説明

シームベルト

【課題】ベルトの周動に対して、溶着部分つまり接合部分が剥がれることを抑制するとともに、機能層の剥がれを抑制する信頼性の高いシームベルトを提供する。
【解決手段】2つの端部を継ぎ合わせたシームベルトであって、シームベルトの両面は、一方の面が第1の層(100A)で、他方の面が第1の層と材料特性の異なる第2の層(100B)で、それぞれ形成され、シームベルトの両面において、第1の層からなる2つの端部と接合する第1の接合部材(120)と、第2の層からなる2つの端部と接合する第2の接合部材(110)とを備え、第1の接合部材は第1の層とほぼ同じ材料特性を、第2の接合部材は第2の層とほぼ同じ材料特性を有する。この結果、ベルトの両面にそれぞれ接合部材を接合することから、接合強度が向上する。また、接合部材の接合によってベルトの全面がベルトの用途に応じた機能層を有するので、機能層が剥がれる虞もない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの端部を継ぎ合わせたシームベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式のプリンタやインクジェット方式のプリンタといった印刷装置においては、印刷可能な用紙サイズが異なったり、装置の大きさが異なったりする印刷装置が販売されるようになってきた。例えば、A3サイズの用紙まで印刷可能な大型の印刷装置やA4サイズの用紙専用の小型の印刷装置といった具合である。このような印刷装置においては、それぞれの装置に応じた幅と長さを有する中間転写ベルトや用紙を搬送する搬送ベルトが必要となる。
【0003】
ところで、このような中間転写ベルトのような転写ベルトや、搬送ベルトとして、継目の無いベルト(シームレスベルト)や、2つの端部を継ぎ合わせた継目を有するベルト(シームベルト)が通常用いられている。シームレスベルトは、継目の影響が無く、画像を安定して形成することに関して有利なベルトであるが、それぞれのベルト幅と長さに応じた専用の型を用いて製造するベルトである。この結果、印刷装置の種類が異なると、印刷装置の種類に応じたベルトの型を製造する必要が生じるため、型の製造に起因して製造日程が長くなったり、製造コストが高くなったりする課題を有している。
【0004】
一方、シームベルトは、型を必要とせず、所定の幅と長さに切断されたシート材をベルトの基材とし、そのシート材の2つの端部同士を継ぎ合わせることによって製造するものである。従って、ベルトの幅や長さを容易に調節することができるので、印刷装置の種類に応じたベルトを短納期で安価に製造することができる。この結果、ベルトの製造日程や製造コストといった課題の発生を抑制することができる。しかしながら、例えばシームベルトを転写ベルトとして用いた場合、継目の影響(例えばベルトの表面段差)によって画像が安定して形成できないという課題がある。
【0005】
そこで、シームベルトにおいて継目の影響を抑制し、画像を安定して形成するべく継目の影響を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−215817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、溶着部材によってベルト基材となるフィルムの裏面よりベルト基材の2つの端部(以降「ベルト端部」とも呼ぶ)を接合し、溶着部材の周方向端部が継目方向に向かって暫時厚みが増していく形状を有するようにしたものである。このように、特許文献1に開示された技術等によって、ベルトの表面段差を抑制し、画像を安定して形成することを可能としている。しかしながら、特許文献1におけるシームベルトにおいて、溶着部分はフィルム裏面のみであることから、溶着強度が不足し、ベルトの周動によって溶着部分が剥がれてしまう虞がある。
【0008】
また、シームベルトを例えば転写ベルトとして用いる場合、シームベルトを形成した後に、ベルトの表面全面を画像を転写する面として用いるために、必要となる機能層(例えば導電層や中抵抗層)を塗装や印刷、あるいはスパッタリングなどの方法でコーティングして形成していた。あるいは、シームベルトを例えば用紙の搬送ベルトとして用いる場合、シームベルトを形成した後に、ベルトの表面全面を用紙を搬送する面として用いるために、用紙が滑らないような機能層(例えば摩擦係数の大きな層)を塗装や印刷、あるいはスパッタリングなどの方法でコーティングして形成していた。このように、シームベルトを転写ベルトや搬送ベルトとするために、用途に応じた機能層をベルト表面に別途形成する作業が必要であった。さらに、機能層を形成する作業において、この機能層を乾燥する工程を有する場合、この乾燥工程における加熱によってベルト自体が変形したり歪みが生じたりするなどといった課題があった。
【0009】
