シリコンノズル基板及びその製造方法
【課題】インク保護膜が剥離しにくく、接着不良を起こしにくいシリコンノズル基板を得る。
【解決手段】シリコン基板44を貫通させて形成したノズル孔21を有し、吐出面15側からノズル孔21を介してインクの液滴を吐出するシリコンノズル基板1であって、吐出面15は平面視でノズル孔21を含み表面に撥水膜43が形成されている撥水領域11と撥水領域11を囲む環状の領域である非撥水領域12とに区画されており、撥水領域11には撥水膜43とシリコン基板44との間にインク保護膜41が形成されており、非撥水領域12にはインク保護膜41が薄く形成されているか又は全く形成されておらず、シリコン基板44の端面13にはインク保護膜41が全く形成されていないことを特徴とするシリコンノズル基板1。
【解決手段】シリコン基板44を貫通させて形成したノズル孔21を有し、吐出面15側からノズル孔21を介してインクの液滴を吐出するシリコンノズル基板1であって、吐出面15は平面視でノズル孔21を含み表面に撥水膜43が形成されている撥水領域11と撥水領域11を囲む環状の領域である非撥水領域12とに区画されており、撥水領域11には撥水膜43とシリコン基板44との間にインク保護膜41が形成されており、非撥水領域12にはインク保護膜41が薄く形成されているか又は全く形成されておらず、シリコン基板44の端面13にはインク保護膜41が全く形成されていないことを特徴とするシリコンノズル基板1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するためのノズル孔を有するシリコンノズル基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙等の媒体上にインク(液体材料)の液滴を吐出して画像等を形成する装置として、液滴吐出装置が注目されている。一般に液滴吐出装置は、複数のノズルを備える液滴吐出ヘッドと媒体とを相対的に移動させつつ、ノズルから液滴を吐出して画像等を形成する。液滴吐出ヘッドは、一般に、液滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接着されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する圧力室、リザーバー等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により圧力室に圧力を加えることによりインクを選択されたノズル孔から、液滴として吐出するように構成されている。
【0003】
このような液滴吐出ヘッドにおいては、液滴の吐出時に、ノズル基板のノズルが形成されている側の面(以下、「吐出面」と称する。)にインクが残留し、後続する液滴の吐出時に悪影響を及ぼす可能性がある。そのような現象を低減する手法として、吐出面にインク保護膜(下地膜)及び撥水膜(撥インク膜)を形成し、上記のインク残留を抑制する手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−238576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のノズル基板がシリコン基板に異方性エッチングを用いてノズル孔を形成したシリコンノズル基板である場合、インク保護膜の密着性が問題となる。シリコンノズル基板の場合、ノズル孔の形成後に薄板化されるため、以降の工程はサポート基板に貼付した状態で実施される。そのため、インク保護膜の形成に熱酸化法を用いることが困難であり、低温で成膜可能なプラズマCVD法が用いられることが多い。
【0006】
しかし、プラズマCVD法で形成された膜は、熱酸化膜に比べて密着性が劣る。そのため、インク保護膜の形成後にシリコンノズル基板をキャビティ基板に接着するまでの間に、該インク保護膜の一部が剥離して異物化する可能性がある。かかる現象はシリコンノズル基板のエッジや端面(側面部)では特に生じやすい。かかる異物は、シリコンノズル基板とキャビティ基板との接着面に付着した場合、接着不良の原因となり得るという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例にかかるシリコンノズル基板は、シリコン基板を貫通させて形成したノズル孔を有し、吐出面側から該ノズル孔を介してインクの液滴を吐出するシリコンノズル基板であって、上記吐出面は平面視で上記ノズル孔を含み表面に撥水膜が形成されている撥水領域と上記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画されており、上記撥水領域には上記撥水膜と上記シリコン基板との間にインク保護膜が形成されており、上記非撥水領域にはインク保護膜が薄く形成されているか又は全く形成されておらず、上記シリコン基板の端面にはインク保護膜が全く形成されていないことを特徴とする。
【0009】
このような構成のシリコンノズル基板であれば、シリコンノズル基板端面のインク保護膜の一部が剥離して異物化する現象を低減できる。そのため、シリコンノズル基板をキャビティ基板に接着するまでの間の検査及び異物除去工程を合理化できる。そして、液滴吐出ヘッドの不良率を低減でき、製造コストを低減できる。
【0010】
[適用例2]上述のシリコンノズル基板であって、上記インク保護膜はシロキサンを原料とするプラズマCVD法で形成された膜であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【0011】
プラズマCVD法によれば、シリコン基板の端面における成膜速度を吐出面における成膜速度の6割から8割の範囲に制御できる。したがって、インク保護膜の一部を除去する工程において端面のみにシリコン基板を露出させることも可能になる。
【0012】
[適用例3]上述のシリコンノズル基板であって、上記撥水領域における上記インク保護膜の膜厚は0.5μmから1.5μmの範囲であり、上記非撥水領域における上記インク保護膜の膜厚は上記撥水領域における該膜厚の3割以下であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【0013】
上述の液滴吐出ヘッドは、シリコンノズル基板とキャビティ基板とを接着した後に、該シリコンノズル基板を覆うカバーヘッドをさらに装着する場合がある。かかる装着は非撥水領域に配置した接着剤で行われる。しかし、シリコン基板は接着剤の密着性が悪いため、非撥水領域にシリコン基板が露出していると上述の装着がうまくいかない可能性がある。かかる場合において、上述の構成のシリコンノズル基板であれば、シリコンノズル基板上に表面が酸化シリコンからなるインク保護膜を介してカバーヘッドを接着できるため、より強固な接着が可能となる。したがって、信頼性等が向上した液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0014】
[適用例4]上述のシリコンノズル基板を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0015】
このような液滴吐出ヘッドであれば、異物、すなわちインク保護膜の剥離による影響を低減できるため、低コストで信頼性が高い液滴吐出ヘッドを提供できる。
【0016】
[適用例5]上述の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【0017】
このような液滴吐出装置であれば、異物、すなわちインク保護膜の剥離による影響を低減できるため、低コストで信頼性が高い液滴吐出装置を提供できる。
【0018】
[適用例6]本適用例にかかるシリコンノズル基板の製造方法は、シリコン基板を貫通させてノズル孔を形成する第1の工程と、上記シリコン基板の一方の面である吐出面及び上記シリコン基板の端面にインク保護膜を形成する第2の工程と、上記インク保護膜の表面に撥水膜を形成する第3の工程と、上記吐出面を、平面視で上記ノズル孔を含む領域である撥水領域と上記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画して、上記撥水領域にマスク部材を被せる第4の工程と、上記シリコン基板にエッチングを施して、上記マスク部材で覆われていない領域の上記撥水膜を除去し、さらに上記インク保護膜を、上記端面では完全に除去し、上記非撥水領域では除去するか又は元の膜厚よりも薄くする第5の工程と、を記載の順に実施することを特徴とする。
【0019】
このような製造方法であれば、必要な領域に充分な厚さのインク保護膜を形成できるとともに、インク保護膜が剥離しやすい領域である端面において、インク保護膜を完全に除去することができる。したがって、異物が生じにくいシリコンノズル基板を得ることができる。
【0020】
[適用例7]上述のシリコンノズル基板の製造方法であって、上記第2の工程は、シロキサンを原料とするプラズマCVD法により上記インク保護膜を形成する工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【0021】
プラズマCVD法は低温で成膜可能であるため、このような製造方法であれば薄板化されたシリコン基板を支持体で保持しつつ成膜する場合において、該支持体の変質や変形等を抑制できる。
【0022】
[適用例8]上述のシリコンノズル基板の製造方法であって、上記第2の工程は、上記吐出面に膜厚が0.5μmから1.5μmの範囲の上記インク保護膜を形成する工程であり、上記第5の工程は、上記インク保護膜を膜厚が3割以下となるまでエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【0023】
このような製造方法であれば、非撥水領域に、上述のカバーヘッドを装着する場合において接着剤の密着性を充分に向上できる厚さのインク保護膜を残すことができる。したがって、このような製造方法であれば、より一層品質の向上した発塵性の低いシリコンノズル基板、及び該シリコンノズル基板を構成要素とする組み立て信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0024】
[適用例9]上述のシリコンノズル基板の製造方法であって、上記第5の工程は、CF系ガスを用いてドライエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【0025】
