説明

シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチド、そのポリヌクレオチド、及びそれらの用途

本発明は、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチド、そのポリヌクレオチド、及びその用途を開示する。より具体的には、本発明は、リグニン生合成に関与するシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチド、前記ポリヌクレオチドを暗号化するポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、このような組み換えベクターで形質転換された形質転換体、植物の生長を抑制する方法、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法、及び前記スクリーニング方法により得られた物質を含む植物の生長抑制用組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン生合成に関与するシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチド、そのポリヌクレオチド、及びそれらの用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、植物体の機械的支持を担当する成分であり、生物学的にみると、植物体になくてはならない成分である。リグニンはまた、病原菌の侵入と増殖に対する物理的障壁として機能することにより、植物体の疾病抵抗性を高める作用を持っている。
【0003】
リグニンが担っている上記した役割のために、全ての植物体には、ヒトや動物には存在しないリグニン生合成過程が必須に存在している。
【0004】
このようなリグニンの生合成過程は、一連の過程を経て進行するが、先ず、前駆物質であるL−フェニルアラニンが、フェニルアラニン・アンモニア・リアーゼ、シンナメート4−ヒドロキシラーゼ、4−ヒドロキシシンナメート3−ヒドロキシラーゼ、O−メチルトランスフェラーゼ、フェルレート5−ヒドロキシラーゼ、ヒドロキシシンナメートCoA−リガーゼ等の酵素によって、クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸を形成する過程である。この過程がフェニルプロパノイド経路であるが、これは、一般の経路であり、リグニン生合成に特異的な経路ではない。
【0005】
次に、これらの酸が、シンナモイルCoAレダクターゼ(CCR)により、桂皮アルデヒド、すなわち、コニファーアルデヒド、シナプアルデヒドに還元され、その桂皮アルデヒドが、シンナミルアルコール脱水素化酵素(CAD)により、モノリグノールのシンナミルアルコール、すなわち、コニフェリルアルコール、p−クマリルアルコール、シナピルアルコールに転換される過程である。この過程は、リグニン生合成に特異的な経路である。前記シンナミルアルコールは、最終的に過酸化酵素、ラッカーゼ等によりリグニンに合成されるようになる。
【0006】
このようなリグニンの生合成過程のために、前記リグニン生合成の特異的経路に関与しているシンナミルアルコール脱水素化酵素の機能が阻害されると、リグニン生合成が阻害される可能性がある。これは、リグニンは、植物体において、生物学的にその重要性が大きいので、リグニン生合成の阻害が植物の生長阻害につながることを示唆することである。
【0007】
本発明者らは、このように、シンナミルアルコール脱水素化酵素が、リグニン生合成の特異的経路に関与する酵素であるということに着目し、シンナミルアルコール脱水素化酵素の機能が阻害される場合、結局として、植物の生長阻害につながるという期待を持って、シロイヌナズナから前記酵素の機能を有する関連ポリペプチドとポリヌクレオチドを分離し、アンチセンス技術を用いて、そのポリペプチドの発現を阻害させてみたところ、シロイヌナズナの生長が阻害されることを確認することにより、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、前記ポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチドを提供することにある。
【0010】
本発明のまた他の目的は、植物の生長を抑制する方法を提供することにある。
【0011】
本発明のまた他の目的は、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記スクリーニング方法により得られた物質を含む植物の生長抑制用組成物を提供することにある。
【0013】
本発明のその他の目的や具体的な態様は、以下において提示される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、一側面において、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを提供する。
【0015】
本発明者らは、以下の過程を経て、前記ポリペプチドの機能を確認した。先ず、シロイヌナズナのシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有する蛋白質を暗号化すると推定される遺伝子(GeneBank accession number NM 121949)の塩基配列を基礎としてプライマーを作製し、シロイヌナズナから全長のcDNAを得た。次に、そのcDNAの塩基配列に基づいて、転写読み取り枠(Open Reading Frame)を分析したところ、前記cDNAがコードするポリペプチドの分子量を推定することができ、その推定された分子量のポリペプチドが前記cDNAを含む組み換え発現ベクターで形質転換された大腸菌から得られることが確認された。さらには、このような大腸菌から得られたポリペプチドは、コニファーアルデヒドからコニフェニルアルコールへの転換過程に関与することが確認された。
【0016】
したがって、本発明において、シンナミルアルコール脱水素化酵素は、三つのモノリグノールであるシンナミルアルコール、すなわち、コニフェリルアルコール、p−クマリルアルコール、シナピルアルコールのうち、コニフェリルアルコールの生合成に関与する酵素であり、コニファーアルデヒドに対する基質特異性を有する酵素として定義されることが好ましい。より好ましくは、コニファーアルデヒド及び逆反応基質であるコニフェリルアルコールに対する基質特異性を有する酵素として定義され得る。より好ましくは、コニファーアルデヒドに対する基質親和度が、コニフェリルアルコールに対する基質親和度よりも高い酵素として定義され得る。
【0017】
本発明のシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドは、下記のポリペプチドのいずれか一つである。
(a)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体を含むポリペプチド
