説明

シークイン供給装置を備える多針ミシン

【課題】複数の針棒の下部に付される色糸の色替え作業に先立ち、上方に位置する「大きなリール」を作業者から見て手前側が大きく開放される状態にして、作業空間を広く感じさせるようにする
【解決手段】アーム36とガイドレール55との連結を、アーム36の最も手前側の端部39aの部材に対して、ガイドレール55によって案内される主枠60の上部に備えさせるリール66の手前側66aが、退避位置80において、上方から見て、リール66の奥側よりも大きく隣接する多針ミシンBの方向へ向けて回動して、当該多針ミシンBの手前側上方の作業空間81が大きくできるように配設された枢着部45を介して連結する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
刺繍縫製を夫々可能にする複数の多針ミシンと、上記各多針ミシンにおける針落孔に対して夫々シークインを次々と供給できるシークイン供給装置とを備え、シークインを上記各多針ミシンでもって次々と縫付けることができるシークイン供給装置を備える多針ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、夫々は刺繍縫製を可能にする複数の多針ミシンと、上記各多針ミシンにおける針落孔に対して夫々シークインを次々と供給できるシークイン供給装置を備え、シークインを上記各多針ミシンでもって次々と縫付けることができるシークイン供給装置を備える多針ミシンは広く知られている。例えば特許文献1においては夫々シークイン供給装置を備える多頭の刺繍用多針ミシン等が、特許文献2においては刺繍縫製を可能にする刺繍用の多針ミシンが知られている。
上記特許文献1において、シークイン供給装置を備える多針ミシンの構成は、基枠(機枠)に対して複数の多針ミシン(刺繍ミシン)が連動自在に並設されていて、夫々の多針ミシンにあっては、ヘッドの横動枠に対して複数の針棒が上下動自在に並設され、各針棒は横動枠を左右に横動させることにより針落ち位置に対して選択移動を自在に構成されている。さらに夫々の多針ミシンにあっては、その内の側方の各1本の針棒の手前に、夫々シークイン供給装置を備えさせ、各シークイン供給装置は、多針ミシンの上記1本の針棒を針落ち位置に対して選択移動させて利用する場合には、各対応する多針ミシンの針落ち位置に対してシークインを次々と供給できるようにしてある。そして、
各シークイン供給装置は、自体のガイドレールを支える為に各多針ミシンの横動枠に連なる側方の枠部から手前側に向けて持ち出し状に形成されたアーム(フレーム)と、アームに対して傾斜状態を維持する状態で連結されていて斜め上方に向けて延びている主枠支持用のガイドレール(レール)と、ガイドレールによって上方の手前寄りの上昇位置と、下方の針落ち位置寄りの供給位置との間を上下方向に摺動を自在に支持されている主枠(昇降板)と、主枠の上部において、回動自在に備えさせてあるリールと、主枠の下部において、リールから延出させた帯状のシークイン(シークインを連ねたテープ)を次々と上記多針ミシンの針落ち位置に供給するようにしてあるシークイン供給機構(供給機構)とを備え、シークイン供給機構から繰り出す帯状のシークインの先端の1つずつを切り離して、上記刺繍ミシンで布に縫い付けるようにしてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−342369号公報
【特許文献2】特開平7−328273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この特許文献1に開示されている従来の「シークイン供給装置を備える多針ミシン」では、同時に複数の多針ミシンを作動させて複数の多針ミシンにおける各1本の針棒に付されている糸を用いて、各シークイン供給装置から供給されるシークインを夫々の布に対して縫い付けできる利点がある。
しかも、上記1本の針棒の下部に付される針先の孔に糸を通す作業をする場合は、対応する針棒の手前側に配置してあるシークイン供給装置のシークイン供給機構を、主枠をガイドレールによって上方の上昇位置へ上昇させることにより上昇させ、その結果、上記1本の針棒の下部に付される針先の手前側を開放し、その針に対する糸の色替えを容易にする利点がある。
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1記載の「シークイン供給装置を備える多針ミシン」は、多針ミシンの横動枠に連なる側方の枠部に対して元部が固着されているアームを手前側に向けて持ち出し状に形成し、そのアームの先に主枠支持用のガイドレールが付され、そのガイドレールにシークイン供給機構を有する主枠が装着されているので、シークイーンの縫付け作業は、多針ミシンの複数の針棒の内、シークイン供給機構に対向する「端部の1本の針棒」しか利用できない問題点があった。
