかし、このような研磨代での片面研磨によって平坦度が悪化してしまうという問題が生じる。
【0020】
従来、CVDにより片面に酸化膜を成長させたウェーハを両面研磨装置により研磨することで鏡面と粗面を有し、平坦度の高いウェーハを製造する半導体ウェーハの製造方法が知られているが、この方法では酸化膜が研磨によって薄くなったり、酸化膜表面に傷が発生してしまい、ドーパント揮散防止用保護膜として機能しなくなる。
このように、従来の方法では、ドーパント揮散防止用の酸化膜の品質を保ちつつ、高平坦度を有するウェーハを製造することが困難であった。
【0021】
そこで、本発明者等はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、エピタキシャル膜を気相成長させる側の表面の鏡面研磨を両面研磨によって行い、この際に上下の研磨布の材質及び硬度を本発明で規定するものとすることにより、酸化膜の品質を保ちつつ、高平坦度を有するウェーハを製造できることを知見し、本発明を完成させた。
【0022】
図1は本発明のシリコンウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
まず、片面にドーパント揮散防止用の酸化膜を成長させた原料シリコンウェーハを以下のようにして準備する。尚、酸化膜を成長させるまでの工程は原則として従来と同様である。以下、原料シリコンウェーハの酸化膜を形成する側の面を裏面と呼び、酸化膜が形成されておらず、鏡面研磨してエピタキシャル膜を形成する側の面を表面と呼ぶことがある。
具体的には、CZ法またはFZ法等によりシリコンインゴットを製造する。そして、製造したシリコンインゴットを、所定長さのブロックに切断し、直径を揃えるために丸め加工(円筒研削工程)を施す。そして、シリコンインゴットからウェーハを切り出す(スライス加工工程)(図1(a))。
【0023】
次に、切り出された原料シリコンウェーハの周辺部の角を落とすために面取り(ベベリング加工工程:図1(b))を行う。更に、このシリコンウェーハ表面の凹凸を無くし、平坦度を高め、スライス時の加工歪を最小にするための機械研削(ラッピング加工工程:図1(c))を行い、機械研削時にウェーハの表面層に形成された加工歪み層を混酸エッチングなどにより除去する(エッチング工程:図1(d))。
ここで、ウェーハの平坦度をより向上するために、後述するドーパント揮散防止用酸化膜成長工程の前、例えば上記エッチング工程後に、ウェーハを両面研磨することができる。特に直径300mmなどの大直径のウェーハを製造する場合にはより高い平坦度が要求されるので、このような両面研磨を行うことが好ましい。この両面研磨の際に用いる研磨布は特に限定されず、従来と同様のものを用いることができる。
【0024】
次に、オートドーピングを防止するためのドーパント揮散防止用の酸化膜を原料シリコンウェーハの裏面に成長させる(ドーパント揮散防止用酸化膜成長工程:図1(e))。このドーパント揮散防止用の酸化膜を成長させることにより、例えば、エピタキシャル膜形成工程や、その他熱処理工程において、ウェーハに高濃度にドープされたドーパントが揮散し、エピタキシャル膜に取り込まれることを強く抑制することができる。
ここで、このドーパント揮散防止用の酸化膜として、シリコン酸化膜を形成することができる。シリコン酸化膜は常圧CVD法による堆積や熱酸化による熱酸化膜の形成等によって容易に形成することができ、安価に製造することができる。
また、このドーパント揮散防止用の酸化膜の外周部をエッチング、又は機械的加工で除去しても良い。
【0025】
次に、裏面側に酸化膜を成長させた原料シリコンウェーハを両面研磨し、表面側を鏡面研磨面にする(両面研磨による鏡面研磨工程:図1(f))。この両面研磨は、例えば図2に示すような両面研磨装置を用いて行う。
図2に示すように、この両面研磨装置10は上下方向に相対向して設けられた上定盤11及び下定盤12を有している。上下定盤11、12の対向面側には、それぞれ研磨布21、22が貼付されている。上下定盤11、12はそれぞれ上下の定盤回転軸13、14によって互いに逆方向に回転可能となっている。
【0026】
