説明

シリコン原料の再利用方法

【課題】直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットの引上げ中に、シリコン原料融液を保持する石英ルツボの使用時間が予め設定された耐用時間を経過し、かつ、その時点で引上げ中のシリコン単結晶が有転位化している場合であっても、該シリコン単結晶インゴットにおけるクラックや割れの発生を抑制することができ、石英ルツボ内に残存したシリコン原料融液を半導体デバイス用に、安全かつ効率的に再利用する方法を提供する。
【解決手段】直胴部の最大直径が210〜260mmの第2のシリコン単結晶インゴットIg2の引上げに変更して、石英ルツボ14aに残存しているシリコン原料融液を第2のシリコン単結晶インゴットIg2として回収し、直径8インチ以下のシリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットとして、又は、シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大口径の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するチョクラルスキー法(以下、CZ法ともいう)によるシリコン単結晶インゴットの引上げにおいて、石英ルツボ内に残存するシリコン原料融液を、半導体デバイス用として再利用するシリコン原料の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するシリコン単結晶インゴットは、炉体内で、CZ法により、石英ルツボに保持されたシリコン原料融液に種結晶を着液させて引上げ、結晶径約3〜5mmのネック部を育成した後、目的とする結晶径まで拡径するクラウン部及び目的とする結晶径を維持する直胴部を育成し、最後に、目的とする結晶径から縮径するテール部等を育成してシリコン原料融液から切り離して冷却することにより製造することができる。
【0003】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、シリコン単結晶インゴットの引上げ時に発生するボイド欠陥を可能な限り小さくすることが要求されている。このボイド欠陥を小さくするためには、シリコン単結晶インゴットの引上げ時における1100℃付近のボイド欠陥成長温度帯の冷却速度を高めることが必要である。このような冷却速度を高める方法の一つとして、炉体内に強制冷却用の冷却体を設置する技術が一般的に知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、前記冷却速度を高めると、シリコン単結晶インゴットの内部の熱応力が増加するため、引上げ中にクラックや割れ(以下、併せて、クラック等という)が発生する場合がある。特に、近年のシリコンウェーハの大口径化(直径12インチ以上)に伴い、CZ法により引上げるシリコン単結晶インゴットも大口径化しているため、引上げ中のシリコン単結晶インゴットの半径方向の温度差が大きくなり、シリコン単結晶インゴットの内部の熱応力がさらに増加し、クラック等が一層発生しやすいという問題が生じていた。
【0005】
このようなCZ法により育成する大口径のシリコン単結晶インゴットの割れ発生を有効に抑制するために、有転位化が生じた位置からの多結晶部分の長さを所定長さ以下として、シリコン原料融液から切り離す方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−239291号公報
【特許文献2】特開2006−213582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、大口径のシリコン単結晶インゴットの引上げ中に結晶が有転位化し、当該有転位化した状態で引上げを継続した場合には、大口径のシリコン単結晶インゴットは重量が大きく、かつ、有転位化した部分に残留応力が集中するため、引上げ中にクラック等が発生する場合がある。また、引上げ中に結晶が割れた場合には、割れた結晶がシリコン原料融液に落下し、石英ルツボからシリコン原料融液が漏出する大事故が発生する場合もある。
【0008】
また、引上げ中にクラック等の発生を防止することができたとしても、引上げたシリコン単結晶インゴットに有転位化した部分が存在する場合には、この有転位化した部分に残留応力が集中しているため、シリコン単結晶引上装置からの回収作業時や、シリコン単結晶インゴットの運搬時、外周研削時あるいはブロック切断時等に、シリコン単結晶インゴットにクラック等が発生する場合があった。また、有転位化した部分は、半導体デバイス用として使用できないという問題もあった。
