説明

シリンダボア壁の保温構造体、シリンダボア壁の保温方法、内燃機関及び自動車

【解決課題】シリンダボア壁の壁温の均一性が高い内燃機関を提供すること。
【解決手段】シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部を埋めるための充填部を有することを特徴とするシリンダボア壁の保温構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックのシリンダボア壁を保温するための保温構造体、保温方法、該保温構造体を備える内燃機関及び該内燃機関を有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では、ボア内のピストンの上死点で燃料の爆発が起こり、その爆発によりピストンが押し下げられるという構造上、シリンダボア壁の上側は温度が高くなり、下側は温度が低くなる。そのため、シリンダボア壁の上側と下側では、熱変形量に違いが生じ、上側は大きく膨張し、一方、下側の膨張が小さくなる。
【0003】
その結果、ピストンのシリンダボア壁との摩擦抵抗が大きくなり、これが、燃費を下げる要因となっている。
【0004】
また、ピストンとシリンダボア壁との隙間が、シリンダボア壁の上側と下側とでは異なることになるため、ピストンが振動する。これが、クランクシャフトの揺れにつながり、エネルギーロスの要因となっている。
【0005】
そのため、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくすることが求められている。
【0006】
そこで、従来より、シリンダボア壁の壁温を均一にするために、溝状冷却水流路内にスペーサーを設置し、溝状冷却水流路内の冷却水の水流を調節して、冷却水によるシリンダボア壁の上側の冷却効率と及び下側の冷却効率を制御することが試みられてきた。例えば、特許文献1には、内燃機関のシリンダブロックに形成された溝状冷却用熱媒体流路内に配置されることで該溝状冷却用熱媒体流路内を複数の流路に区画する流路区画部材であって、前記溝状冷却用熱媒体流路の深さに満たない高さに形成され、前記溝状冷却用熱媒体流路内をボア側流路と反ボア側流路とに分割する壁部となる流路分割部材と、前記流路分割部材から前記溝状冷却用熱媒体流路の開口部方向に向けて形成され、かつ先端縁部が前記溝状冷却用熱媒体流路の一方の内面を越えた形に可撓性材料で形成されていることにより、前記溝状冷却用熱媒体流路内への挿入完了後は自身の撓み復元力により前記先端縁部が前記内面に対して前記溝状冷却用熱媒体流路の深さ方向の中間位置にて接触することで前記ボア側流路と前記反ボア側流路とを分離する可撓性リップ部材と、を備えたことを特徴とする内燃機関冷却用熱媒体流路区画部材が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2008−31939号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、引用文献1の内燃機関冷却用熱媒体流路区画部材によれば、ある程度のシリンダボア壁の壁温の均一化が図れるので、シリンダボア壁の上側と下側との熱変形量の違いを少なくすることができるものの、近年、更に、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくすることが求められている。
【0009】
従って、本発明の課題は、シリンダボア壁の壁温の均一性が高い保温構造体、保温方法、該保温構造体を備える内燃機関及び該内燃機関を有する自動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部を、充填部で埋めて、溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断することにより、シリンダボア壁の中下部が保温され、そのことにより、シリンダボア壁の中下部の温度を高めて、シリンダボア壁全体の均一化が図れること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部を埋めるための充填部を有することを特徴とするシリンダボア壁の保温構造体を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記充填部が、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムからなり、
該充填部の上面に配置されているリング部材と、
下端が該リング部材に固定されており、上端がヘッドガスケットに当接することにより、該リング部材を押えるための押え部材と、
を有することを特徴とする(1)のシリンダボア壁の保温構造体を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記充填部が、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムからなり、
該充填部の上面に配置されているリング部材と、
ヘッドガスケットと、
下端が該リング部材に固定され、上端がヘッドガスケットに固定されている、該リング部材を押えるための押え部材と、
を有することを特徴とする(1)のシリンダボア壁の保温構造体を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記充填部が、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムからなり、
該充填部の上面に配置されているリング部材と、
下端が該リング部材に固定され、冷却水の流れにより下向きの力を発生させるフィン部材が側面に設けられている押さえ部材と、
