説明

シリコンゴムロール及び加熱定着ローラ並びにその製造方法

【課題】軸芯部材の周囲にシリコン弾性層、外形表面層の順に層形成したロール体を外形表面層の弾性特性および熱特性を所定の分布状態に管理することを可能にする。
【解決手段】金属その他の軸芯部材と、上記軸芯部材の周囲に形成されたシリコンゴムの多孔性弾性層と、上記多孔性弾性層の外周面に皮膜状に形成された金属その他の外形表面層とを有するロール体を次のように構成する。まず上記ロール体は、円柱又は円筒形状に形成された軸芯部材と、シリコンゴム素材に発泡剤を混入して円筒形状に加硫成形した素地ロール体と、金属その他の耐熱性素材で円筒形状に形成された表面スリーブ体と、から構成する。このとき上記素地ロール体は表面に形成された成型時の表皮層を研磨若しくは剥離する表皮除去加工を施す。この表皮層を除去した凹凸表面を有する素地ロール体を上記表面スリーブ体に接着剤を用いることなく圧入することによって固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種紙送り装置などにおける紙葉類を搬送するローラ、或いは画像形成した紙葉類を加熱定着する際の定着ローラ及びその製造方法に係わり、弾性および熱的特性に優れたシリコンゴムロールとその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種紙送り装置に用いられているローラ体は、紙葉類を搬送する目的、紙葉類を搬送過程で圧着する目的、或いは紙葉類を搬送過程で加熱する目的などに用いられ、その用途に応じて種々の構造に構成されている。特にシリコンゴムロールは耐熱性、摩擦特性、高温下における弾力性の安定などに富んだ材料として広範な用途に使用され、例えば特許文献1及び2にはシート上に画像形成したトナーインクなどの熱溶融性インクを加熱定着する定着ローラとしてシリコンゴムローラが使用されている。
【0003】
このような紙葉を搬送する過程で、インク定着などを行うローラ体は、回転軸を構成する軸芯部材とその周囲にシリコンゴムその他の弾性層を形成し、その表面に金属、樹脂フィルムその他の離型層を形成している。例えば特許文献1(特開平4−177282号公報)には定着ローラとして芯金の周囲にシリコンゴム層を形成し、その周囲にシリカゲルの多孔性発泡スポンジ層を形成したロール構造が開示されている。また特許文献2(特開平5−94108号公報)には軸芯部材の周囲にシリコンゴムの弾性層を設け、その外周にフッ素樹脂のスリーブを設けたローラ構造が提案されている。
【0004】
ところが、最近画像形成装置の高速化に伴い定着ローラをより高温で設定温度に到達する応答性に優れ、しかも高温時に外径形状と弾性特性が変化しないロール構造が要求されているため、このような構造では表面スリーブの熱がシリコンゴム内部に伝搬され金属製の軸芯部材を通じて外部に放散される問題と、定着温度の高温化に伴いシリコンゴムが熱変形して定着斑を引き起こす問題がある。
【0005】
そこで特許文献3(特開平2−137871号公報)には表面に形成した発熱スリーブの内部に多数の気泡を有するシリコンゴムの弾性層を設け、このゴム層内に混在させた気泡によって熱の伝播を少なくすることによって外形表面層の熱が失われるのを防止し、同時に高温時にゴム層が熱膨張(熱変化)する際にその変形を内部の気泡で吸収して外形状の変化を少なくする試みがなされている。
【0006】
この場合に軸芯部材に回転力を付与して外形表面層のスリーブを回転させるためシリコン弾性体と表面スリーブ体とは接着剤などで堅固に固着する必要がある。同公報には外皮の表面スリーブ体とシリコン弾性体とをどのように接合するのか開示されていないが、通常はシリコン弾性体を中空円筒形状に加硫成形し、これとは別に金属或いはフッ素樹脂などで表面加熱層をスリーブ形状に形成し、この両者を接着剤で固着して一体化している。
【0007】
