説明

シリンダヘッドの冷却構造

【課題】オイル戻りの機能を維持しつつ、冷却口を拡大し、シリンダヘッドの冷却効果を高めると共に、底壁を流れるオイルの冷却効果を高めることができるシリンダヘッドの冷却構造の提供。
【解決手段】シリンダヘッド7の下部に燃焼室14を設けると共に、上部に前記燃焼室14と底壁を介して区画される動弁室を設け、シリンダヘッド7の側部にカムチェーン室51を設け、前記底壁にオイル戻り通路を設け、前記燃焼室14と前記動弁室との間であってシリンダヘッド7の前部に排気ポート16を設けたシリンダヘッドの冷却構造であって、前記排気ポート16と前記底壁との間に冷却風導入口60を設け、前記底壁を車両左右方向で前記カムチェーン室51に向かって傾斜させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動二輪車等に搭載される空冷式4サイクル内燃機関のシリンダヘッドの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空冷式4サイクル内燃機関においては、シリンダヘッド内の動弁室と吸排気ポートとを仕切る底壁を設け、この底壁を含めたシリンダヘッド内部をオイルで冷却すると共に、シリンダヘッドに冷却風通路を設け、シリンダヘッドを走行風で冷却する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−329002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、点火プラグの周囲に冷却風通路が形成されているため、高温下に晒される点火プラグ周りの温度を低下させることができるが、排気ポートを流れる燃焼した排気ガスにより排気ポートの温度が上昇すると、この排気ポートの熱によってシリンダヘッドから回収されるオイルの温度が高くなってしまうという課題がある。
そこで、この発明は、オイル戻りの機能を維持しつつ、冷却口を拡大し、シリンダヘッドの冷却効果を高めると共に、底壁を流れるオイルの冷却効果を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、シリンダヘッド(例えば、実施形態におけるシリンダヘッド7)の下部に燃焼室(例えば、実施形態における燃焼室14)を設けると共に、上部に前記燃焼室と底壁(例えば、実施形態における底壁20)を介して区画される動弁室(例えば、実施形態における動弁室21)を設け、シリンダヘッドの側部にカムチェーン室(例えば、実施形態におけるカムチェーン室51)を設け、前記底壁にオイル戻り通路(例えば、実施形態におけるオイル戻り通路53)を設け、前記燃焼室と前記動弁室との間であってシリンダヘッドの前部に排気ポート(例えば、実施形態における排気ポート16)を設けたシリンダヘッドの冷却構造であって、前記底壁を車両左右方向で前記排気ポートの上方から前記カムチェーン室に向かって傾斜させることにより、前記排気ポートと前記底壁との間に冷却風導入口(例えば、実施形態における冷却風導入口60)を設けたことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記排気ポートの周囲に排気管(例えば、実施形態における排気管9)のフランジ(例えば、実施形態におけるフランジ部9a)を締結するフランジ締結部(例えば、実施形態におけるフランジ締結部62,63)を設け、前記フランジ締結部と前記底壁との間に前記冷却風導入口を設けたことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、前記フランジ締結部は前記排気管のフランジを締結する上側のフランジ締結部(例えば、実施形態におけるフランジ締結部62)と下側のフランジ締結部(例えば、実施形態におけるフランジ締結部63)とで構成され、前記冷却風導入口は前記上側のフランジ締結部の上方から下側のフランジ締結部の周囲に渡って設けられることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した発明は、前記下側のフランジ締結部の周囲の前記冷却風導入口(例えば、実施形態における左側導入口66)は、車両前後方向前側に向かって外側に拡大するように傾斜していることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載した発明は、前記燃焼室に連通する吸気ポート(例えば、実施形態における吸気ポート17)を設け、前記吸気ポートの周囲に前記排気ポート側に設けた冷却風導入口に連なる連通路(例えば、実施形態