説明

シリンダブロック加工用ダミーヘッド

【課題】的確なシリンダヘッドへの押し込み力が容易に低加工コストで調整でき、かつ再現性に優れたシリンダブロック加工用ダミーヘッドを提供する
【解決手段】シリンダブロック100のヘッドボルト孔106に螺合されるボルト部材13と、シリンダヘッド取付面105にボルト締結するためのボルト部材18が挿入するボルト挿入孔106及びシリンダボア101に対応して開口する貫通孔15を備えたダミーヘッド本体10と、ダミーヘッド本体10にボルト締結されるフランジ部25及び貫通孔15内に嵌挿すると共に先端にシリンダボア部102の頂面102aを押圧するボア接触面24を有する円筒部21よりなるボア押し込み用スリーブ20を備え、ボア押し込み用スリーブ20のフランジ部25の一部にフランジ部25の厚さの異なる部位を形成する変形制御部35を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックにおけるシリンダボア等の加工に際してシリンダヘッド取付面に取り付けられるシリンダブロック加工用ダミーヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエンジンを構成するシリンダブロックに形成されるシリンダボアは、その真円度の精度を確保するために、ホーニング加工等の仕上げ加工された後に、シリンダヘッド取付面にガスケットを介在してシリンダヘッドがボルト締結によって組み付け固定される。
【0003】
しかし、仕上げ加工によりシリンダボアの真円度を高めても、仕上げ加工されたシリンダブロックのシリンダヘッド取付面上にガスケットを介在してシリンダヘッドをボルト締結により組み付け固定した際には、ボルト締結に伴いシリンダヘッド取付面にシリンダヘッドからガスケットを介し押圧力が付与され、かつボルト締結に伴いボルトが螺合するシリンダブロックにボルトの張力に抗する反力が発生してシリンダブロックの各部に種々の応力が発生する。特に、シリンダボアを形成するシリンダボア部に応力の偏りが発生すると該部が変形してシリンダボアの真円度が低下する。
【0004】
シリンダボアの真円度の低下は、シリンダボアに摺接して往復動するピストンリングの摺動抵抗の増加を招き、エンジン性能の悪化や燃費の低下を招く要因となる。また、シリンダボアとピストンリングとの間に過剰の隙間が発生してオイル消費の悪化を招くことが懸念される。
【0005】
そこで、シリンダボアの仕上げ加工に際し、シリンダブロックのシリンダヘッド取付面にシリンダブロック加工用ダミーヘッドをボルトにより組付けて、実際にシリンダブロックにシリンダヘッドを組付けた場合と同等の荷重を負荷してシリンダブロックに応力を発生されてシリンダボアに変形を与え、この変形が付与された状態でシリンダボアを仕上げ加工することで、実際にシリンダヘッド等が取り付けられてエンジンが組み立てられたときに、シリンダボアが所定精度の真円度となるようにしている。
【0006】
この方法は、例えば特許文献1に開示され、かつ図15に示すように、シリンダヘッドの代わりに使用されるシリンダブロック加工用ダミーヘッド115が、シリンダヘッドと同等の材質及び形状で、シリンダブロック111のシリンダボア113より若干大径の貫通孔116及びボルト孔117を有する板状に形成される。このダミーヘッド115とシリンダブロック111のシリンダヘッド取付面114との間にガスケット118を介装し、ボルト119にてヘッドボルト孔114aに螺合締結してシリンダブロック111を変形させた状態で、貫通孔116からホーニング加工ヘッド等の加工工具を挿入してシリンダボア113を仕上げ加工する。
【0007】
この方法は、ガスケット118が、使用回数の増加と共に潰れて劣化するので、量産化するに際し、シリンダボア113に安定した変形を与えるためには、ガスケット118を交換する必要があり、ガスケット118を多数要し、コストの増大を招く。
【0008】
この対策として、シリンダヘッドのシリンダボア周縁に対向するビード部を備えたダミーヘッドが提案されている。このダミーヘッドを図16乃至図18を参照して説明する。図16及び図17はダミーヘッド120の斜視図及び底面図であって、図18はダミーヘッド120をシリンダヘッド111に取り付けた状態の概要を示す図17のXVIII−XVIII線断面図である。
【0009】
ダミーヘッド120は、図16及び図17に示すように矩形平板状のダミーヘッド本体121を備え、ダミーヘッド本体121にシリンダブロック111のシリンダボア113に対応する貫通孔122が形成され、この貫通孔122の周囲にボルト挿入孔123が設けてある。貫通孔122はシリンダボア113の内径より大径であって、仕上げ加工時に加工工具、例えばホーニング加工ヘッドが挿入される。
【0010】
