説明

シール構造及び過給機

【課題】シール構造29の部品点数を減らして、シール構造29の構成の簡略化及び車両用過給機1の組立作業の簡略化を図ること。
【解決手段】第1シールリング39のベアリング5側の端面及び第2シールリング41のベアリング5側の端面の摩耗の進行によって第1シールリング39のベアリング5側の端面がストッパ壁43に当接しかつ第2シールリング41のベアリング5側の端面が第1シールリング39のタービンインペラ19側の端面に当接したシールリング摩耗状況下において、第2シールリング41が仕切壁37よりもインペラ19側に突出した状態を保っていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用過給機等の過給機におけるインペラ側からベアリング側への排気ガス等のガスの流入を抑制するシール構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用過給機等の過給機は、ベアリングハウジングにベアリングを介して回転可能に設けられたロータ軸(タービン軸)と、ロータ軸の一端部に一体的に連結されかつ排気ガスの圧力のエネルギーを利用して回転力を発生させるタービンインペラと、ロータ軸の他端部に一体的に連結されかつ遠心力を利用して空気を圧縮するコンプレッサインペラとを備えている。また、近年、過給機の性能向上を図るために種々の開発がなされており、その一環として、タービンインペラ側からベアリング側への排気ガスの流入を抑制するシール構造について開発されている(特許文献1参照)。そして、先行技術に係るシール構造の構成等について説明すると、次のようになる。
【0003】
ベアリングハウジングの一側部には、ロータ軸を嵌挿可能な嵌挿穴が形成されている。また、ロータ軸の外周面には、第1周溝(第1リング溝)が嵌挿穴の内周面に対向して形成されており、ロータ軸の外周面における第1周溝よりもタービンインペラ側には、第2周溝(第2リング溝)が嵌挿穴の内周面に対向して形成されている。そして、第1周溝と第2周溝によって、環状の仕切壁が区画形成されている。
【0004】
第1周溝には、第1シールリングが嵌入されており、この第1シールリングの外周面は、第1シールリングの弾性力によって嵌挿穴の内周面に圧接してあって、第1シールリングのベアリング側の端面は、排気ガスの圧力によって第1周溝のベアリング側の内壁面に押付けられようになっている。また、第2周溝には、第2シールリングが嵌入されており、この第2シールリングの外周面は、第2シールリングの弾性力によって嵌挿穴の内周面に圧接してあって、第2シールリングのベアリング側の端面は、排気ガスの圧力によって第2周溝の前記ベアリング側の内壁面に押付けられるようになっている。
【0005】
嵌挿穴の内周面には、第1シールリングのベアリング側への移動を規制するストッパ壁が形成されている。また、ロータ軸における第1シールリングと第2シールリングとの間には、第2シールリングのベアリング側への移動を規制する中間リングが嵌装されている。
【0006】
従って、第1シールリングの外周面が第1シールリングの弾性力によって嵌挿穴の内周面に圧接してあって、第1シールリングのベアリング側の端面が排気ガスの圧力によって第1周溝のベアリング側の内壁面に押付けられようになっているため、第1シールリングによって嵌挿穴と第1周溝との間をシールすることができる。また、第2シールリングの外周面が第2シールリングの弾性力によって嵌挿穴の内周面に圧接してあって、第2シールリングのベアリング側の端面が排気ガスの圧力によって第2周溝のベアリング側の内壁面に押付けられるようになっているため、第2シールリングによって嵌挿穴と第2周溝との間をシールすることができる。これにより、過給機の運転中に、タービンインペラ側からベアリング側への排気ガスの流入を抑制することができる。
【0007】
ここで、過給機の運転中に、第1シールリングのベアリング側の端面及び第2シールリングのベアリング側の端面が摩耗しても、ストッパ壁によって第1シールリングのベアリング側への移動が規制されかつ中間リングによって第2シールリングのベアリング側への移動が規制されることにより、第1シールリング及び第2シールリングの摩耗の進行を抑えることができ、シール構造のシール性を長期に亘って十分に確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−228859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述のように、第1シールリング及び第2シールリングの摩耗の進行を抑えて、シール構造のシール性を長期に亘って十分に確保するには、嵌挿穴の内周面に形成されたストッパ壁の他に、ロータ軸における第1シールリングと第2シールリングとの間に嵌装された中間リングが必要になる。