また、上記「端部の1本の針棒」の下部に付される針先の孔に糸を通す糸替え作業をする場合、シークイン供給装置のシークイン供給機構を上方の上昇位置へ上昇させると、針棒の下部に付される針先の手前側は開放されて、好都合のように思われるが、この場合、上方に存在する帯状のシークインを蓄えている大きなリールが、手前側上方に向けて上昇し、糸替え作業者の顔面に近づくことになり、これが目障りとなって、糸替え作業の能率を低下させる問題点があった。
【0006】
本件出願の目的は、複数の多針ミシンにおける夫々の隣接相互間を近づけて配置し、全体の横幅寸法を小型化するものであっても、各多針ミシンにおいては、針落ち位置に複数の針棒を選択移動させて夫々異なる多色の色糸を変更しながらシークイン供給装置から供給されるシークインを、多色の色糸で縫い付けできるようにしたシークイン供給装置を備える多針ミシンを提供しようとするものである。
他の目的は、複数の針棒の夫々の下部に付される針先の孔に通してある色糸の色替え作業に先立ち、シークイン供給装置の主枠を退避位置に上昇させた場合、上方に位置することになる「大きなリール」を上方において、作業者から見て手前側が大きく開放された状態となり、作業者に対して作業空間を広く感じさせるようになるシークイン供給装置を備える多針ミシンを提供しようとするものである。
他の目的及び利点は図面及びそれに関連した以下の説明により容易に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるシークイン供給装置を備える多針ミシンは、
基枠Aには複数の多針ミシンBが連動自在に並設されていて、夫々の多針ミシンBにあっては、多針ミシンBにおける回動枠4に対して複数の針棒7が上下動自在に並設され、各針棒7は回動枠4を回動させることにより針落ち位置1aに対して選択移動を自在に構成されており、さらに夫々の多針ミシンBの手前には、夫々対応する多針ミシンBの針落ち位置1aに対してシークインを次々と供給できるようにしてあるシークイン供給装置Eを備えさせており、上記の各シークイン供給装置Eは、ガイドレール55を支える為に多針ミシンBの間に位置する基枠Aから手前側77に向けて持ち出し状に形成されたアーム36と、アーム36に対して傾斜状態を維持する状態で連結されていて斜め上方に向けて延びている主枠支持用のガイドレール55と、ガイドレール55によって上方の手前寄りの上昇位置78と、下方の針落ち位置寄りの供給位置79との間を上下方向に摺動を自在に支持されている主枠60と、主枠60の上部において回動自在に備えさせてあるリール66と、主枠60の下部においてリール66から延出させた帯状のシークインS1を次々と上記多針ミシンBの針落ち位置1aに供給するようにしてあるシークイン供給機構70とを備えているシークイン供給装置Eを備える多針ミシンBにおいて、上記アーム36とガイドレール55との連結は、アーム36の最も手前側の端部39aの部材に対して、ガイドレール55によって案内される主枠60の上部に備えさせるリール66の手前側66aが、退避位置80において、上方から見て、リール66の奥側よりも大きく隣接する多針ミシンBの方向へ向けて回動して、当該多針ミシンBの手前側上方の作業空間81が大きくできるように配設された枢着部45を介して連結したものである。
【0008】
また好ましくは、基枠Aには複数の多針ミシンBが連動自在に並設されていて、夫々の多針ミシンBにあっては、多針ミシンBにおける回動枠4に対して複数の針棒7が上下動自在に並設され、各針棒7は回動枠4を回動させることにより針落ち位置1aに対して選択移動を自在に構成されており、さらに夫々の多針ミシンBの手前には、夫々対応する多針ミシンBの針落ち位置1aに対してシークインを次々と供給できるようにしてあるシークイン供給装置Eを備えさせており、上記の各シークイン供給装置Eは、ガイドレール55を支える為に多針ミシンBの間に位置する基枠Aから手前側に向けて持ち出し状に形成されたアーム36と、アーム36に対して傾斜状態を維持する状態で連結されていて斜め上方に向けて延びている主枠支持用のガイドレール55と、ガイドレール55によって上方の手前寄りの上昇位置78と、下方の針落ち位置寄りの供給位置79との間を上下方向に摺動を自在に支持されている主枠60と、主枠60の上部において回動自在に備えさせてあるリール66と、主枠60の下部においてリール66から延出させた帯状のシークインS1を次々と上記多針ミシンBの針落ち位置1aに供給するようにしてあるシークイン供給機構70とを備えているシークイン供給装置Eを備える多針ミシンBにおいて、上記アーム36とガイドレール55との連結は、アーム36の手前側の自由端部39bに対して、ガイドレール55によって案内される主枠60の上部に備えさせるリール66の手前側が、退避位置80において、上方から見て、リール66の奥側よりも大きく隣接する多針ミシンBの方向へ向けて回動して、当該多針ミシンBの手前側上方の作業空間が大きくできるように配設された枢着部45を介して連結したものであればよい。
