説明

シールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法

【課題】良好な寸法精度を備え、貫通油量を制御することができるシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法を提供する。
【解決手段】シールリング付シェル型ニードル軸受30は、内周面に軌道面31aを、両端部に内向きフランジ部31b,31cを、それぞれ有するシェル31と、円周方向に亙って複数のポケット32aを有し、削り出しによって加工される保持器32と、軌道面31aに沿って転動自在となるように、各ポケット32a内に保持される複数のニードル33と、シェル31の内側で、保持器32の端面32bと内向きフランジ部31bとの間に設けられる円筒形状のシールリング34と、を備える。シールリング34はフローティングシールを構成し、プレス加工によって成形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オートマチックトランスミッションには、すべり軸受(ブッシュ)が多数使用されているが、ブッシュの焼き付き対策や低トルク化のため、シェル型ニードル軸受が代用されつつある。
【0003】
シェル型ニードル軸受としては、軸受断面高さを1.5〜2.5mmとした薄肉化を図ったものや、ブッシュと同レベルの潤滑剤の貫通油量とするようシールリングを備えたものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
具体的に、図21に示すシェル型ニードル軸受100は、シェル(鍔付外輪)101と保持器102と複数のニードル103とを備え、1.5mm程度の軸受断面高さ、及び17〜33mmの軸径を有する。また、図22に示すシェル型ニードル軸受110は、シェル111と保持器112と複数のニードル113に加えて、2mm程度の断面高さを有して貫通油量を制御するシールリング114を備え、3〜3.5mmの軸受断面高さ、及び13〜43mmの軸径を有する。
【0005】
図22に示すシェル型ニードル軸受110のシールリング114は、削り加工が行われており、また、相手部材との接触等による摩耗を防止するため削り加工後熱処理が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−294418号公報
【特許文献2】特開2000−291669号公報
【特許文献3】実公平6−23776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図21に記載のシェル型ニードル軸受100では、貫通油量を制御することが求められる一方、図22に記載のシェル型ニードル軸受110では、シールリング114が削り加工されているため、シールリングの内径真円度や内径寸法公差等の必要精度が出せないという課題がある。
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、良好な寸法精度を備え、貫通油量を制御することができるシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 内周面或は外周面に軌道面を、両端部にフランジ部を、それぞれ有するシェルと、
円周方向に亙って複数のポケットを有する保持器と、
前記軌道面に沿って転動自在となるように、前記各ポケット内に保持される複数のニードルと、
前記シェルの内側或は外側で、前記保持器の端面と前記フランジ部との間に設けられる円筒形状のシールリングと、
を備えるシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法であって、
前記シールリングはフローティングシールを構成し、
前記シールリングの成形ステップが、
金属板を打ち抜く事により円輪状の第一予備中間素材とする第一工程と、
この第一予備中間素材の内径寄り部分を軸方向に直角に折り曲げるバーリング加工を施す事により、円筒状部及びこの円筒状部の軸方向一端部から径方向外方に折れ曲がった外向鍔部を備えた、断面L字形で全体が円環状の第二予備中間素材とする第二工程と、
この第二中間素材の外向鍔部を除去して円筒状の第一中間円筒状素材とする第三工程と、
冷間ローリング加工によりこの第一中間円筒状素材の内外径及び断面形状を整えて、必要とする形状精度及び寸法精度を有する高精度リングとする第四工程とを備えたことを特徴とするシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。
【0010】
(2) 前記シールリングは、前記成形ステップ後、熱処理が行われないことを特徴とする(1)に記載のシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。
【0011】
(3) 前記シールリングは、前記成形ステップ後、耐摩耗処理されることを特徴とする(1)に記載のシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。
【0012】
(4) 前記保持器は、樹脂製保持器であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法は、シールリングを上記(1)の成形ステップによって成形することで、シールリングには良好な寸法精度が得られ、相手部材との接触による摩耗を防止することができる。また、シールリングを有するので、貫通油量を制御することができる。また、シールリングはフローティングシールであるので、接触式シールに比べて低トルク化が図られる。
【0014】
また、シールリングは、プレス加工によって成形後、熱処理が行われないので、低コスト化も図ることができる。
【0015】
更に、シールリングは、プレス加工によって成形された後、耐摩耗処理されるので、シェルの端部に設けられたフランジ部との摺接によるシールリングの摩耗を防止することができる。また、耐摩耗処理として低温で処理される窒化処理を行えば、耐摩耗処理に伴うシールリングの変形を防止しつつ耐摩耗性を向上させることができ、薄肉のシールリングを高精度で製作することができる。
【0016】
