説明

シリンダ装置及びその製造方法

【課題】シリンダ装置の組立時に、クラッチ部材に係合体であるボールを保持できるようにして、組立性を向上させる。
【解決手段】シリンダ部材3にピストンロッド2が連結されたピストン12を嵌装し、コイルスプリング27でクラッチ部材24を介してピストンロッド2を付勢する。ピストンロッド2の突出長さが所定未満のとき、ボール26が内周クラッチ溝18に係合して保持部材24をガイドスリーブ17に固定し、ピストンロッド2を解放することにでピストンロッド2にバネ力を作用させず、所定長さ以上のとき、ボール26が外周クラッチ溝23に係合してクラッチ部材24をガイドスリーブ17から解放し、ピストンロッド2に固定することでバネ力をピストンロッド2に作用させる。組立時に、粘性剤によってクラッチ部材24にボール26を保持することにより、組立性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉の開閉を補助するドアクローザ等に使用されるシリンダ装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
開き戸にスプリングダンパ等のシリンダ装置をリンク結合して、扉の開閉に対してバネ力、減衰力を作用させることにより、扉を自動的に閉じたり、その閉じ速度を調整したり、また、扉を開位置で保持するようにしたドアクローザが知られている。従来、この種のスプリングダンパ等のシリンダ装置を利用したドアクローザとしては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
例えば特許文献1に記載されたシリンダ装置では、ピストンロッドとバネとの間にクラッチ手段を設け、ボールと溝の係脱により、ピストンロッドに対して、その伸長位置に応じてバネ力を付与、解放できるようにしている。これにより、ドアクローザとして使用した場合にドアに作用させるバネ力の設定の自由度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−299453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたシリンダ装置では、クラッチ手段を構成する複数のボール及びボールを保持する保持手段を組付ける工程が煩雑であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決したシリンダ装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係るシリンダ装置は、シリンダ部材と、該シリンダ部材内を摺動する摺動部材と、該摺動部材の外周部に設けられた外周クラッチ溝と、該外周クラッチ溝に対向して前記シリンダ部材の内周側に設けられた内周クラッチ溝と、前記外周クラッチ溝及び前記内周クラッチ溝の少なくとも一方に係合する係合体と、前記係合体を前記シリンダ部材の径方向に沿って移動可能に案内するクラッチ部材とを備え、
少なくとも前記クラッチ部材を組付けるとき、前記クラッチ部材に前記係合体を保持する保持手段を設けたことを特徴とする。
また、本発明は、シリンダ部材と、該シリンダ部材内を摺動する摺動部材と、該摺動部材の外周部に設けられた外周クラッチ溝と、該外周クラッチ溝に対向して前記シリンダ部材の内側に設けられた内周クラッチ溝と、前記外周クラッチ溝及び前記内周クラッチ溝の少なくとも一方に係合する係合体と、円筒状で、その側壁に径方向に沿って延びて前記係合体が挿入される複数の案内穴が形成されたクラッチ部材とを備えたシリンダ装置の製造方法であって、
前記クラッチ部材の案内穴に前記係合体を挿入する工程と、粘性を有する粘性剤を前記クラッチ部材の内周側から前記案内穴に供給し、前記粘性剤によって前記案内穴内で前記係合体を保持する工程と、前記係合体を保持した前記クラッチ部材を前記摺動部材の外周に挿入する工程とを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ピストンロッド等の摺動部材にクラッチ手段が設けられたシリンダ装置を容易に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリンダ装置の縦断面図である。
【図2】図1のシリンダ装置において、ピストンロッドが短縮されてバネ機構のバネ力がピストンロッドに作用していない状態を示す要部の拡大縦断面図である。
【図3】図1のシリンダ装置を扉に装着した状態を平面視で示す説明図である。
【図4】図1のシリンダ装置の組立工程を示す図である。