における連通路70)を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載した発明は、前記連通路を前記吸気ポートの上方に設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載した発明は、前記燃焼室の背面に、前記燃焼室に連通する点火プラグ取付部(例えば、実施形態における点火プラグ取付部34)を設け、該点火プラグ取付部の上方に前記冷却風導入口と前記連通路に連通する連通部(例えば、実施形態における挿入凹部33)を設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載した発明は、前記シリンダヘッドの底壁に、前記カムチェーン室にオイルをガイドするためのガイド部(例えば、実施形態におけるガイド部54)を設け、該ガイド部は前記カムチェーン室内に向けて傾斜していることを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載した発明は、前記排気ポートに新気を供給する二次空気配管取付部(例えば、実施形態における二次空気配管取付部41)を設け、この二次空気配管取付部の上壁が車両前後方向で前側に傾斜していることを特徴とする。
【0014】
請求項10に記載した発明は、前記シリンダヘッドとシリンダブロック(例えば、実施形態におけるシリンダブロック6)との取り付け面(例えば、実施形態における取り付け面S)に略平行に、前記シリンダヘッドと別体に形成されたシリンダヘッドカバー(例えば、実施形態におけるシリンダヘッドカバー8)が取り付け可能に構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項11に記載した発明は、前記シリンダヘッドと前記シリンダヘッドカバーとが、前記シリンダヘッドの前記シリンダヘッドカバーに対する接合部(例えば、実施形態における接合部M)をシールするゴムパッキン(例えば、実施形態におけるゴムパッキン37)を介して取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載した発明によれば、オイル戻り通路が排気ポートから離れるためオイルの温度の上昇を抑えることができ、冷却風導入口を広く確保して冷却風導入口から導入される冷却風によって底壁を広い範囲で冷却することができるため、オイル戻りの機能を維持しつつ、冷却口を拡大し、シリンダヘッドの冷却効果を高めると共に、底壁を流れるオイルの冷却効果を高めることができる効果がある。
また、冷却風導入口を広く確保することが惰肉を取り除くこととなり、シリンダヘッドの軽量化を図ることができる効果がある。
更に、オイル戻り通路のオイルがカムチェーン室に向かって滞留せずに流れるため、オイル戻りが従来通り良好となり、オイルによる冷却効果を高められる効果がある。
請求項2に記載した発明によれば、排気管の取付部を確保できると共に、オイル戻り通路が排気ポートから離れるためオイルの温度の上昇を抑えることができ、冷却風導入口を広く確保して冷却風導入口から導入される冷却風によって底壁を広い範囲で冷却し、シリンダヘッド及びオイルを効果的に冷却できる効果がある。
また、冷却風導入口を広く確保することが惰肉を取り除くこととなり、シリンダヘッドの軽量化を図ることができる効果がある。
請求項3に記載した発明によれば、排気管のフランジの取付部を確保できると共に、オイル戻り通路が排気ポートから離れるためオイルの温度の上昇を抑えることができ、冷却風導入口を広く確保して冷却風導入口から導入される冷却風によって底壁を広い範囲で冷却し、シリンダヘッド及びオイルを効果的に冷却できる効果がある。
また、冷却風導入口を広く確保することが惰肉を取り除くこととなり、シリンダヘッドの軽量化を図ることができる効果がある。
請求項4に記載した発明によれば、前側から広い範囲で走行風を取り込み易くできるため、シリンダヘッド及び底壁の冷却性能を向上することができる効果がある。
請求項5に記載した発明によれば、吸気ポート側が閉塞している場合に比較して、吸気ポート側の圧力が低下するので冷却風導入口から取り入れた走行風が内部に停滞すること無くスムーズに流れることができシリンダヘッド及びオイルを効果的に冷却できる効果がある。
請求項6に記載した発明によれば、冷却風導入口と同様に上側に冷却風が流れるため、冷却風がスムーズに流れると共に、底壁に近い方を連通させることにより、吸気ポートの下方に設けた場合に比較してオイルを効果的に冷却できる効果がある。