また、保持器を樹脂製保持器とすることで、金属製保持器ではポケット成形、特にニードルを保持するための爪の加工が困難な、薄肉の保持器を容易且つ安価に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係るシールリング付シェル型ニードル軸受の断面図である。
【図2】シールリングの第1例の加工工程を示す断面図であり、(A)は素材金属板を、(B)は内径抜きを、(C)はバーリングを、(D)は圧縮成形を、(E)は円筒状部カットを、(F)は内径しごきを、(G)は余肉カットを、(H)は再しごきを示す。
【図3】シールリングの第2例の加工工程を示す断面図であり、(A)はコイル母材を、(B)は内径抜きを、(C)はバーリングを、(D)は圧縮成形を、(E)は円筒状部カットを、(F)は内径しごきを、(G)は余肉カットを示す。
【図4】第2例で、切り離し工程とそれに続く嵌め戻し工程とに使用するプレス装置の断面図である。
【図5】切り離し工程とそれに続く嵌め戻し工程とを加工の進行順に示す断面図であり、(A)は加工前状態図で、(B)は加工中状態図で、(C)はリングがコイル母材の元の状態に戻される状態図である。
【図6】第2例で、扱き工程とそれに続く嵌め戻し工程とに使用するプレス装置の断面図である。
【図7】扱き工程とそれに続く嵌め戻し工程とを加工の進行順に示す断面図であり、(A)は加工前状態図で、(B)は加工中状態図で、(C)はリングがコイル母材の元の状態に戻される状態図である。
【図8】シールリングの第3例の加工工程を示す断面図であり、(A)はコイル母材を、(B)は内径抜きを、(C)はバーリングを、(D)は圧縮成形を、(E)は円筒状部カットを、(F)は内径しごきを、(G)は余肉カットを示す。
【図9】シールリングの第4例の加工工程を示す断面図であり、(A)はコイル母材を、(B)は内径抜きを、(C)はバーリングを、(D)は圧縮成形を、(E)は円筒状部カットを、(F)は内径しごきを、(G)は余肉カットを示す。
【図10】シールリングの第5例の加工工程を示す断面図であり、(A)は素材金属板を、(B)は内径抜きを、(C)はバーリングを、(D)は円筒状部カットを、(E)は冷間ローリングを示す。
【図11】冷間ローリング加工の実施状況を示す側面図である。
【図12】図11のXII-XII断面図である。
【図13】(A)は冷間ローリング加工の開始前の状態を、(B)は加工後の状態をそれぞれ示す、図12のXIII部拡大図である。
【図14】シールリングの第6例の加工工程を示す断面図であり、(A)は素材金属板を、(B)は内径抜きを、(C)はバーリングを、(D)は隅R部形成を、(E)は円筒状部カットを、(F)は冷間ローリングを示す。る。
【図15】図14の(D)のXV部拡大図である。
【図16】(A)は冷間ローリング加工の開始前の状態を、(B)は加工後の状態をそれぞれ示す、図13と同様の拡大図である。
【図17】シェル型ニードル軸受とブッシュの動トルクの測定結果を示すグラフである。
【図18】シェル型ニードル軸受とブッシュの貫通油量の測定結果を示すグラフである。
【図19】成形条件及びアニール処理の有無による保持器の外径真円度を比較して示すグラフである。
【図20】耐摩耗性処理によるシールリングのそり量を示すグラフである。
【図21】従来のシェル型ニードル軸受を示す断面図である。
【図22】削り加工されたシールリングを有する他の従来のシェル型ニードル軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係るシールリング付シェル型ニードル軸受について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
シールリング付シェル型ニードル軸受30は、オートマチックトランスミッション内のギアトレイン間、ギア軸とハウジングとの間、或は、オイルポンプギアの側方等に配置される。このシェル型ニードル軸受30は、図1に示すように、シェル(鍔付外輪)31と、保持器32と、複数のニードル33と、円筒形状のシールリング34と、を備え、図示しない軸(或は内輪部材)を回転自在に支持している。
【0020】
シェル31は、内周面に軌道面31aを、両端部に内向きフランジ部31b,31cを、それぞれ有する。また、保持器32は、円周方向に亙って複数のポケット32aを有する。
【0021】
ここで、保持器32が金属製である場合、SPCC、S10C、AISI−1010、SCM415、SK5、SUJ2等の鋼製であり、溶接保持器かプレス保持器、或は削り出しによって加工される。また、保持器32は、従来のような浸炭窒化や塩浴軟窒化処理(タフトライド)の熱処理が施されてもよいが、40mm以上の軸径のニードル軸受に適用される板厚の薄い保持器の場合、保持器32の熱処理変形によりニードル33が軌道面31aと保持器32の外径面との間に潜り込む可能性がある。このため、このような熱処理変形を抑えるため、保持器32は、タフトライドSQ(single quench)処理、NV窒化処理等が採用されている。
【0022】
保持器32が樹脂製である場合、ポリアミド46、ポリアミド66、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等が適応可能である。ポリアミド46は、150℃環境下で連続的に使用可能で、且つ、瞬間的には170℃くらいまで使用可能である。ポリアミド66は、120℃くらいまで使用可能であり、PPSは、200℃まで使用可能である。また、各樹脂材料には、強度向上のためにグラスファイバーが20〜30%混入されている。
【0023】
シェル型ニードル軸受30の軸受断面高さが1.5〜2.5mm程度の場合、保持器の厚さも1mm以下の薄肉となる。このような薄肉の保持器を樹脂によって成形することで、ポケットやニードルを保持するための爪を、金属製保持器に比べて容易に形成できる。
【0024】
また、例えば、内径45mmの樹脂製保持器32では、真円度が求められる。このような高精度の樹脂製保持器を製作するため、保持器を射出成型した後、アニール処理することが有効である。
【0025】
ニードル33は、シェル31の軌道面31aに沿って転動自在となるように、保持器32の各ポケット32a内に転動自在に保持され、また、その両端部にはクラウニング加工が施されている。
【0026】