このような構成では表面の加熱スリーブの熱が内部のシリコン弾性体に伝搬され、軸芯部材を通じて外部に放出されるため、最も熱伝導率の低い空気層を表面スリーブとシリコン弾性層との間に設ける層構造が例えば特許文献4(特開2005−49812号公報)に提案されている。同公報には金属製の表面スリーブ体に空隙を形成する狭窄部を有する弾性体を嵌合し外形表面層からの熱の放散を少なくする提案がなされている。
【特許文献1】特開平4−177282号公報
【特許文献2】特開平5−94108号公報
【特許文献3】特開平2−137871号公報
【特許文献4】特開2005−49812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように軸芯部材の周囲にシリコンゴムなどの弾性層形成し、その表面に離型層を形成した層構造のロール体を製造する際に、従来はこれらをそれぞれ個別に作製して接着剤で固着することによって一体化している。このためスリーブ状の外形表面層とシリコンゴムの弾性層との間には接着剤層と、ゴム表皮層(界面層)が介在することとなる。従って、弾性層内に気泡を混入して外形表面層の熱が外部に放出されるのを防止しようとしても外形表面層の熱は接着剤層とゴム表皮層で外周全域に伝播し、最も熱伝導率の低い部分から弾性層に伝搬され軸芯部材(主に金属材料)から外部に放出される。この現象により外形表面層を局部的に加熱して効率的にシート類を定着しようとしても離型層の昇温に時間を要し、また高速で定着すると定着温度が低下して不完全な定着となる問題があった。
【0009】
斯かる現象を図8で説明すると、例えばシリコンゴム素材に発泡剤を混入して加硫成型し気泡を含んだゴム弾性体を作製する際に、このゴム弾性体の表面には表皮層(界面層)が形成され、この表皮層は皮殻状の比較的密度の高い平滑な面で弾性体の全表面を覆う。このため図8に示す層構造となり、フィルム状の離型層50と気泡を含んだ弾性ゴム層51aとの間には接着剤層52とゴム表皮層51bが層形成される。
【0010】
このような従来の層構造では、まず接着剤層の厚さが不均一となって表面の離型スリーブに与える弾性力の分布が不均一となり、同時に接着剤の熱伝導によって離型スリーブ表面の温度分布が不均一となる。特に離型スリーブの中空内面壁に接着剤を塗布する際に塗布層の厚さが不均一となり、この接着剤層の厚さのバラツキは外形表面層の弾性特性の不均一と温度分布の不均一をもたらし、定着斑の原因となっている。同様に皮殻状のゴム表皮層は外形表面層の熱をロール体全周に伝搬し、最も熱伝導の高い部分例えば内部気泡の少ない部分からゴム弾性層内に伝搬し金属などの軸芯部材から外部に放出する。これによってゴム弾性層内に形成した気泡の効果(熱伝導の軽減)が得られず、外形表面層をシートの熱定着に作用するローラ部位を局部的に加熱高温化しようとしてもその熱がゴム弾性層から外部に放出されてしまう問題があった。
【0011】
そこで本発明は、軸芯部材の周囲にシリコン弾性層、外形表面層の順に層形成したロール体を外形表面層の弾性特性および熱特性を所定の分布状態に管理することが出来、以って安定した加熱定着或いは紙葉類の搬送が可能であるシリコンゴムロールの製造方法及びシリコンゴムロールの提供をその主な課題としている。更に本発明は外形表面層を加熱する際にこの離型層の熱が内部のゴム弾性体に伝搬されることの少ない加熱定着ローラの提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を採用する。金属その他の軸芯部材と、上記軸芯部材の周囲に形成されたシリコンゴムの多孔性弾性層と、上記多孔性弾性層の外周面に皮膜状に形成された金属その他の外形表面層とを有するロール体を次のように構成する。まず上記ロール体は、円柱又は円筒形状に形成された軸芯部材と、シリコンゴム素材に発泡剤を混入して円筒形状に加硫成形した素地ロール体と、金属その他の耐熱性素材で円筒形状に形成された表面スリーブ体と、から構成する。このとき上記素地ロール体は表面に形成された成型時の表皮層を研磨若しくは剥離する表皮除去加工を施す。この表皮層を除去した凹凸表面を有する素地ロール体を上記表面スリーブ体に接着剤を用いることなく圧入することによって固着する。これによって外形表面層と多孔性弾性層との間には接着剤層もまた弾性層の成形過程で生ずる表皮層(スキン層)も存在しないため表面層に印可した熱が弾性層内部から外部に放出される熱量を著しく低減することが出来る。これと同時に表面層と弾性層の境界には気泡が多数形成され、この気泡が形成する空気層によって更に弾性層内への熱伝導が低減される。従って加熱定着ローラにあってはウォーミングアップ時間が短縮され、使用後の冷却時間も短縮される。
