説明

シートベルト装置

【課題】部品点数及びコストの増加を抑えて、衝突時に初期拘束性を向上させる。
【解決手段】衝突検出時にベルト3を引き込んで張力を付与するプリテンショナを備えたシートベルト装置であって、座席より後上方でピラー9に上下方向移動可能に設けられベルト3を支持するカバー20を備え、ピラー9の下部に内蔵されたプリテンショナの駆動装置によってプリテンショナの作動に伴いカバー20を下方に移動させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリテンショナを備えたシートベルト装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートベルト装置には、衝突時において乗員の拘束性を向上させるために、プリテンショナが広く用いられている。プリテンショナは、衝突時のように所定以上の衝撃を受けた場合に、瞬時にベルトを巻き取って弛みを取り除く機能を有する。
更に、車両の座席の上部に、ショルダーベルトを支持するリング状のベルト引き込み部材を設け、前方衝突時での乗員の移動方向、即ち車両の前後方向とショルダーベルトの延在方向との角度である拘束角度を小さくすることで、衝突初期の乗員の拘束性を向上させるシートベルト装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-247787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されたシートベルト装置では、座席に設けたベルト引き込み部材の上下位置を移動可能にし、通常時ではベルト引き込み部材を上方に位置させ、乗員に対する拘束性を弱めて快適性を損なわないようにしており、衝突時にはプリテンショナの作動に合わせてベルト引き込み部材を下方に移動させるような構造となっている。
したがって、座席にベルト引き込み部材と、その上下移動手段として例えばガスジェネレータとを新たに備えており、部品点数やコストの増加を招いてしまう。
【0005】
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、部品点数及びコストの増加を抑えて、衝突時に初期拘束性を向上させることが可能なシートベルト装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1のシートベルト装置は、衝突検出時にショルダーベルトを引き込んで張力を付与するプリテンショナと、プリテンショナの作動に伴い、ショルダーベルトの引き込み位置を変更する引き込み位置変更手段と、を備えたシートベルト装置であって、引き込み位置変更手段は、座席より後上方で車体に上下方向移動可能に設けられショルダーベルトを支持するガイド手段と、プリテンショナの駆動源を用いてガイド手段を下方に移動させるガイド移動手段と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2のシートベルト装置は、請求項1において、プリテンショナ及びガイド手段は、座席の側方に位置する車体のピラーに配置されることを特徴とする。
また、請求項3のシートベルト装置は、請求項1または2において、プリテンショナは、ショルダーベルトの一端部を巻き込むリトラクタに備えられ、ガイド移動手段は、プリテンショナによりリトラクタを介して行うショルダーベルトの巻き込み駆動をガイド手段に伝達して、当該ガイド手段を下方に移動させることで、ショルダーベルトの引き込み位置を下方に移動させることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4のシートベルト装置は、請求項1〜3のいずれか1項において、ショルダーベルトの所定値以上の張力を規制するフォースリミッタを備え、ガイド移動手段は、更にフォースリミッタの作動時にガイド手段を上方に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、引き込み位置変更手段によって、プリテンショナの作動に伴い、座席より上後方に位置するショルダーベルトの引き込み位置が下方に移動するので、ショルダーベルトの弛みを瞬時になくして衝突初期での拘束性を向上させることができる。
特に、引き込み位置変更手段のガイド手段の移動をプリテンショナの駆動源を用いて行っているので、新たに駆動源を必要とせずに、部品点数及びコストの増加を抑制することができる。
【0010】
また、請求項2の発明によれば、プリテンショナ及びガイド手段が、座席の側方に位置する車体のピラーに配置されるので、プリテンショナとともにガイド手段及びガイド移動手段をピラーを利用してコンパクトに配置することが可能となる。
また、請求項3の発明によれば、ガイド移動手段は、プリテンショナによりリトラクタを介して行うショルダーベルトの巻き込み駆動をガイド手段に伝達して、当該ガイド手段を下方に移動させることで、ショルダーベルトの引き込み位置を下方に移動させるので、ワイヤやベルト等によりガイド移動手段を容易に構成することが可能となる。