(b)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド。
【0018】
上記、また請求の範囲を含めた以下において、「配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド」は、配列番号2に記載されたアミノ酸配列からなるポリペプチドと比較すると、未だにシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を保有するとみなすのに充分な程度の配列番号2のアミノ酸配列の一部分を含むポリペプチドと定義される。未だにシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を保有すればよいので、前記ポリペプチドの長さ、またそのポリペプチドが有する活性の程度は問題とならない。すなわち、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチドに比べて活性が低くても、未だにシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を保有するポリペプチドであれば、その長さに拘わらず、前記「配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド」に含まれるものである。通常の当業者であれば、すなわち、本出願当時を基準として公知された関連先行技術を平均的に熟知している者であれば、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて一部分が欠失しても、これらのポリペプチドは、未だにシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有しているものと期待することである。このようなポリペプチドとして、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて、N−末端部分またはC−末端部分が欠失したポリペプチドが挙げられる。これは、一般に、N−末端部分またはC−末端部分が欠失しても、そのポリペプチドは、本来のポリペプチドが有する機能を保有すると当業界に公知されているからである。もちろん、場合によっては、N−末端部分またはC−末端部分が、酵素の機能に必須なモチーフに関与することにより、N−末端部分またはC−末端部分が欠失したポリペプチドが、前記酵素の機能を示さないこともあり得るが、それにもかかわらず、そのような不活性のポリペプチドを活性のポリペプチドと区分して検出することは、当業者の通常の能力範囲内に属する。さらには、N−末端部分またはC−末端部分のみならず、その他の部分が欠失しても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに有していることもある。ここでも、当業者であれば、その通常の能力範囲内において、このような欠失したポリペプチドが、未だに本来のポリペプチドが有する機能を有しているかを充分に確認することができる。特に、本明細書が、配列番号1の塩基配列及び配列番号2のアミノ酸配列を開示しており、さらには、配列番号1の塩基配列により暗号化され、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドが、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するかを明らかに確認した実施例を開示していることから、配列番号2のアミノ酸配列において一部の配列が欠失したポリペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが有する機能を未だに保有するかを、当業者は、彼の通常の能力範囲内で充分に確認することができたことが極めて自明となる。したがって、本発明における「配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド」については、上記定義の通り、本明細書の開示内容に基づいて、当業者が、彼の通常の能力範囲内で製造可能なシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有する欠失した形態の全てのポリペプチドを含む意味として理解されるべきである。
【0019】
また、上記、また請求の範囲を含めた以下において、「前記(a)及び(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」とは、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むが、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが有する機能、すなわち、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を未だに保有するポリペプチドのことをいう。ここでも、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むポリペプチドがシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を未だに保有しておりさえすれば、このようなポリペプチドが有する活性の程度やアミノ酸が置換された程度は、問題とならない。換言すると、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドに比べて、その活性がいくら低くても、また多数の置換されたアミノ酸を含んでいるとしても、そのポリペプチドがシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を保有しておりさえすれば、本発明に含まれるものである。一つ以上のアミノ酸が置換されても、置換される前のアミノ酸が置換されたアミノ酸と化学的に等価であれば、その置換されたアミノ酸を含むポリペプチドは、未だに本来のポリペプチドの機能を保有しているものである。例えば、疎水性アミノ酸であるアラニンが、他の疎水性のアミノ酸、例えば、グリシン、または、より疎水性であるアミノ酸、例えば、バリン、ロイシンまたはイソロイシンに置換されても、その置換されたアミノ酸(等)を有するポリペプチドは、活性は低くても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものである。同様に、負に荷電されたアミノ酸、例えば、グルタミン酸が、他の負に荷電されたアミノ酸、例えば、アスパラギン酸に置換されても、その置換されたアミノ酸(等)を有するポリペプチドも、活性は低くても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものであり、また、正に荷電されたアミノ酸、例えば、アルギニンが他の正に荷電されたアミノ酸、例えば、リシンに置換されても、その置換されたアミノ酸(等)を有するポリペプチドもまた、活性は低くても、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものである。また、ポリペプチドのN−末端部分またはC−末端部分において置換されたアミノ酸(等)を含むポリペプチドも、本来のポリペプチドが有する機能を未だに保有するものである。当業者であれば、前述したような一つ以上の置換されたアミノ酸を含みながらも、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが有するシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を未だに保有するポリペプチドを製造することができる。また、当業者であれば、一つ以上の置換されたアミノ酸を含むポリペプチドが、未だに上記した機能を有するかを確認することができる。さらに、本明細書が、配列番号1の塩基配列及び配列番号2のアミノ酸配列を開示しており、また、配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有することを確認した実施例を開示しているので、本発明の「前記(a)及び(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、当業者にとって容易に実施可能なものであることが明らかである。したがって、「前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、一つ以上の置換されたアミノ酸を含みながらも、未だにシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有する全てのポリペプチドを含む意味として理解されるべきである。
【0020】
このように「前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、一つ以上の置換されたアミノ酸を含みながらも、未だにシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有する全てのポリペプチドを含む意味であるが、それにもかかわらず、活性の程度という観点からみると、前記ポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列との配列相同性が高いほど好ましい。前記ポリペプチドは、配列相同性の下限において、60%以上の配列相同性を有することが好ましいのに対して、配列相同性の上限においては、当然、100%の配列相同性を有することが好ましい。
【0021】
より具体的に、前記配列相同性は、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、及び99.6%の順に高くなるほど好ましい。ここで、99.6%の配列相同性は、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、一つのアミノ酸が置換された場合である。
【0022】
また、本発明の「前記(a)及び(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」は、「配列番号2のアミノ酸配列の全体を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」のみならず、「配列番号2のアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」を含むので、前述した全ての説明は、「配列番号2のアミノ酸配列の全体を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」についてのみならず、「配列番号2のアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド」についても適用される。
【0023】
本発明は、他の側面において、前述したポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチドに関するものである。ここで、「前述したポリペプチド」とは、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有すると共に、配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体を含むポリペプチド、配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド、及び前記ポリペプチドと実質的に類似したポリペプチドを含むのみならず、前述した好適な態様の全てのポリペプチドを含む意味である。したがって、本発明のポリヌクレオチドは、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有すると共に、配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体またはその実質的な部分を含むポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチド、及びこのポリペプチドと実質的に類似したポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチドを含み、さらには、好適な態様として、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有すると共に、前述した配列相同性の順に、その配列相同性を有する全てのポリペプチドを暗号化する単離されたポリヌクレオチドを含む。アミノ酸配列が明らかになったとき、そのアミノ酸配列に基づき、そのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチドを、当業者であれば、容易に製造することができる。
【0024】
一方、前記「単離されたポリヌクレオチド」は、請求の範囲を含む以下において、化学的に合成されたポリヌクレオチド、生物体、特に、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)から分離されたポリヌクレオチド、及び変形されたヌクレオチドを含有したポリヌクレオチドを全て含み、一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNAの重合体を全て含むものと定義する。したがって、前記「単離されたポリヌクレオチド」とは、cDNAを含めてヌクレオチドを化学的に重合させたポリヌクレオチドのみならず、さらには、生物体、特に、シロイヌナズナから分離されるgDNAを含む。ここで、本明細書が開示している配列番号2のアミノ酸配列、これをコードする配列番号1の塩基配列、及び当業界に公知された技術に基づく限り、cDNAを含めて前記化学的に合成されるポリヌクレオチドの製造及び前記gDNAの分離は、当業者の通常の能力範囲内に属するものである。