シールリング34は、SPCCやSPCE、SUJ2等の鋼製であり、シェル31の内側で、潤滑油の流れの下流側となる保持器32の端面32bと内向きフランジ部31bとの間に設けられ、このニードル軸受30を貫通する潤滑油の量を規制する。尚、シールリング34は、必要に応じて銅又は銅系合金、アルミニウム又はアルミニウム系合金などの非鉄金属を使用することもできる。また、シールリング34は、本実施形態のような以下の加工方法を用いる場合にはSPCCやSPCEが好ましい。さらに、シールリング34は、軸の外径よりも僅かに大きく、シェル31の内径よりも僅かに小さな外径を有するフローティングシールである。
【0027】
シェル型ニードル軸受30は、1.0〜3.5mm、好ましくは、1.5〜2.5mm、より好ましくは、1.5〜2.0mmの軸受断面高さと、100mm以下の軸径とを有した薄肉化された構成で、シェル31内に配置されるシールリング34も、0.8〜1.8mmの断面高さを有する。このような寸法及び形状を有するシールリング34は、プレス加工(本実施形態では、後述する寸法規制工程、抜き工程、再抜き工程)、或いは冷間ローリング加工が施されて成形され、加工硬化により表面硬さが向上することから、後工程で熱処理(焼入れ、焼戻し処理)を行わずに製作することができ、熱処理による変形を生じない良好な寸法精度を持ったものとなる。また、シェル型ニードル軸受30が使用される条件など、必要に応じて窒化処理などの耐摩耗処理を行うようにしてもよい。
【0028】
具体的に、シールリング34は、例えば、以下の加工方法によって形成される。
【0029】
[第1例の加工方法]
この加工方法の場合には、先ず、図2の(A)に示す様な、素材となる、軟鋼板、ステンレス鋼板等の金属板1にピアス加工を施して、図2の(B)に示す様な、円孔2を有する第一予備中間素材3を得る。次いで、この第一予備中間素材3に、この円孔2の周囲を上記金属板1に対し直角に、全周に亙って折り曲げるバーリング加工を施す事により、図2の(C)に示す様な、円筒状部4を有する第二予備中間素材5とする。この円筒状部4の容積、特に軸方向長さは、造るべきシールリングの容積、特に軸方向長さよりも大きくしている。
【0030】
上記第二予備中間素材5の円筒状部4には、続く寸法規制工程で塑性加工を施して、この円筒状部4を、図2の(D)に示した、第一中間円筒状素材6とする。上記寸法規制工程では、所定の内径を有する円筒状の内周面を有する、図示しない金型により上記円筒状部4の外周面を拘束すると共に、この円筒状部4の内周面を拘束しない状態で、互いに同心に配置されて軸方向に遠近動する1対の平坦面同士の間(例えば、上記金型の端部内周面に形成した受段部と、この金型に内嵌した押型の先端面との間)で、上記円筒状部4を軸方向に、所望寸法、即ち、得るべきシールリングの軸方向寸法にまで押圧(塑性変形しつつ軸方向に圧縮)する。この様にして行なう、軸方向に圧縮される塑性変形に伴って、上記円筒状部4の外径及び軸方向寸法が所定値に規制されると共に、余肉が径方向内方に膨出して、上記第一中間円筒状素材6となる。この第一中間円筒状素材6の内径寸法は、得るべきシールリングの内径寸法よりも小さい。
【0031】
図2に示した実施の形態の場合には、図2の(E)に示す様に、上記第一中間円筒状素材6を形成した後に切り離し工程を行なって、この第一中間円筒状素材6を上記金属板1から切り離す。この切り離し工程は、プレス機を使用した打ち抜き加工により行なう。
【0032】
この様にして、上記金属板1から切り離した、上記第一中間円筒状素材6には、続いて、内径寸法を適正値(得るべきシールリングの内径寸法)にまで拡げる、扱き加工を施す。この扱き加工を施す工程では、上記第一中間円筒状素材6の外周面を、外径が拡がらない様に拘束しつつ、この第一中間円筒状素材6の内径側に適切な(得るべきシールリングの内径寸法に一致する)外径寸法を有する扱きパンチを、軸方向一端側{図2の(F)の上側}から押し込む。この様な扱きパンチの押し込みにより、上記第一中間円筒状素材6の内周面部分に存在する余肉を軸方向他端側{図2の(F)の下側}に集めて、図2の(F)に示す様な、この軸方向他端部内周面に内向フランジ状の余肉鍔部7を有する、第二中間円筒状素材8とする。
【0033】
この第二中間円筒状素材8は、次の余肉除去工程に送り、上記余肉鍔部7を除去する。この余肉除去工程では、この第二中間円筒状素材8の内側に適切な(得るべきシールリングの内径寸法に一致する)外径寸法を有する打ち抜きパンチを挿入する事により、上記余肉鍔部7を除去して、図2の(G)に示す様なシールリング34とする。
【0034】
尚、このシールリング34の加工作業は、上記図2の(G)の段階で終了する事もできるが、この図2の(G)の段階で、上記シールリング34の内周面の内径或いは性状を所望通りにする事が難しければ、図2の(H)に示す様に、上記シールリング34の内周面を扱き治具により擦る、再扱きを行なっても良い。
【0035】
何れにしても、得られたシールリング34は、このシールリング34に所定の加工を施す、本発明とは別の工程に送る。この様に別の工程に送られる、このシールリング34は、外径及び軸方向寸法と内径寸法とを、それぞれ適正値に規制されているので、軸方向端部を旋削等により削り取る必要がない。又、押し出し加工のような大きな加工力を必要とする加工を行なう必要がなく、上記シールリング34の製造コストを低く抑えられる。
【0036】
このような第1例の加工方法は、内径、外径、軸方向寸法を適正値に規制したシールリング34を、工業的に大量生産が可能で、しかも低コストで構成でき、且つ、運転経費が嵩む事もない加工装置により造れる。即ち、得られるシールリング34は、寸法規制工程で外径及び軸方向寸法を、扱き工程と余肉除去工程とにより内径寸法を、それぞれ適正値に規制されるので、軸方向端部を旋削等により削り取る事なく、これら各寸法を何れも適正値とした、高精度な円筒状のシールリング34を得られる。
【0037】
[第2例の加工方法]
図3〜7は、第2例の加工方法を示している。本例の場合、図3の(A)→(G)に示す工程を順次行なう事で、金属板1をシールリング34に加工する。この工程に就いては、第1例の加工方法の場合と実質的に同じである。又、本例の場合も、上述した図2の(H)に示した様な、再扱き工程を行なう事もできる。本例の特徴は、上記金属板1として、図示しないアンコイラから送り出されて、やはり図示しないリコイラに巻き取られる、長尺なものを使用し、上記図3の(A)→(G)に示す工程を、順送により行なえる様にした点にある。即ち、上記長尺な金属板1を、加工の進行に同期させて、各工程を行なう為に隣接して配置した加工装置同士の間隔に見合うピッチで(間隔/ピッチ=整数)間欠的に送りつつ、上記図3の(A)→(G)に示す工程を順次行なう様にしている。
【0038】
この為に本例の場合には、上記図3の(A)→(G)に示す何れの工程でも、上記長尺な金属板1を、全幅に亙って切断する事なく、シールリング34の加工作業に進行に伴って順次送る。そして、アンコイラから引き出した上記長尺な金属板1に、図3の(E)に示した切り離し工程で、図3の(B)に示した円孔2よりも大きな第二の円孔10を形成した状態でも、この金属板1の幅方向両端部は互いに連結されたままとなる様に、この金属板1の幅寸法を確保する(「幅寸法>第二の円孔10の直径」とする)。そして、上記切り離し工程で上記第二の円孔10の内側から打ち抜いた、第一中間円筒状素材6(及び以下の工程で造られる第二中環円筒状素材8)を、所定の加工を施した後、再び上記第二の円孔10の内側に嵌め戻してから、上記金属板1の送りに伴って、次の工程を行なう加工装置に送り込む様にしている。上記図3の(A)→(G)に示す工程に就いては、上述した通り、前述の図2の(A)→(G)に示した工程と同じであるから、重複する説明は省略し、以下、上記図3の(A)→(G)に示す工程を順送により行なえる様にすべく、上記嵌め戻しを行なえる様にした点を中心に説明する。
【0039】
図3の(E)に示した切り離し工程及び嵌め戻し工程は、図4に示した加工装置により行なう。この図4に示した加工装置では、円筒状のダイス14の上面と、下方に向いた弾力を付与された状態で昇降する抑え型12の下面との間で上記金属板1を抑えつつ、パン
チ13により上記第一中間円筒状素材6を、上記ダイス14内に押し込み、この第一中間円筒状素材6を、上記金属板1から切り離す様に構成している。又、上記ダイス14の内径側に、上方に向いた弾力を付与された押し戻し型15を設けて、上記第一中間円筒状素材6に上方に向く弾力を付与できる様にしている。但し、上記押し戻し型15は、上面中央部に設けた衝合ブロック16と上記パンチ13の下端面との衝合に基づき、このパンチ13の下降時には、下方に退避する様にしている。
【0040】
上述の図4に示した様な加工装置を使用する、図3の(E)に示した切り離し工程及び嵌め戻し工程は、図5の(A)→(C)に示した順番に行なう。先ず、図5の(A)に示す様に、未だ上記金属板1に結合されたままの、上記第一中間円筒状素材6を、上記ダイス14の上端部に内嵌する。次いで、上記加工機を構成するラム17と共に、上記抑え型12及び上記パンチ13を下降させて、図5の(B)に示す様に、この抑え型12の下面と上記ダイス14の上面との間で上記金属板1を抑えつつ、上記パンチ13により、上記第一中間円筒状素材6を上記ダイス14内に押し込む。この結果、この第一中間円筒状素材6が上記金属板1から切り離されると同時に、上記金属板1に第二の円孔10が形成される。この切り離し後、上記ラム17と共に、上記抑え型12及び上記パンチ13を上昇させると、図5の(C)に示す様に、このパンチ13に押されて下降していた、上記押し戻し型15が上昇する。この結果、この押し戻し型15により、上記第一中間円筒状素材6が上記第二の円孔10内に押し込まれ、この第二の円孔10の内側に保持される。そこで、上記金属板1を移動させる事により、上記第一中間円筒状素材6を、図3の(F)に示した、次の扱き工程及び戻し工程に送る。
【0041】
この図3の(F)に示した扱き工程及び嵌め戻し工程は、図6に示した加工装置により行なう。この図6に示した加工装置では、上方に向いた弾力を付与された受型18の上面と、昇降する円筒状の扱きダイス20の下面との間で上記金属板1を抑えると共に、リングパンチ19により上記第一中間円筒状素材6を、上記扱きダイス20内に押し込む。上記リングパンチ19は、上記受型18の内径側に、この受型18とは独立した昇降を可能に、且つ、上方に向いた弾力を付与された状態で設けられている。又、上記リングパンチ19の内径側には、上記第一中間円筒状素材6の内周面を扱いて第二中間円筒状素材8とする為の、扱きパンチ21を固定している。上記リングパンチ19は、この扱きパンチ21の周囲に昇降可能に設置されているが、最大上昇量は、その内周面とこの扱きパンチ21の外周面との係合により制限されている。具体的には、上記最大上昇量は、図6及び図7の(A)に示した様に、上記受型18が最も上昇している状態で、上記リングパンチ19の上端縁がこの受型18の上面よりも少し下方に位置する状態としている。更に、上記ダイス20の内径側には、下方に向いた弾力を付与された、押し戻し型22を設置している。
【0042】
上述の図6に示した様な加工装置を使用する、図3の(F)に示した扱き工程及び嵌め
戻し工程は、図7の(A)→(C)に示した順番に行なう。先ず、図7の(A)に示す様に、前記第二の円孔10の内側に保持された状態の上記第一中間円筒状素材6を上記受型18の上端部内側に内嵌し、その下端面を上記リングパンチ19の上端縁に突き当てる。次いで、図7の(B)に示す様に、上記加工機を構成するラム23と共に、上記扱きダイス20と、上記押し戻し型22とを下降させて、この扱きダイス20の下面で上記金属板1を下方に押し下げ、上記第一中間円筒状素材6を上記第二の円孔10から上方に抜き出し、上記リングパンチ19により、上記扱きダイス20の内径側に送り込む。この様にして扱きダイス20の内径側に送り込まれた上記第一中間円筒状素材6の内径側には、上記ラム23と共にこの扱きダイス20が更に下降するのに伴って、上記扱きパンチ21が押し込まれる。この結果、上記第一中間円筒状素材6の内径が所定寸法に規制されると共に、余肉部が内周面上端部に集められて、内周面上端部に余肉鍔部7{図3(F)}を形成した、上記第二中間円筒状素材8とされる。この様にしてこの第二中間円筒状素材8を形成した後、上記ラム23と共に上記扱きダイス20を上昇させると、この扱きダイス20に押されて下降していた上記金属板1が、上記受型18と共に上昇すると同時に、上記押し戻し型22が上記扱きダイス20に対して下降する。この際にこの押し戻し型22は、上記第二中間円筒状素材8の上端部内周面に形成されたばかりの、前記余肉鍔部7{図3の(F)参照}を下方に押圧するので、上記第二中間円筒状素材8が上記第二の円孔10内に押し込まれ、この第二の円孔10の内側に保持される。
【0043】
そこで、上記金属板1を移動させる事により、上記第二中間円筒状素材8を、図3の(G)に示した、次の余肉除去工程及び戻し工程に送る。尚、この図3の(G)に示した余肉除去工程の後に、前述の図2の(H)に示した再扱き工程を行なうのであれば、この余肉除去工程により得られたシールリング34を金属板1の第二の円孔10内に押し込む戻し工程を行なう。これに対して、上記余肉除去工程により得られたシールリング34を、そのまま、本発明とは別の、このシールリング34に所定の加工を施す工程に送るのであれば、上記戻し工程を省略する{図3の(G)で金属板から分離したシールリング34を、そのまま取り出す}事もできる。
【0044】
上述の様に構成する本例の場合には、第1例により得られる作用・効果に加えて、工業的に大量生産が可能で、しかも運転経費が嵩む事もない連続加工装置によりに造れると言った、作用・効果を得られる。即ち、本例の場合には、上記金属板1として、アンコイラから送り出されてリコイラに巻き取られる長尺な金属板1を使用し、切り離し工程に伴ってこの金属板1から切り離されて所定の加工を施された第一、第二の円筒状中間素材6、8を再びこの金属板1の第二の円孔10の内側に押し込むので、これら各中間素材6、8を、この金属板1と共に、次の加工工程に送れる。即ち、トランスファ加工に比べて、設備投資が安く済み、しかも加工能率が良い(加工サイクルが短い)、順送加工を行なえる。この為、上記シールリング34の下降コストを、より一層低減できる。
【0045】
[第3例の加工方法]
図8は、第3例の加工方法を示している。本例の場合には、図8の(F)に示した扱き工程及び嵌め戻し工程で、第二円筒状中間素材8を金属板1の第二の円孔10から抜き出して再び嵌め込む方向が、この金属板1に対して、上述した第2例の加工方法の場合とは、上下逆になっている。この方向を逆にするのに伴って、図6〜7に示した加工装置の構成を異ならせる事は勿論である。その他の部分の構成に就いては、上述した第2例の加工方法と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0046】
[第4例の加工方法]
図9は、第4例の加工方法を示している。本例の場合には、図9の(C)に示したバーリング加工工程の次に、図9の(D)に示した、切り離し工程及び戻し工程を設定している。その他の部分の構成に就いては、上述した第2例の加工方法と同様であるから、重複する説明は省略する。要するに、本発明を実施する場合に、切り離し工程は、上記バーリング加工工程の後であれば、加工作業の容易さ、加工精度の確保等を考慮して、任意のタイミングに設定できる。
【0047】
上述した様に、本実施形態のシールリング付シェル型ニードル軸受30は、シールリング34をプレス加工によって成形することで、シールリング34には良好な寸法精度が得られ、相手部材との接触による摩耗を防止することができる。また、シールリング34を有することで、貫通油量を制御することができる。さらに、シールリング34はフローティングシールであるので、接触式シールに比べて低トルク化が図られる。なお、シールリング34を1.0〜2.5mmの軸受断面高さとすることで薄肉化が図られ、より好ましい。
【0048】
特に、シールリング34は、プレス加工によって成形後、熱処理が行われないので、低コスト化も図ることができる。
【0049】
[第5例の加工方法]
本例のシールリングの加工方法は、先ず、アンコイラから引き出した長尺な金属板を、プレス等により円形に打ち抜き加工する事により、図10の(A)に示す様な金属板1を形成する。
【0050】
次いで、第一工程として、プレス等による打ち抜き加工で、上記金属板1の中央部を打ち抜く事により、図10の(B)の上段に示した様な、円輪状の第一予備中間素材3とする。打ち抜きの結果生じた、この図10の(B)の下段に示した円板状スクラップ51は、廃棄するか、或いは、より小径のシールリングを造る為の素材として利用する。
【0051】
上記第一予備中間素材3には、第二工程として、この第一予備中間素材3の内径寄り部分を軸方向に直角に折り曲げるバーリング加工を施す。このバーリング加工は、従来から金属加工の分野で広く知られている様に、この第一予備中間素材3の外径寄り部分を1対の抑え型により軸方向両側から挟持した状態で、この第一予備中間素材3の内径寄り部分にパンチ型を押し込む事により行なう。この様にして行なうバーリング加工により、図10の(C)に示す様な、円筒状部4及びこの円筒状部4の軸方向一端部から径方向外方に折れ曲がった外向鍔部9を備えた、断面L字形で全体が円環状の第二予備中間素材5とする。本発明のシールリングの加工方法によれば、この第二予備中間素材5のうちの円筒状部4から高精度薄肉リングを造る。これに対して、上記外向鍔部9のうちでこの円筒状部4の外周面よりも径方向外方に存在する部分は、次述する第三工程で、円環状スクラップ52{図10の(D)の下段参照}として廃棄する。
【0052】
次いで、上記第二予備中間素材5には、続く第三工程で、プレス加工等による打ち抜き加工を施し、上記外向鍔部9を除去して、図10の(D)の上段部分に示した様な、円筒状の第一中間円筒状素材6とする。この第一中間円筒状素材6の外径は、造るべきシールリング34の外径と一致している。
【0053】
この様にして得られた第一中間円筒状素材6には、続く第四工程で、冷間ローリング加工を施す。そして、この冷間ローリング加工による塑性加工により、上記第一中間円筒状素材6の内外径及び断面形状を整えて、図10の(E)に示す様な、必要とする形状精度及び寸法精度を有するシールリング34とする。上記第一中間円筒状素材6をこのシールリング34に加工する冷間ローリング加工に就いて、図11〜13により詳しく説明する。
【0054】
上記第一中間円筒状素材6は、円環状のダイス40に内嵌支持する。このダイス40は、互いに同心の円筒面である内外両周面を有し、それぞれの外周面をこのダイス40の外周面に転がり接触させた、図示しない複数個の支持ローラにより、(径方向の変位を阻止した状態で)回転のみ自在に支持されている。又、上記ダイス40は、造るべきシールリング34(及び上記第一中間円筒状素材6)の外径に一致する内径を有する。上記第四工程時には、この第一中間円筒状素材6を上記ダイス40の内周面に保持する。そして、この状態で、押圧ローラ41により、上記第一中間円筒状素材6を上記ダイス40の内周面に向けて、図11の矢印の方向に押し付ける。
【0055】
上記押圧ローラ41の中間部外周面で上記第一中間円筒状素材6に整合する部分には凹
溝42が、全周に亙って形成されている。この凹溝42の断面形状は矩形で、軸方向に関する幅寸法は、上記造るべきシールリング34の幅寸法に一致している。又、上記押圧ローラ41の径方向に関する、上記凹溝42の深さは、上記造るべきシールリング34の厚
さ寸法以下としている。上記第一中間円筒状素材6を上記シールリング34に加工する際には、この様な押圧ローラ41を上記ダイス40の内周面に、自転させつつ押し付ける。そして、このダイス40の内周面と上記凹溝42の内面との間で、上記第一中間円筒状素材6の円周方向の一部を強く抑え付ける。
【0056】
上記押圧ローラ41の押し付けに伴って上記ダイス40は、この押圧ローラ41の自転方向と同方向に回転しつつ、この押圧ローラ41による押圧力を支承する。又、上記第一中間円筒状素材6も、上記ダイス40と共に回転する。従って、この第一中間円筒状素材6のうちで、このダイス40の内周面と上記凹溝42の内面との間で強く抑え付けられる部分は、円周方向に関して連続的に変化する。この結果、上記第一中間円筒状素材6の断面形状が、全周に亙って、図13の(A)→(B)に示す様に変化する。即ち、この第一中間円筒状素材6の断面形状が、上記ダイス40の内周面と上記凹溝42の内面とに合致する様に塑性変形して、上記シールリング34となる。即ち、上記ダイス40と上記押圧ローラ41とを使用して行なう上記第四工程時には、上記第一中間円筒状素材6の外径及び外周面の形状を変化させず、内径及び内周面の形状を変化させて、上記シールリング34に加工する。
【0057】
上述の様に構成する本例のシールリングの加工方法によれば、下記の第一〜第四工程を備える。
「第一工程」:金属板を打ち抜く事により円輪状の第一予備中間素材3とする。
「第二工程」:この第一予備中間素材3の内径寄り部分を軸方向に直角に折り曲げるバーリング加工を施す事により、円筒状部4及びこの円筒状部4の軸方向一端部から径方向外方に折れ曲がった外向鍔部9を備えた、断面L字形で全体が円環状の第二予備中間素材5とする。
「第三工程」:この第二予備中間素材5の外向鍔部9を除去して、円筒状の第一中間円筒状素材6とする。
「第四工程」:冷間ローリング加工によりこの第一中間円筒状素材6の内外径及び断面形状を整えて、必要とする形状精度及び寸法精度を有するシールリング34とする。尚、この形状精度には、断面形状に関する精度は勿論、真円度等、全体形状に関する精度も含む。
【0058】
これにより、薄肉で、しかも内外径の寸法及び断面形状の精度を十分に確保する必要がある、高精度薄肉リングである上記シールリング34を、低コストで造れる。即ち、本例の場合には、造るべきシールリング34の径方向厚さに応じて、金属板1となる金属板の厚さを選択すれば、薄肉のシールリング34でも厚さ寸法に関して必要な精度を確保しつつ、言い換えれば内外径の精度を十分に確保しつつ、形状精度に関しても良好な高精度薄肉リングを造れる。特に、上記第一中間円筒状素材6を上記シールリング34に加工する冷間ローリング加工を、上述の様なダイス40と押圧ローラ41とを利用して行なうので、優れた形状精度及び寸法精度を有するシールリング34を能率良く造れる。
【0059】
また、第四工程時に、第一中間円筒状素材6を円環状のダイス40の内周面に保持する。そして、この状態で、押圧ローラ41によりこの第一中間円筒状素材6の内周面をこのダイス40の内周面に向けて押し付ける。好ましくは、第三工程で、完成後のシールリング34の外径に一致する外径を有する第一中間円筒状素材6を形成する。その後、第四工程で、この第一中間円筒状素材6の外径を変化させず、内径及び内周面の形状を変化させる。これにより、優れた形状精度及び寸法精度を有するシールリング34を能率良く造れる。
【0060】
[第6例の加工方法]
図14〜16は、第6例の加工方法を示している。上述の第5例の場合、得られるシールリング34の断面形状の四隅部(内外両周面の軸方向両端縁)が尖っていた(当該部分の断面形状の曲率半径が極端に小さかった)。これに対して本例の場合には、断面形状の四隅部を凸円弧面とする(隅Rを形成する)事を意図している。内周縁の軸方向両端縁の隅Rに関しては、上述した第5例の加工方法でも、押圧ローラ41の外周面に形成した凹溝42の底面隅部に隅Rを設ければ(底面隅部の断面形状を凹円弧面とすれば)形成できる。これに対して、外周面の軸方向両端縁の隅Rをダイスの内周面の形状のみで造ると、完成後のシールリングを当該ダイスの内周面から取り出せなくなる。
【0061】
本例の加工方法は、この様な事情に鑑みて、内周面の軸方向両端縁だけでなく、外周面の軸方向両端縁にも隅Rを形成したシールリング34を、ダイス40aから取り出せる加工方法の実現を意図して考えたものである。尚、本例の製造方法を示す図14で、(A)〜(C)は、上述した第5例の加工方法を示す、図10の(A)〜(C)と同じである。又、図14の(E)は、一部に次述する隅R部11が形成されている点を除き、上記図10の(D)と同じである。本例の特徴は、図14の(D)に示した予備加工工程を設けると共に、(F)で行なう、冷間ローリング加工に使用するダイス40aの内周面形状を工夫した点にある。そこで、上述した第5例の加工方法と同様の部分に関する、重複する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、この第5例の加工方法と異なる部分を中心に説明する。
【0062】
上述の様な意図で考えた、第6例の加工方法の場合には、図14の(E)の上段に示した第一中間円筒状素材6の外周面一端縁部に、図15に示す様な隅R部11を形成する。この隅R部11を形成する工程は、上記第一中間円筒状素材6aを図16に示したダイス40aの内周面にセット(円環状のダイス40aに内嵌)する以前に行なえば良い。即ち、図14の(B)→(C)の間、同(C)→(E)の間、同(E)→(F)の間の何れで行なっても良い。本例の場合には、(C)に示した第二予備中間素材5を(E)に示した第一中間円筒状素材6に加工する以前に、図14の(D)で、円筒状部4の外周面先端縁部に、上記図15に示す様な隅R部11を形成する。この様な隅R部11の形成作業は、上記円筒状部4を円筒状の中子に外嵌した状態で、この円筒状部4の外周面先端縁部に、先端面に凹円弧面状の押圧面を全周に亙って形成した円環状の押型を押し付け、この外周面先端縁部を塑性変形させる事で行なう。
【0063】
この様にして行なう予備加工工程で、上記円筒状部4の外周面先端縁部に上記隅R部11を形成した、図14の(D)に示した第三予備中間素材5Aには、前述した第5例の場合と同様に、プレス加工等による打ち抜き加工を施す。そして、外向鍔部9を除去して、図14の(E)の上段部分に示した様な、円筒状の第一中間円筒状素材6とする。この第一中間円筒状素材6の内外両周面の軸方向両端縁部のうち、外周面の軸方向一端縁には、上記隅R部が設けられている。これに対して、外周面の軸方向他端縁及び内周面の軸方向両端縁は、尖ったままである。そこで、図14の(E)→(F)に示した第四工程で、上記第一中間円筒状素材6の内外径及び断面形状を整える際に、上記外周面の軸方向他端縁及び内周面の軸方向両端縁に隅R部を形成する。そして、断面形状の四隅部分に何れも隅R部を形成し、且つ、必要とする形状精度及び寸法精度を有する、前記シールリング34とする。
【0064】
この様なシールリング34を得る為に、上記第四工程に使用する円環状のダイス40aの内周面は、図16に示す様に、互いに同心の円筒面である大径部43と小径部44とを段差部45により連続させた、段付円筒面としている。又、この段差部45を、断面形状が四分の一円弧状の凹円弧面としている。又、押圧ローラ41aの外周面に形成した凹溝42aの底部軸方向両端隅部に関しても、断面形状が四分の一円弧状の凹円弧面としている。冷間ローリング加工装置に関するその他の部分の構成に就いては、前述した第5例の加工方法と同様である。
【0065】
本例の場合には、上記ダイス40aに上記第一中間円筒状素材6を、このダイス40aの内周面に設けた、上記凹円弧面である段差部45に、この第一中間円筒状素材6の外周面の軸方向他端縁(尖った縁)を対向させた状態で内嵌する。そして、前述した第5例と同様に、上記押圧ローラ41aにより、上記第一中間円筒状素材6を、上記ダイス40aの内周面に向けて押し付ける。この押し付けの結果、この第一中間円筒状素材6の断面形状が、全周に亙って、図16の(A)→(B)に示す様に変化する。即ち、この第一中間円筒状素材6の断面形状が、上記ダイス40aの内周面と上記凹溝42の内面とに合致する様に塑性変形して、上記シールリング34となる。この際、この凹溝42の底部軸方向両端隅部を構成する凹円弧面の形状が上記第一中間円筒状素材6の内周面両端縁部に、上記段差部45の形状がこの第一中間円筒状素材6の外周面の軸方向他端縁部に、それぞれ転写される。この第一中間円筒状素材6の外周面の軸方向一端縁部には、元々前記隅R部11が形成されているので、上記第四工程の結果得られる、上記シールリング34の内外両周面の軸方向両端縁部には、それぞれ断面形状が四分の一円弧状である隅R部が形成されている。
【0066】
上述の様に構成する本例のシールリングの加工方法によれば、内外両周面の軸方向両端縁部に、それぞれ断面形状が四分の一円弧状である隅R部(凸円弧形)が形成された、良質のシールリング34を、工業的手法により能率良く造れる。即ち、単に内外両周面の軸方向両端縁部に隅R部を形成するのであれば、前述した第5例の加工方法で造ったシールリング34に、旋削、研削等の機械加工を施す事でも造れる。但し、この様な機械加工により隅R部を形成する方法では、加工コストが嵩み、得られたシールリング、延てはこのシールリングを組み込んだ、自動車用変速機等の、各種機械装置のコストが嵩む事が避けられない。これに対して本例の加工方法によれば、上記第一工程の後、上記第四工程の前、即ち、この第一工程と上記第二工程との間、この第二工程と上記第三工程との間、或いは、この第三工程と上記第四工程との間のうちの何れかの間で、中間素材(第一予備中間素材3〜第一中間円筒状素材6のうちの何れか)に外周面両端縁のうちの少なくとも一方の端縁の断面形状を、例えば四分の一円弧状の凸円弧形にする予備成形を施すので、この端縁がシャープエッジではない、良質のシールリング34を能率良く造れる。
【0067】
[第7例の加工方法]
次に、シールリングに耐摩耗処理を行う第7例の加工方法について説明する。第1例〜第6例の加工方法によって加工されたシールリング34は、焼入れ、焼戻しなどの熱処理に伴う変形を避けるため、プレス成形後に熱処理などの処理が施されておらず、金属板を加工することによる加工硬化(第1〜4例の加工方法においてはプレス加工による加工硬化、第5、6例の加工方法においてはプレス加工に加え、更に冷間ローリング加工による加工硬化)が予期される。加工硬化であっても、シールリング34がフローティングシールを構成することから、通常使用においては問題となることはない。しかし、シェル型ニードル軸受30が過酷な条件で使用され場合、シールリング34に耐摩耗処理されることが望ましい。
【0068】
耐摩耗処理としては、薄肉のシールリング34を必要とする形状精度及び寸法精度に仕上げるため、耐摩耗処理による変形がない処理方法が望ましい。具体的には、低温での処理が可能な窒化処理が考えられる。窒化処理には、例えば、ガス窒化、塩浴窒化、イオン窒化などがあるが、比較的低温で処理可能なNv窒化プロセス(エア・ウォータ株式会社の商標)が好ましい。
【0069】
Nv窒化プロセスは、第1〜6例のいずれかの加工方法によって円筒形状に成形されたシールリング34に対して、まず例えば、NF3などのフッ素系ガスを用いてフッ化処理を施した後、ガス窒化処理を行ってシールリング34の表面に窒化層を形成する。フッ化処理によって、窒化を阻害する被処理材表面のCr酸化物などが除去され、被処理材表面を活性化するフッ化層が形成される。これにより、400℃程度の低温で窒化処理が行われても、比較的均一な窒化層が形成される。上記のようにフッ化処理及び窒化処理は、共に低温で処理されるので、シールリング34が変形することはなく、第1〜6例の加工方法によって加工された高い寸法精度及び形状が維持され、高精度のシールリング34を製作することができる。上記のように、シールリング34にNv窒化プロセスを施すことにより、表面硬さHv400以上、厚さ5〜20μmの窒化層を形成して、耐摩耗処理に伴うシールリング34の変形を防止しつつ、耐摩耗性を向上させることができる。
【0070】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0071】
本実施形態は、内周面に軌道面31a、両端部に内向きフランジ部31b,31cをそれぞれ有する外輪シェル31を使用しているが、外周面に軌道面、両端部に外向きフランジ部をそれぞれ有する内輪シェルを使用してもよく、この場合、シールリングはシェルの外側で、保持器の端面と外向きフランジ部との間に設けられる。
【実施例】
【0072】
次に、本発明のシールリング付シェル型ニードル軸受と従来のすべり軸受(ブッシュ)を用いて、動トルク及び貫通油量について比較試験を行った。動トルクの比較試験は、両軸受ともに軸受断面高さが1.5mmのものが使用され、試験荷重を500Nとして行った。また、貫通油量の比較試験は、ともに軸受断面高さが1.5mmで、シールリングと軸との隙間が上限である0.06mmのシェル型ニードル軸受と、隙間が上限である0.08mmのブッシュとを使用し、軸回転数を0〜3000rpm、潤滑油をJWS3309(Exxon Mobil社製)、油圧を30kPa、油温を約80℃として行われた。図17は、動トルクの測定結果を、図18は、貫通油量の測定結果をそれぞれ示す。
【0073】
図17に示すように、動トルクの比較試験では、シェル型ニードル軸受を用いることで低トルク化が図られることがわかる。特に、燃費効率の悪い低速域でトルク低減効果が大きいことが確認される。
【0074】
また、図18に示すように、貫通油量の比較試験では、隙間が0.06mmのシェル型ニードル軸受の貫通油量が、隙間が0.08mmのブッシュの貫通油量に比べて、最大で4mL程度高いのみであり、ブッシュと同程度に貫通流量の制限を行うことができる。
【0075】
次に、高温で使用可能で、かつ製造も容易であるポリアミド46にグラスファイバー25%混入した材料を用いて、内径45mmの樹脂製保持器を成形条件を変えながら射出成型し、各成形条件及びアニール処理の有無による外径真円度を比較した。図19は、その結果を示す。
【0076】
尚、試験は、条件の異なる4種類の樹脂製保持器を成形し、そのうち、1種類の成形品に対してアニール処理を行った。アニール処理は、樹脂製保持器の内径に、45.22mmのアニール軸を挿入し、170℃で3時間保持して処理した。真円度は、工具顕微鏡を用い、樹脂製保持器(アニール処理なし保持器は各10個、アニール処理有りの保持器は20個)のゲート側及びエジェクタ側の外径を、それぞれ8点測定して平均値を求めた。
【0077】
図19に示すように、アニール処理を行わなかった樹脂製保持器は、成形条件によって多少の差があるものの、いずれも公差(±0.1mm)から外れたものが見られる。一方、アニール処理を行った樹脂製保持器は、全て公差内に収まっており、アニール処理が真円度を向上させる上で有効であることが分かる。
【0078】
次に、タフトライド(塩浴窒化)、NV窒化、NV窒化(酸化膜無)の3つの耐摩耗処理を行った場合のそり変形について試験を行った。図20は、これらの処理でのそり量を示している。この結果、NV窒化、NV窒化(酸化膜無)、アルコアVG7のいずれの処理を行った場合も、すべての製品のそり量が規格範囲内であり、より好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0079】
30 シールリング付シェル型ニードル軸受
31 シェル
31a 軌道面
31b,31c 内向きフランジ部(フランジ部)
32 保持器
32a ポケット
32b 保持器の端面
33 ニードル
34 シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面或は外周面に軌道面を、両端部にフランジ部を、それぞれ有するシェルと、
円周方向に亙って複数のポケットを有する保持器と、
前記軌道面に沿って転動自在となるように、前記各ポケット内に保持される複数のニードルと、
前記シェルの内側或は外側で、前記保持器の端面と前記フランジ部との間に設けられる円筒形状のシールリングと、
を備えるシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法であって、
前記シールリングはフローティングシールを構成し、
前記シールリングの成形ステップが、
金属板を打ち抜く事により円輪状の第一予備中間素材とする第一工程と、
この第一予備中間素材の内径寄り部分を軸方向に直角に折り曲げるバーリング加工を施す事により、円筒状部及びこの円筒状部の軸方向一端部から径方向外方に折れ曲がった外向鍔部を備えた、断面L字形で全体が円環状の第二予備中間素材とする第二工程と、
この第二中間素材の外向鍔部を除去して円筒状の第一中間円筒状素材とする第三工程と、
冷間ローリング加工によりこの第一中間円筒状素材の内外径及び断面形状を整えて、必要とする形状精度及び寸法精度を有する高精度リングとする第四工程とを備えたことを特徴とするシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。
【請求項2】
前記シールリングは、前記成形ステップ後、熱処理が行われないことを特徴とする請求項1に記載のシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。
【請求項3】
前記シールリングは、前記成形ステップ後、耐摩耗処理されることを特徴とする請求項1に記載のシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。
【請求項4】
前記保持器は、樹脂製保持器であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシールリング付シェル型ニードル軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−81520(P2012−81520A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237358(P2011−237358)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2007−150086(P2007−150086)の分割
【原出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】