また、このように塗装等によってコーティングされた機能層は、ベルト基材との間の密着力に起因して、ベルトの周動によって機能層が剥がれてしまうという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ベルトの周動に対して、溶着部分つまり接合部分が剥がれることを抑制するとともに、少なくとも上記課題の一部を解決する信頼性の高いシームベルトを提供するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]2つの端部を継ぎ合わせたシームベルトであって、前記シームベルトの両面は、一方の面が第1の層で、他方の面が前記第1の層と材料特性の異なる第2の層で形成され、前記一方の面には、前記第1の層からなる前記2つの端部と接合する第1の接合部材が、前記他方の面には、前記第2の層からなる前記2つの端部と接合する第2の接合部材が、それぞれ備えられ、前記第1の接合部材は前記第1の層とほぼ同じ材料特性を、前記第2の接合部材は前記第2の層とほぼ同じ材料特性を有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、ベルトの両面にそれぞれ接合部材を接合することから、ベルトの一面を接合する場合に比べてベルト端部との接合強度が向上する。従って、ベルトの周動において、ベルト端部との接合部分は剥がれにくくなる。また、ベルトの両面に接合されたそれぞれの接合部材は、接合の対象となる層とほぼ同じ材料特性を有する部材であるとしている。従って、ベルトの両面について、接合部材が接合された部分(以降「継目部分」とも呼ぶ)を含めた全面がほぼ同じ材料特性を有する面となる。この結果、接合部材の接合によってベルトの全面がベルトの用途に応じた機能層を有するシームベルトとなるので、ベルトとして必要な機能層を別途形成する必要がない。また、機能層が剥がれる虞もない。
【0013】
「適用例2]上記シームベルトであって、前記材料特性は導電性であり、前記第1の層は前記シームベルトの外周となる表面側に、前記第2の層は前記シームベルトの内周となる裏面側に形成され、前記第1の層は前記第2の層よりも導電性が低いことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、ベルトの裏面側の層の導電性に対してベルトの表面側の層の導電性が低いことから、ベルトの表面側の抵抗が大きくなる。従って、ベルトの裏面側の層は導電層として、ベルトの表面側の層は中抵抗層として機能させることができるので、転写ベルトとしても好適である。なお、導電層および中抵抗層については後述する。
【0015】
[適用例3]上記シームベルトであって、前記第1の接合部材および前記第2の接合部材は、前記2つの端部のうちの少なくとも1つの端部と超音波溶着によって接合されていることを特徴とする。
【0016】
超音波溶着は、接合部分において材料同士を溶融して結合するものであり、結合される材料以外の材料が接合部分に存在しない接合方法である。従って、ベルト表裏面における導電性は、ベルト基材の部分と接合部材との間で変化せず、ほぼ同じ導電性を有する層が連続して維持されることになる。この結果、継目部分を含めて機能層がベルトの表裏全面に形成されるので、例えば転写ベルトとして用いた場合好適である。
【0017】
[適用例4]上記シームベルトであって、前記材料特性は摩擦係数であり、前記第1の層は前記シームベルトの外周となる表面側に、前記第2の層は前記シームベルトの内周となる裏面側に形成され、前記第1の層は前記第2の層よりも摩擦係数が大きいことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、ベルトの裏面側の層の摩擦係数に対してベルトの表面側の層の摩擦係数が大きいことから、ベルトの表面側の面は滑りにくくなる。従って、ベルトの表面側の層は例えば印刷用紙といった印刷媒体が滑りにくいことから、印刷媒体を位置ズレなく保持することができるので、印刷媒体など搬送対象物を搬送する搬送ベルトとして好適である。
【0019】
[適用例5]上記シームベルトであって、前記第1の接合部材は前記第2の接合部材よりも弾性率が小さい部材であることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、シームベルトの継目部分において、ベルトの外周側の弾性率を、ベルトの内周側よりも小さくするので、ベルトの外周側の面は、ベルトの内周側の面よりも延び易くなる。従って、シームベルトをローラーに張架したとき、ベルトの外周側の面が、発生する張力によって延びることによってローラーの外周形状に追随し易くなる。この結果、シームベルトはローラーの外周に沿って安定して周動することができる。
【0021】
