説明

シリコンウェーハの金属汚染試料の作製方法

【課題】半導体デバイスの製造プロセスにおける重金属汚染に伴うシリコンウェーハのゲッタリング能を高い信頼性で把握することを可能にするため、現実のデバイス後工程における重金属汚染の状態を反映した金属汚染試料を作製することができる方法を提供する。
【解決手段】重金属を添加した研磨スラリーを用い、試料用のシリコンウェーハにCMP(化学機械研磨)を施して重金属を汚染させることにより、シリコンウェーハの金属汚染試料を作製する。その際、重金属をCu、Fe、NiおよびCrのうちから選択し、研磨スラリー中の重金属の添加量を1〜1000ppbとすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造プロセスにおける重金属汚染に伴うシリコンウェーハのゲッタリング能を評価するための金属汚染試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおける問題の一つとして、基板となるシリコンウェーハ中に、不純物であるCu、Fe、Niなどの重金属が混入することが挙げられる。ウェーハ中に重金属が混入した場合、ポーズタイム不良、リテンション不良、接合リーク不良、酸化膜の絶縁破壊といったように、デバイス歩留まりの低下をもたらすデバイス特性の不具合が生じかねない。
【0003】
半導体製造プロセスは、ウェーハの表面にデバイス形成を行うデバイス前工程と、このデバイス前工程の後にウェーハの薄厚化加工やワイヤーボンディングや樹脂封入などを行うデバイス後工程とに大別される。通常、上記したデバイス不具合の発生を防止するため、デバイス前工程において、ゲッタリング処理を施すことにより、それまでに混入した重金属がウェーハ表面側のデバイス形成(活性)領域に拡散するのを抑制している。
【0004】
一方、デバイス後工程においては、その初期にウェーハの裏面を研削除去する工程があり、この裏面研削時に導入されるスクラッチやダメージなどが強力なゲッタリング源として作用する。このため、従来、デバイス後工程での重金属汚染は注視する必要がないと考えられていた。
【0005】
ところで、半導体デバイスにおける最終的なウェーハ厚、いわゆるチップ厚は、薄厚化がますます進展している。例えば、MCP(マルチチップパッケージ)デバイスの場合、チップ厚は、100μm以下が標準的とされ、現在では20μm程度まで薄くなっており、将来的には10μm以下になると予想されている。チップ厚の薄厚化が進展すると、裏面研削時に付与されたダメージによりウェーハが割れやすくなる。このため、近年のデバイス後工程には、裏面研削後にダメージを除去する工程として、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)による研磨工程が追加されている。
【0006】
しかし、現実には、デバイス後工程での裏面研削時、さらにCMPによる研磨時に、ウェーハが重金属、特にCuで汚染されることが多く、これに起因してデバイス歩留まりの低下がもたらされる場合がある。これは、デバイス後工程における重金属の汚染量と、デバイス歩留まりに対応するウェーハのゲッタリング能との関係が明確に把握できていないことによる。従って、チップ厚が100μm以下の薄厚化された半導体デバイスを製造するに際しては、デバイス後工程における重金属汚染の影響を無視できないのが実態であり、重金属の汚染量とウェーハのゲッタリング能との関係を把握することが重要である。
【0007】
従来から、重金属の汚染量とウェーハのゲッタリング能との関係を把握するために、予め、試料用のウェーハに故意に重金属を汚染させ、作製した金属汚染試料を用いてゲッタリング能を評価することが行われている。その際、ウェーハの金属汚染試料を作製する方法としては、スピンコートによりウェーハ表面に重金属を均一に付着させ、その後に、ウェーハ表面に付着している重金属をウェーハ中に内方拡散させる必要があるため、例えば900℃×30minの高温ドライブインの熱処理を施す方法が一般に採用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−156636号公報
【特許文献2】「Analytical and Diagnostic Techniques for Semiconductor Materials, Devices, and Processes」、SPIE、1999年9月、Electrochemical Society Proceedings vol.99-16、p.514-516
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
薄厚化の半導体デバイスを製造する際、デバイス後工程における重金属汚染は、ウェーハの裏面研削およびその後に裏面ダメージを除去するためのCMPで発生し、そのCMPによる研磨は室温で行われる。さらに、デバイス後工程に含まれる熱処理は、100〜300℃程度の低温の熱処理である。
【0010】
一方、上述の通り、従来のスピンコートによる金属汚染試料の作製方法においては、重金属を内方拡散させる高温ドライブイン熱処理が必須である。高温ドライブイン熱処理の温度は、現実のデバイス後工程では適用されることのない著しく高温の900℃程度である。
【0011】
従って、従来のスピンコートによる作製方法で得られた金属汚染試料は、著しく高温の熱処理を経たものであることから、薄厚化の半導体デバイスを製造対象とする場合、低温雰囲気工程しか経ることのない現実のデバイス後工程における重金属汚染の状態を反映したものとはいえない。すなわち、従来の金属汚染試料の作製方法では、実態に即した状態で試料用のウェーハに重金属を汚染させることができない。このため、得られた金属汚染試料を評価しても、評価結果から導き出される重金属の汚染量とウェーハのゲッタリング能との関係は、信頼性の低いものでしかない。