ダミーヘッド本体121に設けた貫通孔122のシリンダブロック111側の周縁に環状の凹部124を形成し、この凹部124にシリンダボア部112の頂面112aに向けて突出する環状のビード部125が、その当接面125aがダミーヘッド本体121から突出した状態で設けてある。
【0011】
このダミーヘッド120を、シリンダブロック111のシリンダヘッド取付面114上にセットしてボルト締結すると、図18に示すように、ダミーヘッド本体121から突出するビード部125の当接面125aがシリンダボア部112の頂面112a、即ちシリンダボア113の周縁を押し込むと共に、ビード部125がシリンダブロック111によって押される。このとき、ビード部124の形成によってダミーヘッド本体121が上方に弾性変形し押し込み力を制御する。
【0012】
これにより、ビード部125をダミーヘッド本体121に設ける際に、シリンダヘッド本体121から突出するビード部125の突出量に製作誤差があっても要望の押し込み力がシリンダボア部112に付与され、シリンダボア113の変形、即ち実際のシリンダヘッド及びガスケットをシリンダブロック111に取り付けた状態でのシリンダボア113の変形を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−243514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記特許文献1によると、ダミーヘッド120をシリンダブロック111のシリンダヘッド取付面114上にセットしてビード部125がシリンダボア部112、即ちシリンダボア113の周縁の押し込み力を付与した際に、ダミーヘッド本体121がビード部125に押されて弾性変形してシリンダブロック111に押し込み力が制御される。
【0015】
しかし、実際のボルト締結によりシリンダヘッドをシリンダブロックに取り付けると、ボルト締結によりシリンダボア部112に種々の応力が生じ、シリンダボア113の周縁となるシリンダボア部112の頂面112aの周方向の各部分に偏在して複雑に歪み変化する。
【0016】
このシリンダボア部112の頂面112aの歪み変形は極めて微細であると共に複雑に分散及び偏在して発生する。また、この変形はボルト締結力や同一シリンダブロックでもエンジン等の仕様によっても種々変形する。
【0017】
この種々に歪み変形するシリンダボア部112の頂面112aの各部分に相応した押し込み力を付与するには、種々に歪み変形するシリンダボア部112の頂面112aに接触するビード部125の当接面125aをシリンダボア部112のシリンダヘッド取付面112aに応じて微細でかつに変化する面状に加工する必要がある。この微細な加工は極めて厄介で多くの加工コストと作業者の熟練が要求されると共に、その加工による再現性は極めて困難である。
【0018】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、より的確なシリンダヘッドへの押し込み力が容易に低加工コストで調整でき、再現性に優れたシリンダブロック加工用ダミーヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成する請求項1の発明は、シリンダブロックのシリンダボア部に形成されたシリンダボアの加工に際し、シリンダヘッドに代えてシリンダブロックのシリンダヘッド取付面にボルト締結によって組み付けられてシリンダボア部の頂面を押圧することで前記シリンダボアを変形させるシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、シリンダブロックのシリンダヘッド締結用のヘッドボルト孔に螺合されるボルト部材と、シリンダヘッド取付面に対向する合わせ面及びシリンダ取付面と反対側の締結面を備える板状で、前記シリンダヘッド取付面にボルト締結するための前記ボルト部材を挿入するボルト挿入孔及びシリンダボアに対応して開口する貫通孔を備えたダミーヘッド本体と、前記ダミーヘッド本体の締結面にスリーブ固定用ボルトにより締結される環状のフランジ部及び該フランジ部に基端が結合されて前記貫通孔内に嵌挿すると共に先端にシリンダボア部の頂面を押圧する環状のボア接触面を有する円筒部よりなるボア押し込み用スリーブとを備え、該ボア押し込み用スリーブのフランジ部の一部に該フランジ部の厚さの異なる部位を形成する変形制御部を備えたことを特徴とする。
【0020】
これによると、変形制御部の形成によりフランジ部の厚さを局部的或いは部分的に異ならせることで、押し込み用スリーブのフランジ部、円筒部、及びフランジ部と円筒部の連続部分に亘る弾性変形領域及び弾性変形量が部分的に調整でき、シリンダボア部の頂面を押し込む押し込み力及び頂面の押し込み量を頂面の周方向全周に亘って所望の部分或いは所定範囲に応じて調整することができる。