下定盤12にはその中心部にサンギア15が設けられ、その周縁部には環状のインターナルギア16が設けられている。下定盤12に貼付された研磨布22の上面と上定盤11に貼付された研磨布21の下面との間にウェーハWを保持するための保持孔を有するキャリア17が配置される。そして、サンギア15及びインターナルギア16の作用によりキャリア17が自転及び公転することによって、キャリア17の保持孔に保持されたウェーハWの表裏面が上下の研磨布21、22との間で摺動して研磨されるようになっている。
【0027】
本発明ではこの両面研磨の際に用いる上下の研磨布としてそれぞれ以下のものを用いる。
すなわち、酸化膜が形成された側(酸化膜表面側)に、ウレタン樹脂を塗布後に湿式凝固させて発泡させたスウェード系研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が50°以上90°未満、より好ましくは50°以上70°以下の研磨布を用い、酸化膜を成長させていない表面を研磨する側(鏡面研磨する表面側)に、ウレタン単発泡体研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が90°以上の研磨布を用いる。
そして、上定盤11に複数個配置されている研磨剤供給口18から研磨剤を供給しながら原料シリコンウェーハWを保持したキャリア17を自転及び公転させ、さらに上下定盤11、12を回転させつつ荷重を与えることで原料シリコンウェーハWを研磨する。
【0028】
このように、酸化膜表面側にウレタン樹脂を塗布後に湿式凝固させて発泡させたスウェード系研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が50°以上90°未満の研磨布を用いれば、酸化膜の研磨が確実に抑えられ、さらに傷の発生も効果的に抑制できる。すなわち、後工程でのエピタキシャル工程におけるオートドーピングを防止するためのドーパント揮散防止用保護膜としての酸化膜の品質を確実に確保することができる。また、50°以上のものを用いれば、研磨布が柔らか過ぎることによるウェーハの平坦度に悪影響を与えることを確実に防ぐことができる。
【0029】
また、上記の酸化膜表面側の研磨布と組み合わせて、鏡面研磨する表面側に、ウレタン単発泡体研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が90°以上の研磨布を用いることによって、表面が鏡面研磨された高平坦度を有するシリコンウェーハを得ることができる。ここで、鏡面研磨する表面側に用いる研磨布の硬度の上限は特に限定されず、現状では95°程度までの硬度の研磨布が入手可能である。
尚、使用する研磨剤は特に限定されず、例えば、コロイダルシリカ又はヒュームドシリカを用いることができる。
【0030】
このとき、両面研磨する工程の後に、更にウェーハの鏡面研磨面を片面研磨装置を用いて研磨することができる。
このようにすれば、ウェーハの鏡面研磨面を高精度に仕上げることができ、シリコンウェーハの平坦度を更に向上できる。本発明において、CVDによるシリコン表面の歪みは上記した両面研磨によって既に除去されているので、この片面研磨の研磨代は大きくする必要はなく、片面研磨によって平坦度が悪化することはない。
【0031】
ここで、用いる原料シリコンウェーハとして、抵抗率が0.1Ω・cm以下のシリコンウェーハを用いることができる。
エピタキシャル工程におけるオードドーピングは、不純物を高濃度にドープした低抵抗率のウェーハを用いる場合に顕著に発生するが、本発明では、このような低抵抗率のシリコンウェーハを用いる場合であっても、確実にオードドーピングを防ぐことができるドーパント揮散防止用の酸化膜が形成された高平坦度のシリコンウェーハを製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1−5)
図1に示すような本発明のシリコンウェーハの製造方法によりシリコン単結晶ウェーハを製造し、酸化膜表面の傷の発生率を評価した。