このため、引上げ中、シリコン単結晶インゴットが有転位化した場合は、少なくとも有転位化した部分を再溶解(メルトバック)させて、無転位のシリコン単結晶(直胴部)が得られるまで繰り返し再引上げを行う必要があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法のように、シリコン単結晶インゴットの引上げを途中で中止すると、石英ルツボ内にはシリコン原料融液が多く残存することとなる。例えば、多く残存したシリコン原料融液を、石英ルツボ内に保持された状態で冷却固化させると、石英ルツボ内壁面から溶出した不純物や炉内雰囲気に起因する不純物を多く取り込んでしまうため、シリコンが高純度であることが要求される半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として再利用することが難しい。また、シリコン原料融液は、冷却固化時に膨張するため、その残存量が多いと、膨張に伴う応力によって固化途中で石英ルツボが割れ、未固化のシリコン原料融液が漏出する大事故が発生する場合もある。
【0010】
さらに、石英ルツボは、シリコンの融点以上の高温下で使用されているため、例えば、複数回のメルトバックにより引上げ時間(石英ルツボの使用時間)が長時間になると、石英ルツボが劣化して破損し、同様に、シリコン原料融液が漏出する大事故が発生する場合もある。
したがって、このような事態を回避するため、石英ルツボは、使用時間が制限され、予め所定の耐用時間が設定されている。
【0011】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットの引上げ中に、シリコン原料融液を保持する石英ルツボの使用時間が予め設定された耐用時間を経過し、かつ、その時点で引上げ中のシリコン単結晶が有転位化している場合であっても、当該シリコン単結晶インゴットにおけるクラックや割れの発生を抑制することができ、石英ルツボ内に残存したシリコン原料融液を半導体デバイス用に、安全かつ効率的に再利用することができるシリコン原料の再利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るシリコン原料の再利用方法は、CZ法により、ネック部、クラウン部及び直胴部を育成し、直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するための第1のシリコン単結晶インゴットを引上げる第1の引上げ中に、シリコン原料融液を保持する石英ルツボの使用時間が予め設定された耐用時間を経過し、かつ、その時点で前記第1の引上げ中のシリコン単結晶が有転位化している場合、前記第1の引上げを、直胴部の最大結晶径が210mm以上260mm以下の第2のシリコン単結晶インゴットを引上げる第2の引上げに変更して、前記石英ルツボに残存しているシリコン原料融液を第2のシリコン単結晶インゴットとして回収し、前記第2のシリコン単結晶インゴットを、直径8インチ以下の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットとして、又は、半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として再利用することを特徴とする。
【0013】
前記第1の引上げから前記第2の引上げへの変更は、下記(1)〜(3)のいずれかの工程を選択して行うことが好ましい。
(1)前記第1の引上げがシリコン単結晶のネック部育成時、又は、最大結晶径が260mm以下のクラウン部育成時である場合は、前記最大結晶径を縮径させることなく、前記第2の引上げに変更する。
(2)前記第1の引上げがシリコン単結晶の最大結晶径が260mmを超えるクラウン部育成時、又は、直胴部育成時であって直胴部の長さが300mm未満である場合は、前記シリコン単結晶をネック部まで溶解させた後、前記ネック部から前記第2の引上げを行う。
(3)前記第1の引上げがシリコン単結晶の直胴部育成時であって直胴部の長さが300mm以上である場合は、前記第1の引上げ中のシリコン単結晶をシリコン原料融液から切り離して冷却し、回収した後、新たに前記第2の引上げを行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るシリコン原料の再利用方法によれば、直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するシリコン単結晶インゴットの引上げ中に、シリコン原料融液を保持する石英ルツボの使用時間が予め設定された耐用時間を経過し、かつ、その時点で引上げ中のシリコン単結晶が有転位化している場合であっても、当該シリコン単結晶インゴットにおけるクラックや割れの発生を抑制することができ、石英ルツボ内に残存したシリコン原料融液を半導体デバイス用に、安全かつ効率的に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る方法によりシリコン単結晶インゴットを引上げる各段階を示した概念図である。
【図2】第1の引上げから第2の引上げに変更する際の具体的な工程を説明するための概念図である。