【0021】
これにより実際にシリンダヘッド及びガスケットをシリンダブロックに取り付けた状態でのシリンダボア部の押し込み力及び押し込み量が環状の頂面の周方向の部分に応じて部分的に異なる場合でも、変形制御部を適宜設定することで、的確なシリンダヘッドへの押し込み力が容易に調整できる。これにより、シリンダボア部の局部的な変形を防止することができ、理想的なシリンダボアの変形を得ることができる。このフランジ部の厚さを部分的に異ならせる変形制御部の形成は、比較的簡単な機械加工により低加工コストで形成することが可能であり、かつ機械加工による同一の加工が容易で再現性に優れる。
【0022】
請求項2の発明は、請求項1に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、前記円筒部のボア接触面は、シリンダブロックのシリンダボア部側に向かって突出して円筒部の周方向に沿って連続する頂端を有する凸形状であることを特徴とする。
【0023】
これによると、シリンダボア部の頂面に当接して押圧するボア接触面の頂端の位置を円筒部の径方向に局部的或いは部分的に異ならせることで、シリンダボア部の径方向の弾性変形領域及び弾性変形量が部分的に調整でき、理想的なシリンダボアの変形を得ることができる。このボア接触面は、比較的簡単な機械加工により形成することが可能で、かつ機械加工による同一の加工が容易で再現性に優れる。
【0024】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、前記変形制御部は、前記フランジ部の頂面に形成された溝状乃至コ字状の切り欠きであることを特徴とする。
【0025】
請求項4の発明は、請求項1または2に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、前記変形制御部は、前記フランジ部と円筒部との連結部を、該連結部のコーナ部に沿った面取りであることを特徴とする。
【0026】
請求項5の発明は、請求項1または2に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、前記変形制御部は、フランジ部と円筒部との連結部を、該連結部のコーナ部に沿って断面L字状に切り欠き形成された切り欠きであることを特徴とする。
【0027】
これら請求項3乃至請求項5は、それぞれフランジ部の厚さを部分的に異ならせる変形制御部の具体的形状を例示するものであり、これら変形制御部は、比較的簡単な機械加工により低加工コストで容易に形成することが可能で、再現性に優れる。
【0028】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、前記押し込み用スリーブをダミーヘッド本体に取り付けた状態においてダミーヘッド本体の合わせ面から円筒部のボア接触面が突出することを特徴とする。
【0029】
これによると、押し込み用スリーブをダミーヘッド本体に取り付けた状態においてダミーヘッド本体の合わせ面から円筒部のボア接触面が突出することから、確実にシリンダボア部の頂面に押し込み力を付与することができる。
【0030】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、前記ダミーヘッド本体は、複数のシリンダボアに対応して複数の貫通孔を有し、上記ボア押し込み用スリーブが各貫通孔毎に独立して配置されたことを特徴とする。
【0031】
これによると、各押し込み用スリーブを、各シリンダボアに対応して着脱可能とすることで、互いの押し込み用スリーブが互いに干渉することなく機能し、各押し込み用スリーブの変形制御部及びボア接触面の調整が容易になると共に、押し込み用スリーブが摩耗したときに、押し込み用スリーブのみを交換することができ、ダミーヘッド全体を交換する場合に比べ、コスト低下が達成できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、変形制御部の形成により押し込み用スリーブが弾性変形領域及び弾性変形量が部分的に調整でき、シリンダボア部の頂面の押し込み力及び頂面の押し込み量を頂面の周方向全周に亘って所望の部分或いは所定範囲に応じて調整することができる。これにより変形制御部を適宜設定することで、シリンダボア部の局部的な変形を防止することができ、理想的なシリンダボアの変形を得ることができる。このフランジ部の厚さを部分的に異ならせる変形制御部の形成は、比較的簡単な機械加工により低加工コストで形成することが可能であり、かつ再現性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の概要を示すダミーヘッド及びシリンダブロックの斜視図である。