【図5】図1のシリンダ装置のクラッチ部材にボールを装填するためのボール組付装置の概略縦断面図である。
【図6】図1のシリンダ装置の変形例の要部である保持部材を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るシリンダ装置を図1に示し、その要部を拡大して図2に示す。図1及び図2に示すように、シリンダ装置1は、ピストンロッド2に反発力を付与するようにした、いわゆるスプリングダンパであって、シリンダを構成する略有底円筒状のシリンダ部材3の開口端部に、内周部が摺動部材であるピストンロッド2と摺動するベアリングとなっているロッドガイド4が挿入されており、ロッドガイド4は、シリンダ部材3の開口端部をかしめて固定されている。ロッドガイド4の内側には、シリンダ部材3の内部と外部との間をシールするゴム製で内部に金属環が埋め込まれたオイルシール5が装着されている。
【0011】
また、シリンダ部材3の中間部の内部に隔壁部材である中間ガイド6が取付けられて、この中間ガイド6によってシリンダ部材3の内部が底部側のシリンダ部7と、開口部側のロッド案内部8とに区画されている。中間ガイド6には、シリンダ部7とロッド案内部8とを連通する通路6Aが軸方向に貫通されている。中間ガイド6は、シリンダ部材3内に嵌合し、シリンダ部材3の側壁を内側にかしめることによって固定されている。なお、この中間ガイド6は、ロッドガイド4と同様にピストンロッド2と摺動するベアリングとしてもよいが、この場合、ロッドガイド2と中間ガイド6との同心度を高くする必要があるので、中間ガイド6はロッドガイド4よりも内径を大きくした方が製造性がよい。シリンダ部7には、フリーピストン9が摺動可能に嵌合され、フリーピストン9によって、シリンダ部7内が底部側のガス室10と中間ガイド6側のシリンダ室11とに区画されている。
【0012】
シリンダ部材3には、ロッドガイド4及びオイルシール5を摺動可能かつ液密的に貫通してピストンロッド2が挿入されている。ピストンロッド2の基端側は、中間ガイド6を貫通してシリンダ室11の内部まで延びて、その先端部にピストン12が連結されている。ピストン12は、シリンダ部7に摺動可能に嵌合して、その外周にOリング13が装着されて、シリンダ室11内を中間ガイド6側のロッド側室11Aとフリーピストン9側のボトム側室11Bとの2室に区画している。そして、シリンダ室11及びロッド案内部8内には、作動液が封入され、ガス室10内には大気圧程度の低圧ガスが封入されている。この大気圧程度のガスとは、図1に示されるピストンロッド2の最大伸長時に大気をガス室10に導入したものである。よって、使用時は、温度条件等によって、大気圧より高い場合もある。
【0013】
また、シリンダ装置1の要求特性によって、ガス圧は多少高くてもよいが、ガス圧が高いと、後述のフリー区間で多少のバネ力が発生することになるので、望ましくは、シリンダ装置1や扉等の取付側のフリクションより小さい力となるガス圧が望ましい。あるいは、ガス室10を大気開放としてもよい。この場合、大気開放する孔には、異物の侵入を防止するフィルタを設けることが望ましい。
【0014】
ピストン12には、ロッド側室11Aとボトム側室11Bとを連通させる連通路14が軸方向に沿って貫通されており、連通路14には、減衰力発生機構15が設けられている。減衰力発生機構15は、ピストン12のロッド側室11A側の端面に取付けられて連通路14を開閉するディスク状の弁体からなり、その中央部がロッド2の縮径部2aの間で軸方向に摺動可能(1.5mm程度)に嵌挿されている。これにより、通常は連通路14を閉じて、ボトム側室11Bからロッド側室11Aへの作動液の流通のみを許容する逆止弁として機能する。また、減衰力発生機構15には、ボトム側室11Bとロッド側室11Aとを常時連通させる小孔、切欠等からなるオリフィスが設けられている。
【0015】
ロッド案内部8には、ピストンロッド2にバネ力を付与するバネ機構16が設けられている。バネ機構16の構成について以下に説明する。シリンダ部材3のロッド案内部8内に円筒状のガイドスリーブ17が挿入され、その両端部がオイルシール5及び中間ガイド6に当接して軸方向に固定されている。ガイドスリーブ17の中間部には、内周溝である内周クラッチ溝18が形成されている。ガイドスリーブ17は、内周クラッチ溝18の加工性を考慮して、内周クラッチ溝18の中間ガイド6側の端部で軸方向に2分割されて2つの第1ガイドスリーブ17A及び第2ガイドスリーブ17Bからなり、オイルシール5側の第1ガイドスリーブ17Aに内周クラッチ溝18となる凹部が形成されている。ガイドスリーブ17は、強度上、金属製が望ましいが、軽量化のためには、強化された合成樹脂を用いてもよい。