[適用例6]上記シームベルトであって、前記第1の接合部材は前記第1の層と同一材料で形成され、前記第2の接合部材は前記第2の層と同一材料で形成されていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、ベルトの両面に形成された各々の層と接合部材とが同一材料で形成されているので、ベルトの表裏面の各々について、導電性あるいは摩擦係数といった材料特性が、継目部分を含めたベルト全面において確実に同じになる。従って、転写ベルトや搬送ベルトとして用いた場合、さらに好適である。
【0023】
[適用例7]上記シームベルトであって、前記第1の接合部材および前記第2の接合部材の厚さが、接合後において、前記2つの端部との接合部分のベルト厚さが他の部分のベルト厚さと同じになるように形成されていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、継目部分を含めて機能層を形成したとき、継目部分が厚くならない。従って、例えば、シームベルトを転写ベルトとして用いた場合、トナー画像を継目部分にも正しく転写することができる。また、シームベルトをインクジェットプリンタの用紙搬送ベルトとして用いた場合、ベルト表面からの高さを継目部分を含めて一定にできるので、インクヘッドからのインク着弾距離が一定となり正しく画像を印刷することができる。このように、継目部分を含めて全面を使用することができるシームベルトを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態の一例として、シームベルトを電子写真方式のプリンタにおける転写ベルトとして用いた場合について説明する。図1は、シームベルトを転写ベルト10として用いたプリンタ1の概略構成図である。プリンタ1は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナーを用いて画像を形成する印刷装置である。
【0026】
プリンタ1は、駆動装置(不図示)によって図示した白抜き矢印方向に回転する感光体ドラム2を備えている。そして、この感光体ドラム2の表面に画像を形成するため、除電ユニット3、帯電ローラー4、レーザー書き込みユニット5、イエロートナー現像器6Y、マゼンタトナー現像器6M、シアントナー現像器6C、ブラックトナー現像器6Kが配置されている。
【0027】
感光体ドラム2の表面は、除電ユニット3によって不要な電位が除去されたあと帯電ローラー4によって所定の電位に一様に帯電される。その後、レーザー書き込みユニット5より、各トナー色の1つに相当する画像に応じて変調されたレーザー光が照射される。レーザー光が照射された部分は電位が変化する。そして、この変化した電位部分に、対応する色のトナー現像器から電界作用によってトナーを静電吸着させて、1つの色トナーによる画像を感光体ドラム2の表面に形成する。
【0028】
感光体ドラム2に形成された1つの色のトナー画像は、転写チャージャー7によって転写ベルト10の表面(外周)に転写される(これを1次転写とも呼ぶ)。こうして1つの色トナーによるトナー画像の転写が終わると、つづけて他の色トナーについて、同様にトナー画像の形成と転写を行う。従って、各色のトナーによって最大4回(白黒画像であれば1回)画像が重ねて転写される。なお、1つのトナー画像の転写後に感光体ドラム2上に残ったトナーは、感光体ドラムクリーナー8によって都度掻き落とされる。
【0029】
転写ベルト10は、駆動ローラー11、従動ローラー12、バックアップローラー13の間に、図示しない付勢装置の作用により一定の張力で張架され、白抜き矢印の方向に周動する。もとより転写ベルト10の表面の周動速度は、感光体ドラム2の表面の回転速度と一致している。
【0030】
その後、転写ベルト10に転写されたトナー画像は、転写材(例えば用紙)20に再び転写される(これを2次転写とも呼ぶ)。転写材20は、転写材カセット21から転写材供給ローラー22、搬送ローラー23,24を経て、転写ベルト10表面に転写されたトナー画像と同期して転写ベルト10の外周と当接するように送られ、バックアップローラー13と2次転写ローラー26との間を通過する。
【0031】
2次転写ローラー26は、付勢装置(不図示)によって、転写ベルト10を挟んでバックアップローラー13に対して押し付けられている。そして、トナー画像を2次転写するべく、高圧の転写電圧を転写ベルトに対して印加する。すると、転写材20の表面にも同じ転写電圧が発生するため、トナー画像は転写材20の表面に転写される。なお、転写後の転写ベルト10上に残留したトナーは、クリーニングユニット15によって掻き落とされる。
【0032】
トナー画像が転写された転写材20は、図示しない除電装置によって除電されることによって転写ベルト10から分離し、その後、定着器27,28を通過する。この結果、転写材20に2次転写されたトナー画像は、転写材20上に定着する。こうして、転写材20に画像が形成される。
【0033】
このように、プリンタ1では、転写材20へ1つの画像が形成されるたびに、転写ベルト10はトナー画像の形成回数に応じて複数回周動する。従って、周動回数が多くなってもベルトが破断することなく、画像を安定して形成できる信頼性の高いシームベルトが、プリンタ1における転写ベルト10として要求される。
【0034】
次に、前述した1次転写について図2を用いてさらに詳しく説明する。この説明によって、転写ベルトに必要となる機能層である導電層と中抵抗層とについて明らかにする。図2は、所定の色のトナーTn1,Tn2,Tn3が、転写チャージャー7によって感光体ドラム2の表面から転写ベルト10の表面(外周)に転写される様子を示した模式図である。
【0035】
トナーTn1,Tn2は、レーザー光が照射されて変化した電位部分に静電吸着され、所定の電位(例えば−100V)を有している。本実施形態における転写ベルト10は、2つの層から形成され、ベルトの表面側(図面上側)の層(以降、「表面層」と呼ぶ)100Aは、ベルトの裏面側(図面下側)の層(以降、「裏面層」と呼ぶ)100Bよりも導電性の低いシート材料である。
【0036】
転写チャージャー7は、図示しない電圧発生回路によって生成された1次転写電圧(例えば+600V)を、転写ベルトに形成された裏面層100Bに印加する。裏面層100Bは、印加された1次転写電圧をベルト全面に導くように導電性が高い材料で形成されている。従って、裏面層100Bは導電層として機能する。
【0037】
裏面層100Bに印加された1次転写電圧は、トナーTn1,Tn2や感光体ドラム2が有する電位と逆極性の電圧であるが、表面層100Aが感光体ドラム2との間の絶縁体として介在し、感光体ドラム2との間で放電を生じさせないようにしている。従って、裏面層100Bと感光体ドラム2との間に電界が発生する。表面層100Aは、このように放電を生じさせることなくその表面にトナーを吸着できる機能を満たすことができる範囲の抵抗値(単位長さ当たりの抵抗値)を有する。従って表面層100Aは中抵抗層として機能する。
【0038】
さて、裏面層100Bと感光体ドラム2との間に電界が発生すると、トナーTn1およびトナーTn2は、表面層100Aの表面に静電吸着によって図中矢印Hで示した方向に引き寄せられるため、図中白抜き矢印で示した方向へ感光体ドラム2の表面速度と同じ速度で周動する転写ベルト10上に転写することになる。トナーTn3は、こうして転写ベルト10上に転写された状態のトナーの一例を示している。
【0039】
図2の説明から明らかなように、転写ベルトには、1次転写電圧を印加するための導電層と、この導電層と感光体ドラムとの間での放電を防ぎ、導電層と感光体ドラム間に電界を発生させるための中抵抗層とが、機能層として少なくとも必要であることが解る。
【0040】
本実施形態の転写ベルト10は、このような機能層を有するシームベルトであって、継目部分において接合部材が剥がれることを抑制するとともに、転写ベルトとして必要な機能層を、接合部材の接合によってベルト全面に形成しようというものである。それでは、本実施形態の転写ベルト10について、図3を用いて説明する。
【0041】
図3は、本実施形態における転写ベルト10を示す断面図である。転写ベルト10のベルト基材100は、前述したように、それぞれ導電性が異なる2つの層が貼り合わされたもので、厚さTBを有するシート材料である。この2つの層において、ベルトの表面側(図面上側)の表面層100Aは、ベルトの裏面側(図面下側)の裏面層100Bよりも導電性の低いシート材料である。
【0042】
本実施形態では、表面層100Aはポリエチレンテレフタレート(PET)のシート材料で形成されており、裏面層100Bは、このPETに導電性ポリマーやカーボン粒子、カーボンフィラーなどを含有させて導電性を高くしたシート材料で形成されている。
【0043】
表面層100Aを形成するPETのシート材料は、前述したように感光体ドラムとの間での放電を生じさせることなくその表面にトナーを吸着できる範囲の抵抗値(単位長さ当たりの抵抗値)を有する材料である。ちなみに、中抵抗層として好ましい抵抗値としては、100〜1000Ω・cm程度の範囲の値である場合が多い。また、裏面層100Bを形成するPETのシート材料は、転写チャージャーからの1次転写電圧を、転写ベルトの全面に印加できる範囲の高い導電性を有する材料である。
【0044】
もとより、シート材料はPET以外(例えばポリイミドやポリカーボネイトなど)を用いたものであっても差し支えない。要するに、表面層100Aは、上述した中抵抗層としての機能を達成することができる絶縁性を有し、裏面層100Bは上述した導電層の機能を達成することができる導電性を有する材料であれば、どのような材料であってもよい。
【0045】
そして、このような表面層100Aと裏面層100Bとが形成されたベルト基材100の端部は、ベルトの裏面側において接合部材110と接合され、ベルトの表面側において接合部材120と接合される。こうして、ベルト基材100は2つの端部が継ぎ合わされてシームベルトを形成する。なお、接合部材110,120がベルト基材100と接合された部分を総称して、以降継目部分と呼ぶことにする。
【0046】
接合部材110,120とベルト基材100との接合方法は、ここでは前述の特許文献1と同様に超音波による溶着方法とする。すなわち、図示しない超音波ヘッドを、図面下方向から接合部材110に当接して接合部材110とベルト基材100とを接合し、図面上方向から接合部材120に当接して接合部材120とベルト基材100とを接合することとする。また、接合部材120はベルト基材100の表面層100Aと同じ材料(ここではPET)からなる部材であり、接合部材110はベルト基材100の裏面層100Bと同じ材料(ここでは導電性の高いPET)からなる部材であるものとする。
【0047】
なお、転写ベルト10は、図示しないが、このような断面形状が図面手前から奥の方向に形成された所定のベルト幅を有するものである。また、図3の図面において、接合部材のベルト周動方向(図面左右方向)における端部は、段差が問題となる場合など必要に応じて、前述の特許文献1において開示されているように、ベルト基材100の端部間の隙間Gの方向に向かって、暫時厚みが増していく形状(不図示)を有しているものとする。
【0048】
さて、このように形成された本実施形態の転写ベルト10について、[A:接合部分の剥がれ]と[B:機能層の形成]に関して、その効果を順次説明する。
【0049】
[A:接合部分の剥がれ]
図3に示した本実施形態の転写ベルト10において、図示するように、接合部材110とベルト基材100との接合部分は、接合面111aと接合面111bであり、接合部材120とベルト基材100との接合部分は、接合面121aと接合面121bである。これらの接合面がベルトの張力(図中、白抜き矢印)と抗する面となる。ところで、接合部材110,120のベルト周動方向(図面左右方向)の長さは凡そ数ミリメートル前後に、ベルト基材100の厚さTBは凡そ100ミクロンメートル前後にそれぞれ設定される場合が多い。また、接合部材110の厚さTB1と接合部材120の厚さTB2はそれぞれ凡そ50〜100ミクロンメートル程度に、隙間Gは1ミリメートル以下に設定される場合が多い。従って、前述の特許文献1における転写ベルトに対して、このような部材の寸法関係から、ほぼ接合面がベルトの張力と抗することになる。本実施形態の転写ベルト10は、図示するように接合面が約2倍の面積となるので、接合部分の剥がれを抑制することができる。
【0050】
また、図示するように、隙間Gの部分においては、接合部材110と接合部材120とがベルトの張力に抗することになる。従って、本実施形態では、接合部材110の厚さTB1と接合部材120の厚さTB2は、隙間Gにおいてベルトの張力に抗することができるようにそれぞれの値を設定し、この部分においてベルトが破断しないようにしている。もとより、接合部材110の厚さTB1と接合部材120の厚さTB2は、それぞれの部材が有する材料の機械的性質に基づいて、ベルトの張力に抗する力、つまり引っ張り強度が同じ値になるように、それぞれの厚さを設定してもよい。こうすれば、2つの接合部材が均等にベルトの張力と抗することができるので、一方の接合部材のみに張力が加わったときに生ずるベルトの破断確率が最も低くなるように抑制することができる。
【0051】
また、ベルトの表面に接合部材120を超音波溶着によって固定した場合は、図3に示したように、接合部材120によって隙間Gを覆うため、隙間Gの部分においてベルトの表面に段差は生じない。このため、前述の特許文献1のように、隙間Gを埋める作業を必要としないので、溶着作業が容易になるという利点を有する。従って、本実施形態では、隙間Gは接合部材が充填されてない空洞状態であるものとする。もとより、隙間Gは接合部材が充填されていることとしても差し支えない。
【0052】
[B:機能層の形成]
次に、本実施形態の転写ベルト10では、前述したように、接合部材120はベルト基材100の表面層100Aと同じPET材料からなる部材であり、接合部材110はベルト基材100の裏面層100Bと同じ導電性の高いPET材料からなる部材であることとした。そして、接合部材110,120とベルト基材100との接合方法は、超音波による溶着方法とした。
【0053】