【図2】ダミーヘッドの分解斜視図である。
【図3】ダミーヘッド本体の平面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】ボア押込み用スリーブの平面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】ダミーヘッド本体とボア押し込み用スリーブの結合状態の概要を示す図3のVII−VII線断面図である。
【図8】ダミーヘッドの取り付け状態を示す図1のVIII−VIII線断面図である。
【図9】変形制御部の概要説明図であり、(a)は押し込み用スリーブの要部断面図、(b)は押し込み用スリーブの要部断面斜視図である。
【図10】変形制御部の概要説明図であり、(a)は押し込み用スリーブの要部断面図、(b)は押し込み用スリーブの要部断面斜視図である。
【図11】変形制御部の概要説明図であり、(a)は押し込み用スリーブの要部断面図、(b)は押し込み用スリーブの要部断面斜視図である。
【図12】円筒部のボア接触面の説明図であり、(a)は円筒部の先端の断面図、(b)は作用説明図である。
【図13】円筒部のボア接触面の説明図であり、(a)は円筒部の先端の断面図、(b)は作用説明図である。
【図14】円筒部のボア接触面の説明図であり、(a)は円筒部の先端の断面図、(b)は作用説明図である。
【図15】従来のダミーヘッドの説明図である。
【図16】従来のダミーヘッドの斜視図である。
【図17】図16に示すダミーヘッドの底面図である。
【図18】シリンダブロックにダミーヘッドが取り付けられた状態の概要を示す図17のXVIII−XVIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施の形態を図1乃至図14を参照して説明する。
【0035】
図1は、シリンダブロック加工用ダミーヘッド及びシリンダブロックの概要を示す斜視図、図2はダミーヘッドの分解斜視図、図3はダミーヘッド本体の平面図、図4は図3のIV−IV線断面図、図5はボア押し込みスリーブの平面図、図6は図5のVI−VI線断面図、図7はダミーヘッド本体とボア押し込み用スリーブの結合状態の概要を示す図3のVII−VII線断面図である。
【0036】
シリンダブロック加工用ダミーヘッド1の説明に先立って、ホーニング加工等によるシリンダボアの仕上げ加工の際にダミーヘッド1が取り付けられるシリンダブロック100の概要を図1を参照して説明する。
【0037】
シリンダブロック100はオープンデッキ型であって、複数、本実施の形態では3つのシリンダボア101が形成された筒状のシリンダボア部102が並列して一体形成され、シリンダボア部102の外周はウォータジャケット103を介在してシリンダ外壁部104によって囲まれ、シリンダ外壁104はウォータジャケット103の底部を構成するクランクケース部107を介してシリンダボア部102に一体結合される。シリンダボア部102の頂面102a及びシリンダ外壁部104の頂面104aによって図示しないガスケットを介在してシリンダヘッドが取り付けられるシリンダヘッド取付面105が形成される。
【0038】
ウォータジャケット103は、シリンダボア部102の頂面102a及びシリンダ外壁104の頂面104aとの間に形成された深い溝状に形成される。一方、シリンダ外壁部104に図示しないシリンダヘッドをシリンダヘッド取付面105に固定するためのヘッドボルトが螺合して締結するヘッドボルト孔106が複数形成される。ヘッドボルト孔106は、ウォータジャケット103の回りにおけるシリンダブロック100の角部近傍及び各シリンダボア部102間に対応して設けられる。即ち、各シリンダボア部102をそれぞれ取り囲むようにヘッドボルト孔106が配置されてシリンダ外壁104の頂面104aに開口して穿孔形成され、頂面104aから離れたヘッドボルト孔106の先端に図示しないねじ部が形成される。
【0039】
ダミーヘッド1は、図1に斜視図を示し、図2に分解斜視図を示すようにシリンダブロック100の各シリンダボア101に対応して貫通孔15が開口するダミーヘッド本体10と、ダミーヘッド本体10の各貫通孔15に装着されるボア押込み用スリーブ20を備える。
【0040】
ダミーヘッド本体10は、図2に示すと共に図3に平面図、図4に図3のIV−IV線断面図を示すように、シリンダブロック100に取り付けた状態でシリンダヘッド取付面105に接面する側の合わせ面11とシリンダブロック100と反対側の締付面12を有し、厚さ10hの矩形板状に形成される。
【0041】
ダミーヘッド本体10に、シリンダブロック100の各シリンダボア101に対応して3つの貫通孔15を設け、更に、各ヘッドボルト孔106に対応してボルト部材18を挿入するためのボルト挿入孔13が形成されている。