【0013】
また、前記発泡剤は前記素地ロール体の内部に複数の気泡を形成して多孔性弾性層を構成するか、或いは前記素地ロール体の内部に互いに連通する複数の気泡が連鎖するように形成し、この連鎖する気泡は少なくともその一部が前記多孔性弾性層の端面から外気に連通するように構成する。これによって表面層を高温度に昇温することによっても弾性層が熱膨張しても内部の気泡内の空気が外部に漏れ出すことによってロール外形に変化を及ぼすことがなく一定の押圧力でシートを搬送或いは定着することが出来る。
【0014】
また、本発明に係わる加熱定着ローラは、金属その他の軸芯部材と、上記軸芯部材の周囲に形成されたシリコンゴムの多孔性弾性層と、上記多孔性弾性層の外周面に皮膜状に形成された金属その他の外形表面層とを有するロール体を次のように構成する。上記ロール体は、円柱又は円筒形状に形成された軸芯部材と、シリコンゴム素材に発泡剤を混入して円筒形状に加硫成形した素地ロール体と、金属その他の耐熱性素材で円筒形状に形成された表面スリーブ体とから構成する。そして上記素地ロール体は表面に形成された成型時の表皮層を研磨若しくは剥離する表皮除去加工が施された状態で上記表面スリーブ体に接着剤を用いることなく圧入接合する。これによって前述の作用をもたらすこととなる。
【0015】
更に本発明に係わるシリコンゴムロールの製造方法は、予め成形された金属その他の軸芯部材と、この軸芯部材の周囲に形成されたシリコンゴムの多孔性弾性層と、上記多孔性弾性層の外周面に皮膜状に形成した金属その他の外形表面層を有するシリコンゴムロールの製造方法であって、発泡剤を含有したシリコンゴム素材を中空円筒形状に加硫成型した素地ロール体成型工程と、上記成型工程により素地ロール体に形成された表皮層を研磨若しくは剥離する表皮除去工程と、上記外形表面層を形成するため予め円筒形状に成形された金属その他の表面スリーブ体に上記表皮除去加工を施した素地ロール体を、接着剤を用いることなく圧入して固着する組立工程とから構成する。この加工の際上記素地ロール体は内部に複数の気泡が形成された多孔性弾性層で形成する。これによってシリコンゴムの弾性層を形成する加工は、例えばチューブ状に押し出し成形するなど連続成形が可能となり、安価に大量生産することが出来る。
【0016】
前記組立工程では、前記表面スリーブ体に前記表皮層を除去した素地ロール体を圧入する際に、該素地ロール体の中空内にこの中空径より大きい径の前記軸芯部材を圧入して固着することにより、上記素地ロール体と前記表面スリーブ体との圧入係合が保持される。これによって軸芯部材から弾性層の内筒に及ぼす圧迫力で弾性層外周と表面層との圧入関係を保持することが出来る。
【0017】
素地ロール体成形工程は、適宜の接着剤を塗布した前記軸芯部材の周囲に発泡剤を含有したシリコンゴム素材を中空円筒形状に加硫成型することによって前記軸芯部材と前記素地ロール体とを一体成形し、前記表皮除去工程では上記軸芯部材の両端を中心に円筒研削盤で上記素地ロール体の表皮層を除去する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリコンゴムロールの製造方法は、金属などの軸芯部材とスリーブ状の外形表面層との間にシリコンゴムの多孔性弾性層を層形成する際に、引き抜き加工などでチューブ状の弾性ロール体を作成し、このロール体の表皮を研磨若しくは剥離して梨地加工を施した後、外形表面層を形成する表面スリーブに接着剤を用いることなく圧入固着したものであるから外形表面層には多孔性の弾性ロール体が圧接状態で固着されることとなり、外形表面層と弾性ロール体との間には微細な気泡が多数形成され、接着剤層或いはゴム皮殻層などのロール周面に熱伝達する層が存在しないため外形表面層の熱が外部に放散するのを著しく低減することが可能となる。