【0011】
また、請求項4の発明によれば、フォースリミッタの作動時にガイド手段を上方に移動させることで、ベルトの過度な張力を低下させることができ、フォースリミッタの機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るシートベルト装置の構成を示す車室内の正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るシートベルト装置の構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るピラー上部の内部構造を示す縦断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るピラー上部の内部構造を示す横断面図である。
【図5】本発明によるリトラクタの構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る車両衝突時でのカバーの移動状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るピラー上部の内部構造を示す縦断面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る車両衝突時でのリング部材の移動状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るピラー上部の内部構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置1の構成を示す車室11内の正面図である。
本実施形態に係るシートベルト装置1は、車両の前席用の3点式シートベルト装置であって、前席2に着座した乗員の体に掛け回すベルト3と、ベルト3の一端を巻き取るリトラクタ4と、ベルト3の中間部分に移動可能に支持されたタング5と、タング5を着脱可能に固定するバックル6と、を備えている。
【0014】
ベルト3の他端は、前席2の外側に設けられ車体に固定された連結部材7に支持されている。ベルト3は、中間部で、上記のようにタング5を介してバックル6に支持されるとともに、前席の上部でショルダベルトアンカ8に支持されている。ショルダベルトアンカ8は、前席2の車両左右方向外側かつ前席2より車両後方で上下方向に延びるピラー9に設けられている。リトラクタ4は、ピラー9の下部に内蔵されている。また、ベルト3のショルダベルトアンカ8からリトラクタ4までの部位も、ピラー9内を通過するように配置されている。
【0015】
バックル6は、車体の床面から上方に延びる連結部材10を介して車体に固定されている。なお、ベルト3のうち、前席2に着座した乗員Mの上半身を拘束する部位であって、タング5よりリトラクタ4側の部位が、本発明のショルダーベルトに該当する。
図2は、本発明の第1の実施形態に係るピラー9上部の構造を示す斜視図である。
図2に示すように、ピラー9の上部には、車両左右方向内側の面に図示しない開口部が設けられているともに、この開口部を覆うカバー20(ガイド手段)が設けられている。カバー20は、ピラー9に対して上下方向に移動可能に支持されている。カバー20には、ベルト3を通過させるベルト通し孔21が設けられている。そして、リトラクタ4から引き出されたベルト3は、ピラー9内を上方に延び、ショルダベルトアンカ8によって車両内側に折り返され、カバー20のベルト通し孔21を通過して車室11内に延びるように配置されている。
【0016】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るピラー9上部の内部構造を示す縦断面図であり、車両進行方向左側(図1中右側)のピラー9内を車両前方から見た図である。
図4は、本発明の第1の実施形態に係るピラー9上部の内部構造を示す横断面図である。
図3、4に示すように、ピラー9は、車体の内壁であるインナパネル22に、断面コの字状の棒状部材であるピラートリム23を上下方向に延びるように突き合わせて固定されており、内部に上下方向に延びる断面四角形状の空間24が形成されている。
【0017】
本実施形態のシートベルト装置1には、シートベルトアジャスタ機能が備えられている。詳しくは、図3、4に示すように、ショルダベルトアンカ8は、ベルト3を支持するリング状のタング部25と、タング部25を上下方向に移動可能に支持するレール部26によって構成されている。レール部26は、車体のインナパネル22にボルト27によって固定されている。これにより、タング部25が上下方向に移動可能となっている。
【0018】