【0016】
第1及び第2ガイドスリーブ17A、17Bは、外径がシリンダ部材3のロッド案内部8の内径よりも僅かに小さく、第1及び第2ガイドスリーブ17A、17Bのそれぞれの両端部付近には外周溝19、20が形成され、外周溝19、20には、それぞれOリング21、22が嵌合されている。これにより、第1及び第2ガイドスリーブ17A、17Bは、ロッド案内部8との間に僅かな隙間を有し、Oリング21、22を介して弾性的に支持されている。
【0017】
ピストンロッド2には、ガイドスリーブ17に対向して中間部に外周溝である外周クラッチ溝23が形成されている。内周クラッチ溝18と外周クラッチ溝23とは、深さがほぼ等しく、また、これらの軸方向端部はテーパ状に形成されている。
【0018】
ガイドスリーブ17とピストンロッド2との間には、円筒状のクラッチ部材24が軸方向に沿って摺動可能に案内されている。クラッチ部材24の側壁には、放射状すなわち径方向に沿って等間隔に配置された案内穴である複数のボール穴25が貫通されている。それぞれのボール穴25には、係合体となる転動体であるボール26(鋼球)がボール穴25の軸方向(クラッチ部材24の径方向)に沿って移動可能に案内されている。ボール26の直径は、ボール穴25の直径とほぼ等しく、また、クラッチ部材24の肉厚と内周クラッチ溝18の深さ(外周クラッチ溝18の深さと等しい)の和にほぼ等しくなっている。これにより、ボール26は、クラッチ部材24がガイドスリーブ17とピストンロッド2との間に挿入された状態では、必ず、ピストンロッド2の外周クラッチ溝23に係合した状態(図1参照)又はガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18に係合した状態(図2参照)となる。ボール26の保持部材であるクラッチ部材24と、ボール26とにより、ピストンロッド2に係脱するクラッチ手段を構成している。
【0019】
中間ガイド6とクラッチ部材24との間には、バネ手段であるコイルバネ27(圧縮バネ)が介装されて、そのバネ力によってクラッチ部材24を常時オイルシール5側へ向かって付勢している。クラッチ部材24の一端部には、円筒状のバネ受部28が同心上に一体的に形成されており、コイルバネ27の一端部がバネ受部28の外周に嵌合されてクラッチ部材24に結合されている。また、中間ガイド6の一端部には、円筒状のバネ受部29が同心上に一体的に形成されており、コイルバネ27の他端部がバネ受部29の外周に嵌合されて中間ガイド6に結合されている。このようにバネ受部28、29により、コイルバネ27の両端部を位置決めすることにより、コイルバネ27を円滑に伸縮させることができる。また、クラッチ部材24及び中間ガイド6のバネ受部28、29の先端部は、テーパ状に形成されており、コイルバネ27が伸縮したとき、コイルバネ27を構成する線材がバネ受部28、29に干渉しないようにしている。これにより、コイルバネ27を確実に位置決めしつつ、線材の干渉による異音の発生を防止することができる。
【0020】
シリンダ部材3の底部及びピストンロッド2の突出側の先端部には、それぞれシリンダ装置1をリンク結合するための取付部30、31が取付けられており、これらの取付部30、31の形状は、扉等の被取付部材に合わせた形状とすることができる。
【0021】
以上のように構成したシリンダ装置の作動について次に説明する。
図3は、シリンダ装置1が装着される開き戸60の一例を平面視した説明図である。図3に示すように、戸開き戸60は、扉枠61に、ヒンジ62によって扉63を開閉可能に取付けたものであり、図3中符号(A)は、扉63の閉位置を示し、符号(C)は、閉位置(A)からほぼ90°開いた全開位置を示し、符号(B)は、閉位置(A)と全開位置(C)との中間位置(閉位置(A)からほぼ45°開いた位置)を示している。
【0022】
シリンダ装置1は、シリンダ部材3側の取付部30を戸枠61側に固定されたブラケット64に回動可能にピン結合し、ピストンロッド2側の取付部31を扉63側に固定されたブラケット65に回動可能にピン結合して開き戸60に装着し、扉63の開閉を補助する扉開閉装置として使用することができる。このとき、ピストンロッド2は、扉63が閉位置(A)又は全開位置(C)にあるとき、伸長長さが最大となり、中間位置(B)にあるとき、伸長長さが最小となり、この位置では、開き戸60のヒンジ62がシリンダ装置1の軸線の延長線上にある。
【0023】