超音波による溶着方法は、接合部分において材料同士を溶融して結合するものであり、これらの接合部材とベルト基材の材料以外の材料が接合部分に存在しない接合方法である。従って、ベルト基材と接合部材との接合面、具体的には接合部材120と表面層100Aとの接合面121a,121b、および接合部材110と裏面層100Bとの接合面111a,111bにおいて、導電性は変化しないことになる。
【0054】
この結果、転写ベルト10の表面側は、継目部分を含めて全面ほぼ同じ導電性を有するPET材料からなる面で覆われる。従って、ベルトの表面側は、全表面に渡って中抵抗層が形成されたことになる。また転写ベルト10の裏面側は、継目部分を含めて全面ほぼ同じ導電性(高い導電性)を有するPET材料からなる面で覆われる。従って、ベルトの裏面側は、全表面に渡って導電層が形成されたことになる。
【0055】
このように、ベルトの表裏面に、それぞれベルト基材100と同じ材料からなる接合部材を溶着することによって、前述した転写ベルトとして必要となる機能層が、接合部材の溶着と同時にそれぞれの面に形成される。従って、改めて機能層を塗装などの別作業によって形成する必要がなく、このような機能層を形成する作業負荷が軽減される。
【0056】
また、機能層を形成する作業において、例えば塗装膜を乾燥する工程を有する場合、前述したように、この乾燥工程における加熱によって、ベルト基材が変形したり歪みが生じたりするなどといった課題があった。しかしながら、本実施形態の転写ベルト10は、ベルト基材そのものが当初から機能層を有しているので、シームベルトの形成後に機能層を形成する工程がなく、従って、このような加熱によるベルト基材の変形は生じない。
【0057】
また、塗装等によってコーティングされた機能層は、ベルト基材との間の密着力に起因して、ベルトの周動によって機能層が剥がれてしまうという課題もあった。しかしながら、本実施形態の転写ベルト10は、ベルト基材そのものが当初から機能層を形成しているので、このようなコーティングされた機能層と異なり機能層が剥げ落ちることがなく、信頼性の高い転写ベルトを提供することができる。
【0058】
以上、本発明について、一実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。以下変形例を挙げて説明する。
【0059】
(第1変形例)
図4は、上記実施形態の転写ベルト10が、駆動ローラー11の外周に沿って白抜き矢印の方向に周動する様子を示した模式図である。図示するように、転写ベルト10はその厚さ(継目部分の総厚、およびベルト基材100の厚さTB)に起因して原理的にベルトの表面側(外周側)の長さは裏面側(内周側)の長さより長くなる。つまり、ベルトの表面側の接合部材120および表面層100Aは、ベルトの裏面側の接合部材110および裏面層100Bに対して、ベルトの周動方向に多く伸ばされる。
【0060】
このとき、接合部材120が伸び難い材料であった場合、転写ベルト10は曲がりにくくなってしまう。またこのような場合、説明は省略するが、接合部材120が曲がる前の状態に戻ろうとする力によって、接合部材120と表面層100Aとの接合面には接合面を剥がそうとする力が加わることにもなり、接合面が剥がれてしまう虞もある。
【0061】
そこで、本変形例として、接合部材120が接合部材110よりも伸び易い材料、すなわち弾性率の小さい材料で形成されていることとしてもよい。こうすることによって、継目部分は駆動ローラー11の外周に沿って曲がり易くなる。この結果、接合部材120がもとの状態に戻ろうとする力は抑制され、接合部材120と表面層100Aとの接合面を剥がそうとする力を小さく抑制することができるのである。
【0062】
なお、接合部材120に限らず、表面層100Aについても、裏面層100Bよりも小さい弾性率からなる材料によって形成されていることとしても勿論よい。こうすることによって、転写ベルト10は駆動ローラー11の外周に沿って曲がり易くなる。この結果、接合部材120の接合面に生ずる剥がし力と同様に、表面層100Aと裏面層100Bとの間に生ずる貼り合わせ面の剥がし力が抑制され、信頼性の高い転写ベルト10を得ることができるのである。
【0063】
(第2変形例)
上記実施形態の転写ベルト10では、図3の図面において、接合部材110,120のベルト周動方向(図面左右方向)における端部が、段差が問題となる場合など必要に応じて、ベルト基材100の端部間の隙間Gの方向に向かって、暫時厚みが増していく形状を有しているものとした。しかしながら、継目部分におけるベルトの厚さは、他の部分よりも少なからず厚くなっている。従って、継目部分を含めて機能層を形成しても、継目部分が厚いことに起因してトナー画像を継目部分に正しく転写することができない虞がある。そこで、本変形例では、継目部分の厚さが他の部分とほぼ同じ厚さを有する転写ベルトとする。こうすることで、継目部分を含めて全面が使用できる転写ベルトを確実に提供することができる。本変形例を、図5を用いて説明する。