カバー20は、横断面が略コの字状に形成されており、インナパネル22に延設するピラートリム23の車両左右方向内側の側壁23aの一部を覆うように配置されている。ピラートリム23の車両前後方向側の側壁23b、23cには、上下方向に延びる溝28が設けられている。カバー20の下部の内側には、開口端近傍を前後に連結する連結部材29が備えられ、当該連結部材29が溝28内に挿入されている。
【0019】
レール部26の下方のインナパネル22には、カバースライド用レール30が設けられている。カバースライド用レール30には、カバー20の連結部材29がボルト31を介して所定以上の荷重で上下方向に移動可能に固定されている。
そして、シートベルトアジャスタ機能によるショルダベルトアンカ8のタング部25の上下移動に拘わらず、カバー20のベルト通し孔21が、少なくともバックル6とショルダベルトアンカ8との延長線上の上下位置から前席2の肩部の上下位置まで移動可能なように、カバースライド用レール30及び溝28の上下長さが設定されている。
【0020】
連結部材29には、車両前後方向に互いに離間して2本のワイヤ32(ガイド移動手段)の上端部が夫々固定されている(32a、32b)。ワイヤ32は、ベルト3に沿ってピラー9内を上下方向に延びている。
図5は、リトラクタ4の構造を示す斜視図である。
リトラクタ4は、ベルト3を巻き付ける図示しないドラムが内蔵されている。図5に示すように、リトラクタ4の上部には、ベルト3を引き出す開口部35が設けられている。リトラクタ4内のドラムはベルト3を巻き付ける方向に付勢されている。
【0021】
リトラクタ4には、プリテンショナ36が設けられている。プリテンショナ36は、衝突等により車両が所定以上の荷重を受けたときに瞬時にベルト3を巻き付ける方向にドラムを回転させる機能を有する。プリテンショナ36は、例えばガスジェネレータにより押し出した複数の玉によってギヤを回転させ、当該ギヤの回転によりドラムを回転駆動させる構造となっている。
【0022】
上記ギヤの回転軸37は、ドラムの回転軸と同軸上に車両前後方向に延びるように配置され、両端がリトラクタ4の外壁より突出している。回転軸37の両端部には、ベルト3のドラムへの巻き付け方向と同方向にワイヤ32が巻き付けられている。したがって、プリテンショナ36のギヤの回転によりベルト3が巻き込まれると同時にワイヤ32も巻き込む構造となっている。
【0023】
また、リトラクタ4には、フォースリミッタ38が設けられている。フォースリミッタ38は公知の装置であって、ベルト3に対し必要以上の張力の付与を規制する機能を有する。
図6は、本発明の第1の実施形態に係る車両衝突時でのカバーの移動状態を示す斜視図である。
【0024】
以上のような構造により、本実施形態では、車両が所定以上の荷重を受けたときにプリテンショナ36によってベルト3を引き込むと同時に、ワイヤ32を瞬時に下方に引き込むようになっている。したがって、図6に示すように、カバー20が下方に移動して、ベルト3の引き込み位置が下方に移動するようになる。そして、カバー20の下方への移動によって、ベルト3がショルダベルトアンカ8と前席2に座った乗員Mとの間との部位で下方に押し付けられ、プリテンショナ36の作動とともにベルト3の弛みを瞬時になくし、衝突初期での拘束性を向上させることができる。
【0025】
そして、本実施形態では、カバー20の移動を、ワイヤ32を介してプリテンショナ36の駆動装置によって行っている。したがって、カバー20を移動させるための駆動装置をあらたに設ける必要がなく、部品コストの増加を抑制することができる。
また、カバー20がピラー9に沿って設けられており、ワイヤ32やカバー20の支持部材(カバースライド用レール30等)の部品もピラー9内に配置されているので、これらの部品をプリテンショナ36とともにピラー9内にコンパクトにまとめることができ、車室11内のスペースの減少を抑えることができる。
【0026】
また、リトラクタ4にはフォースリミッタ38が設けられているので、カバー20の移動を含め、プリテンショナ36の作動時にベルト3に対し過度な張力を付与しないように規制することができ、乗員の安全性を向上させることができる。
次に、図7、8を用いて、本発明の第2の実施形態について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係るピラー9上部の内部構造を示す縦断面図であり、図3と同様に車両進行方向左側(図1中右側)のピラー9内を車両前方から見た図である。図8は、本発明の第2の実施形態に係る車両衝突時でのカバーの移動状態を示す斜視図である。
【0027】
図7、8に示すように、第2の実施形態のシートベルト装置40では、第1の実施形態のシートベルト装置1のカバー20の代わりにリング部材41(ガイド手段)が設けられている。
リング部材41は、略四角形のリング状に形成されており、乗員が衝突しても危害を与えないように、先端部を比較的柔らかくかつ丸みを帯びた形状としている。
【0028】