【0009】
また好ましくは、上記の枢着部45には、上記主枠60の下部において備えさせたシークイン供給機構70が供給位置79にある状態を維持できるようにしたロック機構85を付設したものであればよい。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明にあっては、複数の多針ミシンBの夫々が、一定の場所で回動軌跡を描く回動枠4に対して、複数の針棒7を夫々上下動自在に並設し、各針棒7は回動枠4を回動させることにより一定のコンパクトな回動軌跡を描いて針落ち位置1aに選択移動するように構成するものであるから、上記複数の多針ミシンBにおける夫々の横幅は狭小にでき、隣接相互間は近づけて配置することができるので、設置場所における全体の横幅方向の専有面積を小型化できる効果がある。
しかも、上記複数並設の多針ミシンBの夫々には、基枠Aから手前側に向けて持ち出し状に形成されたアーム36によって支えられていて、シークインを次々と多針ミシンBの針落ち位置1aに供給するようにしてあるシークイン供給装置Eを備えさせるものであるから、各多針ミシンBにおいては針落ち位置1aに複数の針棒7を選択移動させて夫々異なる多色の色糸を変更しながら上記シークイン供給装置Eから供給されるシークインを、多色の色糸で縫い付け、カラフルな製品を提供できる効果がある。
【0011】
しかも本発明にあっては、上記多針ミシンBの複数の針棒7の夫々の下部に付される針先の孔に通してある色糸の色替え作業をする場合、夫々の多針ミシンBにおいて、多針ミシンBの手前側にあったシークイン供給装置Eにおける上方の「大きなリール66」と、下方の「シークイン供給機構」とを、隣接する多針ミシンBとの相互間に残る空間に向けて、斜め上方向に向けて大きく上昇させ、退避させることができるものであるから、
隣接する多針ミシンBの作業空間には全く悪影響与えることなく、作業の対象とする多針ミシンBの正面に大きな作業空間を空けることができる特長がある。
【0012】
しかも、シークイン供給装置Eの上方に位置する「大きなリール66」を上方の退避位置80に上昇させた場合、ガイドレール55は、アーム36の最も手前側の端部39aの部材に対して配設された枢着部45を介して連結したものであるから、シークイン供給装置Eの「大きなリール66」は、アームの最も手前側の端部39aを支点にして小さな曲率半径で回動させることが出来、図7、図8の各(iv)のシークイン供給装置Eからも理解できるように、上方にあって、手前側を大きく回動させて、手前側を大きく開放させた態様で、作業者に対して広い作業空間が提供できるという作業上の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】シークイン供給装置とこれを支持するアームの1部を省略した多頭ミシンの正面図。
【図2】多頭ミシンの内の1つの多針ミシンについて、内部の動作を説明するための破断図。
【図3】多頭ミシンを支持する為の機枠に対してアームを介して装着されているシークイン供給装置の右側面図で、機枠と、多針ミシンの一部と、アームの一部は省略した図。
【図4】多頭ミシンを支持する為の機枠に対してアームを介して装着されている一部を省略したシークイン供給装置の左側面図。
【図5】図3のV−V線端面図。
【図6】多頭ミシンを支持する為の機枠に対してアームを介して装着されているシークイン供給装置の右側面図で、機枠と、多針ミシンの一部と、アームの一部は省略した図であって、主枠を上昇位置にした図。
【図7】多頭ミシンにおける各多針ミシンと、各多針ミシンの手前側に夫々配置したシークイン供給装置の位置関係を説明する為の正面図で、左から、(i)のシークイン供給装置は多針ミシンの正面位置でシークイン供給機構を供給位置に配置した図。(ii)のシークイン供給装置は多針ミシンの正面位置でシークイン供給機構を上昇位置に配置した図。(iii)のシークイン供給装置は多針ミシンの正面位置でシークイン供給機構を上昇位置に配置した図で。(iv)のシークイン供給装置は多針ミシンの斜め上の側方位置で、シークイン供給機構を退避位置(斜め上昇位置)に配置した図。
【図8】多頭ミシンにおける各多針ミシンと、各多針ミシンの手前側に夫々配置したシークイン供給装置の位置関係を説明する為の平面図で、左から、(i)のシークイン供給装置は多針ミシンの正面位置でシークイン供給機構を供給位置に配置した図。(ii)のシークイン供給装置は多針ミシンの正面位置でシークイン供給機構を上昇位置に配置した図。(iii)のシークイン供給装置は多針ミシンの正面位置でシークイン供給機構を上昇位置に配置した図で、移動先を一点鎖線で示す図。(iv)のシークイン供給装置は多針ミシンの斜め上の側方位置で、シークイン供給機構を退避位置(斜め上昇位置)に配置した図。