を有することを特徴とする(1)のシリンダボア壁の保温構造体を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、前記充填部が、芯材と、該芯材の両側面に貼り付けられているソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムと、からなることを特徴とする(1)のシリンダボア壁の保温構造体を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、下端が前記芯材に固定されており、上端がヘッドガスケットに当接することにより、前記芯材を押えるための押え部材を有することを特徴とする(5)のシリンダボア壁の保温構造体を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部に、充填部材を充填して、該溝状冷却水流路の中下部を埋めることにより、該溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断して、シリンダボア壁の中下部を保温することを特徴とするシリンダボア壁の保温方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、シリンダブロックと、シリンダヘッドと、ヘッドガスケットと、(1)〜(6)いずれかのシリンダボア壁の保温構造体と、を有し、
該シリンダボア壁の保温構造体の充填部により、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部が埋められていることを特徴とする内燃機関を提供するものである。
【0019】
また、本発明(9)は、(8)の内燃機関を有することを特徴とする自動車を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、内燃機関のシリンダボア壁の均一化が図れる。そのため、本発明によれば、シリンダボア壁の上側と下側とで熱変形量の違いを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のシリンダボア壁の保温構造体が設置されるシリンダブロックを示す模式的な平面図である。
【図2】図1に示すシリンダブロックの斜視図である。
【図3】図1に示すシリンダブロックのx−x線断面図である。
【図4】図1に示すシリンダブロックのx−x線断面図である。
【図5】本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図である。
【図6】図5に示すシリンダボア壁の保温構造体が設置されている内燃機関を示す模式的な断面図である。
【図7】図5に示すシリンダボア壁の保温構造体が設置されている内燃機関を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図である。
【図9】本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図である。
【図10】本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図である。
【図11】本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図である。
【図12】図11に示すシリンダボア壁の保温構造体の断面図である。
【図13】図11に示すシリンダボア壁の保温構造体に用いられている芯材のみを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体は、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部を埋めるための充填部を有することを特徴とするシリンダボア壁の保温構造体である。
【0023】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体及び本発明の内燃機関について、図1〜図13を参照して説明する。図1は、本発明のシリンダボア壁の保温構造体が設置されるシリンダブロックを示す模式的な平面図である。図2は、図1に示すシリンダブロックの斜視図である。図3は、図1に示すシリンダブロックのx−x線断面図である。図4は、図1に示すシリンダブロックのx−x線断面図であり、溝状冷却水流路の中下部を説明するための図である。図5は、本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図であり、正面斜め上から見た図である。図6は、図5に示すシリンダボア壁の保温構造体が設置されている内燃機関を示す模式的な断面図であり、図5中のx−x線に相当する位置で切った断面図である。図7は、図5に示すシリンダボア壁の保温構造体が設置されている内燃機関を示す模式的な断面図であり、図5中のy−y線に相当する位置で切った断面図である。図8は、本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図であり、正面斜め上から見た図である。図9は、本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図であり、正面から見た図である。図10は、本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図であり、正面から見た図である。図11は、本発明の形態例のシリンダボア壁の保温構造体を示す模式図であり、正面斜め上から見た図である。図12は、図11に示すシリンダボア壁の保温構造体の断面図であり、図11中のy−y線で切った断面図である。図13は、図11に示すシリンダボア壁の保温構造体に用いられている芯材のみを示す模式図であり、正面斜め上から見た図である。