【0042】
ダミーヘッド本体10の各貫通孔15は、後述するボア押込み用スリーブ20の円筒部21が嵌挿可能な内径を有する。締付面12には、貫通孔15を囲む環状の範囲がボア押込み用スリーブ20のフランジ部25が接面するフランジ部当接範囲となる。このフランジ部当接範囲を図3にハッチング14で示す。
【0043】
フランジ部当接範囲14内における各貫通孔15の周囲に複数、本実施の形態では各貫通孔15に対してそれぞれ4個所にスリーブ固定用ねじ孔16及び2箇所にスリーブ固定用ノックピン孔17が形成されている。また、ボルト挿入孔13に対応してダミーヘッド本体10の締付面12側には円筒状のボス部19が設けられる。
【0044】
ボア押込み用スリーブ20は、図2に示すと共に、図5に平面図、図6に図5のVI−VI線断面図を示すように、円筒部21と、この円筒部21の基端21a側に設けられたフランジ部25とを備えたフランジ付きの筒状であって、円筒部21は、ダミーヘッド本体10の貫通孔15内に嵌挿可能な外周面22及び仕上げ加工終了後のシリンダボア101の内径より大きくシリンダボア加工工具、例えばホーニングヘッド等の挿入が可能な内径寸法を有する内周面23を備えた円筒状で、先端にシリンダボア部102の頂面102aに全周に亘って環状に接触する頂端24aを備えたボア接触面24が形成される。
【0045】
フランジ部25は、円筒部21の内周面23に連続する内径寸法の内周面26及び外周面27を有し、内周面26の端縁に内周縁が連続して外周縁が外周面27の端縁に連続する平面環状でダミーヘッド本体10の締付面12に形成されるフランジ部当接範囲14に当接可能な当接面28及び内周面26の頂端縁にコーナ部29を介して内周縁が連続し外周縁が外周面27の頂端縁に連続する平面環状の頂面30を有する厚さ25hの環状円板状に形成される。フランジ部25の当接面28から円筒部21のボア接触面24、より詳細には頂端24aまでの寸法、即ち円筒部21の軸方向の寸法21hが、ダミーヘッド本体10の厚さ10hより大きく設定される。
【0046】
フランジ部25には、ダミーヘッド本体10に形成されスリーブ固定用ねじ孔16に対応してスリーブ固定用ボルト貫通孔31が穿孔され、スリーブ固定用ノックピン孔17に対応してノックピン孔32が穿孔される。
【0047】
この各ボア押し込み用スリーブ20は、円筒部21がダミーヘッド本体10の各貫通孔15に嵌挿してフランジ部25の当接面28がフランジ部当接範囲14に当接すると共に、各スリーブ固定用ねじ孔16及びスリーブ固定用ノックピン孔17とスリーブ固定用ボルト貫通孔31及びノックピン孔32とを相対位置決めしてダミーヘッド本体10に対する各押し込み用スリーブ20の相対位置決めする。
【0048】
更に、対応する各ボア押し込み用スリーブ20のノックピン孔32とダミーヘッド本体10のスリーブ固定用ノックピン孔17にノックピン38を圧入し、かつスリーブ固定用ボルト貫通孔31から挿入してスリーブ固定用ねじ孔16に螺合するスリーブ固定用ボルト39によってボア押し込み用スリーブ20をダミーヘッド本体10に固定する。なお、隣接するボア押し込み用スリーブ20が近接して互いのフランジ部25が干渉する場合には、必要に応じてフランジ部25の外周に切欠部33を形成して互いの干渉を回避する。
【0049】
この押し込み用スリーブ20をダミーヘッド本体10に取り付けた状態において、図7に図3のVII−VII線断面図を示すように、ダミーヘッド本体10の厚さ10hよりもフランジ部25の当接面28から円筒部21のボア接触部24の頂端24aまでの寸法、即ち円筒部21の軸方向寸法21hが大きく設定されることから、その差分(21h−10h)がダミーヘッド本体10の合わせ面11から円筒部21のボア接触面24までの突出部分が段差24hとして形成される。このように、押し込み用スリーブ20をダミーヘッド本体10に取り付けた状態においてダミーヘッド本体10の合わせ面11から円筒部21のボア接触面24を突出させることで、確実にシリンダボア部102の頂面102aに押し込み力Pを付与することができる。
【0050】
上記したダミーヘッド1を、シリンダブロック100のシリンダヘッド取付面105上にセットし、ボス部19及びダミーヘッド本体10のボルト挿入孔13から挿入してヘッドボルト孔106に螺合するボルト部材18によりダミーヘッド1をシリンダブロック100に締結する。これにより、図8に示すようにボア接触部24の頂端24aがシリンダボア部102の頂面102aに押圧して、シリンダボア部102に押し込み力Pを付与してシリンダボア部102を弾性変形させる。一方、シリンダボア部102の抗力Fによってボア接触面24が押される。このとき、押し込み用スリーブ20は、ダミーヘッド本体10にスリーブ固定用ボルト35及びノックピン34によって結合されたフランジ部25から円筒部21のボア接触面24の頂端24aに亘る範囲、特にフランジ部25と円筒部21の連続部分となるコーナ部29の周辺等が仮想線29aで示すように上方に弾性変形してシリンダボア部102の抗力Fを制御する。