【0019】
従って加熱定着ローラとして構成すると外形表面層をより高温に加熱することも、局部的に加熱することも、また短時間で加熱昇温することも、冷却することも可能となる。これと共に外形表面層と弾性ロール体とは梨地状の面で密着するためロール体に付与される回転力を確実に外形表面層に伝達し両者間にスベリが生ずる恐れがない。
【0020】
更に、上述のゴム弾性層には互いに連通する複数の気泡が連鎖して形成され、少なくともその一部がロール体の端面から外気に連通しているため、外形表面層を高温に加熱しても内部のゴム弾性層が膨張する際に気泡内の空気が外部に押し出されるためロール体の外径形状に変化が少なく、また外形表面層に及ぼす弾性押圧力も略々均一に保持することが出来る。これと同時に弾性ロール体には互いに連通する複数の気泡が連鎖して形成されているため軸方向にも径方向にも弾性変形し易いため外形表面層を形成する表面スリーブに弾性ロール体を圧入する工程が容易であるのと同時に圧入後には両者を確実に固着することが可能である。
【0021】
更にまた、軸芯部材と弾性ロール体とを略々等しい軸径に構成し、この軸芯部材に弾性ロール体を嵌合した後、弾性ロール体の外周に外形表面層のスリーブを圧入することによって弾性ロール体の内周は軸芯部材を締め付けることとなり、軸芯部材、弾性ロール体、外形表面層の三者を確実に接合することが出来、製作が容易で安価なシリコンゴムロールの提供が可能である。
【0022】
本発明のシリコンゴムロール及び定着ローラは上述のように軸芯部材とその外周にシリコンゴムの多孔性弾性層と外形表面層との層構造で形成され、多孔性弾性層は成型時の表皮層(皮殻層)を研磨若しくは剥離して梨地加工された状態で面接触して接合されているため、外形表面層の熱をロール体外周方向に熱伝搬することがなく、また多孔性弾性層の表面には熱伝導率の小さい多数の気泡が外形表面層との間に形成されるため外形表面層の熱を外部に放出することが少ない。従って定着ローラの場合外形表面層をより高温に加熱することも、局部的に加熱することも、また短時間で加熱昇温することも、短時間で冷却することも可能であるなど顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図示の実施の態様に基づいて本発明を詳述する。図1乃至図4は本発明に係わるシリコンゴムローラの層構造を示し、図1はその斜視説明図、図2は図1の横断面図であり、図3は縦断断面図を示す。図4は層断面構造を示す斜視図であり、図5は本発明に係わるシリコンゴムロールの製造方法を示す。
【0024】
まず、図1に基づいて本発明に係わるシリコンゴムロールAの構造について説明する。シリコンゴムロールAは軸芯部材1と、その外周の多孔性弾性層2と、その外周の外形表面層3とから構成される。軸芯部材1は、アルミ合金、SUS鋼材などの鉄鋼材で例えば引き抜き加工によって円筒形状若しくは円柱形状に形成され、シリコンゴムロールAの回転軸を構成する。この軸芯部材1は外形Dy1でローラ体全体を支持する機械的強度を備えた金属材料、合成樹脂材料で構成する。この場合この軸芯部材は、加熱定着ローラとして使用する際には円柱若しくは円筒形状で機械的強度に富み、同時に出来るだけ熱容量と熱伝導率の小さい素材・形状及び構成とすることが好ましい。
【0025】
上記多孔性弾性層2は、シリコンゴム素材で中空円筒形状の素地ロール体21で構成され、その中空内径Dx2は上記軸芯部材1を嵌合する寸法に、また外径Dy2’は上記外形表面層3を形成するスリーブ体31を嵌合する寸法に構成されている。この素地ロール体21は例えばケイ石(Sio2)を主成分とする有機化合物などの未加硫状態のシリコンゴム素材に発泡剤を混入して発泡及び加硫成形する。
【0026】