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、薄厚化の半導体デバイスを製造するに際し、重金属汚染に伴うシリコンウェーハのゲッタリング能を高い信頼性で把握することを可能にするため、現実のデバイス後工程における重金属汚染の状態を反映した金属汚染試料を作製することができる金属汚染試料の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するため、薄厚化の半導体デバイスの製造プロセスを詳細に検討した結果、実態に即した状態で試料用ウェーハに重金属を汚染させるには、現実のデバイス後工程のうちで重金属汚染が発生するCMPの技術を利用するのが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の要旨は、以下に示すシリコンウェーハの金属汚染試料の作製方法にある。すなわち、重金属を添加した研磨スラリーを用い、試料用のシリコンウェーハにCMPを施して重金属を汚染させることを特徴とするシリコンウェーハの金属汚染試料の作製方法である。
【0015】
ここで、現実のデバイス後工程で汚染源となり得る重金属を考慮し、前記重金属をCu、Fe、NiおよびCrのうちの1種または2種以上とすることが好ましい。
【0016】
また、上記の金属汚染試料の作製方法において、前記研磨スラリー中の前記重金属の添加量を1〜1000ppbとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の金属汚染試料の作製方法によれば、重金属を添加した研磨スラリーを用いて試料用のシリコンウェーハにCMPを施すことにより、現実のデバイス後工程における重金属汚染の状態を反映した金属汚染試料を作製することができ、その金属汚染試料を評価して、重金属汚染に伴うシリコンウェーハのゲッタリング能を高い信頼性で把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】研磨スラリー中のCu添加量とCMP後のウェーハ中のCu濃度との相関を示す図である。
【図2】CMPによる研磨時間とCMP後のウェーハ中のCu濃度との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の金属汚染試料の作製方法について、その実施形態を詳述する。本発明の金属汚染試料の作製方法は、薄厚化の半導体デバイスを製造する場合に、上記の通り、重金属を添加した研磨スラリーを用い、試料用ウェーハにCMPを施して重金属を汚染させることを特徴としている。ここでいう薄厚化の半導体デバイスとは、MCPデバイスなど、チップ厚が100μm以下のものであり、デバイス後工程において裏面研削の後にCMPによる研磨が行われるものを対象とする。
【0020】
試料用ウェーハに施すCMPには、ウェーハを高平坦度の鏡面に仕上げる鏡面研磨で慣用されるCMP装置を用いることができる。CMP装置は、回転テーブル上に研磨パッドを貼り付け、その上にコロイダルシリカなどの砥粒を含んだ研磨スラリーを滴下しながら、回転ヘッドに取り付けたウェーハを研磨パッドに押圧接触させる構成である。CMPによる研磨では、研磨スラリーに含まれる化学成分の化学的な作用でウェーハ表面が活性化されるとともに、砥粒とウェーハとの相対運動による機械的な作用でウェーハ表面が除去され、これらの相乗効果により、高速かつ高精度に研磨が行われる。
【0021】
研磨スラリーには、重金属を添加する。実際には、対象とする重金属の塩を添加することになる。重金属としては、デバイス後工程で汚染源となるCu、Fe、NiおよびCrを採用する。特に、Cuはデバイス後工程における裏面研削およびその後のCMPで汚染源となりやすいことから、Cuを採用するのが有効である。また、これらの重金属は、そのうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0022】
研磨スラリー中に添加する重金属の添加量は、1〜1000ppbの範囲内とするのが好ましい。研磨スラリー中には、格別に重金属を添加しなくても、1ppbを超えない程度で重金属は存在し得るからである。一方、重金属の添加量が1000ppbを超えると、研磨スラリー中で重金属が凝集し、均一に分散しないからである。より好ましくは、5〜300ppbの範囲内である。
【0023】
このように重金属を添加した研磨スラリーを用いて、試料用のシリコンウェーハにCMPを施すことにより、化学的かつ機械的に研磨が行われる。その際、試料用ウェーハの表面が研磨スラリーの化学的な作用によって活性化されているため、研磨スラリー中に含まれる重金属がそのウェーハ表面に浸透して拡散し、重金属で汚染された試料を作製することができる。
【0024】
こうして作製された金属汚染試料は、現実のデバイス後工程のうちで重金属汚染が発生するCMPの技術を利用して作製されたものであるため、従来のスピンコートによる作製方法のような高温ドライブインの熱処理を経ることはなく、現実のデバイス後工程における重金属汚染の状態を反映したものとなる。従って、その金属汚染試料を評価することにより、重金属汚染に伴うシリコンウェーハのゲッタリング能を高い信頼性で把握することが可能になる。
【0025】