【0051】
これにより、ダミーヘッド本体10の合わせ面11から突出するボア接触面24の突出量、即ち段差24hに製作上のバラツキ等の誤差があっても、シリンダボア101の変形、即ち実際にシリンダヘッド及びガスケットをシリンダブロック100に取り付けた状態でのシリンダブロック100の変形付与、特にシリンダボア101の変形付与が容易に得られる。
【0052】
また、図8に示すように、ボア接触部24をシリンダボア部102に押接しつつフランジ部25、円筒部21、フランジ部25と円筒部21との連続部分となるコーナ部29の周辺等の広範囲が弾性変形してシリンダボア101の変形を制御すると共に、この弾性変形する領域が広範囲であり、段差24hの大きさに拘わりなくシリンダボア部102の変形量、ひいてはシリンダボア101の変形量を許容範囲内に設定することができる。
【0053】
更に、押し込みスリーブ20におけるフランジ部25の厚さ25hを部分的に異ならせることで、押し込みスリーブ20の剛性を部分的に調整することで、フランジ部25、円筒部21、フランジ部25と円筒部21の連続部分の弾性変形量を調整する変形制御部が形成される。この変形制御部の一例を図9乃至図11に基づいて説明する。
【0054】
図9の(a)に押し込み用スリーブ20の要部断面図を示し、同図(b)にスリーブ20の要部断面斜視図を示すように、フランジ部25の頂面30に内周面23から外周面27に亘って連続する溝状乃至コ字状等に切り欠くことで変形制御部35が形成される。この変形制御部35の形成によりフランジ部25の厚さ25hが局部的或いは部分的に異ならせる、即ち減少してフランジ部25、円筒部21、フランジ25と円筒部21の連続部分に亘る弾性変形領域及び弾性変形量が部分的に調整でき、シリンダボア部102の頂面102aの押し込み力P及び頂面102aの押し込み量を頂面102aの周方向全周に亘って所望の部分或いは所定範囲に応じて調整することができる。
【0055】
これにより実際にシリンダヘッド及びガスケットをシリンダブロック100に取り付けた状態でシリンダボア部102の押し込み力P及び押し込み量が環状の頂面102aの周方向の部分に応じて部分的に異なる場合でも、変形制御部35の切欠幅35aや切欠深さ35bの増減により、また、変形制御部35の個数や形成位置を適宜設定することで、シリンダボア部102の局部的な変形を防止することができ、理想的なシリンダボア101の変形を得ることができる。このフランジ25を溝状乃至コ字状等の切り欠きによる変形制御部35の形成は、比較的簡単な機械加工により低加工コストで形成することが可能で、かつ機械加工による同一の加工が容易で再現性に優れる。
【0056】
また、他の形態の変形制御部の例を図10に示す。この変形制御部36は、図10の(a)に押し込み用スリーブ20の要部断面図を示し、同図(b)にスリーブ20の要部断面斜視図を示すように、フランジ部25の内周面26と頂面30とが連続するコーナ部29に沿って内周面26から頂面30に亘って部分的に断面L字状に切り欠き形成することで形成される。このコーナ部29に沿ってL字状に切り欠き形成した変形制御部36によって、フランジ部25の厚さ25hを局部的或いは部分的に異ならせることでフランジ部25、円筒部21、フランジ部25と円筒部21の連続部分に亘る弾性変形領域及び弾性変形量が部分的に調整でき、シリンダボア部102の頂面102aに対する押し込み力P及び頂面102aの押し込み量を頂面102aの周方向全周に亘って部分的に調整することができる。
【0057】
これにより実際にシリンダヘッド及びガスケットをシリンダブロック100に取り付けた状態でシリンダボア部102の押し込み力P及び押し込み量が頂面102aの周方向の部分において部分的に異なる場合でも、変形制御部36の周方向の長さ36a、切欠幅36b、切欠深さ36cの増減により、また、変形制御部35の個数や形成位置を適宜設定することで、シリンダボア部102の局部的な変形を防止することができ、シリンダボア部102の頂面102aに対する押し込み力P及び頂面102aの押し込み量を頂面102aの周方向全周に亘って所望の部分或いは所定範囲に応じて調整することができる。このフランジ部25をL字状に切り欠き形成される変形制御部36は、比較的簡単な機械加工により低加工コストで形成することが可能で、かつ機械加工による同一の加工が容易で再現性に優れる。
【0058】