【図9】多針ミシンの正面手前側位置と、それの側方に配置した枢着部の位置関係を説明する為の部分平面図。
【図10】枢着部の構成とロック機構との関係を説明する為の一部破断部分正面図。
【図11】枢着部の構成とロック機構との関係を説明する為の分解図。
【図12】枢着部の連結部材とガイドレールの元部との結合関係を説明する為の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1、図2は、基枠Aに複数の多針ミシン(刺繍ミシン)Bを連動可能に並列させて多頭ミシンを構成した例を示す。夫々の多針ミシン(ロータリー式多針の刺繍ミシン)Bにあっては、複数の針棒7が並列され、各針棒7は針落ち位置1aに対して選択移動を自在に構成されている点の技術的事項を説明する為の図面で、
特許文献2によって開示されている刺繍縫製を可能にする多針ミシンと同様の機能を発揮できる構成を示すものである。
【0015】
図において、符号1〜32は多針ミシンBにおける周知の構成(例えば特許文献2、特開平4−224790号公報参照)を示すもので、
1はベッドの存在を示し、図では針板を示す。2はミシンのヘッドを示す。3はヘッドのフレームである。図1の多針ミシンBは、複数の針棒7を、一定の場所で回動軌跡を描く回動枠4に対して夫々上下動自在に並設する構成であるから、複数の多針ミシンを狭い間隔で配設することができる。例えば、周知の多針ミシンBにおいて240mmの間隔で配設されている場合、相互間の距離を60mm位に狭くすることができる。
符号4〜17は針棒機構(針棒7及びそれと関連をもって作動する部材から成る機構を本件明細書中では針棒機構と呼ぶ)を構成する部材を示す。4は針棒保持枠(回動枠)で、フレーム3に対しベアリング5,6でもって水平回動自在に取付けてある。4aは糸ガイドである。7は針棒で、保持枠4に対して多数本が保持枠4の回動中心を中心とする一つの円弧上に並べて配設してあり(図1、2では針落ち位置(針孔1aの位置)の上方に到来しているもののみを示した)、各々は保持枠4に対して上下動自在となっている。9は縫製用の針である。11は布押えを支えるための部材で、上下のガイド部12,13を針棒7に対して上下動自在に装着してある。14は部材11と一体形成した布押えで、下端に押え部15を備える。16は針棒7及び布押えを上昇させるためのばね、17は針棒上昇用のばねである。
【0016】
次に20は針棒7を上下動させるための駆動機構を示し、符号21〜28で示される部材によって構成してある。
21は案内棒を示し、保持枠4の回動中心に設けられている。該案内棒21は針棒保持枠4の回動を後述の天秤保持枠に伝達するための部材でもあり、フレーム3に対し回動自在に取付けてある。21aは針棒保持枠4から案内棒21に回動を伝達するための伝達部材である。22はフレーム3と案内棒21との間の耐磨耗性を向上する為にフレーム3に取付けたスリーブである。23は案内棒21に上下動自在に装着した昇降体で、針棒7を押えるための針棒押え23aを有する。24はミシン主軸を示し、同時に複数の多針ミシンBを作動させて能率よく縫製するためのものである。従って、複数の多針ミシンBの夫々においては、夫々針棒7を選択移動させて、多色の色糸を変更しながら、夫々連動させて、シークインをカラフルな色糸で縫い付けできる。
25は主軸24の回転運動を上下運動に変換して昇降体23に伝える為の機構で、梃子クランク機構を例示し、26は主軸24に取付けた偏心輪(円盤状のクランク)、26aはクランクロッド、27はレバーで、一端27aをフレーム3に枢着してあり、中間部にクランクロッド26aが連結してある。28はレバー27と昇降体23とを連結するリンクである。
【0017】
次に29は天秤保持枠で、フレーム3に対し水平回動自在に取付けられ、上記案内棒21を回動の伝達杆として利用して上記針棒保持枠4に対して一体化移動自在に連結してある。30は針9に至る糸を上げ下げする為の上下動自在の天秤で、各針9に対応させて設けてあり各々は天秤保持枠29に取付けてある。31は針落ち位置の上方に到来した針9に対応する天秤を選択的に駆動する天秤駆動機構を示す。32は糸ガイドで、天秤30及び針棒7と一体的に水平回動させるために上記天秤保持枠29に取付けてある。
尚Tは天秤30から針9に至る多数の糸の存在を示す。
【0018】
上記構成のものにあっては、主軸24の回動により昇降体23が上下動されると、針落位置上方に選択移動せられて位置している針棒7が上下動され、それと連動して布押え14が上下動される。又対応天秤30が上下動され、ベッド下では釜が作動される。
これらの作動により、周知の如く縫製が行われる。色糸を変更する場合は、多針ミシンBにおける回動枠4に対して複数の針棒7が上下動自在に並設されているので、周知のように回動枠4を回動させることにより針落ち位置1aに対して任意の針棒7は選択移動され、周知の如く相互に異色の糸で夫々縫製が行われる。
【0019】
次に、図1、図2に示される多頭のロータリー式多針ミシンBの夫々に備えさせるシークイン供給装置Eは、図3以降の図に表れており、夫々の多針ミシンBの手前にあって、夫々対応する多針ミシンBの針落ち位置1aに対してシークインを次々と供給できるようにしてある。各シークイン供給装置Eの構成は、周知の構成(例えば特許文献1参照)と同様に、主枠60を固定的に支持する為のアーム36と、アームによって支持されるガイドレール55と、ガイドレールに支えられた状態で上下動する主枠60と、主枠60の上部に装着されるリール66と、主枠60の下部に装着されるシークイン供給機構70等の機能を備える。
【0020】
上記アーム36は、硬質材(例えば金属材料)で形成されておりガイドレール55を支える為に多針ミシンBの間に位置する基枠Aから手前側77に向けて持ち出し状に形成されている。
図示のアーム36において、37aは第1アーム部材で、元部38を図1の多針ミシンB、B、Bの間に位置する基枠Aに対して任意の手段により固着してある。基枠Aとしては、基枠Aに連なるヘッドのフレーム3に対して元部38を固着したものであっても良い。37bは第2アーム部材で、第3アーム部材37cを支える為に第1アーム部材37aの先端39aに対して任意の手段(例えばボルト締め付け、又は溶接固着手段)で連結してある。37cは、第1アーム部材37aの先端部39aを、図示のように多針ミシンBの先端に位置する針落ち位置1aに近づける為に曲げた状態に形成、例えば、折れ曲がり状に構成する為の第3アーム部材を示し、これには枢着部45における孔46aを備える枢支部材46が形成してある。この第3アーム部材37cは、第2アーム部材37bに対して図示のように複数のボルト42と、孔40、41等を用いて周知のようにして着脱自在に固着してある。
【0021】
43は、第3アーム部材37cの自由端部39bに対してガイドレール55を回動自在に装着する為の連結部材を示し、孔44aを備える突出部材44を上記の枢支部材46、46相互間に介在させ、ボルト46bを図10、11に示されるように孔46a、孔44a、孔46aに順に挿通し、ボルト46bを芯にしてこれらを回動自在に連結する。46cは抜け止め用の鍔を示し、48は、ボルト46bと連結部材43とが一体的に回動するように用いるもので、複数の雌ねじ孔48aに夫々螺合させるようにした複数の押ねじを示す。50は、ガイドレール55の元部57の対応面を当て付ける為のガイドレール当付面を示し、51は、ガイドレール55の元部57の孔58に挿通させて連結固着させるためのボルト59を螺合させるようにした連結用雌ねじ孔を示す。
【0022】
上記第1アーム部材37a、第2アーム部材37b、第3アーム部材37cからなるアーム36と、後述のガイドレール55との連結は、アーム36の最も手前側(例えば第1アーム部材37aの先端部39a又は第3アーム部材37cの左側の自由端部39b)の部材に対して、枢着部45を形成し、その枢着部45を介して連結してある。
この枢着部45を介しての連結の状態は、ガイドレール55によって案内される主枠60の上部に備えさせるリール66の手前側66aが、退避位置80において、上方から見て、リール66の奥側よりも大きく隣接する多針ミシンの方向へ向けて回動(図8における符号(iv)の位置にある多針ミシンBにあってはシークイン供給装置Eは右方向に回動)して、当該多針ミシンBの手前側上方の作業空間81が大きくできるように構成されるものである。
例えば、図8における符号(iv)の位置にあるシークイン供給装置Eにおいては、多針ミシンBの中心線B1に対するリール66の開き角θを30度前後(この開き角は任意である)になるように設定した場合、上記中心線B1とリール66の手前側66aとの距離は140mm前後となり、糸替え作業者の頭77bを位置させるに必要な作業空間81は充分に形成できることになる。
なお、枢着部45の配置としては、上記説明の位置とは異なり図11の第2アーム部材37bの手前側の面に枢支部材46、46を備えさせ、その場所に枢着部45を構成して、第2アーム部材37bと第3アーム部材37cを回動自在に連結し、第3アーム部材37cの左側の自由端部39bとガイドレール55とを固着するようにしてもよい。
【0023】
主枠支持用のガイドレール55は、アーム36に対して傾斜状態を維持する状態で連結されていて斜め上方に向けて延びている(図3参照)。
ガイドレール55において、56aは、図示のように斜めに配設されている主部材で、元部57は枢着部45の連結部材43に固着してある。この主部材56aには、主枠60の摺動部材62を斜め上方に向けて往復動自在に案内できるように、レールのように形成した案内部材56bが一体的に添え付けられている。
【0024】
主枠60は、ガイドレール55によって上方の手前寄りの上昇位置78(図6参照)と、下方の針落ち位置1a寄りの供給位置79(図3、図4参照)との間を上下方向に摺動を自在に支持されている。
主枠60におけるガイドレール55に対向する側には、補助材61を介して摺動部材62が固着してあり、この摺動部材62を案内部材56bに沿って上下動させることにより、主枠60は上下方向に往復動作する。63は、主枠60を駆動する為の昇降機構として例示する流体シリンダーで、ガイドレール55には筒体63aが、主枠60にはロッド63bが固着され、ロッド63bの相対的な伸縮により主枠60は図3と、図6の位置に上下動する。
【0025】
帯状のシークインS1が大量に巻かれているリール66は、多針ミシンBにおける天秤の上下往復動作に伴う糸の振幅動作を妨げないように多針ミシンBの天秤30の位置よりも手前側77に位置させるように(図4参照)、斜めに上昇する主枠60の上部において回動自在に備えさせてある。67はリール66の枢支軸を示し、 68は帯状のシークインS1を案内するためのガイドローラーを示す。
【0026】
夫々のリール66から延出させた帯状のシークインS1を次々と夫々の多針ミシンBの針落ち位置1aに供給するようにしてある各シークイン供給機構70は、図3〜図6に表れているように夫々の主枠60の下部に備えさせてある。
シークイン供給機構70の構成は周知のように、モーター72を回動させることによって、リンク(往復動作機構)73を作動させ、往復動作送り爪74を進退作動させる。この場合、送り爪74の前進により、シークインの孔に爪先を入れてシークインを前進させ、送り爪74の後退時はシークインの上を滑らせて後退させる。このようにして帯状のシークインS1を次々と針落ち位置1aに供給する。針落ち位置1aに供給された帯状シークインS1の先頭は切断刃物75により切断され、単独の「シークイン」となって、布の上に位置し、下降してくる針9に付されている糸により布に対して縫い付けられる。なお当然のことながら上記リンク73、送り爪74、切断刃物75、針9等の動作はタイミングよく同期させてある。
【0027】
なお、上記シークイン供給装置Eの構成に関してはアームによって支持されているガイドレール55、ガイドレールに支えられた状態で上下動する主枠60、主枠60の上部に装着されるリール66、主枠60の下部に装着されるシークイン供給機構70等の構成は特許文献1に開示されている構成と同じ構成を用いて説明したが、シークイン供給装置Eの構成に関しては、他の周知の構成、例えば複数系列のシークイン送りユニットを選択的に切り替えて使用をする技術的事項が開示されている特開2008−114049号公報の技術的事項、或いは特開2009−39538号公報開示の技術的事項を利用してもよい。
【0028】
次に、上記の枢着部45に対して付設したロック機構85について説明する。ロック機構85は、上記主枠60の下部に備えさせたシークイン供給機構70が供給位置79にある状態で微動すると、針落ち位置1aに対して次々と供給されるシークインSの位置が微妙に位置ズレを起こし、縫い付け不良の品を発生させるので、これを防止する為供給機構70の位置を不動状態に維持できるように構成したものである。
86は、ボルト46bの下部位置に一体的回動を可能に連結した位置決めレバーを示す。その連結状態は、孔87にボルト46bの下部を挿通し、押しねじ88で固着してある。なおこの操作により、ボルト46bは連結部材43と、位置決めレバー86とを回動方向に一体化させることになる。
89は、位置決めレバー86の回動範囲(シークイン供給機構70が図8の最左側(符号(i)で示す位置)にある供給位置79〜図8の最右側(符号(iv)で示す位置)にある退避位置80)を定める為の位置決め長溝で、この長溝89には、図10に表れているように先端を第3アーム部材37cの下部に形成した雌ねじ孔91に対して固く植え込み状に螺合固定してあるボルト90の中間部を挿入することにより上記回動範囲を制限してある。
【0029】
93は、自体の雌ねじ孔93aにボルト90の中間部を挿通させ、そこに形成してある雄ねじに対して螺合させてある摘み状の締付部材で、これを回動させることにより、図10の状態から明らかなように位置決めレバー86を第3アーム部材37cに不動的に締め付けできるように構成してある。 90aはボルト90の頭部を示す。位置決めレバー86の上面にある2つの位置決め凹部94は、夫々選択的に第3アーム部材37cの下面に形成してある位置決め球95に対向させるものである。上記位置決め球95は、第3アーム部材の下面に形成してある凹部95aの内に大部分を位置させ、凹部内から下方に向けて付勢することにより、僅かに1部を下面から表出させる。従って、シークイン供給機構70が供給位置79に位置する場合は位置決めレバー86の一方の凹部94に位置決め球95が係合し、
シークイン供給機構70が退避位置80に位置する場合は位置決めレバー86の他方の凹部94に位置決め球95が係合し、夫々位置決めの役割を果たす。
【0030】
上記構成のものについて使用の態様を説明する。多針ミシンBについての使用の態様は前述したとおり、周知の態様で利用するとよい。
次にシークイーン供給装置Eの使用の態様も特許文献1において開示されている等するので、周知の態様で利用するとよい。
従って、各多針ミシンBにおいては、針落ち位置1aに複数の針棒7を選択移動させ、夫々異なる多色の色糸を変更しながら上記シークイン供給装置Eから次々と供給されるシークインSを、多色の色糸で布に対して縫い付けできるのである。
【0031】
次に多針ミシンBの複数の針棒7の夫々の下部に付される針先の孔に通してある色糸の色替え作業をする場合について説明する。
多針ミシンBに対してシークイン供給装置Eが縫製完了状態である供給位置79(図8の(i)、図3の位置)にある場合は、昇降機構63を作動させて、主枠60を上昇させ、シークイン供給機構70の位置を図3の位置から図6の位置(上昇位置78)に移動させる。このような態様にすると、図7の符号(ii)の位置にある多針ミシンBの状態から明らかなように、針列9、9・・・9の手前側は解放される。しかし、上方には大きなリール66が有り、これが図6から理解できるように、作業者77aが居る手前方向77に移動し、作業者77aの顔面近くに位置することになり、糸替え作業を煩わしいことにする。このような状態を避けるためには次のように作業を行う。
【0032】
図7の符号(ii)の位置にあるシークイン供給装置Eにおいて、シークイン供給装置Eのアーム36の最も手前側の端部39aの部材に対して備えさせてあるガイドレール連結用の枢着部45について次の作業を行う。
先ず、ロック機構85の締付部材93を回動させて第3アーム部材37cと、位置決めレバー86との固着状態を緩め、上方にある大きなリール66と、下方の「シークイン供給機構」とを隣接する多針ミシンBとの相互間に残る横方向の空間に向けて、手動により回動させる。この回動は、枢着部45のボルト46bを支点にして連結部材43が回動することにより行われる。
従って、シークイン供給装置Eの「大きなリール66」は、アーム36の最も手前側の端部39aのボルト46bを支点にして回動させるから、図8の(iii)及び(iv)の位置にある「リール66」の回転角度から明らかなように、「リール66」は「小さな曲率半径」で、リール66の手前側の部分66aが大きく回動して、図8の(iv)に表れているように、作業者が居る手前側の正面82を大きく開放させる斜めの態様で、作業者に対して広い作業空間81を形成することができる。
【0033】
上記色替え作業終了後は、必要に応じ、上記シークイン供給装置Eの「シークイン供給機構70」を図3、図8の(i)の位置に戻し、シークインの縫い付け作業を再開する。その場合はロック機構85における締付部材93を回動させて第3アーム部材37cと、位置決めレバー86とを固着状態にする。これにより、アーム36とガイドレール55とは一体化し、これらに連なる「シークイン供給機構70」も一体化し、供給位置79にある状態では、針落ち位置1aに対する位置は安定してシークインSの供給が可能になる。
【符号の説明】
【0034】
A・・・機枠(基枠)、
B・・・多針ミシン、
S・・・シークイーン、
E・・・シークイーン供給装置、
1・・・ベット、
1a・・・針落ち位置、
2・・・ヘッド、
3・・・ヘッドのフレーム、
4・・・回動枠、
7・・・針棒、
20・・・駆動機構、
36・・・アーム、
37a・・・第1アーム部材、
37b・・・第2アーム部材、
37c・・・第3アーム部材、
39a・・・端部、
39b・・・自由端部、
40・・・孔、
41・・・孔、
42・・・ボルト、
43・・・連結部材、
44・・・突出部材、
45・・・枢着部、
46・・・突部、
46a・・・・孔 、
46b・・・・ボルト、
46c・・・・鍔、
48・・・押ねじ、
50・・・当付面、
51・・・連結用ねじ孔、
55・・・ガイドレール、
56a・・・主部材、
56b・・・案内部材、
57・・・元部、
58・・・孔、
59・・・ボルト、
60・・・主枠、
61・・・補助材、
62・・・摺動部材、
63・・・昇降機構、
66・・・リール、
66a・・・手前側部分
67・・・枢支軸、
68・・・ガイドローラー、