【0024】
図1〜図3に示すように、本発明のシリンダブロックの保温構造体が設置される車両搭載用内燃機関のオープンデッキ型のシリンダブロック21には、ピストンが上下するためのボア22、及び冷却水を流すための溝状冷却水流路24が形成されている。そして、ボア22と溝状冷却水流路24とを区切る壁が、シリンダボア壁23である。また、シリンダブロック21には、溝状冷却水流路24へ冷却水を供給するための冷却水供給口25及び冷却水を溝状冷却水流路24から排出するための冷却水排出口26が形成されている。そして、溝状冷却水流路24内に、つまり、シリンダボア壁の壁面27と壁面27とは反対側の溝状冷却水流路の壁面28の間に、本発明のシリンダブロックの保温構造体が設置される。
【0025】
図4を参照して、溝状冷却水流路24の中下部について説明する。図4では、溝状冷却水流路24の最上部31と最下部32の中間近傍の位置34を、点線で示しているが、この中間近傍の位置34から下側の溝状冷却水流路24の部分を、溝状冷却水流路の中下部33と呼ぶ。
【0026】
溝状冷却水流路24には、例えば、図5に示すシリンダボア壁の保温構造体10aが設置される。このとき、充填部1aは、溝状冷却水流路24の中下部33を埋めるように、溝状冷却水流路24の中下部に充填される。なお、本発明において、溝状冷却水流路24の中下部33を埋めるとは、中下部33の冷却水の流れが遮断されて、シリンダボア壁23の中下部の壁面27と充填部との間に、冷却水が流れないように、中下部33に充填部を充填することを指す。
【0027】
内燃機関では、溝状冷却水流路の中下部の冷却水流れを調節するために、溝状冷却水流路の中下部にウォータージャケットスペーサーが設置されることがあるが、ウォータージャケットスペーサーは、あくまでも中下部の冷却水の流れを調節するためのものであるため、シリンダボア壁23の中下部の壁面27とウォータージャケットスペーサーとの間に、冷却水は流れる。よって、溝状冷却水流路の中下部にウォータージャケットスペーサーを設置することは、本発明のように溝状冷却水流路24の中下部33を埋めることとは、異なる。
【0028】
図5に示すシリンダボア壁の保温構造体10aは、溝状冷却水流路24の中下部33を埋めるための充填部1aと、充填部1aの上面に配置されるリング部材2と、下端(一端)がリング部材2に固定されている押え部材3と、からなる。
【0029】
図6及び図7には、シリンダボア壁の保温構造体10aが、溝状冷却水流路24に設置されている内燃機関7を示す。内燃機関7では、充填部1aが、シリンダブロック21の溝状冷却水流路24の中下部を埋めるように、中下部に充填されている。押え部材3の上端(他端)は、ヘッドガスケット6に当接している。ヘッドガスケット6は、シリンダヘッド5により上側から押え付けられている。そのため、ヘッドガスケット6に上端が当接している押え部材3が、リング部材2を押えるので、充填部1aは、上に移動せずに中下部に保持される。このとき、押え部材3の上端は、ヘッドガスケット6の上にヘッドブロック5の中実部がある位置のヘッドガスケット6に当接させるようにし、ヘッドガスケット6の上にヘッドブロック5の中空部(冷却水の流路等)がある位置のヘッドガスケット6には当接させないようにする。なお、通常、内燃機関のヘッドブロックには、冷却水を流すための流路や、燃焼室や、ピストン、ピストンロッド、ボルト穴等が設けられているが、図6及び図7に示す内燃機関7では、説明の都合上、ヘッドブロック5に設けられている冷却水の流路等の記載を省略し、記載を簡略化した。
【0030】
内燃機関7では、充填部1aのシリンダボア壁23側の接触面8が、シリンダボア壁23の中下部の壁面27に接しているので、シリンダボア壁23の中下部の壁面27と充填部1aとの間に冷却水が流れるのが遮断される。また、充填部1aのシリンダボア壁23とは反対側の接触面9が、シリンダボア壁23の壁面27とは反対側の中下部の壁面28と接しているので、シリンダボア壁23の壁面27とは反対側の壁面28と充填部1aとの間に冷却水が流れるのが遮断される。そのため、溝状冷却水流路24の中下部には、冷却水が流れないので、シリンダボア壁23の中下部が保温される。
【0031】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体は、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部を埋めるための充填部を有することを特徴とするシリンダボア壁の保温構造体である。
【0032】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体に係る充填部は、溝状冷却水流路の中下部に充填されることにより、溝状冷却水流路の中下部を埋めて、溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断することができる材質、形状及び構造であればよい。
【0033】
充填部の材質としては、例えば、ソリッドゴム、膨張ゴム、発泡ゴム、軟性ゴム等のゴム、シリコーン系ゲル状素材等が挙げられる。
【0034】
ソリッドゴムの組成としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。充填部の材質がソリッドゴムの場合は、充填部が溝状冷却水流路の中下部に押し込まれて、ソリッドゴムが、シリンダボア壁の壁面及びその反対側の壁面に押し付けられることにより、充填部の接触面と壁面との間の冷却水の流れが遮断される。