成形方法としては後述する型注入成形、インジェクション、コンプレッション、押出し成形などで上述の円筒形状に成形する。このような成形でシリコンゴムの素地ロール体21内には発泡剤の発泡によって多数の内部気泡22が形成され、この気泡22は図6に示すようにシリコンゴム層内に独立した微細空洞が複数分布する単泡状弾性層(独立気泡)と、互いに連通する気泡が複数連鎖して分布する連泡状弾性層(連続気泡)が形成される。この単泡状弾性層と連泡状弾性層との違いについては後述する。
【0027】
上記外形表面層3は、紙葉類を搬送するゴムロールとして使用する場合は所定摩擦係数のゴム質材を使用し、加熱定着ローラとして使用する場合にはトナーインクの付着汚れを防ぐフッ素樹脂フィルムで形成する。定着ローラの場合は、ステンレス鋼、ニッケル合金、銅合金などの導電性磁気材料の基材をフッ素樹脂などでコーティングしたスリーブ体31で構成する。このスリーブ体31は前記素地ロール体21の外周に嵌合する内径Dx3に形成され、その外径Dy3は所定のロール外径に形成する。
【0028】
上述の軸芯部材1、多孔性弾性層2、外形表面層3を次のように一体化してシリコンゴムロールAを構成する。軸芯部材1は上述のように外径Dy1の円筒又は円柱形状に形成され、多孔性弾性体層2は上述のように内径Dx2及び外径Dy2’の中空円筒形状の素地ロール体21で形成され、外形表面層3は内径Dx3及び外径Dy3のスリーブ体31で形成されている。
【0029】
そこでまず上記多孔性弾性層2は成型時に形成される表皮層23(以下、「スキン層」という;図5(b)参照)を研磨若しくは剥離した表皮除去加工を施す。このスキン層23を除去した素地ロール体21は図4に示すように表面はスポンジ状凹凸面24で形成され、その外形はDy2に形成される。そこで上記軸芯部材1、多孔性弾性層2、外形表面層3の各加工過程で、Dy1>Dx2及びDy2>Dx3となるように成形してある。つまり軸芯部材1の外形Dy1は、これを嵌合する素地ロール体21の内径Dx2より大きく、また素地ロール体21の外形Dy2は、これを嵌合するスリーブ体31の内径Dx3より大きく形成してある。
【0030】
そして上述のように表皮層23(スキン層)を除去した素地ロール体21に軸芯部材1を圧入する。このとき接着剤を軸芯部材1に塗布した上で素地ロール体21を挿入するか、或いは接着剤を塗布することなく圧入する。次いで上記素地ロール体21にスリーブ体31を、接着剤を塗布することなく圧入する。この圧入は素地ロール体21の表面に形成されたスポンジ状凹凸面24とスリーブ体31の内壁とが密着し容易に離脱しないように素地ロール体21の外径Dy2とスリーブ体31の内径Dx3を設定する。つまりスリーブ体31に作用する圧接力及び軸芯部材1から伝達される回転力によって両者が分離することのないような寸法差で圧入する。この外径Dy2と内径Dx3は十分機械的強度が得られるように、また耐久性を考慮して実験などによって設定することが好ましい。
【0031】
上述のようにそれぞれ積層状に一体化された軸芯部材1、多孔性弾性層2、外形表面層3から構成されたシリコンゴムロールAは次のように加熱定着ローラとして用いられる。図7に示すように静電ドラム40などの印字部に給紙部からシートを給送し、静電ドラム40上にレーザ発光器41からレーザ光を照射して静電潜像を形成し、この潜像に現像器42でトナーインクを付着する。このドラム上に付着されたトナー像を転写チャージャ43でシート上に転写する。
【0032】
このようにシート状に転写されたトナー像は定着ローラ44で加熱圧着され定着する。定着ローラ44は一対の圧接ローラ44a、44bで構成され、各ローラの表面はトナーが付着しない前述のフッ素樹脂フィルムなどの外形表面層f1で形成される。そしてこの外形表面層f1の内部はシートを均一に圧接するため弾性層f2(前述の多孔性弾性層2)が設けられる。この弾性層f2には気泡(独立気泡若しくは連続気泡)を含有させることが後述の理由で好ましい。そして弾性層f2には回転軸f3を構成する軸芯部材が嵌合される。
【0033】