まず、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを引き上げ、スライスして直径300mm、結晶方位<100>、導電型がP型のシリコン単結晶ウェーハを600枚準備した。これらウェーハのエッジ部を面取りし、ラッピングを行い、ラッピングによる残留ひずみを取り除くためにエッチングを行った。その後、より高平坦化するために両面を鏡面研磨し、エッジ部からのパーティクルを低減するために鏡面面取りを行った。
【0034】
次に、CVDによりシリコン単結晶ウェーハの裏面に酸化膜を4000Å成長させ、エッジ部の酸化膜をエッチングによって除去した。
その後、図2に示すような両面研磨装置を用い、シリコン単結晶ウェーハを酸化膜表面側を下にして保持し、両面研磨した。ここで、研磨布として、鏡面研磨する側、すなわち、酸化膜を成長させていない表面を研磨する側(上側)にウレタン単発泡体研磨布でアスカーCゴム硬度が90°のものを用い、酸化膜表面側(下側)に、スウェード系研磨布でアスカーCゴム硬度が85°(実施例1)、80°(実施例2)、70°(実施例3)、65°(実施例4)、50°(実施例5)のものを用いた。この両面研磨をそれぞれ100枚の上記シリコン単結晶ウェーハに対して行った。
【0035】
以下に両面研磨条件を示す。尚、研磨代は鏡面研磨する側のシリコン単結晶表面に対しての値であり、CVDによる酸化膜形成工程でシリコン単結晶表面に生じた歪みを除去するために4μmに設定した。また、以下の研磨条件では、いずれの実施例の場合ともシリコン単結晶表面の研磨レートが0.1μm/minであることを事前に確認し、研磨時間を40分に設定した。
原料ウェーハ:P型、結晶方位<100>、直径300mm
上側研磨布: ウレタン単発泡体、アスカーCゴム硬度90°
下側研磨布: スウェード系研磨布、アスカーCゴム硬度85°〜50°
研磨剤: コロイダルシリカ研磨剤
研磨荷重: 100g/cm
研磨時間: 40分
研磨代: 4μm
【0036】
この両面研磨後に、さらに片面研磨装置を用いてシリコン単結晶ウェーハの鏡面研磨面を研磨代1μmで仕上げ研磨した。
そして、このシリコン単結晶ウェーハの酸化膜上の傷の発生率を、蛍光灯下にて目視によって傷の有無を検査することによって評価した。
その結果を図3に示す。ここで、図3における傷の発生率の値は、後述する比較例1の傷の発生率を1とした場合の数値を示している。図3に示すように、研磨布の硬度と傷の発生率には相関があり、研磨布の硬度が低いほど傷が少なくなっている。そして、比較例1の結果と比べ大幅に傷が抑制されており、特にアスカーCゴム硬度が70°以下場合では比較例1の1/10以下にまで傷が低減されている。
【0037】
また、酸化膜厚の減少量を評価したところ、いずれの実施例の場合もその減少量が30nm程度であり、酸化膜は殆ど研磨されていなかった。
このように、本発明のシリコンウェーハの製造方法は、酸化膜の傷及び研磨量を抑制してそのドーパント揮散防止用保護膜としての品質を保てることが確認できた。
【0038】
(実施例6)
鏡面研磨する側(上側)の研磨布のアスカーC硬度を95°とした以外実施例3と同様な条件(下側の研磨布のアスカーCゴム硬度が70°)で300枚のシリコン単結晶ウェーハを製造し、その平坦度を評価した。
尚、平坦度として、ADE社製のAFS装置を用いてSFQR(MAX)を測定し、サイトサイズが26mm×8mmで外周2mmを除外した値とした。
その結果を実施例3で得られたものの値と合わせて図4に示す。図4に示すように、SFQR(MAX)の平均値は、アスカーCゴム硬度が90°の場合(実施例3)は50nm、アスカーCゴム硬度が95°の場合(実施例6)は45nmと高平坦であり、後述する比較例2、3の結果と比べ大幅に改善されていた。
【0039】
このように、本発明のシリコンウェーハの製造方法は、高平坦度を有するシリコンウェーハを製造できることが確認できた。
【0040】
(比較例1)
酸化膜表面側に使用したスウェード系研磨布のアスカーCゴム硬度を90°とした以外、実施例1と同様な条件でシリコン単結晶ウェーハを製造し、実施例1と同様に評価した。
その結果を図3に示す。図3に示すように、傷の発生率はいずれの実施例と比べても大幅に悪化していた。