請求項7に記載した発明によれば、点火プラグ取付部側が閉塞している場合に比較して、点火プラグ取付部側の圧力が低下するので冷却風導入口から取り入れた走行風が内部に停滞すること無くスムーズに流れることができ点火プラグ取付部の周囲を効果的に冷却できる効果がある。
請求項8に記載した発明によれば、底壁を流れカムチェーン室に向かうオイルをガイド部により確実に案内できるので、オイル戻りが従来通り良好となりオイルをスムーズに回収することができる効果がある。
請求項9に記載した発明によれば、走行風を二次空気配管取付部の上壁の上方に導き易くなるため、シリンダヘッド及び底壁を冷却できる効果がある。
請求項10に記載した発明によれば、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとを一体にした場合に比較して、メンテナンス性が向上すると共に、シリンダヘッドのシリンダヘッドカバーの取付部側に大きな成形型を用いることができるため、生産性が向上する効果がある。
請求項11に記載した発明によれば、冷却風によりシリンダヘッドを効果的に冷却できるため、ゴムパッキンが高温に晒されるのを回避できゴムパッキンの耐久性を向上することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施形態のシリンダヘッドを備えた自動二輪車の部分側面図である。
【図2】図4のA−A線に沿うエンジンの断面図である。
【図3】この発明の実施形態のシリンダヘッドの右側面図である。
【図4】この発明の実施形態のシリンダヘッドの平面図である。
【図5】図8のD−D線に沿う断面図である。
【図6】図4のB−B線に沿う断面図である。
【図7】図4のC−C線に沿う断面図である。
【図8】この発明の実施形態のシリンダヘッドの正面図である。
【図9】この発明の実施形態のシリンダヘッドの後面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この実施形態の空冷式4サイクルエンジンを備えた自動二輪車の部分側面図である。尚、以下の図中FRは車体前方、RRは車体後方、Lは車体左方、Rは車体右方を示している。
ヘッドパイプ1には、後方に向かって延びその後下方に下がる左右一対のメインフレーム2,2と、斜め後方下方に向かって延びる左右一対のダウンフレーム3,3が取り付けられている。メインフレーム2,2とダウンフレーム3,3の下端には、これらメインフレーム2,2とダウンフレーム3,3とを連結するように、取付部材を介してエンジン4が懸架されている。エンジン4は、外側のケースとしてクランクケース5、シリンダブロック6、シリンダヘッド7、シリンダヘッドカバー8によって構成され、シリンダヘッド7がやや前側に傾斜した状態で搭載されている。
【0019】
エンジン4のシリンダヘッド7の前面には排気管9が接続され、下流側にサイレンサ10が接続されている。シリンダヘッド7の後面には吸気管11が接続され、吸気管11にはスロットルバルブ12が介装され、スロットルバルブ12の上流側にエアクリーナ13が取り付けられている。
【0020】
図2は、エンジン4のシリンダヘッド7をシリンダブロック6の一部とシリンダヘッドカバー8と共に示した図4のA−A線に沿う断面図である。図3はシリンダヘッドの右側面図である。
図2に示すように、シリンダヘッド7の下部にはシリンダブロック6のシリンダ内壁に対応する位置に燃焼室14が凹設されている。シリンダブロック6内を上下動するピストン15によって圧縮された燃料と空気の混合気がこの燃焼室14で燃焼してピストン15を押し下げる。燃焼室14にはシリンダヘッド7の前部に向かって湾曲して延びる排気ポート16と、シリンダヘッド7の後部に向かって湾曲して延びる吸気ポート17が接続され、吸気ポート17と排気ポート16は燃焼室14の各弁座18a,19aを開閉する吸気弁18と排気弁19とにより開閉される。
【0021】
シリンダヘッド7の上部には底壁20を介して燃焼室14と区画される動弁室21が設けられている。底壁20にはカムシャフト22やロッカーアーム23のロッカーアームシャフト24を支持するシャフト支持部25が立設されている。
具体的には図3に示すように、シャフト支持部25にはカムシャフト22の支持孔26が車両左右方向に穿設されている。支持孔26の上部には支持孔26に対して車両前後方向に振り分けられた一対のロッカーアームシャフト24の支持孔27,27が車両左右方向に穿設されている。尚、図2ではシャフト支持部25にはカムシャフト22のカム28の逃げ孔29が形成されている。
底壁20には吸気弁18と排気弁19を案内する吸気弁ガイド30と排気弁ガイド31が燃焼室14に向かって挿通固定されている。