そのため、シール構造の部品点数が増えて、シール構造の構成が複雑化すると共に、過給機の組立作業が煩雑化するという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のシール構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の特徴は、ベアリングハウジングにベアリングを介して回転可能に設けられたロータ軸と、前記ロータ軸の端部に一体的に連結されたインペラとを備えた過給機に用いられ、前記インペラ側から前記ベアリング側へのガスの流入を抑制するシール構造であって、前記ベアリングハウジングの側部に前記ロータ軸を嵌挿可能な嵌挿穴が形成され、前記ロータ軸の外周面に第1周溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記ロータ軸の外周面における前記第1周溝よりも前記インペラ側に第2周溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記第1周溝と前記第2周溝によって環状の仕切壁が区画形成され、前記第1周溝に第1シールリングが嵌入され、前記第1シールリングの外周面が前記第1シールリングの弾性力によって前記嵌挿穴の内周面に圧接し、前記第1シールリングの前記ベアリング側の端面がガスの圧力によって前記第1周溝の前記ベアリング側の内壁面に押付けられようになってあって、前記第2周溝に第2シールリングが嵌入され、前記第2シールリングの外周面が前記第2シールリングの弾性力によって前記嵌挿穴の内周面に圧接し、前記第2シールリングの前記ベアリング側の端面がガスの圧力によって前記第2周溝の前記ベアリング側の内壁面に押付けられるようになってあって、前記嵌挿穴の内周面に前記第1シールリングの前記ベアリング側への移動を規制するストッパ壁が形成され、前記第1シールリングの前記ベアリング側の端面及び前記第2シールリングの前記ベアリング側の端面の摩耗の進行によって前記第1シールリングの前記ベアリング側の端面が前記ストッパ壁に当接(圧接)しかつ前記第2シールリングの前記ベアリング側の端面が前記第1シールリングの前記インペラ側の端面に当接(圧接)したシールリング摩耗状況下において、前記第2シールリングが前記仕切壁よりも前記インペラ側に突出した状態を保っていること(換言すれば、前記第2シールリングの一部分が前記第2周溝に嵌入した状態を保っていること)を要旨とする。
【0012】
ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「インペラ」とは、ガスの圧力のエネルギーを利用して回転力を発生させるタービンインペラ、遠心力を利用してガスを圧縮するコンプレッサインペラを含む意であって、「ガス」とは、排気ガス、空気(圧縮空気)等を含む意である。また、「形成され」とは、直接的に形成されたことの他に、別部材を介して間接的に形成されたことを含む意である。
【0013】
第1の特徴によると、前記第1シールリングの外周面が前記第1シールリングの弾性力によって前記嵌挿穴の内周面に圧接してあって、前記第1シールリングの前記ベアリング側の端面がガスの圧力によって前記第1周溝の前記ベアリング側の内壁面に押付けられようになっているため、前記第1シールリングによって前記嵌挿穴と前記第1周溝との間をシールすることができる。また、前記第2シールリングの外周面が前記第2シールリングの弾性力によって前記嵌挿穴の内周面に圧接してあって、前記第2シールリングの前記ベアリング側の端面がガスの圧力によって前記第2周溝の前記ベアリング側の内壁面に押付けられるようになっているため、前記第2シールリングによって前記嵌挿穴と前記第2周溝との間をシールすることができる。これにより、前記過給機の運転中に、前記インペラ側から前記ベアリング側へのガスの流入を抑制することができる。
【0014】
ここで、前記シールリング摩耗状況下において、前記第2シールリングが前記ストッパ壁よりも前記インペラ側に突出した状態を保っているため、前記第2シールリングによって前記嵌挿穴と前記第2周溝との間のシールを確保しつつ、前記第1シールリングによって前記第2シールリングの前記ベアリング側への移動が規制されることになる。これにより、先行技術に係るシール構造の中間リングに相当する部材を用いることなく、前記第1シールリング及び前記第2シールリングの摩耗の進行を抑えて、前記シール構造のシール性を長期に亘って十分に確保することができる。
【0015】
本発明の第2の特徴は、エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジン側に供給される空気を過給する過給機であって、第1の特徴からなるシール構造を具備したことを要旨とする。
【0016】