【0025】
本発明は、また他の側面において、前述したポリヌクレオチドに相補的に結合可能なアンチセンスヌクレオチドに関するものである。
【0026】
前記アンチセンスヌクレオチドは、前述したポリヌクレオチドに相補的に結合し、転写(ポリヌクレオチドがDNAである場合)または翻訳(ポリヌクレオチドがRNAである場合)を阻害可能な全てのポリ(またはオリゴ)ヌクレオチドを含む。このようなアンチセンスヌクレオチドは、前述したシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに相補的に結合し、転写(ポリヌクレオチドがDNAである場合)または翻訳(ポリヌクレオチドがRNAである場合)を阻害可能であれば、その長さやその相補的な配列相同性は、問題とならない。短い長さ、例えば、30個ヌクレオチド程度のポリヌクレオチドとしても、その当該遺伝子(DNA及びRNAを含む)に対して100%の相補的な配列相同性を有し、その他の条件、例えば、濃度やpH等が適宜調節されれば、アンチセンスヌクレオチドとして作用することができる。また、配列においても、その当該遺伝子と100%の相補的な配列相同性を有していなくても、適当な大きさの長さを有すれば、同様に、アンチセンスヌクレオチドとして作用することができる。したがって、アンチセンスヌクレオチドの長さ、相補的な配列相同性の程度に拘わらず、アンチセンスヌクレオチドとして作用することができれば、すなわち、当該遺伝子の転写または翻訳を阻害可能な能力があれば、いずれも、本発明のアンチセンスヌクレオチドに含まれるものとみなされるべきである。ここで、アンチセンスヌクレオチドとして必要な長さの決定、当該遺伝子と相補的な配列相同性の程度、また、そのアンチセンスヌクレオチドの製造方法については、本明細書が開示している配列番号1の塩基配列、配列番号2のアミノ酸配列、及び当業界に公知された技術に基づく限り、いずれも、当業者の通常の能力範囲内に属するものである。
【0027】
一方、前記アンチセンスヌクレオチドは、配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチドが好ましい。ここで、「配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分」とは、前述した内容を考えると、配列番号1の塩基配列からなるDNAまたはそれから転写されたRNAと相補的に結合し、その転写または翻訳を妨害するのに充分な長さを含むものと理解され得る。
【0028】
本発明は、また他の側面において、前述したポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、及びその組み換えベクターで形質転換された形質転換体に関するものである。
【0029】
後述する本発明の実施例では、配列番号1に記載された塩基配列からなるシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをpCAL−n(Stratagene,USA)に挿入して作製された組み換えベクターをpCAtCAD−Hと命名し、そのpCAtCAD−H組み換えベクターを大腸菌に形質転換させた後、前記ポリヌクレオチドから発現されたポリペプチドを分離し、その分子量を確認した結果、配列番号1の塩基配列の転写読み取り枠(ORF)から推定された分子量と同一であることを確認することができた。
【0030】
このような本発明の好適な実施の態様を考えると、前記組み換えベクターは、pCAtCAD−Hであることが好ましく、また、本発明の形質転換体は、前記組み換えベクターで形質転換された大腸菌であることが好ましい。
【0031】
本発明は、また他の側面において、植物の生長を抑制する方法を提供する。具代的に、本発明の植物の生長を抑制する方法は、配列番号2のアミノ酸配列、またはそれに類似した配列からなるシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドの発現または機能を抑制する段階を含むことを特徴とする。
【0032】
前述したが、シンナミルアルコール脱水素化酵素は、リグニンの生合成に特異的な反応を媒介する酵素である。また、リグニンは、植物にとって必須な成分である。したがって、シンナミルアルコール脱水素化酵素が発現されず、または、その機能が抑制されると、リグニンの生合成が阻害され、結局として、植物の生長の抑制となるものである。本発明の実施例に示すように、実際、配列番号1の塩基配列に相補的なアンチセンスヌクレオチドをシロイヌナズナに形質転換させたとき、形質転換されたシロイヌナズナにおいて生長が遅滞する等の現象が発見された。したがって、本発明の植物の生長を抑制する方法は、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドの発現を抑制し、または、その機能を抑制することにより、可能となるものである。
【0033】
一方、上記、また請求の範囲を含めた以下において、「配列番号2のアミノ酸配列と類似した配列からなるポリペプチド」とは、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドの同族体として、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有すると共に、植物体の種類による進化的経路の相違により、配列番号2のアミノ酸配列と異なる配列からなる全てのポリペプチドを含む意味である。したがって、前記本発明の植物の生長を抑制する方法において、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドが、たとえシロイヌナズナから分離されたものであっても、前記植物の範囲には、シロイヌナズナのみならず、その他の全ての植物が含まれるものと理解されるべきである。ただし、ここで、配列番号2のアミノ酸配列と類似した配列からなるポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸配列と配列相同性が高いほど好ましく、最も好ましくは、当然、100%の配列相同性を有するときである。一方、配列相同性の下限においては、前記ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列相同性を有する場合が好ましい。より具体的には、前記配列相同性が、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、及び99.6%の順に高くなるほど好ましい。
【0034】
一方、上記において、ポリペプチドの発現抑制は、当業界に公知の方法で充分可能である。すなわち、アンチセンスヌクレオチド導入、遺伝子除去、遺伝子挿入、T−DNA導入、相同的組み換え、または、トランスポゾン標識、siRNA(small interfering RNA)等の方法が用いられる。
【0035】