更に、他の形態の変形制御部の例を図11に示す。この変形制御部37は、図11の(a)に押し込み用スリーブ20の要部断面図を示し、同図(b)にスリーブ20の要部断面斜視図を示すように、フランジ部25の内周面26と頂面30とが連続するコーナ部29に沿って周方向に内周面26から頂面30に亘ってテーパ状或いは面取り状に切り欠いて形成し、フランジ部25の厚さ25hを部分的に異ならせる。このコーナ部29に沿ってテーパ状或いは面取り状に切り欠いて形成した変形制御部37によって、フランジ部25の厚さ25hを局部的或いは部分的に異ならせることでフランジ部25、円筒部21、フランジ部25と円筒部21の連続部分に亘る弾性変形領域及び弾性変形量が部分的に調整でき、シリンダボア部102の頂面102aの押圧力P、頂面102aの押し込み量を頂面102aの周方向の部位に応じて調整することができる。変形制御部37の周方向の長さ37a、切欠幅37b、切欠深さ37cの増減により、また、変形制御部37の個数や形成位置を適宜設定することで、シリンダボア部102の局部的な変形を防止することができ、理想的なシリンダボア101の変形を得ることができる。このフランジ部25をL字状に切り欠き形成される変形制御部37は、比較的簡単な機械加工により形成することが可能で、再現性に優れる。
【0059】
この押し込みスリーブ20におけるフランジ部25の厚さ25hを部分的に異ならせる変形制御部は、上記フランジ部25の頂面30を溝状乃至コ字状等に切り欠き形成した変形制御部35、コーナ部29に沿ってL字状に切り欠き形成した変形制御部36、及びコーナ部29に沿ってテーパ状或いは面取り状に切り欠いて形成した変形制御部37に限定されることなく、断面円弧状に切り欠き形成する等適宜形状に形成できると共に、変形制御部35、36、37等を適宜併設して形成することもできる。
【0060】
更に、シリンダボア部102の頂面102aに当接する円筒部21のボア接触面24は、頂端24aがシリンダボア部102の頂面102aに向かって突出する断面凸形状で周方向に沿って連続し、頂端24aを部分的に変えることでシリンダボア部102の径方向の弾性変形量を部分的に制御することができる。このボア接触面24の一例を図12乃至図14を参照して説明する。
【0061】
例えば、図12の(a)に要部断面を示すようにボア接触面24を基端側より先端に移行するに従って内周面23側から外周面22側に変移するように傾斜して頂端24aが外周面22側に変位して周方向に連続するように形成した部位においては、同図(b)に示すよう頂端24aがシリンダボア部102の頂面102aに当接して押し込み力Pでシリンダボア部102を押し込むと、シリンダ部102に抗力Fが発生する一方、外周面22よりに変位した頂部24aには外周面22方向の分力Paが発生してシリンダボア部102をシリンダボア101の径方向外方、即ちウォータジャケット103側に突出する拡径方向に弾性変形付与する。
【0062】
また、図13の(a)に要部断面を示すようにボア接触面24を基端側から先端側に移行するに従って外周面22側から内周面23側に変移するように傾斜して頂端24aが内周面23側に変位して周方向に沿って連続形成した部位においては、同図(b)に示すよう頂端24aがシリンダボア部102の頂面102aに当接して押し込み力Pでシリンダボア部102を押し込むと、シリンダボア部102に抗力Fが発生する一方、内周面23よりに変位した頂部24aには内周面23方向の分力Paが発生して、シリンダボア部102をシリンダボア101の径方向内方、即ちシリンダボア101側に突出する縮径方向に弾性変形付与する。
【0063】
更に、図14の(a)に要部断面を示すようにボア接触面24の頂端24aが平坦な部位においては、同図(b)に示すよう頂端24aがシリンダボア部102の頂面102aに当接して頂端24aがシリンダボア部102の頂面102aに当接して押し込み力Pでシリンダボア部102を押し込むと、シリンダボア部102の頂面102aの幅方向中央部が押し込まれて外周面22及び内周面23方向の分力発生が抑制されて、シリンダボア部102のシリンダボア101の径方向外方及び内方向の弾性変形が抑制される。
【0064】
即ち、シリンダボア部102の頂面102aに当接して押圧するボア接触面24の頂端24aの位置を円筒部22の径方向に局部的或いは部分的に異ならせることで、シリンダボア部102の径方向の弾性変形領域及び弾性変形量が部分的に調整でき、シリンダボア部102の径方向の弾性変形を周方向の部位に応じて調整することができ、理想的なシリンダボア部102の変形を得ることができる。このボア接触面24は、比較的簡単な機械加工により形成することが可能で、機械加工による同一の加工が容易で再現性に優れる。
【0065】
