説明

ジオールまたはトリオールの製造方法

【課題】ジオールまたはトリオール含有溶液中に含まれる不純物を除去する工程を含む、ジオールまたはトリオールの製造方法を提供する。
【解決手段】ジオールまたはトリオール含有溶液を、ポリアミドを含む機能層を有するナノ濾過膜に通じて濾過し、透過側からジオールまたはトリオール含有溶液を回収する工程Aを含む、ジオールまたはトリオールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオールまたはトリオール含有溶液から不純物を除去する工程を含むジオールまたはトリオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジオールまたはトリオールは、ポリマー原料や医薬品原料として工業的に非常に重要な化合物である。ブタンジオールやエチレングリコールなどのジオール類はテレフタル酸、アジピン酸のといったジカルボン酸との重合によりポリエステルを生成する。また、トリオールであるグリセリンは化粧品原料などに使用される。これらのジオールまたはトリオールは、化学合成によって生成されることは周知であるが、近年では発酵法・酵素法のような生化学的な方法によって生産可能であることから、非石油由来であるバイオポリマー原料などとして注目を集めている。そのため、このようなジオールまたはトリオールを高純度・高効率で製造する技術が求められている。
【0003】
一般にジオールまたはトリオールの精製方法は、溶媒抽出および蒸留が用いられている。溶媒抽出においては、目的物が低級アルコールである場合、水溶性が高いことから、有機相への分配が困難であるため、特殊な抽出溶媒を必要としたり、多段の抽出が必要となったりし、コストの増大が問題となる(特許文献1)。また、蒸留による精製では、不純物を含む場合、蒸留残渣が発生し、収率低下につながることが知られている。さらに、発酵法によるジオールまたはトリオール含有液には、微生物の栄養源である糖類や代謝産物である有機酸、タンパク質などが含まれており、これらは加熱により着色性不純物を生じることが報告されている(非特許文献1)。そのため、高純度なジオールまたはトリオールの精製、および高効率な製造には発酵液中の不純物除去が非常に重要である。
【0004】
高純度のジオールまたはトリオールを製造する方法としては、蒸留精製と併用して、精密濾過、限外濾過、ナノ濾過またはイオン交換を用いる1,3−プロパンジオールの製造方法(特許文献2)や逆浸透膜またはナノ濾過膜を用いたジオールの分離方法(特許文献3)が開示されているが、ナノ濾過膜の素材による透過選択性やジオールまたはトリオールの精製純度に対する影響については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−525508号公報
【特許文献2】特表2007−502325号公報
【特許文献3】特表2006−526061号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松尾義之、酸によるグルコースの過分解の様相:醗酵工学雑誌、39、5、256−262(1961年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したような課題、即ち、ジオールまたはトリオールを精製する場合において、ジオールまたはトリオールを従来法よりも高純度・高効率で分離・回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、ジオールまたはトリオール含有溶液を、ポリアミドを含む機能層を有するナノ濾過膜を用いて濾過することで、高純度のジオールまたはトリオールが得られ、蒸留収率の向上に効果的であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)から構成される。
【0009】
(1)ジオールまたはトリオール含有溶液を、ポリアミドを含む機能層を有するナノ濾過膜に通じて濾過し、透過側からジオールまたはトリオール含有溶液を回収する工程Aを含む、ジオールまたはトリオールの製造方法。
【0010】
(2)前記ジオールが、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールまたは1,3−ブタンジオールである、(1)に記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【0011】
(3)前記トリオールが、グリセリンまたはブタントリオールである、(1)に記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【0012】
