説明

シームレスベルトの製造方法及び製造装置

【課題】熱可塑性樹脂を主成分とする、高品位なシームレスベルトを低コストで製造することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】環状ダイ2から熔融体30を押し出す工程と、押し出された熔融体30の先端部を筒状金型4に設けられた密着手段に密着させる工程と、熔融体30の先端部を密着手段に密着させた状態で、筒状金型4と環状ダイ2とを軸方向に相対移動させて筒状金型4の内壁に熔融体30を塗布して筒状の層1を形成する工程と、筒状の層1と環状ダイ2と筒状金型4とで仕切られる内部空間50に気体を充填し、気体の圧力で筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させる工程と、筒状の層1を固化させる工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスベルトの製造方法及びその製造装置に関する。特に、電子写真画像形成装置(レーザービームプリンター、複写機等)において、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、感光ベルト、定着ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンターや複写機等の電子写真画像形成装置において中間転写ベルトや転写搬送ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された製造方法では、筒状金型に内接している押出筒金型から熱硬化性樹脂の樹脂溶液を筒状金型内壁の下部から順に上部まで押し出して筒状の樹脂溶液の層を形成する。このとき、樹脂溶液の層の内部に気体を注入して膨張させ、その後、樹脂溶液の層を硬化させることによってシームレスベルトが得られる。この製造方法によれば、筒状金型の内壁に短時間に樹脂溶液を塗布し、且つ塗布スジ、うねり、樹脂溶液残りの発生を抑えることが可能である旨が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−237695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子写真画像装置は高画質かつ低価格化が進んでおり、シームレスベルトの品質および価格に対する要求が益々高まっている。そこで、本発明者らは、特許文献1に記載の製造方法を、硬化反応プロセスが不要で、熱硬化性樹脂よりも安価な熱可塑性樹脂を主成分とするシームレスベルトの製造に適用することについて検討した。その結果、次のような課題を見出すに至った。すなわち、特許文献1に記載の製造方法では、樹脂溶液を筒状金型の底面に流下させて樹脂溶液の層を形成している。このとき、筒状金型の温度が熱可塑性樹脂の融点よりも低いと、熱可塑性樹脂を含む樹脂熔融体は、筒状金型の内壁に触れた時点で固化し始める。そのため、樹脂熔融体と筒状金型の底面との密着性が不十分となることがあった。そのため、筒状金型の底面に設けられた注入口より気体が注入されたとき、筒状金型の底面と樹脂熔融体の層との隙間から気体が入り込むことがある。この場合、樹脂熔融体の層の筒状金型の内壁への密着が妨げられ、筒状金型の内壁の表面粗さを樹脂熔融体の層の外面に確実に転写できなくなることがあった。そこで、本発明は、熱可塑性樹脂を主成分とする、高品位なシームレスベルトを低コストで製造することのできるシームレスベルトの製造方法および製造装置を提供することを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るシームレスベルトの製造方法の一態様は、筒状金型と、該筒状金型と同軸に配置され、該筒状金型の内壁に近接して該筒状金型に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備しているシームレスベルトの製造装置を用いてシームレスベルトを製造する方法であって、
(1)該環状ダイから該熔融体を放射状に押し出す第一の工程と、
(2)押し出された該熔融体の先端部を該筒状金型に設けられた密着手段に密着させ る第二の工程と
(3)該熔融体の先端部を該密着手段に密着させた状態で、該筒状金型と該環状ダイ とを軸方向に相対移動させて該筒状金型の内壁に該熔融体を塗布して該熔融体の 先端部から連続する筒状の層を形成する第三の工程と、
(4)該筒状の層と、該筒状金型と、該環状ダイとで仕切られる内部空間に気体 を充填し、該気体の圧力で該筒状の層を該筒状金型の内壁に密着させる第四の 工程と、
(5)該筒状の層を固化させる第五の工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係るシームレスベルトの製造装置の一態様は、
