説明

シートの溶着方法および溶着装置

【課題】表面にワックス等が存在するシート熱可塑性樹脂製の2枚のシートを確実かつ強固に溶着する熱鏝方式によるシートの溶着方法ならびにシートの溶着装置を提供する。
【解決手段】シートの溶着方法においては、2枚のシート(8)の溶着すべき被溶着面を重ね合わせ、互いに対向する被溶着面に熱鏝(4)を摺接させてこれら被溶着面を溶融し、加圧密着することにより被溶着面同士を溶着する溶着方法であり、熱鏝(4)を摺接させる前に各被溶着面を予熱することにより、熱鏝(4)を接触させた際の被溶着面の樹脂とその周囲の樹脂との間の温度差を小さくしてヒートショックを低減する。また、シートの溶着装置は、重ね合わせたシート(8)の被溶着面の間に挿入される熱風ノズル(3)及び熱鏝(4)と、溶融された被溶着面をシート上方から加圧する加圧ローラー(6)とを順次配列して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートの溶着方法および溶着装置に関するものであり、詳しくは、熱可塑性樹脂製の2枚のシートを熱鏝方式で溶着する方法であって、表面にワックス等がコーティングされたシートであっても確実かつ強固に溶着し得るシートの溶着方法、ならびに、当該溶着方法の実施に好適なシートの溶着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テント、オーニング、貨物自動車の幌、包装容器などは、熱可塑性樹脂製のシートが多く使用されており、広面積のものを製作する場合は、複数の定形シートを溶着している。熱可塑性樹脂製のシート同士を溶着する一般的な方法としては、溶着すべき被溶着面を熱風により溶融して加圧密着させる熱風方式、被溶着面を熱鏝により溶融して加圧密着させる熱鏝方式の2つの方法が挙げられる。しかしながら、上記の様な用途に使用されるシートは、耐汚性などの目的から、ワックス等の低分子量のポリオレフィンや酸化チタン等の無機物質が表面にコーティングされており、熱風方式では溶着できないことが多い。従って、ワックス等でコーティングされたシート同士の溶着加工では、熱鏝を摺接することにより被溶着面を粗面化しながら溶着する熱鏝方式が利用されている。
【0003】
熱鏝を使用した溶着技術としては、重ね合わせた2枚のシートの溶着すべき端縁部の各内面(被溶着面)を鏝の接触によって加熱し、各内面が加熱溶融された前記の端縁部を外側両面から一対の送りローラで挟み付けて押圧し、前記の端縁部同士を溶着する様にした「合成材料シート溶着装置」が提案されている。
【特許文献1】実開平3−19023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の様な熱鏝方式によりシート同士を溶着した場合、溶着された部位と溶着されていない部位との境界部分における破断強度が小さく、剪断力が加わった際に前記の境界部分で破れ易いと言う問題がある。本発明は、斯かる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂製の2枚のシートを熱鏝方式で溶着する方法であって、特に、表面にワックス等が存在するシートであっても確実かつ強固に溶着し得るシートの溶着方法、ならびに、当該溶着方法の実施に好適なシートの溶着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、熱鏝方式の溶着方法について種々解析の結果、熱鏝方式の溶着においては、2枚のシートの被溶着面に熱鏝を接触移動させることにより、被溶着面を粗面化し、母材の樹脂を表面に露出させて溶着一体化できる反面、熱鏝の接触により瞬時に加熱される被溶着面の樹脂と、熱鏝の接触しない被溶着面の周囲の樹脂との間で大きな温度差が生じ、その結果、これらの境界部分で著しい強度の低下が惹起されることを知徳した。そして、更に検討した結果、熱鏝で加熱する直前に被溶着面とその周囲を予熱するならば、熱鏝を接触させた際の上記の温度差を小さくすることが出来、そして、上記の境界部分における破断強度の低下を効果的に防止し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明の第1の要旨は、熱可塑性樹脂製の2枚のシートの溶着すべき被溶着面を重ね合わせ、互いに対向する被溶着面に熱鏝を摺接させてこれら被溶着面を溶融し、加圧密着することにより被溶着面同士を溶着するシートの溶着方法であって、熱鏝を摺接させるに当たり、前記の各被溶着面を予熱することを特徴とするシートの溶着方法に存する。
【0007】
また、本発明の第2の要旨は、一方向に移動しながら熱可塑性樹脂製の2枚のシートを溶着する装置であって、重ね合わせたシートの溶着すべき被溶着面の間に挿入され且つこれら被溶着面に摺接する熱鏝と、当該熱鏝に対して装置移動方向の後方側に配置され且つ当該熱鏝で溶融された被溶着面をシート上方から加圧する加圧ローラーとを備え、前記の熱鏝に対して装置移動方向の前方側には、重ね合わせたシートの被溶着面の間に挿入され且つこれら被溶着面に熱風を吹き付ける熱風ノズルが設けられていることを特徴とするシートの溶着装置に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、2枚のシートの被溶着面に熱鏝を摺接させる前に、これら被溶着面を予熱することにより、熱鏝を接触させた際の被溶着面の樹脂とその周囲の樹脂との間の温度差を小さくしてヒートショックを低減し、溶着された部位と溶着されていない部位との境界部分の破断強度の低下を防止できるため、2枚のシートを確実かつ一層強固に溶着することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係るシートの溶着方法および溶着装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るシートの溶着方法の概念および溶着装置の主要な部材の配置を示す平面図および縦断面図である。図2は、本発明に係るシートの溶着装置の外形を示す斜視図であり、図3は、シートの溶着装置の外形を示す平面図である。なお、以下の説明は本発明の実施形態の一例に関する説明であり、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
【0010】
本発明は、熱可塑性樹脂製のシート同士を熱鏝方式によって溶着する方法ならびに溶着装置に関するものであり、例えば、テント、オーニング、貨物自動車の幌、あるいは、廃棄物処分場などの構造物の下地シートを製作する際に適用できる。本発明において、シート材料である熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、エチレン酸化ビニル共重合体などの共重合ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。特に、本発明は、ワックス等の低分子量のポリオレフィンや酸化チタン等の充填剤、紫外線防止剤、帯電防止剤などの改質剤や添加物が表面に存在するシート、すなわち、表面に耐汚性や耐候性のコーティング層が設けられたシート、あるいは、溶着加工においてブリード物がシート表面に析出し易いシートの溶着に好適である。
【0011】
先ず、本発明に係る溶着方法の実施に好適な溶着装置について説明する。本発明の溶着装置は、一方向に移動しながら熱可塑性樹脂製の2枚のシート(8)の例えば側縁部同士を溶着する装置であり、その主要部を図1に示す様に、重ね合わせたシート(8)の溶着すべき被溶着面(被溶着部である各側縁部の内面)の間に挿入され且つこれら被溶着面に摺接する熱鏝(4)と、当該熱鏝に対して装置移動方向(溶着方向)の後方側に配置され且つ当該熱鏝で溶融された被溶着面をシート上方から加圧する加圧ローラー(6)とを備えている。そして、熱鏝(4)に対して装置移動方向の前方側には、重ね合わせたシート(8)の被溶着面の間に挿入され且つこれら被溶着面に熱風を吹き付ける熱風ノズル(3)が設けられている。