(4)前記ポリアミドが架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、化学式1で示される構成成分を含有することを特徴とする、(1)から(3)のいずれかに記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは−Hまたは−CH、nは0から3までの整数を表す。)。
【0015】
(5)前記工程Aで得られるジオールまたはトリオール含有溶液を逆浸透膜で濾過してジオールまたはトリオール濃度を高める工程Bを含む、(1)から(4)のいずれかに記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【0016】
(6)前記工程Aから回収された透過液、または工程Bから回収された濃縮液を、さらに1Pa以上大気圧以下の圧力下において、25℃以上200℃以下で蒸留する工程Cに供する、(1)から(5)のいずれかに記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、ジオールまたはトリオールを含む化学合成反応液または発酵培養液中に存在する金属触媒または無機塩、糖類、タンパク質類を簡単な操作により除去し、蒸留収率の向上させることができるため、ジオールまたはトリオールを高純度かつ高効率に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で用いたナノ濾過膜および逆浸透膜分離装置の一つの実施の形態を示す概要図である。
【図2】本発明で用いたナノ濾過膜および逆浸透膜分離装置の逆浸透膜が装着されたセル断面図の一つの実施の形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
本発明のジオールまたはトリオール製造方法は、ジオールまたはトリオール含有溶液よりジオールまたはトリオールを分離することによるジオールまたはトリオールの製造方法であって、該ジオールまたはトリオール含有溶液をナノ濾過膜に通じて、金属触媒または無機塩、糖類、タンパク質類などを除去し、ジオールまたはトリオール溶液を得る工程、さらに該工程で得られたジオールまたはトリオール溶液を逆浸透膜に通じて濃縮し、蒸留する工程を含む、ジオールまたはトリオールの製造方法に関する。
【0021】
本発明におけるジオールとは、分子中に水酸基(OH基)を2つ持ち、かつ、他の官能基を持たない化合物を指し、その範囲内であれば特に限定されない。また、本発明におけるジオールは1種類であっても複数種類の混合物であってもよい。本発明における好ましいジオールは炭素数1〜6のジオールであり、具体的には、メチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオールなどの直鎖脂肪族飽和化合物や、イソブチレングリコールなどの分岐脂肪族飽和化合物、カテコール、レゾルシノールなどの芳香族化合物、プロペンジオール、ブテンジオールのような不飽和化合物が挙げられる。
【0022】
本発明におけるトリオールとは、分子中に水酸基(OH基)を3つもち、かつ、他の官能基を持たない化合物を指し、その範囲内であれば特に限定はない。また、本発明におけるトリオールは1種類であっても複数種類の混合物であってもよい。本発明における好ましいトリオールは炭素数1〜6のトリオールであり、具体的には、グリセリン、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパンなどの脂肪族化合物や、ピロガロール、ヒドロキシヒドロキノン、フロログルシノールのような芳香族化合物が挙げられるが、より好ましくは、グリセリンである。
【0023】
本発明に用いられるジオールまたはトリオール含有溶液の製造方法としては、当業者に公知の方法であれば特に制限はなく、化学合成法を用いる場合は、例えば特開昭63−316744号に記されるような1,2−プロパンジオールの不斉還元による合成や、プロピレンを出発原料とし、アリルアルコールまたはアクロレインを経由してグリセリンを製造する方法などが挙げられ、また、微生物の発酵培養を用いる場合は、例えば特開平5−153982号に記されるようなグリセリンの製造方法や、特開平6−30790号に記されるような1,2−プロパンジオールの製造方法が挙げられる。本発明に用いられるジオールまたはトリオール含有溶液の好ましい製造方法は微生物の発酵培養法であり、その場合、ジオールまたはトリオールを含有する発酵培養液そのものをナノ濾過膜に供するジオールまたはトリオール含有溶液として使用することができる。
【0024】
本発明で用いるナノ濾過膜とは、ナノフィルトレーション膜、NF膜とも呼ばれるものであり、「一価のイオンは透過し、二価のイオンを阻止する膜」と一般に定義される膜である。数ナノメートル程度の微小空隙を有していると考えられる膜で、主として、水中の微小粒子や分子、イオン、塩類等を阻止するために用いられる。
【0025】
また、「ナノ濾過膜に通じる」とは、ジオールまたはトリオール含有溶液を、ナノ濾過膜に通じて濾過し、ジオールまたはトリオール以外の不純物を非透過液側に除去し、透過液側からジオールまたはトリオール含有溶液を回収することを意味する。
【0026】
ナノ濾過膜の機能層を構成する素材には一般的に、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材が知られているが、本発明においては、その精製効果が高いことから、ポリアミドを含む機能層を有するナノ濾過膜を使用する。また、ポリアミドを含む機能層は、その他の複数の膜素材を含んでもよいが、ポリアミドを主成分として含む機能層であることが好ましい。なお、本明細書において素材によりナノ濾過膜を特定する場合、特別な説明のない限り該素材を含む機能層を有するナノ濾過膜のことを指す。
【0027】
ナノ濾過膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。複合膜としては、例えば、特開昭62−201606号公報に記載の、ポリスルホンを膜素材とする支持膜にポリアミドを含む機能層を有するナノ濾過膜を構成させた複合膜を用いることができる。
【0028】
本発明で使用するポリアミドを含む機能層を有するナノ濾過膜(以下、ポリアミド系ナノ濾過膜ともいう)は、高耐圧性と高透水性、高溶質除去性能を兼ね備えた複合膜であることが好ましい。さらに操作圧力に対する耐久性と、高い透水性、阻止性能を維持できるためには、ポリアミドを含む機能層を多孔質膜や不織布からなる支持体で保持する構造のものが好ましい。
【0029】
ポリアミド系ナノ濾過膜における、ポリアミドを構成する単量体の好ましいカルボン酸成分としては、例えば、トリメシン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメリット酸、ピロメット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ピリジンカルボン酸などの芳香族カルボン酸が挙げられるが、製膜溶媒に対する溶解性を考慮すると、トリメシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、またはこれらの混合物がより好ましい。
【0030】
前記ポリアミドを構成する単量体の好ましいアミン成分としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ベンジジン、メチレンビスジアニリン、4,4’−ジアミノビフェニルエーテル、ジアニシジン、3,3’,4−トリアミノビフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルエーテル、3,3’−ジオキシベンジジン、1,8−ナフタレンジアミン、m(p)−モノメチルフェニレンジアミン、3,3’−モノメチルアミノ−4,4’−ジアミノビフェニルエーテル、4,N,N’−(4−アミノベンゾイル)−p(m)−フェニレンジアミン−2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾイミダゾール)、2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾオキサゾール)、2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾチアゾール)等の芳香環を有する一級ジアミン、ピペラジン、ピペリジンまたはこれらの誘導体等の二級ジアミンが挙げられ、中でもピペラジンまたはピペリジンを単量体として含む架橋ポリアミドを機能層とするナノ濾過膜は耐圧性、耐久性の他に、耐熱性、耐薬品性を有していることから好ましく用いられる。より好ましくは前記架橋ピペラジンポリアミドまたは架橋ピペリジンポリアミドを主成分とし、かつ、前記化学式1で示される構成成分を含有するポリアミドであり、さらに好ましくは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、前記化学式1で示される構成成分を含有するポリアミドである。また、前記化学式1中、n=3のものが好ましく用いられる。架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式1で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とするナノ濾過膜としては、例えば、特開昭62−201606号公報に記載のものが挙げられ、具体例としては、架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、前記化学式1中、n=3のものを構成成分として含有するポリアミドを機能層とする東レ株式会社製の架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜のUTC60が挙げられる。
【0031】
本発明で用いるポリアミド系ナノ濾過膜は、スパイラル型、平膜型、中空糸型モジュールなど適宜な形状であってよいが、スパイラル型の膜モジュールとして使用されることが好ましい。ナノ濾過膜の具体例としては、架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式1で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノフィルターモジュールSU−210、SU−220、SU−600、SU−610も使用することができる。また、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノ濾過膜のNF−45、NF−90、NF−200、NF−400、あるいはポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノ濾過膜のNF99、NF97、NF99HFなどの平膜および該膜素材を用いた膜モジュールが挙げられる。
【0032】
本発明において、ジオールまたはトリオール含有溶液のナノ濾過膜による濾過は、圧力をかけて行ってもよい。その濾過圧は、0.1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、0.1MPa以上8MPa以下の範囲で好ましく用いられるが、0.5MPa以上7MPa以下で用いれば、膜透過流束が高いことから、ジオールまたはトリオールを効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、1MPa以上6MPa以下で用いることが特に好ましい。
【0033】
本発明において、ジオールまたはトリオール含有溶液のナノ濾過膜による濾過は、非透過液を再び原水に戻し、繰り返し濾過することでジオールまたはトリオールの回収率を向上させることができる。ジオールまたはトリオールの回収率は、ナノ濾過前のジオールまたはトリオール総量およびナノ濾過膜透過ジオールまたはトリオール総量を測定することで、式1によって算出することができる。
【0034】
ジオールまたはトリオール回収率(%)=(ナノ濾過膜透過ジオールまたはトリオール総量/ナノ濾過前のジオールまたはトリオール総量)×100・・・(式1)。
【0035】
本発明で用いるナノ濾過膜の膜分離性能としては、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム水溶液(500mg/L)を0.75MPaの濾過圧で評価したとき塩除去率が45%以上のものが好ましく用いられる。ここでいう塩除去率は前記塩化ナトリウム水溶液の透過液塩濃度を測定することにより、式2によって算出することができる。
【0036】
塩除去率=100×{1−(透過液中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}・・・(式2)。
【0037】
また、ナノ濾過膜の透過性能としては、0.3MPaの濾過圧において、塩化ナトリウム水溶液(500mg/L)の膜透過流束(m/(m・日))が0.3以上のものが好ましく用いられる。膜透過流束は透過液量および透過液量を採水した時間および膜面積を測定することで、式3によって算出することができる。
【0038】
膜透過流束(m/(m・日))=透過液量/(膜面積×採水時間)・・・(式3)。
【0039】
本発明においてジオールまたはトリオール含有溶液からナノ濾過膜により非透過液側に分離される不純物としては、カルシウム、ナトリウム、硫酸、硝酸、リン酸などの無機物や、グルコース、フルクトース、キシロース、スクロース、ガラクトース、澱粉などの糖類や、タンパク質などが挙げられ、これらの混合物であっても好ましく分離される。
【0040】
本発明におけるジオールまたはトリオールを含んだ溶液のナノ濾過膜透過性は、ジオールまたはトリオール透過率を算出することで評価できる。ジオールまたはトリオールの透過率は、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーに代表される分析により、原水(ジオールまたはトリオールを含んだ溶液)中に含まれるジオールまたはトリオール濃度(原水ジオールまたはトリオール濃度)および透過液(ジオールまたはトリオール溶液)中に含まれるジオールまたはトリオール濃度(透過液ジオールまたはトリオール濃度)を測定することで、式4によって算出することができる。
【0041】
ジオールまたはトリオール透過率(%)=(透過液ジオールまたはトリオール濃度/原水ジオールまたはトリオール濃度)×100・・・(式4)。
【0042】