このような製造方法であれば、第5の工程を第2の工程で用いるプラズマCVD装置のエッチバック機構を用いて実施できる。したがって、製造コストを低減しつつ品質の向上したシリコンノズル基板、及び該シリコンノズル基板を構成要素とする液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】液滴吐出ヘッドの斜視展開図。
【図2】液滴吐出ヘッドの要部の縦断面図。
【図3】第1の実施形態のシリコンノズル基板の要部の拡大断面図。
【図4】シリコンノズル基板の吐出面側の平面図。
【図5】第2の実施形態のシリコンノズル基板の要部の拡大断面図。
【図6】ヘッドユニットの概略構成を示す図。
【図7】第3の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図8】第3の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図9】第3の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図10】第4の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図11】液滴吐出装置としてのインクジェットプリンターを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態にかかるシリコンノズル基板及びその製造方法について、図面を参照しつつ述べる。上述したようにシリコンノズル基板は液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)を構成する要素であるため、該液滴吐出ヘッドの構成当も含めて説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではない。また、以下の各図においては、各層や各部位を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部位の縮尺を実際とは異ならせてある。また、特に断りのない限り、以下の記載においては図の上側を上とし、下側を下として説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかるシリコンノズル基板1を構成要素とする液滴吐出ヘッド8の斜視展開図である。図2は、液滴吐出ヘッド8の要部の縦断面図である。図1及び後述する図4に示すように、ノズル孔21は吐出面15において長手方向に2列に並ぶように形成されている。図2は、該長手方向に直交する線における断面図であり、図1の右半分の概略構成を示す断面図である。
【0029】
本実施の形態に係る液滴吐出ヘッド8は、図1に示すように、所定のピッチで形成された複数のノズル孔21が形成されたシリコンノズル基板1と、各ノズル孔21に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板3と、キャビティ基板3の振動板22に対応する個別電極31が形成された電極基板4とを接着して構成されている。なお後述するように、液滴吐出ヘッド8は、複数個がまとめられてヘッドユニット7(図6参照)を構成している。
【0030】
シリコンノズル基板1は、単結晶シリコン基板44(図3参照)に所定の加工を施して形成された板状部材であり、インク等の液滴を吐出するためのノズル孔21が2列に形成されている。ノズル孔21は単結晶シリコン基板44を貫通する孔であり、液滴を吐出する第1のノズル孔21aと、液滴を導入する第2のノズル孔21bとから構成されている。なお、シリコンノズル基板1の構成材料は単結晶シリコン基板に限定されず、多結晶シリコン(ポリシリコン)基板を用いることもできる。
【0031】
シリコンノズル基板1の表裏の2面のうち、液滴吐出ヘッド8の外側を向く面すなわち液滴を吐出する側の面が吐出面15である。一方、キャビティ基板3と接着される側の面が接着面16である。吐出面15には、一部の領域を除きインク保護膜41が形成されている。一般的にインクはアルカリ性であり、単結晶シリコン基板44を侵食(エッチング)等する可能性がある。そのため、酸化シリコン等からなるインク保護膜41を形成して、シリコンノズル基板1の表面を保護している。そして、本実施形態のシリコンノズル基板1は、インク保護膜41が撥水領域11にのみ形成され、該撥水領域を平面視で囲む環状の領域(図4参照)である非撥水領域12と吐出面15に直交する面(厚さ方向の面)である端面13とには形成されていない点に特徴がある。かかる特徴とその効果については後述する。
【0032】
キャビティ基板3も、シリコンノズル基板1と同様に単結晶シリコン基板からなり、接着領域61、62において、シリコンノズル基板1と接着されている。そして、キャビティ基板3には、シリコンノズル基板1のノズル孔21の各々に連通するインク流路が異方性ウェットエッチングにより形成されている。インク流路は、底壁を振動板22とし吐出室25となる吐出凹部250と、共通のインク室であるリザーバー23となるリザーバー凹部230と、リザーバー凹部230と各吐出凹部250とを連通するオリフィス24となるオリフィス凹部240と、で構成されている。リザーバー23は各吐出室25に共通の共通インク室を構成し、それぞれオリフィス24を介してそれぞれの吐出室25に連通している。
【0033】
キャビティ基板3の全面若しくは少なくとも電極基板4との対向する領域には、絶縁性材料である酸化シリコンからなる絶縁膜29が形成されている。かかる絶縁膜29は、液滴吐出ヘッド8を駆動させたときに、絶縁破壊やショートの発生を防止する機能を果たしている。
【0034】
電極基板4はガラス基材からからなり、キャビティ基板3の各振動板22に対向する位置には、夫々凹部310が形成されている。そして、各凹部310内には、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31がスパッタにより形成されている。
【0035】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを備えており、端子部31bは、配線のためにキャビティ基板3の末端部が開口された電極取出し部36内に露出している。そして、ICドライバー等の駆動回路5を介して、各個別電極31の端子部31bとキャビティ基板3上の共通電極27とが接続されている。また、電極基板4には、インクを供給するためにリザーバー23と連通するインク供給口35が形成されている。そして、該インク供給口は図示しないインクタンクに接続されている。振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ34の開放端部は、内部に水分や塵埃などが入らないようにエポキシ等の樹脂による封止材33により封止されている。
【0036】
電極基板4と上述のキャビティ基板3とは、個別電極31と振動板22とが所定(例えば、0.1μm)のギャップ34を介して対向配置するように陽極接合されている。これにより、ギャップ34を介して対峙する個別電極31と絶縁膜29を有する振動板22とで、吐出室25に所要の圧力を加えることができる静電アクチュエーターが構成される。
【0037】
液滴吐出ヘッド8は、以下に記載する動作により、インクを液滴として吐出する。まず、駆動回路5が駆動し、個別電極31に電荷を供給してこれを正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、個別電極31と振動板22の間に静電引力が発生する。この静電引力によって、振動板22は個別電極31に引き寄せられて撓む。これによって、吐出室25の容積が増大する。個別電極31への電荷の供給を止めると静電引力が消滅し、振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室25の容積が急激に減少して、そのときの圧力により吐出室25内のインクの一部がインクの液滴としてノズル孔21から吐出面15側に吐出される。そして、かかるインクによる単結晶シリコンの侵食を防ぐために、撥水領域11にはインク保護膜41が形成されている。
【0038】
図3は、シリコンノズル基板1の、図2に示すノズル孔21の近傍の部分63と端面13の近傍の部分64とを継ぎ合わせて示す、要部の拡大断面図である。なお、本図及び後述する同様の図においては、上記2つの部分を継いだ部分の破断線を省略している。図4は、シリコンノズル基板1の吐出面15側の平面図である。
【0039】
図4に示すように、シリコンノズル基板1の吐出面15は、中央部の撥水領域11と非撥水領域12とに区画されている。図示するように、撥水領域11はノズル孔21が形成されている領域である。そして非撥水領域12は、該撥水領域を囲む環状の領域である。
【0040】
図3に示すように、シリコンノズル基板1は、単結晶シリコン基板44と、該単結晶シリコン基板の表面に形成された薄膜等で構成されている。まず、吐出面15以外の面、すなわち接着面16、端面13及びノズル孔21の内壁面には単結晶シリコン基板44を酸素含有雰囲気中で加熱して形成された熱酸化シリコン膜42が連続して形成されている。膜厚は略0.1μmである。
【0041】
そして吐出面15の撥水領域11及びノズル孔21の内壁面には、インク保護膜41が形成されている。インク保護膜41は、シリコン重合膜をシロキサン原料のプラズマCVD法で形成した後、該シリコン重合膜にUV(紫外線)を照射して脱水縮合させ、表面をSiO2化して得られた膜である。膜厚は、撥水領域11においては略1.5μm、ノズル孔21の内壁面においては略1.0μmである。
上述の2層の薄膜は、熱酸化シリコン膜42の方が先に形成されている。したがって、ノズル孔21の内壁面には、下層の熱酸化シリコン膜42と上層のインク保護膜41との2層の薄膜が積層されている。
【0042】
インク保護膜41及び熱酸化シリコン膜42は、シリコンノズル基板1の基材である単結晶シリコン基板44をインクから保護する機能を果たしている。上述したようにインクは一般的にアルカリ性であり、単結晶シリコン基板44を侵食し得る。そのためシリコンノズル基板1においては、単結晶シリコン基板44の非撥水領域12を除く表面、すなわちインク流路に面する接着面16、ノズル孔21の内壁面、及び撥水領域11に、インク保護膜41と熱酸化シリコン膜42の少なくとも一方を形成して、該表面が露出することを防いでいる。
【0043】