図3を参照して、扉63が中間位置(B)から開閉方向に所定範囲内にある場合、ピストンロッド2のシリンダ部材3からの突出長さは、最小位置から所定の範囲にある。このとき、図2に示すように、ピストンロッド2の外周クラッチ溝23がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18に対して中間ガイド6側にある。この状態では、クラッチ部材24のボール穴25に挿入されたボール26は、ガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18に係合し、ピストンロッド2の外周面に当接して径方向内側への移動が規制されて、クラッチ部材24をガイドスリーブ17に対して軸方向に固定すると共に、ピストンロッド2の軸方向の移動を許容する。これにより、コイルバネ27のバネ力は、ボール26によってガイドスリーブ17に対して軸方向に固定されたクラッチ部材24によって支持されることになり、ピストンロッド2には作用しない。この範囲をフリー区間という。
【0024】
一方、ピストンロッド2の伸縮に対して、ピストン12が移動して、シリンダ室11内の作動液が連通路14を流通することにより、減衰力発生機構15によって減衰力が作用する。このとき、ピストンロッド2の伸び行程時には、連通路14のロッド側室11A側からボトム側室11B側への作動液の流れに対して、減衰力発生機構15がオリフィスとして機能して所定の減衰力を発生する。また、縮み行程時には、減衰力発生機構15が連通路14のボトム側室11B側からロッド側室11A側への作動液の流れを許容して、減衰力が小さくなる。
【0025】
前述のフリー区間では、ピストンロッド2の伸縮に対して、コイルバネ27のバネ力は作用せず、主にピストン12の移動による減衰力のみが作用する。また、シリンダ室11内の容積変化によってガス室10内のガスが圧縮、膨張するが、ガス室10内は大気圧程度の低圧であるため、この圧力はピストンロッド2の伸縮に殆ど影響しない。このように、フリー区間では、殆ど抵抗を生じることなくピストンロッド2を自由に伸縮させることができるので、扉63を自由に開閉両方向に移動させることができる。
【0026】
扉63をフリー区間を越えて閉位置(A)又は全開位置(C)付近まで移動させると、図1に示すように、ピストンロッド2が伸長して、その外周クラッチ溝23がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18を越えてオイルシール5側へ移動する。このとき、ピストンロッド2のシリンダ部材3からの突出長さが所定長さに達して、ピストンロッド2の外周クラッチ溝23がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18を通過する際、内周クラッチ溝18に係合してクラッチ部材24をガイドスリーブ17に固定していたボール26がピストンロッド2の外周クラッチ溝23に係合し、クラッチ部材24は、ガイドスリーブ17に対する軸方向の固定が解除されると共に、ピストンロッド2に対して軸方向に固定される。これにより、コイルバネ27のバネ力がクラッチ部材24を介してピストンロッド2に作用して、ピストンロッド2を伸長方向に付勢する。その結果、扉63は、閉位置(A)付近にある場合、閉位置(A)まで自動的に移動し、また、全開位置(C)付近にある場合、全開位置(C)まで自動的に移動して保持されることになる。このような区間を付勢区間という。
【0027】
この付勢区間では、ピストンロッド2の伸長に対して、減衰力発生機構15が前述のようにオリフィスとして機能して所定の減衰力を発生させるので、扉63の移動速度を適度に減速することができ、扉63の開閉時の衝撃及び騒音を軽減することができる。
【0028】
ピストンロッド2のシリンダ部材3からの突出長さが所定長さとなって上述のフリー区間と付勢区間とが切換る際、ボール26がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18又はピストンロッド23の外周クラッチ溝23に係合することによって、いくらかの打音が発生することになる。これに対して、ガイドスリーブ17A、17Bは、Oリング21、22によって弾性的に支持され、シリンダ部材3に直接接触していないので、シリンダ部材3に伝達される打音を低減して騒音の発生を抑制することができる。
【0029】
次に、シリンダ装置1の製造方法について主に図4及び図5を参照して説明する。