後述する本発明の実施例では、アンチセンスヌクレオチドを植物体内に導入する方法を用いているが、具体的には、先ず、配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを製造した後、それを含む組み換えベクター(pSEN−antiAtCAD−Hベクター)を作製し、その組み換えベクターをアグロバクテリウム・トゥメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に形質転換させた後、この形質転換体をシロイヌナズナに形質転換させる過程を経た。この形質転換されたシロイヌナズナに種子を育種した結果、いずれも、生長が顕著に低化する現象が確認された(下記実施例4参照)。
【0036】
したがって、本発明の植物の生長を抑制する方法において、前記段階は、配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチドを、当該植物体内に導入する段階を含むことが好ましく、前記アンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体を植物体内に導入する段階を含むことがより好ましく、特に、前記形質転換体は、前記組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスであることがさらに好ましい。ここで、「配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分」とは、前記本発明のアンチセンスヌクレオチドと関連して説明したものと同様である。
【0037】
一般に、アンチセンスヌクレオチドは、核酸(RNAまたはDNA)内の標的ヌクレオチド配列と結合し、前記核酸の機能または合成を抑制する役割をすると知られている。すなわち、ある特定の遺伝子に相応するアンチセンスヌクレオチドは、RNA及びDNAの両者にハイブリダイズする能力を有することにより、転写または翻訳過程において特定の遺伝子の発現を阻害するものである。
【0038】
したがって、配列番号2のアミノ酸配列またはそれに類似したアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現抑制やその機能抑制を通じて、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能が阻害されると、結果として、リグニンの生合成が阻害され、植物の生長が抑制され得る。
【0039】
本発明の植物の生長を抑制する方法は、植物にのみ存在するリグニンの生合成過程を阻害させる機序を用いるということから、リグニン生合成過程が存在しないヒトや動物には、特に害を与えない方法となり得る。
【0040】
本発明は、また他の側面において、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法に関するものである。前記方法は、配列番号2のアミノ酸配列及びそれに類似した配列からなるシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドの発現またはその機能を抑制する物質を検出する段階を含むことを特徴とする。
【0041】
上記、また請求の範囲を含めた以下において、配列番号2のアミノ酸配列と類似した配列からなるポリペプチドとは、前記本発明の植物の生長を抑制する方法において説明したことがそのまま適用され、前記ポリペプチドの発現を抑制する物質としては、既述したようなシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドが挙げられる。
【0042】
一方、前記ポリペプチドの発現を抑制する物質は、本発明の植物の生長を抑制する方法と関連して前述した理由から、配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチドであることが好ましく、前記アンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体であることがより好ましく、特に、前記組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスであることがさらに好ましい。ここでも、「配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分」とは、前記本発明のアンチセンスヌクレオチドと関連して説明したものと同様である。
【0043】
本発明のまた他の目的は、前記スクリーニング方法により得られた物質を含む植物の生長抑制用組成物に関するものである。
【0044】
このような植物の生長抑制用組成物は、ヒト及び動物に害を与えないと共に、植物の生長を抑制する効果を有するものと期待される。これは、本発明の植物の生長抑制用組成物がヒトに無害であり、環境親和的な除草剤として用いられ得ることを示唆することである。
【0045】
一方、上記において前記スクリーニング方法によって得られた物質としては、前述したようなアンチセンスヌクレオチドであることが好ましく、特に、配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分を含むアンチセンスヌクレオチドであることが好ましい。また、前記物質は、前記アンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体であることがより好ましく、さらに、その形質転換体は、前記組み換えベクトルで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスであることが好ましい。ここでも、「配列番号1の塩基配列の一部分に相補的な部分」とは、前記本発明のアンチセンスヌクレオチドと関連して説明したようである。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチド、そのポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、このような組み換えベクターで形質転換された形質転換体、植物の生長を抑制する方法、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法、及び前記スクリーニング方法により得られた物質を含む植物の生長抑制用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明を実施例を参照して説明する。しかしながら、これらの実施例が本発明の範囲を制限するものではない。
【0048】
<実施例1>シロイヌナズナからシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化する遺伝子の分離
【0049】
シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化する遺伝子をシロイヌナズナから分離するためのスクリーニングを行った。
【0050】
<1−1>シロイヌナズナの栽培及び培養