密着手段が設けられた筒状金型と、該筒状金型と同軸に配置され、該筒状金型の内壁に近接して該筒状金型に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表面性に優れた、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるシームレスベルトを低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】樹脂注入溝の断面図である。
【図3】多孔質体で構成される吸着パッドの断面図である。
【図4】スリットおよびマニホールドで構成される吸着パッドの断面図である。
【図5】樹脂注入溝に吸引手段を連結した場合の密着手段の断面図である。
【図6】各製造工程における製造装置の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の製造装置100は、図1に示すように、筒状金型4と、環状ダイ2とを有している。
【0010】
筒状金型4の上端部には注入口8が設けられている。注入口8は、不図示の気体注入手段に連結されており、気体が注入口8を通じて筒状金型4の内部に注入可能となっている。筒状金型4の下端部はステージ6に支持されている。ステージ6は、鉛直方向に延びるガイド5に支持されている。ステージ6はガイド5に沿って移動し、それによって、筒状金型4は昇降可能である。
【0011】
筒状金型4はその壁面の一部に密着手段である樹脂注入溝9を有する。樹脂注入溝9の一形態を図2(a)に示す。図2(a)に示す樹脂注入溝9は、筒状金型4の内壁から径方向に延びている。なお、図2(b)に示すように、樹脂注入溝9は、先端が環状ダイ2側に突出した構造であってもよい。また、樹脂注入溝9には、気体を逃すための通気孔9aが設けられていてもよい。すなわち、樹脂注入溝9は、筒状金型4の内壁から外壁まで貫通していてもよい。さらに、樹脂注入溝9の温度制御手段を備えていることが好ましい。
【0012】
筒状金型4の内部には、環状ダイ2が断熱ベース7に支持された状態で配置されている。環状ダイ2は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体30を周方向に連続して放射方向に吐出可能な環状の吐出口2cを有する。環状ダイ2は、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットの投入口2aが設けられている。また、投入口2aから投入されたペレットは、環状ダイ2内の環状の流路2b内にて熔融され、吐出口2cから放射方向に吐出される。環状ダイ2の流路2bには、環状ダイ2の流路2bに嵌合する環状の押圧面3aを備えたピストン3が嵌合されている。ピストン3は、環状ダイ2の流路2b内の熔融体を吐出口2cから放射方向に押し出されるように加圧する。環状ダイ2の流路2bに分岐点および合流点がなく、ピストン3が環状の押圧面3aを具備しているので、流路2bの各々における圧力および流速分布が均一になる。これにより、吐出口2cから熔融体が筒状金型4の内壁の全周に均一に吐出されるので、筒状の層を形成する際に流れの不連続により発生する線、いわゆるウェルドラインの発生を避けることが可能となる。したがって、強度と厚みが均一なシームレスベルトの製造が可能になる。なお、熔融体の吐出方向は、水平方向であることが望ましいが、仰角方向または俯角方向であってもよい。
【0013】
次に、本実施形態に係るシームレスベルトの製造方法について説明する。本実施形態に係るシームレスベルトの製造方法は、筒状金型4と、環状ダイ2と、を具備している製造装置100を用いる。環状ダイ2は、筒状金型4と同軸に配置され、筒状金型4の内壁に近接しており、筒状金型4に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体30を放射方向に吐出可能である。そして、本実施形態に係るシームレスベルトの製造方法は、下記(1)〜(5)の工程を有するものである。
【0014】
工程(1)は、環状ダイ2から熔融体30を筒状金型4の内壁に放射状に押出す工程である。
【0015】
工程(2)は、筒状金型4の内壁に押出された熔融体30の先端部を樹脂注入溝9に注入し、熔融体30の先端部を樹脂注入溝9に密着させる工程である。
【0016】
工程(3)は、熔融体30の先端部を樹脂注入溝9に密着させた状態で、筒状金型4と環状ダイ2とを軸方向に相対移動させて筒状金型4の内壁に熔融体30を塗布して熔融体30の先端部から連続する筒状の層1を形成する工程である。
【0017】
工程(4)は、筒状の層1と、筒状金型4と、環状ダイ2とで仕切られる内部空間50に気体を充填し、気体の圧力で筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させる工程である。
【0018】
工程(5)は、筒状の層1を固化させる工程である。