撥水領域11におけるインク保護膜41の上層には撥水膜43が形成されている。撥水膜43は撥水性を有するシランカップリング剤をディップコートして形成された膜であり、ノズル孔21から吐出されたインク(の液滴)が吐出面15に滞留することを抑制して吐出性を向上させている。また、接着面16及びノズル孔21の内壁面には親水膜45が形成されている。親水膜45は親水性を有するシランカップリング剤をディップコートして形成された膜であり、シリコンノズル基板1とキャビティ基板3とを接着する際に供給される接着剤の密着性を向上させている。
【0044】
上述したように、本実施形態のシリコンノズル基板1は、インク保護膜41が吐出面15の全域ではなく撥水領域11にのみ形成されており、該撥水領域を囲む非撥水領域12には形成されていない。また、端面13にもインク保護膜41は形成されていない。インク保護膜41の前身であるシリコン重合膜はプラズマCVD法で形成されるため、成膜された時点では撥水領域11以外の領域、すなわち非撥水領域12及び端面13にも形成されている。かかる膜を後述するようにパターニングして、撥水領域11のみにインク保護膜41を形成している。
【0045】
段落(0006)で述べたように、プラズマCVD法で形成された膜は熱酸化膜に比べて密着性が劣るため、剥離等が生じやすい。かかる現象は、シリコンノズル基板1の端部、すなわち吐出面15の外縁部である非撥水領域12及び端面13において特に顕著である。本実施形態のシリコンノズル基板1は、かかる領域にはインク保護膜41が形成されていないため、搬送時等において上述の剥離が発生しにくい。したがって、シリコンノズル基板1をキャビティ基板3に接着するまでの間の検査及び異物除去工程を合理化でき、製造コストを低減できる。
【0046】
また、剥離して異物となったインク保護膜41の断片が接着領域(61、62)に入り込むことによる接着不良、すなわち組み立て不良の発生も低減されている。そのため、シリコンノズル基板1とキャビティ基板3との接着時における不良の発生が低減されている。すなわち液滴吐出ヘッド8の組み立て工程における歩留まりが向上している。したがって、本実施形態のシリコンノズル基板1を構成要素として用いた場合、信頼性が向上した液滴吐出ヘッド8及びヘッドユニット7(後述する図6参照)を低コストで得ることができる。
【0047】
なお、インク保護膜41が形成されていない領域に対するインクの影響は殆んど問題とはならない。端面13には熱酸化シリコン膜42が形成されているため、インク保護膜41が形成されていなくてもインクの侵食を抑制できる。また、吐出面15においては撥水領域11に撥水膜43が形成されているため、吐出性が向上している。したがって、吐出されたインク(の液滴)が吐出面15に滞留することが抑制されており非撥水領域12における侵食も問題にはならない。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図5は本発明の第2の実施形態にかわるシリコンノズル基板2を示す図であり、上記の図3に相当する要部断面図である。本実施形態のシリコンノズル基板2は、上述の第1の実施形態にかかるシリコンノズル基板1と同様に、キャビティ基板3及び電極基板4と組み合されて液滴吐出ヘッド8を構成するものである。構成はシリコンノズル基板1と類似しており、相違点はインク保護膜41の形成領域のみである。そこで、上述の図1、図2、及び図4に相当する図面は省略する。また、シリコンノズル基板1と共通する点については説明の記載を省略する。
【0049】
本実施形態のシリコンノズル基板2は、非撥水領域12にもインク保護膜41が形成されている点で、シリコンノズル基板1と異なっている。ただし、非撥水領域12のインク保護膜41の厚さは、撥水領域11の該厚さ(すなわち略1.5μm)に比べて薄く、本実施形態のシリコンノズル基板2においては、0.15μmないし0.3μmの厚さで形成されている。ただし、非撥水領域12のインク保護膜41の厚さは上述の範囲に限定されるものではない。撥水領域11における厚さより薄く形成されていればよい。端面13には、(シリコンノズル基板1と同様に)インク保護膜41は形成されていない。また、撥水膜43は、シリコンノズル基板1と同様に、撥水領域11にのみ形成されている。
【0050】
上述のインク保護膜41の剥離は、特に端面13において発生しやすい。理由としては、上述の剥離は主として該シリコンノズル基板の搬送時、取り扱い時等において該シリコンノズル基板とそれを収納するトレー等とが衝突する際に生じる物であり、その場合、衝突する箇所は端面13が多いからである。本実施形態のシリコンノズル基板2は、インク保護膜41が端面13からは完全に除去されているため、キャビティ基板3との接着時における不良の発生が、上述の第1の実施形態にかかるシリコンノズル基板1と殆んど変わりないレベルまで低減されている。
【0051】
本実施形態のシリコンノズル基板2が、非撥水領域12にもインク保護膜41が形成されている理由は、該非撥水領域における接着剤の密着性を向上させるためである。上述のシリコンノズル基板(1、2)を構成要素とする液滴吐出ヘッド8は、一般的に該液滴吐出ヘッドを複数個まとめて構成されたヘッドユニット7として用いられる。図6に、かかるヘッドユニット7の概略構成を示す。
【0052】
図示するように、ヘッドユニット7は複数個の液滴吐出ヘッド8をカバーヘッド10でカートリッジケース9に固定して形成される。カバーヘッド10は、固定の対象となる液滴吐出ヘッド8の撥水領域11に対応する領域が開口された薄板状の部材である。そして、カバーヘッド10は、液滴吐出ヘッド8の非撥水領域12に配置された接着剤により、該液滴吐出ヘッドと固定される。
【0053】
そして単結晶シリコン、すなわちシリコンノズル基板の基材である単結晶シリコン基板44は、接着剤との密着性が悪いことが判明している。本実施形態のシリコンノズル基板2は、膜厚は若干薄いものの、非撥水領域12にもインク保護膜41が形成されており、単結晶シリコン基板44が露出していない。したがって、非撥水領域12における接着剤の密着性が強化されている。そのため、本実施形態のシリコンノズル基板2を用いた場合、より一層強固に接着され、より一層信頼性等の向上したヘッドユニット7を得ることができる。
【0054】
(第3の実施形態)
次に本発明の第3の実施形態として、上述のシリコンノズル基板1の製造方法について、図7(a)〜図9(m)の工程断面図を用いて説明する。上記各図は、図3及び図5と同様の、図2に示すノズル孔21の近傍の部分と端面13の近傍の部分とを継ぎ合わせて示す部分を示す要部の拡大断面図である。したがって、図3等と同様に破断線を省略している。以下、工程順に説明する。
【0055】
まず、図7(a)に示すように、単結晶シリコン基板44を酸素含有雰囲気中で加熱して、全面に第2の熱酸化シリコン膜46を形成する。そして、将来的に接着面16となる側の面において、第2の熱酸化シリコン膜46をフォトリソグラフィー法でパターニングして、将来的に第2のノズル孔21bが形成される領域から第2の熱酸化シリコン膜46を除去する。なお、本実施形態で用いる単結晶シリコン基板44は厚さが略725μmの物を用いているが、基板厚はかかる数値に限定されるものではない。
【0056】
次に、図7(b)に示すように、将来的に接着面16となる側の面にレジスト膜47を形成する。そして該レジスト膜を露光現像工程によりパターニングして、将来的に第1のノズル孔21aが形成される領域から該レジスト膜を除去する。
【0057】
次に、図7(c)に示すように、レジスト膜47をマスクとして、将来的に第1のノズル孔21aが形成される領域における単結晶シリコン基板44を、接着面16側から略40μmの深さまでエッチングする。
【0058】
次に、レジスト膜47を硫酸系の剥離液により除去する。そして、図7(d)に示すように、第2の熱酸化シリコン膜46をマスクとして、将来的に第2のノズル孔21bが形成される領域における単結晶シリコン基板44を、接着面16側から略40μmの深さまでエッチングする。このエッチング時に、先に形成されていた穴(図7(c)に示す穴)がさらに略40μm深くなるようにエッチングされて、深さが略80μmの穴となる。そのため、図7(d)に示すように、断面が凸型の凹部(穴)が形成される。
【0059】
次に、単結晶シリコン基板44をフッ酸系のエッチング液により全面的にエッチングして第2の熱酸化シリコン膜46を除去する。そして、図7(e)に示すように、単結晶シリコン基板44を、酸素含有雰囲気中で加熱して、上述の凸型の凹部内を含む単結晶シリコン基板44の全面に、膜厚略0.1μmの熱酸化シリコン膜42を形成する。
【0060】
次に、単結晶シリコン基板44の接着面16に、第1の支持基板51を接着剤等の有機物を介して貼り合わせる。そして、図8(f)に示すように、単結晶シリコン基板44を、接着面16の反対側からバックグラインダー等により研削加工して、基板厚が65μmになるまで薄板化する。かかる研削加工により接着面16の反対側に形成された面が吐出面15である。
【0061】
そして、かかる研削加工により深さが略80μmまでエッチングされていた上述の凹部の先端が開口する。かかる開口した部分が、第1のノズル孔21aである。そして、接着面16側から深さが略40μmまでエッチングされていた部分が、第2のノズル孔21bとなる。第1のノズル孔21aと第2のノズル孔21bとで、ノズル孔21が形成される。ここまでのノズル孔21を形成するまでの工程が、第1の工程である。なお、上述の薄板化は、ポリッシャー、CMP装置等による研磨加工により行ってもよいし、研削加工と研磨加工とを組み合せても良い。
【0062】
次に、図8(g)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く表面に、シロキサン原料の低温プラズマCVD法によりシリコン重合膜(プラズマ重合膜)を形成する。そして、該シリコン重合膜に対して空気中でUV(紫外線)を照射して水縮合させて、表面をSiO2化する。すなわち、表面に酸化シリコン膜(不図示)を形成する。かかる表面が酸化されたシリコン重合膜が、インク保護膜41である。そしてインク保護膜41を形成する工程が、第2の工程である。プラズマCVD法によれば、100℃以下の温度でシリコン重合膜を形成できる。したがって、基板厚が65μmになるまで薄板化された単結晶シリコン基板44及び第1の支持基板51と接着剤等を変質等させることなく、インク保護膜41を形成できる。シリコン重合膜(すなわちインク保護膜41)は、吐出面15における厚さが略1.5μmとなるような条件(設定)で成膜する。その場合、端面13及びノズル孔21の内壁面等のプラズマの影響が弱まる領域には、略1.0μmの厚さのシリコン重合膜が形成される。
【0063】