【0012】
すなわち、本発明の溶着装置は、上記の加圧ローラー(6)を回転駆動させることにより、所定の速度で一方向に移動する自走式の装置であり、その移動方向(溶着方向)に沿って前方から熱風ノズル(3)、熱鏝(4)及び加圧ローラー(6)が順次一直線に配列された構造を備えている。なお、図1において、矢印は溶着装置の相対的な移動方向(溶着方向)を示し、符号(9)は溶着済みの溶着部を示す。
【0013】
更に具体的に説明すると、図2及び図3に示す様に、本発明の溶着装置は、底面にキャスターが付設されたケーシングとしての装置本体(1)を備えている。斯かる装置本体(1)には、加圧ローラー(6)を駆動させるためのモーターの他、各種の回路、すなわち、定電圧電流装置を含む電源回路、加圧ローラー(6)を駆動させ且つその回転速度を制御する駆動制御回路、熱鏝(4)の温度制御および熱風ノズル(3)から吹き出される熱風の温度制御を行う温度制御回路、案内機構であるレーザーポインター(2)を点灯させるポインター点灯回路、緊急遮断回路などが収容されている。そして、装置本体(1)の上面は、温度表示および溶着速度(走行速度)等を表示するディスプレーや操作釦を含む操作盤として構成されている。
【0014】
装置本体(1)の前端、例えば左前方には、上記のレーザーポインター(2)が突き出した状態で設けられている。レーザーポインター(2)は、シート(8)の表面に目印を表示するためのレーザー光照射装置であり、溶着加工においては、溶着すべき被溶着部(帯状に重なり合ったシート(8)の側縁部)の幅方向の中心に目印としてのレーザーポイントを沿わせることにより、レーザーポインター(2)の後方に配列された熱風ノズル(3)、熱鏝(4)及び加圧ローラー(6)に被溶着部を正確にトレースさせることが出来る。
【0015】
装置本体(1)の一側面、例えば左側面には、上記の熱風ノズル(3)が配置されている。熱風ノズル(3)は、2枚のシート(8)の間に挿入するため、平面視した状態において基端部が略直角に屈曲する扁平な管によって形成され且つ水平方向に幅広となる様に回転軸(31)の下端に取り付けられている。回転軸(31)は、支持ブロック(13)により鉛直かつ回動自在に装置本体(1)に装着されており、当該回転軸の上部に突設されたレバー(33)によって旋回操作する様になされている。すなわち、熱風ノズル(3)は、溶着加工を行う際、レバー(33)の操作より、吹出し口を後方へ向けた状態にシート(8)、(8)の重なり部分(被溶着部の各溶着面)の間に挿入され、また、溶着操作を終了した際、レバー(33)の操作より、前記の重なり部分の外側に位置する様に構成されている。
【0016】
上記の回転軸(31)は、熱風発生装置を構成しており、当該回転軸の上部には、電熱ヒーター及び送風ファンが内蔵されている。レバー(33)は、上記の電熱ヒーター及び送風ファンの作動スイッチとしての機能も備えており、熱風ノズル(3)は、レバー(33)の操作よって2枚のシート(8)の間に挿入した場合に熱風を吹き出す様に構成されている。そして、熱風ノズル(3)においては、熱風ノズル(3)の先端部に挿入された温度センサーの検出温度および前述の制御回路に設定された条件に基づいて、上記の電熱ヒーターの通電を制御することにより、吹き出される熱風の温度を調節される様になされている。
【0017】
なお、回転軸(31)に内蔵される電熱ヒーター及び送風ファンを組み合わせた熱風発生装置としては、加熱や乾燥作業に使用される出力200〜3500W程度のいわゆる携帯型熱風機の機構を利用することが出来る。そして、熱風ノズル(3)から吹き出される熱風の温度は、通常、20〜700℃に設定され、シート(8)の材質や厚さに応じて調節される。また、熱風ノズル(3)先端の熱風吹出し幅は10〜100mm程度とされ、熱風の風量は10〜600l/minに設定される。
【0018】