第2の特徴によると、第1の特徴による作用と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、先行技術に係るシール構造の中間リングに相当する部材を用いることなく、前記第1シールリング及び前記第2シールリングの摩耗の進行を抑えて、前記シール構造のシール性を長期に亘って十分に確保することができるため、前記シール構造の部品点数を減らして、前記シール構造の構成の簡略化及び前記過給機の組立作業の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、図5における矢視部Iを示す拡大図である。
【図2】図2(a)は、本発明の実施形態に係るフロントシール構造の要部を示す拡大断面図、図2(b)は、フロントシールリング摩耗状況におけるフロントシール構造の状態を示す拡大断面図、図2(c)は、フロントシールリング摩耗状況におけるフロントシール構造の第2フロントシールリングを示す拡大断面図である。
【図3】図3は、図5における矢視部IIIを示す拡大図である。
【図4】図4(a)は、本発明の実施形態に係るリアシール構造の要部を示す拡大断面図、図4(b)は、リアシールリング摩耗状況におけるリアシール構造の状態を示す拡大断面図、図4(c)は、リアシールリング摩耗状況におけるリアシール構造の第2リアシールリングを示す拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る車両用過給機の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図1から図5を参照して説明する。なお、図面中、「FF」は、前方向、「FR」は、後方向を指してある。
【0020】
図5に示すように、本発明の実施形態に係る車両用過給機1は、エンジン(図示省略)からの排気ガスのエネルギーを利用して、エンジンに供給される空気を過給するものである。そして、車両用過給機1の具体的な構成等は、以下のようになる。
【0021】
車両用過給機1は、ベアリングハウジング3を具備しており、このベアリングハウジング3内には、一対のラジアルベアリング5及び一対のスラストベアリング7が設けられている。また、複数のベアリング5,7には、前後方向へ延びたロータ軸(タービン軸)9が回転可能に設けられており、換言すれば、ベアリングハウジング3には、ロータ軸9が複数のベアリング5,7を介して回転可能に設けられている。そして、ロータ軸9における一対のスラストベアリング7の間には、スラストカラー11が設けられており、ロータ軸9におけるスラストカラー11の後側には、油切り13が設けられている。更に、ベアリングハウジング3の内部には、複数のベアリング5,7に潤滑油を供給する油供給通路15が形成されており、ベアリングハウジング3内は、所定の低温以下に温度管理されている。
【0022】
ベアリングハウジング3の前側には、タービンハウジング17が設けられており、このタービンハウジング17内には、排気ガスの圧力を利用して回転力(回転トルク)を発生させるタービンインペラ19が配設されており、このタービンインペラ19は、ロータ軸9の一端部(前端部)に一体的に連結されている。そして、タービンインペラ19の具体的な構成は、次のようになる。
【0023】
タービンハウジング17内には、タービンホイール21が配設されており、このタービンホイール21は、ロータ軸9の一端部に一体的に連結されてあって、タービンインペラ19の軸心(換言すれば、ロータ軸9の軸心)周りに回転可能である。また、タービンホイール21の外周面は、タービンインペラ19の軸方向から径方向外側に向かって延びており、タービンホイール21の外周面には、複数枚のタービンブレード23が周方向に間隔を置いて設けられている。
【0024】
タービンハウジング17の適宜位置には、排気ガスを取入れるガス取入口(図示省略)が形成されており、このガス取入口は、エンジンの排気マニホールド(図示省略)に接続可能である。また、タービンハウジング17の内部には、タービンスクロール流路25がタービンインペラ19を囲むように形成されており、このタービンスクロール流路25は、ガス取入口に連通してある。更に、タービンハウジング17におけるタービンインペラ19の出口側(タービンハウジング17の前側)には、排気ガスを排出するガス排出口27が形成されており、このガス排出口27は、タービンスクロール流路25に連通してあって、接続管(図示省略)を介して排気ガス浄化装置(図示省略)に接続可能である。
【0025】
車両用過給機1は、タービンインペラ19側からラジアルベアリング5側への排気ガスの流入を抑制するフロントシール構造29を具備しており、このフロントシール構造29の具体的な構成は、次のようになる。
【0026】
図1及び図2(a)に示すように、ベアリングハウジング3の前側部には、ロータ軸9の前端部を嵌挿可能なフロント嵌挿穴31が形成されている。また、ロータ軸9の外周面には、第1フロント周溝(第1フロントリング溝)33がフロント嵌挿穴31の内周面に対向して形成されており、ロータ軸9の外周面における第1フロント周溝33よりもタービンインペラ19側(前側)には、第2フロント周溝(第2フロントリング溝)35がフロント嵌挿穴31の内周面に対向して形成されている。そして、第1フロント周溝33と第2フロント周溝35によって、環状のフロント仕切壁37が区画形成されている。
【0027】
第1フロント周溝33には、第1フロントシールリング39が嵌入されており、この第1フロントシールリング39の周方向の一部分は、分断されている。また、第1フロントシールリング39の外周面は、第1フロントシールリング39の弾性力によってフロント嵌挿穴31の内周面に圧接してある。また、第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側(後側)の端面は、排気ガスの圧力によって第1フロント周溝33のラジアルベアリング5側の内壁面に押付けられており、ロータ軸9の回転によって摩耗するようになっている。
【0028】
第2フロント周溝35には、第2フロントシールリング41が嵌入されており、この第2フロントシールリング41の周方向の一部分は、分断されている。また、第2フロントシールリング41の外周面は、第2フロントシールリング41の弾性力によってフロント嵌挿穴31の内周面に圧接してある。更に、第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側の端面は、排気ガスの圧力によって第2フロント周溝35のラジアルベアリング5側の内壁面に押付けられており、ロータ軸9の回転によって摩耗するようになっている。なお、第2フロントシールリング41の幅は、フロント仕切壁37の幅よりも長く設定してある。
【0029】
フロント嵌挿穴31の内周面には、第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側への移動を規制するフロントストッパ壁43が形成されており、このフロントストッパ壁43は、第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側の端面に当接可能である。
【0030】
なお、第2フロントシールリング41が第1フロントシールリング39よりもタービンインペラ19に対して接近してあるため、第2フロントシールリング41に働く排気ガスの圧力は、第1フロントシールリング39に働く排気ガスの圧力よりも高くなっている。また、第2フロントシールリング41が第1フロントシールリング39よりもラジアルベアリング5に対して離反してあるため、第2フロントシールリング41に供給される潤滑油は、第1フロントシールリング39に供給される潤滑油よりも少なくなっている。これにより、第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側の端面は、第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側の端面よりも摩耗し易くなっている。
【0031】
図2(b)に示すように、第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側の端面及び第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側の端面の摩耗の進行によって第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側の端面がフロントストッパ壁43に当接(圧接)しかつ第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側の端面が第1フロントシールリング39のタービンインペラ19側(前側)の端面に当接(圧接)したフロントシールリング摩耗状況下において、第2フロントシールリング41がフロント仕切壁37よりもタービンインペラ19側に突出した状態を保っている。換言すれば、フロントシールリング摩耗状況下において、第2フロントシールリング41の一部分(内フランジ)41aが第2フロント周溝35に嵌入した状態を保っている。ここで、フロントシールリング摩耗状況とは、第1フロントシールリング39及び第2フロントシールリング41の摩耗量が最大となった状況であって、設計目標寿命(例えば自動車の走行距離が30万kmに達した時)まで車両用過給機1を運転させた後の状況のことである。
【0032】
なお、フロントシールリング摩耗状況になった後は、フロントストッパ壁43によって第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側への移動が規制され、第1フロントシールリング39によって第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側への移動が規制されているため、第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側の端面及び第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側の端面の摩耗の進行が停止するようになっている。また、フロントシールリング摩耗状況になった後においても、第1フロントシールリング39及び第2フロントシールリング41は回転しないようになっている。