前記ナノ濾過膜透過液は、その目的物質濃度が低い場合には後段の蒸留工程Cにおいてジオールまたはトリオールよりも沸点の低い水を除去するために多大なエネルギーを必要とするため、濃縮されることが好ましい。ナノ濾過膜透過液の濃縮方法としてはエバポレーターに代表される濃縮装置を用いる方法が一般的であり本発明においても適用されうるが、水の熱容量は有機溶媒に比べてはるかに大きいため、濃縮にかかるエネルギーや時間は莫大である。一方、逆浸透膜による濃縮(工程B)はエネルギー・コスト削減という観点でエバポレーターによる濃縮より優れており、本発明において好ましく適用される。
【0043】
本発明における逆浸透膜とは、被処理水の浸透圧以上の圧力差を駆動力にイオンや低分子量分子を除去する濾過膜であり、例えば酢酸セルロースなどのセルロース系や、多官能アミン化合物と多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させて微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を設けた膜などが採用できる。逆浸透膜表面の汚れすなわちファウリングを抑制するために、酸ハライド基と反応する反応性基を少なくとも1個有する化合物の水溶液をポリアミド分離機能層の表面に被覆して、分離機能層表面に残存する酸ハロゲン基と該反応性基との間で共有結合を形成させた主に下水処理用の低ファウリング逆浸透膜なども好ましく採用できる。本発明のナノ濾過膜に通じて濾過する工程で2価のイオンを大部分除去できているため、逆浸透膜面でのスケールの生成もなく安定した膜濃縮が行える。
【0044】
また、「逆浸透膜に通じる」とは、ナノ濾過膜を透過したジオールまたはトリオール含有溶液を、逆浸透膜に通じて濃縮し、該濃縮液側にジオールまたはトリオールを含んだ溶液を回収することを意味する。
【0045】
本発明で好ましく使用される逆浸透膜としては、酢酸セルロール系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。膜形態としては、平膜型、スパイラル型、中空糸型など適宜の形態のものが使用できる。
【0046】
本発明で使用される逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製ポリアミド系逆浸透膜モジュールである低圧タイプのSU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720Pの他、逆浸透膜としてUTC70を含む高圧タイプのSU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA、同社酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工株式会社製NTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製RO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、GE製GE Sepa、Filmtec製BW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040などが挙げられる。
【0047】
本発明において、ナノ濾過膜透過液の逆浸透膜による濾過は、圧力をかけて行うが、その濾過圧は、1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、1MPa以上8MPa以下の範囲であることが好ましい。また、濾過圧が1MPa以上7MPa以下の範囲であれば、膜透過流束が高いことから、ジオールまたはトリオール溶液を効率的に濃縮することができる。膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことから最も好ましくは、2MPa以上6MPa以下の範囲である。
【0048】
さらに、本発明においては前述の通りナノ濾過膜透過液の濃縮液を蒸留する工程Cに供することで、高純度のジオールまたはトリオールを得ることができる。蒸留工程は、1Pa以上大気圧(常圧、約101kPa)以下の減圧下で行うことが好ましく、100Pa以上15kPa以下の減圧下で行うことがより好ましい。減圧下で行う場合の蒸留温度は、20℃以上200℃以下で行うことが好ましく、50℃以上150℃以下で行うことがより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(参考例1)ジオールおよびトリオールのナノ濾過膜透過性評価
