説明

シリンダヘッド加工用クランプパッド及びシリンダヘッドの加工方法

【課題】シリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた際に、カム穴の断面形状が真円にすることができる様なシリンダヘッド加工用クランプパッド及びシリンダヘッドの加工方法の提供。
【解決手段】長手方向両端部15aの径寸法Dが長手方向中央部15cの径寸法dよりも大きく、ヘッドボルト座面の径寸法に等しいクランプパッド15を用いて、シリンダヘッドを、その歪がヘッドボルトによりシリンダブロックに組み付けた際の歪と等しくなるようクランプにより押圧したのち、カム穴を加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッド(例えばOHC型弁を装着用のシリンダヘッド)にカム穴を加工する際に用いられるクランプに取り付けられるパッドと、当該クランプ及びパッドを用いてシリンダヘッドにカム穴を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドに形成してカム軸を回転自在に支持するためのカム穴は、断面を真円形状に加工する必要が必須である。
係る加工に際しては、本発明の態様を説明するための図1を参照して、ワークであるシリンダヘッド20をクランプ9により把持し、クランプ9でシリンダヘッド20を押圧して固定していた。
クランプ9とシリンダヘッド20との間には、パッド15が介在しており、従来は、クランプする際に、当該パッド15が歪まないように、パッド15の材質や形状を設定していた。
例えば、熱処理(焼入れ処理)がされた強度の高い材質のバッドを使用していた。
【0003】
しかし、エンジン組み付けに際して、図5において、ヘッドボルト24によりシリンダヘッド20をシリンダブロック30に締結すると、組立公差等に起因して、図5においては、矢印C方向に歪がシリンダヘッド20に発生し、その結果、断面が真円となるべきカム穴3(図1参照)の断面形状も、楕円形に歪んでしまっていた。
カム穴3の断面形状が楕円形に歪んでしまうと、カム軸が所定の位置からずれて、動弁機構の再重要な弁の開閉作動がカムプロファイルからずれる不具合が発生する。その結果、エンジンの性能が損なわれ、動弁機構の寿命が減少する。また、騒音発生の原因になる。
【0004】
その他の従来技術として、熱膨張率を吸収するための凹部をワークに形成する技術も存在する(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)は熱膨張、熱収縮に対処することを目的としており、上述した組み立ての際に発生する歪みによる問題に対処するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−192064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、シリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた際に、カム穴の断面形状が真円にすることができる様なシリンダヘッド加工用クランプパッド及びシリンダヘッドの加工方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシリンダヘッド加工用クランプパッド(15)は、
シリンダヘッド(20)にカム穴(3)を加工するときにシリンダヘッド(20)を押圧するクランプ(9)に取り付けられ、クランプ(9)とシリンダヘッド(20)との間に介在する位置に設けられており、
クランプ(20)により押圧された際に、接触しているシリンダヘッド(20)に歪を生ぜしめ、当該歪は、ヘッドボルト(24)によりシリンダヘッド(20)をシリンダブロック(30)に組み付けた際にシリンダヘッド(20)に生じる歪と等しく、
全体が回転体形状をしており、長手方向両端部(15a)の径寸法(D)が長手方向中央部(15c)の径寸法(d)よりも大きく、
長手方向両端部(15a)の径寸法(D)は、接触しているシリンダヘッド(20)用のヘッドボルト(24)座面の径寸法(24c)に等しく、
長手方向中央部(15c)の径寸法(d)は、長手方向両端部(15a)の径寸法(D)の36%〜44%であることを特徴としている。
【0008】
本発明において、長手方向中央部15cの径寸法(d)は、長手方向両端部(15a)の径寸法(D)の40%であるのが好ましい。
【0009】
本発明のシリンダヘッド加工用クランプパッド(15)(請求項1のシリンダヘッド加工用クランプパッド15)を用いたシリンダヘッド(20)の加工方法は、