【0022】
図3に示すように、シリンダヘッド7の周壁には空冷用フィン32が形成されている。シリンダヘッド7の右側部の下部には空冷用フィン32の一部を切除し内部がくり抜かれて点火プラグの挿入凹部33が形成されている。この挿入凹部33の下面35は燃焼室14の背面となっており、ここにネジ孔である点火プラグ取付部34が形成されている。この挿入凹部33が後述する排気ポート16側の冷却風導入口60と吸気ポート17側の連通路70に連通している。
また、シリンダヘッド7の右側部には排気ポート16に新気を供給して排気ガスを浄化する二次空気配管40の取付部である二次空気配管取付部41が設けられている。二次空気配管取付部41は排気ポート16と接続路42によって連通している(図5参照)。二次空気配管取付部41は長軸側を車両前後方向で、かつ前側をやや下に傾斜した状態にして配置されている。二次空気配管取付部41は両端部にボルトの締結部43,43を備え、上壁44と下壁45がへの字状に屈曲形成(鈍角で折れ曲るように形成)されている。
図1に示すように、二次空気配管取付部41に取り付けられた二次空気配管40は斜め前方上側に延び、エアクリーナ13の下流側に接続されている。
【0023】
ここで、図2に示すように、シリンダヘッド7の周壁36の上面には、シリンダヘッド7とシリンダブロック6との取り付け面Sに略平行な比較的幅の細い接合部Mが形成されている。一方、シリンダヘッド7とは別体に形成されたシリンダヘッドカバー8はシリンダヘッド7の上部の動弁室21を覆うものである。シリンダヘッド7の接合部Mにシリンダヘッドカバー8の周端面Tをゴムパッキン37を挟み込んだ状態で当接させて、シリンダヘッド7にシリンダヘッドカバー8が取り付けられている。ここで、ゴムパッキン37の上部には、シリンダヘッドカバー8の周端面Tの溝38に挿入され、下部よりも幅の狭い突条39が形成されている。
尚、シリンダヘッドカバー8は上面に図示しないボルトを挿通し、シャフト支持部25の上面のヘッドカバー取付ネジ孔46にこのボルトを締め付けてシリンダヘッド7に締結固定されている。
【0024】
図4はシリンダヘッドの平面図である。図4に示すように、シリンダヘッド7のシャフト支持部25の上面には図示しないボルトを挿通してシリンダヘッド7をシリンダブロック6に固定するための4つの締結孔47が設けられている。ここで、シャフト支持部25の右後部にはシリンダヘッドカバー8にオイルを送り出しシリンダヘッドカバー8から動弁室21にオイルを供給するためのオイル通路48が形成されている。
シリンダヘッド7の左側部には底壁20に平面視で車体前後方向に延びる長四角形状の開口部50を備えたカムチェーン室51が設けられている。このカムチェーン室51は、動弁室21のシャフト支持部25に支持されたカムシャフト22を図示しないカムスプロケットを介して駆動するカムチェーンが走行する空間部分である。
図6は図4のB−B線に沿う断面図である。図6に示すように、カムチェーン室51は外側部分をシリンダヘッド7の左側壁と前壁と後壁とで囲まれ、かつ内側部分は点火プラグ取付部34のために形成された挿入凹部33の後壁52で形成され、下部はシリンダブロック6側に開放されている。
【0025】
図4に示すように、シリンダヘッド7の底壁20にはシリンダヘッド7の前壁寄りに、シリンダヘッド7の右側壁から左側壁に向かって傾斜して、底壁20に滞留するオイルを開口部50の前側端部に導く(矢印で示す)オイル戻り通路53が形成されている。このオイル戻り通路53は開口部50の手前位置においてそれまで車両左右方向に設定されていた経路を開口部50の前端に向かって後方にガイドしてカムチェーン室51に導くよう斜めに傾斜したガイド部54を備えている。ここで、ガイド部54はカムチェーン室51内に向けて傾斜している。図7は図4のC−C線に沿う断面図である。図7はガイド部54が手前側に向かって下がるように傾斜してカムチェーン室51に連続している状況を示している。
【0026】
図8はシリンダヘッドの正面図である。図8に示すように、排気ポート16はシリンダヘッド7の前部であって、図示しない燃焼室14と動弁室21との間に開口しており、排気ポート16とシリンダヘッド7の底壁20との間に冷却風導入口60が形成されている。
具体的には、排気ポート16は排気管9のフランジ部9a(図1参照)を取り付ける排気管取付部61を備えている。排気管取付部61は略菱形形状に形成され、長手方向の両端部には排気ポート16の周囲にネジ孔であるフランジ締結部62,63が設けられ、このフランジ締結部62.63と底壁20との間に冷却風導入口60が設けられている。