【図3】本発明に係る方法を実施するためのシリコン単結晶インゴットの製造装置の一例を模式的に示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るシリコン原料の再利用方法について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1に、本発明に係る方法によりシリコン単結晶インゴットを引上げる各段階を示す。本発明に係るシリコン原料の再利用方法においては、まず、図1(a)に示すように、CZ法により、シードチャック32に保持された種結晶(図示せず)からネック部NK、クラウン部IgC及び直胴部IgBを育成し、直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するための第1のシリコン単結晶インゴットIg1(直胴部IgBの最大結晶径CH1(直径12インチの半導体デバイス用シリコンウェーハを製造する場合は、例えば、305mm以上320mm以下))を引上げる。
この第1の引上げ中に、シリコン原料融液16を保持する石英ルツボ14aの使用時間が予め設定された耐用時間を経過し(例えば、引上げ中のシリコン単結晶Ig1に転位60が発生したため(図1(a))、メルトバックを行って有転位化した部分を含むネック部までをシリコン原料融液16に溶解させ(図1(b))、その後、再引上げを行ったが同様に転位60が発生したため(図1(c))、再度、メルトバックを行う(図1(b))というように、メルトバックと再引上げを繰り返し行う場合等)、かつ、その時点で前記第1のシリコン単結晶Ig1が有転位化している場合(例えば、図1(c)に示すような状態である場合)には、前記第1の引上げを、直胴部IgBの最大結晶径CH2が210mm以上260mm以下の第2のシリコン単結晶インゴットIg2を引上げる第2の引上げに変更する(図1(d))。
そして、前記石英ルツボ14aに残存しているシリコン原料融液16を第2のシリコン単結晶インゴットIg2として回収し、この第2のシリコン単結晶インゴットIg2を直径8インチ以下の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットとして、又は、半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として、状況に応じて選択して再利用する。
【0017】
上記のような方法によれば、直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するための第1のシリコン単結晶インゴットの引上げ中に、シリコン原料融液を保持する石英ルツボの使用時間が予め設定された耐用時間を経過し、かつ、その時点で前記第1の引上げ中のシリコン単結晶インゴットが有転位化している場合であっても、当該第1のシリコン単結晶インゴットにおけるクラックや割れの発生を抑制することができ、石英ルツボ内に残存したシリコン原料融液を半導体デバイス用に、安全かつ効率的に再利用することができる。
【0018】
すなわち、メルトバック等を繰り返し、石英ルツボの使用時間が予め設定された耐用時間を経過してしまった時点で、前記第1の引上げ中のシリコン単結晶が有転位化している場合には、前記第1の引上げから前記第2の引上げに変更することで、前記第1のシリコン単結晶インゴットのクラック等の発生を抑制することができる。
また、前記第2のシリコン単結晶インゴットは、前記第1のシリコン単結晶より小径であるため、前記第2の引上げ中に単結晶が有転位化し、この有転位化した状態で引上げを継続したとしても、内部の熱応力が低いため、クラック等の発生を抑制して引上げることができる。
また、前記第2のシリコン単結晶インゴットは、石英ルツボ内に保持された状態で冷却固化した結晶ではなく、シリコン単結晶インゴットとして引上げて回収したものであるため、高純度のシリコンである。したがって、前記第2のシリコン単結晶インゴットを半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として再利用することができる。
【0019】
さらに、第2のシリコン単結晶インゴットは、第1のシリコン単結晶インゴットを引上げる大型の装置構成で引上げることになるため、第1のシリコン単結晶インゴットより結晶径方向の温度勾配が小さい環境下で引上げることができる。したがって、前記第1のシリコン単結晶インゴットよりも有転位化を抑制することができる。
そのため、前記第2のシリコン単結晶インゴットを、直径8インチ以下の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットとして再利用することも可能である。また、前記第2のシリコン単結晶インゴットが有転位化している場合には、半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として再利用すればよい。
すなわち、前記第2のシリコン単結晶インゴットの有転位化の有無によって、直径8インチ以下の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットとして再利用するか、半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として再利用するかを選択すればよい。
【0020】
前記第2のシリコン単結晶インゴットは、直胴部の最大結晶径CH2が210mm以上260mm以下であることが好ましい。
これにより、第2のシリコン単結晶インゴットにクラック等が発生することなく、石英ルツボに残存しているシリコン原料融液を効率よく第2のシリコン単結晶インゴットして回収することができる。
【0021】
前記最大結晶径CH2が260mmを超える場合には、結晶径方向の温度勾配が大きくなるため、結晶が有転位化した場合に、クラック等が生じない程度にまで内部の熱応力を低下させることが難しい。
一方、前記最大結晶径CH2が210mm未満である場合には、残存するシリコン原料融液が多いと、引上げ作業(種結晶準備、ネック部−クラウン部−直胴部育成、融液切り離し、冷却及び回収)を何回も行う必要があり、生産性が低下するため好ましくない。さらに、予め設定された石英ルツボの耐用時間が経過した後に行うため、引上げ作業を何回も行うのは適切ではない。
【0022】
なお、石英ルツボの耐用時間が経過した時点で、第1のシリコン単結晶が有転位化している場合、石英ルツボ内に残存しているシリコン原料融液を回収するために、第1のシリコン単結晶インゴットの引上げを継続することは、有転位化した部分が存在するため引上げ中にクラック等が発生する可能性が高く、また、引上げ中にクラック等の発生が防止できたとしても、シリコン単結晶引上装置からの回収作業時等にクラック等が発生する可能性が高いため好ましくない。
【0023】
前記石英ルツボの耐用時間は、複数回の基礎試験やシミュレーションにより決定又は算出された石英ルツボ最大使用可能時間の平均時間BaveT(石英ルツボが破損する平均時間)に、前記第2の引上げに変更するまでの準備時間αT、前記第2のシリコン単結晶インゴットを引上げる時間Ig2T及び前記基礎試験やシミュレーションにより決定又は算出された石英ルツボ最大使用可能時間の最大バラツキ時間σTを減算(BaveT−αT−Ig2T−σT)した値とすることが好ましい。
このように定めることにより、高い確率で石英ルツボの破損によるシリコン原料融液の漏出を防止することができる。
【0024】
前記第2のシリコン単結晶インゴットは、直径8インチの半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットとして再利用することが好ましい。
前記第2のシリコン単結晶インゴットを直径8インチ未満(例えば、5インチや6インチ)の半導体デバイス用シリコンウェーハに再利用する場合には、外周研削等の加工により除去される結晶部分が多くなり、また、このように除去された結晶部分は、加工時に結晶内に金属不純物等が多く拡散する場合があるため、シリコン原料を効率的に再利用できるとは言えない。
【0025】
前記第1の引上げから前記第2の引上げへの変更は、下記(1)〜(3)のいずれかの工程を選択して行うことが好ましい。
(1)前記第1の引上げがシリコン単結晶のネック部育成時、又は、最大結晶径が260mm以下のクラウン部育成時である場合は、前記最大結晶径を縮径させることなく、前記第2の引上げに変更する。
(2)前記第1の引上げがシリコン単結晶の最大結晶径が260mmを超えるクラウン部育成時、又は、直胴部育成時であって直胴部の長さが300mm未満である場合は、前記シリコン単結晶をネック部まで溶解させた後、前記ネック部から前記第2の引上げを行う。
(3)前記第1の引上げがシリコン単結晶の直胴部育成時であって直胴部の長さが300mm以上である場合は、前記第1の引上げ中のシリコン単結晶をシリコン原料融液から切り離して冷却し、回収した後、新たに前記第2の引上げを行う。
【0026】
前記第1の引上げから第2の引上げに変更する際の上記(1)〜(3)の工程を、図2に基づいて具体的に説明する。
前記(1)の場合、すなわち、図2に示す範囲Aの育成中に石英ルツボの耐用時間が経過し、かつ、結晶が有転位化している場合は、前記シリコン単結晶の結晶径を縮径させることなく、前記第2の引上げに変更する。これにより、有転位化位置における残留応力が抑制され、そのまま引上げを継続しても、結晶にクラック等が発生するのを抑制することができる。
一方、前記シリコン単結晶の結晶径を縮径させてから前記第2のシリコン単結晶インゴットを引上げると、その縮径させた部分に応力が集中するため、その部分からクラック等が発生しやすくなるため好ましくない。
【0027】
前記(2)の場合、すなわち、図2に示す範囲Bの育成中に石英ルツボの耐用時間が経過し、結晶が有転位化している場合は、前記シリコン単結晶をネック部NKまで溶解させた後、前記ネック部NKから第2のシリコン単結晶インゴットを引上げる。これにより、第2のシリコン単結晶インゴットのクラック等の発生を抑制することができる。
