説明

シリンダブロックの冷却構造、およびシリンダブロックの冷却構造の製造方法

【課題】冷却媒体を流通させる通路をボア間領域に好適に形成可能な、さらにはボア間領域を好適に冷却可能なシリンダブロックの冷却構造、およびシリンダブロックの冷却構造の製造方法を提供する。
【解決手段】シリンダブロックの冷却構造は、複数のボア11が設けられるとともに、ボア間領域に隣接してW/J12が設けられているシリンダブロック10Cに対して設けられている。そして、ボア間領域において、前記シリンダブロックのデッキ面に開口するように設けられた捨て穴部2と、ボア間領域において、レーザー加工によって少なくとも一端側でW/J12に連通するとともに、穴部を通過するように設けられ、冷却水を流通させるレーザーパス部1Aと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダブロックの冷却構造、およびシリンダブロックの冷却構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダブロックは、ボア間領域で特に高温になり易いことが知られている。これに対し、特許文献1では複数のシリンダライナが鋳ぐるまれたシリンダブロックのシリンダボア間の壁部に、冷却水路としてのドリルパッセージ孔が形成される内燃機関のシリンダブロックが開示されている。特許文献2では、ボア間領域近傍に位置する冷却媒体を他の領域に移送するための通路としてのドリルパスが設けられているシリンダブロックの冷却構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−70639号公報
【特許文献2】特開2005−291013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボア間領域にドリルパスを設けるにあたり、ボア間領域の幅が狭い場合には、一般にドリルパスの径をその分小さくする必要がある。ところが、ドリルパスの径を小さくするには、細いドリルを使用しなければならない。このため、ドリルの折損が発生することがある。或いは、ドリルが湾曲し、加工直進性が悪化することがある。また、加工直進性が悪化すると、シリンダライナをドリルパスに露出させてしまうことがある。結果、シリンダライナとシリンダブロックとの間の僅かな隙間を介して冷却媒体が漏れ出すことがある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み、冷却媒体を流通させる通路部をボア間領域に好適に形成可能な、さらにはボア間領域を好適に冷却可能なシリンダブロックの冷却構造、およびシリンダブロックの冷却構造の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は複数のボアが設けられるとともに、前記複数のボアのうち、隣り合うボア同士の間の部分であるボア間領域に隣接して冷却媒体通路が設けられているシリンダブロックに対して設けられ、前記ボア間領域において、前記シリンダブロックのデッキ面に開口するように設けられた穴部と、前記ボア間領域において、レーザー加工によって少なくとも一端側で前記冷却媒体通路に連通するとともに、前記穴部を通過するように設けられ、冷却媒体を流通させる通路部と、を備えるシリンダブロックの冷却構造である。
【0007】
また本発明は前記通路部が、前記ボア間領域のうち、所定の位置を始点として、前記複数のボアの配列方向に直交する面に沿って拡大するように設けられている構成であることが好ましい。
【0008】
また本発明は複数のボアが設けられるとともに、前記複数のボアのうち、隣り合うボア同士の間の部分であるボア間領域に隣接して冷却媒体通路が設けられているシリンダブロックに対し、穴部と冷却水を流通させる通路部とを備えるシリンダブロックの冷却構造を設けるシリンダブロック冷却構造の製造方法であって、前記ボア間領域において、前記穴部を前記シリンダブロックのデッキ面に開口するように設け、前記ボア間領域において、前記通路部をレーザー加工によって少なくとも一端側で前記冷却媒体通路に連通するとともに、前記穴部を通過するように設けるシリンダブロックの冷却構造の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却媒体を流通させる通路部をボア間領域に好適に形成でき、さらにはボア間領域を好適に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1のシリンダブロックの上面図である。
【図2】図1に示すA−A断面による断面図である。
【図3】図1に示すB−B断面による断面図である。
【図4】レーザーパス部の形成方法を模式的に示す図である。
【図5】実施例2のシリンダブロックの上面図である。
【図6】図5に示すC−C断面による断面図である。
【図7】実施例3のシリンダブロックの上面図である。
【図8】図7に示すD−D断面による断面図である。
【図9】実施例1の冷却構造でレーザーパス部を設ける場合の説明図である。
【図10】シリンダブロックの第1の変形例を示す図である。
【図11】シリンダブロックの第2の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1はシリンダブロック10Aの上面図である。図2は図1に示すA−A断面でシリンダブロック10Aを示す図である。図3は図1に示すB−B断面でシリンダブロック10Aを示す図である。図1では、シリンダブロック10Aのうち、ボア間領域周辺の部分を示している。
【0013】
シリンダブロック10Aには、複数のボア11と、ウォータジャケット(以下、W/Jと称す)12とが設けられている。また、シリンダライナ13を備えている。複数のボア11は直列に配置されている。W/J12は冷却媒体通路であり、冷却媒体である冷却水を流通させる。W/J12は複数のボア11の配列方向に沿って設けられている。また、複数のボア11の壁部に隣接して設けられている。そして、複数のボア11のうち、隣り合うボア11同士の間の部分であるボア間領域に隣接して設けられている。
【0014】
ボア間領域には、レーザーパス部1Aが設けられている。レーザーパス1Aはシリンダライナ13間に設けられている。レーザーパス部1Aはレーザー加工によって設けられている。このため、真っ直ぐに延伸している。レーザーパス部1Aはボア間領域において、一端側でW/J12に連通している。また、他端側でシリンダブロック10Aのデッキ面Dに開口している。レーザーパス部1Aは矢印で模式的に示すように、W/J12からデッキ面Dに向かって冷却水を流通させる。レーザーパス部1Aは複数のボア11の配列方向において幅が狭いスロット状の断面形状を有している。
【0015】
図4はレーザーパス部1Aの形成方法を模式的に示す図である。レーザートーチ30Aはレーザービームを照射する。レーザートーチ30Aは照射するレーザービームでシリンダブロック10Aの母材を溶融しながら、レーザーパス部1Aを形成していく。シリンダブロック10Aの母材は例えばアルミ合金である。レーザーパス部1Aを形成するにあたっては、ボア間領域に対し、複数のボア11の配列方向に直交する面に沿ってレーザービームを照射する。また、デッキ面DからW/J12に向かって斜めにレーザービームを照射する。レーザーパス部1Aを貫通させる側のW/J12内には、防護壁31を設ける。
【0016】
レーザーパス部1Aを形成するにあたっては、レーザートーチ30Aを次のように移動させる。すなわち、複数のボア11の配列方向に直交する面に沿って、レーザービームの照射方向と直交する方向にレーザートーチ30Aを移動させる。これにより、複数のボア11の配列方向において幅が狭いスロット状の断面形状を形成することができる。断面形状の幅は、複数のボア11の配列方向に沿ってレーザートーチ30Aを移動させることで調整できる。なお、レーザーパス部1Aを形成するにあたっては、シールドガス(例えばアルゴンガス)を別途供給する。
【0017】
レーザーパス部1Aは通路部に相当する。そして、シリンダブロック10Aに対しては、レーザーパス部1Aを備えるシリンダブロックの冷却構造(以下、冷却構造と称す)が設けられている。
【0018】
次に本実施例の冷却構造の作用効果について説明する。本実施例の冷却構造では、レーザーパス部1Aが、レーザービーム径が例えばナノオーダーからマイクロオーダーのレーザー加工によって設けられる。このため、ボア間領域が狭い場合でも、冷却水を流通させるレーザーパス部1Aを形成できる。また、レーザー加工によって設けることで、レーザーパス部1Aの直進性も確保できる。このため、本実施例の冷却構造は冷却水を流通させるレーザーパス部1Aをボア間領域に好適に形成できる。
【0019】
また、本実施例の冷却構造はレーザーパス部1Aを貫通させる側のW/J12内に防護壁31を設けることで、レーザー加工によってシリンダブロック10Aに不要な損傷が発生することを防止できる。また、レーザーパス部1Aを形成するにあたり、複数のボア11の配列方向に直交する面に沿って、レーザービームの照射方向と直交する方向にレーザートーチ30Aを移動させることで、スロット状の断面形状を形成できる。そしてこれにより、流路断面積を大きく確保することで、冷却性能を高めることもできる。
【0020】
また、本実施例の冷却構造は断熱性の高いヘッドガスケット(例えば表面にゴム等の断熱材をコーティングしたヘッドガスケット)とともに用いることで、ボア間領域の冷却性を高めても、ヘッドガスケットを介してシリンダブロック10Aに設けられるシリンダヘッドが冷却されることを抑制できる。この点、エンジンではシリンダヘッドで大きな冷却損失が発生することがわかっている。このため、本実施例の冷却構造は断熱性の高いガスケットとともに用いることで、冷却損失の増大を抑制しつつ、ノッキングの発生を抑制することもできる。
【実施例2】
【0021】
図5はシリンダブロック10Bの上面図である。図6は図5に示すC−C断面でシリンダブロック10Bを示す図である。図5では、シリンダブロック10Bのうち、ボア間領域周辺の部分を示している。図6では、レーザーパス部1Bの形成方法を同時に模式的に示している。シリンダブロック10Bはレーザーパス部1Aの代わりにレーザーパス部1Bが設けられている点以外、シリンダブロック10Aと実質的に同一である。
【0022】
レーザーパス部1Bは、ボア間領域のうち、所定の位置Pを始点として、複数のボア11の配列方向に直交する面に沿って拡大するように設けられている。所定の位置Pはボア間領域のうち、所定の部分に対向する位置である。所定の部分は、例えばボア11に設けられるピストンが上死点に位置している場合に、ボア11の延伸方向において、ピストンに設けられているトップリングに対応する部分である。
【0023】
レーザーパス部1Bを形成するにあたっては、次のようにレーザートーチ30Aを移動させる。すなわち、ボア間領域のうち、所定の位置Pを回転中心として、複数のボア11の配列方向に直交する面に沿ってレーザートーチ30Aを所定の角度範囲α内で回転移動させる。
【0024】
この点、レーザートーチ30Aにとって、所定の位置Pはボア間領域のうち、所定の部分に含まれる微小な位置それぞれとなっている。これに対し、レーザーパス部1Bを形成するにあたっては、さらに具体的には所定の部分に含まれる微小な位置それぞれに対応させてレーザートーチ30Aを適宜平行移動させることができる。シリンダブロック10Bに対しては、レーザーパス部1Bを備える冷却構造が設けられている。
【0025】
次に本実施例の冷却構造の作用効果について説明する。本実施例の冷却構造では、レーザーパス部1Bが、ボア間領域のうち、所定の位置Pを始点として、複数のボア11の配列方向に直交する面に沿って拡大するように設けられている。このため、レーザーパス部1Bを流通する冷却水の流速を所定の位置Pで高めることができる。結果、実施例1の冷却構造と比較し、ボア間領域のうち、所定の部分の冷却性をさらに高めることで、ボア間領域を好適に冷却できる。
【実施例3】
【0026】
図7はシリンダブロック10Cの上面図である。図8は図7に示すD−D断面でシリンダブロック10Cを示す図である。図7では、シリンダブロック10Cのうち、ボア間領域周辺の部分を示している。シリンダブロック10Cは、捨て穴部2をさらに備えている点以外、シリンダブロック10Aと実質的に同一である。なお、シリンダブロック10Bに対して同様の変更を適用することもできる。
【0027】
捨て穴部2は、ボア間領域においてシリンダブロック10Cのデッキ面Dに開口するように設けられている。捨て穴部2は予めレーザーパス1Aと連通するように設けられている。換言すれば、シリンダブロック10Cにおいて、レーザーパス1Aは捨て穴部2を通過するように設けられている。捨て穴部2は穴部に相当する。シリンダブロック10Cに対しては、レーザーパス部1Aと捨て穴部2とを備える冷却構造が設けられている。
【0028】
次に本実施例の冷却構造の作用効果について説明する。図9は実施例1の冷却構造でレーザーパス部1Aを設ける場合についての説明図である。実施例1の冷却構造では、形成中のレーザーパス部1Aの奥行きが次第に深くなると、それに従い、溶融したシリンダブロック10Aの母材がレーザーパス部1Aから排出され難くなる。このため、例えばレーザービームの出力が低い場合などに、レーザーパス部1Aの形成が途中で進行しなくなる結果、レーザーパス部1Aを形成できなくなることがある。
【0029】
これに対し、本実施例の冷却構造は捨て穴部2で溶融したシリンダブロック10Cの母材を逃がし、排出することができる。このため、本実施例の冷却構造は、レーザーパス部1Aの加工性を向上させることができる。結果、実施例1の冷却構造と比較し、冷却水を流通させるレーザーパス部1Aをボア間領域にさらに好適に形成できる。
【0030】
なお、捨て穴部2は、レーザーパス部1Aが完成した状態において、溶融されたシリンダブロック部10Cの母材で埋まった状態になっていてもよい。一方、捨て穴部2をヘッドガスケットで封止することで、レーザーパス部1Aが完成した状態において捨て穴部2が貫通した状態になっている場合でも、捨て穴部2がレーザーパス部1Aを流通する冷却水を阻害することを抑制できる。
【0031】
図10はシリンダブロック10Cの第1の変形例であるシリンダブロック10CAを示す図である。シリンダブロック10CAは捨て穴部2が複数設けられている点以外、シリンダブロック10Cと実質的に同一である。図10に示すように、捨て穴部2は複数設けられてもよい。この場合、複数の捨て穴部2を備える冷却構造は各捨て穴部2それぞれで、シリンダブロック10CAの母材を排出できる。このため、レーザーパス部1Aをボア間領域にさらに好適に形成できる。
【0032】
図11はシリンダブロック10Cの第2の変形例であるシリンダブロック10CBの要部を示す図である。図11ではレーザーパス部1Bの形成方法についても同時に示している。シリンダブロック10CBはレーザーパス部1Aの代わりにレーザーパス部1Bを備えている点と、これに伴い複数の捨て穴部2の配置と数が異なっている以外、シリンダブロック10CAと実質的に同一である。
【0033】
レーザーパス部1Bは、一端側および他端側でW/J12に連通するように設けられている。レーザーパス部1Bは次のようにして形成されている。すなわち、ボア間領域に向かってレーザービームを反射する反射部32をW/J12内に配置し、反射部32に対してレーザービームを照射することで、形成されている。レーザートーチ30Bと反射部32とは、複数のボア11の配列方向に垂直な面に沿って、デッキ面Dと平行な方向にレーザービームを反射するように配置を設定することができる。
【0034】
レーザーパス部1Bを形成するにあたっては、レーザートーチ30Aの代わりにレーザートーチ30Bが用いられている。レーザートーチ30Bは、シールドガスノズル30aをさらに備えている点以外、レーザートーチ30Aと実質的に同一である。シールドガスノズル30aは、レーザービームを照射する際に、形成するレーザーパス部1Bに向けてシールドガスを噴出できるように設けられている。
【0035】
シリンダブロック10CBでは、冷却構造がレーザーパス部1Bを備えている。すなわち、通路部は一端側および他端側でW/J12に連通するレーザーパス部1Bであってもよい。また、レーザーパス部1Bを形成するにあたっては、シールドガスノズル30aを備えたレーザートーチ30Bを用いることで、レーザーパス部1Bから溶融したシリンダブロック10CBの母材を好適に排出することができる。
【0036】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0037】
レーザーパス部 1A、1B
捨て穴部 2
シリンダブロック 10A、10B、10C,10CA、10CB
ボア 11
W/J 12
シリンダライナ 13
レーザートーチ 30A、30B
シールドガスノズル 30a
防護壁 31
反射部 32


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボアが設けられるとともに、前記複数のボアのうち、隣り合うボア同士の間の部分であるボア間領域に隣接して冷却媒体通路が設けられているシリンダブロックに対して設けられ、
前記ボア間領域において、前記シリンダブロックのデッキ面に開口するように設けられた穴部と、
前記ボア間領域において、レーザー加工によって少なくとも一端側で前記冷却媒体通路に連通するとともに、前記穴部を通過するように設けられ、冷却媒体を流通させる通路部と、を備えるシリンダブロックの冷却構造。
【請求項2】
請求項1記載のシリンダブロックの冷却構造であって、
前記通路部が、前記ボア間領域のうち、所定の位置を始点として、前記複数のボアの配列方向に直交する面に沿って拡大するように設けられているシリンダブロックの冷却構造。
【請求項3】
複数のボアが設けられるとともに、前記複数のボアのうち、隣り合うボア同士の間の部分であるボア間領域に隣接して冷却媒体通路が設けられているシリンダブロックに対し、穴部と冷却水を流通させる通路部とを備えるシリンダブロックの冷却構造を設けるシリンダブロック冷却構造の製造方法であって、
前記ボア間領域において、前記穴部を前記シリンダブロックのデッキ面に開口するように設け、
前記ボア間領域において、前記通路部をレーザー加工によって少なくとも一端側で前記冷却媒体通路に連通するとともに、前記穴部を通過するように設けるシリンダブロックの冷却構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−117399(P2012−117399A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265800(P2010−265800)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】