【0035】
膨張ゴムとしては、感熱膨張ゴムが挙げられる。感熱膨張ゴムは、ベースフォーム材にベースフォーム材より融点が低い熱可塑性物質を含浸させ圧縮した複合体であり、常温では少なくともその表層部に存在する熱可塑性物質の硬化物により圧縮状態が保持され、且つ、加熱により熱可塑性物質の硬化物が軟化して圧縮状態が開放される材料である。感熱膨張ゴムとしては、例えば、特開2004−143262号公報に記載の感熱膨張ゴムが挙げられる。充填部の材質が感熱膨張ゴムの場合は、充填部が溝状冷却水流路の中下部に設置され、感熱膨張ゴムに熱が加えられることで、感熱膨張ゴムが膨張して溝状冷却水流路の中下部を埋めるように変形して、感熱膨張ゴムがシリンダボア壁の壁面及びその反対側の壁面に押し付けられることにより、充填部の接触面と壁面との間の冷却水の流れが遮断される。
【0036】
感熱膨張ゴムに係るベースフォーム材としては、ゴム、エラストマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の各種高分子材料が挙げられ、具体的には、天然ゴム、クロロプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の各種合成ゴム、軟質ウレタン等の各種エラストマー、硬質ウレタン、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の各種熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0037】
感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ガラス転移点、融点又は軟化温度のいずれかが120℃未満であるものが好ましい。感熱膨張ゴムに係る熱可塑性物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニルアクリル酸エステル共重合体、エチレン酢酸ビニル塩化ビニル共重合体、ナイロン、アクリロニトリルブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、熱可塑性ポリイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、低融点ガラスフリット、でんぷん、はんだ、ワックス等の各種熱可塑性化合物が挙げられる。
【0038】
また、膨張ゴムとしては、水膨潤性ゴムが挙げられる。水膨潤性ゴムは、ゴムに吸水性物質が添加された材料であり、水を吸収して膨潤し、膨張した形状を保持する保形性を有するゴム材である。水膨潤性ゴムとしては、例えば、ポリアクリル酸中和物の架橋物、デンプンアクリル酸グラフト共重合体架橋物、架橋カルボキシメチルセルロース塩、ポリビニルアルコール等の吸水性物質がゴムに添加されたゴム材が挙げられる。また、水膨潤性ゴムとしては、例えば、特開平9−208752号公報に記載されているケチミン化ポリアミド樹脂、グリシジルエーテル化物、吸水性樹脂及びゴムを含有する水膨潤性ゴムが挙げられる。充填部の材質が水膨潤性ゴムの場合は、充填部が溝状冷却水流路の中下部に設置され冷却水が流されて、水膨潤性ゴムが水を吸収することで、水膨潤性ゴムが膨張して溝状冷却水流路の中下部を埋めるように変形して、水膨潤性ゴムがシリンダボア壁の壁面及びその反対側の壁面に押し付けられることにより、充填部の接触面と壁面との間の冷却水の流れが遮断される。
【0039】
発泡ゴムは、多孔質のゴムである。発泡ゴムとしては、連続気泡構造を有するスポンジ状の発泡ゴム、独立気泡構造を有する発泡ゴム、半独立発泡ゴム等があげられる。発泡ゴムの材質としては、具体的には、例えば、エチレンプロピレンジエン三元共重合体、シリコーンゴム、ニトリルブタジエン共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。発泡ゴムの発泡率は、特に制限されず、適宜選択され、発泡率を調節することにより、充填部の含水率を調節することができる。なお、発泡ゴムの発泡率とは、((発泡前密度−発泡後密度)/発泡前密度)×100で表される発泡前後の密度割合を指す。充填部の材質が発泡ゴムの場合は、溝状冷却水流路内に設置され、充填部が上から押し付けられて、発泡ゴムが溝状冷却水流路の中下部を埋めるように変形して、発泡ゴムがシリンダボア壁の壁面及びその反対側の壁面に押し付けられることにより、充填部の接触面と壁面との間の冷却水の流れが遮断される。
【0040】
充填部の材質が水膨潤性ゴム、発泡ゴムのように、含水することができる材料の場合、溝状冷却水流路内に設置され、溝状冷却水流路に冷却水が流されたときに、充填部が含水する。溝状冷却水流路に冷却水が流されたときに、充填部の含水率を、どのような範囲とするかは、内燃機関の運転条件等により、適宜選択される。なお、含水率とは、(冷却水重量/(充填剤重量+冷却水重量))×100で表される重量含水率を指す。
【0041】
充填部は、充填部の全てが、上記充填部の材質、例えば、ソリッドゴム、膨張ゴム、発泡ゴム等で構成されていてもよいし、あるいは、芯材と芯材の両側面に張り合わされている上記充填部の材質、例えば、ソリッドゴム、膨張ゴム、発泡ゴム等とにより構成されていてもよい。
【0042】
溝状冷却水流路の中下部に充填される前の充填部の形状は、特に制限されず、溝状冷却水流路の中下部に充填されることにより、中下部を埋めて溝状冷却水流路の中下部に冷却水が流れないように冷却水の流れを遮断することができる形状であればよい。
【0043】
