説明

シートベルト用織物

【課題】 シートベルト用織物として横剛性を向上させてジャミング切れを防止しつつ、硬いモノフィラメント糸を使用せずにリサイクル性を向上させたシートベルト用織物を提供すること。
【解決手段】 一本針のニードル織機を使って織られたシートベルト用織物において、ヨコ糸に芯鞘型熱融着糸1のマルチフィラメント糸を使った織物であって、製織後の加熱によって芯鞘型熱融着糸1の鞘3の部分が融解しフィラメント同士が結合し、ヨコ糸が疑似モノフィラメント化しているシートベルト用織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シートベルト用織物、更に詳しくは横剛性を向上させてジャミング切れを防止しつつリサイクル性も有するシートベルト用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、自動車用シートベルトに用いられる織物は、その横方向の剛性が低いと、ベルトに横方向の荷重がかかった際、シートベルトの金具部(スリップジョイント部)にベルトの片寄りが発生して、ベルトがシワになり、この状態で、荷重がかかると予定していたより低い荷重でベルトが切断してしまう、所謂ジャミング切れが発生する。
【0003】
上記ジャミング切れによるシートベルトの強度低下を防止するため、シートベルト用織物のヨコ糸に通常使用されているマルチフィラメントの糸に加えて強靱なモノフィラメントの糸を併用して製織することが考えられる。
【0004】
現在、シートベルト用織物は、細幅用のニードル織機で織られているが、上記モノフィラメントの糸を併用してこのニードル織機で織る場合、モノフィラメントの糸が耳部に飛び出し、このモノフィラメントの糸がシートベルト装着時に人の肌に傷を付ける可能性があるため、そのままではシートベルト用として採用されていない。
【0005】
ドイツのベルガー社では、耳部を平滑な状態にし、ヨコ糸にモノフィラメントを使用する場合でもモノフィラメント糸が耳部で飛び出さない方法を開発した。
【0006】
上記ベルガー社が開発した方法では、ヨコ糸送り装置(フィンガー)を2本用意して(以後2本針と略す)、1本はモノフィラメント、もう1本はマルチフィラメントを使い、耳部をマルチフィラメントで覆うベルトを作り(商標:ルカフレックス)、モノフィラメントが人肌を傷付けるという課題を解決している。
【0007】
また同社は、同様にモノフィラメント糸とマルチフィラメント糸との混合糸ないし混繊糸を使用しつつ、搦み糸と押え糸を加えた複雑な構造によりモノフィラメント糸の突出を抑えた帯状織物、及び帯状織物の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2003−518565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記ベルガー社が提案する2本針を使用する方法では、2本針の織機の導入の必要があり、また、織機の可動部分の質量が増大することにより回転数は通常より劣るものとなり、機械コスト及び製織速度に関して欠点があった。
【0009】
同様に、特許文献1の帯状織物についても、製織のためには専用の製織装置が必要となり、導入コストが高いという問題があった。
【0010】
また、これらの方法で作られたシートベルトのリサイクル性が悪いという欠点もある。なぜなら、リサイクル作業の一例としてシートベルトを機械にて綿状(フェルト状)に戻す反毛工程があるが、使用されているモノフィラメントの硬さによって反毛機を損傷するおそれがあり、リサイクルに不向きとされている。
【0011】
そこで、この発明の課題は、シートベルト用織物として横剛性を向上させてジャミング切れを防止しつつ、硬いモノフィラメント糸を使用せずにリサイクル性を向上させたシートベルト用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、この問題を解決する方法として、モノフィラメント糸を使用しないで、製織後、熱加工で疑似モノフィラメント化する糸を採用することを考え、この発明に至ったものである。
【0013】
即ち、請求項1の発明は、一本針のニードル織機を使って織られたシートベルト用織物において、ヨコ糸に太さが50デニールから1000デニールの芯鞘型熱融着糸のマルチフィラメント糸を使用し、製織後の加熱によって芯鞘型熱融着糸の鞘の部分が融解しフィラメント同士が結合し、ヨコ糸が疑似モノフィラメント化しているシートベルト用織物である。
【0014】
ここで、図1(a)の断面図に示すように、芯鞘型熱融着糸1とは、芯2と鞘3を別材料としたもので、外皮の鞘3の材料を内部芯2の材料より低融点とし、これを図1(b)のようにマルチフィラメント化し、この状態でヨコ糸として使用して製織を行い、製織後の染色時、又は熱セット加工時の加熱により鞘3の部分が融解し、冷却後、フィラメント同士が結合して、疑似モノフィラメント化することにより、モノフィラメントをヨコ糸として用いることなく、モノフィラメントを使用したシートベルトと同等の横剛性を確保するものである。