70・・・供給機構、
72・・・モーター、
73・・・リンク(往復動作機構)、
74・・・往復動作送り爪、
75・・・切断刃物、
77・・・手前側(作業者77aが居る方向)、
78・・・上昇位置、
79・・・供給位置、
80・・・退避位置(斜め上昇位置)、
81・・・作業空間、
82・・・正面位置、
85・・・ロック機構、
86・・・位置決めレバー、
87・・・孔、
88・・・押しねじ、
89・・・位置決め長溝、
90・・・締めねじボルト、
90a・・・頭、
91・・・雌ねじ孔、
92・・・雄ねじ、
93・・・締付部材、
93a・・・雌ねじ孔、
94・・・位置決め凹部、
95・・・位置決め球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基枠には複数の多針ミシンが連動自在に並設されていて、
夫々の多針ミシンにあっては、多針ミシンにおける回動枠に対して複数の針棒が上下動自在に並設され、各針棒は回動枠を回動させることにより針落ち位置に対して選択移動を自在に構成されており、
さらに夫々の多針ミシンの手前には、夫々対応する多針ミシンの針落ち位置に対してシークインを次々と供給できるようにしてあるシークイン供給装置を備えさせており、
上記の各シークイン供給装置は、
ガイドレールを支える為に多針ミシンの間に位置する基枠から手前側に向けて持ち出し状に形成されたアームと、
アームに対して傾斜状態を維持する状態で連結されていて斜め上方に向けて延びている主枠支持用のガイドレールと、
ガイドレールによって上方の手前寄りの上昇位置と、下方の針落ち位置寄りの供給位置との間を上下方向に摺動を自在に支持されている主枠と、
主枠の上部において回動自在に備えさせてあるリールと、
主枠の下部においてリールから延出させた帯状のシークインを次々と上記多針ミシンの針落ち位置に供給するようにしてあるシークイン供給機構とを備えているシークイン供給装置を備える多針ミシンにおいて、
上記アームとガイドレールとの連結は、アームの最も手前側の端部の部材に対して、ガイドレールによって案内される主枠の上部に備えさせるリールの手前側が、退避位置において、上方から見て、リールの奥側よりも大きく隣接する多針ミシンの方向へ向けて回動して、当該多針ミシンの手前側上方の作業空間が大きくできるように配設された枢着部を介して連結したことを特徴とするシークイン供給装置を備える多針ミシン。
【請求項2】
基枠には複数の多針ミシンが連動自在に並設されていて、
夫々の多針ミシンにあっては、多針ミシンにおける回動枠に対して複数の針棒が上下動自在に並設され、各針棒は回動枠を回動させることにより針落ち位置に対して選択移動を自在に構成されており、
さらに夫々の多針ミシンの手前には、夫々対応する多針ミシンの針落ち位置に対してシークインを次々と供給できるようにしてあるシークイン供給装置を備えさせており、
上記の各シークイン供給装置は、
ガイドレールを支える為に多針ミシンの間に位置する基枠から手前側に向けて持ち出し状に形成されたアームと、
アームに対して傾斜状態を維持する状態で連結されていて斜め上方に向けて延びている主枠支持用のガイドレールと、
ガイドレールによって上方の手前寄りの上昇位置と、下方の針落ち位置寄りの供給位置との間を上下方向に摺動を自在に支持されている主枠と、
主枠の上部において回動自在に備えさせてあるリールと、
主枠の下部においてリールから延出させた帯状のシークインを次々と上記多針ミシンの針落ち位置に供給するようにしてあるシークイン供給機構とを備えているシークイン供給装置を備える多針ミシンにおいて、
上記アームとガイドレールとの連結は、アームの手前側の自由端部に対して、ガイドレールによって案内される主枠の上部に備えさせるリールの手前側が、退避位置において、上方から見て、リールの奥側よりも大きく隣接する多針ミシンの方向へ向けて回動して、当該多針ミシンの手前側上方の作業空間が大きくできるように配設された枢着部を介して連結した
ことを特徴とするシークイン供給装置を備える多針ミシン。
【請求項3】
上記の枢着部には、上記主枠の下部において備えさせたシークイン供給機構が供給位置にある状態を維持できるようにしたロック機構を付設したことを特徴とする請求項1又は2記載のシークイン供給装置を備える多針ミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−147706(P2011−147706A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13019(P2010−13019)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000135690)株式会社バルダン (125)
【Fターム(参考)】