また、金属汚染試料の重金属の濃度、すなわちCMPによって試料用ウェーハに拡散した重金属の濃度は、後述する実施例で示すように、研磨スラリー中の重金属の添加量や研磨時間に対応する。このことから、研磨スラリー中の重金属の添加量や研磨時間を調整することにより、定量的に試料用ウェーハに重金属を汚染させることができる。
【0026】
本発明の金属汚染試料の作製方法では、試料用ウェーハに施すCPMの加工条件として、研磨レートは4μm/min以下が好ましく、より好ましくは2μm/min以下である。これはCMP加工面を25℃とした場合、Cuのシリコン単結晶内での拡散速度は約4μm/minであることから、CMPの研磨レートをCu拡散速度より速くするとCuの結晶内への取り込み量が不十分となるためである。一方、デバイス後工程で薄厚化されたデバイス作製済みのウェーハ裏面にパッシベーション膜付けを行い、上記ウェーハを複数枚重ねあわせて貫通穴を開け、更に貫通穴にメッキなどによりCuを導入してこのCuを電極とするスルー・シリコン・ビア(TSV)と呼ばれるプロセスがある。この時にパッシベーション膜の平坦化やCuメッキ後の平坦化などで適用されている研磨レートを考慮すると、研磨レートは20nm/min(=0.02μm/min)以上とすることが好ましい。研磨レートが20nm/min(=0.02μm/min)未満では研磨に長時間を要するからである。その他、回転ヘッドの押圧力、回転テーブルの回転数、研磨スラリーの滴下流量、研磨スラリーの希釈倍率などのCMP加工条件は、研磨レートが所望する範囲内となるように設定する。
【実施例】
【0027】
本発明の金属汚染試料の作製方法の効果を確認するため、下記の試験を実施した。
【0028】
<実施例1>
供試ウェーハとして抵抗率が10Ωcmのシリコンウェーハを準備し、研磨スラリー中に重金属として採用したCuの添加量を5ppb〜300ppbの範囲内で変更するとともに、研磨時間を15分と一定にした条件で、CMPによりウェーハの研磨を行った。その他の加工条件は、以下の通りとした。
・研磨レート:0.5μm/min
・回転ヘッドの押圧力:200g/cm2
・回転テーブルの回転数:60rpm
・研磨スラリーの滴下流量:0.1ml(ミリリットル)/min
・研磨スラリーの希釈倍率:30倍
【0029】
上記条件のCMPで得られた各供試ウェーハについて、原子吸光分光光度分析装置を用いて化学分析を行い、それぞれのCu濃度を測定した。ここで用いた分析装置によるCuの検出下限は1×109atoms/cm2であった。測定結果を図1に示す。
【0030】
図1は、研磨スラリー中のCu添加量とCMP後のウェーハ中のCu濃度との相関を示す図である。同図に示す結果から、金属汚染試料であるウェーハ中のCu濃度は、研磨スラリー中のCu添加量に比例することが判明した。このことから、研磨スラリー中の重金属添加量の調整により、定量的な重金属汚染が可能になることが明らかになった。
【0031】
<実施例2>
供試ウェーハとして抵抗率が10Ωcmのシリコンウェーハを準備し、研磨スラリー中に重金属として採用したCuの添加量を20ppbと一定にするとともに、研磨時間を15分〜60分の範囲内で変更した条件で、CMPによりウェーハの研磨を行った。その他の加工条件は、上記実施例1と同じにした。なお、比較として、研磨スラリーにCuを添加しない条件でもCMPによる研磨を行った。
【0032】
上記条件のCMPで得られた各供試ウェーハについて、上記実施例1と同様の分析装置を用いて、それぞれのCu濃度を測定した。測定結果を図2に示す。
【0033】
図2は、CMPによる研磨時間とCMP後のウェーハ中のCu濃度との相関を示す図である。同図に示す結果から、研磨スラリーにCuを添加した場合、研磨時間の増加に伴って、金属汚染試料であるウェーハ中のCu濃度が増加することが判明した。このことから、研磨スラリーに重金属を添加した場合、CMPによる研磨時間の調整により、定量的な重金属汚染が可能になることが明らかになった。なお、研磨スラリーにCuを添加しなかった場合は、研磨時間にかかわらず、ウェーハ中のCuは検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の金属汚染試料の作製方法によれば、従来のスピンコートによる作製方法のような高温ドライブインの熱処理を経ることなく、実態に即して現実のデバイス後工程における重金属汚染の状態を反映した金属汚染試料を作製することができるため、重金属汚染に伴うシリコンウェーハのゲッタリング能を高い信頼性で把握することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を添加した研磨スラリーを用い、試料用のシリコンウェーハにCMP(化学機械研磨)を施して重金属を汚染させることを特徴とするシリコンウェーハの金属汚染試料の作製方法。
【請求項2】
前記重金属をCu、Fe、NiおよびCrのうちの1種または2種以上とすることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの金属汚染試料の作製方法。
【請求項3】
前記研磨スラリー中の前記重金属の添加量を1〜1000ppbとすることを特徴とする請求項1または2に記載のシリコンウェーハの金属汚染試料の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−124380(P2011−124380A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280793(P2009−280793)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】