このような構成で互いに圧接した一対の圧接ローラ44a、44bは少なくとも一方に加熱手段45が装備される。加熱手段45の構成は例えば次の方法が採られる。第1の方法は上記弾性層f2と表面層f1との間に発熱層(図示せず)を設ける方法である。この発熱層に電流を供給して表面層を所定温度に昇温する。
【0034】
また、第2の方法は上記弾性層f2内に空洞部を形成し、この空洞部内にセラミックヒータなどの発熱素子(ユニット)を内蔵する方法である。
【0035】
また、第3の方法は誘導加熱方式であり、例えば圧接ローラの一方の表面層f1(前述の実施形態におけるスリーブ体)を鉄・ニッケル・SUSなどの導電性磁性材料から成る導電層とその表面をコーティングするフッ素樹脂層(例えばポリイミド樹脂など)で構成する。そしてこの圧接ローラの外周に励磁コイルを配置して加熱する。
【0036】
以上のように構成された定着ローラ44は、加熱手段によって外形表面層f1を加熱昇温した場合に前述の素地ロール体21とスリーブ体31とは次の作用を果たす。
(1)昇温時間および冷却時間の短縮が可能(ウォーミングアップ時間の短縮)。
外形表面層3に印加された熱は、この外形表面層3内側の多孔性弾性層2に伝播される際の熱伝導率を低く抑えることが可能となる。つまり外形表面層3を形成するスリーブ体31と多孔性弾性層2を形成する素地ロール体21とはロール体の表皮層(スキン層)23を除去した状態で接着剤を用いることなく圧入固着されているから、多孔性弾性層2の表面は図6に示すスポンジ状凹凸面24で外形表面層3との間に気泡22aが形成される。同図(a)は単泡気泡を弾性層に含有させた場合を、(b)は連泡気泡を弾性層2に含有させた場合をそれぞれ示す。
【0037】
この気泡22aは内部気泡22と相俟ってロール体21の熱伝導率を抑制し表面層3の熱がロール体21内に伝搬されるのを抑制する作用がある。空気の熱伝導率はシリコンゴムより小さい為、表面層3と弾性層2との間に微細な気泡22aが多数形成されこの気泡で熱伝導を軽減する。特に従来は弾性層に気泡を混在させても表皮層(スキン層)と接着剤層が存在するため、表面層の熱は接着剤層とスキン層でロール体の外周全面に熱伝達され、ロール体の最も熱伝導率の高い部分から軸芯部材を通じて外部に放出されるのに対し、接着剤層とスキン層が存在しないため熱の放出が著しく少なくなる。
【0038】
(2)急速加熱、急速冷却によるロール体の熱変形が改善される。
外形表面層3(スリーブ体31)を急激に昇温及び冷却しても多孔性弾性層2(素地ロール体21)の熱変形が少なく、常に一定の押圧力をシートに付与することが出来る。多孔性弾性層2に内部気泡22を形成することによってシリコンゴム層が熱膨張及び伸縮しても外形形状の変化は軽減される。これに対し、従来のように表皮層(スキン層)が存在すると昇温時に気泡内の空気は膨張するがスキン層は弾性層を完全に密閉するものではないため外部に空気が放出される。この空気の放出に次いで外形表面層3を冷却(加熱停止)すると気泡内の空気が緊縮して弾性層が収縮し表皮層と弾性層との間に空隙が形成される。本発明は前述のように表皮層(スキン層)23を除去した上でスリーブ体31に嵌合しているため、気泡内の空気の急激な膨縮によってスリーブ体31が素地ロール体21から離脱或いはスリーブ体31の表面層に皺が発生することが防止される。
【0039】
次に本発明に係わるシリコンゴムロールAの製造方法について説明する。シリコンゴムロールAは前述と同様に、金属その他の素材で形成された軸芯部材1と、この軸芯部材1の外周に形成された多孔性弾性層2と、この多孔性弾性層2の外周に形成された外形表面層3とから構成される。上記軸芯部材1は円筒又は円柱形状の回転軸として作成され、上記多孔性弾性層2は素地ロール体21として作成され、上記外形表面層3はスリーブ体31として作成される。
【0040】
[回転軸の作成]
軸芯部材1は鉄、アルミ合金、ステンレス鋼などの機械的強度に富んだ材料で円筒若しくは延長形状に形成する。図5(a)には円柱形状に形成した場合を示し、その加工方法は引き抜き加工、押し出し加工など適宜の方法で加工する。
【0041】
[素地ロール体21の作成]