各押し込み用スリーブ20を、各シリンダボア101に対応して着脱可能とすることで、互いの押し込み用スリーブ20が互いに干渉することなく機能し、各押し込み用スリーブ20の変形制御部及びボア接触面24の調整が容易になると共に、押し込み用スリーブ20が摩耗したときに、押し込み用スリーブ20のみを交換することができ、ダミーヘッド全体を交換する場合に比べ、コスト低下が達成できる。
【0066】
更に上記実施の形態に加え、各押し込み用スリーブ20のフランジ部25をダミーヘッド本体10に締結するスリーブ固定用ボルト34やノックピン35の配置やスリーブ固定用ボルト34やノックピン35の増減によりフランジ25、円筒部21、フランジ25と円筒部21の連続部分に亘る弾性変形領域及び弾性変形量を部分的に調整することもできる。
【符号の説明】
【0067】

1 ダミーヘッド
10 ダミーヘッド本体
11 合わせ面
12 締付面
13 ボルト挿入孔
15 貫通孔
18 ボルト部材
19 ボス部
20 ボア押込み用スリーブ
21 円筒部
22 外周面
23 内周面
24 ボア接触面
24a 頂部
25 フランジ部
26 内周面
27 外周面
28 当接面
29 コーナ部
30 頂面
31 スリーブ固定用ボルト貫通孔
39 スリーブ固定用ボルト
35、36、37 変形制御部
100 シリンダブロック
101 シリンダボア
102 シリンダボア部
102a 頂面
103 ウォータジャケット
104 シリンダ外壁部
104a 頂面
105 シリンダヘッド取付面
106 ヘッドボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックのシリンダボア部に形成されたシリンダボアの加工に際し、シリンダヘッドに代えてシリンダブロックのシリンダヘッド取付面にボルト締結によって組み付けられてシリンダボア部の頂面を押圧することで前記シリンダボアを変形させるシリンダブロック加工用ダミーヘッドにおいて、
シリンダブロックのシリンダヘッド締結用のヘッドボルト孔に螺合されるボルト部材と、
シリンダヘッド取付面に対向する合わせ面及びシリンダ取付面と反対側の締結面を備える板状で、前記シリンダヘッド取付面にボルト締結するための前記ボルト部材を挿入するボルト挿入孔及びシリンダボアに対応して開口する貫通孔を備えたダミーヘッド本体と、
前記ダミーヘッド本体の締結面にスリーブ固定用ボルトにより締結される環状のフランジ部及び該フランジ部に基端が結合されて前記貫通孔内に嵌挿すると共に先端にシリンダボア部の頂面を押圧する環状のボア接触面を有する円筒部よりなるボア押し込み用スリーブとを備え、
該ボア押し込み用スリーブのフランジ部の一部に該フランジ部の厚さの異なる部位を形成する変形制御部を備えたことを特徴とする、シリンダブロック加工用ダミーヘッド。
【請求項2】
前記円筒部のボア接触面は、
シリンダブロックのシリンダボア部側に向かって突出して円筒部の周方向に沿って連続する頂端を有する凸形状であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッド。
【請求項3】
前記変形制御部は、
前記フランジ部の頂面に形成された溝状乃至コ字状の切り欠きであることを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッド。
【請求項4】
前記変形制御部は、
前記フランジ部と円筒部との連結部を、該連結部のコーナ部に沿った面取りであることを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッド。
【請求項5】
前記変形制御部は、
前記フランジ部と円筒部との連結部を、該連結部のコーナ部に沿って断面L字状に切り欠き形成された切り欠きであることを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッド。
【請求項6】
前記押し込み用スリーブをダミーヘッド本体に取り付けた状態においてダミーヘッド本体の合わせ面から円筒部のボア接触面が突出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッド。
【請求項7】
前記ダミーヘッド本体は、複数のシリンダボアに対応して複数の貫通孔を有し、上記ボア押し込み用スリーブが各貫通孔毎に独立して配置されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリンダブロック加工用ダミーヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−16767(P2012−16767A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154493(P2010−154493)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】