説明

シリコンウェーハの製造方法

【課題】結晶軸方位が[110]でエピタキシャル成長処理を行った場合にエピタキシャル層表面のヘイズの発生を抑制できるシリコンウェーハを製造する方法を提供する。
【解決手段】CZ法により育成されたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出すシリコンウェーハの製造方法であって、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン種結晶をシリコン融液に浸漬させ、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン単結晶を育成し、育成されたシリコン単結晶から、表面が(110)面に対して0.46°〜0.48°傾斜したシリコンウェーハを切り出すことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法により得られたシリコン単結晶を用いるシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン半導体の集積回路素子(デバイス)の高集積化は、急速に進んでおり、それに伴い集積回路は微細化し、デバイスが形成されるシリコンウェーハの品質に対する要求は、ますます厳しくなっている。そのため、デバイスが形成されるいわゆるデバイス活性領域では、転位などの結晶欠陥および金属系不純物の存在が厳しく制限される。これらは、リーク電流の増大およびキャリアのライフタイム低下の原因となるからである。
【0003】
一方、近年、電源コントロールなどの用途にパワー半導体デバイスが用いられている。パワー半導体デバイス用の基板としては、チョクラルスキー法(以下、CZ法と記す)により育成されたシリコン単結晶インゴットを切り出し、得られたシリコンウェーハの表面に、結晶欠陥をほぼ完全に除去したシリコンエピタキシャル層を成長させたエピタキシャルシリコンウェーハが主に利用されている。
【0004】
このパワー半導体デバイス用基板としては、さらなる低消費電力化に向け、抵抗率が低いシリコンウェーハの提供が求められている。エピタキシャルウェーハに低抵抗シリコンウェーハが採用されるのは、デバイスが動作する場合に生じる浮遊電荷が寄生トランジスタを動作させる、いわゆるラッチアップ現象を、低抵抗シリコンウェーハを用いることにより防止でき、デバイスの設計が容易になるという設計上の理由によるものである。また、トレンチ構造のキャパシタを用いる場合に、トレンチ周辺の電圧印加時の空乏層広がりが低抵抗シリコンウェーハを用いることによって防止できるという利点があることも理由の一つである。
【0005】
この低抵抗シリコンウェーハには、一般に、ドーパントが高濃度にドープされている。p型のシリコンウェーハの場合は、p型のドーパントであるボロン(B)が高濃度にドープされ、n型シリコンウェーハの場合は、n型のドーパントであるリン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)などが高濃度にドープされる。
【0006】
CZ法によりシリコン単結晶を育成する際、種結晶をシリコン溶融液と接触させるときのヒートショックにより種結晶内に転位が発生するが、従来から多用されている結晶軸[100]のシリコン単結晶では、ネッキングプロセスにより発生した転位を消滅させることができる。
【0007】
しかし、結晶軸方位が[110]のシリコン単結晶では、結晶構造上、引き上げ軸方向と平行なスベリ面である{111}面を有しているので、シリコン溶融液との接触により発生した転位は、ネッキングプロセスでは種結晶外に抜けにくい。そのため、ネック部を通じて転位が成長結晶に引き継がれてしまい、無転位のシリコン単結晶の育成ができないという問題がある。
【0008】
加えて、シリコン単結晶インゴットの大口径・大重量化に伴い、ネック径を太くする必要があり、この観点からも転位除去が一層難しくなってきている。
【0009】
すなわち、直径300mmの単結晶引き上げを例にとると、種結晶そのものの耐荷重が大きくなるように直径10mm以上の種結晶を使用して、直径4mm〜6mm程度のネック部となるようにネック径を減径していた。しかしながら、直径の大きな種結晶を使用すると、種結晶の中心部と外周部との温度分布の均一化が難しく、温度のバラツキを生じて転位が発生しやすい。また、シリコン溶融液との接触面積が大きくなることによっても種結晶内での転位発生量が増加する。
【0010】
この問題に対して、特許文献1に、<110>結晶方位が種結晶の軸方向に対して傾斜された状態で当該種結晶を引き上げることにより、ネッキング工程ですべり転位が除去されたシリコン単結晶を引き上げる単結晶シリコンの製造方法が提案されている。そして、前記傾斜させる方向が、この<110>結晶方位に対して垂直な位置関係にある別の<110>結晶方位を回転軸として回転する方向であれば、引き上げた単結晶の結晶方位を検出する際にX線の回折面として使用する{220}面({110}面と平行)は他の<100>軸結晶や<111>軸結晶における{220}面と平行になるので、X線回折装置や、検出された方位に基づいてオリエンテーションフラットやノッチの加工等を行う加工装置を、引き上げた単結晶の結晶方位に関係なく共用できるので望ましいとしている。