一方、前記ネック部NKまで溶解させずに、前記第2の引上げを開始すると、第2のシリコン単結晶インゴットの引上げ開始位置における転位密度が高くなり、引上げる第2のシリコン単結晶インゴットが多結晶化しやすくなるとともに、当該開始位置における残留応力が大きくなり、その位置からクラック等が発生する場合があるため好ましくない。
【0028】
また、前記(2)の範囲Bを直胴部の長さ300mm未満までとし、前記(3)の範囲Cを直胴部の長さ300mm以上としたのは、第1のシリコン単結晶インゴットが有転位化した場合は、有転位化した位置からネック部NK方向に250mm程度まで転位が伸長しやすく、また、それに伴って第1のシリコン単結晶インゴットの切断時にクラック等が生じやすいためである。このため、直胴部の長さ300mm未満の部分(範囲B)を育成中の場合は、半導体デバイス用シリコンウェーハを採取することが困難となるため、前記第1のシリコン単結晶インゴットの引上げを継続せず、一度ネック部NKまで溶解させた後、再度ネック部NKから第2のシリコン単結晶インゴットの引上げを行うことが好ましい。
【0029】
前記(3)の場合、すなわち、図2に示す範囲Cの育成中に石英ルツボの耐用時間が経過し、結晶が有転位化している場合は、引上げ中の第1のシリコン単結晶インゴットをシリコン原料融液から切り離して冷却し回収した後、新たに、種結晶を準備し、第2のシリコン単結晶インゴットを引上げる。これにより、第1のシリコン単結晶インゴットのクラック等の発生を防止することができ、かつ、第1のシリコン単結晶インゴットから良品の直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを採取することができる。
【0030】
図3に、上述した本発明に係るシリコン原料の再利用方法を実施するためのシリコン単結晶インゴットの製造装置の一例を示す。図3に示す製造装置におけるシリコン単結晶引上装置10は、炉体12と、炉体12内に配置され、シリコン原料(主にポリシリコン)を保持するルツボ14と、ルツボ14の外周囲に設けられ、ルツボ14を加熱し、ルツボ14内に保持されたシリコン原料を溶融してシリコン原料融液16とするヒータ18と、シリコン原料融液16の上方に配置され、CZ法によりシリコン原料融液16から引上げたシリコン単結晶インゴットIgへの輻射熱を遮断する円筒形状の熱遮蔽体20とを備えている。
【0031】
ルツボ14は、シリコン原料融液16を保持する石英ルツボ14aと、石英ルツボ14aを収容するカーボンルツボ14bとを備えている。
ヒータ18の外周囲には第1保温部材22が設けられ、第1保温部材22の上部には、ヒータ18と一定の間隔を有して第2保温部材24が設けられている。
熱遮蔽体20の上方には、熱遮蔽体20の内周側、熱遮蔽体20とシリコン原料融液16との間を通って、ルツボ14の下方に位置する排出口26から炉体12外に排出されるキャリアガスG1(例えば、アルゴンガス)を供給するキャリアガス供給口28が設けられている。
また、炉体12内には、シリコン単結晶インゴットIgを育成するために用いられる種結晶(図示せず)を保持するシードチャック32が取り付けられた引上げ用ワイヤ34が、ルツボ14の上方に設けられている。引上げ用ワイヤ34は、炉体12外に設けられた回転昇降自在なワイヤ回転昇降機構36に取り付けられている。
【0032】
ルツボ14は、炉体12の底部を貫通し、炉体12外に設けられたルツボ回転昇降機構38によって回転昇降可能なルツボ回転軸40に取付けられている。
熱遮蔽体20は、第2保温部材24の上面に取付けられた熱遮蔽体支持部材42によりルツボ14の上方に保持されている。
キャリアガス供給口28には、例えば、バタフライ弁43を介して、炉体12内にキャリアガスG1を供給するキャリアガス供給部44が接続されている。排出口26には、例えば、バタフライ弁46を介して、熱遮蔽体20の内周側、熱遮蔽体20とシリコン原料融液16との間を通ったキャリアガスG1を排出するキャリアガス排出部48が接続されている。例えば、バタフライ43を調整することで炉体12内に供給するキャリアガスG1の供給量を、バタフライ弁46を調整することで炉体12内から排出する排出ガス(シリコン原料融液16から発生したSiOxガス等も含む)の排出量をそれぞれ制御する。
【0033】
また、熱遮蔽体20の内側には、1100℃付近のボイド欠陥成長温度帯の冷却速度を高めることを目的とする冷却体50が設けられている。冷却体50は保持手段(図示せず)により炉体12内に保持され、また、冷却手段(図示せず)により適時冷却媒体が供給・循環されている。
さらに、炉体12の炉体上部12aには、開閉手段(図示せず)が設けられており、シリコン原料融液16から引上げたシリコン単結晶インゴットIgを、炉体上部12a内で一定時間保持して冷却させた後、前記開閉手段により開閉させて炉体12内から回収する。
【0034】
本発明に係るシリコン原料の再利用方法は、図3に示すような熱遮蔽体20の内側に強制冷却用の冷却体50を備えるシリコン単結晶引上装置を用いて引上げを行う場合であっても、引上げるシリコン単結晶インゴットにおけるクラックや割れの発生を抑制することができ、石英ルツボ内に残存したシリコン原料融液を半導体デバイス用に、安全かつ効率的に再利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[試験1]
12インチの半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットを引上げる装置構成(石英ルツボの内径800mm、深さ450mm等)とした図3に示すシリコン単結晶引上装置10を用いて、引上げ速度を0.8〜1.0mm/minとし、直胴部の最大結晶径を210mm、260mm、280mm、310mm(実施例1、2及び比較例1、2)と変化させて、直胴部の長さが600mmであるシリコン単結晶インゴットを各々10本引上げた。この際、各引上げとも、引上げ途中に故意に結晶を有転位化させて、その後、メルトバック及び再引上げを行わずに有転位化させた状態で引上げを継続した。
得られたシリコン単結晶インゴットに対し、クラックや割れ(破断を含む)を目視にて検査し、10本中のクラック等の発生率(%)を評価した。
その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示した結果から分かるように、引上げるシリコン単結晶インゴットの直胴部の最大結晶径が260mm以下(実施例1、2)の場合は、260mmを超える場合(比較例1、2)よりもクラック等の発生率が大きく低下することが認められた。
【0038】
[試験2]
12インチの半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットを引上げる装置構成(石英ルツボの内径800mm、深さ450mm等)とした図3に示すシリコン単結晶引上装置10を用いて、引上げ速度を1.0〜1.2mm/minとし、直胴部の最大結晶径が310mmの第1のシリコン単結晶インゴットを引上げ中、直胴部の最大結晶径が260mmの第2のシリコン単結晶インゴットを引上げる第2の引上げに変更して、引上げ速度を0.8〜1.0mm/minとして、直胴部の長さが800mmの第2のシリコン単結晶インゴットを引上げた。
この際、第2の引上げに変更するタイミング及びその時の対応手段(工程)を下記の実施例及び比較例に示す条件に変化させて、各々第2のシリコン単結晶インゴットを引上げた。
【0039】
(実施例3)
第1のシリコン単結晶のネック部NK引上げ中(図2の範囲Aの場合)に、第2の引上げに変更。
(実施例4)
第1のシリコン単結晶のクラウン部IgC引上げ中であって最大結晶径が260mmの時点(図2の範囲Aの場合)に、結晶径を縮径させることなく、第2の引上げに変更。
(比較例3)
第1のシリコン単結晶のクラウン部IgC引上げ中であって最大結晶径が260mmの時点(図2の範囲Aの場合)に、結晶径を10mm縮径させた後、第2の引上げに変更。
(実施例5)
第1のシリコン単結晶のクラウン部IgC引上げ中であって最大結晶径が300mmの時点(図2の範囲Bの場合)で、一度、ネック部NKまで溶解させた後、第2の引上げに変更。
(比較例4)
第1のシリコン単結晶のクラウン部IgC引上げ中であって最大結晶径が300mmの時点(図2の範囲Bの場合)に、一度、最大結晶径が260mmのクラウン部IgCまで溶解させた後、第2の引上げに変更。
(比較例5)
第1のシリコン単結晶のクラウン部IgC引上げ中であって最大結晶径が300mmの時点(図2の範囲Bの場合)に、一度、最大結晶径が200mmのクラウン部IgCまで溶解させた後、第2の引上げに変更。
(実施例6)
第1のシリコン単結晶の直胴部IgB引上げ中であって直胴部の長さが250mmの時点(図2の範囲Bの場合)に、一度、ネック部NKまで溶解させた後、第2の引上げに変更。
(比較例6)
第1のシリコン単結晶の直胴部IgB引上げ中であって直胴部の長さが250mmの時点(図2の範囲Bの場合)に、一度、最大結晶径が260mmであるクラウン部IgCまで溶解させた後、第2の引上げに変更。
(比較例7)
第1のシリコン単結晶の直胴部IgB引上げ中であって直胴部の長さが250mmの時点(図2の範囲Bの場合)に、一度、最大結晶径が200mmであるクラウン部IgCまで溶解させた後、第2の引上げに変更。
(実施例7)
第1のシリコン単結晶の直胴部IgB引上げ中であって直胴部の長さが300mmの時点(図2の範囲Cの場合)に、故意に転位を発生させた後、テール部を長さ50mm形成し、第1のシリコン単結晶インゴットをシリコン原料融液から切り離して冷却し、回収した後、第2の引上げに変更。
(比較例8)
第1のシリコン単結晶の直胴部IgB引上げ中であって直胴部の長さが250mmの時点(図2の範囲Bの場合)に、故意に転位を発生させた後、テール部を長さ50mm形成し、第1のシリコン単結晶インゴットをシリコン原料融液から切り離して冷却し、回収した後、第2の引上げに変更。
(比較例9)
第1のシリコン単結晶の直胴部IgB引上げ中であって直胴部の長さが300mmの時点(図2の範囲Cの場合)に、故意に転位を発生させた後、さらに、直胴部を長さ50mm(合計350mm)引上げてテール部を長さ50mm形成し、第1のシリコン単結晶インゴットをシリコン原料融液から切り離して冷却し、回収した後、第2の引上げに変更。
【0040】
得られたシリコン単結晶インゴットに対し、クラックや割れ(破断を含む)を目視にて検査し、クラック等の発生の有無を評価した。この結果を表2に示す。
また、実施例7及び比較例8、9において、引上げた第1のシリコン単結晶インゴットの良品率(直胴部の全体の長さに対して、良品の半導体デバイス用シリコンウェーハが得られる(転位が発生していない)直胴部の長さの比率)を、X線トポグラフィにより評価した。この結果を表3に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
表2に示した結果から分かるように、耐用時間が経過した際、シリコン単結晶の育成位置が図2の範囲Aの場合は実施例3、4に示す対応手段(工程)、前記位置が図2の範囲Bの場合は実施例5、6、比較例6に示す対応手段(工程)、前記位置が図2の範囲Cの場合は実施例7に示す対応手段(工程)を採ることにより、クラック等が発生しないことが認められた。
また、表3に示した結果から分かるように、比較例6に示す対応手段(工程)では、第1のシリコン単結晶インゴットを良品として得られなかった。これに対して、実施例7においては、たとえ、その時点で有転位化している場合であっても、第1のシリコン単結晶インゴットを良品として得られることが認められた。
なお、有転位化している場合に、さらに引上げを継続すると(比較例9)、クラックのみならず、割れも発生し、第1のシリコン単結晶インゴットの良品率も低下した。これは、有転位化している部分が大きくなったため、残留応力が大きくなり、クラック及び割れ発生時に有転位化した位置からネック部方向に向かってクラック及び割れが伸長してしまうためである。
【符号の説明】
【0044】
Ig1 第1のシリコン単結晶(インゴット)
Ig2 第2のシリコン単結晶(インゴット)
14a 石英ルツボ
16 シリコン原料融液
60 転位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により、ネック部、クラウン部及び直胴部を育成し、直径12インチ以上の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するための第1のシリコン単結晶インゴットを引上げる第1の引上げ中に、シリコン原料融液を保持する石英ルツボの使用時間が予め設定された耐用時間を経過し、かつ、その時点で前記第1の引上げ中のシリコン単結晶が有転位化している場合、
前記第1の引上げを、直胴部の最大結晶径が210mm以上260mm以下の第2のシリコン単結晶インゴットを引上げる第2の引上げに変更して、前記石英ルツボに残存しているシリコン原料融液を第2のシリコン単結晶インゴットとして回収し、
前記第2のシリコン単結晶インゴットを、直径8インチ以下の半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン単結晶インゴットとして、又は、半導体デバイス用シリコンウェーハを製造するためのシリコン原料として再利用することを特徴とするシリコン原料の再利用方法。
【請求項2】
前記第1の引上げから前記第2の引上げへの変更は、下記(1)〜(3)のいずれかの工程を選択して行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン原料の再利用方法。
(1)前記第1の引上げがシリコン単結晶のネック部育成時、又は、最大結晶径が260mm以下のクラウン部育成時である場合は、前記最大結晶径を縮径させることなく、前記第2の引上げに変更する。
(2)前記第1の引上げがシリコン単結晶の最大結晶径が260mmを超えるクラウン部育成時、又は、直胴部育成時であって直胴部の長さが300mm未満である場合は、前記シリコン単結晶をネック部まで溶解させた後、前記ネック部から前記第2の引上げを行う。
(3)前記第1の引上げがシリコン単結晶の直胴部育成時であって直胴部の長さが300mm以上である場合は、前記第1の引上げ中のシリコン単結晶をシリコン原料融液から切り離して冷却し、回収した後、新たに前記第2の引上げを行う。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126601(P2012−126601A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279282(P2010−279282)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】