【0064】
図5(a)は、上記実施形態の転写ベルト(図3参照)を示したものである。図では示していないが、接合部材の端部の厚さを前述の特許文献1に基づいて暫時増して行くように形成した場合も含めて、隙間Gの近辺においてはベルトの総厚は「厚さTB+厚さTB1+厚さTB2」であり、継目部分以外の厚さTBよりも厚い状態になっている。
【0065】
そこで、本変形例では、接合部材110および接合部材120を超音波溶着するとき、接合部材110,120をベルト基材100に押し込むようにして溶着する。すると、図5(b)に示したように、接合部材110の接合面111a,111bは、裏面層100Bに食い込んで溶着され、裏面層100Bからの厚さ方向の飛び出しは、厚さTB1よりも少ない厚さDS1になる。同様に、接合部材120の接合面121a,121bは、表面層100Aに食い込んで溶着され、表面層100Aからの厚さ方向の飛び出しは、厚さTB2よりも少ない厚さDS2になる。
【0066】
このとき、溶着に際して、溶けた接合部材もしくはベルト基材の一部は接合面から食み出す。そして、例えば接合面121bについて例示したように、隙間G内に食み出す食み出し部Nと、ベルト表面に食み出す食み出し部Mが生ずる。もとより、食み出し部Nは、それぞれの接合面について発生し、隙間Gを充填するまでは、継続して食み出すことになる(不図示)。
【0067】
次に、図5(c)に示したように、転写ベルトの裏面層100B側について、接合部材110を厚さDS1分削って接合部材110Bとする。さらに、転写ベルトの表面層100A側について、接合部材120を厚さDS2分削って接合部材120Aとする。もとより、食み出し部Mも同時に削る。この結果、図示したように、接合部材110,120および表面層100A,裏面層100Bは、継目部分においてそれぞれ厚さが薄くなるものの、転写ベルトの総厚は、継目部分を含めて全てほぼ同じ厚さTBになる。この結果、継目部分を含めて全面が使用できる転写ベルトを提供することができるのである。
【0068】
なお、接合部材110,120のベルト基材100への押し込み量は、継目部分において、削った後の接合部材110,120の厚さや表面層100A、裏面層100Bの厚さが、例えば転写ベルトに加わる引っ張りや曲げに抗することができる寸法になるように設定されることは言うまでもない。また、接合部材110,120および食み出し部Mの削り方は、切削用工具(例えばカッターナイフ)を用いた切削方法や、研磨剤(例えばエメリーペーパー)を用いた研磨方法としてもよい。
【0069】
あるいは、接合部材110,120を削らず、接合後に、継目部分における転写ベルトの総厚が厚さTBになるように、予め接合部材110,120の厚さを薄くしておいてもよい。もとより、食み出し部Mが生じた場合は、この食み出し部Mを削り取ればよい。
【0070】
(その他の変形例)
上記実施形態では、接合部材110,120とベルト基材100との接合方法を、すべての接合面について超音波による溶着方法としたが、表裏面におけるそれぞれ2つの接合面のうち、少なくとも1つの接合面を超音波溶着によって接合することとしてもよい。接合部材とベルト基材との間に、異なる材料が入らない接合面が少なくとも1つあれば、接合部材とベルト基材とはほぼ同じ導電性を有するように繋がり、転写ベルトとして必要な機能層を形成することができる。なお、超音波溶着以外の接合方法の一例として、接着剤を用いる方法があるが、接着剤が接合部材あるいはベルト基材と同じ導電性を有する場合は、超音波溶着ではなく接着によって接合面を結合することとしても勿論よい。
【0071】
また、上記実施形態では、接合部材120はベルト基材100の表面層100Aと同じ材料からなる部材であり、接合部材110はベルト基材100の裏面層100Bと同じ材料からなる部材であるものとしたが、必ずしも同じ材料としなくても差し支えない。少なくとも接合部材とベルト基材とがほぼ同じ導電性を有する材料であれば何でも良い。
【0072】
また、上記実施形態では、ベルト基材は表面層と裏面層の2層から形成されることとしたが、これに限るものでないことは勿論である。例えば、表面層と裏面層との間に、難燃層を有するベルト基材としてもよい。ベルトの用途に応じた要求品質に合わせて、必要な層と総数を形成したベルト基材とすればよい。
【0073】
また、上記実施形態および変形例では、シームベルトを電子写真方式のプリンタにおける転写ベルトとして用いることとして説明したが、転写ベルトに限定されるものでないことは勿論である。例えばシームベルトを、用紙を搬送する搬送ベルトとして用いることとしてもよい。本発明に係るシームベルトは、前述したように接合部分が剥がれることを抑制できるとともに、継目部分を含めてベルト全面を使用することができる信頼性の高いシームベルトを提供するものであることから、用紙を搬送する搬送ベルトとしても好適である。