【0019】
図6(a)〜(c)は工程(1)〜工程(5)の各工程における製造装置100の状態を示す断面図である。
【0020】
工程(1)では、筒状金型4の内壁に、環状ダイ2から熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体30が吐出される。筒状金型4は、図6(a)に示すように、環状ダイ2の吐出口2cと樹脂注入溝9とが同等の高さになる位置に配置されている。また、ピストン3は、熱可塑性樹脂組成物のペレットを投入する空間を確保できる高さまで押し上げられている。工程(1)では、まず、環状ダイ2の投入口2aより常温のペレット(樹脂材料)を投入する。投入されたペレットは、環状ダイ2の流路2bで熔融され、熔融体30となる。次に、ピストン3を押し下げることにより、熔融体30が吐出口2cより筒状金型4の内壁に向かって連続して放射状に吐出される。なお、環状ダイ2で樹脂組成物を熔融する構成以外に樹脂組成物の熔融体を環状ダイ2に投入する構成であってもよい。
【0021】
次に、工程(2)においては、環状ダイ2から吐出された溶融体30の先端部が樹脂注入溝9に注入される。(図6(b)参照)。
【0022】
次に、工程(3)では、樹脂注入溝9で熔融体30の先端部を密着した状態を維持する。その状態からさらに、ピストン3を所望の速度で押し下げて環状ダイ2から熔融体30を周半径方向に連続して放射状に吐出させつつ、筒状金型4を上昇させる。これによって、熔融体30を筒状金型4の内壁に塗布していく。これにより、筒状の層1が筒状金型4の内壁に形成される(図6(c)参照)。
【0023】
また、工程(3)では、ピストン3を押し下げる速度は、吐出口2cからの熔融体30の流出速度に対応しており、この流出速度と筒状金型4の上昇速度を制御することによって、筒状の層1の厚みを制御することができる。さらに、工程(3)では、筒状の層1を形成する際、筒状金型4を固定して、環状ダイ2を下降させてもよい。または、筒状金型4を上昇させるとともに、環状ダイ2を下降させてもよい。すなわち、工程(3)では、環状ダイ2を筒状金型4に対して軸方向に相対移動させることによって、筒状の層1を筒状金型4の内壁に形成すればよい。
【0024】
次に、工程(4)において筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させる。具体的には、上記の工程(3)に引き続いて、または工程(3)と並行して、不図示の気体注入手段から注入口8を通じて筒状金型4の内部に気体を注入させる(図6(c)参照)。この時、筒状金型4の内部空間では、熔融体30の先端部は樹脂注入溝9に注入されているため、気体の連通が遮断され、筒状金型4と筒状の層1と環状ダイ2とで仕切られる内部空間50が加圧される。その結果、筒状の層1は、筒状金型4の内壁に密着させられることとなる。筒状の層1が筒状金型4の内壁に密着することで筒状の層1は筒状金型4に熱を奪われ、冷却される。また、このとき、筒状金型4の温度を樹脂組成物の融点以下に調整することで、筒状の層1は固化し始める。一般的に、熱可塑性樹脂を含む熔融体が固化する際は収縮が起こるため、筒状の層1は筒状金型内壁から剥がれやすくなる。しかし、本実施形態では、工程(2)において筒状金型4の内部空間が密封され、工程(3)において筒状の層1は熔融体30の先端部から連続している。さらに、工程(4)において上述した内部空間50のみが加圧される。そのため、工程(4)では、筒状金型4の内壁と筒状の層1との隙間に気体が入り込まない。よって、注入口8から注入された気体で内部空間50を加圧することによって、筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させたまま固化させることが可能となる。その結果、筒状金型4の内壁の表面が、筒状の層1の外面に確実に転写される。さらに、筒状金型4の内壁に形成されることとなる、筒状の層1の固化物の外径精度を筒状金型4の内径と同じレベルに安定させることが可能となる。
【0025】
なお、注入口8から注入される気体は、空気あるいは窒素ガスに代表される不活性ガスが望ましい。
【0026】
次に、工程(5)において、筒状の層1を固化させる(図6(c)参照)。この時、筒状金型4の温度は、不図示の温度センサ及びその検出結果に基づいて制御可能な不図示のヒータおよび冷却器によって樹脂組成物のガラス転移点以上、樹脂組成物の融点以下の温度範囲に調整することが好ましい。これは、筒状金型4の温度がガラス転移点以上、融点以下であることで、筒状の層1は筒状金型4の内壁に近接して徐々に冷却されるため結晶化度が高くなり強度を高めることができるためである。
【0027】
また、筒状金型4を積極的に樹脂組成物のガラス転移温度以上、融点以下に温度制御せず、一般的な室温(25℃)程度の状態で行なうことも可能である。この場合、筒状の層1は、筒状金型4に付着して直ぐに固化し始める。筒状金型4が常温であったことで筒状の層1が急速に冷却され、結晶化が進行することなく固化するため、柔軟性が高く、屈曲疲労強度の高いシームレスベルトを得られる。次に、筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる筒状体を内壁から取り出す。具体的には、筒状の層1が十分に固化した後、注入口8からの気体の注入を停止する。次に、筒状体端部の吸着を停止し、不図示の取り出し手段を用いて筒状体を筒状金型4から取り出す。その後、筒状体からシームレスベルトを切り出す。
【0028】
上述した製造工程により得られたシームレスベルトの表面形状には、筒状金型4の内壁の表面が正確に転写されるため、表面形状が均一でムラが少ないシームレスベルトを低コストで製造できる。
【0029】
なお、本発明では、工程(2)で用いる密着手段が樹脂注入溝9に限定されない。例えば、図3に示すような多孔質体11を密着手段とする構成であってもよいし、図4に示すようなマニホールド12とスリット13とを有する吸着パッド10を密着手段とする構成であってもよい。
【0030】
さらに、樹脂注入溝9、多孔質体11、および吸着パッド10の各々が、筒状金型4の外部に配置された吸引手段14(図3、図5参照)に連結され、計測手段15(図3、図5参照)で吸引圧力を計測する構成であってもよい。吸着パッド10を用いる場合、工程(2)においては、吐出された溶融体30の先端部を吸引手段14により吸着パッド10に吸着する。これにより、筒状金型内から吸着パッド10を通じて筒状金型外までの気体の連通を遮断する。密着の際には、図3に示すような計測手段15で吸引圧力を計測し、演算手段16で計測手段15の計測値を予め定められた設定値と比較演算することで、密着状態を検出する。これにより、筒状金型4の内部から吸着パッド10を通じて筒状金型外までの気体の連通が確実に遮断される。なお、密着状態の検出は、計測手段15が、吸引手段14の吸引流量を計測することで行ってもよい。このようにして、密着状態を検出した結果に基づいて筒状金型4の移動(上昇)を開始する時間を決定することで、筒状の層1の先端部の余分な樹脂量を抑え、材料のムダを低減することができる。
【0031】
(実施例1)
図1に示した構成を有するシームレスベルトの製造装置を用い、第一の工程ないし第五の工程に沿って電子写真用シームレスベルトを製造した。
【0032】
前準備としてポリエーテルエーテルケトン(商品名:VICTREX PEEK;ビクトレックス(Victrex)社製)にアセチレンブラック(電気化学工業社製)を混合し、2軸成形機にて均一に混練して、樹脂ペレットを製造した。この樹脂ペレットの体積抵抗率は1×1010〜5×1010Ωcmである。この樹脂組成物のガラス転移点は約150℃、融点は約340℃であった。
【0033】
筒状金型4は、内径が290mm、軸方向の長さが670mmである。また、内壁の表面には、シームレスベルトの表面が、所定の表面粗さ[十点平均粗さ(Rzjis、JIS K0601−2001)=0.4μm]を有するように、当該表面粗さに対応した表面粗さを有するように表面処理した。また、筒状金型4の温度は、不図示の温調手段により200℃に制御してある。環状ダイ2のサイズは、最外径282mm、流路2bの幅10mm、吐出口2cの幅(スリット幅)1mmである。環状ダイ2の上方に貫通した穴(不図示)と投入口2aとが、ピストン3が上昇端に達した際に開通するようにしてある。また、環状ダイ2は、不図示の温調手段により380℃に制御されている。
【0034】
まず、図6(a)に示すように、ピストン3を上昇端まで上昇させ流路2bに空間を確保する。そして、環状ダイ2の投入口2aより流路2bに常温のペレットを適量投入してペレットを熔融させることで、熔融体30が生成される。つぎに、吸着パッド10が環状ダイ2の吐出口2cと同等の高さになるように筒状金型4が配置される。
【0035】
次いで、図6(b)に示すように、ピストン3を押し下げることにより、熔融体30が吐出口2cより筒状金型4の内壁に向かって連続して放射状に吐出される(第一の工程)。その後、吐出された溶融体30を、吸引手段14で、吸着パッド10におけるマニホールド12およびスリット13に密着させる(第二の工程)。この時、計測手段15で吸引圧力を計測することで密着状態を検出し、筒状金型4の内部での気体の連通が確実に遮断されたことを検知した。
【0036】
次いで、図6(c)に示すように、熔融体30を吸着パッド10に密着させた状態で、ピストン3を0.2mm/秒で下降させつつ、筒状金型4を、密着状態を検出した結果に基づき、15mm/秒で上昇させた(第三の工程)。それと同時に注入口8から内部空間50に、窒素ガスを注入した(第四の工程)。これにより筒状金型4の内壁に熔融体30の層を形成し、且つ、該層を筒状金型4の内壁に密着させた。このとき、筒状金型4は樹脂組成物の融点以下である200℃に温調されていたため、該層は筒状金型4の内壁に形成された際に徐々に熱を奪われ、固化して筒状の層1となった(第五の工程)。