シリコンゴムで多孔性弾性層2を構成する素地ロール体21を作成する。例えばポリシロキサンにメチル基が結合したメチルシリコンゴム(VMQ)或いは、ポリシロキサンにフルオロアルキル基が結合したフルオロシリコンゴム(FVMQ)で前述の内径Dx2、外形Dy2’の円筒形状に構成する。このとき発泡剤(NR,EPDM,Si,NBR,FKM(フッ素系)等)を添加して気泡を形成する。この場合独立気泡を形成するか、連続気泡(互いに連通した気泡の連鎖)を形成するか発泡剤によって選択する。
【0042】
加工方法は成形型内に未架橋状態の液状シリコン素材(珪素合成物)を注入して加熱加硫する方法と、シート状に圧延加工(カレンダー加工など)した素地を筒状に二次成形し加熱加硫する方法と、押し出し成形でチューブ状に成形し、加熱加硫する方法など種々の方法が知られている。これらいずれかの方法で前述した内径Dx2、外形Dy2’の円筒体を形成して素地ロール体21を作成する。
【0043】
次いで上記素地ロール体21を二次加工によって表面に形成された表皮層(スキン層)23を除去する。この除去は例えば研磨加工によって行い、外形をDy2’からDy2に成形し、表面にスポンジ状凹凸面24を形成する。
【0044】
[スリーブ体31の作成]
スリーブ体31は使用目的に応じて成形する。例えばシート搬送ローラとして使用する場合は摩擦係数の高いゴム質材でスリーブ体31を形成する。加熱定着ローラの場合には導電性磁性材料などでフィルム状のスリーブを形成する。その外形Dy3は定着ローラとして要求されるロール径に形成し、内径Dx3は上記素地ロール体21の外径Dy2との関係でDx3<Dy2に設定する。
【0045】
[組立工程]
上述のように作成した軸芯部材1と素地ロール体21とスリーブ体31とを嵌合して一体化する。まず軸芯部材1を素地ロール体21に嵌合して両者を固着する。この場合第1の方法は軸芯部材1の外周に接着剤、例えば熱硬化性接着剤を塗布して素地ロール体21の中空内に挿入し、その後加熱して固化する。第2の方法は軸芯部材1を素地ロール体21の中空内に接着剤を用いることなく圧入する。前者はDy1≒Dx2に設定し、後者はDy1≫Dx2に設定する。
【0046】
次いで、素地ロール体21をスリーブ体31の中空内に圧入する。このときには接着剤を用いることなく両者を圧入固着する。このため素地ロール体21の表面は表皮層(スキン層)23が除去してあり、図6に示すようにスポンジ状凹凸面24がスリーブ体31内壁に吸着するように変形し、同時に両者間には大きな摩擦力が作用する。また表皮層を除去した素地ロール体21は四方向に変形し易く圧入作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係わるシリコンゴムロールの斜視説明図。
【図2】図1のシリコンゴムロールの横断断面図。
【図3】図1のシリコンゴムロールの縦断断面図。
【図4】図1のシリコンゴムロールの層構造を示す斜視説明図。
【図5】本発明に係わるシリコンゴムロールの製造方法の説明図。
【図6】図1のロール構造における層構造の説明図であり、(a)は単泡状気泡を弾性層に含有させた場合の断面構造、(b)は連泡気泡を弾性層に含有させた場合の断面構造を示す。
【図7】画像形成装置における定着ローラの概要説明図。
【図8】従来のシリコンゴムロールの層構造の説明図。
【符号の説明】
【0048】
A シリコンゴムロール
Dx2 素地ロール体21の内径
Dx3 スリーブ体31の内径
Dy1 軸芯部材1の外径
Dy2’素地ロール体21の外径(研磨前)
Dy2 素地ロール体21の外径(研磨後)
Dy3 スリーブ体31の外径
1 軸芯部材
2 多孔性弾性層
3 外形表面層
21 素地ロール体
22 内部気泡
22a 気泡
23 表皮層(スキン層)
24 スポンジ状凸凹面
31 スリーブ体
40 静電ドラム
44 定着ローラ
44a 圧接ローラ
44b 圧接ローラ
f1 外形表面層
f2 弾性層
f3 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属その他の軸芯部材と、