ピラートリム23の車両左右方向内側の側壁23aには、ショルダベルトアンカ8から車室11内に向かって延びるベルト3が通過するベルト通し孔43が設けられているとともに、このベルト通し孔43の左右に下方に延びるレール溝42が夫々設けられている。リング部材41は、先端部がレール溝42から、ピラートリム23の車両左右方向内側の側壁23aより突出し、リング部材41と側壁23aと間にベルト3を通過するように配置されている。
【0029】
レール部26の下方のインナパネル22には、リング部材スライド用レール44が設けられている。
リング部材41の基部は、ボルト45を介してリング部材スライド用レール44に、上下方向に移動可能に固定されている。そして、リング部材41の基部に、車両前後方向に互いに離間して2本のワイヤ32の上端部が夫々固定されている。
【0030】
そして、シートベルトアジャスタによるショルダベルトアンカ8のタング部25の上下移動に拘わらず、リング部材41が少なくともバックル6とショルダベルトアンカ8との延長線上の上下位置から前席2の肩部の上下位置まで移動可能なように、リング部材スライド用レール44及びレール溝42の上下長さが設定されている。
以上のような構造により、本実施形態のシートベルト装置40では、車両が所定以上の荷重を受けたときにプリテンショナ36によって、ベルト3を引き込むと同時にワイヤ32を瞬時に下方に引き込むことで、図8に示すように、リング部材41が下方に移動する。これにより、第1実施形態と同様に、ベルト3をショルダベルトアンカ8と前席2に座った乗員Mとの間との部位で下方に押し付け、ベルト3の弛みを瞬時になくし、衝突初期での拘束性を向上させることが可能となる。
【0031】
以上の実施形態において、更に、フォースリミッタ38によってベルト3の張力が許容以上とならないように作動した場合に、カバー20やリング部材41を上方に戻す機能を追加してもよい。このようにすれば、フォースリミッタ38の作動時にベルト3の張力を低下させることができ、フォースリミッタ38の機能を向上させることができる。
なお、以上の実施形態では、シートベルトアジャスタ機能を備えているが、シートベルトアジャスタ機能の備えていないシートベルト装置でも本発明を適用することができる。例えば、図9に示すように、上記第2の実施形態からシートベルトアジャスタを除いた構成でも、第2の実施形態と同様に、プリテンショナ36の作動と同時にリング部材41が下方に移動して、ベルト3の弛みを瞬時になくし、衝突初期での拘束性を向上させることが可能となる。
【0032】
なお、以上の実施形態では、前席用の3点シートベルト装置に本発明を適用しているが、本発明はこれに限定するものではない。少なくともプリテンショナ36を有し、ベルト3によって乗員の肩部を拘束するシートベルト装置に広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1、40 シートベルト装置
3 ベルト
4 リトラクタ
9 ピラー
20 カバー
32 ワイヤ
36 プリテンショナ
38 フォースリミッタ
41 リング部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突検出時にショルダーベルトを引き込んで張力を付与するプリテンショナと、
前記プリテンショナの作動に伴い、前記ショルダーベルトの引き込み位置を変更する引き込み位置変更手段と、を備えたシートベルト装置であって、
前記引き込み位置変更手段は、座席より上後方で前記車体に上下方向移動可能に設けられ前記ショルダーベルトを支持するガイド手段と、前記プリテンショナの駆動源を用いて前記ガイド手段を下方に移動させるガイド移動手段と、を備えていることを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
前記プリテンショナ及び前記ガイド手段は、座席の側方に位置する車体のピラーに配置されることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト装置。
【請求項3】
前記プリテンショナは、前記ショルダーベルトの一端部を巻き込むリトラクタに備えられ、
前記ガイド移動手段は、前記プリテンショナにより前記リトラクタを介して行う前記ショルダーベルトの巻き込み駆動を前記ガイド手段に伝達して、当該ガイド手段を下方に移動させることで、前記ショルダーベルトの引き込み位置を下方に移動させることを特徴とする請求項1または2に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
前記ショルダーベルトの所定値以上の張力を規制するフォースリミッタを備え、
前記ガイド移動手段は、更に前記フォースリミッタの作動時に前記ガイド手段を上方に移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシートベルト装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate