説明

シリコン製ノズル基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法

【課題】吐出液が保護膜を浸食して下地のシリコンが溶出することがない、シリコン製ノズル基板等を提供する。
【解決手段】シリコン製ノズル基板1は、ノズル孔11を有し、ノズル孔11の液滴吐出側の面1aからノズル孔11の内壁11cを経て液滴吐出側の面と反対側の面1bまで耐吐出液保護膜Aが連続して形成され、耐吐出液保護膜Aは陽極酸化により形成された酸化膜12である。シリコン製ノズル基板1の製造方法は、シリコン基材100に凹部110を形成する工程と、凹部110よりも大きい径の貫通孔50aを有する支持基板50を凹部110と貫通孔50aとが同軸上になるようにして貼り合わせる工程と、凹部を形成した側の面と反対側の面100cを薄板化して凹部110を開口させる工程と、シリコン基材100を陽極酸化して連続した酸化膜12を形成する工程と、支持基板50を剥離する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン製ノズル基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置において、吐出液が腐食性の液体である場合、保護膜を形成してシリコン基板を保護し、下地となるシリコンの溶出を防止する必要がある。シリコン基材に保護膜を形成するにあたっては、シリコン基材にノズル凹部を設けて熱酸化膜を形成し、支持基板を貼り付けてノズル凹部を開口し、開口した側の面に低温酸化膜を形成していた。低温酸化プロセスによって酸化膜を形成するのは、熱酸化プロセスによって形成すると、支持基板が熱により剥離してしまうからである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−98888号公報(第9頁−10頁、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術では、熱酸化膜と低温酸化膜とからなる保護膜の界面で結晶が不連続になり、この部分から吐出液が浸食し、下地のシリコンを溶出させて液滴吐出装置にダメッジを与えるおそれがあった。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、吐出液が保護膜を浸食して下地のシリコンを溶出させることがないシリコン製ノズル基板、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及び液滴吐出装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシリコン製ノズル基板は、液滴を吐出するためのノズル孔を有し、ノズル孔の液滴吐出側の面からノズル孔の内壁を経て液滴吐出側の面と反対側の面まで耐吐出液保護膜が連続して形成され、耐吐出液保護膜は陽極酸化により形成された酸化膜である。
液滴吐出側の面からノズル孔内壁を経て液滴吐出側の面と反対側の面まで耐吐出液保護膜が連続して形成されているので、吐出液が耐吐出液保護膜を浸食してシリコンにダメージを与えることがなく、耐久性に優れる。
【0007】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のシリコン製ノズル基板を備えたものである。
高寿命で信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0008】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。
高寿命で信頼性の高い液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置を得ることができる。
【0009】
本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、シリコン基材に凹部を形成する工程と、凹部を形成した側の面に凹部よりも大きい径の貫通孔を有する支持基板を凹部と貫通孔とが同軸上になるようにして貼り合わせる工程と、凹部を形成した側の面と反対側の面を薄板化して凹部を開口させる工程と、シリコン基材を陽極酸化してその表面に連続した酸化膜を形成する工程と、支持基板を剥離する工程とを有するものである。
一度の処理で連続した酸化膜を形成するようにしたので、形成された酸化膜は均一であり、吐出液が酸化膜を浸食して下地シリコンを溶出させることもない。また、連続した酸化膜を形成する際、低温酸化プロセスのみであり熱酸化プロセスを用いないので、製造時に工程数を削減することができる。さらに、陽極酸化する際、シリコン基材と支持基板とを貼り合わせた状態で行うので、シリコン基材の割れを防止することができ、歩留まりを向上させることができる。
【0010】
本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、シリコン基材の表面に無機材料を成膜して陽極酸化するものである。
無機材料を用いた酸化膜によって、シリコンを吐出液から保護することができる。
【0011】
本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、無機材料がタンタル及びチタンのいずれか一方、または両者である。
タンタルやチタンの無機材料を用いた酸化膜によって、シリコンを吐出液から保護することができる。
【0012】
本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、シリコン基材の支持基板を取り付けた側の面に電極パターンを設けて電解液に浸漬し、陽極酸化するものである。
シリコン基材と支持基板との間に電極を挿入して陽極酸化することができ、シリコン基材の全面に電位が行き届く。
【0013】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のシリコン製ノズル基板の製造方法を適用して、液滴吐出ヘッドのノズル基板部分を形成するものである。
高寿命で信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0014】
本発明に係る液滴吐出装置の製造方法は、上記の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造するものである。
高寿命で信頼性の高い液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は本実施の形態1に係るインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)の一部を断面で示した分解斜視図、図2は図1を組立てた状態の要部を示す縦断面図、図3は図2のノズル孔の近傍を拡大して示した縦断面図である。
インクジェットヘッド10は、図1および図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対してそれぞれ独立してインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0016】
ノズル基板1は、シリコン単結晶基材(以下、単にシリコン基材ともいう)から作製されている。ノズル基板1には液滴(インク滴)を吐出するためのノズル孔11が開口されており、各ノズル孔11は、図3に示すように、例えば、径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち、液滴吐出面1a側に位置して先端が液滴吐出面1aに開口する径の小さい吐出部(以下、第1のノズル孔部という)11aと、キャビティ基板2と接合する接合面1b側に位置して後端が接合面1bに開口する径の大きい導入部(以下、第2のノズル孔部という)11bとから構成され、基板面に対して垂直にかつ同軸上に形成されている。
【0017】
シリコン基板1には、ノズル孔11の液滴吐出面1aからノズル孔11の内壁11cを経て、液滴吐出面1aと反対側の面である接合面1b(本実施の形態ではノズル孔11周辺の接合面1b)まで、陽極酸化によって形成された酸化膜12が連続して形成されている。酸化膜12は、シリコン基材の表面を陽極酸化して形成されたシリコン酸化膜(SiO2 膜)であってもよく、あるいは、シリコン基材の表面に成膜した無機材料を陽極酸化して形成された無機材料の酸化膜であってもよい。無機材料の酸化膜である場合は、例えば、タンタル(Ta)の酸化膜、チタン(Ti)の酸化膜、あるいはタンタル(Ta)とチタン(Ti)とからなる酸化膜が好ましい。これらの酸化膜12は、耐吐出液保護膜Aを形成する。
【0018】
耐吐出液保護膜Aの液滴吐出面1aには、撥水膜(撥インク膜)13が形成されている。一方、ノズル孔11の吐出口縁部11dを境にして、ノズル孔11の内壁11cから接合面1bには、親水膜(親インク膜)14が形成されている。
【0019】
キャビティ基板2は、シリコン単結晶基材(この基材も以下、単にシリコン基材ともいう)から作製されている。そして、シリコン基材に異方性ウェットエッチングを施し、インク流路の吐出室24、リザーバ25をそれぞれ構成するための凹部240、250、及びオリフィス23を構成するための凹部230が形成される。
凹部240はノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、ノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部240は吐出室24を構成し、それぞれがノズル孔11に連通し、またインク供給口であるオリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、吐出室24(凹部240)の底壁が振動板22となっている。
【0020】
他方の凹部250は、液状のインクを貯留するためのものであり、各吐出室24に共通のリザーバ(共通インク室)25を構成する。そして、リザーバ25(凹部250)はそれぞれオリフィス23を介して全ての吐出室24に連通している。また、リザーバ25の底部には後述する電極基板3を貫通する孔が設けられており、この孔で形成されたインク供給孔34を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
また、キャビティ基板2の全面、もしくは少なくとも電極基板3との対向面には、シリコン酸化膜等からなる絶縁膜26が形成されており、この絶縁膜26は、インクジェットヘッドを駆動させたときに、絶縁破壊や短絡を防止する。
【0021】
電極基板3は、ガラス基材から作製されている。このガラス基材は、キャビティ基板2のシリコン基材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが好ましい。これは、電極基板3とキャビティ基板2とを陽極接合する際、両基板3、2の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2とを強固に接合することができるからである。
【0022】
電極基板3のキャビティ基板2と対向する面には、キャビティ基板2の各振動板22に対向する位置にそれぞれ凹部32が設けられている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31が形成されており、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)Gは、インクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響する。なお、個別電極31の材料にはクロム等の金属等を用いてもよいが、ITOは透明であるので放電したかどうかの確認が行いやすいため、一般にITOが用いられている。
【0023】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキャビティ基板2の末端部が開口された電極取り出し部29内に露出している。
【0024】
上述したノズル基板1、キャビティ基板2、及び電極基板3は、一般に個別に作製され、これらを図2に示すように貼り合わせることにより、インクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、キャビティ基板2と電極基板3は例えば陽極接合により接合され、そのキャビティ基板2の上面(図2の上面)にはノズル基板1が接着剤等により接合される。さらに、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップGの開放端部は、エポキシ等の樹脂による封止材27で封止されている。これにより、湿気や塵埃等がギャップG内へ侵入するのを防止することができる。
【0025】
そして、図2に示すように、ICドライバ等の駆動制御回路4が、各個別電極31の端子部31bと、キャビティ基板2上に設けられた共通電極28とに、フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続されている。
【0026】
上記のように構成されたインクジェットヘッド10において、駆動制御回路4によりキャビティ基板2と個別電極31との間にパルス電圧が印加されると、振動板22と個別電極31との間に静電気力が発生し、その吸引作用により振動板22が個別電極31側に引き寄せられて撓み、吐出室24の容積が拡大する。これにより、リザーバ25の内部に溜まっていたインクがオリフィス23を通じて吐出室24に流れ込む。次に、個別電極31への電圧の印加を停止すると、静電吸引力が消滅して振動板22が復元し、吐出室24の容積が急激に収縮する。これにより、吐出室24内の圧力が急激に上昇し、この吐出室24に連通しているノズル孔11からインク液滴が吐出される。
【0027】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法について、図4〜図10を用いて説明する。図4は本発明の実施の形態1に係るノズル基板1を示す上面図、図5〜図8はノズル基板1の製造工程を示す断面図(図4をイ−イで切断した断面図)である。図9、図10はキャビティ基板2と電極基板3との接合工程を示す断面図であり、ここでは、主に、電極基板3にシリコン基材200を接合した後に、キャビティ基板2を製造する方法を示す。
まず、最初に、図5〜図8により、ノズル基板1の製造方法を説明する。なお、以下に記載の数値はその一例を示すもので、これに限定するものではない。
【0028】
(a) 図5(a)に示すように、シリコン基材100(ノズル基板1)を用意して熱酸化装置にセットする。
【0029】
(b) シリコン基材100を、所定の酸化温度、酸化時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理し、図5(b)に示すように、シリコン基材100の両面100b、100cに、エッチング保護膜となるシリコン酸化膜(SiO2 膜)101を均一に形成する。
【0030】
(c) 図5(c)に示すように、キャビティ基板2と接合する側の接合面100bに形成したシリコン酸化膜101に、第2のノズル凹部110b(図6(f)参照)に対応する第2の凹部101bと、これと同心的に第1のノズル凹部110a(図6(f)参照)に対応する第1の凹部101aとを、パターニング形成する。この場合、まず、第2の凹部101bをBHF(Buffered HF )によりハーフエッチングして形成し、次に、第1の凹部101aをその残し厚さが零になるようにBHFによりエッチングして形成する。
【0031】
(d) 図6(d)に示すように、Deep−RIE(Deep Reactive Ion Etching)によって垂直に異方性ドライエッチングし、第1のノズル凹部110aを形成する。
【0032】
(e) 図6(e)に示すように、シリコン酸化膜101をBHFによりエッチングして、第2の凹部101bの残し厚さが零になるようにする。
【0033】
(f) 図6(f)に示すように、Deep−RIEによって垂直に異方性ドライエッチングし、第2のノズル凹部110bを形成する。このとき、同時に第1のノズル凹部110aも同じ深さだけ垂直に異方性ドライエッチングされる。こうして、ノズル凹部110が形成される。
【0034】
(g) 図6(g)に示すように、シリコン基材100の表面に残るシリコン酸化膜101(図6(f)参照)を除去する。
【0035】
(h) 図7(h)に示すように、ガラス等の支持基板50に両面接着シート51を貼り付けて、シリコン基材100(シリコンウエファ)の接合面100bと向かい合わせ、これらを真空中で貼り合わせる。ノズル凹部110とその周辺部の支持基板50(両面接着シート51も含む)には支持基板の貫通孔50a(両面接着シートの貫通孔51aも含む)が形成されており、これらの貫通孔50a、51aは同径であるが、ノズル凹部110の第2のノズル孔部110bの径よりも大きく形成され、これらの貫通孔50a、51aから接合面100bの一部が露出している。
【0036】
(i) 図7(i)に示すように、シリコン基材100の薄板化される面100c(図7(h)参照)をグラインダーによって研削し、薄板化して、ノズル凹部110を開口し、ノズル孔11を形成する。シリコン基材100の薄板化される面100c(図7(h)参照)は、薄板化された面、すなわち液滴吐出面100a(1a)となる。
【0037】
(j) 図7(j)に示すように、シリコン基材100と支持基板50とを貼り合わせた状態で、シリコン基材100を電解液に浸漬して陽極酸化する。この場合、シリコン基材100側を陽極として正に帯電させる。そして、シリコン基材100の裏面側、すなわち支持基板50が位置する接合面100b側に電極パターンを設け、シリコン基材100の全面に電位が行き届くようにする。電極部分は、例えば、シリコン基材100と支持基板50との間に差し込むようにして取り付ける。こうして、液滴吐出面100a、ノズル孔内壁11c及び接合面100b(貫通孔50a、51aによって露出した部分の接合面100b)に、一度の処理で酸化膜12を形成する。この際、白金(Pt)、金(Au)のような陰極側も同時に電解液に浸漬する。電解液には、硫酸、クエン酸、硝酸、酢酸、燐酸、オゾン溶解水、過酸化水素水、炭酸水素ナトリウムなどが用いられる。
電解液の槽は密閉し、大気圧以上で陽極酸化するが、これは、液温を100℃以上で使用できるようにするためであり、また、シリコン基材100の表面における圧力を増加させるためであり、さらに、オゾンを溶解させるためである。また、超音波照射するが、これは、シリコン基材100の表面における圧力を増加させるためであり、キャビテーションを利用する。
【0038】
処理条件は、例えば、電圧は2V〜100Vであり、処理時間は1min〜60minであり、液温は23℃〜90℃である。圧力状態は大気圧(100kPa)以上の状態、例えば100kPa〜300kPaとする。超音波で処理し、150kHz〜500kHzとする。
【0039】
上記の陽極酸化によってシリコン基材100の表面に形成される酸化膜12は、シリコン酸化膜であるが、無機材料からなる酸化膜であってもよい。
酸化膜12がシリコン酸化膜である場合は、シリコン基材100の表面をそのまま陽極酸化するが、無機材料の酸化膜である場合は、シリコン基材100の表面に成膜した無機材料を陽極酸化する。無機材料からなる酸化膜の場合は、シリコン基材100に無機材料をスパッタやCVDによって成膜し、陽極酸化して無機材料の酸化膜を形成する。無機材料の成膜は、シリコン基材100の両面100a、100b側より2工程に分けて行うが、1工程で行うこともできる。無機材料は、例えば、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、あるいはタンタル(Ta)及びチタン(Ti)の混合材である。
こうして、酸化膜12(シリコン酸化膜、あるいは無機材料の酸化膜)によって、耐吐出液保護膜Aが形成される。
【0040】
(k) 図7(k)に示すように、支持基板50側からUV光を照射し、両面接着シート51を剥離して、支持基板50をシリコン基材100から取り除く。
【0041】
(l) 図8(l)に示すように、支持基板60に両面接着シート61を貼り付け、これをシリコン基材100の接合面100bと向かい合わせて、真空中で貼り合わせる。この際に用いる支持基板60(及び両面接着シート61)には、図7(h)〜図7(k)において用いた支持基板50(及び両面接着シート51)とは異なり、ノズル孔11の周辺に貫通孔は形成されていない。
次に、ディッピングにより、液滴吐出面100aにフッ素原子を含むシリコン化合物を主成分とする撥水膜13を形成する。
【0042】
(m) 図8(m)に示すように、液滴吐出面100aにダイシングテープ70をサポートテープとして貼り付ける。
【0043】
(n) 図8(n)に示すように、支持基板60側からUV光を照射し、両面接着シート61を剥離して、支持基板60をシリコン基材100から取り除く。
【0044】
(o) 図8(o)に示すように、支持基板60を取り除いた側の面、すなわち接合面100b側より、アルゴン(Ar)によるスパッタ処理を行い、液滴吐出面100a以外の面を親水化処理し、親水膜14を形成する。
ダイシングテープ70を剥離すると、シリコン基材100からノズル基板1が完成する(図3参照)。
【0045】
実施の形態1に係るノズル基板1によれば、液滴吐出面1aからノズル孔内壁11cを経て、接合面1b(ノズル孔11周辺の接合面1b)に至るまで、酸化膜12(シリコン酸化膜あるいは無機材料からなる酸化膜)よりなる耐吐出液保護膜Aが連続して形成されているため、吐出液が浸食したり下地シリコンが溶出したりすることがなく、耐久性、信頼性に優れる。こうして、吐出特性が安定し、高品質の印字が可能で、高寿命の液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0046】
また、ノズル基板の製造においては、酸化膜12(シリコン酸化膜あるいは無機材料からなる酸化膜)を形成する際に低温プロセスによって一括して行うので、支持基板50を取り付けたままで酸化膜12を連続形成することができ、製造に際して工程数を削減することもできる。さらに、陽極酸化は、シリコン基材100と支持基板50とを貼り合わせた状態で行うので、シリコン基材の強度不足を補うことができ、歩留まりも向上する。また、シリコン基材100の支持基板50を取り付けた側の面、すなわち接合面100b側に電極パターンを設けて陽極酸化するようにしたので、シリコン基材100の全面に電位が行き届くことになる。