【0027】
略菱形に形成された排気管取付部61はシリンダヘッド7の左側部にカムチェーン室51が配置されている関係で、車両の右寄り(シリンダヘッド7の正面から見て左寄り)に配置され、右側のフランジ締結部62が上側に、左側のフランジ締結部63が下側に位置している。冷却風導入口60は上側のフランジ締結部62の上方から下側のフランジ締結部63の周囲に渡って設けられている。
ここで、冷却風導入口60は上側のフランジ締結部62と下側のフランジ締結部63との中央部であって排気ポート16の中心位置の上方に底壁20に接続するリブ64で分割されている。
したがって、冷却風導入口60はリブ64を境にして車両右側が四角形状の右側導入口65として形成され、リブ64を境にして車両左側が、下縁が排気管取付部61の周囲に沿い、上縁が斜め下側に傾斜する左側導入口66として形成され、この左側導入口66は車両前後方向前側に向かって外側が拡大する傾斜壁67を備えている。尚、右側導入口65も車両前後方向前側に向かって外側が拡大する傾斜部68を備えている。
【0028】
図9はシリンダヘッドの後面図である。図9に示すように、吸気ポート17はシリンダヘッド7の後部であって、図示しない燃焼室14と動弁室21との間に開口しており、吸気ポート17の周囲には排気ポート16の上側に形成された冷却風導入口60に連通する連通路70が形成されている。
具体的には、吸気ポート17は吸気管11のフランジ部11a(図1参照)を取り付ける吸気管取付部71を備えている。吸気管取付部71は略菱形形状に形成され、長手方向の両端部には吸気ポート17の周囲にネジ孔であるフランジ締結部72,73が設けられている。
【0029】
略菱形に形成された吸気管取付部71はシリンダヘッド7の左側部にカムチェーン室51が配置されている関係で、車両の右寄りに配置され、車両の左側のフランジ締結部72が上側に、右側のフランジ締結部73が下側に位置している。連通路70は上側のフランジ締結部72の上方の左上連通路75と、吸気管取付部71と底壁20との間を結ぶリブ74を境にして設けられた下側のフランジ締結部73の上方の右上連通路76と、上側のフランジ締結部72の下方の左下連通路77とで構成されている。つまり、吸気管取付部71の上方では底壁20との間に冷却風導入口60に連なる左上連通路75と右上連通路76とが設けられている。
【0030】
図5は図8のD−D線に沿う断面図である。図5にも示すように、シリンダヘッド7の前部の冷却風導入口60は、右側導入口65が外側壁が斜め右前側に開くように傾斜部68を備え、左側導入口66は、外側壁が斜め左前側に開くように傾斜壁67を備え、底壁20と排気ポート16との間に開口している。ここで、冷却風導入口60の前側にはダウンフレーム3,3が配置されているが、このダウンフレーム3,3の間をカバーするように傾斜壁67、傾斜部68が外側に向かって開いて形成されている。
そして、この冷却風導入口60はシリンダヘッド7の側部の点火プラグ取付部34の挿入凹部33に連通すると共に、シリンダヘッド7の後部の吸気ポート17の連通路70にも連通し、これら冷却風導入口60と点火プラグ取付部34の挿入凹部33と連通路70の上方にシリンダヘッド7の底壁20が位置し、燃焼室14と動弁室21とを区画する底壁20の下方であって車両の左右方向略中央部に走行時の冷却風の流路を形成することが可能となる。
【0031】
上記実施形態によれば、自動二輪車が走行を開始すると、シリンダヘッド7の前部に形成され、かつ排気ポート16の上方からカムチェーン室51に向かって傾斜した底壁20と排気ポート16との間に広い空間を設けた冷却風導入口60(右側導入口65、左側導入口66)から走行風が導入され、この走行風は吸気ポート17の上方(左上連通路75、右上連通路76)及び下方(左下連通路77)の連通路70から後方に排出される。この時、冷却風は点火プラグ取付部34の挿入凹部33においては、冷却風導入口60から連通路70に抜ける走行風に引き込まれるように外気を取り込み、点火プラグ取付部34を冷却しながら後方に流れてゆく。
ところで、シリンダヘッド7の底壁20上では前側に設けられたオイル戻り通路53を車両右側から左側へとオイルが流れガイド部54において左回りに曲がりながらカムチェーン室51の開口部50の前側端部へと流れてゆく。
【0032】