シリンダヘッド(20)にカム穴(3)を加工するに際して、パッド(15)を介して、クランプ(9)によりシリンダヘッド(20)を押圧して保持する工程を備え、
前記パッド(15)は、
全体が回転体形状をしており、長手方向両端部(15a)の径寸法(D)が長手方向中央部(15c)の径寸法(d)よりも大きく、長手方向両端部(15a)の径寸法(D)は、接触しているシリンダヘッド(20)用のヘッドボルト(24)座面(24c)の径寸法(24d)に等しく、長手方向中央部(15c)の径寸法(d)は、長手方向両端部(15a)の径寸法(D)の36%〜44%(特に好ましくは40%)であり、
クランプ(9)により押圧力が付加された際に、前記パッド(15)に接触しているシリンダヘッド(20)に、ヘッドボルト(24)によりシリンダヘッド(20)をシリンダブロック(30)に組み付けた際に当該シリンダヘッド(20)に生じる歪と等しい歪を生じさせる工程と、
(その様な歪がシリンダヘッド(20)に生じた状態で)シリンダヘッド(20)に断面真円形のカム穴(3)を加工する工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上述する構成を具備する本発明によれば、パッドの形状及び寸法を上述した通りにすることにより、ワークであるシリンダヘッドに対してクランプにより押圧力が付加された際に、本発明のパッドは適度に歪む(撓む)ため、本発明のパッドに接触しているシリンダヘッドには、ヘッドボルトにより当該シリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた際にシリンダヘッドに生じる歪と等しい歪が生じる。このことは、出願人の実験からも明らかである。
すなわち、本発明のパッドを用いて、被加工ワークであるシリンダヘッドをクランプで保持すれば、ヘッドボルトによりシリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた状態を実現することが出来る。
【0011】
そして、ボルトヘッドによりシリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた状態を実現した状態で、シリンダヘッドに断面真円形のカム穴を加工すれば、当該シリンダヘッドをクランプから外した際には、カム穴は真円に対して歪んだ断面形状になるが、ヘッドボルトにより当該シリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた際には、当該カム穴の断面形状は真円になる。
すなわち、本発明によれば、ヘッドボルトにより当該シリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた際には、当該カム穴の断面形状は真円形状から歪んでしまうという問題を解消することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態を説明する構成図である。
【図2】図1の構成で使用されるクランプパッドの側面図である。
【図3】図2の正面図である。
【図4】図1におけるクランプパッドの作用を説明する図である。
【図5】ヘッドボルトによりシリンブロックにシリンダダヘッドを締結した状態を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に使用するクランプパッドの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1〜図5によって、本発明の第1実施形態について説明する。第1実施形態を説明するに際して、第1実施形態に係るクランクパッド15を用いたクランプであって、真円のカム穴3を加工するクランプについて、その全体構造を説明する。
図1において、ジグベース4にシリンダ5が立設されている。リンク固定部材10が、シリンダ5に平行して立設されている。
シリンダ5の上部にピン6が設けられている。
【0014】
クランプ9のシリンダヘッド20側に、ピン13が取付けられている。
リンク固定部材10にピン12が取付けられている。
ピン13とピン12の間に、リンク14が揺動可能に取付けられている。
クランプ9の端部9eの下方に、本発明の主要部材であるクランプパッド15が配置されている。
ピン6には、クランプ9が回動可能に取付けられている。
【0015】
ジグベース4の端部4eに、サブシリンダ16cが立設されている。サブシリンダ16cの上部にサブクランプ16が取付けられている。
クランプ9とサブクランプ16の間に、OHC型弁を装着用のシリンダヘッド20が配置されている。
【0016】
シリンダヘッド2の、カム穴3とカムブラケット17が、クランプ9の端部9eの近傍下方に配置されている。カム穴3とカムブラケット17の間に、ヘッドボルト穴25が設けられている。
ヘッドボルト穴25の上部のボルト座面25b(図4参照)と、クランプ端部9eの下面との間に、クランプパッド15が介在されている。
シリンダヘッド20の端部20eは、サブクランプ16によって押圧固定されている。
【0017】
図2〜図5によって、クランプパッド15の形態を説明する。
図2〜図5において、クランプパッド15は、全体が長さLの回転体形状をしている。長手方向の両端部15a、15aは、円板状に、径寸法Dに形成されている。
径寸法Dは、図5における、ボルト頭部20hの座部24cの下面である座面24aの径寸法24dと同じに形成されている。
【0018】
長手方向中央部15cは、小径の径寸法dに形成されている。長手方向中央部15cの両端部は、それぞれ、円弧状の曲線Rによって、長手方向の両端部15a、15aの径寸法Dに滑らかに接続されている。
長手方向中央部15cの径寸法dは、長手方向両端部15a、15aの径寸法Dの36%〜44%(特に好ましくは40%)が好ましい。
上記寸法諸元によって、クランプパッド15の長手方向の圧縮剛性は、通常の実用範囲において、線形となるように構成されている。
【0019】
クランプパッド15は、上記形状に加工時の内部歪が、経時変化によって、外部形状が変形しないような鋼材により構成されている。
例えば、S15CあるいはS48Cのような低炭素鋼を選定して、歪とりのための調質熱処理を行って用いている。
【0020】
クランプパッド15における上述した各種寸法や諸元は、発明者による種々の実験によって得られたものである。
発明者による実験では、クランプパッド15の長手方向両端部15a,15a,の径寸法Dが、図5において、接触しているシリンダヘッド20用のボルト頭部20hの座面の径寸法24dよりも小さいと、全体的に径寸法が小さくなり過ぎてしまう。そのため、クランプ9で押圧力を付加した際に、シリンダヘッド20の撓み量が、特にボルト穴25近傍の撓み量が大きくなり過ぎてしまうという不都合があった。
【0021】
一方、クランプパッド15の長手方向両端部15a,15aの径寸法Dが、接触しているシリンダヘッド20用のヘッドボルト24のボルト頭部20hの座面の径寸法24dよりも大きいと、クランプパッド15の長手方向の剛性が高くなり過ぎてしまう。そして、発明者の実験では、クランプパッド15が変形せずに、シリンダヘッド20側に歪を許容しなくなってしまった。
【0022】
また、発明者の実験結果では、長手方向中央部15cの径寸法dが長手方向両端部15a,15aの径寸法Dの36%よりも小さいと、クランプで押圧力を付加した際に、撓み量が大きくなり過ぎてしまった。
【0023】
一方、長手方向中央部15cの径寸法dが長手方向両端部15a、15aの径寸法Dの44%よりも大きいと、クランプパッド15の長手方向の剛性が高くなる。そして、必要な変形が行なわれず、その結果、シリンダヘッド20の歪が、ヘッドボルト24によりシリンダヘッド20をシリンダブロック30に組み付けた際に、シリンダヘッド20に生じる歪よりも小さくなってしまうことが、発明者の実験結果から分った。
【0024】
そして、発明者の研究では、クランプパッド15の長手方向中央部15cの径寸法dは、長手方向両端部15a、15aの径寸法Dの40%であることが、特に好ましかった。
【0025】
上記構成によって、シリンダヘッド20をカム穴3を加工する作業手順を、図1を参照して、以下に説明する。
最初に、シリンダヘッド20の端部20eの上面を、サブクランプ16によって、ジグベース4に固定する。
【0026】
ついで、図1及び図4を参照して、ボルト穴25の上部のボルト座面25bとクランプ端部9eとの間に、クランプパッド15を配置する。
【0027】
クランプパッド15に対して、クランプ9によって、図1において符号Fで示す押圧力Fを付加する。この押圧力Fによって、シリンダヘッド20が歪を発生する。(シリンダヘッドに生じる歪と等しい歪を生じさせる工程)
そして、この歪状態を保持する。(クランプによりシリンダヘッドを押圧して保持する工程)
【0028】
そして、実験によって得られているシリンダヘッド20の歪と同じ歪になる点まで、押圧力Fを付加、保持する。ここで、シリンダヘッド20の歪は、原形に完全に回復可能な弾性変形の範囲であることが前提条件である。
この段階の状態で、カム穴3を穿孔する。(真円形のカム穴を加工する工程)
カム穴3を穿孔したシリンダヘッド20に対して、押圧力Fをゼロにすると、カム穴3は、長径がほぼ上下方向に向いた楕円形となる。
【0029】
上述した構成及び作業により、実際のエンジンの組み立てに際して、ヘッドボルト24を所定のトルクで締めれば、カム穴3は真円になる。そして、カム軸とカム穴3は所定の嵌合状態になる。
【0030】
図6において、本発明の第2実施形態について、第1実施形態と異なる部分を主に説明する。
図6において、クランプパッド15Aは、全体が、円筒の螺旋形状に形成にされている。
【0031】
クランプパッド15Aの材質は、弾性のあるばね鋼による鋼製線材である。クランプパッド15Aは等ピッチの螺旋に形成されている。
全長寸法Lは、第1実施形態で使用したクランプパッド15と同じ長さが好ましい。コイル外径Dsは第1実施形態で使用したクランクパッド15の長手方向端部15aの径寸法Dと同じであることが好ましい。
全長寸法L及び巻き数nは、第1実施形態で使用したクランプパッド15の圧縮剛性と同じ圧縮剛性となる様に設定されるのが好ましい。なお、クランプパッド15Aの圧縮剛性は、第1実施形態に係るクランプパッド15のような線形でなくてもよい。
図6の第2実施形態のその他の構成、加工方法及び作用効果は、図1〜図4の第1実施形態と同様である。
【0032】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、例えばクランプパッド15の材質が弾性を有する材料であれば、鋼材でなくてもよい。また、クランプパッド15Aはコイル状でない丸棒でも可能であって、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない。
【符号の説明】
【0033】
3・・・・カム穴
4・・・・ジグベース
5・・・・シリンダ
6・・・・ピン
9・・・・クランプ
14・・・リンク
15・・・クランプパッド
15a・・クランプパッドの長手方向端部
15c・・クランプパッドの長手方向中央部
16・・・サブクランプ
17・・・カムブラケット
20・・・シリンダヘッド
24・・・ヘッドボルト
24d・・ヘッドボルト頭部の座面の径寸法
30・・・シリンダブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドにカム穴を加工するときにシリンダヘッドを押圧するクランプに取り付けられ、クランプとシリンダヘッドとの間に介在する位置に設けられており、
クランプにより押圧された際に、接触しているシリンダヘッドに歪を生ぜしめ、当該歪は、ヘッドボルトによりシリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた際にシリンダヘッドに生じる歪と等しく、
全体が回転体形状をしており、長手方向両端部の径寸法が長手方向中央部の径寸法よりも大きく、
長手方向両端部の径寸法は、接触しているシリンダヘッド用のヘッドボルト座面の径寸法に等しく、
長手方向中央部の径寸法は、長手方向両端部の径寸法の36%〜44%であることを特徴とするシリンダヘッド加工用クランプパッド。
【請求項2】
請求項1のシリンダヘッド加工用クランプパッドを用いたシリンダヘッドの加工方法において、
シリンダヘッドにカム穴を加工するに際して、パッドを介して、クランプによりシリンダヘッドを押圧して保持する工程を備え、
前記パッドは全体が回転体形状をしており、長手方向両端部の径寸法が長手方向中央部の径寸法よりも大きく、長手方向両端部の径寸法は、接触しているシリンダヘッド用のヘッドボルト座面の径寸法に等しく、長手方向中央部の径寸法は、長手方向両端部の径寸法の36%〜44%であり、
クランプにより押圧力が付加された際に、前記パッドに接触しているシリンダヘッドに、ヘッドボルトによりシリンダヘッドをシリンダブロックに組み付けた際に当該シリンダヘッドに生じる歪と等しい歪を生じさせる工程と、
シリンダヘッドに断面真円形のカム穴を加工する工程を有することを特徴とするシリンダヘッドの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−112275(P2012−112275A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260766(P2010−260766)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】