【0041】
(比較例2)
鏡面研磨する側(上側)の研磨布のアスカーCゴム硬度を60°、70°、80°、85°とした以外実施例6と同様な条件で300枚のシリコン単結晶ウェーハを製造し、その平坦度を評価した。
その結果を図4に示す。図4に示すように、SFQR(MAX)の平均値は実施例6の結果と比べ大幅に悪化していた。
このことから、鏡面研磨する側に用いる研磨布のアスカーC硬度は90°以上である必要があることが確認できた。
【0042】
(比較例3)
CVDによるシリコン単結晶ウェーハの裏面への酸化膜の形成及びエッジ部の酸化膜の除去までの工程を、実施例と同様の条件で行い、その後、本発明の両面研磨をすることなく、シリコン単結晶ウェーハの酸化膜を成長させていない鏡面研磨する側の表面を片面研磨装置を用いて鏡面研磨し、実施例6と同様に評価した。尚、CVDによる酸化膜形成工程で単結晶シリコン表面に生じた歪みを除去するために、研磨代を5μmに設定した。
ここで、研磨条件を以下に示す。
原料ウェーハ:P型、結晶方位<100>、直径300mm
研磨ヘッド: 真空吸着式
研磨布: ウレタン単発泡体、アスカーC硬度90°
研磨剤: コロイダルシリカ研磨剤
研磨荷重: 250g/cm
研磨時間: 6分
研磨代: 5μm
【0043】
その結果、SFQR(MAX)の平均値は100nmと実施例6と比べ悪化していた。
このように、シリコン単結晶ウェーハの鏡面研磨を片面研磨装置を用いて上記したようなCVDによる酸化膜形成工程で単結晶シリコン表面に生じた歪みを除去するために必要な研磨代で研磨すると、平坦度が悪化してしまい、所望の高平坦度のシリコンウェーハを製造することができない。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0045】
10…両面研磨装置、 11…上定盤、 12…下定盤、 13、14…定盤回転軸、
15サンギア…、 16…インターナルギア、 17…キャリア、
18…研磨剤供給口、21、22…研磨布。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料シリコンウェーハの片面に化学気相成長法により酸化膜を成長させた後、該酸化膜を成長させていない側の前記原料シリコンウェーハの表面を研磨して、鏡面研磨面と酸化膜面とを有するシリコンウェーハを製造する製造方法であって、
前記酸化膜を成長させた後に、前記酸化膜表面側に、ウレタン樹脂を塗布後に湿式凝固させて発泡させたスウェード系研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が50°以上90°未満の研磨布を用い、前記酸化膜を成長させていない表面を研磨する側に、ウレタン単発泡体研磨布又は不織布にウレタン樹脂を含浸させたベロア系研磨布で、かつアスカーCゴム硬度が90°以上の研磨布を用いて前記原料シリコンウェーハを両面研磨する工程を有することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記両面研磨する工程の後に、前記鏡面研磨面を片面研磨装置を用いて研磨することを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記原料シリコンウェーハとして、抵抗率が0.1Ω・cm以下のシリコンウェーハを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記酸化膜表面側の研磨布のアスカーCゴム硬度が50°以上70°以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−186338(P2012−186338A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48852(P2011−48852)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【出願人】(000214928)直江津電子工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】