【0015】
また、請求項2の発明は、一本針のニードル織機を使って織られたシートベルト用織物において、ヨコ糸に太さが50デニールから1000デニールの芯鞘型熱融着糸と通常のマルチフィラメント糸を合糸又は撚糸により併用したマルチフィラメント糸を使用し、製織後の加熱によって芯鞘型熱融着糸の鞘の部分が融解しフィラメント同士が結合し、ヨコ糸の一部が疑似モノフィラメント化しているシートベルト用織物である。
【0016】
全てのヨコ糸に芯鞘型熱融着糸のマルチフィラメント糸を用いずに、普通に用いられるマルチフィラメントの糸を芯鞘型熱融着糸と併用してマルチフィラメント化すれば、ヨコ糸の一部が疑似モノフィラメント化するので、この場合でも一部にモノフィラメントを使用したシートベルトと同等の横剛性を確保することができる。
【0017】
なお、合糸又は撚糸による芯鞘型熱融着糸と通常の糸の割合は、特に限定されるものではないが、芯鞘型熱融着糸の複数本が加熱後に鞘部の融解によりモノフィラメント化する程度に加えることが必要である。
【0018】
また、請求項3の発明は、上記請求項1又は請求項2の記載中において、一本針のニードル織機に代えて二本針を使用したニードル織機にて製織したシートベルト用織物である。
【0019】
二本針を使用したニードル織機は、通常はモノフィラメントを一部に用いたシートベルト用織物で使用するものであるが、この機械をそのまま本発明のシートベルト用織物の製織に使用すれば、従来のモノフィラメントに代えてモノフィラメント化するマルチフィラメント糸を使用して、リサイクル性を向上させたシートベルトを得ることができる。
【0020】
また、請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかの項に記載の発明において、芯鞘型熱融着糸の芯部をポリエステル、鞘部を低融点ポリエステルとしたシートベルト用織物である。
【0021】
また、請求項5の発明は、請求項1乃至3のいずれかの項に記載の発明において、芯鞘型熱融着糸の芯部をポリエステル、鞘部をポリエステルより低融点のナイロンとしたシートベルト用織物である。
【0022】
なお、芯鞘型熱融着糸の構成は、上記した請求項4及び請求項5のものに限定されず、同等の機能を有する複合芯鞘型の熱融着糸を使用することができる。
【0023】
また、請求項6の発明は、ヨコ糸の一部又は全部に太さが50デニールから1000デニールの芯鞘型熱融着糸のマルチフィラメント糸を使った織物であって、製織後の加熱によって芯鞘型熱融着糸の鞘の部分が融解しフィラメント同士が結合し、ヨコ糸が疑似モノフィラメント化している細幅織物である。
【0024】
本発明の構成による細幅織物は、シートベルト用織物のみならず、横剛性の確保が要求される細幅織物全般に適用することができ、更に、その織物の廃棄時のリサイクル性の向上も図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
上記請求項1又は2の発明によれば、シートベルト用織物を構成するヨコ糸の全部又は一部が疑似モノフィラメント化しているので、シートベルトの横剛性が向上し、ジャミング切れの危険性を少なくすることができると共に、シートベルトのリサイクル時に、織物の中にモノフィラメントが使用されていないので反毛機等を損傷することが無くなり、リサイクル性が向上する。
【0026】
また、全体的に従来施設(一本針のニードル織機)をそのまま用いて、横剛性が向上したシートベルトを製織することができ、設備コストの点でも有利である。
【0027】
次に、上記請求項3の発明によれば、従来モノフィラメントを使用して製織していた二本針を使用したニードル織機があれば、その機械をそのまま使用して、モノフィラメント使用のシートベルトと同等の横剛性を確保し、かつリサイクル性が向上したシートベルトが得られる。
【0028】
次に、上記請求項4又は5の発明によれば、加熱による疑似モノフィラメント化に適し、横剛性の確保とリサイクル性の向上に最適なシートベルト用織物が得られる。
【0029】
次に、上記請求項6の発明によれば、モノフィラメントを用いずに横剛性の確保ができるので、横剛性の確保とリサイクル性の向上が求められる細幅ベルトに広く適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
従来通りの1本針のニードル織機によって、複合素材の芯鞘型熱融着糸(芯にポリエステル糸、鞘に低融度ポリエステルを使ったマルチフィラメント糸)を、ヨコ糸の全部又は1部として使い、製織時は、通常のマルチフィラメント糸として織り上げる。
【0031】