【0037】
長さが400mmほどの筒状の層1を形成した後、ピストン3の下降を停止し、筒状の層1を形成した筒状金型4をさらに上昇させて吐出口2cから連続していた筒所の層1を切断した。次いで、圧縮空気の注入を止め、吸着パッド10に注入された熔融体30の先端部を切断し、筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる筒状体を取り出した。最後に、取り出した筒状対の両端を切断し、シームレスベルトを得た。
【0038】
上述した手順にて得られたシームレスベルトは、2本の平行ローラで張架しても歪みが見られず、肉厚100μmの安定した形状をしていた。また、流路に分岐および合流点がないことでウェルドラインの発生がなく、ベルト内の全面において均一な強度を示した。体積抵抗率としても面内の斑がなく成形できた。更に、筒状金型4をガラス転移点以上、融点以下に温度制御していたことで、結晶化度20%以上のシームレスベルトが得られ、引張り強度が高く、表面硬度の高いシームレスベルトが得られた。
【符号の説明】
【0039】
1 筒状の層
2 環状ダイ
4 筒状金型
30 熔融体
50 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状金型と、該筒状金型と同軸に配置され、該筒状金型の内壁に近接して該筒状金型に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備しているシームレスベルトの製造装置を用いてシームレスベルトを製造する方法であって、
(1)該環状ダイから該熔融体を放射状に押し出す第一の工程と、
(2)押し出された該熔融体の先端部を該筒状金型に設けられた密着手段に密着させる第二の工程と、
(3)該熔融体の先端部を該密着手段に密着させた状態で、該筒状金型と該環状ダイとを軸方向に相対移動させて該筒状金型の内壁に該熔融体を塗布して該熔融体の先端部から連続する筒状の層を形成する第三の工程と、
(4)該筒状の層と、該筒状金型と、該環状ダイとで仕切られる内部空間に気体を充填し、該気体の圧力で該筒状の層を該筒状金型の内壁に密着させる第四の工程と、
(5)該筒状の層を固化させる第五の工程と、を有することを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項2】
該密着手段が該筒状金型の内壁から径方向に延びる樹脂注入溝であり、前記第二の工程において、該熔融体の先端部を該樹脂注入溝に注入して該筒状金型に密着させることを特徴とする、請求項1に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項3】
該密着手段が該筒状金型の内壁から外壁まで貫通しており、前記第二の工程において、該筒状金型の外部に配置された吸引手段を用いて該密着手段から該熔融体の先端部を吸引して該筒状金型に密着させることを特徴とする、請求項1に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項4】
該密着手段が該筒状金型の内壁から径方向に延びて外壁まで貫通する樹脂注入溝であり、前記第二の工程において、該熔融体の先端部を該樹脂注入溝に注入かつ、該筒状金型の外部に配置された吸引手段を用いて該樹脂注入溝から吸引することによって該熔融体の先端部を該筒状金型に密着させることを特徴とする、請求項1に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項5】
前記第二の工程において、密着状態を検出し、該密着状態の計測値を予め定められた設定値と比較演算し、前記第三の工程における該相対移動を開始する時間を、該比較演算の結果より決定することを特徴とする、請求項3または請求項4に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項6】
密着手段が設けられた筒状金型と、該筒状金型と同軸に配置され、該筒状金型の内壁に近接して該筒状金型に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備していることを特徴とするシームレスベルトの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−51340(P2012−51340A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197808(P2010−197808)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】