ここで、走行風は底壁20の下を冷却風としてスムーズに流れ、かつ底壁20のオイル戻り通路53が排気ポート16から距離を隔てて配置されることとなるため、底壁20のオイル戻り通路53を流れるオイルの温度上昇を抑えることができる。よって、オイル戻り通路53が排気ポート16から離れる分だけ冷却風導入口60を広く確保して、冷却風導入口60から導入される冷却風によって底壁20を広い範囲で冷却することができため、シリンダヘッド7の冷却効果を高めると共に、底壁20を流れるオイルの冷却効果を高めることができる。したがって、シリンダヘッド7及びオイルを効果的に冷却できる。
【0033】
そして、オイル戻り通路53が左側へ下がるように斜めに形成され、端末においてはガイド部54により更に傾斜してカムチェーン室51に案内されるため、オイルはカムチェーン室51に向かって滞留せずにスムーズに流れる。したがって、オイル戻りが従来通り良好となり、オイル戻りの機能を維持しつつオイルをスムーズに回収できオイルによる冷却効果も高められる。
また、冷却風導入口60を広く確保することが惰肉を取り除くこととなり、シリンダヘッド7の軽量化を図ることができる。
【0034】
とりわけ、下側のフランジ締結部63の周囲の冷却風導入口である左側導入口66は、車両前後方向前側に向かって外側に拡大するように傾斜している傾斜壁67を備えているため、前側から広い範囲で走行風を取り込み易くでき、シリンダヘッド7及び底壁20の冷却性能を向上することができる。また、上側のフランジ締結部62の上方の冷却風導入口である右側導入口65にも外側壁が斜め右前側に開くような傾斜部68を備えているため、この部分においても効果的に冷却風を取り込むことができる。
ここで、冷却風導入口60は排気ポート16の上側のフランジ締結部62と下側のフランジ締結部63の上方に形成されているため、排気管9のフランジ部9aの取付部を確実に確保できる。
【0035】
そして、吸気ポート17の周囲に排気ポート16側に設けた冷却風導入口60に連なる連通路70を設けたことにより、冷却風導入口60のみが形成され吸気ポート17側が閉塞している場合に比較して、吸気ポート17側の圧力が低下するので、冷却風導入口60から取り入れた走行風を内部に停滞することなくスムーズに流すことができシリンダヘッド7及びオイルを効果的に冷却できる。
勿論、この吸気ポート17側の連通路70も冷却風導入口60と同様に上側に冷却風が流れる左上連通路75と右上連通路76を備えているため、冷却風がスムーズに流れると共に、底壁20に近い方を排気ポート16側と連通させることにより、吸気ポート17の下方にのみ設けた場合に比較してオイルを効果的に冷却できる。
【0036】
更に、燃焼室14の背面に設けた点火プラグ取付部34の上方に冷却風導入口60と連通路70に連通する挿入凹部33を設けたことにより、点火プラグ取付部34側が閉塞している場合に比較して、点火プラグ取付部34側の圧力が低下するので冷却風導入口60から取り入れた走行風が内部に停滞することなくスムーズに流れ点火プラグ取付部34の周囲を効果的に冷却できる。
【0037】
そして、排気ポート16に新気を供給する二次空気配管取付部41の上壁44が車両前後方向で前側に傾斜していることにより、走行風を二次空気配管取付部41の上壁44の上方において流速を速くして導き易くなるため、側方を通過する走行風でシリンダヘッド7及び底壁20を冷却できる。
そして、シリンダヘッド7とシリンダブロック6との取り付け面Sに略平行に、シリンダヘッド7と別体に形成されたシリンダヘッドカバー8がシリンダヘッド7の接合部Mで取り付け可能に構成されているため、シリンダヘッド7とシリンダヘッドカバー8とを一体にした場合に比較して、メンテナンス性が向上すると共に、シリンダヘッド7のシリンダヘッドカバー8の取付部側に大きな成形型を用いることができる。よって、シリンダヘッド7の上部を部分的に小さな蓋で閉塞して、小さな中子を使用しなければならない従来構造に比較して生産性を向上できる。
【0038】
そして、シリンダヘッド7のシリンダヘッドカバー8に対する接合部Mをシールするゴムパッキン37を、シリンダヘッドカバー8の周端面Tに突条39を挟み込んだ状態でシリンダヘッド7とシリンダヘッドカバー8との間に介装して両者が取り付けられていることにより、冷却風により効果的に冷却されるシリンダヘッド7によりゴムパッキン37が高温に晒されるのを回避でき、ゴムパッキン37の耐久性を向上することができる。
【0039】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、自動二輪車に限られるものではなく、三輪、四輪等の鞍乗り型車両に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
6 シリンダブロック