次に、図8(h)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く全面にシランカップリング剤をディップコートして、インク保護膜41の表面に撥水膜43を形成する。この処理で、端面13及びノズル孔21の内壁面にも、撥水膜43が形成される。撥水膜43を形成する工程が第3の工程である。
【0064】
次に、図8(i)に示すように、吐出面15の撥水領域11に、マスク部材としてのマスキングテープ48を貼付する。かかる工程が第4の工程である。
【0065】
次に、図9(j)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く全面にCF4ガスを用いたプラズマエッチング処理を行い、マスキングテープ48で覆われていない領域、すなわち端面13及び非撥水領域12におけるインク保護膜41を、上面の撥水膜43と共に除去する。かかる、インク保護膜41をパターニングする工程が第5の工程である。
【0066】
次に、図9(k)に示すように、マスキングテープ48の上面に第2の支持基板52を貼付する。そして次に、第1の支持基板51を取り外して接着面16を開放する。そして、接着面16側から酸素若しくはアルゴンガスのプラズマ処理を行い、ノズル孔21の内壁面に形成されていた撥水膜43を除去する。
【0067】
次に、図9(l)に示すように、親水性を有するシランカップリング剤をディップコートして、マスキングテープ48で覆われていない領域、すなわち接着面16、端面13、ノズル孔21の内壁面、及び非撥水領域12に、親水膜45を形成する。
【0068】
次に、図9(m)に示すように、第2の支持基板52及びマスキングテープ48を取り除く。そして、単結晶シリコン基板44に洗浄等の処理を施してシリコンノズル基板1を完成させる。以上の工程により、インク保護膜41が端面13及び非撥水領域12には形成されておらず、撥水領域11にのみ形成されているシリコンノズル基板1を得ることができる。
【0069】
(第4の実施形態)
次に本発明の第4の実施形態として、上述のシリコンノズル基板2の製造方法について、図10(a)〜図10(e)の工程断面図を用いて説明する。なお、上記各図は、図7等と同様のノズル孔21の近傍の部分と端面13の近傍の部分とを継ぎ合わせて示す要部の拡大断面図であり、破断線を省略している。
【0070】
本実施形態のシリコンノズル基板2の製造方法は、上述の第3の実施形態にかかる製造方法と類似している。具体的には第3の工程すなわち撥水膜43を形成した後、マスキングテープ48を貼付する工程までは共通している。そこで本実施形態の説明は、撥水膜43を形成する工程(第3の工程)までは省略して、撥水膜43を形成後にマスキングテープ48を貼付する工程から開始する。以下、工程順に説明する。
【0071】
まず、図10(a)に示すように、吐出面15の撥水領域11にインク保護膜41及び撥水膜43を介してマスク部材としてのマスキングテープ48を貼付する。かかる工程が第4の工程である。なお、図10(a)〜図10(d)においては、マスキングテープ48とインク保護膜41との界面の撥水膜43の図示を省略している。
【0072】
次に、図10(b)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く全面にCF4ガスを用いたプラズマエッチング処理を行い、マスキングテープ48で覆われていない領域のインク保護膜41(及び撥水膜43)をエッチングする。かかる工程が、第5の工程である。
【0073】
本実施形態の製造方法は、このエッチングを、端面13におけるインク保護膜41が完全に除去され、かつ、非撥水領域12には若干の厚さのインク保護膜41が残るように行う点に特徴がある。具体的には非撥水領域12に0.15μmないし0.3μmの厚さのインク保護膜41が残るようにエッチングを行う。上述したように、第2の工程においてインク保護膜41は非撥水領域12を含む吐出面15における厚さが略1.5μm、かつ、端面13(及びノズル孔21の内壁面)における厚さが略1.0μmとなるように成膜されている。したがって、端面13上のインク保護膜41が完全に除去(エッチング)された時点でエッチングを停止させれば、非撥水領域12には厚さが0.5μmのインク保護膜41が残ることとなる。そして、端面13から完全にインク保護膜41を除去するために若干のオーバーエッチングを行うことにより、上述の範囲の厚さのインク保護膜41を非撥水領域12に残すことができる。なお本工程により、端面13には熱酸化シリコン膜42が露出する。
【0074】
次に、図10(c)に示すように、マスキングテープ48の上面に第2の支持基板52を貼付する。そして第1の支持基板51を取り外して、接着面16を開放する。そして、接着面16側から酸素若しくはアルゴンガスのプラズマ処理を行い、ノズル孔21の内壁面に形成されていた撥水膜43を除去する。
【0075】
次に、図10(d)に示すように、単結晶シリコン基板44に親水性を有するシランカップリング剤をディップコートして、マスキングテープ48で覆われていない領域、すなわち接着面16、端面13、ノズル孔21の内壁面、及び非撥水領域12に、親水膜45を形成する。上述したように非撥水領域12にはインク保護膜41が薄く形成されている。したがって、非撥水領域12においてはインク保護膜41の表面にシランカップリング剤をディップコートされることとなる。インク保護膜41は単結晶シリコン材料に比べて親水性が強いため、かかる処理により非撥水領域12は密着性が非常に強化された領域となる。
【0076】
次に、図10(e)に示すように、単結晶シリコン基板44から第2の支持基板52及びマスキングテープ48を取り除く。そして、該単結晶シリコン基板に洗浄等の処理を施してシリコンノズル基板2を完成させる。以上の工程により、インク保護膜41が端面13に形成されておらず、かつ、非撥水領域12には薄いインク保護膜41と親水膜45との積層体が形成されているシリコンノズル基板2を得ることができる。
【0077】
(第5の実施形態)
次に第5の実施形態として、上述の各実施形態にかかるシリコンノズル基板(1、2)を構成要素とするヘッドユニット7を搭載した液滴吐出装置について説明する。図11は、上述の液滴吐出装置としてのインクジェットプリンターを示す斜視図である。上述したように、シリコンノズル基板(1、2)はインク保護膜41の剥離が生じにくいため、かかるシリコンノズル基板(1、2)を用いる液滴吐出ヘッド8及びヘッドユニット7は製造コストが低減されている。また、キャビティ基板3との接着領域に異物すなわち剥離したインク保護膜41等が浸入している可能性が低減されているため、信頼性も向上している。したがって、本実施形態のインクジェットプリンターは信頼性が高く、かつ製造コストも低減されている。
【符号の説明】
【0078】
1…第1の実施形態のシリコンノズル基板、2…第2の実施形態のシリコンノズル基板、3…キャビティ基板、4…電極基板、5…駆動回路、7…ヘッドユニット、8…液滴吐出ヘッド、9…カートリッジケース、10…カバーヘッド、11…撥水領域、12…非撥水領域、13…端面、15…吐出面、16…接着面、21…ノズル孔、21a…第1のノズル孔、21b…第2のノズル孔、22…振動板、23…リザーバー、24…オリフィス、25…吐出室、27…共通電極、29…絶縁膜、31…個別電極、31a…リード部、31b…端子部、33…封止材、34…ギャップ、35…インク供給口、36…電極取出し部、41…インク保護膜、42…熱酸化シリコン膜、43…撥水膜、44…単結晶シリコン基板、45…親水膜、46…第2の熱酸化シリコン膜、47…レジスト膜、48…マスク部材としてのマスキングテープ、51…第1の支持基板、52…第2の支持基板、61…接着領域、62…接着領域、63…ノズル孔の近傍の部分、64…端面の近傍の部分、230…リザーバー凹部、240…オリフィス凹部、250…吐出凹部、310…凹部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出するためのノズル孔を有するシリコンノズル基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙等の媒体上にインク(液体材料)の液滴を吐出して画像等を形成する装置として、液滴吐出装置が注目されている。一般に液滴吐出装置は、複数のノズルを備える液滴吐出ヘッドと媒体とを相対的に移動させつつ、ノズルから液滴を吐出して画像等を形成する。液滴吐出ヘッドは、一般に、液滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接着されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する圧力室、リザーバー等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により圧力室に圧力を加えることによりインクを選択されたノズル孔から、液滴として吐出するように構成されている。
【0003】
このような液滴吐出ヘッドにおいては、液滴の吐出時に、ノズル基板のノズルが形成されている側の面(以下、「吐出面」と称する。)にインクが残留し、後続する液滴の吐出時に悪影響を及ぼす可能性がある。そのような現象を低減する手法として、吐出面にインク保護膜(下地膜)及び撥水膜(撥インク膜)を形成し、上記のインク残留を抑制する手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−238576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のノズル基板がシリコン基板に異方性エッチングを用いてノズル孔を形成したシリコンノズル基板である場合、インク保護膜の密着性が問題となる。シリコンノズル基板の場合、ノズル孔の形成後に薄板化されるため、以降の工程はサポート基板に貼付した状態で実施される。そのため、インク保護膜の形成に熱酸化法を用いることが困難であり、低温で成膜可能なプラズマCVD法が用いられることが多い。
【0006】