熱風ノズル(3)の後方には、上記の熱鏝(4)が配置されている。熱鏝(4)は、熱風ノズル(3)と同様に2枚のシート(8)の間に挿入するため、扁平な金属板によって形成されている。熱鏝(4)を構成する金属材料としては、銅合金やアルミニウム合金などの熱伝導度の高い材料が使用される。そして、熱鏝(4)の移動方向に沿った縦断面形状は、被溶着面を引掛けることのない様に、先端縁が面取された例えば流線型に設計されている。
【0019】
熱鏝(4)は、平面視した状態において水平方向に幅広となる様に、回転軸(41)の下端にアーム(42)を介して取り付けられている。アーム(42)は、回転軸(41)の下端に水平に張出されており、熱鏝(4)は、アーム(42)の先端側の側縁に当該アームの長さ方向に直交する方向に突設され、そして、アーム(42)に埋設された電熱ヒーターによって加熱される様になされている。
【0020】
回転軸(41)は、支持ブロック(14)により鉛直かつ回動自在に装置本体(1)に支持されており、当該回転軸の上部に突設されたレバー(43)によって旋回操作する様になされている。すなわち、熱鏝(4)は、溶着加工を行う際、レバー(43)の操作により、シート(8)、(8)の重なり部分(被溶着部の各溶着面)の間に挿入され、また、溶着加工を終了した際、レバー(43)の操作より、前記の重なり部分の外側に取り外される様に構成されている。
【0021】
装置本体(1)には、電源スイッチが設けられており、熱鏝(4)は、前記の電源スイッチの操作による電熱ヒーターへの通電によって昇温する様になされている。そして、熱鏝(4)は、当該熱鏝の先端部に挿入された温度センサーの検出温度および前述の制御回路に設定された条件に基づいて、上記の電熱ヒーターの通電を制御することにより、温度を調節される。
【0022】
なお、アーム(42)に埋設される電熱ヒーターの容量は300〜1000W程度とされる。また、熱鏝(4)の幅(溶着幅)は10〜50mm、長さ(移動方向に沿った鏝の長さ)は20〜100mm、厚さは3〜20mmに各設計されており、そして、熱鏝(4)の温度は、通常、20〜600℃に設定され、シート(8)の材質や厚さに応じて調節される。
【0023】
熱鏝(4)の後方には、上記の加圧ローラー(6)が配置されている。加圧ローラー(6)は、熱鏝(4)で被溶着面が溶融された2枚のシート(8)の被溶着部をシート上方から加圧し、被溶着面同士を密着させるために設けられる。加圧ローラー(6)は、耐熱性樹脂や金属によって形成されている。シート(8)の被溶着部には、加圧ローラー(6)によって当該加圧ローラーの荷重および装置本体(1)の荷重の一部が加えられるが、加圧ローラー(6)の重量は、通常、被溶着部に加えられる荷重が0.5〜5kg/cm程度となる様に設定されている。
【0024】
加圧ローラー(6)は、装置本体(1)に収容されたモーターにより一方向へ回転する様に構成されている。そして、シート(8)の材質や厚さに応じて、その回転速度を前述の駆動制御回路により調節可能に構成されている。また、加圧ローラー(6)は、前述の熱鏝(4)に連動して駆動する様になされている。すなわち、加圧ローラー(6)は、回転軸(41)のレバー(43)の操作より、2枚のシート(8)の間に熱鏝(4)を挿入した場合に回転駆動し、シート(8)の間から熱鏝(4)を外した場合に停止する様に構成されている。
【0025】
なお、加圧ローラー(6)の幅は、通常、溶着幅よりも若干大きな幅、具体的には10〜80mm程度に設計され、加圧ローラー(6)の直径は50〜150mm程度に設計されている。そして、加圧ローラー(6)の回転速度は2〜50rpmの範囲に設定されている。
【0026】
また、本発明の溶着装置において、加圧ローラー(6)に対して装置移動方向(溶着加工方向)前方には、通常、2枚のシート(8)の被溶着部を円滑に加圧ローラー(6)へ導くための案内ローラー(5)が付設されている。なお、装置本体(1)の後方側面側の加圧ローラー(6)の上方に相当する位置には、溶着装置全体を持ち運び或は位置決めするためのグリップ(7)が設けられている。
【0027】
更に、図示しないが、本発明の溶着装置においては、2枚のシート(8)の各被溶着面の表面のコーティング層などを確実に破壊するため、熱風ノズル(3)と熱鏝(4)の間には、重ね合わせたシート(8)の被溶着面の間に挿入され且つこれら被溶着面を粗すやすり板が配置されていてもよい。
【0028】
本発明の溶着装置は、後述する様に、2枚のシート(8)の被溶着面を熱風ノズル(3)で予熱した後、熱鏝(4)を接触させ、加圧ローラー(6)で加圧密着するため、被溶着面の樹脂とその周囲の樹脂との間の温度差を小さくすることが出来る。その結果、溶着された部位と溶着されていない部位との境界部分における破断強度の低下を防止でき、2枚のシート(8)を一層強固に溶着することが出来る。
【0029】
次に、上記の溶着装置の機能と共に、当該溶着装置を使用した本発明の溶着方法について説明する。本発明の溶着方法は、前述した様なシート(8)の溶着に適用されるが、本発明の溶着方法においては、2枚のシート(8)の溶着すべき被溶着面である例えば側縁部の内面を重ね合わせ、熱鏝(4)を摺接させてこれら被溶着面を溶融し、加圧密着することにより被溶着面同士を溶着する。しかも、本発明においては、熱鏝(4)を摺接させるに当たり、熱鏝(4)によって加熱される被溶着面の樹脂と、熱鏝(4)の接触しない前記の被溶着面の周囲の樹脂との温度差を出来る限り小さくするため、各被溶着面を予熱する。また、上記の予熱においては、各被溶着面に熱風を吹き付ける。
【0030】
具体的には、図1に示す様に、2枚のシート(8)の例えば側縁部同士を溶着するには、先ず、側縁部同士を重ね合わせた後、上記の溶着装置を配置する。溶着装置を配置する場合、被溶着部である側縁部に沿わせる状態に溶着装置をシート(8)の上に載せ且つシート上方から加圧ローラー(6)をあてがう。次いで、重ね合わせたシート(8)の側縁部の間、すなわち、上下の被溶着面の間に熱風ノズル(3)及び熱鏝(4)を横方向から差し込む。図2及び図3に示す様に、熱風ノズル(3)は、レバー(33)を装置後方側に略90旋回させることにより、吹出し口を装置後方側に向けて上下の被溶着面の間に挿入することが出来る。また、熱鏝(4)は、レバー(43)を前方側に略90旋回させることにより、上下の被溶着面の間に挿入することが出来る。
【0031】
上記の溶着装置においては、レバー(33)の操作により上下の被溶着面の間に熱風ノズル(3)を差し込むと、回転軸(31)に内蔵された熱風発生装置(電熱ヒーター及び送風ファン)が作動して上下の被溶着面の間に熱風を吹き出す。一方、設定温度に加熱され且つ温度コントロールされた熱鏝(4)をレバー(43)の操作により上下の被溶着面の間に差し込むと、装置本体(1)のモーターが作動し、加圧ローラー(6)が回転する。これにより、溶着装置は、重ね合わせたシート(8)の側縁部に沿って一定速度で一方向へ移動しながら被溶着面同士を溶着する。
【0032】
すなわち、本発明において、熱風ノズル(3)は、熱風によって各被溶着面およびその周囲の樹脂を加熱し、熱鏝(4)は、加熱された各被溶着面の表面を摺動しながらこれら表面を粗し且つ更に加熱溶融する。その際、熱鏝(4)は、被溶着面を摺動することにより、被溶着面に存在する無機物質や低分子量のポリオレフィンのコーティング層などを破壊し、母材の樹脂を表面に露出させる。そして、加圧ローラー(6)は、シート上方から被溶着部に荷重を加えることにより、溶融した被溶着面同士を密着させる。その結果、帯状の溶着部が形成され、2枚のシート(8)が接合される。
【0033】
熱風ノズル(3)により被溶着面およびその周囲を加熱する場合、熱風の温度は、通常は20〜700℃、好ましくは200〜700℃であり、熱風の風量は、通常は10〜600l/minであり、好ましくは200〜600l/minである。一方、熱鏝(4)により被溶着面を加熱溶融する場合、熱鏝(4)の温度は、通常は20〜600℃、好ましくは100〜500℃である。