先ず、図4(A)に示すように、取付部31が取付けられたピストンロッド2をロッドガイド4、オイルシール5及び第1ガイドスリーブ17Aに挿入してこれらを組み立てる。クラッチ部材24の4つのボール穴25にボール26を装填する。このとき、ボール26及びボール穴25の少なくとも一方に適度な粘性又は粘着性を有する粘性剤を塗布しておく。これにより、ボール26をクラッチ部材24のボール穴25内で保持することができる。
【0030】
この粘性剤は、クラッチ部材24及びボール26がシリンダ装置1に組込まれた状態で、ボール穴25内でのボール26の移動に悪影響を及ぼさない性状のものとする。粘性剤としては、例えば、組付後、潤滑剤として作用し、シリンダ部材3内の作動液に悪影響を及ぼさないグリスが望ましい。あるいは、組付時に一時的にクラッチ部材24とボール26とを接着、保持するが、組付後は、シリンダ部材3内の作動液中で接着性が消失する接着剤のようなものでもよい。
【0031】
次に、図4(B)に示すように、粘性剤によってボール26を保持したクラッチ部材24をピストンロッド2を挿通しながら第1ガイドスリーブ17A内に挿入する。この状態では、粘性剤の粘性、接着性が失われてもボール26が脱落することはない。そして、コイルバネ27、第2ガイドスリーブ17B、中間ガイド6、減衰力発生機構15及びピストン12をピストンロッド2を挿通しながら組付けて、ピストンロッド2の端部にピストン12を結合する。その後、これらを組付けたアセンブリをシリンダ部材3に挿入し、シリンダ部材3の側壁を内側にかしめて中間ガイド6を固定する。
【0032】
このように、粘性剤によってクラッチ部材24のボール穴25にボール26を保持するようにしたので、ボール26を保持したクラッチ部材24を第1ガイドスリーブ17Aに容易に組付けることができ、シリンダ装置1の組立作業性を改善することができる。
【0033】
次に、図5を参照して、クラッチ部材24にボール26を装填して保持させるためのボール組付装置70について説明する。
図5に示すように、ボール組付装置70は、略有底円筒状のスリーブ部材71と、スリーブ部材71内の底部71Aの中心部に立設された軸状の挿入治具72とを備えている。スリーブ部材71の円筒部71Bと挿入治具72とは同心に配置され、挿入治具72は、テーパ状に尖った先端部72Aが円筒部71Bから突出している。
【0034】
挿入治具72は、その外径がクラッチ部材24の内径よりもやや小さく、クラッチ部材24に容易に挿入可能となっている。スリーブ部材71の円筒部71Bは、その内径がクラッチ部材24の外径よりもやや大きく、クラッチ部材24を容易に挿入可能となっている。更に、スリーブ部材71の円筒部71Bの内周の半径と挿入治具72の外周の半径との差Dは、ボール26の直径よりもやや大きい。これにより、クラッチ部材24は、4つのボール穴25にボール26を装填、保持した状態で、挿入治具72とスリーブ部材71の円筒部71Bとの間に挿入されたとき、軸方向及び回転方向に移動させることができる。
【0035】
挿入治具72には、図5に示すクラッチ部材24をスリーブ部材71の円筒部71Bに挿入して底部71Aに当接させた状態(以下、セット状態という)で、クラッチ部材24の4つのボール穴25にそれぞれ対向する部位に開口するように放射状に延びる粘性剤通路73が形成されている。粘性剤通路73は、さらに挿入治具72の軸芯に沿って延ばされて、粘性剤供給手段Sに接続されている。粘性剤供給手段Sは、手動により又はポンプ、シリンダ装置等の作動により、粘性剤を粘性剤通路73に供給する。
【0036】
スリーブ部材71の円筒部71Bの上部には、上述のセット状態のクラッチ部材24のボール穴25に連通可能な円筒状のボール給送路74が設けられている。そして、セット状態にあるクラッチ部材24を回転させてボール穴25をボール給送路74に連通させることにより、ボール給送路74を通してボール26をボール穴25に装填できるようになっている。
【0037】
次に、ボール組付装置70を用いて、クラッチ部材24の4つのボール穴25にボール26を装填して保持する工程について説明する。
先ず、クラッチ部材24を挿入治具72及びスリーブ部材71の円筒部71Bに挿入し、底部71Aに当接させてセット状態とする。このとき、円筒部71Bから突出した挿入治具72の先端部72Aがテーパ状に尖っているので、クラッチ部材24を容易に挿入することができる。
【0038】