しかし、プラズマCVD法で形成された膜は、熱酸化膜に比べて密着性が劣る。そのため、インク保護膜の形成後にシリコンノズル基板をキャビティ基板に接着するまでの間に、該インク保護膜の一部が剥離して異物化する可能性がある。かかる現象はシリコンノズル基板のエッジや端面(側面部)では特に生じやすい。かかる異物は、シリコンノズル基板とキャビティ基板との接着面に付着した場合、接着不良の原因となり得るという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例にかかるシリコンノズル基板は、シリコン基板を貫通させて形成したノズル孔を有し、吐出面側から該ノズル孔を介してインクの液滴を吐出するシリコンノズル基板であって、上記吐出面は平面視で上記ノズル孔を含み表面に撥水膜が形成されている撥水領域と上記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画されており、上記撥水領域には上記撥水膜と上記シリコン基板との間にインク保護膜が形成されており、上記非撥水領域にはインク保護膜が薄く形成されているか又は全く形成されておらず、上記シリコン基板の端面にはインク保護膜が全く形成されていないことを特徴とする。
【0009】
このような構成のシリコンノズル基板であれば、シリコンノズル基板端面のインク保護膜の一部が剥離して異物化する現象を低減できる。そのため、シリコンノズル基板をキャビティ基板に接着するまでの間の検査及び異物除去工程を合理化できる。そして、液滴吐出ヘッドの不良率を低減でき、製造コストを低減できる。
【0010】
[適用例2]上述のシリコンノズル基板であって、上記インク保護膜はシロキサンを原料とするプラズマCVD法で形成された膜であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【0011】
プラズマCVD法によれば、シリコン基板の端面における成膜速度を吐出面における成膜速度の6割から8割の範囲に制御できる。したがって、インク保護膜の一部を除去する工程において端面のみにシリコン基板を露出させることも可能になる。
【0012】
[適用例3]上述のシリコンノズル基板であって、上記撥水領域における上記インク保護膜の膜厚は0.5μmから1.5μmの範囲であり、上記非撥水領域における上記インク保護膜の膜厚は上記撥水領域における該膜厚の3割以下であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【0013】
上述の液滴吐出ヘッドは、シリコンノズル基板とキャビティ基板とを接着した後に、該シリコンノズル基板を覆うカバーヘッドをさらに装着する場合がある。かかる装着は非撥水領域に配置した接着剤で行われる。しかし、シリコン基板は接着剤の密着性が悪いため、非撥水領域にシリコン基板が露出していると上述の装着がうまくいかない可能性がある。かかる場合において、上述の構成のシリコンノズル基板であれば、シリコンノズル基板上に表面が酸化シリコンからなるインク保護膜を介してカバーヘッドを接着できるため、より強固な接着が可能となる。したがって、信頼性等が向上した液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0014】
[適用例4]上述のシリコンノズル基板を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0015】
このような液滴吐出ヘッドであれば、異物、すなわちインク保護膜の剥離による影響を低減できるため、低コストで信頼性が高い液滴吐出ヘッドを提供できる。
【0016】
[適用例5]上述の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【0017】
このような液滴吐出装置であれば、異物、すなわちインク保護膜の剥離による影響を低減できるため、低コストで信頼性が高い液滴吐出装置を提供できる。
【0018】
[適用例6]本適用例にかかるシリコンノズル基板の製造方法は、シリコン基板を貫通させてノズル孔を形成する第1の工程と、上記シリコン基板の一方の面である吐出面及び上記シリコン基板の端面にインク保護膜を形成する第2の工程と、上記インク保護膜の表面に撥水膜を形成する第3の工程と、上記吐出面を、平面視で上記ノズル孔を含む領域である撥水領域と上記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画して、上記撥水領域にマスク部材を被せる第4の工程と、上記シリコン基板にエッチングを施して、上記マスク部材で覆われていない領域の上記撥水膜を除去し、さらに上記インク保護膜を、上記端面では完全に除去し、上記非撥水領域では除去するか又は元の膜厚よりも薄くする第5の工程と、を記載の順に実施することを特徴とする。
【0019】
このような製造方法であれば、必要な領域に充分な厚さのインク保護膜を形成できるとともに、インク保護膜が剥離しやすい領域である端面において、インク保護膜を完全に除去することができる。したがって、異物が生じにくいシリコンノズル基板を得ることができる。
【0020】
[適用例7]上述のシリコンノズル基板の製造方法であって、上記第2の工程は、シロキサンを原料とするプラズマCVD法により上記インク保護膜を形成する工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【0021】
プラズマCVD法は低温で成膜可能であるため、このような製造方法であれば薄板化されたシリコン基板を支持体で保持しつつ成膜する場合において、該支持体の変質や変形等を抑制できる。
【0022】
[適用例8]上述のシリコンノズル基板の製造方法であって、上記第2の工程は、上記吐出面に膜厚が0.5μmから1.5μmの範囲の上記インク保護膜を形成する工程であり、上記第5の工程は、上記インク保護膜を膜厚が3割以下となるまでエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【0023】
このような製造方法であれば、非撥水領域に、上述のカバーヘッドを装着する場合において接着剤の密着性を充分に向上できる厚さのインク保護膜を残すことができる。したがって、このような製造方法であれば、より一層品質の向上した発塵性の低いシリコンノズル基板、及び該シリコンノズル基板を構成要素とする組み立て信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0024】
[適用例9]上述のシリコンノズル基板の製造方法であって、上記第5の工程は、CF系ガスを用いてドライエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【0025】
このような製造方法であれば、第5の工程を第2の工程で用いるプラズマCVD装置のエッチバック機構を用いて実施できる。したがって、製造コストを低減しつつ品質の向上したシリコンノズル基板、及び該シリコンノズル基板を構成要素とする液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】液滴吐出ヘッドの斜視展開図。
【図2】液滴吐出ヘッドの要部の縦断面図。
【図3】第1の実施形態のシリコンノズル基板の要部の拡大断面図。
【図4】シリコンノズル基板の吐出面側の平面図。
【図5】第2の実施形態のシリコンノズル基板の要部の拡大断面図。
【図6】ヘッドユニットの概略構成を示す図。
【図7】第3の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図8】第3の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図9】第3の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図10】第4の実施形態のシリコンノズル基板の製造方法を示す工程断面図。
【図11】液滴吐出装置としてのインクジェットプリンターを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態にかかるシリコンノズル基板及びその製造方法について、図面を参照しつつ述べる。上述したようにシリコンノズル基板は液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)を構成する要素であるため、該液滴吐出ヘッドの構成当も含めて説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではない。また、以下の各図においては、各層や各部位を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部位の縮尺を実際とは異ならせてある。また、特に断りのない限り、以下の記載においては図の上側を上とし、下側を下として説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかるシリコンノズル基板1を構成要素とする液滴吐出ヘッド8の斜視展開図である。図2は、液滴吐出ヘッド8の要部の縦断面図である。図1及び後述する図4に示すように、ノズル孔21は吐出面15において長手方向に2列に並ぶように形成されている。図2は、該長手方向に直交する線における断面図であり、図1の右半分の概略構成を示す断面図である。
【0029】
本実施の形態に係る液滴吐出ヘッド8は、図1に示すように、所定のピッチで形成された複数のノズル孔21が形成されたシリコンノズル基板1と、各ノズル孔21に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板3と、キャビティ基板3の振動板22に対応する個別電極31が形成された電極基板4とを接着して構成されている。なお後述するように、液滴吐出ヘッド8は、複数個がまとめられてヘッドユニット7(図6参照)を構成している。
【0030】
シリコンノズル基板1は、単結晶シリコン基板44(図3参照)に所定の加工を施して形成された板状部材であり、インク等の液滴を吐出するためのノズル孔21が2列に形成されている。ノズル孔21は単結晶シリコン基板44を貫通する孔であり、液滴を吐出する第1のノズル孔21aと、液滴を導入する第2のノズル孔21bとから構成されている。なお、シリコンノズル基板1の構成材料は単結晶シリコン基板に限定されず、多結晶シリコン(ポリシリコン)基板を用いることもできる。
【0031】
シリコンノズル基板1の表裏の2面のうち、液滴吐出ヘッド8の外側を向く面すなわち液滴を吐出する側の面が吐出面15である。一方、キャビティ基板3と接着される側の面が接着面16である。吐出面15には、一部の領域を除きインク保護膜41が形成されている。一般的にインクはアルカリ性であり、単結晶シリコン基板44を侵食(エッチング)等する可能性がある。そのため、酸化シリコン等からなるインク保護膜41を形成して、シリコンノズル基板1の表面を保護している。そして、本実施形態のシリコンノズル基板1は、インク保護膜41が撥水領域11にのみ形成され、該撥水領域を平面視で囲む環状の領域(図4参照)である非撥水領域12と吐出面15に直交する面(厚さ方向の面)である端面13とには形成されていない点に特徴がある。かかる特徴とその効果については後述する。
【0032】
キャビティ基板3も、シリコンノズル基板1と同様に単結晶シリコン基板からなり、接着領域61、62において、シリコンノズル基板1と接着されている。そして、キャビティ基板3には、シリコンノズル基板1のノズル孔21の各々に連通するインク流路が異方性ウェットエッチングにより形成されている。インク流路は、底壁を振動板22とし吐出室25となる吐出凹部250と、共通のインク室であるリザーバー23となるリザーバー凹部230と、リザーバー凹部230と各吐出凹部250とを連通するオリフィス24となるオリフィス凹部240と、で構成されている。リザーバー23は各吐出室25に共通の共通インク室を構成し、それぞれオリフィス24を介してそれぞれの吐出室25に連通している。
【0033】
キャビティ基板3の全面若しくは少なくとも電極基板4との対向する領域には、絶縁性材料である酸化シリコンからなる絶縁膜29が形成されている。かかる絶縁膜29は、液滴吐出ヘッド8を駆動させたときに、絶縁破壊やショートの発生を防止する機能を果たしている。
【0034】
電極基板4はガラス基材からからなり、キャビティ基板3の各振動板22に対向する位置には、夫々凹部310が形成されている。そして、各凹部310内には、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31がスパッタにより形成されている。
【0035】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを備えており、端子部31bは、配線のためにキャビティ基板3の末端部が開口された電極取出し部36内に露出している。そして、ICドライバー等の駆動回路5を介して、各個別電極31の端子部31bとキャビティ基板3上の共通電極27とが接続されている。また、電極基板4には、インクを供給するためにリザーバー23と連通するインク供給口35が形成されている。そして、該インク供給口は図示しないインクタンクに接続されている。振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ34の開放端部は、内部に水分や塵埃などが入らないようにエポキシ等の樹脂による封止材33により封止されている。
【0036】
電極基板4と上述のキャビティ基板3とは、個別電極31と振動板22とが所定(例えば、0.1μm)のギャップ34を介して対向配置するように陽極接合されている。これにより、ギャップ34を介して対峙する個別電極31と絶縁膜29を有する振動板22とで、吐出室25に所要の圧力を加えることができる静電アクチュエーターが構成される。
【0037】
液滴吐出ヘッド8は、以下に記載する動作により、インクを液滴として吐出する。まず、駆動回路5が駆動し、個別電極31に電荷を供給してこれを正に帯電させると、振動板22は負に帯電し、個別電極31と振動板22の間に静電引力が発生する。この静電引力によって、振動板22は個別電極31に引き寄せられて撓む。これによって、吐出室25の容積が増大する。個別電極31への電荷の供給を止めると静電引力が消滅し、振動板22はその弾性力により元に戻り、その際、吐出室25の容積が急激に減少して、そのときの圧力により吐出室25内のインクの一部がインクの液滴としてノズル孔21から吐出面15側に吐出される。そして、かかるインクによる単結晶シリコンの侵食を防ぐために、撥水領域11にはインク保護膜41が形成されている。
【0038】
図3は、シリコンノズル基板1の、図2に示すノズル孔21の近傍の部分63と端面13の近傍の部分64とを継ぎ合わせて示す、要部の拡大断面図である。なお、本図及び後述する同様の図においては、上記2つの部分を継いだ部分の破断線を省略している。図4は、シリコンノズル基板1の吐出面15側の平面図である。
【0039】
図4に示すように、シリコンノズル基板1の吐出面15は、中央部の撥水領域11と非撥水領域12とに区画されている。図示するように、撥水領域11はノズル孔21が形成されている領域である。そして非撥水領域12は、該撥水領域を囲む環状の領域である。
【0040】
図3に示すように、シリコンノズル基板1は、単結晶シリコン基板44と、該単結晶シリコン基板の表面に形成された薄膜等で構成されている。まず、吐出面15以外の面、すなわち接着面16、端面13及びノズル孔21の内壁面には単結晶シリコン基板44を酸素含有雰囲気中で加熱して形成された熱酸化シリコン膜42が連続して形成されている。膜厚は略0.1μmである。
【0041】
そして吐出面15の撥水領域11及びノズル孔21の内壁面には、インク保護膜41が形成されている。インク保護膜41は、シリコン重合膜をシロキサン原料のプラズマCVD法で形成した後、該シリコン重合膜にUV(紫外線)を照射して脱水縮合させ、表面をSiO2化して得られた膜である。膜厚は、撥水領域11においては略1.5μm、ノズル孔21の内壁面においては略1.0μmである。
上述の2層の薄膜は、熱酸化シリコン膜42の方が先に形成されている。したがって、ノズル孔21の内壁面には、下層の熱酸化シリコン膜42と上層のインク保護膜41との2層の薄膜が積層されている。
【0042】
インク保護膜41及び熱酸化シリコン膜42は、シリコンノズル基板1の基材である単結晶シリコン基板44をインクから保護する機能を果たしている。上述したようにインクは一般的にアルカリ性であり、単結晶シリコン基板44を侵食し得る。そのためシリコンノズル基板1においては、単結晶シリコン基板44の非撥水領域12を除く表面、すなわちインク流路に面する接着面16、ノズル孔21の内壁面、及び撥水領域11に、インク保護膜41と熱酸化シリコン膜42の少なくとも一方を形成して、該表面が露出することを防いでいる。
【0043】
撥水領域11におけるインク保護膜41の上層には撥水膜43が形成されている。撥水膜43は撥水性を有するシランカップリング剤をディップコートして形成された膜であり、ノズル孔21から吐出されたインク(の液滴)が吐出面15に滞留することを抑制して吐出性を向上させている。また、接着面16及びノズル孔21の内壁面には親水膜45が形成されている。親水膜45は親水性を有するシランカップリング剤をディップコートして形成された膜であり、シリコンノズル基板1とキャビティ基板3とを接着する際に供給される接着剤の密着性を向上させている。
【0044】
上述したように、本実施形態のシリコンノズル基板1は、インク保護膜41が吐出面15の全域ではなく撥水領域11にのみ形成されており、該撥水領域を囲む非撥水領域12には形成されていない。また、端面13にもインク保護膜41は形成されていない。インク保護膜41の前身であるシリコン重合膜はプラズマCVD法で形成されるため、成膜された時点では撥水領域11以外の領域、すなわち非撥水領域12及び端面13にも形成されている。かかる膜を後述するようにパターニングして、撥水領域11のみにインク保護膜41を形成している。
【0045】
段落(0006)で述べたように、プラズマCVD法で形成された膜は熱酸化膜に比べて密着性が劣るため、剥離等が生じやすい。かかる現象は、シリコンノズル基板1の端部、すなわち吐出面15の外縁部である非撥水領域12及び端面13において特に顕著である。本実施形態のシリコンノズル基板1は、かかる領域にはインク保護膜41が形成されていないため、搬送時等において上述の剥離が発生しにくい。したがって、シリコンノズル基板1をキャビティ基板3に接着するまでの間の検査及び異物除去工程を合理化でき、製造コストを低減できる。
【0046】
また、剥離して異物となったインク保護膜41の断片が接着領域(61、62)に入り込むことによる接着不良、すなわち組み立て不良の発生も低減されている。そのため、シリコンノズル基板1とキャビティ基板3との接着時における不良の発生が低減されている。すなわち液滴吐出ヘッド8の組み立て工程における歩留まりが向上している。したがって、本実施形態のシリコンノズル基板1を構成要素として用いた場合、信頼性が向上した液滴吐出ヘッド8及びヘッドユニット7(後述する図6参照)を低コストで得ることができる。
【0047】
なお、インク保護膜41が形成されていない領域に対するインクの影響は殆んど問題とはならない。端面13には熱酸化シリコン膜42が形成されているため、インク保護膜41が形成されていなくてもインクの侵食を抑制できる。また、吐出面15においては撥水領域11に撥水膜43が形成されているため、吐出性が向上している。したがって、吐出されたインク(の液滴)が吐出面15に滞留することが抑制されており非撥水領域12における侵食も問題にはならない。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図5は本発明の第2の実施形態にかわるシリコンノズル基板2を示す図であり、上記の図3に相当する要部断面図である。本実施形態のシリコンノズル基板2は、上述の第1の実施形態にかかるシリコンノズル基板1と同様に、キャビティ基板3及び電極基板4と組み合されて液滴吐出ヘッド8を構成するものである。構成はシリコンノズル基板1と類似しており、相違点はインク保護膜41の形成領域のみである。そこで、上述の図1、図2、及び図4に相当する図面は省略する。また、シリコンノズル基板1と共通する点については説明の記載を省略する。
【0049】
本実施形態のシリコンノズル基板2は、非撥水領域12にもインク保護膜41が形成されている点で、シリコンノズル基板1と異なっている。ただし、非撥水領域12のインク保護膜41の厚さは、撥水領域11の該厚さ(すなわち略1.5μm)に比べて薄く、本実施形態のシリコンノズル基板2においては、0.15μmないし0.3μmの厚さで形成されている。ただし、非撥水領域12のインク保護膜41の厚さは上述の範囲に限定されるものではない。撥水領域11における厚さより薄く形成されていればよい。端面13には、(シリコンノズル基板1と同様に)インク保護膜41は形成されていない。また、撥水膜43は、シリコンノズル基板1と同様に、撥水領域11にのみ形成されている。
【0050】
上述のインク保護膜41の剥離は、特に端面13において発生しやすい。理由としては、上述の剥離は主として該シリコンノズル基板の搬送時、取り扱い時等において該シリコンノズル基板とそれを収納するトレー等とが衝突する際に生じる物であり、その場合、衝突する箇所は端面13が多いからである。本実施形態のシリコンノズル基板2は、インク保護膜41が端面13からは完全に除去されているため、キャビティ基板3との接着時における不良の発生が、上述の第1の実施形態にかかるシリコンノズル基板1と殆んど変わりないレベルまで低減されている。
【0051】
本実施形態のシリコンノズル基板2が、非撥水領域12にもインク保護膜41が形成されている理由は、該非撥水領域における接着剤の密着性を向上させるためである。上述のシリコンノズル基板(1、2)を構成要素とする液滴吐出ヘッド8は、一般的に該液滴吐出ヘッドを複数個まとめて構成されたヘッドユニット7として用いられる。図6に、かかるヘッドユニット7の概略構成を示す。
【0052】
図示するように、ヘッドユニット7は複数個の液滴吐出ヘッド8をカバーヘッド10でカートリッジケース9に固定して形成される。カバーヘッド10は、固定の対象となる液滴吐出ヘッド8の撥水領域11に対応する領域が開口された薄板状の部材である。そして、カバーヘッド10は、液滴吐出ヘッド8の非撥水領域12に配置された接着剤により、該液滴吐出ヘッドと固定される。
【0053】
そして単結晶シリコン、すなわちシリコンノズル基板の基材である単結晶シリコン基板44は、接着剤との密着性が悪いことが判明している。本実施形態のシリコンノズル基板2は、膜厚は若干薄いものの、非撥水領域12にもインク保護膜41が形成されており、単結晶シリコン基板44が露出していない。したがって、非撥水領域12における接着剤の密着性が強化されている。そのため、本実施形態のシリコンノズル基板2を用いた場合、より一層強固に接着され、より一層信頼性等の向上したヘッドユニット7を得ることができる。
【0054】
(第3の実施形態)
次に本発明の第3の実施形態として、上述のシリコンノズル基板1の製造方法について、図7(a)〜図9(m)の工程断面図を用いて説明する。上記各図は、図3及び図5と同様の、図2に示すノズル孔21の近傍の部分と端面13の近傍の部分とを継ぎ合わせて示す部分を示す要部の拡大断面図である。したがって、図3等と同様に破断線を省略している。以下、工程順に説明する。
【0055】
まず、図7(a)に示すように、単結晶シリコン基板44を酸素含有雰囲気中で加熱して、全面に第2の熱酸化シリコン膜46を形成する。そして、将来的に接着面16となる側の面において、第2の熱酸化シリコン膜46をフォトリソグラフィー法でパターニングして、将来的に第2のノズル孔21bが形成される領域から第2の熱酸化シリコン膜46を除去する。なお、本実施形態で用いる単結晶シリコン基板44は厚さが略725μmの物を用いているが、基板厚はかかる数値に限定されるものではない。
【0056】
次に、図7(b)に示すように、将来的に接着面16となる側の面にレジスト膜47を形成する。そして該レジスト膜を露光現像工程によりパターニングして、将来的に第1のノズル孔21aが形成される領域から該レジスト膜を除去する。
【0057】
次に、図7(c)に示すように、レジスト膜47をマスクとして、将来的に第1のノズル孔21aが形成される領域における単結晶シリコン基板44を、接着面16側から略40μmの深さまでエッチングする。
【0058】
次に、レジスト膜47を硫酸系の剥離液により除去する。そして、図7(d)に示すように、第2の熱酸化シリコン膜46をマスクとして、将来的に第2のノズル孔21bが形成される領域における単結晶シリコン基板44を、接着面16側から略40μmの深さまでエッチングする。このエッチング時に、先に形成されていた穴(図7(c)に示す穴)がさらに略40μm深くなるようにエッチングされて、深さが略80μmの穴となる。そのため、図7(d)に示すように、断面が凸型の凹部(穴)が形成される。
【0059】
次に、単結晶シリコン基板44をフッ酸系のエッチング液により全面的にエッチングして第2の熱酸化シリコン膜46を除去する。そして、図7(e)に示すように、単結晶シリコン基板44を、酸素含有雰囲気中で加熱して、上述の凸型の凹部内を含む単結晶シリコン基板44の全面に、膜厚略0.1μmの熱酸化シリコン膜42を形成する。
【0060】
次に、単結晶シリコン基板44の接着面16に、第1の支持基板51を接着剤等の有機物を介して貼り合わせる。そして、図8(f)に示すように、単結晶シリコン基板44を、接着面16の反対側からバックグラインダー等により研削加工して、基板厚が65μmになるまで薄板化する。かかる研削加工により接着面16の反対側に形成された面が吐出面15である。
【0061】
そして、かかる研削加工により深さが略80μmまでエッチングされていた上述の凹部の先端が開口する。かかる開口した部分が、第1のノズル孔21aである。そして、接着面16側から深さが略40μmまでエッチングされていた部分が、第2のノズル孔21bとなる。第1のノズル孔21aと第2のノズル孔21bとで、ノズル孔21が形成される。ここまでのノズル孔21を形成するまでの工程が、第1の工程である。なお、上述の薄板化は、ポリッシャー、CMP装置等による研磨加工により行ってもよいし、研削加工と研磨加工とを組み合せても良い。
【0062】
次に、図8(g)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く表面に、シロキサン原料の低温プラズマCVD法によりシリコン重合膜(プラズマ重合膜)を形成する。そして、該シリコン重合膜に対して空気中でUV(紫外線)を照射して水縮合させて、表面をSiO2化する。すなわち、表面に酸化シリコン膜(不図示)を形成する。かかる表面が酸化されたシリコン重合膜が、インク保護膜41である。そしてインク保護膜41を形成する工程が、第2の工程である。プラズマCVD法によれば、100℃以下の温度でシリコン重合膜を形成できる。したがって、基板厚が65μmになるまで薄板化された単結晶シリコン基板44及び第1の支持基板51と接着剤等を変質等させることなく、インク保護膜41を形成できる。シリコン重合膜(すなわちインク保護膜41)は、吐出面15における厚さが略1.5μmとなるような条件(設定)で成膜する。その場合、端面13及びノズル孔21の内壁面等のプラズマの影響が弱まる領域には、略1.0μmの厚さのシリコン重合膜が形成される。
【0063】
次に、図8(h)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く全面にシランカップリング剤をディップコートして、インク保護膜41の表面に撥水膜43を形成する。この処理で、端面13及びノズル孔21の内壁面にも、撥水膜43が形成される。撥水膜43を形成する工程が第3の工程である。
【0064】
次に、図8(i)に示すように、吐出面15の撥水領域11に、マスク部材としてのマスキングテープ48を貼付する。かかる工程が第4の工程である。
【0065】
次に、図9(j)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く全面にCF4ガスを用いたプラズマエッチング処理を行い、マスキングテープ48で覆われていない領域、すなわち端面13及び非撥水領域12におけるインク保護膜41を、上面の撥水膜43と共に除去する。かかる、インク保護膜41をパターニングする工程が第5の工程である。
【0066】
次に、図9(k)に示すように、マスキングテープ48の上面に第2の支持基板52を貼付する。そして次に、第1の支持基板51を取り外して接着面16を開放する。そして、接着面16側から酸素若しくはアルゴンガスのプラズマ処理を行い、ノズル孔21の内壁面に形成されていた撥水膜43を除去する。
【0067】
次に、図9(l)に示すように、親水性を有するシランカップリング剤をディップコートして、マスキングテープ48で覆われていない領域、すなわち接着面16、端面13、ノズル孔21の内壁面、及び非撥水領域12に、親水膜45を形成する。
【0068】
次に、図9(m)に示すように、第2の支持基板52及びマスキングテープ48を取り除く。そして、単結晶シリコン基板44に洗浄等の処理を施してシリコンノズル基板1を完成させる。以上の工程により、インク保護膜41が端面13及び非撥水領域12には形成されておらず、撥水領域11にのみ形成されているシリコンノズル基板1を得ることができる。
【0069】
(第4の実施形態)
次に本発明の第4の実施形態として、上述のシリコンノズル基板2の製造方法について、図10(a)〜図10(e)の工程断面図を用いて説明する。なお、上記各図は、図7等と同様のノズル孔21の近傍の部分と端面13の近傍の部分とを継ぎ合わせて示す要部の拡大断面図であり、破断線を省略している。
【0070】
本実施形態のシリコンノズル基板2の製造方法は、上述の第3の実施形態にかかる製造方法と類似している。具体的には第3の工程すなわち撥水膜43を形成した後、マスキングテープ48を貼付する工程までは共通している。そこで本実施形態の説明は、撥水膜43を形成する工程(第3の工程)までは省略して、撥水膜43を形成後にマスキングテープ48を貼付する工程から開始する。以下、工程順に説明する。
【0071】
まず、図10(a)に示すように、吐出面15の撥水領域11にインク保護膜41及び撥水膜43を介してマスク部材としてのマスキングテープ48を貼付する。かかる工程が第4の工程である。なお、図10(a)〜図10(d)においては、マスキングテープ48とインク保護膜41との界面の撥水膜43の図示を省略している。
【0072】
次に、図10(b)に示すように、単結晶シリコン基板44の接着面16を除く全面にCF4ガスを用いたプラズマエッチング処理を行い、マスキングテープ48で覆われていない領域のインク保護膜41(及び撥水膜43)をエッチングする。かかる工程が、第5の工程である。
【0073】
本実施形態の製造方法は、このエッチングを、端面13におけるインク保護膜41が完全に除去され、かつ、非撥水領域12には若干の厚さのインク保護膜41が残るように行う点に特徴がある。具体的には非撥水領域12に0.15μmないし0.3μmの厚さのインク保護膜41が残るようにエッチングを行う。上述したように、第2の工程においてインク保護膜41は非撥水領域12を含む吐出面15における厚さが略1.5μm、かつ、端面13(及びノズル孔21の内壁面)における厚さが略1.0μmとなるように成膜されている。したがって、端面13上のインク保護膜41が完全に除去(エッチング)された時点でエッチングを停止させれば、非撥水領域12には厚さが0.5μmのインク保護膜41が残ることとなる。そして、端面13から完全にインク保護膜41を除去するために若干のオーバーエッチングを行うことにより、上述の範囲の厚さのインク保護膜41を非撥水領域12に残すことができる。なお本工程により、端面13には熱酸化シリコン膜42が露出する。