【0034】
上記の様に、本発明においては、2枚のシート(8)の被溶着面に熱鏝(4)を摺接させる前に、これら被溶着面を熱風ノズル(3)で予熱することにより、熱鏝(4)を接触させた際の被溶着面の樹脂とその周囲の樹脂との間の温度差を小さくしてヒートショックを低減することが出来る。その結果、溶着された部位と溶着されていない部位との境界部分における溶着後の破断強度の低下を防止でき、2枚のシート(8)を確実かつ一層強固に溶着することが出来る。
【0035】
更に、本発明においては、熱風ノズル(3)と熱鏝(4)の間にやすり板を配置した場合、熱風で軟化した各被溶着面を一層確実に粗すことが出来るため、熱鏝(4)を接触させた際に、無機物質や低分子量のポリオレフィンを母材の樹脂中へ分散させ、母材の樹脂を表面により露出させることが出来る。従って、側縁部同士を一層強固に溶着一体化することが出来る。なお、上記の実施形態では、静置したシートに対し、溶着装置を移動させて溶着する方法について説明したが、本発明においては、シートに対して溶着装置を相対的に移動させればよく、例えば、溶着装置を固定し、溶着すべきシートを移動させて溶着することも出来る。
【実施例】
【0036】
実施例1:
本発明の溶着方法に従い、2枚のポリプロピレン製幌布シートを溶着した後、その溶着部を剥がす破壊試験を行い、溶着部の剪断強度を測定し、溶着部の破壊形態を観察した。試料として使用した幌布シートは、幅30cm、長さ60cm、厚さ0.61mm、重量500g/m、縦方向の引張強さ43N/cm、横方向の引張強さ43N/cmのものであり、表面には、飽和炭化水素系のワックスが平均厚さ3μmでコーティングされていた。溶着装置としては、図2及び図3に示す基本構造の装置を使用した。熱風ノズルと熱鏝の間にはやすり板を配置した。熱鏝は、その側面形状が翼型に形成された真鍮製のものであり、幅が22mm、長さが42mm、最大厚さが6mmであった。溶着に際しては、上記の2枚の試料を長さ方向に22mm重ねて溶着した。溶着時の条件は表1に示す通りである。破壊試験においては、溶着した上記の試料を精密万能試験機(島津製作所製,商品名;オートグラフAGS−500D)に装填し、チャック間距離を150mm、引張速度200mm/minに設定して引張試験を行った。その結果、表1に示す様に、剪断強度は1300N/30mmであり、破壊部分においては原反破壊が見られた。
【0037】
実施例2:
試料の幌布シートの表面にワックスがコーティングされていない点を除き、実施例1と同様の幌布シートを実施例1と同様の条件で溶着し、破壊試験を行った。その結果、表1に示す様に、剪断強度は実施例1と同様に1300N/30mmであり、破壊部分においても実施例1と同様に原反破壊が見られた。
【0038】
比較例1:
従来の熱鏝方式の溶着方法により、実施例1と同様のポリプロピレン製幌布シートを溶着した後、実施例1と同様に破壊試験を行って溶着部の剪断強度を測定し、溶着部の破壊形態を観察した。溶着装置は、Leister Proscess Technologies社製の自動溶接機「ユニプラン−ウェッジ型」(商品名)として市販のものを使用した。斯かる溶着装置は、熱風ノズルを備えていない点を除き、実施例1におけるのと略同様の構造の装置である。溶着時の条件は表1に示す通りであった。溶着後の破壊試験の結果は、表1に示す様に、剪断強度が700N/30mmであり、破壊部分においては原反破壊が見られた。
【0039】
比較例2:
試料の幌布シートの表面にワックスがコーティングされていない点を除き、実施例1と同様の幌布シートを比較例1と同様の条件で溶着し、破壊試験を行った。その結果、表1に示す通り、剪断強度は比較例1と同様に700N/30mmであり、破壊部分においても比較例1と同様に原反破壊が見られた。
【0040】
参考例1:
従来の熱風方式の溶着方法により、実施例1と同様のポリプロピレン製幌布シートを溶着した後、実施例1と同様に破壊試験を行って溶着部の剪断強度を測定し、溶着部の破壊形態を観察した。溶着装置は、Leister Proscess Technologies社製の自動溶接機「ユニプラン」(商品名)として市販のものを使用した。斯かる溶着装置は、熱風ノズル及び加圧ローラーを備えた装置である。溶着時の条件は表1に示す通りであった。溶着後の破壊試験の結果は、表1に示す様に、剪断強度が500N/30mmであり、破壊部分においては界面剥離破壊が見られた。
【0041】
以上の結果によれば、溶着部の破壊形態の比較から、表面にワックスがコーティングされたシートは、熱鏝方式によって樹脂シートの母材同士を溶着できることが判る。しかしながら、剪断強度の比較から、熱鏝のみで溶着した場合は、剪断強度が低くなっており、これはヒートショックによるものと考えられる。これに対し、本発明の溶着方法によれば、熱鏝を接触させる前に熱風で被溶着部およびその周囲を加熱することにより、熱鏝を接触させた際のヒートショックを低減できるため、剪断強度を著しく高めることが出来る。
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るシートの溶着方法の概念および溶着装置の主要な部材の配置を示す平面図および縦断面図である。
【図2】本発明に係るシートの溶着装置の外形を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るシートの溶着装置の外形を示す平面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 :装置本体
13:支持ブロック
14:支持ブロック
2 :案内装置
3 :熱風ノズル
31:回転軸
33:レバー
4 :熱鏝
41:回転軸
42:アーム
43:レバー
5 :案内ローラー
6 :加圧ローラー
7 :グリップ
8 :シート
9 :溶着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製の2枚のシートの溶着すべき被溶着面を重ね合わせ、互いに対向する被溶着面に熱鏝を摺接させてこれら被溶着面を溶融し、加圧密着することにより被溶着面同士を溶着するシートの溶着方法であって、熱鏝を摺接させるに当たり、前記の各被溶着面を予熱することを特徴とするシートの溶着方法。
【請求項2】
熱風を吹き付けて各被溶着面を予熱する請求項1に記載の溶着方法。
【請求項3】
シートは、無機物質または低分子量のポリオレフィンが表面に存在するシートである請求項1又は2に記載の溶着方法。
【請求項4】
一方向に移動しながら熱可塑性樹脂製の2枚のシートを溶着する装置であって、重ね合わせたシートの溶着すべき被溶着面の間に挿入され且つこれら被溶着面に摺接する熱鏝と、当該熱鏝に対して装置移動方向の後方側に配置され且つ当該熱鏝で溶融された被溶着面をシート上方から加圧する加圧ローラーとを備え、前記の熱鏝に対して装置移動方向の前方側には、重ね合わせたシートの被溶着面の間に挿入され且つこれら被溶着面に熱風を吹き付ける熱風ノズルが設けられていることを特徴とするシートの溶着装置。
【請求項5】
熱風ノズルと熱鏝の間には、重ね合わせたシートの被溶着面の間に挿入され且つこれら被溶着面を粗すやすり板が配置されている請求項4に記載の溶着装置。
【請求項6】
シートは、無機物質または低分子量のポリオレフィンが表面に存在するシートである請求項4又は5に記載の溶着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−30228(P2008−30228A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203351(P2006−203351)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【出願人】(391013106)株式会社パーカーコーポレーション (27)
【Fターム(参考)】