超純水10Lにエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール(いずれも和光純薬工業株式会社製)10gを添加して25℃1時間攪拌し、1000ppmジオールおよびトリオール水溶液を調製した。次いで、図1に示す、膜濾過装置の原水層1に上記で調製したジオールおよびトリオール水溶液10Lを注入した。図2の符号7に示される90φナノ濾過膜として、架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜“UTC60”(ナノ濾過膜1;東レ株式会社製)、ポリアミド系ナノ濾過膜“NF99”(ナノ濾過膜2;アルファラバル製)、架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜“NF−400”(ナノ濾過膜3;フィルムテック製)、酢酸セルロース系ナノ濾過膜“GEsepa”(ナノ濾過膜4;GE Osmonics製)、ポリアミド系ナノ濾過膜“NF99HF”(ナノ濾過膜5;アルファラバル製)をそれぞれステンレス(SUS316製)製のセル2にセットし、原水温度を25℃、高圧ポンプ3の圧力を1MPaに調整し、透過液4を回収した。原水槽1、透過液4に含まれる、ジオール濃度を、ガスクロマトグラフィー:GC−2010(株式会社島津製作所製)により以下の条件で分析し、ジオールの透過率を算出した。
【0051】
カラム:TC−1 0.53mmI.D.×15m df=1.5um(GL Science)、移動相:ヘリウムガス(7.9mL/min、50〜100℃:5℃/min)、検出:FID 250℃。
【0052】
また、グリセリン濃度はF−キット グリセリン(JKインターナショナル社製)を用いて、UV340nmにおける吸光度の変化量から算出し、グリセリンの透過率を求めた。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果より、いずれのナノ濾過膜を用いた場合であっても、ジオールおよびトリオールの透過は可能であった。また、透過性には化合物による差があり、エチレングリコールの透過率が最も高かった。その他の化合物については、機能層に含まれる膜素材の違いが透過率に及ぼす影響は軽微であった。
【0055】
(参考例2)ナノ濾過膜の無機塩(硫酸マグネシウム)阻止率評価
超純水10Lに硫酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)10g添加して25℃1時間攪拌し、1000ppm硫酸マグネシウム水溶液を調製した。次いで、原水槽1に調製した硫酸マグネシウム水溶液10Lを注入し、参考例1と同じ条件でナノ濾過膜1〜4の透過液を回収した。原水槽1、透過液4に含まれる、硫酸マグネシウムの濃度をイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により以下の条件で分析し、硫酸マグネシウムの透過率を計算した。
【0056】
陰イオン;カラム(AS4A−SC(DIONEX製))、溶離液(1.8mM炭酸ナトリウム/1.7mM炭酸水素ナトリウム)、温度(35℃)。
【0057】
陽イオン;カラム(CS12A(DIONEX製))、溶離液(20mMメタンスルホン酸)、温度(35℃)。
【0058】
結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表2の結果より、UTC60(ナノ濾過膜1:東レ株式会社製)が最も無機塩の阻止率が高いこと、また、ポリアミド系ナノ濾過膜(ナノ濾過膜1〜3)に比べ、酢酸セルロース系のナノ濾過膜であるGEsepa(ナノ濾過膜4)における硫酸マグネシウム除去率が低いことが示された。このことから、ポリアミド系ナノ濾過膜を用いたジオールまたはトリオールの精製効率が高くなることが示唆された。
【0061】
(実施例1〜9)ナノ濾過膜を用いた培養液中からの1,3−プロパンジオールの精製
<1,3−プロパンジオール含有培養液の調製>
次の通り、出芽酵母NBRC10505株の培養を行った。培地は原料糖として優糖精(ムソー(株)社製):60g/L、硫酸アンモニウム:1.5g/Lを2L調製し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。
【0062】
まず、酵母NBRC10505株を試験管で5mLの培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な培地100mLに植菌し500mL容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。温度調整、pH調整を行い、培養を行った。ジャーファメンターの運転条件を以下に示す。
【0063】
反応槽容量(培地量):2(L)、温度調整:30(℃)、反応槽通気量:0.2(L/min)、反応槽攪拌速度:400rpm、pH調整:1N 水酸化カルシウムによりpH5に調整。これを、24時間培養を行ったのち、該培養液を遠心分離して菌体を除去し、上清を回収した。該培養液に1,3−プロパンジオールが20g/Lとなるように添加した。
【0064】
<ナノ濾過膜による精製>