次いで、ボール給送路74に複数のボール26を挿入し、クラッチ部材24を回転させる。これにより、クラッチ部材24のボール穴25とボール給送路74とが連通したとき、ボール26がボール穴25に落込み、装填される。そして、クラッチ部材24を更に回転させることより、順次4つのボール穴25にボール26が装填される。クラッチ部材24の4つのボール穴25にボール26を装填した後、ボール穴26を粘性剤通路73に連通させ、粘性剤供給手段Sによって粘性剤を供給する。これにより、粘性剤通路73を通して、ボール穴25とボール穴25内に装填されたボール26との隙間に粘性剤が注入される。このとき、ボール穴25とボール給送路74との位置をずらしておくことにより、粘性剤の圧力によってボール26がボール給送路74に戻るのを防止することができる。その後、クラッチ部材24をボール組付装置70から取外す。このようにして、クラッチ部材24の4つのボール穴25にボール26を装填し、粘性剤によってボール26をボール穴25内で保持することができる。
【0039】
本発明の粘性剤は、ボール26をボール穴25内に保持するために必要なものであって、ボール26がガイドスリーブ17Aを摺動する際の摺動を助ける作用をする必要性はない。これは、ボール26がガイドスリーブ17Aを摺動する際には、シリンダ部材3内の作動油が摺動を助ける作用をなすためである。よって、粘性剤は、シリンダ内の油液に溶ける材料であってもよい。
【0040】
次に、クラッチ部材24のボール穴25にボールを保持する保持手段の他の実施形態について、主に図6を参照して説明する。
図6に示すように、本実施形態では、保持手段として、粘性剤を用いず、ボール穴25の両端部の内周縁部に複数の突出部74を形成している。突出部74は、その先端部の内径がボール26の外径よりも僅かに小さく、クラッチ部材24が撓むことにより、ボール26をボール穴25に圧入することができ、ボール26がボール穴25に装填された後は、ボール26に当接することにより、ボール26をボール穴25内で保持できるようになっている。また、ボール穴26に装填されたボール26は、突出部74間でクラッチ部材24の径方向に移動可能で(図6の仮想線参照)、ピストンロッド2の内周クラッチ溝23及び第1ガイドスリーブ17Aの外周クラッチ溝18に係合できるようになっている。突出部74は、ボール穴25の内周縁部に適当な間隔で複数形成してもよく、また、ボール穴25の内周縁部の全周にわたって形成してもよい(符号74A参照)。
【0041】
これにより、シリンダ装置1の組立工程において、4つのボール26を保持した状態のクラッチ部材24を第1ガイドスリーブ17Aに容易に組付けることができ、上記実施形態と同様、シリンダ装置1の組立作業性を改善することができる
【0042】
なお、上述の実施形態及び他の実施形態において、ボール26の代わりに、内周クラッチ溝18及び外周クラッチ溝23に係合することにより、クラッチ部材24をガイドスリーブ17又はピストンロッド2に選択的に固定できるものであれば、ローラ等の他の転動体、あるいは、転動せずに摺動するカム部材等の係合体を用いてもよい。
【0043】
また、上記実施形態及び他の実施形態では、作動液の流れる流路面積を絞ることによって減衰力を得ているが、いわゆる摩擦ダンパのように、ピストンとシリンダの間の摩擦によって減衰力を得てもよく、減衰力を発生できる構造であれば、他の構造であってもよい。また、作動液の代りに作動流体としてガスを用いることもできる。但し、作動流体として作動液を用いることで、最も安定した減衰力を得ることが期待できる。
【符号の説明】
【0044】
1 シリンダ装置、2 ピストンロッド(摺動部材)、3 シリンダ部材、18 内周クラッチ溝、23 外周クラッチ溝、24 クラッチ部材、26 ボール(係合体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ部材と、該シリンダ部材内を摺動する摺動部材と、該摺動部材の外周部に設けられた外周クラッチ溝と、該外周クラッチ溝に対向して前記シリンダ部材の内周側に設けられた内周クラッチ溝と、前記外周クラッチ溝及び前記内周クラッチ溝の少なくとも一方に係合する係合体と、前記係合体を前記シリンダ部材の径方向に沿って移動可能に案内するクラッチ部材とを備え、
少なくとも前記クラッチ部材を組付けるとき、前記クラッチ部材に前記係合体を保持する保持手段を設けたことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
前記保持手段は、粘性を有する粘性剤であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記粘性剤は、グリスであることを特徴とする請求項2に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