例えば、充填部の材質がソリッドゴムの場合は、溝状冷却水流路の中下部に充填される前の充填部の形状は、幅が溝状冷却水流路の中下部の幅より少し大きい形状であることが好ましい。幅が溝状冷却水流路の中下部の幅より少し大きい形状のソリッドゴムで構成されている充填部は、溝状冷却水流路内に押し込まれることにより、充填部のシリンダボア壁側の接触面が、シリンダボア壁の壁面に押し付けられ、シリンダボア壁の中下部の壁面全体を覆い、且つ、溝状冷却水流路の中下部を埋めて、シリンダボア壁の中下部の壁面と充填部との間の冷却水の流れを遮断すること、及び溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断することができる。
【0044】
また、充填部の材質がソリッドゴムの場合は、充填部のシリンダボア壁の壁面との接触面及びシリンダボア壁の壁面とは反対側の壁面との接触面に、凹凸部に冷却水が含まれて、溝状冷却水流路24との間に緩やかな熱輸送がなされるような凹凸部を設けることにより、充填部のシリンダボア壁との接触面における冷却水の突沸やソリッドゴムの部分溶融を防ぐことができる。
【0045】
充填部の材質が、膨張ゴムの場合、溝状冷却水流路の中下部に充填される前の充填部の形状は、溝状冷却水流路の中下部に設置され、熱又は水により膨張したときに、シリンダボア壁の中下部の壁面全体を覆い、且つ、溝状冷却水流路の中下部を埋めて、シリンダボア壁の中下部の壁面と充填部との間の冷却水の流れを遮断すること、及び溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断することができる形状である。
【0046】
充填部の材質が、発泡ゴムの場合、溝状冷却水流路の中下部に充填される前の充填部の形状は、溝状冷却水流路の中下部に設置され、上から押し付けられることにより変形して、シリンダボア壁の中下部の壁面全体を覆い、且つ、溝状冷却水流路の中下部を埋めて、シリンダボア壁の中下部の壁面と充填部との間の冷却水の流れを遮断すること、及び溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断することができる形状である。
【0047】
なお、溝状冷却水流路の中下部とは、溝状冷却水流路の最上部と最下部の丁度中間の位置から下の部分という意味ではなく、最上部と最下部の中間位置の近傍から下の部分という意味である。よって、溝状冷却水流路の最下部からどの位置までを充填部で埋めるか、つまり、充填部の上面の位置を溝状冷却水流路の上下方向のどの位置にするかは、適宜選択される。
【0048】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、図5に示すシリンダボア壁の保温構造体10aのように、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴム等の材質からなる充填部と、充填部の上面に配置されているリング部材と、下端がリング部材に固定されており、上端がヘッドガスケットに当接することにより、リング部材を押えるための押え部材と、を有する形態例(以下、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(1)とも記載する。)が挙げられる。シリンダボア壁の保温構造体の形態例(1)が、シリンダブロックの溝状冷却水流路内に設置され、シリンダブロック、ヘッドガスケット及びシリンダヘッドが組み付けられることにより、シリンダヘッドに押え付けられているヘッドガスケットが、押え部材が上に動くのを防ぐので、内燃機関を運転しているときにリング部材が上側に動くのを、押え部材が押えることができる。そのため、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(1)によれば、内燃機関を運転しているときに、保温が必要な溝状冷却水流路の中下部に、充填部を保持することができる。
【0049】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、例えば、図8に示すシリンダボア壁の保温構造体10bが挙げられる。シリンダボア壁の保温構造体10bは、充填部1aと、リング部材2と、押え部材3と、ヘッドガスケット6と、からなる。リング部材2は、充填部1aの上面に配置されている。押え部材3は、下端がリング部材2に固定され、上端がヘッドガスケット6に固定されている、リング部材2を押えるための部材である。このように、本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴム等の材質からなる充填部と、充填部の上面に配置されているリング部材と、ヘッドガスケットと、下端がリング部材に固定されており、上端がヘッドガスケットに固定されている、リング部材を押えるための押え部材と、を有する形態例(以下、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(2)とも記載する。)が挙げられる。シリンダボア壁の保温構造体の形態例(2)が、シリンダブロックの溝状冷却水流路内に設置され、シリンダブロック、ヘッドガスケット及びシリンダヘッドが組み付けられることにより、シリンダヘッドに押え付けられているヘッドガスケットが、押え部材が上に動くのを防ぐので、内燃機関を運転しているときにリング部材が上側に動くのを、押え部材が押えることができる。そのため、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(2)によれば、内燃機関を運転しているときに、保温が必要な溝状冷却水流路の中下部に、充填部を保持することができる。