【0047】
次に、キャビティ基板2および電極基板3の製造方法について説明する。
ここでは、電極基板3にシリコン基材200を接合した後、そのシリコン基材200からキャビティ基板2を製造する方法について、図9、図10を用いて説明する。
【0048】
(a) 図9(a)に示すように、硼珪酸ガラス等からなるガラス基材300(ガラス基板3)に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングして、凹部32を形成する。この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状であり、個別電極31ごとに複数形成される。
そして、凹部32の底部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。
その後、ドリル等によってインク供給孔34となる孔部34aを形成することにより、電極基板3が作製される。
【0049】
(b) 図9(b)に示すように、シリコン基材200(キャビティ基板2)の両面を鏡面研磨した後、シリコン基材200の片面に、プラズマCVDによってTEOS(TetraEthyl Ortho Silicate)からなるシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する。なお、シリコン基材200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し、振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとはエッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0050】
(c) このシリコン基材200と、図9(a)のようにして作製された電極基板3とを、図9(c)に示すように、例えば360℃に加熱して、シリコン基材200に陽極を、電極基板3に陰極を接続し、800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する。
【0051】
(d) シリコン基材200と電極基板3とを陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基材200をエッチングし、図9(d)に示すように、シリコン基材200を薄板化する。
【0052】
(e) 次に、シリコン基材200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面にプラズマCVDによって、シリコン酸化膜201(図10(e)参照)を形成する。そして、このシリコン酸化膜201に、吐出室24となる凹部240、オリフィス23となる凹部230、及びリザーバ25となる凹部250等を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のシリコン酸化膜201をエッチング除去する。
その後、シリコン基材200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングして、図10(e)に示すように、吐出室24となる凹部240、オリフィス23となる凹部230、及びリザーバ25となる凹部250を形成する。このとき、配線のための電極取り出し部となる部分29aもエッチングして薄板化しておく。なお、図10(e)のウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0053】
(f) シリコン基材200のエッチングが終了した後に、図10(f)に示すように、フッ酸水溶液でエッチングして、シリコン基材200の上面に形成されているシリコン酸化膜201を除去する。
【0054】
(g) シリコン基材200の吐出室24となる凹部240等が形成された面に、図10(g)に示すように、プラズマCVDによりシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する。
【0055】
(h) 図10(h)に示すように、RIE等によって電極取り出し部29を開放する。また、電極基板3のインク供給孔34となる孔部34aからレーザ加工を施して、シリコン基材200のリザーバ25となる凹部250の底部を貫通させ、インク供給孔34を形成する。また、振動板22と個別電極31との間のギャップGの開放端部にエポキシ樹脂等の封止材27を充填して封止を行う。また、図2に示した共通電極28を、スパッタにより、シリコン基材200の上面(ノズル基板1との接合側の面)の端部に形成する。
【0056】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基材200からキャビティ基板2が作製される。
そして最後に、このキャビティ基板2に、前述のようにして作製されたノズル基板1を接着剤等により接合することにより、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0057】
本実施の形態1に係るキャビティ基板2および電極基板3の製造方法によれば、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基材200から作製するので、電極基板3によりシリコン基材200を支持した状態となり、シリコン基材200を薄板化しても割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0058】
実施の形態2.
図11は、実施の形態1に係るインクジェットヘッド10を搭載したインクジェット記録装置を示す斜視図である。図11に示すインクジェット記録装置400は、インクジェットプリンタであり、実施の形態1のインクジェットヘッド10を搭載しているため、吐出液に対する耐久性が向上し、吐出特性が安定し、高品質の印字が可能である。
なお、実施の形態1に係るインクジェットヘッド10は、図11に示すインクジェットプリンタの他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図2】図1の液滴吐出ヘッドを組立てた状態の要部の縦断面図。
【図3】図2のノズル孔部分を拡大した縦断面図。
【図4】図1のノズル基板の上面図。
【図5】実施の形態1に係るノズル基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図7】図6に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図8】図7に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図9】実施の形態1に係るキャビティ基板および電極基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図10】図9に続く製造工程の断面図。
【図11】本発明の実施の形態2に係るインクジェット記録装置を示す斜視図。
【符号の説明】
【0060】
1 ノズル基板、1a 液滴吐出面(液滴吐出側の面)、1b 接合面、2 キャビティ基板、3 電極基板、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、11a 第1のノズル孔部、11b 第2のノズル孔部、11c ノズル孔の内壁、11d 吐出口縁部、12 酸化膜、13 撥水膜、14 親水膜、22 振動板、23 オリフィス、24 吐出室、25 リザーバ、31 個別電極、34 インク供給孔、50 支持基板、50a 支持基板の貫通孔、100 シリコン基材、110 ノズル凹部(凹部)、400 インクジェット記録装置、A 耐吐出液保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するためのノズル孔を有し、
前記ノズル孔の液滴吐出側の面からノズル孔の内壁を経て前記液滴吐出側の面と反対側の面まで連続する耐吐出液保護膜が形成され、
前記耐吐出液保護膜は陽極酸化により形成された酸化膜であることを特徴とするシリコン製ノズル基板。
【請求項2】
請求項1記載のシリコン製ノズル基板を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項2記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項4】
シリコン基材に凹部を形成する工程と、
前記凹部を形成した側の面に、前記凹部よりも大きい径の貫通孔を有する支持基板を、前記凹部と前記貫通孔とが同軸上になるようにして貼り合わせる工程と、
前記凹部を形成した側の面と反対側の面を薄板化して前記凹部を開口させる工程と、
前記シリコン基材を陽極酸化してその表面に連続した酸化膜を形成する工程と、
前記支持基板を剥離する工程とを、
有することを特徴とするシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン基材の表面に無機材料を成膜して陽極酸化することを特徴とする請求項4記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項6】
前記無機材料がチタン及びタンタルのいずれか一方、または両者であることを特徴とする請求項5記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項7】
前記シリコン基材の前記支持基板を取り付けた側の面に電極パターンを設けて電解液に浸漬し陽極酸化することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7のシリコン製ノズル基板の製造方法を適用して、液滴吐出ヘッドのノズル基板部分を形成することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の液滴吐出ヘッドの製造方法を適用して液滴吐出装置を製造することを特徴とする液滴吐出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−262414(P2009−262414A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114919(P2008−114919)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】