前記保持手段は、前記クラッチ部材に形成されて前記係合体に当接する突出部であることを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項5】
前記クラッチ部材は、円筒状で、その側壁に径方向に沿って延びて前記係合体が挿入される複数の案内穴が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のシリンダ装置。
【請求項6】
シリンダ部材と、該シリンダ部材内を摺動する摺動部材と、該摺動部材の外周部に設けられた外周クラッチ溝と、該外周クラッチ溝に対向して前記シリンダ部材の内側に設けられた内周クラッチ溝と、前記外周クラッチ溝及び前記内周クラッチ溝の少なくとも一方に係合する係合体と、円筒状で、その側壁に径方向に沿って延びて前記係合体が挿入される複数の案内穴が形成されたクラッチ部材とを備えたシリンダ装置の製造方法であって、
前記クラッチ部材の案内穴に前記係合体を挿入する工程と、粘性を有する粘性剤を前記クラッチ部材の内周側から前記案内穴に供給し、前記粘性剤によって前記案内穴内で前記係合体を保持する工程と、前記係合体を保持した前記クラッチ部材を前記摺動部材の外周に挿入する工程とを有していることを特徴とするリンダ装置の製造方法。
【請求項7】
作動流体を収容したシリンダ部材と、該シリンダ部材内を摺動するピストンロッドと、バネ機構とを備え、
前記バネ機構は、前記ピストンロッドの外周部に設けられた外周クラッチ溝と、該外周クラッチ溝に対向して前記シリンダ部材の内側に設けられた内周クラッチ溝と、前記ピストンロッドの前記シリンダ部材に対して所定長さ以上移動した状態のとき、前記外周クラッチ溝と係合して前記ピストンロッドに対して軸方向に固定されると共に前記シリンダに対して軸方向に移動可能となり、前記ピストンロッドの前記シリンダ部材に対して移動した長さが所定未満の状態のとき、前記内周クラッチ溝と係合して前記シリンダに対して軸方向に固定されると共に前記ピストンロッドに対して軸方向に移動可能となるクラッチ手段と、前記クラッチ手段を付勢するバネ手段とを含み、
前記クラッチ手段は、前記外周クラッチ溝及び前記内周クラッチ溝の少なくとも一方に係合した状態で前記シリンダ部材側の前記内周クラッチ溝が設けられた内周面と前記ピストンロッドの外周面との間に挿入される複数の係合体と、前記係合体を前記シリンダ部材の径方向に沿って移動可能に案内するクラッチ部材とを含み、
少なくとも前記クラッチ部材を組付けるとき、前記クラッチ部材に前記係合体を保持する保持手段を設けたことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項8】
前記クラッチ部材は、円筒状で、その側壁に径方向に沿って延びて前記係合体が挿入される複数の案内穴が形成され、前記保持手段として、前記案内に粘性を有する粘性剤を塗布したことを特徴とする請求項7に記載のシリンダ装置。
【請求項9】
前記クラッチ部材は、円筒状で、その側壁に径方向に沿って延びて前記係合体が挿入される複数の案内穴が形成され、前記保持手段として、前記案内穴に前記係合体に当接する突出部を設けたことを特徴とする請求項7に記載のシリンダ装置。
【請求項10】
作動油が収納されたシリンダ部材と、該シリンダ部材内を摺動するピストンを備えたピストンロッドと、該ピストンロッドの外周部に設けられた外周クラッチ溝と、該外周クラッチ溝に対向して前記シリンダ部材の内周側に設けられた内周クラッチ溝と、前記外周クラッチ溝及び前記内周クラッチ溝の少なくとも一方に係合する係合体と、前記係合体を前記シリンダ部材の径方向に沿って移動可能に案内するクラッチ手段とを備え、
前記クラッチ手段は、前記外周クラッチ溝及び前記内周クラッチ溝の少なくとも一方に係合した状態で前記シリンダ部材側の前記内周クラッチ溝が設けられた内周面と前記ピストンロッドの外周面との間に挿入される複数の前記係合体と、前記係合体を前記シリンダ部材の径方向に沿って移動可能に案内するクラッチ部材とを含み、
前記クラッチ部材にグリスが塗布されていることを特徴とするシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31953(P2012−31953A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172944(P2010−172944)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】