【0074】
なお、シームベルトを搬送ベルトとして用いる場合は、ベルト表面に保持される搬送対象物が搬送中に位置ずれを生じないように、ベルト表面側の材料として、ベルトの裏面側の材料(例えばPET)に対して摩擦係数の大きな材料(例えばウレタン)を用いることが好ましい。従って、それぞれの接合部材もベルトの表裏面に用いられた材料とほぼ同じ摩擦係数を有する部材であることが好ましく、同一材料であればさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】シームベルトを転写ベルトとして用いた実施形態としてのプリンタの概略構成図。
【図2】所定の色のトナーが、感光体ドラムの表面から転写ベルトの表面に転写される様子を示した模式図。
【図3】本実施形態の転写ベルトについて、その継目部分近傍の断面図。
【図4】実施形態の転写ベルトが、駆動ローラーの外周に沿って周動する様子を示した模式図。
【図5】継目部分を含めてほぼ同じ厚さを有するベルトの製造方法を示す模式図。
【符号の説明】
【0076】
1…プリンタ、2…感光体ドラム、3…除電ユニット、4…帯電ローラー、5…レーザー書き込みユニット、6C…シアントナー現像器、6K…ブラックトナー現像器、6M…マゼンタトナー現像器、6Y…イエロートナー現像器、7…転写チャージャー、8…感光体ドラムクリーナー、10…転写ベルト、11…駆動ローラー、12…従動ローラー、13…バックアップローラー、15…クリーニングユニット、20…転写材、21…転写材カセット、22…転写材供給ローラー、23,24…搬送ローラー、26…2次転写ローラー、27,28…定着器、100…ベルト基材、100A…表面層、100B…裏面層、110,110B…接合部材、111a,111b…接合面、120,120A…接合部材、121a,121b…接合面、Tn1,Tn2,Tn3…トナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの端部を継ぎ合わせたシームベルトであって、
前記シームベルトの両面は、一方の面が第1の層で、他方の面が前記第1の層と材料特性の異なる第2の層で形成され、
前記一方の面には、前記第1の層からなる前記2つの端部と接合する第1の接合部材が、前記他方の面には、前記第2の層からなる前記2つの端部と接合する第2の接合部材が、それぞれ備えられ、
前記第1の接合部材は前記第1の層とほぼ同じ材料特性を、前記第2の接合部材は前記第2の層とほぼ同じ材料特性を有することを特徴とするシームベルト。
【請求項2】
請求項1に記載のシームベルトであって、
前記材料特性は導電性であり、前記第1の層は前記シームベルトの外周となる表面側に、前記第2の層は前記シームベルトの内周となる裏面側に形成され、前記第1の層は前記第2の層よりも導電性が低いことを特徴とするシームベルト。
【請求項3】
請求項2に記載のシームベルトであって、
前記第1の接合部材および前記第2の接合部材は、前記2つの端部のうちの少なくとも1つの端部と超音波溶着によって接合されていることを特徴とするシームベルト。
【請求項4】
請求項1に記載のシームベルトであって、
前記材料特性は摩擦係数であり、前記第1の層は前記シームベルトの外周となる表面側に、前記第2の層は前記シームベルトの内周となる裏面側に形成され、前記第1の層は前記第2の層よりも摩擦係数が大きいことを特徴とするシームベルト。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のシームベルトであって、
前記第1の接合部材は前記第2の接合部材よりも弾性率が小さい部材であることを特徴とするシームベルト。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のシームベルトであって、
前記第1の接合部材は前記第1の層と同一材料で形成され、前記第2の接合部材は前記第2の層と同一材料で形成されていることを特徴とするシームベルト。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のシームベルトであって、
前記第1の接合部材および前記第2の接合部材の厚さが、接合後において、前記2つの端部との接合部分のベルト厚さが他の部分のベルト厚さと同じになるように形成されていることを特徴とするシームベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−3316(P2009−3316A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165920(P2007−165920)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】