【0011】
図1は、特許文献1の図2に記載されている図で、シリコン結晶の結晶方位と種結晶の軸方向との関係を説明する図である。この図には、種結晶をシリコン融液6に浸漬して引き上げる際のネック部(図1では、滑り転位除去部4と表示)にシリコン結晶7の構造を示す図が重ね合わせ、示されている。前記「種結晶の軸方向に対して傾斜させる方向」とは、この図1において、<110>方位10に対して垂直な位置関係にある別の<110>結晶方位、すなわち図1に太い下線を付して示した{110}面の方位、を回転軸として回転する方向であり、その方向に回転させた結果、シリコン結晶7の<110>方位10が種結晶の軸方向(結晶引上げ方向)9に対してθ°傾斜した状態になっている。
【0012】
一方、ボロンなどのドーパントが高濃度に添加された100mΩcm以下のp型低抵抗シリコン単結晶の育成にあっては、種結晶とシリコン溶融液のドーパント濃度が異なると、格子定数の違いにより、種結晶と溶融液の接触時に種結晶内にミスフィット転位が発生し易いという問題がある。
【0013】
これについては、例えば、特許文献2では、シリコン溶融液中のボロン濃度と同レベルのボロン濃度を有する種結晶を使用して格子定数の違いによる転位発生を回避する技術が提案されている。
【0014】
また、特許文献3には、種結晶として無転位単結晶を用い、種結晶と成長結晶との間のボロン濃度の差を所定値以下とする無転位シリコン単結晶の製造方法が記載されている。しかし、結晶軸方位が[110]のシリコン単結晶の育成においては、この単結晶が先に述べた引き上げ軸方向と同方向のスベリ面({111}面)を有していることから、転位除去効果は十分ではない。
【0015】
また、ウェーハ表面が(110)面のシリコンウェーハを用いてエピタキシャル成長処理を行った場合、エピタキシャル層表面のヘイズが悪化するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2003−313089号公報
【特許文献2】特開平9−255490号公報
【特許文献3】特開2001−240493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前述の問題を解決して、結晶軸方位が[110]でエピタキシャル成長処理を行った場合にエピタキシャル層表面のヘイズの発生を抑制できるシリコンウェーハを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、パワー半導体デバイス用の基板として主に利用されている低抵抗のエピタキシャルシリコンウェーハへの適用も考慮して、ボロンをドーパントとして添加し、中心軸が[110]結晶軸に対して所定角度傾斜した無転位のシリコン単結晶のCZ法による製造、およびこのシリコン単結晶を用いての結晶軸方位が[110]のシリコンウェーハの製造について検討し、本発明をなすに至った。
【0019】
本発明の要旨は、下記(1)のシリコン単結晶の製造方法、(2)または(3)のシリコンウェーハの製造方法、(4)のシリコン種結晶に基づく、「チョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出すシリコンウェーハの製造方法であって、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン種結晶をシリコン融液に浸漬させ、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン単結晶を育成し、育成されたシリコン単結晶から、表面が(110)面に対して0.46°〜0.48°傾斜したシリコンウェーハを切り出すことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法」にある。
【0020】
(1)CZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、ドーパントとしてボロンが6.25×1017〜2.5×1020atoms/cm3の濃度となるように添加されたシリコン溶融液に、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜し、かつ前記シリコン溶融液から育成される単結晶に形成されるネック部のボロン濃度と略同一濃度である、前記ネック部のボロン濃度の10〜1000%のボロン濃度のシリコン種結晶を浸漬させることにより、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶の製造方法であり、前記シリコン種結晶の中心軸は、前記[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向に傾斜していることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法である。
【0021】
前記(1)のシリコン単結晶の製造方法において、シリコン種結晶の中心軸が、前記[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向に傾斜しているため、他の方向に傾斜している場合に比べてネック部の長さが短くてもネッキングの間に転位を除去できる。
【0022】
また、前記(1)のシリコン単結晶の製造方法において、種結晶として、シリコン溶融液と接する種結晶下端部の直径が少なくとも8mm以下のものを使用し、直径4〜6mmのネック部を形成するのが望ましい。
【0023】
(2)前記(1)に記載の方法により得られたシリコン単結晶からウェーハを切り出す際に、前記種結晶の傾斜角度に対応する角度でシリコン単結晶を斜めに切断して、表面が(110)面を持つシリコンウェーハを切り出すシリコンウェーハの製造方法である。
【0024】
(3)前記(1)に記載の方法により得られたシリコン単結晶からウェーハを切り出す際に、前記シリコン単結晶の直径方向に対して最大傾斜角度が±10°以下となるようにシリコン単結晶を切断するシリコンウェーハの製造方法である。
【0025】
前記本発明の方法、または前記(2)もしくは(3)に記載の方法により得られたシリコンウェーハの表面にエピタキシャル層を形成することとすれば、ヘイズの発生が抑制されたエピタキシャルシリコンウェーハを製造することができる。
【0026】
(4)ドーパントとしてボロンが6.25×1017〜2.5×1020atoms/cm3の濃度となるように添加されたシリコン溶融液からシリコン単結晶を育成する際に用いられるシリコン種結晶であって、当該シリコン種結晶のボロン濃度が、前記シリコン溶融液から育成される単結晶に形成されるネック部のボロン濃度と略同一である前記ネック部のボロン濃度の10〜1000%となる、5×1017〜2×1020atoms/cm3であり、かつ中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜しており、シリコン種結晶の中心軸は、前記[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向に傾斜しているシリコン種結晶である。すなわち、前記シリコン溶融液のボロン濃度で育成される単結晶に形成されるネック部のボロン濃度を、ボロンの偏析係数から想定し、これと略同一濃度のシリコン種結晶を用いる。
【0027】
前記(4)のシリコン種結晶の中心軸が、前記[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向に傾斜しているため、この種結晶を用いてシリコン単結晶の引き上げを行うに際し、転位を除去できるネック部の長さを短くすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、結晶軸方位が[110]でエピタキシャル成長処理を行った場合にエピタキシャル層表面のヘイズの発生を抑制できるシリコンウェーハを製造することができる。ウェーハ表面に形成されたエピタキシャル層表面におけるヘイズ発生が抑制されたウェーハの製造も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】シリコン結晶の結晶方位と種結晶の軸方向との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、前記(1)〜(4)に記載のシリコン単結晶の製造方法と、その製造に用いるシリコン種結晶、およびシリコンウェーハの製造方法、ならびに本発明のシリコンウェーハの製造方法について説明する。
【0031】
前記(1)に記載のシリコン単結晶の製造方法は、CZ法によるシリコン単結晶の製造方法であって、ドーパントとしてボロンが6.25×1017〜2.5×1020atoms/cm3の濃度となるように添加されたシリコン溶融液に、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン種結晶を浸漬させてシリコン単結晶を育成する方法である。
【0032】
すなわち、すべり面({111}面)を成長方向(つまり、引き上げ軸方向)から傾けて引き上げるので、種結晶の外周部に導入された熱ショック転位がすべり面上にのり、ネッキングの間にネック側面から開放される。その結果、転位が十分に除去された、無転位のシリコン単結晶を製造することができる。このシリコン単結晶の中心軸は[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜している。
【0033】
種結晶の傾斜角度の範囲を前記のように設定するのは、以下の理由によるものである。
【0034】
まず、ネッキングの間におけるネック部の直径を6mmと仮定して、すべり面上の転位がネック側面から開放されるために必要なネック部の長さ(L)を求めると、表1のようになる。
【0035】
【表1】

【0036】
ここで、θは、[110]結晶軸に垂直な<100>(より具体的には[001]または[00−1])を中心として回転した場合に、[110]結晶軸と種結晶の中心軸がなす角(以下、「種結晶の傾斜角度」または単に「傾斜角度」と記す)であり、φは、{111}すべり面(具体的には、(−111)、(1−11)、(1−1−1)、(−11−1)の4面である)が種結晶の中心軸となす角である。θとφの間には、下記(a)式で表される関係がある。
【0037】
【数1】

【0038】
このようにして育成したシリコン単結晶を後述するように表面が(110)面を持つウェーハに切り出すためには、シリコン単結晶の中心軸をワイヤーソーに対して傾けて設置する必要がある。切り出されたウェーハは真円ではなく、楕円となる。楕円の短軸は真円とするために余分な部分を研削して丸めた後の直径となる。長軸は種結晶の傾斜角度により変化する。
【0039】
表2に、シリコン単結晶の直径が300mmの場合における種結晶の傾斜角度(θ)と長軸(b)の関係を示す。
【0040】
【表2】

【0041】
切り出されたウェーハの扁平になった部分は、切り出し(以下、「スライス」ともいう)後に、真円にするための研削で加工ロスとなる部分である。
【0042】
また、シリコン単結晶の中心軸を傾けてワイヤーソーにセットするために生じるふり幅は、ブロック長(単結晶インゴットを後述するように適当な長さに切断して得られるブロックの長さで、シリコン単結晶の直径に相当する)が300mmの場合、表3のようになる。なお、前記のふり幅とは、ブロックを傾けてセットすることによって切り出しに必要な加工長さが若干増すが、その増え代をいう。
【0043】
表3に、シリコン単結晶の直径が300mmの場合における種結晶の傾斜角度(θ)とふり幅(D)の関係を示す。
【0044】
【表3】

【0045】
直径300mmのシリコン単結晶をスライスするためには、少なくとも、300mmに表3に示すふり幅Dを加えた「D+300mm」の幅の結晶をスライスすることのできる加工能力が必要となる。
【0046】
以上の表1〜表3に示したネック部の長さL、楕円を真円に丸めるための加工ロス、およびふり幅Dを総合的に勘案して、種結晶の傾斜角度を0.6°〜10°とした。より望ましくは、1°〜10°である。傾斜角度がこれより小さい場合は、転位を除去するためのネック部の長さが長くなりすぎ、十分な転位除去効果も得られない。また、種結晶の傾斜角度がこれより大きい場合は、スライス後の扁平度合が大きく、加工ロスとなる部分が増え、必要となるワイヤーソーの加工能力も大きくなりすぎるからである。
【0047】
本発明においては、種結晶を傾ける方向は、{111}すべり面が引き上げ軸に対して傾斜する方向であればよい。例えば、種結晶の中心軸を[110]結晶軸に対して傾ける際に、[110]結晶軸に垂直な<111>結晶軸(より詳しくは、[−11−1]、[1−11]、「1−1−1」、[−111]結晶軸)方向(正確には、<111>結晶軸を中心として回転する方向)とは異なる方向に傾けてもよい。また、[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸(より詳しくは、[001]、[00−1]結晶軸)方向、すなわち、前記表1に示した結果を得た場合のように、<100>結晶軸を中心として回転する方向に傾けてもよい。
【0048】
シリコン種結晶の中心軸が、前記[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向に傾斜していれば、ネッキングの間に転位を除去できるネック部の長さ(L)を以下に述べるように短くすることができ、単結晶引き上げの際の制約を緩和できるので、望ましい。
【0049】
前記の「[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向」とは、前記図1において、太い下線を付した{100}面の方位を回転軸として回転する方向である。すなわち、θ°が0°の状態において、前記{100}面の方位を回転軸として、図1の紙面に対し手前方向に、またはその反対方向に回転する方向である。
【0050】
前記表1に示したネック部の長さ(L)は、種結晶の中心軸の[110]結晶軸に対する傾斜方向を、[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向とした場合であるが、例えば、前掲の特許文献1に記載されるように、<110>結晶方位に対して垂直な位置関係にある別の<110>結晶方位を回転軸として回転する方向に傾けた場合は、αとφの間に下記(b)式で表される関係が成り立つ。ここで、αは種結晶の傾斜角度で、前記(a)式におけるθに対応する。また、φは{111}すべり面が種結晶の中心軸となす角である。
【0051】
【数2】

【0052】
この(b)式を用いて前記表1の場合と同様にネック部の長さ(L)を算出すると、表4のようになる。
【0053】
【表4】

【0054】
表1および表4において、ネック部の長さ(L)を比較すると、表1におけるネック部の長さ(L)の方が格段に短く、種結晶の中心軸の[110]結晶軸に対する傾斜方向を、[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を中心として回転する方向とした場合、転位を除去できるネック部の長さ(L)を短くすることができる。
【0055】
この結果に基づき、実際に、傾斜角度を6°または10°として比較したところ、種結晶の傾斜方向を、[110]結晶軸に垂直な<100>結晶軸を回転軸として回転する方向とした場合、転位を除去できるネック部の長さ(L)が短くなることが確認できた。
【0056】
前記(1)に記載のシリコン単結晶の製造方法では、ドーパントとしてボロンが6.25×1017〜2.5×1020atoms/cm3の濃度となるように添加されたシリコン溶融液に、該シリコン溶融液から育成される単結晶に形成されるネック部のボロン濃度と略同一濃度のシリコン種結晶を浸漬させる。
【0057】
p型低抵抗シリコン単結晶の育成においては、種結晶とシリコン溶融液のドーパント濃度が異なることによる格子定数の違いから、種結晶内にミスフィット転位が発生し易いが、種結晶とシリコン溶融液の育成結晶のネック部のボロン濃度を略同一にすることにより、低抵抗シリコン単結晶の育成で問題となるミスフィット転位の発生を抑制することができる。
【0058】
前記の略同一濃度とは、種結晶とシリコン溶融液の育成結晶のネック部のうちの一方のボロン濃度が他方のボロン濃度に対して10〜1000%(すなわち、0.1〜10倍)の範囲内の濃度とするのが望ましい。この範囲内の濃度差であれば、ミスフィット転位発生の抑制効果が認められる。
【0059】
シリコン溶融液の育成結晶のネック部と種結晶のボロン濃度を前記のように規定したのは、後述する実施例の結果に基づく。
【0060】
前記(1)に記載のシリコン単結晶の製造方法に適用するシリコン種結晶は、ボロン濃度が5×1017〜2×1020atoms/cm3であり、かつ中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜している種結晶である。
【0061】
前記(1)に記載のシリコン単結晶の製造方法においては、シリコン種結晶としてシリコン溶融液の育成結晶のネック部のボロン濃度と略同一濃度の種結晶を用いるが、実質的に同一濃度の種結晶を用いることとすれば、成長結晶との格子定数の違いをなくし、ミスフィット転位発生の抑制効果をより高めることができる。
【0062】
すなわち、ボロンの偏析係数を考慮して、前記シリコン溶融液のボロン濃度で育成される単結晶に形成されるネック部のボロン濃度をボロンの偏析係数から想定し、これと略同一濃度となる、5×1017〜2×1020atoms/cm3であるシリコン種結晶を用いるのが望ましい。
【0063】
前記(1)に記載のシリコン単結晶の製造方法では、種結晶として、シリコン溶融液と接する種結晶下端部の直径が少なくとも8mm以下のものを使用し、直径4〜6mmのネック部を形成することとすれば、溶融液と接触する接触面積が小さく、予熱によって種結晶温度を十分に均一化できるので、転位の発生量をさらに低減することが可能になるので望ましい。
【0064】
前記(2)に記載のシリコンウェーハの製造方法は、前記(1)に記載の製造方法により得られた抵抗率の低いシリコン単結晶からウェーハを切り出す際に、前記種結晶の傾斜角度に対応する角度でシリコン単結晶を斜めに切断して、表面が(110)面を持つシリコンウェーハを切り出すシリコンウェーハの製造方法である。
【0065】
種結晶の傾斜角度に対応する角度でシリコン単結晶を斜めに切断して、その切断面が(110)面を持つシリコンウェーハを切り出すので、結晶軸方位が[110]で無転位の低抵抗シリコンウェーハを製造することができる。
【0066】
また、前記(3)に記載のシリコンウェーハの製造方法は、同じく前記(1)に記載の製造方法により得られたシリコン単結晶からウェーハを切り出す際に、前記シリコン単結晶の直径方向(単結晶の端面に水平の方向)に対して最大傾斜角度が±10°以下となるようにシリコン単結晶を切断するシリコンウェーハの製造方法である。
【0067】
シリコン単結晶をこのように単結晶を切断することにより、[110]結晶軸に対して結晶軸が傾斜した無転位の低抵抗シリコンウェーハを製造することができる。このシリコンウェーハ表面は、(110)面ではないので、エピタキシャル成長処理時に問題となるエピタキシャル層表面のヘイズ発生を抑制することができる。
【0068】
本発明のシリコンウェーハの製造方法により、シリコンウェーハを製造する加工フローの概略は以下のとおりである。
【0069】
まず初めに、引き上げられたシリコン単結晶(インゴット)に外周研削を施す。インゴットは、品質上の要求や、引き上げ中の外乱により直径変動が発生することを考慮して、目的とするウェーハ径よりも数%大きな直径のインゴットとして引き上げられるので、このインゴットを外周研削により目的とする直径まで研削する。
【0070】
次に、インゴットのショルダー部やテイル部を切断し、さらに適当な長さのブロックに切断する。
【0071】
続いて、ブロックをカーボンの土台に接着し、ブロックの中心軸を傾けてワイヤーソーにセットする。このときX線回折装置により結晶の方位を測定して、スライス後の表面が(110)面となるように、またはシリコン単結晶の直径方向に対して最大傾斜角度が±10°以下となるようにセットし、ワイヤーソーにより切断する。
【0072】
スライスされたウェーハは扁平した楕円形状をなしているので、余分な部分を研削によりとぎ落として、真円とする。その後、ポリッシングにより表面を鏡面にする。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
以下に示す結晶育成条件でシリコン単結晶を育成し、単結晶の有転位化の有無を調査した。なお、シリコン結晶中のボロン濃度および種結晶の傾斜角度におけるいずれの水準についても、シリコン単結晶の引き上げ本数は3本とした。
【0074】
シリコン種結晶のボロン濃度については、便宜的に使われている表記を用いた。Pに付した「+」または「++」はドーパント濃度(ここでは、ボロン濃度)が高く、結晶の抵抗率が低いことを、「−」はその逆であることを表す。ドーパント濃度や抵抗率に対して明確な定義はないので、ここでは、特にドーパント濃度を高めたP+、P++について、以下のように定義する。
【0075】
p+ :ボロン濃度 5×1017〜7×1018atoms/cm3
抵抗率 100〜20mΩcm
p++:ボロン濃度 7×1018〜2×1020atoms/cm3
抵抗率 20〜0.8mΩcm
なお、P+やP++の単結晶を育成するためには、偏析現象を考慮して融液中のドーパント濃度は1/偏析係数倍(1/0.8=1.25倍:ボロンの場合)の濃度にする必要がある。
<結晶育成条件>
結晶軸方位:<110>
単結晶直径:300mm
育成結晶のボロン濃度:p−、p、p+、p++
種結晶のボロン濃度:p
種結晶の傾斜角度:0°、0.7°、1°、5°、10°
ネック部長さ:300mm
調査結果を表5に示す。表5において、3本全てのシリコン単結晶を無転位で育成できた場合を○とし、一部のシリコン単結晶が有転位化した場合を△とし、全ての単結晶が有転位化した場合を×として評価した。実施例2〜実施例4においても同様である。
【0076】
【表5】