次いで、図1に示す、膜濾過装置の原水槽1に上記で得られた培養上清2Lを注入した。図2の符号7の90φナノ濾過膜として、前記ナノ濾過膜1〜3をステンレス(SUS316製)製のセルにそれぞれセットし、高圧ポンプ3の圧力をそれぞれ1MPa、3MPa、5MPaに調整し、それぞれの圧力における透過液4を回収した。原水槽1、透過液4に含まれる、1,3−プロパンジオール濃度を、参考例1と同様の条件でガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により分析した。硫酸イオン濃度を参考例2と同様の条件でイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)にて測定した。また、糖濃度(グルコース、フルクトース、スクロース)を以下の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により分析した。
【0065】
カラム:Luna5u NH 100A(Phenomenex社製)、30℃
移動相:水:アセトニトリル=1:3、0.6mL/min
検出器:RI。
【0066】
その結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示すように、すべてのナノ濾過膜、濾過圧力において、硫酸イオンおよび糖類が除去され、1,3−プロパンジオール溶液が得られた。また、茶褐色であった培養液からその他の不純物も大部分が除去され、無色透明な溶液が得られた。また、実施例1から9は、特表2007−502325号公報の表7に開示されるナノ濾過膜分離特性と比較しても硫酸イオンおよび糖類の除去能において顕著に優れる結果であった。
【0069】
さらに、1,3−プロパンジオールの回収率を高めるため、透過液1.5Lを回収した後、蒸留水1.5Lを加えて再度、透過液回収する、という操作を4回繰り返した。その結果、培養液中の1,3−プロパンジオールを55%以上回収することができた。
【0070】
<逆浸透膜を用いて濃縮した溶液からの蒸留>
上記で得られた清浄な1,3−プロパンジオール溶液のうち、実施例2、実施例5、実施例8および実施例11について検討を行った。該溶液5.5Lを図1に示す膜濾過装置の原水槽1に入れた。図2の符号7の90φ逆浸透膜として、ポリアミド製逆浸透膜(UTC−70、東レ株式会社製)をステンレス(SUS316製)製セルに取付け、高圧ポンプ3の圧力を3MPa、原水温度を35℃に調整して膜濾過を行い、逆浸透膜透過水4を5.4L除去した。こうして得られた該濃縮液100mLを減圧蒸留(5mmHg)した結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
このことから、本手法により、収率良く高純度の1,3−プロパンジオールが製造可能となることが示された。
【0073】
(比較例1)活性炭およびイオン交換による1,3−プロパンジオールの精製
上記、実施例1と同様に1,3−プロパンジオール含有培養液を2L調製した。これを活性炭20gで処理したのち、イオン交換樹脂(IRA−140:IR−120=2:1)に通じて、脱塩を行った。該1,3−プロパンジオール含有溶液を上記実施例1と同様に逆浸透膜を用いて濃縮し、減圧蒸留(5mmHg)を行った。その結果、蒸留収率は76%、GC純度94.5%であった。蒸留収率の低下は残渣の残存が多かったことが要因として考えられる。また、濃縮液中にグルコースが4.2g/L検出されたことから、糖由来の不純物がGC純度の低下に影響したものと推察された。
【0074】
(比較例2〜4)酢酸セルロース系ナノ濾過膜による1,3−プロパンジオールの精製
上記、実施例1と同様に1,3−プロパンジオール含有培養液を2L調製した。次に、酢酸セルロース系ナノ濾過膜“GEsepa”(ナノ濾過膜4)をステンレス製セルにセットし、上記実施例と同様に1MPa、3MPa、5MPaにおける透過液4を回収して、濾過を行った。この透過液を同様に分析した結果を表5に示す。
【0075】
【表5】

【0076】
このように、酢酸セルロース系ナノ濾過膜ではポリアミド系ナノ濾過膜に比べ、1,3−プロパンジオールの透過率が低く、また、硫酸イオン・糖の除去率も低かった。さらに、比較例3で得られた透過液を、上記実施例1と同様に、逆浸透膜濃縮・減圧蒸留を行ったところ、蒸留収率88%、GC純度99.0%であり、ポリアミド系ナノ濾過膜を用いた場合に比べ、精製効率が低下することが示された。
【0077】
(実施例10〜14)ナノ濾過膜を用いた培養液中からのエチレングリコール、2,3−ブタンジオール、グリセリン、1,3−ブタンジオールまたは1,4−ブタンジオールの精製