シロイヌナズナは、土壌を入れた植木鉢で栽培し、または、2%スクロース(pH5.7)と0.8%寒天が含まれたMS(Murashige and Skoog salts,Sigma,USA)培地を入れたペトリ皿で栽培した。植木鉢で栽培するときは、22℃の温度で16/8時間、明暗周期で調節される栽培箱中で栽培した。
【0051】
<1−2>RNA抽出とcDNAライブラリーの製造
シロイヌナズナcDNAライブラリーを作るために、数個の分化段階のシロイヌナズナの葉からTRI試薬(Sigma,USA)を用いてRNAを抽出し、抽出された全RNAから、mRNA分離キット(Pharmacia,USA)のプロトコールに従って、poly(A)+RNAを分離した。プライマーとしてNotI−(dT)18を用いて、poly(A)+RNAとcDNA合成キット(Time Saver cDNA synthesis kit,Pharmacia,USA)で二本鎖のcDNAを製造した。
【0052】
<1−3>シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化する遺伝子の分離
シロイヌナズナのシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有する蛋白質を暗号化すると推定される蛋白質(GeneBank accession number NM 121949)の塩基配列を基礎として、配列番号3と表示され、制限酵素BgmHIの配列が含まれた正方向プライマーと、配列番号4と表示され、制限酵素HindIIIの配列が含まれた逆方向プライマーを合成した。前記両プライマーを用いて、前記実施例1−2において製造されたシロイヌナズナcDNAライブラリーからPCR(polymerase chain reaction)を用いて、全長cDNAを増幅し分離した。
【0053】
前記分離されたcDNAの分析の結果、約35.6kDaの分子量を有し、326個のアミノ酸を暗号化する981bpサイズの転写読み取り枠(ORF)を有しており、6個のエクソンと5個のイントロンで構成されていることが確認され、これをAtCAD−H(Arabidopsis thaliana cinnamyl alcohol dehvdrogenase−H)と命名した。前記遺伝子が暗号化するAtCAD−H蛋白質の等電点は7.15であった(以下、遺伝子は、イタリック体を用いて「AtCAD−H」または「AtCAD−H遺伝子」とし、蛋白質は、「AtCAD−H」または「AtCAD−H蛋白質」とする)。
【0054】
<実施例2>大腸菌においてAtCAD−H遺伝子から発現される蛋白質の精製
【0055】
<2−1>蛋白質の発現誘導
前記実施例1−3において分離したAtCAD−H cDNA全長部位を含む増幅されたDNA断片をBgmHI制限酵素とHindIII制限酵素で切断し、pCAL−nベクター(Stratagene,USA)のBamHI制限酵素とHindIII制限酵素部位にクローニングし、pCAtCAD−H組み換えベクターを作製した。ここで、前記pCAL−nベクターは、カルモデュリン結合ペプチド標識配列を含んでいるので、前記ベクターから発現される蛋白質は、カルモデュリンレジンにより容易に分離されるという利点がある。
【0056】
前記pCAtCAD−H組み換えベクターを大腸菌に形質変換させて増幅した後、これを大腸菌BL21−Gold(DE3)(Stratagene,USA)に形質転換させた。100μg/mlのアンピシリンが含まれたLB(Luria−Bertani broth,USB,USA)培地において、O.D.600値が0.7となるまで、37℃で150rpmで撹拌培養した。目標蛋白質の大腸菌細胞内発現を誘導するために、前記懸濁液にIPTG(isopropyl−D−thiogalactoside)を最終濃度1mMとなるように加えた後、2時間さらに培養した。培養された細胞を50mM MgSO4と0.4M NaClが溶存された50mM−リン酸カリウム緩衝剤(pH7.0)で洗浄した後、さらに、4,000xgで15分間遠心分離し、沈殿物を集めて−20℃で保管した。
【0057】
<2−2>蛋白質の精製
前記実施例2−1で得た細胞沈殿物をCaCl2結合バッファ(binding buffer;50mM Tris−HCl,pH8.0,150mM NaCl,10mM β−mercaptoethanol,1.0mM magnesiumacetate,1.0mM imidazole,2mM CaCl2)に懸濁した。前記細胞懸濁液にリゾチームを最終の濃度が200μg/mlとなるように添加し、15分間回転させた後、30秒間超音波粉砕を行った。粉砕された試料を5分間氷で冷却させ、このような過程(超音波粉砕後、冷却)を3回繰り返して行った。前記試料を10,000xgで5分間遠心分離し、上澄み液を集めてカルモデュリンアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。すなわち、平衡化したカルモデュリンアフィニティーレジンに前記上澄み液(粗抽出物)を適用し、4℃で24時間の間反応させた。レジンに付着しない蛋白質及び他の物質を除去するために、CaCl2結合バッファでカラムを洗浄し、カルモデュリンが結合された蛋白質を溶出緩衝液(50mM Tris−HCl,pH8.0,10mM β−mercaptoethanol,2mM EDTA,150mM NaCl)を用いて、カラムマトリクスから分離した。対照群としては、pCAL−nベクターで形質転換された大腸菌の粗抽出物から分離された蛋白質を用いた。
【0058】
前記蛋白質の精製を確認するために、pCAtCAD−H組み換えベクターで形質転換された大腸菌懸濁液と、これから分離された大腸菌溶出液のクロマト分画の1番目の分画から13番目の分画を対象としてSDS−PAGEの分析を行った。その結果、図1に示すように、pCAtCAD−H組み換えベクターで形質転換された大腸菌から分離した分画の4番目の分画から9番目の分画において、蛋白質の量が最も高く示されたことが認められ、pCAtCAD−H組み換えベクターで形質転換された大腸菌から分離した溶出液が、39.6kDaサイズの融合蛋白質(AtCAD−H遺伝子から発現される蛋白質の分子量35.6kDa+カルモデュリン結合ペプチドの分子量4kDa)を含んでいることが確認された。これに対して、対照群大腸菌の溶出液では、前記サイズの蛋白質を含んでいないことが確認された(データは示されていない)。
【0059】
一方、図1において、Mは、マーカーを示し、矢印(←)は、39.6kDaサイズの融合蛋白質を示すためのものである。また、レーンSは、AtCAD−H遺伝子が含まれた組み換えベクターで形質転換された大腸菌から得られた上澄み液に対するものであり、レーンPは、AtCAD−H遺伝子が含まれた組み換えベクターで形質転換された大腸菌から得られた不溶性蛋白質に対するものであり、レーンBは、カルモデュリンアフィニティークロマトグラフィーにおいて、溶出緩衝液で溶出する直前の状態の分画に対するものである。また、レーン1乃至13は、それぞれAtCAD−H遺伝子が含まれた組み換えベクターで形質転換された大腸菌溶出液の1乃至13番目の分画に対するものである。