【0077】
表5から明らかなように、種結晶の中心軸を傾けず(傾斜角度:0°)に育成した条件1では、p−結晶など、ボロン濃度が低いシリコン溶融液を用いて育成した比較的高抵抗のシリコン単結晶の場合には、3本中の一部のシリコン単結晶を無転位で育成することもできたが、p+、p++のシリコン単結晶(低抵抗結晶)の育成では全て有転位化した。
【0078】
種結晶を傾けて引き上げた条件2〜5では、無転位単結晶の収率が全体的に向上したが、p++の結晶育成では全て有転位化した。これは、種結晶の中心軸を[110]結晶軸に対して傾斜させた引き上げだけでは、ミスフィット転位を除去する効果が小さいためと考えられる。
【0079】
(実施例2)
ネック長さを400mmに変更した以外は実施例1と同一の条件でシリコン単結晶を育成した。シリコン単結晶の有転位化の有無の調査結果を表6に示す。
【0080】
【表6】

【0081】
表6に示すように、ネック長さを長くすることにより、ネック長さ300mmでは無転位化のできていなかった条件でも無転位化できた。
【0082】
(実施例3)
ネック長さを600mmに変更した以外は実施例1と同一の条件でシリコン単結晶を育成した。調査結果を表7に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
表7から明らかなように、ネック長さを長くすることにより、実施例1、2で無転位化のできていなかった条件でも無転位化できるようになった。実施例2、3で特徴的なのは、p+結晶の育成についてはネック長を長くすることにより、無転位の成功率の向上が見られるのに対し、p++結晶の育成ではネック長を長くしても無転位の成功率に向上が見られないことである。シリコン溶融液のドーパント濃度が高い方が種結晶の傾斜角度の調整による改善効果が小さいことが分かる。
【0085】
(実施例4)
種結晶のボロン濃度を育成結晶のボロン濃度に合わせた以外は、全て実施例1と同条件でシリコン単結晶を引き上げた。調査結果を表8に示す。
【0086】
【表8】

【0087】
表8から明らかなように、条件1〜5の全てにおいて、無転位で単結晶育成を行うことができた。
【0088】
(実施例5)
種結晶の傾斜角度を5°とし、実施例1と同一の条件で、ボロン濃度がp++の種結晶を用いてp++のシリコン単結晶を育成し、(110)面に対する傾斜角度を種々変更してシリコンウェーハを切り出した。各ウェーハに対してエピタキシャル成長処理を施してウェーハ表面にエピタキシャル層を形成した後、エピタキシャル層表面の表面粗さを測定した。
【0089】
エピタキシャル成長条件は、原料ソースガスとしてトリクロロシラン(TCS)を用いて1130℃の温度で、抵抗率p、厚さ3μmのエピタキシャル層をウェーハ表面に形成した。その結果を表9に示す。表9において、「表面粗さRMS」とは、下記(c)式で定義されるウェーハ表面の微視的ラフネス(マイクロラフネス)で、AFM(Atomic Force Microscopy)により測定、評価した。
【0090】
【数3】

【0091】
【表9】

【0092】
表9から、ウェーハ表面が(110)面である場合(表9の条件1)の表面粗さと比較して表面粗さが小さかった。すなわち、(110)面に対する傾斜角度を変更した場合は、ヘイズ発生が抑制されたものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のシリコンウェーハの製造方法によれば、結晶軸方位が[110]で、エピタキシャル成長処理を行った場合にエピタキシャル層表面のヘイズの発生を抑制できるシリコンウェーハを製造することができる。ウェーハ表面にヘイズ発生が抑制されたエピタキシャル層を形成させることも可能である。
【0094】
したがって、本発明のシリコンウェーハの製造方法は、シリコン半導体材料およびデバイスの製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
4:滑り転位除去部、 5:滑り転位、 6:融液、 6a:融液表面、
7:シリコン結晶、 8:{111}面稜線方向、 9:種結晶軸方向(結晶引上げ方向)、
10:<110>方位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により育成されたシリコン単結晶からシリコンウェーハを切り出すシリコンウェーハの製造方法であって、
中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン種結晶をシリコン融液に浸漬させ、中心軸が[110]結晶軸に対して0.6°〜10°傾斜したシリコン単結晶を育成し、
育成されたシリコン単結晶から、表面が(110)面に対して0.46°〜0.48°傾斜したシリコンウェーハを切り出すことを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により得られたシリコンウェーハの表面にエピタキシャル層を形成することを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229158(P2012−229158A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−147115(P2012−147115)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【分割の表示】特願2007−56130(P2007−56130)の分割
【原出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】