【0050】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、例えば、図9に示すシリンダボア壁の保温構造体10c、図10に示すシリンダボア壁の保温構造体10dが挙げられる。シリンダボア壁の保温構造体10c及び10dのいずれも、充填部1aと、リング部材2と、押え部材13と、からなる。リング部材2は、充填部1aの上面に配置されている。押え部材3は、下端がリング部材2に固定されており、冷却水が流れることにより下向きの力を発生させるフィン部材(図9中のフィン部材11、図10中のフィン部材12)が側面に設けられている部材であり、リング部材2を押えるための部材である。フィン部材11は、フィン部材11の上面側の水流れ流路より、フィン部材11の下面側の水流れ流路が長くなる形状を有しており、冷却水が流れることにより、下向きの力を発生させる部材である。フィン部材12は、冷却水の流れ方向の後ろ側が、斜め上向きに曲げられた形状を有しており、冷却水が流れることにより、下向きの力を発生させる部材である。このように、本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴム等の材質からなる充填部と、充填部の上面に配置されているリング部材と、下端がリング部材に固定されており、冷却水の流れにより下向きの力を発生させるフィン部材が側面に設けられている押え部材と、を有する形態例(以下、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(3)とも記載する。)が挙げられる。シリンダボア壁の保温構造体の形態例(3)が、シリンダブロックの溝状冷却水流路内に設置され、溝状冷却水流路内に冷却水が流されることにより、押え部材がリング部材を押え付けるので、内燃機関を運転しているときにリング部材が上側に動くのを、押え部材が押えることができる。そのため、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(3)によれば、内燃機関を運転しているときに、保温が必要な溝状冷却水流路の中下部に、充填部を保持することができる。
【0051】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、図11に示すシリンダボア壁の保温構造体10eが挙げられる。シリンダボア壁の保温構造体10eは、芯材36と、芯材36の両側面に貼り付けられているゴム材35と、からなる。図12に示すように、シリンダボア壁の保温構造体10eでは、芯材36の両側の側面にゴム材35が貼り付けられたものが、溝状冷却水流路の中下部に充填される充填部1bである。図13に示すように、シリンダボア壁の保温構造体10eの芯材36の形状は、溝状冷却水流路の中下部の幅方向の中心部分と同様の形状である。このように、本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、芯材と、芯材の両側面に貼り付けられているソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴム等のゴム材と、からなる充填部を有する形態例(以下、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(4)とも記載する。)が挙げられる。
【0052】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体としては、芯材と、芯材の両側面に貼り付けられているソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴム等のゴム材と、からなる充填部と、下端が芯材に固定されており、上端がヘッドガスケットに当接することにより、芯材を押えるための押え部材と、を有する形態例(以下、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(5)とも記載する。)が挙げられる。
【0053】
本発明のシリンダボア壁の保温構造体のうち、充填部が、水膨潤性ゴム、発泡ゴム等の含水することができる材質の場合、充填部を構成する材料中に含まれている水は、充填部の上側を流れている冷却水と徐々に交換される。そのため、充填部を構成する材料の含水率を調節することにより、シリンダボア壁の温度を調節することができる。なお、充填部を構成する材料の含水率は、シリンダボア壁の温度や、冷却水の温度又は流量等の内燃機関の運転条件により、適宜選択される。
【0054】
溝状冷却水流路が下に向かって溝幅が小さくなる形状の場合、本発明のシリンダボア壁の保温構造体のうち、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(1)、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(2)、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(3)のように、リング部材を有する形態例では、リング部材の幅を調節することにより、リング部材の溝状冷却水流路の上下方向の位置を調節することができる。
【0055】
本発明のシリンダボア壁の保温方法は、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部に充填部材を充填して、該溝状冷却水流路の中下部を埋めることにより、該溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断して、シリンダボア壁の中下部を保温することを特徴とするシリンダボア壁の保温方法である。
【0056】