【0060】
<実施例3>蛋白質の酵素活性度の分析
前記分離された蛋白質が、リグニン生合成に関与するシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有しているかを確認するために、コニファーアルデヒドを基質として、酵素活性度を測定し、本酵素が可逆反応に対しても機能を有しているかを確認するために、コニフェリルアルコールを基質として、逆反応に対する酵素活性度を測定した。
【0061】
前記蛋白質の酵素活性度は、37℃に調節されるマイクロプレートリーダ(Biorad Benchmak Microplate Reader)を用いて、405nmでミッチェル(Mitchell et al.Planta,208:31−47,1999)等の方法により測定した。酵素の正反応活性測定のための反応液200mlには、100mMトリス緩衝液溶液(Tris−HCl,pH9.3)、100mM NADPH、前記実施例2−2において精製された蛋白質2〜3μgが含まれており、酵素の逆反応活性測定のための反応液200mlには、100mM NADPHを除き、100mM NADP+を含ませ、その他の条件は正反応と同じである。正反応の場合、基質濃度別のコニファーアルデヒドを、また逆反応の場合、基質濃度別のコニフェリルアルコールを、それぞれ反応溶液に添加して酵素活性を測定した。酵素活性測定のための対照群としては、前記精製された蛋白質を除いた他の成分が含有されたウエルを用いた。
【0062】
前記精製された蛋白質の酵素活性度は、基質100mMコニファーアルデヒドに対するミカエリス−メンテン型反応速度論に適合しており、基質のそれぞれの温度変化に応じた反応速度を測定し、ラインウィーバー−バークプロットで示した結果(図2a参照)、Km値及びVmax値が1.98×10-5M及び0.238で表われた。このような結果は、AtCAD−H遺伝子から発現される蛋白質が桂皮アルデヒドのうちコニファーアルデヒドに対する基質特異性を有するシンナミルアルコール脱水素化酵素であることを示した。
【0063】
また、前記精製された蛋白質の酵素活性度は、逆反応基質100mMコニフェリルアルコールに対しても、ミカエリス−メンテン型反応速度論に適合しており、気質のそれぞれの濃度変化に応じた反応速度を測定し、ラインウィーバー−バークプロットで示した結果(図2b参照)、Km値及びVmax値がそれぞれ3.7×10-4M及び0.102で表われた。このような結果は、正反応における基質親和度が逆反応のそれよりも高いことを意味し、このような事実は、AtCAD−H蛋白質がリグニン生合成において、シンナミルアルコールの適正濃度の維持のための自己調節能力を有するという可能性を提示し、したがって、本蛋白質がリグニン生合成において極めて重要な役割を担っていると逆説することができる。一方、本蛋白質の最適pHの研究に際して、正反応と逆反応における最適pHの範囲には大きな差がなかった(データは示されていない)。このような事実は、本蛋白質の正・逆反応の基質に対する作用が、生体内pHの変化に対して、大きな影響を受けないということを示唆する。
【0064】
<実施例4>AtCAD−H遺伝子に対するアンチセンス構成体が導入された形質転換シロイヌナズナの製造及び特性分析
【0065】
<4−1>AtCAD−H遺伝子に対するアンチセンス構成体が導入された形質転換シロイヌナズナの製造
前記実施例2−2において精製した蛋白質の生理学的特性を確認するために、AtCAD−H遺伝子がアンチセンス方向に導入された形質転換シロイヌナズナを製造し、AtCAD−H転写体の発現を抑制した。
【0066】
配列番号5と表示され、制限酵素BglIIの配列が含まれた正方向プライマー、及び配列番号6と表示され、制限酵素XbaIの配列が含まれた逆方向プライマーを用いて、シロイヌナズナのcDNAからPCRを用いて、AtCAD−H cDNAをアンチセンス方向に増幅した。前記DNAを制限酵素BglIIとXbaIで切断し、発芽時期に植物体の致死を避けるために、ストレスまたは老化関連遺伝子であるsen1プロモータの調節を受けるように作製したpSENベクターにクローニングし、AtCAD−H遺伝子に対するアンチセンス構成体であるpSEN−antiAtCAD−H組み換えベクターを作製した。上記において、sen1プロモータは、植物の生長段階により発現される遺伝子に対して特異性を有する。
【0067】
一方、図3にpSENベクターとpSEN−antiAtCAD−H組み換えベクターの構成が示されている。図3aに示すものはpSENベクターの構成であり、図3bに示すものはpSEN−antiAtCAD−H組み換えベクターの構成である。図3におけるBARは、バスタ除草剤に対する抵抗性を与えるbar遺伝子(phosphinothricin acetyltransferase gene)を指し、RBは右縁、LBは左縁、P35SはCaMV 35S RNAのプロモータ、35S poly AはCaMV 35S RNA poly A,PSENはsen1プロモータ、Nos poly Aはノパリンシンターゼ遺伝子のpoly Aを指す。
【0068】
前記pSEN−antiAtCAD−H組み換えベクターをアグロバクテリウム・トゥメファシエンスにエレクトロポレーション法を用いて導入させた。形質転換されたアグロバクテリウム培養液を28℃でO.D.600値が1.0となるまで培養し、25℃で5,000rpmで10分間遠心分離し、細胞を得た。得られた細胞を最終のO.D.600値が2.0となるまで、IM(Infiltration Medium;1X MS SALTS,1X B5 vitamin,5%sucrose,0.005% Silwet L−77,Lehle Seed,USA)培地に懸濁した。4週令シロイヌナズナを真空室にあるアグロバクテリウム懸濁液に浸漬させ、10分間104Paの真空下に放置した。浸漬後、シロイヌナズナを24時間の間ポリエチレン袋に入れた。以降、形質転換されたシロイヌナズナを続けて生長させて種子(T1)を収穫した。対照群としては、形質転換されなかった野生のシロイヌナズナ、及びアンチセンスAtCAD−H遺伝子が含まれていないベクター(pSENベクター)のみで形質転換されたシロイヌナズナを用いた。
【0069】
<4−2>T1形質転換シロイヌナズナの特性分析
前記実施例4−1におけるように、形質転換したシロイヌナズナから収穫した種子は、0.1%バスタ(Basta)除草剤(耕農、韓国)溶液に30分間浸漬させて培養することにより、選別した。形質転換されたシロイヌナズナは、対照群(pSENベクターで形質転換されたシロイヌナズナ)と比較すると、アンチセンス方向にAtCAD−H遺伝子が導入された形質転換シロイヌナズナの種子から育った苗木であるAtcad−H1は、深刻に生長が遅滞し、濃緑色に着色現象が生じ(図4a参照)、Atcad−H6は、上述したように、深刻に生長が遅滞し、しかも、葉の形態的変化(枯れ現象)が引き起こされた(図4b参照)。このように、表現型変化において、両ラインに若干の差があることは、本遺伝子に対する変異体のアンチセンス効果の差によるものである。以降、このような形質転換シロイヌナズナは、開花及び種子の生産において、致命的な損傷を被った。また、本研究者らは、本遺伝子の遺伝子サイレンシングが発生したT−DNA標識、ノックアウト突然変異体でも、このような表現型の変化を観察することができた(データは示されていない)。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドが含まれた組み換えベクターで形質転換された大腸菌溶出液の各分画に対するSDS−PAGEの分析結果を示すものである。
【図2a】基質であるコニファーアルデヒドに対する精製された蛋白質の基質特異酵素活性度を測定するために、基質の濃度変化に応じた反応速度を測定し、ラインウィーバー−バークプロットで示したものである。
【図2b】逆反応に対する基質であるコニフェリルアルコールに対する精製された蛋白質の基質特異酵素活性度を測定するために、基質の濃度変化に応じた反応速度を測定し、ラインウィーバー−バークプロットで示したものである。
【図3a】本発明のシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドがアンチセンス方向に導入されるベクターの構造(模式図)を示すものである。
【図3b】本発明のシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドがアンチセンス方向に導入されたベクターの構造(模式図)を示すものである。
【図4a】本発明のシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドがアンチセンス方向に導入された形質転換シロイヌナズナの種子から育った幼苗であるAtcad−H1の写真である。
【図4b】本発明のシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチド、特に、配列番号1の塩基配列からなるポリヌクレオチドがアンチセンス方向に導入された形質転換シロイヌナズナの種子から育った幼苗であるAtcad−H6の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)及び(c)のポリペプチドからなる群から選ばれるポリペプチドであって、正反応基質のコニファーアルデヒド、及び逆反応基質のコニフェリルアルコールに対する基質特異性を有すると共に、コニファーアルデヒドに対する基質親和度が、コニフェリルアルコールに対する基質親和度よりも高い、シンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチド。
(a)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の全体を含むポリペプチド
(b)配列番号2に記載されたアミノ酸配列の実質的な部分を含むポリペプチド
(c)前記(a)または(b)のポリペプチドと実質的に類似したポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドを暗号化するポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号2に記載されたアミノ酸配列またはそれに類似した配列からなるシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドの発現またはその機能を抑制する段階を含む、植物の生長を抑制する方法。
【請求項4】
前記段階が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを植物体内に導入する段階を含むことを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項5】
前記段階が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターを植物体内に導入する段階を含むことを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項6】
前記段階が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスを植物体内に導入する段階を含むことを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項7】
前記段階が、遺伝子除去、遺伝子挿入、T−DNA導入、相同的組み換え、トランスポゾン標識、及びsiRNAからなる群より選ばれたいずれか一つの方式により行われることを特徴とする、請求項3に記載の植物の生長を抑制する方法。
【請求項8】
配列番号2に記載されたアミノ酸配列またはそれに類似した配列からなるシンナミルアルコール脱水素化酵素機能を有するポリペプチドの発現またはその機能を抑制する物質を検出する段階を含む、植物の生長を抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によりスクリーニングされた物質を含む、植物の生長抑制用組成物。
【請求項10】
前記物質が、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチド、請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクター、及び請求項2に記載のポリヌクレオチドに対するアンチセンスヌクレオチドを含む組み換えベクターで形質転換されたアグロバクテリウム・トゥメファシエンスからなる群より選ばれたことを特徴とする、請求項9に記載の植物の生長抑制用組成物。

【図1】
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【図2a】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図2b】
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【公表番号】特表2008−505609(P2008−505609A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500675(P2007−500675)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000454
【国際公開番号】WO2006/004244
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(506279595)
【出願人】(506280041)コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー (3)
【Fターム(参考)】