その後、染色加工時、又は熱セット加工時に加熱するが、芯部のポリエステルの融点が240〜260℃、鞘部の低融点ポリエステルの融点が200〜205℃程度であり、低融点ポリエステルが融解する程度に加熱させて鞘部のみを融解させ、冷却後マルチフィラメントを構成する各フィラメントの鞘部が隣り合うフィラメントの鞘部と一体化し、ヨコ糸が疑似モノフィラメント化することにより、モノフィラメント糸を使用する場合と同様な効果(横剛性)が得られる。
【0032】
これと同時に、リサイクル時に反毛機で綿(フェルト)に戻した場合でも、モノフィラメント糸の時のようにその硬さから反毛機を損傷するといった欠点は生じない。
【実施例1】
【0033】
ヨコ糸に芯鞘型熱融着糸を併用して図2に示すような製織構造の織幅50mmとしたシートベルト用織物を織り上げた。図2中、4は経糸、5はヨコ糸、6はキャッチ糸、7はロック糸である。なお、ベルトの織物構成は下記表1の通りとした。
【0034】
【表1】

【0035】
上記表1の織物構成からなるベルトを、サーモゾル染色(加熱温度200℃)後、水洗およびアルカリ還元洗浄を行った後乾燥させ、その後樹脂浸漬を行い、更に、熱セット(140℃)を行い、冷却させる加工工程を行った。
【0036】
加工後の細幅ベルト(実施例)の性能を調べるため、芯鞘型熱融着糸を併用しないベルト(比較例1)と、従来の2本針型織機で織り上げたモノフィラメント併用のベルト(比較例2)を比較例として、横剛性を計測した。結果は表2の通りである。
【0037】
【表2】

【0038】
以上のように、本発明の実施例のベルトは、比較例1の芯鞘型熱融着糸を併用しないベルト(比較例1)に比較して約2倍の横剛性を確保していた。また、2本針型織機で織り上げたモノフィラメント併用のベルト(比較例2)に比較しても約10%剛性増の効果をもたらしていた。
【0039】
また、ベルト復元性についても、実施例のものはモノフィラメント併用のベルト(比較例2)と同等の性能が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)は、芯鞘型熱融着糸の断面図、(b)は芯鞘型熱融着糸のマルチフィラメントを示す一部透過斜視図。
【図2】この発明の織物の製織構造を示す平面図。
【符号の説明】
【0041】
1 芯鞘型熱融着糸
2 芯
3 鞘
4 経糸
5 ヨコ糸
6 キャッチ糸
7 ロック糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一本針のニードル織機を使って織られたシートベルト用織物において、ヨコ糸に太さが50デニールから1000デニールの芯鞘型熱融着糸のマルチフィラメント糸を使用し、製織後の加熱によって芯鞘型熱融着糸の鞘の部分が融解しフィラメント同士が結合し、ヨコ糸が疑似モノフィラメント化していることを特徴とするシートベルト用織物。
【請求項2】
一本針のニードル織機を使って織られたシートベルト用織物において、ヨコ糸に太さが50デニールから1000デニールの芯鞘型熱融着糸と通常のマルチフィラメント糸を合糸又は撚糸により併用したマルチフィラメント糸を使用し、製織後の加熱によって芯鞘型熱融着糸の鞘の部分が融解しフィラメント同士が結合し、ヨコ糸の一部が疑似モノフィラメント化していることを特徴とするシートベルト用織物。
【請求項3】
上記請求項1又は請求項2の記載中において、一本針のニードル織機に代えて二本針を使用したニードル織機にて製織したことを特徴とするシートベルト用織物。
【請求項4】
上記芯鞘型熱融着糸において、芯部をポリエステル、鞘部を低融点ポリエステルとしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載のシートベルト用織物。
【請求項5】
上記芯鞘型熱融着糸において、芯部をポリエステル、鞘部をポリエステルより低融点のナイロンとしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載のシートベルト用織物。
【請求項6】
ヨコ糸の一部又は全部に太さが50デニールから1000デニールの芯鞘型熱融着糸のマルチフィラメント糸を使った織物であって、製織後の加熱によって芯鞘型熱融着糸の鞘の部分が融解しフィラメント同士が結合し、ヨコ糸が疑似モノフィラメント化していることを特徴とする細幅織物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−56377(P2007−56377A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239420(P2005−239420)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000113344)ホシノ工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】