【0074】
次に、図10(c)に示すように、マスキングテープ48の上面に第2の支持基板52を貼付する。そして第1の支持基板51を取り外して、接着面16を開放する。そして、接着面16側から酸素若しくはアルゴンガスのプラズマ処理を行い、ノズル孔21の内壁面に形成されていた撥水膜43を除去する。
【0075】
次に、図10(d)に示すように、単結晶シリコン基板44に親水性を有するシランカップリング剤をディップコートして、マスキングテープ48で覆われていない領域、すなわち接着面16、端面13、ノズル孔21の内壁面、及び非撥水領域12に、親水膜45を形成する。上述したように非撥水領域12にはインク保護膜41が薄く形成されている。したがって、非撥水領域12においてはインク保護膜41の表面にシランカップリング剤をディップコートされることとなる。インク保護膜41は単結晶シリコン材料に比べて親水性が強いため、かかる処理により非撥水領域12は密着性が非常に強化された領域となる。
【0076】
次に、図10(e)に示すように、単結晶シリコン基板44から第2の支持基板52及びマスキングテープ48を取り除く。そして、該単結晶シリコン基板に洗浄等の処理を施してシリコンノズル基板2を完成させる。以上の工程により、インク保護膜41が端面13に形成されておらず、かつ、非撥水領域12には薄いインク保護膜41と親水膜45との積層体が形成されているシリコンノズル基板2を得ることができる。
【0077】
(第5の実施形態)
次に第5の実施形態として、上述の各実施形態にかかるシリコンノズル基板(1、2)を構成要素とするヘッドユニット7を搭載した液滴吐出装置について説明する。図11は、上述の液滴吐出装置としてのインクジェットプリンターを示す斜視図である。上述したように、シリコンノズル基板(1、2)はインク保護膜41の剥離が生じにくいため、かかるシリコンノズル基板(1、2)を用いる液滴吐出ヘッド8及びヘッドユニット7は製造コストが低減されている。また、キャビティ基板3との接着領域に異物すなわち剥離したインク保護膜41等が浸入している可能性が低減されているため、信頼性も向上している。したがって、本実施形態のインクジェットプリンターは信頼性が高く、かつ製造コストも低減されている。
【符号の説明】
【0078】
1…第1の実施形態のシリコンノズル基板、2…第2の実施形態のシリコンノズル基板、3…キャビティ基板、4…電極基板、5…駆動回路、7…ヘッドユニット、8…液滴吐出ヘッド、9…カートリッジケース、10…カバーヘッド、11…撥水領域、12…非撥水領域、13…端面、15…吐出面、16…接着面、21…ノズル孔、21a…第1のノズル孔、21b…第2のノズル孔、22…振動板、23…リザーバー、24…オリフィス、25…吐出室、27…共通電極、29…絶縁膜、31…個別電極、31a…リード部、31b…端子部、33…封止材、34…ギャップ、35…インク供給口、36…電極取出し部、41…インク保護膜、42…熱酸化シリコン膜、43…撥水膜、44…単結晶シリコン基板、45…親水膜、46…第2の熱酸化シリコン膜、47…レジスト膜、48…マスク部材としてのマスキングテープ、51…第1の支持基板、52…第2の支持基板、61…接着領域、62…接着領域、63…ノズル孔の近傍の部分、64…端面の近傍の部分、230…リザーバー凹部、240…オリフィス凹部、250…吐出凹部、310…凹部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を貫通させて形成したノズル孔を有し、吐出面側から該ノズル孔を介してインクの液滴を吐出するシリコンノズル基板であって、
前記吐出面は平面視で前記ノズル孔を含み表面に撥水膜が形成されている撥水領域と前記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画されており、
前記撥水領域には前記撥水膜と前記シリコン基板との間にインク保護膜が形成されており、前記非撥水領域にはインク保護膜が薄く形成されているか又は全く形成されておらず、前記シリコン基板の端面にはインク保護膜が全く形成されていないことを特徴とするシリコンノズル基板。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコンノズル基板であって、
前記インク保護膜はシロキサンを原料とするプラズマCVD法で形成された膜であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコンノズル基板であって、
前記撥水領域における前記インク保護膜の膜厚は0.5μmから1.5μmの範囲であり、
前記非撥水領域における前記インク保護膜の膜厚は前記撥水領域における該膜厚の3割以下であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリコンノズル基板を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項6】
シリコン基板を貫通させてノズル孔を形成する第1の工程と、
前記シリコン基板の一方の面である吐出面及び前記シリコン基板の端面にインク保護膜を形成する第2の工程と、
前記インク保護膜の表面に撥水膜を形成する第3の工程と、
前記吐出面を、平面視で前記ノズル孔を含む領域である撥水領域と前記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画して、前記撥水領域にマスク部材を被せる第4の工程と、
前記シリコン基板にエッチングを施して、前記マスク部材で覆われていない領域の前記撥水膜を除去し、さらに前記インク保護膜を、前記端面では完全に除去し、前記非撥水領域では除去するか又は元の膜厚よりも薄くする第5の工程と、
を記載の順に実施することを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のシリコンノズル基板の製造方法であって、
前記第2の工程は、シロキサンを原料とするプラズマCVD法により前記インク保護膜を形成する工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のシリコンノズル基板の製造方法であって、
前記第2の工程は、前記吐出面に膜厚が0.5μmから1.5μmの範囲の前記インク保護膜を形成する工程であり、
前記第5の工程は、前記インク保護膜を膜厚が3割以下となるまでエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のシリコンノズル基板の製造方法であって、
前記第5の工程は、CF系ガスを用いてドライエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【請求項1】
シリコン基板を貫通させて形成したノズル孔を有し、吐出面側から該ノズル孔を介してインクの液滴を吐出するシリコンノズル基板であって、
前記吐出面は平面視で前記ノズル孔を含み表面に撥水膜が形成されている撥水領域と前記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画されており、
前記撥水領域には前記撥水膜と前記シリコン基板との間にインク保護膜が形成されており、前記非撥水領域にはインク保護膜が薄く形成されているか又は全く形成されておらず、前記シリコン基板の端面にはインク保護膜が全く形成されていないことを特徴とするシリコンノズル基板。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコンノズル基板であって、
前記インク保護膜はシロキサンを原料とするプラズマCVD法で形成された膜であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコンノズル基板であって、
前記撥水領域における前記インク保護膜の膜厚は0.5μmから1.5μmの範囲であり、
前記非撥水領域における前記インク保護膜の膜厚は前記撥水領域における該膜厚の3割以下であることを特徴とするシリコンノズル基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のシリコンノズル基板を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項6】
シリコン基板を貫通させてノズル孔を形成する第1の工程と、
前記シリコン基板の一方の面である吐出面及び前記シリコン基板の端面にインク保護膜を形成する第2の工程と、
前記インク保護膜の表面に撥水膜を形成する第3の工程と、
前記吐出面を、平面視で前記ノズル孔を含む領域である撥水領域と前記撥水領域を囲む環状の領域である非撥水領域とに区画して、前記撥水領域にマスク部材を被せる第4の工程と、
前記シリコン基板にエッチングを施して、前記マスク部材で覆われていない領域の前記撥水膜を除去し、さらに前記インク保護膜を、前記端面では完全に除去し、前記非撥水領域では除去するか又は元の膜厚よりも薄くする第5の工程と、
を記載の順に実施することを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のシリコンノズル基板の製造方法であって、
前記第2の工程は、シロキサンを原料とするプラズマCVD法により前記インク保護膜を形成する工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のシリコンノズル基板の製造方法であって、
前記第2の工程は、前記吐出面に膜厚が0.5μmから1.5μmの範囲の前記インク保護膜を形成する工程であり、
前記第5の工程は、前記インク保護膜を膜厚が3割以下となるまでエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のシリコンノズル基板の製造方法であって、
前記第5の工程は、CF系ガスを用いてドライエッチングする工程であることを特徴とするシリコンノズル基板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−106364(P2012−106364A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255586(P2010−255586)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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