本発明のシリンダボア壁の保温方法において、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部に充填部材を充填する方法としては、例えば、本発明のシリンダボアの保温構造体(例えば、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(1)、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(2)、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(3)、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(4)、シリンダボア壁の保温構造体の形態例(5)等)を溝状冷却水流路内に設置して、充填部を溝状冷却水流路の中下部に充填する方法が挙げられる。
【0057】
本発明の内燃機関は、シリンダブロックと、シリンダヘッドと、ヘッドガスケットと、本発明のシリンダボア壁の保温構造体と、を有し、
本発明のシリンダボア壁の保温構造体の充填部により、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部が埋められていること、
を特徴とする内燃機関である。
【0058】
本発明の内燃機関は、他に、ピストン、ピストンロッド、クランク軸、燃焼室、吸排気弁等を有する。
【0059】
本発明の自動車は、本発明の内燃機関を有することを特徴とする自動車である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、内燃機関のシリンダボア壁の上側と下側との変形量の違いを少なくすることができるので、ピストンの摩擦を低くすることができるため、省燃費の内燃機関を提供できる。
【符号の説明】
【0061】
1a、1b 充填部
2 リング部材
3、13 押え部材
5 シリンダヘッド
6 ヘッドガスケット
7 内燃機関
8 シリンダボア壁の壁面側との接触面
9 シリンダボア壁の壁面とは反対側の壁面との接触面
10a、10b、10c、10d、10e 保温構造体
11、12 フィン部材
21 シリンダブロック
22 ボア
23 シリンダボア壁
24 溝状冷却水流路
25 冷却水供給口
26 冷却水排出口
27 シリンダボア壁23の壁面
28 シリンダボア壁23とは反対側の溝状冷却水流路24の壁面
31 溝状冷却水流路の最上部
32 溝状冷却水流路の最下部
33 中下部
34 最上部と最下部の中間近傍の位置
35 ゴム材
36 芯材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部を埋めるための充填部を有することを特徴とするシリンダボア壁の保温構造体。
【請求項2】
前記充填部が、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムからなり、
該充填部の上面に配置されているリング部材と、
下端が該リング部材に固定されており、上端がヘッドガスケットに当接することにより、該リング部材を押えるための押え部材と、
を有することを特徴とする請求項1記載のシリンダボア壁の保温構造体。
【請求項3】
前記充填部が、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムからなり、
該充填部の上面に配置されているリング部材と、
ヘッドガスケットと、
下端が該リング部材に固定され、上端がヘッドガスケットに固定されている、該リング部材を押えるための押え部材と、
を有することを特徴とする請求項1記載のシリンダボア壁の保温構造体。
【請求項4】
前記充填部が、ソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムからなり、
該充填部の上面に配置されているリング部材と、
下端が該リング部材に固定され、冷却水の流れにより下向きの力を発生させるフィン部材が側面に設けられている押さえ部材と、
を有することを特徴とする請求項1記載のシリンダボア壁の保温構造体。
【請求項5】
前記充填部が、芯材と、該芯材の両側面に貼り付けられているソリッドゴム、膨張ゴム又は発泡ゴムと、からなることを特徴とする請求項1記載のシリンダボア壁の保温構造体。
【請求項6】
下端が前記芯材に固定されており、上端がヘッドガスケットに当接することにより、前記芯材を押えるための押え部材を有することを特徴とする請求項5記載のシリンダボア壁の保温構造体。
【請求項7】
シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部に、充填部材を充填して、該溝状冷却水流路の中下部を埋めることにより、該溝状冷却水流路の中下部の冷却水の流れを遮断して、シリンダボア壁の中下部を保温することを特徴とするシリンダボア壁の保温方法。
【請求項8】
シリンダブロックと、シリンダヘッドと、ヘッドガスケットと、請求項1〜6いずれか1項記載のシリンダボア壁の保温構造体と、を有し、
該シリンダボア壁の保温構造体の充填部により、シリンダブロックの溝状冷却水流路の中下部が埋められていることを特徴とする内燃機関。
【請求項9】
請求項8記載の内燃機関を有することを特徴とする自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−202290(P2012−202290A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67464(P2011−67464)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】