上記軸芯部材の周囲に形成されたシリコンゴムの多孔性弾性層と、
上記多孔性弾性層の外周面に皮膜状に形成された金属その他の外形表面層と、を有するロール体であって、
上記ロール体は、
円柱又は円筒形状に形成された軸芯部材と、
シリコンゴム素材に発泡剤を混入して円筒形状に加硫成形した素地ロール体と、
金属その他の耐熱性素材で円筒形状に形成された表面スリーブ体と、
から構成され、
上記素地ロール体は表面に形成された成型時の表皮層を研磨若しくは剥離する表皮除去加工が施された状態で上記表面スリーブ体に接着剤を用いることなく圧入接合されていることを特徴とするシリコンゴムロール。
【請求項2】
前記発泡剤は前記素地ロール体の内部に複数の気泡を形成して多孔性弾性層を構成することを特徴とする請求項1に記載のシリコンゴムロール。
【請求項3】
前記発泡剤は前記素地ロール体の内部に互いに連通する複数の気泡が連鎖するように形成し、この連鎖する気泡は少なくともその一部が前記多孔性弾性層の端面から外気に連通していることを特徴とする請求項1に記載のシリコンゴムロール。
【請求項4】
金属その他の軸芯部材と、
上記軸芯部材の周囲に形成されたシリコンゴムの多孔性弾性層と、
上記多孔性弾性層の外周面に皮膜状に形成された金属その他の外形表面層と、を有するロール体であって、
上記ロール体は、
円柱又は円筒形状に形成された軸芯部材と、
シリコンゴム素材に発泡剤を混入して円筒形状に加硫成形した素地ロール体と、
金属その他の耐熱性素材で円筒形状に形成された表面スリーブ体と、
から構成され、
上記素地ロール体は表面に形成された成型時の表皮層を研磨若しくは剥離する表皮除去加工が施された状態で上記表面スリーブ体に接着剤を用いることなく圧入接合され、
上記表面スリーブ体で構成された外形表面層には加熱手段が備えられていることを特徴とする加熱定着ローラ。
【請求項5】
予め成形された金属その他の軸芯部材と、
この軸芯部材の周囲に形成されたシリコンゴムの多孔性弾性層と、
上記多孔性弾性層の外周面に皮膜状に形成した金属その他の外形表面層を有するシリコンゴムロールの製造方法であって、
発泡剤を含有したシリコンゴム素材を中空円筒形状に加硫成型した素地ロール体成型工程と、
上記成型工程により素地ロール体に形成された表皮層を研磨若しくは剥離する表皮除去工程と、
上記外形表面層を形成するため予め円筒形状に成形された金属その他の表面スリーブ体に上記表皮除去加工を施した素地ロール体を、接着剤を用いることなく圧入して固着する組立工程とから構成され、
上記素地ロール体は内部に複数の気泡が形成された多孔性弾性層で形成されていることを特徴とするシリコンゴムロールの製造方法。
【請求項6】
前記組立工程では、前記表面スリーブ体に前記表皮層を除去した素地ロール体を圧入する際に、該素地ロール体の中空内にこの中空径より大きい径の前記軸芯部材を圧入して固着することにより、上記素地ロール体と前記表面スリーブ体との圧入係合が保持されるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載のシリコンゴムロールの製造方法。
【請求項7】
素地ロール体成形工程は、適宜の接着剤を塗布した前記軸芯部材の周囲に発泡剤を含有したシリコンゴム素材を中空円筒形状に加硫成型することによって前記軸芯部材と前記素地ロール体とを一体成形し、
前記表皮除去工程では上記軸芯部材の両端を中心に円筒研削盤で上記素地ロール体の表皮層を除去することを特徴とする請求項5に記載のシリコンゴムロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−3265(P2008−3265A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−172054(P2006−172054)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(595165047)株式会社セーコウ (38)
【Fターム(参考)】