上記、実施例1と同様に20g/Lのエチレングリコール含有培養液、2,3−ブタンジオール含有培養液、グリセリン含有培養液、1,3−ブタンジオール含有培養液、1,4−ブタンジオール含有培養液をそれぞれ2L調製した。これをそれぞれ、膜濾過装置の原水槽1に注入した。図2の符号7の90φナノ濾過膜として、前記ナノ濾過膜1(UTC60)をステンレス(SUS316製)製のセルにそれぞれセットし、高圧ポンプ3の圧力を3MPaに調整し、透過液4を回収した。上記実施例1と同様に原水および透過液中のエチレングリコール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオールまたは1,4−ブタンジオール濃度をガスクロマトグラフィーにて測定した。また、グリセリン濃度は参考例1と同様にF−キットを用いて測定した。また、無機塩濃度および糖濃度は実施例1に記した方法と同様に高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。これらの結果を表6に示す。
【0078】
【表6】

【0079】
表6に示したように、いずれの化合物においても硫酸イオンおよび糖類が除去され、清浄なジオールまたはトリオール含有溶液が得られた。
【0080】
次いで、該ジオールまたはトリオール含有溶液を上記実施例1と同様に逆浸透膜を用いて濃縮し、減圧蒸留(5mmHg)を行った。その結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
表7に示される結果のように、いずれにおいても高純度のジオールまたはトリオールが高収率で得られた。このことから、本発明がジオールまたはトリオールの収率向上につながることが示された。
【0083】
(比較例5,6)酢酸セルロース系ナノ濾過膜による1,3−ブタンジオールまたは1,4−ブタンジオールの精製
上記、実施例1と同様に1,3−ブタンジオール含有培養液、1,4−ブタンジオール含有培養液をそれぞれ2L調製した。次に、酢酸セルロース系ナノ濾過膜“GEsepa”(ナノ濾過膜4)をステンレス製セルにセットし、上記実施例と同様に3MPaにおける透過液4を回収して、濾過を行った。この透過液を同様に分析した結果を表8に示す。
【0084】
【表8】

【0085】
このように、酢酸セルロース系ナノ濾過膜では、実施例13および14に示したポリアミド系ナノ濾過膜による精製に比べ、1,3−ブタンジオールおよび1,4−ブタンジオールの透過率は高いものの、硫酸イオン・糖の除去率が低いことがわかった。そのため、これらの透過液を、上記実施例1と同様に、逆浸透膜濃縮・減圧蒸留を行ったところ、1,3−ブタンジオールにおいては蒸留収率85%、GC純度98.4%、1,4−ブタンジオールでは、蒸留収率87%、GC純度98.9%となり、ポリアミド系ナノ膜を用いた場合に比べ、精製効率が低下することが示された。
【符号の説明】
【0086】
1 原水槽
2 ナノ濾過膜または逆浸透膜が装着されたセル
3 高圧ポンプ
4 膜透過液の流れ
5 膜濃縮液の流れ
6 高圧ポンプにより送液された膜透過液の流れ
7 90φナノ濾過膜または逆浸透膜
8 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオールまたはトリオール含有溶液を、ポリアミドを含む機能層を有するナノ濾過膜に通じて濾過し、透過側からジオールまたはトリオール含有溶液を回収する工程Aを含む、ジオールまたはトリオールの製造方法。
【請求項2】
前記ジオールが、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールまたは1,3−ブタンジオールである、請求項1に記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【請求項3】
前記トリオールが、グリセリンまたはブタントリオールである、請求項1に記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【請求項4】
前記ポリアミドが架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、化学式1で示される構成成分を含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【化1】

(式中、Rは−Hまたは−CH、nは0から3までの整数を表す。)
【請求項5】
前記工程Aで得られるジオールまたはトリオール含有溶液を逆浸透膜で濾過してジオールまたはトリオール濃度を高める工程Bを含む、請求項1から4のいずれかに記載のジオールまたはトリオールの製造方法。
【請求項6】
前記工程Aから回収された透過液、または工程Bから回収された濃縮液を、さらに1Pa以上大気圧以下の圧力下において、25℃以上200℃以下で蒸留する工程Cに供する、請求項1から5のいずれかに記載のジオールまたはトリオールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150248(P2010−150248A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269014(P2009−269014)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】