7 シリンダヘッド
8 シリンダヘッドカバー
9 排気管
9a フランジ部(フランジ)
16 排気ポート
17 吸気ポート
20 底壁
21 動弁室
33 連通部(挿入凹部)
34 点火プラグ取付部
37 ゴムパッキン
41 二次空気配管取付部
51 カムチェーン室
53 オイル戻り通路
54 ガイド部
60 冷却風導入口
62 フランジ締結部
63 フランジ締結部
66 左側導入口
70 連通路
S 取り付け面
M 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドの下部に燃焼室を設けると共に、上部に前記燃焼室と底壁を介して区画される動弁室を設け、シリンダヘッドの側部にカムチェーン室を設け、前記底壁にオイル戻り通路を設け、前記燃焼室と前記動弁室との間であってシリンダヘッドの前部に排気ポートを設けたシリンダヘッドの冷却構造であって、前記底壁を車両左右方向で前記排気ポートの上方から前記カムチェーン室に向かって傾斜させることにより、前記排気ポートと前記底壁との間に冷却風導入口を設けたことを特徴とするシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項2】
前記排気ポートの周囲に排気管のフランジを締結するフランジ締結部を設け、前記フランジ締結部と前記底壁との間に前記冷却風導入口を設けたことを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項3】
前記フランジ締結部は前記排気管のフランジを締結する上側のフランジ締結部と下側のフランジ締結部とで構成され、前記冷却風導入口は前記上側のフランジ締結部の上方から下側のフランジ締結部の周囲に渡って設けられることを特徴とする請求項2記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項4】
前記下側のフランジ締結部の周囲の前記冷却風導入口は、車両前後方向前側に向かって外側に拡大するように傾斜していることを特徴とする請求項3記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項5】
前記燃焼室に連通する吸気ポートを設け、前記吸気ポートの周囲に前記排気ポート側に設けた冷却風導入口に連なる連通路を設けたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項6】
前記連通路を前記吸気ポートの上方に設けたことを特徴とする請求項5記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項7】
前記燃焼室の背面に、前記燃焼室に連通する点火プラグ取付部を設け、該点火プラグ取付部の上方に前記冷却風導入口と前記連通路に連通する連通部を設けたことを特徴とする請求項5または請求項6記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項8】
前記シリンダヘッドの底壁に、前記カムチェーン室にオイルをガイドするためのガイド部を設け、該ガイド部は前記カムチェーン室内に向けて傾斜していることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項9】
前記排気ポートに新気を供給する二次空気配管取付部を設け、この二次空気配管取付部の上壁が車両前後方向で前側に傾斜していることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項10】
前記シリンダヘッドとシリンダブロックとの取り付け面に略平行に、前記シリンダヘッドと別体に形成されたシリンダヘッドカバーが取り付け可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のシリンダヘッドの冷却構造。
【請求項11】
前記シリンダヘッドと前記シリンダヘッドカバーとが、前記シリンダヘッドの前記シリンダヘッドカバーに対する接合部をシールするゴムパッキンを介して取り付けられていることを特徴とする請求項10記載のシリンダヘッドの冷却構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−159703(P2010−159703A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2681(P2009−2681)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】