【0033】
図2(c)に示すように、フロントシールリング摩耗状況下における第2フロントシールリング41の突出量(換言すれば、第2フロントシールリング41の一部分41aの長さ)Laと第2フロントシールリング41の幅Lとの比(La/L)は、0.2〜0.5になっている。La/Lを0.2以上にしたのは、La/Lを0.2未満にすると、フロントシールリング摩耗状況下における第2フロントシールリング41の断面二次モーメントを十分に確保することができず、ロータ軸9の回転力によって第2フロントシールリング41を回転させようとする力(第2フロントシールリング41の回転トルク)よりも、第2フロントシールリング41の弾性力によって第2フロントシールリング41をフロント嵌挿穴31の内周面に対して固定させようとする力(第2フロントシールリング41の固定トルク)を大きくすることが困難になるからである。一方、La/Lを0.5未満にしたのは、La/Lを0.5よりも大きくすると、それに伴って、フロント仕切壁37の幅が短くなって、フロント仕切壁37の強度を十分に確保できなくなるからである。
【0034】
図5に示すように、ベアリングハウジング3の後側には、コンプレッサハウジング45が設けられており、このベアリングハウジング3内には、遠心力を利用して空気を圧縮するコンプレッサインペラ47が配設されており、このコンプレッサインペラ47は、ロータ軸9の他端部(後端部)に一体的に連結されている。そして、コンプレッサインペラ47の具体的な構成は、次のようになる。
【0035】
コンプレッサハウジング45内には、コンプレッサホイール49が配設されており、このコンプレッサホイール49は、ロータ軸9の他端部(後端部)に一体的に連結されてあって、コンプレッサインペラ47の軸心(換言すれば、ロータ軸9の軸心)周りに回転可能である。また、コンプレッサホイール49の外周面は、コンプレッサインペラ47の軸方向から径方向外側に向かって延びており、コンプレッサホイール49の外周面には、複数枚のコンプレッサブレード51が周方向に間隔を置いて設けられている。
【0036】
コンプレッサハウジング45におけるコンプレッサインペラ47の入口側(空気の流れ方向から見て上流側)には、空気を取入れる空気取入口53が形成されており、空気取入口53は、接続管(図示省略)を介してエアクリーナー(図示省略)に接続可能である。また、コンプレッサハウジング45内におけるコンプレッサインペラ47の出口側(コンプレッサハウジング45の後側)には、圧縮された空気(圧縮空気)を昇圧する環状のディフューザ流路55が形成されており、このディフューザ流路55は、空気取入口53に連通してある。更に、コンプレッサハウジング45の内部には、コンプレッサスクロール流路57がコンプレッサインペラ47を囲むように形成されており、このコンプレッサスクロール流路57は、ディフューザ流路55に連通してある。そして、コンプレッサハウジング45の適宜位置には、圧縮された空気を排出する空気排出口(図示省略)が形成されており、この空気排出口は、コンプレッサスクロール流路57に連通してあって、エンジンの給気マニホールド(図示省略)に接続可能である。
【0037】
車両用過給機1は、コンプレッサインペラ47側からスラストベアリング7側への空気(圧縮空気)の流入を抑制するリアシール構造59を具備しており、このリアシール構造59の具体的な構成は、次のようになる。
【0038】
図3及び図4(a)に示すように、ベアリングハウジング3の後側部には、シールプレート61が設けられており、このシールプレート61の中央部には、ロータ軸9の後端部を嵌挿可能なリア嵌挿穴63が形成されており、換言すれば、ベアリングハウジング3の後側部には、リア嵌挿穴63がシールプレート61を介して形成されている。また、油切り13の外周面には、第1リア周溝(第1リアリング溝)65がリア嵌挿穴63の内周面に対向して形成されており、換言すれば、ロータ軸9の外周面には、第1リア周溝65が油切り13を介して形成されている。更に、油切り13の外周面におけるロータ軸9の外周面における第1リア周溝65よりもコンプレッサインペラ47側(後側)には、第2リア周溝(第2リアリング溝)67がリア嵌挿穴63の内周面に対向して形成されており、換言すれば、ロータ軸9の外周面における第1リア周溝65よりもコンプレッサインペラ47側には、第2リア周溝67が油切り13を介して形成されている。いる。そして、第1リア周溝65と第2リア周溝67によって、環状のリア仕切壁69が区画形成されている。
【0039】
第1リア周溝65には、第1リアシールリング71が嵌入されており、この第1リアシールリング71の周方向の一部分は、分断されている。また、第1リアシールリング71の外周面は、第1リアシールリング71の弾性力によってリア嵌挿穴63の内周面に圧接してある。また、第1リアシールリング71のスラストベアリング7側(前側)の端面が圧縮空気の圧力によって第1リア周溝65のスラストベアリング7側の内壁面に押付けられており、ロータ軸9の回転によって摩耗するようになっている。
【0040】
第2リア周溝67には、第2リアシールリング73が嵌入されており、この第2リアシールリング73の周方向の一部分は、分断されている。また、第2リアシールリング73の外周面は、第2リアシールリング73の弾性力によってリア嵌挿穴63の内周面に圧接してある。更に、第2リアシールリング73のスラストベアリング7側の端面は、圧縮空気の圧力によって第2リア周溝67のスラストベアリング7側の内壁面に押付けられており、ロータ軸9の回転によって摩耗するようになっている。なお、第2リアシールリング73の幅は、リア仕切壁69の幅よりも長く設定してある。
【0041】
リア嵌挿穴63の内周面には、第1リアシールリング71のスラストベアリング7側への移動を規制するリアストッパ壁75が形成されており、このリアストッパ壁75は、第1リアシールリング71のスラストベアリング7側の端面に当接可能である。
【0042】
なお、第2リアシールリング73が第1リアシールリング71よりもコンプレッサインペラ47に対して接近してあるため、第2リアシールリング73に働く圧縮空気の圧力は、第1リアシールリング71に働く圧縮空気の圧力よりも高くなっている。また、第2リアシールリング73が第1リアシールリング71よりもスラストベアリング7に対して離反してあるため、第2リアシールリング73に供給される潤滑油は、第1リアシールリング71に供給される潤滑油よりも少なくなっている。これにより、第2リアシールリング73のスラストベアリング7側の端面は、第1リアシールリング71のスラストベアリング7側の端面よりも摩耗し易くなっている。
【0043】
図4(b)に示すように、第1リアシールリング71のスラストベアリング7側の端面及び第2リアシールリング73のスラストベアリング7側の端面の摩耗の進行によって第1リアシールリング71のスラストベアリング7側の端面がリアストッパ壁75に当接(圧接)しかつ第2リアシールリング73のスラストベアリング7側の端面が第1リアシールリング71のコンプレッサインペラ47側(後側)の端面に当接(圧接)したリアシールリング摩耗状況下において、第2リアシールリング73がリア仕切壁69よりもコンプレッサインペラ47側に突出した状態を保っている。換言すれば、リアシールリング摩耗状況下において、第2リアシールリング73の一部分(内フランジ)73aが第2リア周溝67に嵌入した状態を保っている。ここで、リアシールリング摩耗状況とは、第1リアシールリング71及び第2リアシールリング73の摩耗量が最大となった状況であって、設計目標寿命(例えば自動車の走行距離が30万kmに達した時)まで車両用過給機1を運転させた後の状況のことである。
【0044】
なお、リアシールリング摩耗状況になった後は、リアストッパ壁75によって第1リアシールリング71のスラストベアリング7側への移動が規制され、第1リアシールリング71によって第2リアシールリング73のスラストベアリング9側への移動が規制されているため、第1リアシールリング71のスラストベアリング9側の端面及び第2リアシールリング73のスラストベアリング9側の端面の摩耗の進行が停止するようになっている。また、リアシールリング摩耗状況になった後においても、第1リアシールリング71及び第2リアシールリング73は回転しないようになっている。
【0045】
図4(c)に示すように、リアシールリング摩耗状況下における第2リアシールリング73の突出量(換言すれば、第2リアシールリング73の一部分73aの長さ)Saと第2リアシールリング73の幅Sとの比(Sa/S)は、0.2〜0.5になっている。Sa/Sを0.2以上にしたのは、Sa/Sを0.2未満にすると、リアシールリング摩耗状況下における第2リアシールリング73の断面二次モーメントを十分に確保することができず、ロータ軸9の回転力によって第2リアシールリング73を回転させようとする力(第2リアシールリング73の回転トルク)よりも、第2リアシールリング73の弾性力によって第2リアシールリング73をリア嵌挿穴63の内周面に対して固定させようとする力(第2リアシールリング73の固定トルク)を大きくすることが困難になるからである。一方、Sa/Sを0.5未満にしたのは、Sa/Sを0.5よりも大きくすると、それに伴って、リア仕切壁69の幅が短くなって、リア仕切壁69の強度を十分に確保できなくなるからである。
【0046】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
(i)車両用過給機1の運転に関する作用
ガス取入口から取入れた排気ガスをタービンスクロール流路25を経由してタービンインペラ19の入口側から出口側(排気ガスの流れ方向から見て上流側から下流側)へ流通させることにより、排気ガスの圧力エネルギーを利用して回転力(回転トルク)を発生させて、ロータ軸9及びコンプレッサインペラ47をタービンインペラ19と一体的に回転させることができる。これにより、空気取入口53から取入れた空気を圧縮して、ディフューザ流路55及びコンプレッサスクロール流路57を経由して空気排出口から排出することができ、エンジンに供給される空気を過給することができる。
【0048】
(ii)フロントシール構造29に関する作用
第1フロントシールリング39の外周面が第1フロントシールリング39の弾性力によってフロント嵌挿穴31の内周面に圧接してあって、第1フロントシールリング39のラジアルベアリング5側の端面が排気ガスの圧力によって第1フロント周溝33のラジアルベアリング5側の内壁面に押付けられようになっているため、第1フロントシールリング39によってフロント嵌挿穴31と第1フロント周溝33との間をシールすることができる。また、第2フロントシールリング41の外周面が第2フロントシールリング41の弾性力によってフロント嵌挿穴31の内周面に圧接してあって、第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側の端面が排気ガスの圧力によって第2フロント周溝35のラジアルベアリング5側の内壁面に押付けられるようになっているため、第2フロントシールリング41によってフロント嵌挿穴31と第2フロント周溝35との間をシールすることができる。これにより、車両用過給機1の運転中に、タービンインペラ19側からラジアルベアリング5側への排気ガスの流入を抑制することができる。
【0049】
ここで、フロントシールリング摩耗状況下において、第2フロントシールリング41がフロント仕切壁37よりもタービンインペラ19側に突出した状態を保っているため、第2フロントシールリング41によってフロント嵌挿穴31と第2フロント周溝35との間のシールを確保しつつ、第1フロントシールリング39によって第2フロントシールリング41のラジアルベアリング5側への移動が規制されることになる。これにより、先行技術に係るシール構造の中間リングに相当する部材を用いることなく、第1フロントシールリング39及び第2フロントシールリング41の摩耗の進行を抑えて、フロントシール構造29のシール性を長期に亘って十分に確保することができる。
【0050】
また、フロントシールリング摩耗状況下における第2フロントシールリング41の突出量Laと第2フロントシールリング41の幅Lとの比(La/L)が0.2〜0.5になっているため、フロント仕切壁37の強度を十分に確保しつつ、第2フロントシールリング41の固定トルクを第2フロントシールリング41の回転トルクよりも十分に大きくすることができる。
【0051】
(iii)リアシール構造59に関する作用
第1リアシールリング71の外周面が第1リアシールリング71の弾性力によってリア嵌挿穴63の内周面に圧接してあって、第1リアシールリング71のスラストベアリング7側の端面が圧縮空気の圧力によって第1リア周溝65のスラストベアリング7側の内壁面に押付けられようになっているため、第1リアシールリング71によってリア嵌挿穴63と第1リア周溝65との間をシールすることができる。また、第2リアシールリング73の外周面が第2リアシールリング73の弾性力によってリア嵌挿穴63の内周面に圧接してあって、第2リアシールリング73のスラストベアリング7側の端面が圧縮空気の圧力によって第2リア周溝67のスラストベアリング7側の内壁面に押付けられるようになっているため、第2リアシールリング73によってリア嵌挿穴63と第2リア周溝67との間をシールすることができる。これにより、車両用過給機1の運転中に、コンプレッサインペラ47側からスラストベアリング7側への圧縮空気の流入を抑制することができる。
【0052】
ここで、リアシールリング摩耗状況下において、第2リアシールリング73がリア仕切壁69よりもコンプレッサインペラ47側に突出した状態を保っているため、第2リアシールリング73によってリア嵌挿穴63と第2リア周溝67との間のシールを確保しつつ、第1リアシールリング71によって第2リアシールリング73のスラストベアリング7側への移動が規制されることになる。これにより、先行技術に係るシール構造の中間リングに相当する部材を用いることなく、第1リアシールリング71及び第2リアシールリング73の摩耗の進行を抑えて、リアシール構造59のシール性を長期に亘って十分に確保することができる。
【0053】
また、リアシールリング摩耗状況下における第2リアシールリング73の突出量Saと第2リアシールリング73の幅Lとの比(Sa/S)が0.2〜0.5になっているため、リア仕切壁69の強度を十分に確保しつつ、第2リアシールリング73の固定トルクを第2リアシールリング73の回転トルクよりも十分に大きくすることができる。
【0054】
(iv)本発明の実施形態の効果
先行技術に係るシール構造の中間リングに相当する部材を用いることなく、第1シールリング(第1フロントシールリング39、第1リアシールリング71)及び第2シールリング(第2フロントシールリング41、第2リアシールリング73)の摩耗の進行を抑えて、シール構造(フロントシール構造29、リアシール構造59)のシール性を長期に亘って十分に確保することができるため、シール構造29,59の部品点数を減らして、シール構造29,59の構成の簡略化及び車両用過給機1の組立作業の簡略化を図ることができる。
【0055】
また、仕切壁(フロント仕切壁37、リア仕切壁69)の強度を十分に確保しつつ、第2シールリング41,73の固定トルクを第2シールリング41,73の回転トルクよりも十分に大きくすることができるため、仕切壁37,69にクラック等が発生することを抑制しつつ、ロータ軸9との第2シールリング41,73の連れ回りを防止して、シール構造29,59のシール性をより一層高めることができる。
【0056】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0057】
1 車両用過給機
3 ベアリングハウジング
5 ラジアルベアリング
7 スラストベアリング
9 ロータ軸
13 油切り
17 タービンハウジング
19 タービンインペラ
21 タービンホイール
23 タービンブレード
29 フロントシール構造
31 フロント嵌挿穴
33 第1フロント周溝
35 第2フロント周溝
37 フロント仕切壁
39 第1フロントシールリング
41 第2フロントシールリング
41a 第2フロントシールリングの一部分(内フランジ)
43 フロントストッパ壁
45 コンプレッサハウジング
47 コンプレッサインペラ
49 コンプレッサホイール
51 コンプレッサブレード
59 リアシール構造
61 シールプレート
63 リア嵌挿穴
65 第1リア周溝
67 第2リア周溝
69 リア仕切壁
71 第1リアシールリング
73 第2リアシールリング
73a 第2リアシールリングの一部分
75 リアストッパ壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングハウジングにベアリングを介して回転可能に設けられたロータ軸と、前記ロータ軸の端部に一体的に連結されたインペラとを備えた過給機に用いられ、前記インペラ側から前記ベアリング側へのガスの流入を抑制するシール構造であって、
前記ベアリングハウジングの側部に前記ロータ軸を嵌挿可能な嵌挿穴が形成され、前記ロータ軸の外周面に第1周溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記ロータ軸の外周面における前記第1周溝よりも前記インペラ側に第2周溝が前記嵌挿穴の内周面に対向して形成され、前記第1周溝と前記第2周溝によって環状の仕切壁が区画形成され、前記第1周溝に第1シールリングが嵌入され、前記第1シールリングの外周面が前記第1シールリングの弾性力によって前記嵌挿穴の内周面に圧接し、前記第1シールリングの前記ベアリング側の端面がガスの圧力によって前記第1周溝の前記ベアリング側の内壁面に押付けられようになってあって、前記第2周溝に第2シールリングが嵌入され、前記第2シールリングの外周面が前記第2シールリングの弾性力によって前記嵌挿穴の内周面に圧接し、前記第2シールリングの前記ベアリング側の端面がガスの圧力によって前記第2周溝の前記ベアリング側の内壁面に押付けられるようになってあって、前記嵌挿穴の内周面に前記第1シールリングの前記ベアリング側への移動を規制するストッパ壁が形成され、
前記第1シールリングの前記ベアリング側の端面及び前記第2シールリングの前記ベアリング側の端面の摩耗の進行によって前記第1シールリングの前記ベアリング側の端面が前記ストッパ壁に当接しかつ前記第2シールリングの前記ベアリング側の端面が前記第1シールリングの前記インペラ側の端面に当接したシールリング摩耗状況下において、前記第2シールリングが前記仕切壁よりも前記インペラ側に突出した状態を保っていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記シールリング摩耗状況下における前記第2シールリングの突出量と前記第2シールリングの幅との比が0.2〜0.5になっていることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
エンジンからの排気ガスのエネルギーを利用して、前記エンジン側に供給される空気を過給する過給機であって、
請求項1又は請求項2に記載のシール構造を具備したことを特徴とする過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−57507(P2012−57507A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199822(P2010−199822)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】